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7年前ー。

野島 俊男(のじま としお)は、

娘・優花(ゆうか)を失ったー。


突然のことだったー。

その日の朝まで、優花は元気だったー。


当時、2年生だった優花は、学校からの帰り道に、

信号を無視した暴走者に追突されー

そのまま、帰らぬ人になってしまったー。


無残な姿になった娘のことを、今でも忘れることは出来ないー。


そしてー

娘の命を奪った憎き相手は、驚いたことに

女子高生だったー。


7年前の当時、高校生だった湯澤 菜月美(ゆざわ なつみ)という女だー。


元々問題行為が多い子でー

素行の悪さを学校でも問題視されていた女子高生だー。


その彼女が当時、5歳年上だった彼氏の車を無免許で勝手に運転し、

その結果、暴走ー。

娘の優花は、理不尽に命を奪われたのだったー。


だがー

犯人の菜月美は全くと言っていいほど、反省していなかったー。


「-そんなに怒って、マジウケるんですけど~!」


初めて菜月美と対面した時、

彼女はそう言ったのだったー。


典型的なギャルのような容姿で、

全く反省の色が見えなかったー。

しかも、彼女はまだ未成年で、高校生であったことからー

俊男が望むような”重い罪”が課せられるようなことはなく、

”子供一人の命を奪っておいて、それか!?”と

俊男は、怒り狂うことしかできなかったー。


この世は、冷たいー

”法律”は時に、弱き者の味方でもあり、

弱き者の”敵”でもあるー

それを、俊男はイヤというほど味わったー。


しかもー

俊男の妻・楓(かえで)は、娘・優花を失ったあとに

自殺未遂を起こしてしまい、

現在は、寝たきり状態ー。

楓がいつか目を覚ますことを信じて、

楓のために、と、俊男はこれまで頑張って来たー。


娘・優花の死から、7年ー。

俊男は、会社で働き、帰宅しては家事をこなし、

寝たきりの妻の様子を毎日のように見に行くー。

そんな生活を続けていたー。


”妻のために”

今の俊男は、それだけが生きがいだったー。


いつか、目を覚ます日が来るー。

そう、信じてー。


”俺のせいで、ごめんな…”

俊男は、もう、何年も意識を取り戻さない状態が続いている妻・楓の

手を握りしめるー。


事件直後ー俊男は、”復讐”に囚われたー。

娘を身勝手な無免許運転で殺されたのだー

当然と言えば当然かもしれないー


無免許運転の女子高生・菜月美の

態度に怒り狂った俊男は、毎日毎日、

復讐のためだけに生きたー。


だがー

その結果ー

妻・楓の異変に気づけなかったー。

楓が自殺未遂に至るまで、楓のことを考えてあげる余裕すら

俊男は失ってしまっていたー。


病院で、横たわる妻の姿を見てー

俊男は、己を呪ったー


復讐だけに囚われてー

大事なモノを、また一つ、失ってしまったー


あの日以降ー

犯人である菜月美に対する復讐心は捨ててー

今日まで過ごしてきたのだったー。


心情としては”死刑”になってもらいたいー。

娘の命を奪ったのだから、

その償いは、”死”しかないー。


大事な人の命を奪われてみて、初めて

この気持ちは理解できるだろうー。


更生の機会というやつもいるー

俊男も、前はそう思っていたー

だが、大事な娘の命を奪われた本人は、そんなきれいごと、言ってられないー。


娘の死に対する償いは、死か、生き地獄しかないー。


しかしー

俊男は復讐心を必死に捨て去り、犯人の菜月美のことには

極力、関わらないようにしていたー。


彼女はあの後、法律に基づいて罪が言い渡されてー

それを償ったー、と聞かされているー。


「--ーーまた来るよ」

俊男は、寝たきりの妻・楓の頭を撫でると、寂しそうに帰宅したー。


帰宅すると、

死んだ娘・優花の仏壇の前に手を合わせる俊男ー。


コンビニで買ってきた弁当を口にしてー、

仕事の書類をまとめるー。


趣味は、なくなってしまったー。


娘の死から7年ー。

今でも家族3人で遊びに行く夢を見るー


今の俊男の趣味は”寝る”ことだー


夢の中では、

優花に会うことが出来るー


夢の中では、

笑っていたころの妻・楓に会うことが出来るー


夢の中ではーーー


俊男は、気づけば目から涙をこぼしていたー


”現実逃避”

そんなこと、分かっているー


でもー


俊男は、再び布団に潜るー


現実逃避だってー

会いたいんだー、と、思いながらー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


そんな生活を続けていたある日ー。


休日の今日は、スーパーにやってきて買い物をしていたー。

生活必需品の買い出しだー。


トイレットペーパーや

今夜の晩御飯などを選んでいく俊男ー。


「ーーー」

妻の楓が好きだったコロッケを見つめながら

懐かしそうに少しだけ微笑むと、

それを買い物かごに入れていくー


”このスーパーのコロッケ、よく買ってたもんな”


そんな風に思いながら、お店を歩いているとー

楽しそうに笑う家族連れが、ふと目に入ったー


優しそうな父親と、

穏やかそうな母親ー。

そして、まだ小さい息子ー。

最近、歩けるようになったぐらいのレベルに見えるー。


「----」

そんな日常的な風景を見つめながら、俊男は

特に何も考えず、スーパーのレジの方に向かおうとしたー。


しかしー


「--菜月美~!これどうする~!」

と、その父親らしき自分が言ったのだー


「--!?」

俊男は、その名前に反応して思わず振り返ったー


”菜月美”

忘れることの出来ない名前ー

娘の命を奪った、憎き、女子高生の名前ー。


優しそうな父親が「菜月美!」と呼んだ女の顔を

遠目から見るー


穏やかそうな笑みを浮かべる母親ー

その姿は、当時のギャルだったあの女とは

似ても似つかないがー

顔はー

忘れもしないー


あの女ー

湯澤 菜月美だったー。


「--ママ~!だっこ~!」

まだ小さな子供が、母親に対してそう叫ぶー


菜月美と呼ばれた母親が、ほほ笑みながら、

まだ小さい息子を抱っこするー。


「---」

俊男は、買い物かごを持つ手に、力を込めたー


ギリギリと歯軋りをしながら、その家族を見つめるー


かつて、無免許運転で、事故を起こし、娘の命を奪った時の

”女子高生”の面影はそこにはないー

当時は、いかにもギャルな風貌だったし、

反省の色も全く見えなかったー


今の彼女は、別人のように見えるー

恐らくは”更生”したのだろうー。


罪を償い、再出発したのだろうー。


だがー

俊男は歯軋りをしたー。


俺の大切なものを奪って、反省の色も示さずー、

その上、自分は更生して、たった数年で普通に社会復帰しー

結婚して、子供まで生んでー

幸せな家庭を築いているのかー?


俊男は、自分の身体の中に、激しい怒りがこみあげて来るのを感じたー。


”許せないー”

そう、思ったー。


ほぼ同じタイミングで、スーパーのレジにやって来るー。


隣のレジにいる菜月美ら家族を見つめるー

向こうは、まるでこちらに気づいていないー。


「-あ、じゃあ、俺と啓太(けいた)は先に車に行ってるよ」

夫らしき人物がそう言うと、「うん!」と菜月美は微笑みー、

夫と子供は、そのままスーパーから外に出て

駐車場の方に向かったー。


「----------」

俊男は、そんな光景を見つめると、

会計を済ませたあとに、買い物袋に商品を詰めている最中の

菜月美に近づいたー。


「---ーー」

近くで、商品の袋詰めをしながら、俊男は

菜月美の顔を横目で確認したー


ギャルじゃなくなってもー

7年が経過しても、

俊男には、その女が、あの時の女だと、よく分かったー。


「---湯澤さんー」

俊男は”もしも人違いだったら”を考えて、そう小声で呟いたー


隣にいた菜月美が反応するー

今は結婚して苗字が変わっているかもしれないがー、

本人なら、必ず反応すると思ったー


「え」

菜月美が不思議そうな表情をしたあとに、

みるみる青ざめていくのが分かったー。


「--幸せそうな、家庭ですね」

俊男が言うー。

穏やかな笑みー


しかし、目は笑っていないー。


「--あ、、、…あ…」

菜月美が身体を震わせるー。


その”怯える態度”が余計に俊男の心に

火をつけたー。


”テメェが加害者なのに、なんだその態度は”と、

怒鳴り声を上げたくなったー


「-妻が、無免許運転で、何の罪もない子供の命を奪った

 女だって、あのお父さんは知ってるんですかね」


俊男は淡々とそう呟いたー。


「--……ほ、、本当に、、ごめんなさい」

菜月美が涙目で頭を下げるー。


「---自分は更生して、幸せな家庭を築いて、

 めでたしめでたしってか?」

俊男は、敬語も忘れて、そう小声で呟いたー


菜月美は身体を震わせているー


「---ふざけるなよ!」

大声で怒鳴り声を上げて、袋詰めの台を叩く俊男ー。


「--…わ、、わたし……本当に…申し訳ないと…」

菜月美は激しく動揺しながら目から涙をこぼすー。


俊男はあのあと、引っ越しして、

菜月美側に連絡先や引っ越し先も一切伝えないようにしていたので、

これまで、菜月美に謝罪する機会は存在しなかったー。


もう”関わりたく”なかったから、俊男はそうしたー

だが、こうして、再会してしまったー


「--俺の妻、自殺未遂したよー。

 今もずっと寝たきりだ」

俊男が怒りを込めて言うー


菜月美は、驚いた様子で目から涙をこぼすー。


「--全部…全部お前のせいだ!」

大声で叫ぶ俊男ー


スーパーの店員が駆けつけて”お客様”と、

俊男をなだめるー。


係員にそのまま別室に連れていかれてしまった俊男ー。


俊男は事情を説明し、”スーパーに迷惑をかけた”ことを

謝罪すると、店長たちは、事情を理解してくれて、

そのまま解放してくれたー。


菜月美の姿は、もうないー。


怒り狂った俊男は、その日から再び復讐に憑りつかれたー。


ネットで連日のように”復讐”の手段を探し続ける俊男ー


そして、俊男はたどり着いたー

”憑依薬”

にー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


「---いってらっしゃい~」

菜月美が、夫の昭介(しょうすけ)に手を振るー。


昭介とは、菜月美が釈放されてから

バイト先で出会ったー。


そのため、昭介は菜月美の過去を今も、知らないー。


ごく普通の”優しい父親”だー。


「----」

菜月美は暗い表情を浮かべるー。


あれから7年ー

菜月美は更生したー。

今は心から反省しているし、

心をすっかり入れ替えてー

家族を大切にしているー


更生したのは、事実ー

今の彼女に”裏”はないし、”悪いこと”も何も考えていないー


ただ、”家族”との幸せな日々を、送っているー

それだけの女性になっていたー。


しかしー

俊男から見れば、それは”都合のいいこと”であり、

許せないことだったー


「--ーー啓太~!」

菜月美が、息子・啓太の方に向かおうとするー


その時だったー


「--うっ…!」

菜月美の身体が突然ビクンと震えるー。


それと同時に、菜月美の意識は飛んだー。


「----………」

菜月美が目を覚ますー。


「---…え?」

菜月美が周囲を見渡すとー

息子の啓太が、泣きじゃくっていたー


まだ、言葉も不十分な啓太ー

少し前に歩けるようになり、

少しだけ言葉も話せるようになったがー

まだ、簡単な言葉しか話せないー。


「---啓太…ごめん!わたーー」

”わたし寝てたみたい”と、言おうとした菜月美は、

表情を歪めたー。


鏡に映った自分の姿がーー

”7年前の自分”と同じようなー

ギャル風の姿になっていたのだー


「ひっ!?」

尻餅をついてしまう菜月美ー


しかも、当時の制服のようなものを、いつの間にか着ていたー


”殺人鬼の湯澤 菜月美さん”

頭の中から声が聞こえたー


「--え…、、だ、、誰!?」

菜月美が、振り返るー

だが、そこには誰もいないー。


”誰もいない”のは、当たり前だー。

菜月美に声を掛けた人間は、今、”菜月美の中”に

いるのだからー。


”思い出したか?

 俺の娘を奪った、”お前の本当の姿”を-!”

頭の中から俊男の声が響くー


憑依薬を手に入れた俊男は、

ギャルのメイクの勉強をしたー


そして、今日、菜月美に憑依し、

乗っ取った菜月美に”当時のようなメイク”をさせて、

菜月美の家にしまわれていた制服を取り出しー、


”当時のような菜月美”を作り出したのだー


復讐のためにー


「--…え…え…!?」

菜月美が目から涙をこぼすー


”憑依ー

 今、俺はお前の中にいるー

 また、いつでも俺はお前を乗っ取って

 好きなようにできるんだー。


 何をするのも

 何をしゃべるのも、俺の自由だー


 今から車に乗って、その可愛い息子を

 あの時みたいにひき殺すことだってできるー”


俊男の言葉に、

菜月美は「ゆ、、許して下さい!お願いします…許して!」と

泣き叫ぶー


”許す???”

俊男の怒りの声ー


「--わ、、わたしは…わたしはどうなっても…

 だから、、息子だけは…!」

泣きながら叫ぶ菜月美ー


息子の啓太もずっと泣いたままー


”母親が急におかしくなって、ギャルの格好をし始めたー”

何も分からない年齢の啓太からすれば、恐怖でしかないー


”ほら、お前は殺人鬼だ。思い出しただろ?

 自分の罪を忘れて幸せになんかなるなよ。

 な?”


俊男は怒り狂っていたー


震える菜月美ー


”次は、お前の夫に教えてあげないとな。

 わたしは、人殺しだって。”


「--やめて…お願い…!お願いします…やめて!」

菜月美がその場で土下座をするー


”じゃあーー娘を返せよ”

俊男が冷たい声で言うー


「--そ、、それは…」

泣きながら顔を上げる菜月美ー


”返せよ、娘をー。ほら、出せよー。

 おい、優花を返せよ。おい!”

俊男の言葉に、菜月美はその場で泣きじゃくるー


そしてーーー


「--ただいーーー」

夫の昭介が帰宅してしまったー


ギャル姿で、高校時代の制服を身に着けた菜月美と、

泣きじゃくる息子・啓太の姿を見て、

夫の昭介は、唖然とした様子で、「な、、菜月美…?」と呟いたー


目から涙を浮かべていた菜月美は

にっこりとほほ笑んだー


再び、俊男に乗っ取られたのだー


菜月美は笑いながら呟いたー。


「-ねぇ、知ってた?わたしぃ~実は、

 殺人鬼なの~!あはっ♡」


とー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今月最初のお話は、復讐系の憑依モノでした~!

ダークエンド一直線な雰囲気が漂っていますが、果たして…!?


続きはまた次回デス~!


今日もありがとうございました!!

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