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「ねぇ、おじさん、だぁれ?」


その日、少女は初めて”おじさん”と出会ったー


鏡の中にいる、優しい笑顔のおじさんー。


そのおじさんは、鏡の中から

少女のほうを、見つめていたー。


「ーーーおじさんが、見えるのかい?」

初めて出会った日、おじさんはそう呟いたー。


「ーーうん!見えるよ!

 どうして、鏡の中になんかいるの?」


少女は無垢だったー。


そんな少女の問いかけに、おじさんは

少し照れくさそうに笑みを浮かべたー。


「ーう~ん…どうしてだろうね…

 おじさんにも、よく、分からないんだー」


「ーふ~ん…でもおじさん、そんなところにいたら

 寂しくないの?」


少女が、おじさんに対してそう問いかけるー


「ーははっ…はっはっはー

 確かに、うん。確かに寂しいねー」


おじさんは、”鏡に知らないおじさんが写っている”にも

関わらず、怯える様子もなく、そう問いかけて来た少女に

対して一種の興味のようなものを抱き、

そう答えたー。


「ーーそっか~…

 じゃあ、あのさー

 おじさん、わたしが友達になってあげるー!」


小さな少女は、おじさんに向かって優しく、そう言い放ったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ただいま~!」

ツインテールを揺らしながら帰宅する少女ー。


彼女は、友達がいなかったー。

幼い頃から、病弱な体質で学校を休みがちなことやー

奥手すぎる性格のためか、

”いじめ”を受けたりはしていなかったものの、

クラスではまるで存在感がなく、

友達もほとんどいないー、

そんな状態だったー。


だが、そんな彼女には、少し前から”友達”が出来たー。


それが、”鏡の中のおじさん”だー。


「ーおじさん、ただいま!」

鏡に向かって笑顔で話しかける彼女ー。


「ーーおかえりー菜穂(なほ)ちゃんー」

優しそうな風貌のおじさんは、そう呟くと、


名前を呼ばれた少女ー

菜穂は嬉しそうに微笑んだー


「ーね~ね~おじさん聞いてよ~!」

菜穂は、今日、学校であった出来事を鏡の中のおじさんに話すー。


おじさんは、菜穂の話を毎日のように聞いてくれるー。


菜穂には、それが嬉しかったー。


菜穂の母親はいつも忙しそうにしているし、

父親は単身赴任の最中で、現在、家にはいないー。

姉も妹も、兄も弟もいない菜穂にとっては、

このおじさんだけが、いつでも何でも話せるー

そんな存在だったー


菜穂の部屋に置かれているこの姿見は、

菜穂の母親が昔から使っていた姿見で、

母親のお古として、菜穂が貰い、そのまま使っているものだー


とは言ってもー

菜穂はまだ、おしゃれとかそういうことに無頓着な年代だし、

”おじさん”が鏡にいつも映っていても、特に問題はなかったー。


「ははは、それは大変だったねぇ~

 でも、よく頑張ったね。えらいぞ」


おじさんは、いつも菜穂に優しい言葉を掛けてくれたー。

菜穂は、そんなおじさんのことが、いつしか大好きになっていたー。


鏡の中にいるおじさんは、菜穂以外の前には姿を見せなかったー。

菜穂の母親が、菜穂の部屋に入ってきた時には

”こっちから見えない位置”に移動しているらしく、

優しいおじさんは、菜穂の母親に顔を見せようとしないー。


菜穂は一度、母親に”鏡の中におじさんがいるの!”と

言ってみたこともあったが、母親は信じてくれなかったし、

おじさんも”あんまり、他の人とは会いたくないなぁ…”などと

頭を掻きむしりながら呟いていたー。


”菜穂ちゃんも、学校で人と話をするの苦手だって言ってただろ?

 実はーおじさんも苦手なんだー”


そんな理由を、おじさんは口にしていたー。

人前に出るのが苦手な菜穂にとって、その理由は

とても納得のいく理由だったし、

それ以降、母親に”鏡の中のおじさん”のことは何も言わなくなったし、

おじさんに対しても”お母さんにも会ってよ!”とは言わなくなったー


”無理やり人前に出されるの”が、どんなに辛いことか、

菜穂にはよく理解できているからだー。



”鏡の中のおじさん”と出会ってから2か月以上が経過したある日ー、

菜穂はふと呟いたー


「ねぇ、おじさんー

 おじさんのいる鏡の中って、何にもないの?」


とー。


「ーーえ?あぁ~そうだねぇ」

おじさんがいつものように笑うー。


「ーそっか~…じゃあ、つまんないね…」

純粋な菜穂がそう呟くー。

その言葉に、悪気はないー。


「ーーーう~~~~ん…」

菜穂が、”いつも話を聞いてくれる優しいおじさん”のことを

一生懸命考えながら「あ!そうだ!」と叫ぶー。


机からトランプを取り出すと、

「おじさん!一緒にトランプで遊ぼうよ!」と笑いながら言い放つー


おじさんは一瞬、驚いた様子をしながらも

”おじさん、カードに触れないからなぁ…”と、呟いたー。


「あ、そっかー…」

菜穂は残念そうに呟くー


「ーーーおじさんも、鏡の中から出てこれたらいいのにー」

菜穂がそんな言葉をボソッと呟くとー

おじさんは少しだけ考えてから、思い出したかのように

ふと、呟いたー


「ーーー実は…一つだけ方法があるんだー」

とー。


「ーえ…?」

菜穂が驚くー


「おじさんが、菜穂ちゃんのいる世界に行く方法がー」


その言葉に、

菜穂は「え!?ほんとに!?」と、喜ぶー。


「ーでも、急におじさんが菜穂ちゃんの部屋にいたら、

 菜穂ちゃんのお母さんも、驚いちゃうだろ?」

おじさんが申し訳なさそうに言うと、

菜穂は「ううん!大丈夫!」と、笑顔で言い放つー


「お母さん、今日、スーパーのお仕事で帰りが遅いから

 夜まで帰ってこないもん!」

とー。


「ーーー……でもなぁ」

おじさんが呟くと、菜穂は「お願い!1時間だけ!おじさん!お願い!」と

何度も何度もお願いするー


”どうしても一緒にババ抜きがやりたい!”とー。


駄々をこねるかのように”お願い!”と繰り返す菜穂を見て

乗り気な雰囲気ではなかったおじさんも「仕方ないなぁ 1時間だけだぞ」と

笑いながらー、

菜穂のほうを鏡の中から見つめて呟いたー


「菜穂ちゃんがそっちから、おじさんが鏡の中から手を、

 お互いに合わせてー

 菜穂ちゃんが、おじさんを引っ張ってくれるような感じで、

 鏡の中から引っ張り出してくれれば、

 おじさんは菜穂ちゃんのいる世界にいけるんだー」


おじさんが呟くー


「それだけでいいの?」

菜穂が言うと、

おじさんは「結構頑張って引っ張ってくれないと、途中で

失敗するかもしれないから、難しいぞ~?」と、笑うー。


「大丈夫!わたし、絶対離さないもん!」

菜穂が笑いながら言うと、

おじさんは「途中で失敗すると、おじさん、

消えちゃうかもしれないから」と、少し不安そうに呟くー。


「絶対離さない!」

菜穂が再度そう呟くー


おじさんは「ありがとう」と頷くと、

菜穂は鏡の外から鏡に手をー、

おじさんは鏡の中から鏡に手を合わせてー


そしてー、

菜穂が、おじさんの手を引っ張るかのようにー

鏡の中のおじさんを引っ張り始めたー


「おぉぉ…!すごい!すごいぞ!菜穂ちゃんー!」


”おじさん”を引っ張ることが出来ているー

そう感じた菜穂は

「う~ん…!おじさんも頑張って!」と、叫びながら

おじさんを引っ張り続けるー


おじさんの身体がー

鏡の中からー

外にー


いいやー

”菜穂の中に”ずぶずぶと引っ張られていくー。


「ーーわ…わ…なんか変な感じがする!」

”何かが”中に入って来るような感じがして

一瞬戸惑う菜穂ー。


だが、おじさんは「もう一息だ…!頑張れ!菜穂ちゃん!」と叫ぶー


”ここで手を放されたら、おじさん、消えちゃうかもしれない”と

言いながらー


菜穂は「頑張る!」と、さらにおじさんを引っ張るー。


しかしー

鏡の中から引っ張られているおじさんは、

”外の世界”に出てきているのではなくー

鏡の中から、外にいる菜穂に向かって

吸い込まれるようにして、鏡から引っ張られていたー


「ーーあ…ぅ…」

おじさんを引っ張っていた菜穂の意識が薄れ始めるー


「ー最後のひと踏ん張りだ!」

おじさんが叫ぶと、菜穂はツインテールを揺らしながらー

おじさんを”自分の精一杯の力”で、

引っ張ったー


「ーーわぁぁぁぁ!?」

まるで、土から野菜を引っ張ったかのように、

鏡の後ろまで吹き飛ばされる菜穂ー


倒れたままの菜穂がー

やがて目を開くとー

菜穂はニヤリと笑ったー


「ふふふふ…ありがとう菜穂ちゃんー」

ニヤッと手を見つめながら呟く菜穂ー


「ーー菜穂ちゃんの身体、げ~っと」

菜穂はそう呟くと、嬉しそうに自分のツインテールに手を触れたー。


「ーーーーふふふふふ…”失敗”するわけにはいかなかったからねぇ…

 ず~っと、ガキのつまらない話を真剣に聞いているふりをするのは、

 おじさんも疲れたよ…ククククー」


菜穂は、ニヤニヤしながら鏡のほうを見つめるー。


「ーおや?」

すると、鏡には混乱した表情の菜穂の姿があったー


「おやおやおや、一つの身体には一つの魂しか

 入ることができないのかー。

 それはそれはー」


菜穂の身体に、おじさんが憑依したことによって、

菜穂の身体から、菜穂自身が追い出されてしまったー


”お、おじさんー…?あ、あれー!?”

戸惑う鏡の中の菜穂ー


「ーおじさんねぇ…菜穂ちゃんのお母さんに恨みがあるんだー」

菜穂になったおじさんは、静かにそう呟くー。


菜穂の母親はー

大学時代、今の夫とは別の男と付き合っていたー。

現在の夫、つまり、菜穂から見れば父親の彼と出会ったのは、

就職したあとー。


そして、その後ー、菜穂の母親は”最初の彼氏”だった男と別れているー。

原因は、男の側の”あまりにも強い束縛”と”執念深い性格”ー


その、”元カレ”が、鏡の中にいた”おじさん”だったー。


この鏡は、おじさんが、菜穂の母親と付き合っている当時、

贈ったプレゼントの一つ。

菜穂の母親は、当時、このおじさんから貰ったものを別れたあとも

捨てずに、そのまま使っていたー


”そのモノをくれた相手と決別したからと言って、

 貰ったモノを捨てる必要はないー。

 モノはモノであり、モノに罪はないー”


菜穂の母親はそういう考えだったー。


だがー

それが、”誤算”を生んだー。


風の便りで、菜穂の母親が結婚したことを知った彼は絶望したー。

一人で、ずっとずっと菜穂の母親を怨みながら、

いつしか、”おじさん”と呼べるような年齢になったー。

そんなある日、菜穂の母親が、夫と、そして菜穂と一緒に

買い物している姿を見かけたー。


そしてー

おじさんは自宅で一人、怒り狂った末に、

この世に絶望し、最後には自ら命を絶ったー。


がー、

”あまりにも強い憎しみ”を抱いて、この世から去ったおじさんはー

気付いた時には”菜穂の母親にかつてプレゼントした鏡の中”にいたー。


何故かは、おじさんにも分からなかったー


最初は”ここが地獄なのか?”と思ったー

しかし、そんな時だったー

”鏡の外”にいる菜穂と出会ったのはー。


それからはー

菜穂の身体を奪うことだけを考えたー。

何とか、方法はないかー。

とー。


そしてー

おじさんは、その方法にたどり着きー、

菜穂から、たった今、身体を奪ったのだー


菜穂のお母さんが部屋に来ると、

”鏡の奥”に隠れていたのは

”菜穂の母の元カレだから”ー。

顔を、合わせたくなかったし、

菜穂の母親が”鏡の中におじさんになった元カレがいる”と

知れば、当然鏡ごと処分されるリスクもあったー。


だから、隠れていたー


「ーそういわけだから、菜穂ちゃんー

 おじさん、菜穂ちゃんの身体で、アイツにー

 ううんーお母さんに復讐する!」


菜穂は笑みを浮かべながらー

鏡の中の、泣きそうになっている菜穂を見つめて、

笑みを浮かべるとー


菜穂の小さな拳を、思いっきり鏡に叩きつけてー

鏡を割ったー。


手から血が流れるー


砕け散った鏡からー

菜穂の悲鳴のような声が聞こえてー

やがて、それが聞こえなくなるー


「ーーふふふふふふふふふ…

 これからはおじさんが菜穂ちゃんとして

 生きていくからー

 安心しな」


菜穂は、邪悪な笑みを浮かべながら

そう呟くと、鏡を割った際に出血した手を

ペロリと舐めながら、

クスクスと一人、笑い始めたー


おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


以前から私の中で、お話自体は浮かんでいた

1話完結の憑依モノでした~!


ちょっぴり怖い感じもしますネ~!


鏡の中におじさんが見えたら皆様も

注意するのデス!

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