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「ーーーようやく、貴様と決着をつける時が来たようだなー」

”人斬り”の男が、そう言葉を口にするー


「ーーー…これ以上の狼藉は、許さぬー」

世間を渡り歩く剣客の男が、そう言い放つと、

刀を抜いて、それを構えるー。


江戸時代ー。

”人斬り”として世を騒がせた男の行方を追っていた剣客の男は、

ようやく、”人斬り”の男を追いつめたのだー


「クククー拙者を斬れるとでもー?」

人斬りの男が、血に染まった剣を抜くー。


「ーーーーーお前の悪行ごと、今日、俺が斬り捨てるー!」

剣客の男がそう叫ぶと、二人は互いの剣を振るい始めるー。


満月の夜空の下ー、

何度も何度も、剣がぶつかり合う男が響き渡ったー。


不気味な風が吹き荒れるー。


永遠に続くかと思われたその剣の打ち合いもー、

やがて、終わりの時を迎えるー


「ーーー!!!!」

バランスを崩した人斬りを男が、表情を歪めるー


「ー終わりだ!」

剣客の男が、人斬りの男に向けて剣を振るうー。


だがーー

その時だったー


「ーー!?!?」

「ーーーー!!!!」


2人は今までに感じたことのない”不思議な感覚”を覚えるー。


そしてーーーー…

強い衝撃が、二人を襲ったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


時は流れー、現代ー。


「ーーーーーー」

チャイムの音を聞きながら、昼休みを終えて

教室に戻って来た男子生徒・松山 栄太(まつやま えいた)は、

”5時間目は社会か…”などと、大きくため息をつくー。


社会の先生ー…長野(ちょうの)先生の授業は、

猛烈につまらないー。

ものすごく遅いトーンの喋り方は、生徒たちの眠気を

誘発しー、真面目な生徒ですら寝落ちするほどー。


そのためか、生徒たちからは”歩く睡眠薬”という

とんでもないあだ名をつけられてしまっている先生だー。


「ーーーーーー!」


「ーー?」

ふと、隣の座席に座る生徒・北村 梨乃(きたむら りの)が、

ピクッと震えた気がして、栄太は少しだけ首を傾げたー。


がー、特に声は掛けずに、そのまま授業の準備を進めるー。


梨乃は、大人しいタイプの女子生徒ー。

栄太自身も大人しいため、隣の座席ながら、

あまり喋ることは多くはないー。


そんな梨乃は、大人しい性格とは裏腹に、

剣道部に所属していて、副部長を務めている実力者で、

肩書だけではなく、実際の実力も確かなものだー。

普段はツインテールなのに、剣道をしている時だけ

ポニーテールになったりしていて、クラスの男子が

”俺はツインテの梨乃ちゃんがいい”とか、”いやいや、ポニテだろ”とか

言っているのを聞いたことがあるー。


奥手な栄太からすれば、それだけで住む世界が別世界のように感じるー

そんな存在だったー


「ーーーえ…… どういうことですかー?」

隣にいる梨乃がボソッと呟くー


「ーーー? ーーー…??」

栄太は少し困惑しながら、梨乃の方を見つめるー。


すると、梨乃が一人で何かをボソボソと喋っていたー


「ーー…拙者はー…江戸時代からー」

「ーーーーえ…な…何…? え…」

「ーー気付いたらこの場所にー」

「ーーーーそんなこと、信じろと言うんですかー?」


梨乃が、一人でボソボソと言葉を続けるー。


まるで”誰か”と話をしているようにー。


一瞬、誰かと通話でもしているのかと思ったものの、

そういう様子もなく、栄太は戸惑うー。


がー、特別、梨乃と仲良しなわけではない栄太は

目を逸らすと、これから始まる”歩く睡眠薬”の授業に

備えようとしたー


「ーーだ、だから拙者はっ!」

突然、ガタッと立ち上がりながら大声で叫ぶ梨乃ー。


「ーーーえ?」

「ーー!?」

「ーーど、どうしたのー?」

「拙者…?」


クラスメイトたちが一斉に困惑して、梨乃の方を見つめるー。


すると、梨乃は

「な…なんでも…ないよー」と、とても恥ずかしそうにしながら

座席に再び着席したー。


「ーーねぇ…やめてよー」

「ーーーかたじけない」


梨乃は、またブツブツと一人で呟き始めるー。


その様子を隣の座席で見ていた栄太は

呆然としながら梨乃の方をしばらく見つめていたものの、

やがて、社会科の長野先生がやってきたため、

それ以上は梨乃のことを気にしなかったー


「ーーーーふぁ~~~…」

授業が進み、今日も睡眠効果を発揮している長野先生の

授業を聞きながら、思わずあくびをしてしまう栄太ー。


栄太は授業にも真面目に取り組むタイプの生徒だが、

そんな栄太でも、だんだんと眠くなってくるほどに、

長野先生の授業は”睡魔”を誘ってくるー。


恐ろしい授業だー。


「ーー!?!?!??!」

そんなことを思っていた栄太は、ふと横を見て

顔を赤らめたー。


梨乃が、”自分の胸”を揉みながらニヤニヤしていたのだー


「ーー!?!?!?!?!?」

「ーー!?!?!?!?!?!?!?」


栄太は思わずドキッとして、慌てて目を逸らすー。


「ーー!」

梨乃もそれに気づいたのだろうかー、

栄太の方をハッとした様子で見つめていると、

「わたしの手ー勝手に動かさないでー」と、そんな言葉を

ボソッと口にしたー。


どうやら、栄太に向けられた言葉ではなかったようだが、

”やはり”誰かと喋っているような、そんな感じがするー。


”い、いったい、さっきから誰と喋ってるんだー?”

そんなことを思いながら、栄太は再び、

戸惑いの表情を浮かべた。


やがてー

ようやく5時間目の授業が終わり、廊下の方に向かうと、

「あ…あの!」と、背後から梨乃の声がしたー


「えー…?あ、北村さんー」

栄太が戸惑いながら、振り返って返事をするー


普段、梨乃から話しかけられるようなことはあまりないため、

ドキッとしてしまうー。


「ーーーま、松山くんー

 さ、さっき、”見た”よねー?」

梨乃が顔を赤らめながら言うと、栄太は「えっ!?」と、返事をしながらも、

梨乃が胸を揉んでいたあの光景を思い出してしまうー


きっと、梨乃は”アレ”のことを言っているー。


そう確信しつつも、どう返事をしていいのか分からずに

言葉に詰まっていると、

「そ、相談があるのー」と、梨乃はそう言葉を口にしたー。


「ーー…そ、相談ー…?」

栄太は、どうやら怒られるわけじゃなさそうだー、と思いつつ

「ぼ、僕なんかで良ければー」と、言うと、梨乃は元々はこの学年の

”E組”が使っていた空き教室のほうを指さして、

「ーあまり人には聞かれたくないからー」と、そう呟いたー。


少子化により、この学校でも生徒の人数が減っており、

”E組”の教室だった場所は、もう使われていないのだー。


その部屋に入ると、梨乃は

「ーーえへへへへへー」と、突然ニヤニヤし始めるー。


「ーー…え…えっと…北村さんー?」

その様子に、心配そうに言葉を口にする栄太ー。


梨乃はイスのひとつに座ると、

足を雑に組んで、スカートの中が見えそうな姿勢を

しながら、栄太の方を見つめたー。


「ーーー…~~~~」

栄太は顔が赤くならないように必死で意識をしながら、

「そ、それで話ってー?」と、言葉を口にすると、

梨乃は「あっ!」と、突然恥ずかしそうにしながら

「も…もう…勝手に身体を動かさないでよー」と、

そう言葉を口にしたー。


「ーーー…さ…さっきからなんか変だよー…北村さんー」

栄太は戸惑いながら、思わずそんな言葉を口にすると、

梨乃も「ご…ごめん…話も”そのこと”についてなんだけどー」と、

そう言葉を口にすると、

しばらく間を置いてから「信じられないと思うけどー…」と、

そう言葉を口にするー。


「ーー拙者、この娘の中に入り込んでしまったでござる!」


突然ー、梨乃の様子が豹変して、

自分を指差しながらそんな言葉を口にしたー


「え……」

栄太は、”ヤバいもの”を見るような目で梨乃を見つめるー


”北村さん”のことは、好きか嫌いかで言われれば

”好き”ではあるがー、

流石にこんなヤバい子だとは思わなかったー。


そんな視線で梨乃のことを見つめていると、

梨乃は再び顔を赤らめながら、

「ーー…や、やめてよー」と、”誰か”に語り掛けると、

言葉を続けたー


「ー信じられないと思うけどー

 わたしの中にー”江戸時代”の侍さんがー…」

と、言葉を口にする梨乃ー。


「ーーえ…えぇぇ…?…ど、どういうことー?」

頭にたくさん”?”を浮かべながら栄太がそう言うと、

梨乃は「わ、わたしにもよく分からないけどー…、

わたしの中に知らない人の幽霊みたいのが入って来てー」と、

そう言葉を口にするー。


「ー…え、えっと…身体は”わたし”の身体だけど、

 わたしの中に、わたしと、侍さんがいる感じー?」と、

梨乃は困惑した様子でそう言葉を口にしたー。


「ーーえへへへー 拙者も、驚いたでござるよー」

梨乃は急にニヤニヤすると、また足を組み始めるー


「そ、その座り方、やめてってば!」

梨乃の態度がまた豹変して、足を元通りにするー。


「ーーーいやいや、この方が色っぽいでござるー」


「ーーだ、だから、やめてってば!」


「ーー色気はちゃんと使うでござるよ」


「わたしはそんなキャラじゃないの!」


梨乃が一人で言い合いを続けるー。


そんな様子に、さすがに困惑してしまった栄太は

「あ…あの~~~~…」と、言葉を口にすると、

梨乃は恥ずかしそうに顔を赤らめながら

「わ、わたしの中に、身体を勝手に動かす侍の幽霊さんがいてー!」と、

そう言葉を口にしたー。


栄太も、ようやく梨乃の言いたいことを理解するー


「ーつ、つまり、北村さんの中にー

 幽霊が入ってきて、北村さんの身体を勝手に動かしてるってことー?」

栄太が困惑しながらそう言うと、

梨乃は恥ずかしそうに頷きながら

「ど…どうしようー?」と、不安そうに言葉を口にしたー


「ど…どうしようって言われてもー…

 …っていうか、何で僕に!?」


栄太の戸惑いは止まらないー。

”どうして、僕なのかー”

隣の座席とは言え、梨乃とはお互いに大人しいタイプ故に

会話が弾むことはないし、

彼女でも、幼馴染でもないー。


同じ剣道部に所属しているわけでもないし、

委員会活動も別ー。

接点が”隣の座席”ということしか、ないー。


「ーーー…わたしが変なことしてるの…見たでしょ?」

梨乃が恥ずかしそうに言うー。


「それにー松山くんならー…信用できるからー」

戸惑いながら言葉を口にする梨乃ー。


”信用できる”と、梨乃に言われたことは、

少し嬉しく思いながら

「で、で、でも、僕は何をすればー?」と、

そう言葉を口にするー。


すると、梨乃は突然笑みを浮かべながら、

栄太に近付いてくるー。


「ーー拙者とーーー

 いいやーわたしと遊んでくれれば、いいよ?」


ニコニコしながら、突然栄太にキスをしてくる梨乃ー


「ー!?!?!?!?!?」

栄太は顔を真っ赤にしながら、梨乃の方を見返すと、

「あははは!拙者にキスされて興奮されてるでござる!」と、

飛び跳ねながら、栄太を揶揄うー。


「ちょ……そ、そういうのはやめてよ」

梨乃が、また声を発するー。


「ーご、ご、ご、ごめんね!松山くんー

 わ、わたし…今、この侍さんに、いつでも勝手に

 身体を動かされる状態でー」


梨乃の戸惑いに、栄太も「だ、だ、大丈夫ー今のことは忘れるから」と、

目を逸らしながら言葉を口にしたー。


どうやら、梨乃の身体は今、

梨乃本人と、梨乃に憑依した侍とやらが同居している状態にあるようだー。


「ーーーと、とにかく詳しく話をー」

栄太がそう言うと、6時間目の開始を知らせるチャイムが聞こえるー。


「ーーつ、続きは放課後にー」

戸惑いながら言葉を口にする梨乃ー。

栄太もそれに応じると、

そのまま教室に戻っていく二人ー。


そしてー、放課後、改めて空き教室にやってくると、

憑依した侍が、梨乃の身体で説明し始めたー


「拙者はー”江戸”からやってきた侍でござるー。

 ーーーただー」


梨乃はそう言うと、栄太の方を見つめるー。


「ーー”未来”に飛ばされてくる時に

 記憶を失ったようでー、

 覚えているのは剣術と、ここに来る直前、

 戦っていたことー、

 そしてー、”テツ”と呼ばれていたことぐらいでー」


梨乃はそう言うと、栄太は「戦っていたー?」と、そう言葉を口にするー。


梨乃は、足をぼりぼりとかきながら、

スカートの中が見えるのもお構いなしの姿勢を取ると、

「ーー拙者、人斬りの男と戦っていたでござるー」と、

テツが、ここに来る直前の光景を思い出すー。


月明かりの下で、剣客と人斬りが斬り合う光景ー。


そう、人斬りの男と戦っている最中の自分はここに来たー。

それは、覚えているー。


「ーーーーー…そ、それで、どうして北村さんにー?」

栄太がそう言うと、梨乃は

「ー拙者、この時代に来てから幽霊みたいな状態で

 誰にも助けを求めることができなくて困ってたでござるー

 そこで、木刀を持ってたこの子に憑依したでござるー」

と、そう説明したー


「そ、そ、そ、そっかぁ」

栄太は戸惑うー


「それで、君はどうしたいの?」

栄太が困惑しながら言うと、

梨乃は笑みを浮かべたー。


「ーーとりあえず、この時代のことをもっと知りたいでござるー」


その言葉に、

梨乃自身が「えぇっ!?元の時代に帰りたいとかじゃなくて!?」と、

困惑しながら叫ぶー。


「ー元の時代には帰りたくないでござる!

 未来はすごく楽しいしー

 拙者、こんなに可愛くなれたし!」


「ーーえぇっ!?わ、わたしの身体にいつまで居座るつもりー!?」


梨乃がまた一人で喋り出すー。


そんな光景を見つめながら、栄太は苦笑いすることしかできなかったー…



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今月最初のお話は”憑依侍”デス~!


今のところは、平和(?)な雰囲気ですネ~!

憑依された側も喋ることができる今回のようなタイプだと、

独り言を喋っているように、周囲からは見えちゃいますネ~笑


続きはまた次回デス~!


今日もありがとうございました~!

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