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凶悪犯・五十嵐栄吾の手口を模倣して、

連日、ナイフで人の命を奪っていたのはー…

娘の菜々香だったー。


”娘がその手で人の命を奪っていたー”

そんな、過酷な現実を前に、

父・謙介の脳裏に浮かぶのは”絶望”の二文字ー。


しかしー、謙介は、まだ知らないー

”娘の菜々香が、自らの意思で殺人を犯しているわけではない”

と、いうことをー。


菜々香は、凶悪犯・五十嵐に”皮”にされて

乗っ取られているということをー。


☆前回はこちら↓☆

<皮>俺はここにいる④~娘への疑念~

2か月ほど前にビルから転落して、命を落としたと思われていた 凶悪犯・五十嵐栄吾が再び動き始めたー。 犠牲者に数字を刻む五十嵐の犯行に翻弄される謙介ー。 しかし、そんな中、謙介は”9人目の犠牲者”の遺体発見現場付近で、 昨日”女の声が聞こえた”という証言を入手するー ”女ー” 謙介は、やはり五十嵐栄吾は既に死ん...

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夜の河川敷ー

黒い手袋をはめたまま、嬉しそうに手にした

スローイングナイフをくるくると回す菜々香ー。


菜々香の前には、険しい表情を浮かべた父・謙介が立っているー


「ーー菜々香…う…嘘だと言ってくれー…」

謙介は、戸惑いの表情を浮かべながら菜々香を見つめるー。


しかしー

菜々香はクスッと笑いながらー

「お父さんさぁ…、”悪人”が目の前にいるのに、現実逃避するとか、

 警察官、向いてないんじゃない?」と、挑発的に笑うー。


そしてー、

先ほどスローイングナイフを投げつけられて

倒れたままのホームレスの力に寄っていくと、

菜々香は乱暴に倒れているホームレスを足で転がしてから、

ナイフを手にしたー。


「ーこいつはー”11”ー」

菜々香はそう言うと、笑いながら、ホームレスの腕に

ナイフで11と刻むー。


「ーー菜々香!!!!!」

謙介はそう叫ぶと、銃を取り出したー。


それでも、菜々香はお構いなしに、ホームレスの身体に刻んだ

"11”の文字を見つめているー。


「ー撃てば?」

菜々香が謙介のほうも見ずに、そう呟くー。


「ーーーー…くっ」

謙介の手が震えるー。


菜々香が生まれてから、今までの菜々香との思い出が

走馬灯のように駆け巡るー。


どうしてー?

どうして、こんなことになったんだー…?


菜々香の笑顔を思い出すー。


仕事が多少忙しい時期は、菜々香に寂しい思いをさせて

しまっていたのかもしれないー。


いやー、逆なのかー?

菜々香を大事にしすぎて、知らぬうちに、菜々香に

負担をかけていたのかもしれないー。


謙介はそんなことを思いながら、菜々香のほうを見るー。


気付けば、ホームレスの男に”11”と刻むのを終えて、

菜々香が、謙介の方に近付いてきていたー


「う…動くな!菜々香!」

謙介が叫ぶー


「ほ、本当に…撃つぞ!」

謙介の言葉に、菜々香は全くひるむ様子もなく、近付いてくるー。


「ーーお父さんに、わたしは撃てないよー」

そう、言い切りながらー


”ククー”

菜々香を”皮”にして乗っ取っている五十嵐栄吾が、

菜々香の身体で笑みを浮かべるー。


”菜々香が乗っ取られている”

それを、暴露しても、確かに謙介にダメージは与えられるー

だが、同時に”戦う目標”も、与えてしまうー。

”娘を助ける”という思いは、何よりも、謙介の原動力になるだろうー


”だから、俺は言わないー”

菜々香はペロリと唇を舐めるー


”お前の娘を、乗っ取っているんだぜー…なんて、

 俺は死んでも言わねぇー…”


そのほうがーーー

”絶望のゲームにふさわしいもんなーーー”


菜々香が目を見開きながら、謙介の目の前へと近づいてくるー。


”さぁ、憎めー…

 娘を、憎めー!

 絶望しろー!

 自分の娘が、殺人鬼だったという現実を前にーー!”


菜々香が謙介の銃を黒手袋に包まれた手でつかむと、


「ほ~ら、撃てないー」

と、ニヤニヤしながら呟いたー。


「ーーくっ…」

謙介は表情を曇らせるー


「ーーーほら、お父さん、ちゃんと悪い娘を逮捕しなくちゃ!」

手を差し出して挑発的に笑う菜々香ー。


「ーーー」

謙介は手を震わせるー。


今ー

菜々香を逮捕することは、できるー。


手錠を、娘のー

菜々香の手にかけるー。

それで、この事件は終わりだー。


だがー

未成年とは言え、既に7人の命を奪っている菜々香はー

そう簡単には元の生活には戻れないだろうー。


そしてー

「ーーーーーー」

親である謙介の責任も、当然、免れることはできないー。


いやー

それは、当たり前かー。


「ーー菜々香…誰かに…誰かに脅されているのかー?」

謙介は、苦し紛れにそう呟いたー。


菜々香がこんなことするはずがないー

菜々香がこんなことするはずがないー

何度も、何度も何度も、心の中でそう叫ぶー


”最高のツラじゃんー…ククク”

菜々香の中に潜む五十嵐はそう思いながら

”でもー、まだまだー”と、笑みを浮かべるー。


「ーー脅されてる?

 ふふっあははははははははははっ!


 お父さんさァ、現実逃避もいい加減にしなよ~!


 ほら、わたし、今、このおっさん、殺したのみたでしょ?」


スローイングナイフを手にしながら

狂ったように笑う菜々香ー


「ーわたしは、殺人鬼・五十嵐栄吾の模倣犯なの!

 もう、7人も殺してるの!

 こ~んな綺麗な手を、血に染めちゃったの!

 うっふふふふふふふふ♡」


菜々香の言葉に、謙介は「どうして…どうしてなんだ…」と

悔しそうに呟くー。


「ーどうしてーーー???

 ”親”の育て方が悪かったからーーー

 ーーーに、決まってんじゃん」


菜々香がクスッと笑うー。


「ーあんたみたいな父親と、

 いつも平和そうにニコニコしてるだけのクソババアー。

 わたし、いつも”いい子にしてやってた”だけなのに

 全然気づかなかったでしょー?」


父親と母親に暴言を吐く菜々香ー。


もちろんこれは菜々香の本心などではないー。

今の菜々香は、五十嵐栄吾に完全に乗っ取られているー


だがー

”それを明かさなければー”

謙介から見ればー

”これが娘の本性”だと思わざるを得ないー。


どんなに娘を信じていてもー

”前の前にいる本人”がそういう振る舞いをしていればー

否定しても、否定しても、信じるしかーない…。


「ーーーあんたと、あのクソババアが早く死ぬのを

 ず~っと、待ってたのに、なかなか死なないからー

 いつこのナイフで殺してやろっかな~って、

 ず~っと考えてたの!ふふっ♡


 でもー

 お父さんに先に気付かれちゃった!

 やっぱすごいね!お父さん!」


菜々香が笑いながらふざけて拍手をするー


「ーー菜々香ァ!」

謙介は、怒りの形相で菜々香の腕を掴んで、

菜々香を引っ張ったー


「なに?殴るの?

 娘に暴力を振るうの?」

菜々香は冷たい声で呟くー。


「ー娘が、自分の思い通りにならなかったからって殴るのー?

 ふふ、そっかそっかー

 お父さんってそういう”やつ”だもんねー

 殴りたければ殴りなよ。ほら!ほら!!!ほらァ!!!」

菜々香の怒鳴り声に謙介は、

涙を流しながら「俺はなんて言われても構わないー」と、

悔しそうに呟くー。


「ー俺が職を失っても構わないー…

 でもーーー

 菜々香ー…お前がこんなことをするようになるまで

 気づけなかったなんてーー

 俺は…俺はーーー」


謙介はそう言うと、男泣きしながら

「俺は…父親失格だー」と、悔しそうに言い放ったー。


「ーーー俺のことは嫌いになってもいいー

 どんなに憎んでもいいー

 お前にこんなことをさせてしまったのは、

 全部親である俺の責任だー」


謙介の言葉に、

菜々香は勝ち誇ったような笑みを浮かべるー。


”ーー俺と対峙したときの威勢のよさはどうしたー?

 クククー

 みじめだな、崎村刑事ー”


菜々香は、笑いをこらえながらー

”お前の娘が、さっきから心の中で必死に抵抗しているのを感じるー”と、

心の中で呟くー。


父親を罵倒し始めてから、まるで拒絶反応を示すかのように、

菜々香の身体が、ピクッ、ピクッ、と震えているー。


”クククー娘が助けを求めてるぜー?崎村刑事ー”


そんなことを思いながらー

菜々香は、さらに凶悪な笑みを浮かべたー。


”この男は、自分よりも妻を罵倒されることが我慢ならないみたいだなァ…”


菜々香は、笑みを浮かべながらスローイングナイフをくるくる回すと、

「ー決めた」と、呟くー


「ーーな…何をー…」

謙介が言うと、菜々香は微笑むー。


「お父さんー娘のわたしのこと、どうせ逮捕なんか

 できやしないもんねー?


 だったら、次はーお母さんー

 あのクソババアの命を奪ってやる!


 ”12”番目は”お母さん”に決まり!

 いぇ~い!」


菜々香はふざけた仕草でそう叫ぶと、

そのまま立ち去って行こうとするー


「ーー菜々香!!!!!!!!!!!!!」

謙介が怒りの形相で叫ぶー


「ーーーなぁに?

 わたしがこんな娘に育っちゃって、悔しいー?」


菜々香が挑発的に笑うー。


「ーーでも、それでも、わたしが可愛いんでしょー?

 たった一人の娘だもんね?

 ふふっ…ふふふふふふふふっー」


菜々香はそう言うと、

「ーお父さんはまだ殺してあげないー。

 娘のわたしが、ど~んどん、罪を重ねていくのを

 お父さんは黙ってみてるの!


 あ、そうそうー

 わたしのこと、言っちゃだめだからねー。

 

 ま、わたしが言わなくてもお父さんは

 わたしのこと、逮捕なんてでkー」


その直後ー

菜々香の言葉を、銃声が打ち消したー


謙介が、菜々香の脚を撃ったのだー


「ーーー!?」

菜々香が驚いて、その場に倒れ込むー


”チッーまさか、こいつ、自分の娘を撃てるなんてー

 挑発しすぎたかー”


そう思いながら五十嵐は”なら、プランBだー”と、

笑みを浮かべるー。


この場で”菜々香の皮を脱ぎ”

菜々香を人質にして、逃亡するー。

そうすれば、崎村刑事は、今度こそ、手出しはできないー。


「ーーー!」

だがー

菜々香は、近付いてきた謙介が、泣きながら

菜々香のほうを見ているのに気づきー、

”皮を脱ぎ捨てる”のをやめたー


「ーーー菜々香…ごめんなーーーー

 全部…全部、俺のせいなんだー」


謙介が泣きながら菜々香を抱きしめるー。


「ーーー俺が…菜々香が間違った方向に進まないようにー…

 ちゃんとー…ちゃんと、菜々香と向き合えなかったからー」


謙介は泣きながら言うー。

”謙介の育て方”は決して悪くなどないー

むしろ”良い父親”だったー。


菜々香本人も、謙介のことを”最高のお父さん”と慕っていたー


けれどー

そんな、両者の想いは、今はもう、響かないー。


ニヤッと笑う菜々香ー


”ーーーこのまま”崎村 菜々香”として捕まったほうがー

 最高の展開になりそうだなーーー”


菜々香を乗っ取っている五十嵐栄吾はー

”菜々香を脱いで人質にする”のをやめてー

”最後まで崎村 菜々香”として振る舞いー

そしてー

”逮捕”される道を選んだー


手錠をかけられた菜々香ー


応援の警察官がやってきて、

菜々香はパトカーに連行されていくー。


”正体をばらして、逃げるー”


それよりもー


”最後まで、徹底的に真実を明かさないー”


その方がー

崎村 謙介が苦しむー。

最高の、復讐を遂げることができるー。


そう、思ったのだー


”憎まれたまま”真実も明かさず、

菜々香として連行されるー。


そんな状況に、菜々香は激しく興奮したー。


「ーーー…罪を償ってー

 やり直すんだー…

 菜々香!」


謙介が、パトカーに連れていかれる菜々香にそう言い放つと、

菜々香は唾を吐き捨てて笑ったー


「ー出てきたら、真っ先にあのクソババアから殺してやるー」

母親に対して強い憎しみの言葉を投げかける菜々香ー


菜々香は、そのまま笑い続けたまま、

パトカーで連行されたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


世間では”女子高生”が五十嵐栄吾の模倣犯だったと

大々的に報じたー。

未成年故、名前は報道されないー。


だが、前代未聞の”女子高生による凶悪事件”とのことで、

情報は、一部からは漏れているのも現実だったー。


妻の琴子は、娘・菜々香の凶行にひどく悲しみー、

ふさぎ込んでしまうー


謙介は、事件の責任を取り、辞職ー。

絶望の淵に、突き落とされてしまったー。



「ーーーーーーーーーーーー」

警察の取り調べを受けながらー

菜々香は、一人笑みを浮かべるー


”どうせ、未成年だー。

 いつかは、出れるだろうさー”


菜々香はそう思いながら、

謙介の顔を思い浮かべてー

心の中でこうつぶやいたー


”俺はここにいるー

 見つけられるのはー

 いつになるかなー…?”


とー。



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


事件は解決したものの…

最後まで”娘が皮にされて乗っ取られていること”に気付けないまま…

というエンドでした~!


乗っ取られた本人は、本当は「助けを求めている」のに、

「憎しみと悲しみ」の感情を向けられたままー

そんな”乗っ取られたのに、誰にも気づかれずに憎まれる皮モノ”という

アイデアから生まれた作品でした!


終わり方は好み分かれそうですが、

お読みくださりありがとうございました~~!!

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