Home Artists Posts Import Register

Content

「うん…うん、あと30分ぐらいで帰るから、うんー。気を付けるねー」


夜道で女子高生が母親との電話を終えると、

スマホを閉じて、歩き出すー。


彼女は、部活で帰りが遅くなり、

心配しているであろう両親に連絡を入れていたのだー。


「ーーー」

可愛らしい髪の長い女子高生ー。


だがーー

そんな彼女の前に、不気味な笑みを浮かべた男が姿を現したー。


「ーーー?」

彼女が不思議そうに表情を歪めると同時に、

男は笑みを浮かべたー


「ーークククー

 お前の父親と、もっと”ゲーム”をしたくなったよー

 悪いけど、お前の”スキン”使わせてもらうぜー」


男はそう呟くと、驚く彼女の目の前で、

黒い手袋を外しー、そして悲鳴を上げようとする彼女の口を

もう片方の手でふさぐと、そのまま”義手”で彼女の頭を掴んだー


じたばたと手足を動かす女子高生ー

やがてー

その動きは止まりー


いやー

止まるどころか、”最初からそこに人間がいなかった”かのように、

バサッ、と女子高生の身体が崩れ落ちるー。


まるで、

”着ぐるみ”のようにー。


鞄とスマホが土の上に落下したのを見つめると、

男は静かに笑みを浮かべたー。


「ーーすげぇじゃんー

 まさか、”本物”だったとはなー」

義手を見つめながら男が静かに笑みを浮かべるとー

そのまま”着ぐるみ”のような状態になった女子高生を掴みー


それを、まるで”服を着る”かのように

身に着けていくー。


しばらくすると、男の姿は消えてー

先ほど襲われたはずの少女が笑みを浮かべながら立ち上がるー。


少女は、手を握ったり、開いたりを何度か繰り返しー

頬のあたりを何度か引っ張ると、不気味な笑みを浮かべたー。


「ーーーお父さんーーー

 いいや、お義父さんー、とでも呼ぶべきかなー」


少女はペロリと唇を舐めると、


「発音は、どっちも変わんねぇかー」

と、笑みを浮かべてからー


「ーー俺はここにいるぜー見つけてみなー」と

静かに呟いたー


そしてー

何事もなかったかのように、少女は地面に落とした鞄と

スマホを拾うと、スマホの画面を見つめて

「ーーくだらないー…」と、少女が好きなアイドルの

写真がホーム画面になっているのを見て、

鼻でそれを笑ってから、ゆっくりと歩き出したー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


2か月前ー。


「ーーー五十嵐(いがらし)!」

男が叫ぶー


”五十嵐”と呼ばれた男が立ち止まって振り返るー


「ーお~!やるじゃんー」

その男、五十嵐 栄吾(いがらし えいご)は、

余裕の表情で両手を挙げたー


黒い手袋を両手にはめた長身の細身の男ー


”肉体派”ではないもののー

非常に計算高く、油断ならない狂気の殺人鬼ー。

被害者たちの身体には、それぞれナイフでつけられたと思われる

”数字”が刻まれており、一人目は”1”、2人目は”2”、

三人目は”3”と、ーーー

五十嵐はまるで”人の命を奪うことを楽しむかのように”

これまで4人の命を奪ったのだー。


「ーーこれ以上、逃げられると思うなー」


そんな凶悪犯・五十嵐を追い詰めていたのは、刑事ー。


崎村 謙介(さきむら けんすけ)は

五十嵐の方に銃を向けながら、”動くなよー”と、呟くー。


「ーーー動く!!!!!!!!!」

五十嵐が大声で叫ぶー


咄嗟に銃を握る手に力を込める謙介ー


だが、五十嵐は笑ったー。


「ーーーーと、思ったかー?

 動かないさー。動けばお前は容赦なく俺を撃つだろうからなー」

軽い口調で、人を馬鹿にしたような態度を取る五十嵐ー。


年齢は20代後半から30代前半ぐらいだろうかー。


「ーーーおめでとう 崎村刑事ー」


夜景輝く景色を背後にー、

謙介は銃を向けながら五十嵐に近付いていくー。


五十嵐は笑みを浮かべながら拍手を始めるー。


「ーーさぁ、俺の手に手錠をかけなよ」

五十嵐の言葉に、謙介は表情を歪めるー。


”ーー”

謙介は、それでも警戒しながら五十嵐の方に向かっていくー。


五十嵐は内心で笑みを浮かべたー。


”ーーーーーー”

チラッと腕時計を見つめる五十嵐ー。


”21:59:30ー”


五十嵐は知っているー

22:00に、隣のビルの照明が一斉に消えることをー。


オフィスか、何か分からないがー、

この建物の屋上からは、隣のビルの照明が一斉に消えるのがよく見えるー。


”崎村刑事ー

 俺はお前よりも早く、お前の喉元にナイフを突き刺すことが

 できるんだよーーー”


五十嵐はー、服の袖の下に”スローイングナイフ”を隠していたー。


投げることに適したナイフで、彼はそれを得意武器としているー。


今まで命を奪った4人もー

このスローイングナイフで仕留めたー。


まるで、”ゲーム”を楽しむかのようにー。


今の状態ではー

五十嵐がナイフを投げようとしても、

恐らくは崎村刑事の銃が先に火を噴きー、

五十嵐は、死ぬー。


良くて相打ちだー。


しかしー

隣のビルの照明が消えるー

その瞬間ー


”人間”は”視界に入っているものに大きな変化”が

起きれば、どんな人間でも、”コンマ数秒”の反応の遅れが出るー


”隣のビルの照明が一斉に消えることを知っている五十嵐”

”隣のビルの照明が一斉に消えることを知らない崎村刑事ー”


その、差がー


運命を分けるー。


五十嵐は、それを計算して、ここまで逃げてきたのだー。


屋上の端で、両手を挙げながら、

「ーーほら、俺を逮捕すればー

 ハッピーエンドー。

 めでたし、めでたしのエンディングだろ?」と、

笑みを浮かべる五十嵐ー。


崎村刑事は、1歩、1歩、警戒しながら五十嵐に近付いていくー。


彼はー

これまでにも数多くの犯罪者と対峙してきたー。


その経験から来る勘が言っているー。

”五十嵐 栄吾は、まだあきらめていないー”


こいつには、まだ奥の手があるー。

そんな、顔をしているー、

とー。


22:00ーーーー


隣のビルの照明が一斉に消えたー。

崎村刑事は、五十嵐の想定通り、隣のビルの灯りが一斉に消えたことで、

一瞬、ビルのほうを見たー。


それと同時にー

既に五十嵐は隠し持っていたスローイングナイフを投げていたー


This is the endぉぉぉぉぉぉぉぉ!

邪悪な笑みを浮かべる五十嵐ー


パァン!


ーーー!?


だがー

五十嵐の”計算外”の出来事が起きたー


「ーーーー…な」

五十嵐は、自分の腕から出血していることに気付き、

すぐに崎村刑事のほうを見つめたー。


崎村刑事に、ナイフは命中していなかったー。

それどころかー

崎村刑事は、たった今、2発目の銃弾を放っていたー。


それがー

肩を貫きー、

五十嵐は表情を歪めながら、

ビルの屋上から真っ逆さまに転落したー


「ーーはぁ…はぁ…はぁーーー」

崎村刑事は表情を歪めるー。


”こうするしか、なかったー”

できれば五十嵐を逮捕したかったー。


だがー

これが今の、崎村刑事にできる最良の選択だったー


ビルの屋上から、下を見つめるー。


五十嵐の姿は確認できないー。

ちょうど落下地点には木々が生い茂っており、

屋上から目視することはできなかったのだー


「ーー本部、五十嵐栄吾が屋上から落下ー、

 至急応援をー」

謙介は本部にそう伝えながら、

照明が消えた隣のビルを見つめたー。


謙介も”知って”いたのだー。

隣のビルの照明が消えるのが22:00であることをー。


このあたりは、謙介の”管轄外”の地域ではあるが、

謙介は、捜査範囲になる可能性のある地域の状況は

”熟知”しており、このオフィスビルが、警備員室などを除き、

一斉に消灯されることを知っていたー。


”あえて”

五十嵐の前で視線をビルの方にずらしー、

五十嵐を罠にはめたのだー。


必ず何か仕掛けてくるー

”修羅場を潜り抜けて来た男の勘”は、

当たったのだー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あれから2か月が経過したー。


結局、五十嵐 栄吾はあれ以降、姿を見せることはなく、

五十嵐の犯罪も、あれ以降、ぱったりと止まったー。


必死の捜索にも関わらずー、

死体を発見することはできなかったが、

あの高さから転落して、生きているはずがないー。


「ーーーーーー」

だが、そうは思いながらも謙介は、”不安”を感じていたー


あの高さからの落下で生きているはずがないー。

何度も何度も、そう自分に言い聞かせたー。


謙介と五十嵐が対峙したあのビルはー

20階建て以上の高層ビルだー。


そんな場所から転落して、もしも五十嵐が生きているなら

それこそ”化け物”だー

あり得ないー。


「ーーお父さん、大丈夫ー?」

険しい表情を浮かべている父・謙介に対して、

高校2年生の娘・菜々香(ななか)が、心配そうに

言葉を掛けるー。


「ーーん、あ、あぁ、大丈夫ー。」


ちょうど、テレビでは、

凶悪犯罪者・五十嵐のニュースが流れていたー。


既に2か月が経過した今、世間はほとんど五十嵐のことを

忘れていてー

ニュースでもほとんど話題にならなかったが、

今日はたまたま、被害者の遺族の一人が、

”五十嵐に狙われる前日の新証言”をしたため、

少しだけニュースになっていたのだー


妻の琴子(ことこ)も、心配そうに謙介のほうを見つめているー。


「ーも~お父さん、あんまり無理しちゃだめだからね~!

 わたし、お父さんのこと、心配してるんだから!」


菜々香が言うと、

謙介は「はは、すまんすまん」と笑うー。


謙介は妻とも娘とも非常に家族仲は良好でー、

思春期である娘の菜々香とも、うまくやっているー


菜々香の友達も、両親と仲良しな菜々香を”うらやましい”と

そんな風に言っているぐらいだったー。


「ーーーーごちそうさま~!」

晩御飯を食べ終えると、菜々香は自分の部屋の方に

戻っていくー。


「ーーーーーー」

部屋に戻った菜々香は笑うー。


「ーーわたし、お父さんのこと、心配してるんだからー」


そう呟くとー

菜々香は、菜々香とは思えない、狂気に満ちた笑みを浮かべたー


「ーーー自分のーーーーー」

菜々香の声が歪むー


菜々香の表情が歪むー


「ーー娘がーーー」


ピキッと菜々香の後頭部に亀裂が入りー

菜々香の身体が、まるで”着ぐるみ”のようになっていくー


「ーー俺にーーーーー」

菜々香が崩れ落ちて中から出てきたのはー

2か月ほど前に、謙介が追い詰めて、ビルから転落したー

犯罪者・五十嵐だったー。


「ーー支配されていると知った時ー」


五十嵐は笑みを浮かべるー


「ーー”お父さん”は耐えられるかどうかー

 ”心配”だよー

 ククククククー」


娘の菜々香はー

つい先日、下校中に五十嵐に襲撃されて

乗っ取られてしまっていたー。


父の謙介も、母の琴子もー

いや、乗っ取られた当事者と

乗っ取った当事者以外はー

まだ、この事実を誰一人知らないー。


そう、誰一人としてー。


「ーーー」

再び菜々香の皮を着た五十嵐は笑みを浮かべるー。


「さァーー始めようー

 ”お父さん”と”わたし”のゲームを、ねー」


クスクスと笑い始める菜々香ー


”自分の娘が支配されていると知ったらー?”

”自分の娘が”殺人”を犯していると知ったらー?”


部屋の扉を少しだけ開けて、反対側の廊下の

自分の部屋に戻っていく父・謙介を

睨むようにして見つめる菜々香ー


「ーーーー俺はここにいるぜー ”お義父さんー”」

挑発的にそう囁くと、菜々香は鋭い目つきのまま

不気味な笑みを浮かべたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「これはーーまさかー」


翌日ー


謙介は殺人事件が起きた現場へと駆け付けたー。


「ーーえぇ、そのまさかだと思いますー」

部下の刑事・川上(かわかみ)がそう呟くと、

謙介は、遺体を見つめるー。


遺体はー

男子高校生だったー。


その頬には”5”と刻まれているー


死んだはずの五十嵐 栄吾の手口だー。


「ーーいや…そんなはずはないー。

 五十嵐はー」


あのビルから五十嵐が転落した日を思い出すー。

生きているはずがないー


「模倣犯…でしょうかー」

部下の川上が言うー。


スローイングナイフが刺さっていて、

”5”と刻まれているー。


完全に五十嵐の手口だー


「いやー…分からないー

 それで、この子の身元は?」


川上から報告を受けると、

謙介は表情を歪めたー。


被害者の高校生はー

”娘の菜々香”と同じ学校の生徒だったのだー。


「ーーー」

表情を歪める謙介ー


この時はまだー

”娘にも危険が及ぶかもしれないー”

と、そんな不安を感じているだけだったー


娘の身に

”既に”もっと恐ろしいことが起きているなどとは、

夢にも思わずにー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


2月最初のお話は、自分が追い詰めた犯罪者に

娘が皮にされてしまうお話デス~!


まだ娘の異変に気付けていないお父さんー…

大変なことになりそうですネ~!


お読みくださりありがとうございました!

Files

Comments

No comments found for this post.