Home Artists Posts Import Register

Content

「ーーーえ…」

彼女は、思わず表情を歪めたー。


「ーーごめんー…正直、君とはもう付き合えないー」

彼氏の眞田 昭介(まだ しょうすけ)が、嫌そうな顔を浮かべながら

そう言葉を口にするー。


”ごめん”とは口にしているものの、

その”ごめん”は、口先だけー。

昭介の表情には、”嫌悪”の色がハッキリと現れていたー


「ーー…ど、どうしてー…?」

昨日まで”仲良し”だった彼氏の昭介から突然別れを告げられた

池田 凛花(いけだ りんか)は、戸惑いの表情を浮かべながら、

その理由を問うー。


すると、昭介は言葉を口にしたー


「ーーー…”お前”ー

 ”男女(おとこおんな)”だったんだろー?」


とー。


その言葉の意味は、凛花にはハッキリと理解できたー。


「ーーーな…なんで…それをー…?」

凛花がそう言うと、

「ーマジでないわー…男女と付き合ってたとか、ありえねぇ」と、

昭介は吐き捨てるようにして言うと、

そのまま立ち去ろうとするー


「ま…待って!た、たしかに

 わたしは”元・男”だけどー…

 で、でもー!」

凛花がそう叫ぶと、

昭介は振り返って言葉を口にしたー


「ー”男でも、女でもない”お前が、調子乗るなよ?」

昭介は、敵意剥き出しの表情を浮かべながら

そう言うと、そのまま立ち去っていくー。


呆然とする凛花ー。


凛花はー、

”数年前の大事故”で、女体化した”男”のひとりー。

この世界には、”数万人”の女体化した男がいるー。


しかし、世間ではそんな”女体化した男”たちに

差別の目が向けられていてー、

”女体化した元男子”を、侮蔑的な意味合いで、

”男女(おとこおんな)”と呼んでいたー。


凛花は、自分が”男女”であることを隠して、

大学生活を送っていたものの、どこからか、それが漏れたのだー。


クスクス、と笑い声が聞こえるー。

廊下でも、凛花を指差す他の大学生たちー。

昨日まで、仲良しだった親友の子もー、

「話しかけないで!この変態!」と、敵意を剥き出しにするー。


この世界ではーーー

”女体化した数万人の元男子”に対する、厳しい差別が蔓延していたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


数万人の女体化ー。

それが起きたのは数年前のことー。


とある研究を行っていた研究施設が事故を起こし、

大爆発を起こしたー。


幸いー、その事故では奇跡的に”犠牲者”が出ることはなかったー。


しかしー…

その爆発の際で周辺に漏れ出した”ガス”によりー、

周辺地域の住人を中心に、ある惨事を引き起こしたー。


それはーー…

”数万人規模の女体化”だったー。


爆発を起こした研究施設では、様々な分野の”未来の技術”の

研究が行われていて、行政の支援の元、

”不老不死の研究” ”性別を好きに変えることのできる研究” ”未来予知の研究”

”人間の記憶をコンピューターに移し替える研究”など、

様々な研究が行われていたー。


がー、そんな研究施設で事故が起きたのだー。

事故を起こしたのはー、性別を変える研究を行っていた部署ー。

つまり、男が女にー…女が男にー…

”女体化”と”男体化”の研究が行われている区画だったー。


しかし、そこで研究中の化学物質が異常反応を起こし、

設備が暴走ー、

爆発事故を起こしてしまい、”女体化”の研究に使われていた

特殊なガスが工場外に漏れだしー…

推定数万人の男性が、女体化してしまったのだー。


それがーー

数年前の出来事ー。


”凛花”も、当時、その工場の近くに住んでいた”男子高校生”で、

その時に女体化してしまった”数万人の被害者のひとり”だったー…。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーー本当に、申し訳ないー」

”店長”がそう言葉を口にするー


”彼氏”から別れを告げられて数日後ー。


「ーーー…いえ…」

このお店でバイトをしていた凛花は、

悲しそうな表情を浮かべながらも、

「ー今まで、ありがとうございましたー」と、

そう言葉を口にして、頭を下げるー。


一見すると可愛らしく、真面目そうな雰囲気の凛花ー


そんな彼女は、今日、いきなり店長から

”解雇”を告げられたー。


別に、このお店で何かやらかしたわけでもないー

このお店が潰れるわけでもなければ、

店長に嫌われているわけでもないー。


凛花が解雇された理由はただ一つー。


”凛花は、”あの事故”で女体化した”元・男の一人だからだー。


数年前の事故当時、彼はまだ高校に入学したばかりだったー。

街のはずれにある研究施設で大爆発が起こりー、

当時、下校中だった彼は、施設からあふれ出した”ガス”を吸い、

女体化してしまったのだー。


それからは、本当に大変だったー。

女体化した自分の身体にドキドキしながらも、

やがて、数日が経過するとそれにも飽きて、

彼は”男に戻りたい!”と、連日のように口にするようになったー。


けれどー、”元に戻る方法”は見つからずー。


そして、行政側も、

数万人にも及ぶ”女体化被害者”の発生によって、対応に追われたー


爆発を起こした研究機関が開発していた”男体化”の技術を使い、

女体化した人間を男に戻すことが試みられたものの、

それは失敗ー。

被験者の”女体化した男性”は、急変して死亡してしまったー。


当然、大問題となり、

研究機関は解体、その研究を後押ししていた行政も

猛批判に晒されることになったー。


その後ー、

特例の処置として、”女体化被害者全員”を戸籍上、女性とし、

名前の変更も可能とする対応が取られたー。


女体化した数万人を、そのまま”男”として扱うことは

現実的に難しいー。

どの被害者も、身体は完全に女体化していて、

生物学的に”女”と断定することが出来る状態だったー。


かと言って”そのまま”戸籍上は男で、女として生活することも

難しいー。


そこで、政府は特例の処置として

女体化被害者数万人の戸籍上の性別を”女性”とし、

希望する人には、”名前の変更”も、その際に行うことができるようにして、

対応したー。


研究施設の爆発により、女体化してしまった数万人はこうして、

”女”として、”新たな名前”と共に、再出発することになったのだったー。


しかし、事態はそれだけでは収まらなかったー。


”女体化した元男が、女性として生活していること”に、

不満の声を上げる人々が現れたー。


”元男なのに、何故女扱いされるのかー”

とー。


だが、その一方で、”身体は女になったのに、男として扱うのはおかしい”

という意見も噴出したー。


”女体化した男たち”を、

女として扱うことにも、男として扱うことにも、

世間は難色を示しー、

”女体化被害者たち数万人”の、居場所はみるみる奪われていったー。


男としても、女としても扱われずー

世間から差別的な目で見られる日々ー。

あの日、女体化してしまった数万人の”元・男性”たちは、

肩身の狭い生活を強いられていたー。


そして、今ーー

”凛花”が直面しているのも、そういう問題の一つだったー。


凛花は元々、”陸翔(りくと)”という名前だったが、

戸籍が女に変わった日ー、

これから女として生きていくにあたり、

一度だけ名前の改名がそれぞれに許されたため、

彼は、両親と相談した上で、陸翔から”凛花”に改名したー。


別に本人としては”女の名前になりたい”などという願望は

なかったけれどー、この外見で”陸翔”だと、色々とこの先

やりにくい場面も出て来るだろうー、と、

自分の名前の面影ー”り”だけ、残してー、凛花に改名したー。


このバイト先の店長には、”そのこと”はバイトの面接の時に伝えてあるー。


店長は、驚きながらも

「ーでも、そんなことは気にしないよ。今まで大変だったねー」と、

女体化した元男である凛花のことを差別的な目で見ることなく、

そのまま採用してくれたー。


店長のようにー”男女(おとこおんな)”を差別せず、

偏見を持たない人間も確かにいるー。


店長自身も、世間で凛花のような人間がどのように扱われているかは

よく知っていたー。

そのため、店長は

他のスタッフにもそのことを言いふらすようなこともなく、

凛花が普通に働けるように環境づくりをしてくれたー。


がーー

最近”クレーム”が入るようになったのだー


”お前の所の店は、男女(おとこおんな)を働かせるのかー?”

とー。


”男女”とは、この世界における”差別”の言葉ー。

あの事故で女体化してしまった”数万人の男性”のことを示す言葉ー。


女体化した元男子のことを、

差別的な意味合いを込めて”男女”と呼ぶ人間が

この世界には一定数存在するのだー。


店長は、当初、凛花を庇おうとしたー。

が、今度は本社にクレームが入ってしまい、

”安心して買い物できない”

”病気が移るもしれない”

”とにかく不快”などと、言いたい放題の有様だったー。


ついには本部からも、”凛花”を解雇するように指示が来てしまい、

店長は心底辛い表情を浮かべながら、凛花に対して解雇を告げたのだったー。



「ーーーーーー」

凛花は、暗い表情で街を歩いていたー。


”どうして、こんなことになるんだろうー”

とー。


自分が、何か悪いことをしただろうかー。

そんな風に思わずにはいられないー。


ただ、あの時、あの場所にいて、

事故に巻き込まれて、”望まぬ女体化”をしてしまっただけなのにー、

どうしてこんな風に、差別されなければいけないのだろうー。


「ーーーーーー」

凛花は悲しそうに表情を歪めるー。


女体化した最初の頃は、

”俺は男なのに!”と、何度も何度も行き場のない感情をぶつけたー。


けれど、”もう男に戻れない”という現実を受け入れざるを

得なかった彼はー、”凛花”として、女として生きていくことを決めたー。

最初は、とても辛かったー。


でも、大学生になって、自分のことを知る人間も周囲には

いなくなって、やっと、”女”として生きてことに

踏ん切りがついてー、大学に入学してから2年半ー。

”はじめて”恋愛対象として見ることができる男子と出会いー、

”恋人”同士となったー。


それなのにー…


”男女(おとこおんな)”であることに気付かれただけでー、

全てが終わるー。

この世界は、冷たいー。

いいや、人間という生き物はどこまでも冷たいー。


そう思いながら、凛花は自分の住むアパートへと帰宅したー。


「ーーーー…はぁ」

髪がボサボサになるまで掻きむしると、凛花は

涙目になって「なんでこうなるんだよ!」と、声を荒げたー。


しばらく悔しそうにベッドを叩いていたものの、

やがてー「ーー…わたしに…どうしろって言うのー」と、

歯ぎしりをするー。


”なるべく”男としての自分が行動にも、言葉にも出ないように

意識して生活し、今では”心”も、ほとんど女になっている凛花ー。


けれど、こういう時にまだ”男である自分”が出てしまうー。


改めてため息をつきながら、凛花は

”俺、男女であることがバレたよー”と、

高校時代の友達にLINEを送ると、

”はははーそれでー?周りのやつらは?”と、そんな返事が返って来たー。


”ーー彼氏からは別れを告げられたし、親友からは絶縁されたし、

 バイトはクビだし、散々だよ”


凛花がそう返事を返すと、

相手の”麻奈美(まなみ)”は、”はははーどいつもこいつもそんなもんだろ”

と、すぐに返事が返って来たー。


”麻奈美”は、数年前の事故の時に、凛花=陸翔と一緒に下校していた、

親友だー。

女体化する前は守(まもる)というサッカー部に所属する男子だったものの、

女体化したことでその夢も絶たれ、

現在は麻奈美に改名、夜のお店で働いていると聞いているー。


”ーもうさー、俺と一緒にこっちの世界で稼ぎまくるしかねぇよ”

麻奈美が、そんな言葉を口にするー。


”男女だってバレても、結局、この身体には需要があるんだからよー。

 男女マニアだって、この世にはいるんだし”


そんな麻奈美からのメッセージにー、凛花は

”ご、ごめんー俺はそういうのはー”と、そう言葉を口にするー。


麻奈美はその美貌を生かして、

なりふり構わず男を誘惑して、稼いでいるー。


”ー差別するような奴らを騙したって心は痛まないし

 むしろせいせいするぜ”


と、もはや完全に開き直っている様子だー。


がー、凛花はどうしても、麻奈美のような生き方はしたくなかったー。


「ーーーー…ーーーー」

凛花は、麻奈美とのメッセージをやり取りを終えると、

「ーーきっと、みんなだって分かってくれるー」と、

大学の友達のことを思いながら、そう呟くー。


この世界はー”女体化した俺たちに厳しい”ー。

凛花も、そんなことはよく理解しているー。


それでもー、

それでもまだ、凛花は人の温かみを信じたかったー。



けれどー…

この世は凛花が想像している以上に、”冷たい”ー

ということを、彼女はまだ知らなかったー…。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


新しい女体化モノのスタートデス~!


数万人が女体化してしまって、

その人たちが差別されている世界の物語ですネ~!…


いきなり、とっても大変そうな状況に…☆!

②以降もぜひ、見届けて下さいネ~!


今日もお読み下さりありがとうございました~~!

Files

Comments

No comments found for this post.