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「ーあれ?来るの11時ぐらいだっけ?」

社会人の佐久間 翔太(さくま しょうた)が、

母親に対してそう確認するー。


「ーうん 11時って言ってたよ

 あと30分ちょっとで来るんじゃないかな」

母親の啓子(けいこ)の返事を聞くと、

翔太は「やっべ!服装とか整えとかないと!」と、

慌てて自分の部屋に引き返し始めるー。


今日は3年ほど前、大学生の頃に一人暮らしを始めた

弟の浩平(こうへい)が、”婚約者”を連れて

家にやって来ることになっているー


そのため、実家に暮らしている兄の翔太は、

出迎える準備を慌ててしているのだー


自分の部屋で着替え終わって再び1階に

引き返した翔太ー。


日曜日と言うこともあり、

今日は父の徹也(てつや)も家にいて、

出迎える準備をしているー。


「しかしまさか、翔太より先に、浩平が結婚するとはなぁ」

父・徹也がそんなことを呟くー。


「ーそうねぇ…翔太、小さい頃は凄くモテてたもんねぇ」

母・啓子のそんな言葉に、

「ち、小さい頃はってなんだよ」と、笑いながらも、

翔太は、「でも、めでたいことだし、いいじゃないか」と、

付け加えるー。


兄・翔太は、弟・浩平から、

婚約者の存在を伝えられた際には、心から喜んでいたし、

このまま結婚に進む、ということも心から祝福していたー。


自分も、そのうちー…とは思っているが

もしも万が一、このまま生涯独身だったとしても

それはそれで運命として受け入れるつもりでいるし、

弟の浩平が先に結婚することを妬んだり、嫉妬したり、という

感情は、翔太の中には一切ないー。


純粋に、兄として祝福の気持ちでいっぱいだったー。


弟の浩平の婚約者である

穂村 千里(ほむら ちさと)は、

浩平の大学時代の同級生で、

大学卒業後も付き合いが続き、

社会人2年目になったタイミングでプロポーズした、

とのことだったー。


どうやら、大学卒業が迫ったころから

”社会人になって1年目は、社会人に慣れることを優先する”と

二人で話し合っていた様子で

”予定通り”順調に進んでいるようだー。


そんな、婚約者の千里とは、

電話で話したことは一度だけあるが、

実際に対面するのは兄の翔太にとっても、

両親にとっても今回が初めてだったー。


「ーーさて…そろそろ時間だな」

浩平と千里を出迎える準備を済ませた翔太は

時計を見つめながらそう呟くー。


それから数分ー

家のインターホンが鳴り、

母の啓子が応答するー。


弟・浩平の声が聞こえてきてー

続けて、あまり聞きなれない女性の声が聞こえてくるー

この声が婚約者である千里の声なのだろうー


そうこうしているうちに、

玄関に出迎えに行った母・啓子が

二人と雑談しながら、家の中に入って来るー


「ーーあ、初めましてー

 浩平さんとお付き合いさせて頂いている

 穂村 千里ですー」


緊張した様子で、弟の婚約者・千里が

自己紹介をすると、

母の啓子が「そんなに緊張しなくても大丈夫だから~」と、

笑いながら千里をテーブルの方に案内するー。


「ーーーーあ、以前電話でお話させて頂いた千里ですー」

婚約者の兄にあたる翔太の近くにやってきた千里は

礼儀正しく、頭をぺこりと下げるー。

彼女がおらず、今は男中心の職場にいるため、

少し気恥ずかしそうに苦笑いしながらー

「あ、兄の翔太ですー。弟がいつもお世話になっていますー」と、

ぎこちなく答えたー。


そんな様子を見て、弟の浩平は

「はははー兄貴、何、かしこまってんだよー」と

揶揄う様にして笑うー


「う、う、うるさい!」

顔を赤らめながら翔太が言うー。


そんな会話をしていると、母の啓子が、

机に並べた料理を手で示しながらー

「さぁさぁ、ほら、座って座ってー」と、

少し嬉しそうに、千里のほうを見つめるー。


母・啓子にとっても

”息子の婚約者が家にやってくる”というのは初めての経験で

張り切っているのだろうー。


「ーー……」

ふと、父・徹也が先ほどから沈黙しているのを見て

翔太は「どうしたんだよ?父さん」と、声を掛けると、

「ーーど、どう対応したらいいか、分からんー」と、

困惑した表情で、少し照れくさそうに答えたー


そんな徹也にも、弟の婚約者・千里は丁寧に挨拶をするー。


雑談をしながら食事を始めー、

30分も経過したころには、

すっかり千里は、母・啓子とも、父・徹也とも、

兄の翔太とも、打ち解けていたー。


浩平は、両親にも、兄にも、

千里のことを気に入って貰えたことを

心の底から安堵しながらー、

平和な時間を満喫したー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーそれにしてもいい子だったわね~」


浩平と婚約者の千里が帰路につきー、

家で後片付けをしながら、母・啓子はそんな風に呟くー。


父の徹也も「あぁ。あの子となら、浩平も上手くやっていけるだろう」と、

満足そうに頷いているー。


「浩平が嬉しそうでホント、良かったよ」

笑いながら、兄として弟の幸せを祝福する翔太ー。


千里は、美人だし、

見た目だけではなく、中身も美人だー。

もちろん、初対面だから千里側も気を使っていただろうし、

猫を被っている一面はあったとは思うー。


だが、あれだけ話をすれば、本心も見えて来るし、

心の底から優しく、知識も豊富な人だと分かるー。

とても話し方もうまく、誰からも好かれるタイプだろうな、と

感じるような立ち振る舞いだったー。


ついでにー”妙に可愛く、綺麗な声”も、特に印象に残っているー。

まぁ、これは翔太個人の好みの問題かもしれないー。


だがー、

翔太には、千里の声も妙に印象に残ったー。


”弟の婚約者”との初対面の日ー。

兄の翔太も、千里のことをとても気に入りー、

”ホントに、浩平はいい子と結ばれたなー”と、

安堵の表情を浮かべたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


だがーー

そんな、兄としての”想い”が崩れ去ったのは

1週間後のことだったー。


「20時過ぎちまったかー」

今日は、少し残業があって、

会社を出るのが20時過ぎになってしまった翔太ー。


”今日は残業があるかもしれないから、帰りは適当に食って来るよ”


実家暮らしの翔太は、今朝、母親にそう伝えてあるために、

特に晩御飯の心配をする必要はないー。


適当に、街中を歩きながら

「牛丼を食べようかー、それともラーメンか」

などと考えていると、ふと、電話をしながら

歩いている女とすれ違ったー


”あぁ、そうそう、もうすぐ結婚ー

 え?なんだって?

 はははー”結婚後に急に豹変する女ごっこ”だよー。”


そんなことを呟く女ー。


翔太は、特に何も気にせず、そのまま

見つけたラーメン屋に入ろうとしたー。


がー


ラーメン屋の入口に手を掛けようとした直前にー、

翔太はあることに気付いたー。


「ーーー!?!?!?!?」

翔太はハッとするー。


今、電話をしながら歩いていた女の声に

”とても”聞き覚えがあるー。


「ーーそういえば…あの声ー」

”妙に可愛らしくて、それでいて綺麗な声ー”


言葉では言い表すのが難しいがー

翔太は”確かに”あの声だったとハッとするー。


「ーーーえ……」


ついさっきー…、

すれ違った時には”見ず知らずの他人”だと思って

会話の内容なんて気にしなかったー


けどー


”はははー”結婚後に急に豹変する女ごっこ”だよー。”


「ーーーー!?!?!?」


そんなことを、電話しながら呟いていた気がするー。


「ーえ…」

その言葉が、”言葉通りの意味”であればー…


急激に不安になった翔太は、すぐに来た道を引き返すー。


さっきの電話していた女とすれ違ってから

まだ30秒ぐらいしか経過していないー


そう思いながら、速足で引き返すとー、

その女がまだ電話をしながら歩いていたー。


派手なミニスカート姿で、キラキラした服装を身に着けていてー、

とても”この前見た千里”とは思えない後ろ姿ー。


顔を前から確認することはできないがー、

少なくとも”後ろ姿”からでは、

あの千里と言われても”声以外”共通点はないと言ってもいいー


「ーー大丈夫大丈夫ー

 ずっと一緒にいるわけねぇだろ?

 そうそうー

 ちょっと新婚気分を味わったあとに、

 あとは、女王様気分を味わって、

 最後にはーーそうだなぁ…暴力を振るわれた~!とか騒いで

 慰謝料ふんだくって、破滅でもさせてやるかー」


女が、乱暴な口調でそう呟いているー。


どう考えても”千里”の声ー。


だが、その内容はー

”悪魔のような”内容だったー。


話の一部しか聞けてはいないがー


聞こえた内容を総合するとー


”これから結婚を控えている”

”しかし、遊び目的であり、やりたい放題を振るうつもりでいる”

”最後には、暴力を振るわれたと嘘をつき、

 慰謝料を請求して破滅させるつもりでいる”


と、いうことになるー。


「ーーー……いや…絶対気のせいだろー…

 あの子は、そんなことするような悪い子じゃー…」


翔太が心の中でそう呟くー。


顔を確認したいが、早歩きで前に回り込んで顔を見れば

知らない人だったとしたら変に思われるし、

千里本人だったら気まずいー。


そんな風に思っているとー


「ーーん?そいつー?

 あぁ、浩平ってやつだよー

 バカみたいにお人好しでさー

 ククー笑っちまうぜー


 俺のことも愛してるんだってさ」


とー

女は電話をしながら呟いたー


「ーー!!!!!!!!!!!!!!!」

青ざめる翔太ー


”浩平”とは弟の名前だー。


顔はまだ確認できていないがー

”結婚を控えていて”

”声が千里にそっくり”な女ー


しかも、”婚約者の名前は浩平”


これは、

間違いなくー


「ーーーーーー!」

翔太はビクッとして足を止めたー。


女が、振り返ったのだー。


「ーーーーー」

だが、その女はすぐに前を向き、再び歩き出すー。


何故振り返ったのかは分からないが、

確信したー


「ーーーあれはーーーー……

 やっぱり千里さんー?」


翔太は困惑するー。


まるで男のような喋り方ー

家に挨拶に来た時とは別人のような服装と雰囲気ー

何より電話相手に話をしている内容ー…


「ーーー……いやいやいや… え…」

弟の浩平は騙されている…、ということに

なるのだろうかー。


いや、待てー

他人の空似かもしれないー。


しかしー…


翔太は頭の中で激しく混乱しながら、

前を歩いている千里のほうを追跡するー。


千里がどんどん人通りのない方に進んでいき、

翔太は不安を覚えるー。


気付かれるリスクもどんどん高まっていくし、

むしろ、もう気づかれていて

”うまく、おびき寄せられている”可能性も否定できないー。


「ーーー…」

ゴクリ、と唾を飲み込む翔太ー。


ハイヒールの音を立てながら、千里が

長らく使われて無さそうな、工事現場のようなところに

入っていくー。


ますます疑念が深まるー。


そしてーーーー


「ーーーへへへへへ…遅かったじゃないかー」

怪しいサングラスの男が奥から姿を現すと、

千里は笑みを浮かべながら

「ーー結婚を間近に控えた女ってのは色々と大変なんだよ」と、

その男に対して言い放ったー


「ーな、なんだあの男ー」


明らかにヤバそうな感じの男ー

弟の婚約者・千里の正体がますます分からなくなり、

激しく動揺するー。


「ーーい、いったい、千里さんは”何者”なんだー?」


弟の浩平からは大学で出会ったと聞いているー。


だがー、

工事中止になった工事現場の一角で、

夜にサングラスの男と会う婚約者ー


明らかに普通ではない気がするー。


「ーーー浮気…?」

翔太が小声でそう呟くー。


しかしー

翔太は、千里の”闇”を知ってしまうー


それは、浮気などよりもはるかに恐ろしいモノであるー、

ということをー


「ーー俺の”婚約者”

 完全に騙されちゃって、へへー

 毎日ホント、面白いぜ」


千里がそう呟くと、

相手のサングラスの男は「最低だな~!結婚ごっこ」と笑うー。


続けて、

「ーそろそろヤラせろよ」と、サングラスの男が言うと、

千里は「あ~いいけど その前にちょっと蒸れちまったからー

”いったん脱ぐ”ぞー」と、意味不明な言葉を口走ったー


「ーー!?!?!?!??!」

物陰からその様子を見ていた翔太は、

表情を歪めるー。


”千里”の身体が突然、真っ二つに割れてー

まるで”着ぐるみ”を脱ぐかのようにー

男がその中から現れたのだー


「ーーおいおい、これからお楽しみをするってのに

 ”中身”を見せないでくれよ」


サングラスの男が言うと、


「ーへへ うるせぇよー

 それにお前が楽しめるのは俺のおかげなんだぜ?」


と、”千里の中から出て来た男”が言い放ったー


「ーーーー…」

「ーーーーーー」


そんなー

”恐るべき光景”を見てしまった翔太はー


物陰で身体をガクガクと震わせることしかできなかったー


そしてー


”弟の婚約者はヤバいやつ”

だとー


確信したー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


ダークな雰囲気が漂う皮モノ…!

弟の婚約者の正体を知ってしまったお兄ちゃんは

どのような行動に出るのでしょうか~?


続きはまた次回デス~!


今日もありがとうございました~!

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