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その高校では、卒業式が行われていたー。


男子高校生の早川 信夫(はやかわ のぶお)は、

少し眠そうにしながら、卒業証書を同級生たちが

順番に受け取っていくのを見つめているー。


そんな中ー

信夫と同じ卒業生の一人で、

いかにもギャルな感じの女子生徒、浅村 麻耶(あさむら まや)は、

少し面倒臭そうに、自分の順番が回ってきて、

卒業証書を受け取るために、体育館の壇上に上がるー。


「ーーーーー」

卒業証書を受け取り、お辞儀をすると、体育館の壇上から降りて、

その脇で、卒業証書を入れる筒を受け取る麻耶ー。


麻耶は”ギャル”と表現するに相応しい感じの子で、

学校でも、おしゃべりで何かとうるさい子であったものの、

卒業式の今日は、しんみりとした雰囲気を見せていたー。


眠そうにしていた男子生徒、信夫は、そんな麻耶が

着席するのを、なんとなく見つめながら

”早く俺の番回ってこないかなぁ…”などと、

睡魔と戦いながら、クラスメイトたちの卒業証書の受け取りを

見つめていたー。



そんな信夫のすぐ横でー

同じように、卒業証書の授与を見つめている”霊”がいたー。


”ーーーーー…今年も、この時期がやってきたんだなー…”

霊はそんな風に呟くー。


眠そうにしている信夫のすぐ横にいる男の霊ー。

しかし、彼は幽霊であるために、当然、信夫に気付くことはないー。


「ーーー…ふぁ~ぁ…」

信夫が再びあくびをするー。


”はは、こいつ、眠そうだなー…

 でもまぁ、俺もそうだったかなー”

幽霊はそんな風に呟くとー、

体育館の天井付近まで自分の霊体を飛ばすとー、

”今年は、あいつを”卒業”させてやるかー”と、

眠そうにしている信夫を見つめるー。


卒業式の体育館をさ迷っている彼はー

”この学校の卒業生”だったー。


どのぐらい前だっただろうかー。

もう、自分でも覚えていないー。


けれど、彼は確かに卒業したー。

この高校をー。


あの日のことはよく覚えているー。


だがー

彼は、その日、学校だけではなく、

別のことまで一緒に卒業してしまったー。


そう、彼はあの日、高校を卒業すると共に

”人生”も卒業してしまったのだったー。


卒業式の帰り道、信号を無視した車が原因の

交通事故に巻き込まれてー、

彼は、人生を卒業したー。

つまり、死んだのだー。


「ーーーーーー」

そうして、幽霊になった男は、未練からか、成仏できずに

この世をさ迷っていたー。


普段は、あまり明確ではない意識で、漠然と

この学校をさ迷っているだけで、

何もできないし、何もすることもないのだがー

毎年、卒業式が近づくと、意識がハッキリとしてきて、

卒業式本番の日になると、こうして活力のようなものが

湧いていて、ハッキリとした意識が蘇ってくるー。


何故だか分からないがー

自分が卒業式の日に死んだからー、

卒業式の日に呼び寄せられるのかもしれないー。


「ーーーお、次が俺かなー」

すぐ横にいる卒業生・信夫が呟くー。


信夫には当然、すぐ隣にいる幽霊の姿は見えていないし、

この幽霊が何を考えているかも知らないー。


”ーーーー”

だが、この幽霊は、ここ何十年も”あること”をしているー。


それはー

”もう一つの卒業式”だー。


彼はー

”卒業”しないまま死んだー。


高校は卒業したし、不本意ながら人生も卒業してしまったが、

彼には、心残りがあったー。


幽霊になった今でも、彼は未だによく覚えている。


自分が人生の最後の瞬間に、

何を思っていたかをー。


”ーーー俺……まだー………”卒業”してないのにー”


車に追突されて、身体ごと吹き飛ばされてー

身体から力が抜けていくのを感じながらー

卒業証書が飛び出した筒に手を伸ばしながらー

彼はー、最後にそう呟いたー。


”俺のような思いを、卒業生にはしてほしくないからな”

彼は、信夫が卒業証書を受け取っているのを見て、

”あいつは多分、卒業してないだろ”と、静かに呟いたー。


彼は、信夫を”もう一つの卒業式”の今年の主役に選ぶと、

再び体育館の天井付近まで自分の霊体を移動させると、

”物色”を始めたー。


そしてーーー

”ある女子生徒”に狙いを定めるとー

その女子生徒が持つ、卒業証書が入った筒の方へと向かっていくのだったー。


・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーふぁ~…マジで眠かったー」

信夫が、クラスメイトの男子と教室に向かって歩きながら呟くー。


これが、最後の教室となるー。

教室で少し話をしたら、そのまま解散で

卒業式は終わりだー。


もう、この高校に通うこともないー。


「ーーお前、本当にマイペースなやつだなぁ」

クラスメイトの男子が呟くと、信夫は

「卒業なんて、人生の通過点の一つだからさ」と、笑ったー。


信夫は良くも悪くもマイペースなタイプでー、

その考え方は、時々”冷めている”などと、周囲から

言われることもあるー。


そんな感じの、男子生徒だー。


「ーーーー信夫ってば、寝てたでしょ?」

教室に到着して、自分の座席に着席すると、

信夫のほうを見ながら、幼馴染の梅香(うめか)が

声を掛けてきたー


「ーね、寝てはいないよ!ちゃんと起きてた!」

信夫が言うと、梅香は「ほんとかな~?コクコクしてたけど?」と、

信夫のことを揶揄うようにして笑うー。


「ーほ、ほんとだよー」

顔を赤らめながら梅香から目を逸らす信夫ー


”わかりやすいやつだなー”

先ほどまで一緒に話していたクラスメイトの男子は、

そんな信夫のほうを見ながら

”あいつ、梅香ちゃんのこと好きだろうに、結局告白も何も

 しなかったみたいだなー”と、

苦笑いしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


最後の教室でのひと時が終わりー、

高校生活最後の1日は”解散”となったー。


信夫も、仲良しのクラスメイトとの話を終えると、

そのまま廊下を歩いて、帰ろうとしたー


その時だったー。


「ーーーー!?!?!?!?!?」

信夫が突然、背後から腕を掴まれたー


信夫がビクッとして振り返るとー

そこには、隣のクラスのギャルー、麻耶の姿があったー


「ーーえ…?」

信夫が表情を歪めるー。

当然、同級生だから顔ぐらいは知っているが、

3年間、一度も同じクラスになったことはなかったし、

特に接点もなく、”ちゃんとした会話したことあったかな?”ぐらいの

間柄でしかない麻耶が、突然、信夫の腕を掴んできたのだー


「ーー卒業式は、まだ終わってないよー」

麻耶の言葉に、信夫は「は!?」と、困惑していると、

そのまま近くの空き教室に引きずり込まれてしまったー。


「ーーふ~~~…」

卒業証書の入った筒を手にしたまま、麻耶は、

空き教室の中に二人きりになったのを確認するとー、

「ーー今から、”裏卒業式”を始めるからー」と、

にっこりとほほ笑んだー


「ーーは…!?え…?な、なにー?」

信夫は戸惑いながらキョロキョロとするー。


てっきり、麻耶にボコボコにでもされるのかと一瞬思ったが

そんなこともなさそうだー。


「ーーそ…そ、卒業って何をー?

 っていうかー…え~っと……え~…浅村さん…だったっけ?」


信夫は困惑しながら言うと、

麻耶は「ーあんた、童貞でしょ?」と、突然、

意味不明な質問を口にしたー


「ーーー……へ???? は????????」

信夫は口をぽかんと開けたまま硬直するー。


何て答えていいか分からなかったー


いやー

図星なのだがー、

あまりの質問に、戸惑うことしかできないー


そういう状態だー



”ーーえ…ちょ、ちょっと…!?あたしの身体で何してんの!?”


戸惑っているのはー

信夫だけではなく、麻耶の方もだったー。


麻耶は、卒業式が行われた体育館で、突然、男の霊に憑依されて

”乗っ取られて”しまっていたのだー。


厳密に言うとー男の霊は”卒業証書の入った筒”に憑依してー

それを通して、麻耶の身体を支配しているー。

直接憑依できないのは不便だが、

”これならではのやり方”もあるしー、男は別に不便していないー。


”へへ…いいじゃんかー。

 少し、身体を貸してくれよー。

 可愛い後輩たちには”俺のように卒業できないまま”

 死んでほしくないからさー

 毎年こうやって、俺が選んだ一人の”童貞”を卒業させてやってるんだー”


麻耶に憑依した男の霊は、麻耶の心の中でそう呟くー。


”はぁ~~~?意味わかんないんだけど!

 って、何…?まさかあんた、あたしのー…!?”


麻耶は戸惑うー


”そうそう、君の身体であいつを卒業させようと思ってさ”


”え…ふ、、ふざけないで!何なの!?

 早くあたしの身体を返して!”


麻耶本人の意識と、霊の意識が麻耶の中で言い合いをする中ー、


そんなー

”麻耶の中でのやり取り”は目の前にいる信夫には、聞こえないー


信夫からすれば、目の前にいる麻耶が

”あんた、童貞でしょ?”といきなり聞いていた直後から

急に無言になり、キョロキョロしながら、色々と表情だけを

変えているような”ヤバい光景”にしか見えないー


無言で、笑ったり、怒ったり、険しい表情をしたり、嬉しそうにしたりー

表情だけ変えている麻耶を見て、怖くなってきた信夫は

ようやく口を開いたー


「あ、あの…俺、帰っていいかなー?」

とー。


「ーーーえ!なんで!

 せっかく俺ー、あ、いや、わた、わた、あたしがー、

 童貞卒業式してあげようと思ってるのに!」

麻耶が叫ぶと、信夫は「い、いやー」と、目を逸らすー。


「ー俺…浅村さんのこと、よく知らないしー…

 ってか、クラスも一緒にならなかったし、

 そもそもまともに喋ったことないじゃんー」


信夫が言うー。

信夫はクラスの女子とは、幼馴染の梅香も含めて

普通に喋るが、一度も同じクラスになったことがなく、

部活や委員会、その他行事でも特に縁がなかったような同級生の女子とは

特別接点もないし、”見たことはあるけど、個人的にほぼ話したことがない”

女子はそこそこいるー。


麻耶もその一人だ。

その麻耶にいきなり”童貞卒業式”とか言われても、正直意味が分からないー


”ちょっと!ふざけないで!”

麻耶の意識が再び、男の霊の意識に話しかけるー


”なんで、いいじゃんかー。

 っていうか、君も初経験なら、一緒に卒業式しちゃえばいいじゃん”


男の霊が言うと、麻耶は”う、うるさい!”と叫んだー。


麻耶に憑依している男には、その反応と、麻耶の身体の

感情の高ぶりから、麻耶も初経験なのだろうと理解したー


”ははは、いかにもギャルって感じなのに、恥ずかしがっちゃって

 可愛いな”


”ギャルと経験人数関係ないし!そんな思い込みしてる時点で

 あんたこそ童貞なんじゃないの!”


霊体と麻耶が再び麻耶の中で口論を始めるー。


”ん?ははは そうだよ。俺は童貞のまま人生を卒業しちゃった

 男だからね”


霊体が言うー。


再び目の前の麻耶が言葉を発さなくなったのを見て

信夫は戸惑いながら、「もう…帰るよ」と、教室から出ていこうとするー。


憑依された麻耶は「あ、待った!あたしとヤリたいでしょ!?」と叫ぶー。


「ーーーー」

信夫はそんな麻耶のほうを見て、表情を歪めたー


「ーー俺…ギャルとか、あんま…好きじゃないしー」

とー。


「ーーーー!!!」

麻耶は憑依を歪めるとー

咄嗟に叫んだー


「ーわ、わたし…こう見えても…じ、実は清楚なのー」

目をウルウルさせながら呟く麻耶ー


”ちょっと!キモッ!あたしに何させてんの!?!?!?”

麻耶本人の意識が叫ぶー。


信夫は、そんな麻耶を見て失笑すると

そのまま教室の外に出て行ってしまったー


「ーーだめじゃん!」

麻耶の身体で、麻耶に憑依した霊体が叫ぶー。


”だめじゃん!じゃない!ふざけんな!”

麻耶の意識が叫ぶー。


だがー

麻耶に憑依した霊体は諦めていなかったー。


「ーーあいつー…

 ”卒業式”を拒むなんてー…面白いやつだなー」


今まで、偶然かもしれないが、

霊体になった男が憑依して、誘った男は、みんなすぐに落ちたー。

だが、信夫は違ったー。


「ーー燃えて来たぜ」

ギャルな麻耶の身体で、霊は笑みを浮かべながらそう呟いたー


”勝手に燃えんな!バカ!”

麻耶の意識が、思わずそう叫ぶ中ー

麻耶は静かに歩き出したー。


②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


卒業式はもう終わってしまっているところが多いかもですが、

卒業式憑依モノデス~!


このあといったいどうなってしまうのかは、

また次回を楽しみにしていてくださいネ~!


今日もありがとうございました~!

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