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”辻斬り”と呼ばれる存在がー

夜の街で、通行人に刀を振るい、斬り捨てていたー。


ある者は、刀を試すためー

ある者は、金品を強奪するためー

ある者は、己の力量を試すためー

そして、ある者は、単なる憂さ晴らしー。


斬られた側は、理不尽にその命を奪われ死んでいきー

斬る側は、己の欲求を満たすために、人を斬るー。


それが、”辻斬り”だー。


今日も、また一人ー。

その”辻斬り”の被害に遭おうとしていたー。


「へへへへへへへ…」

辻斬り・角兵衛(かくべえ)は、笑みを浮かべながら、

町娘を追い詰めるー。


父親からの使いで、隣町にいる知り合いに物を届けた帰りに

辻斬り・角兵衛と遭遇してしまった

哀れな町娘・小夜(さよ)は、悲鳴を上げながら後ずさるー。

隣町の知り合いから受け取った小包を大事そうに握りしめながら、

涙目で角兵衛を見つめるー。


「--へへへへ…いい声出すじゃねぇか」

刀を握りしめて、咲に迫る角兵衛ー。


小夜は泣きながら”助けてください”と、

嘆願するー。


小夜も、目の前にいる男ー

角兵衛が自分を斬ろうとしていることを、

よく理解しているからだー。


角兵衛は、

剣術の頂点を目指していたー。

だが、”折れた”


自分には無理だー。

そう思ったのだー

どんなに修行をしても、

剣の才能を持つ奴らには、叶わないー。


それを悟ってしまったー。


武家に生まれた角兵衛は、己の限界を感じー

いつしか弱いモノを斬り捨てることで、

自分が”強い”という錯覚を覚え、

快感に酔いしれるようになったー。


剣術の高みを目指し、己の限界に行き詰った腹いせに、

弱者を斬り捨てて回るー

それが、辻斬り・角兵衛だったー。


「ーー痛みは一瞬だ。一瞬で楽にしてやるから、

 安心しな」

角兵衛は笑みを浮かべて、刀を振り上げたー。


弱者を斬り捨てる瞬間は、とても興奮するー

まるで、自分が神になったような、

そんな感覚を覚えることができるー。


今、目の前にいる人間のー

明日ー。

いや、明後日ー

その先も全て、一瞬にして、消えるー。


その事実に、激しく興奮するー。


「--やめて、、やめて、、やめて、、やめて、、やめて…」

小夜が泣きながら頭を抱えているー。


角兵衛は笑みを浮かべたー。


「--恨むなら、己の不運を恨みな!せいやぁぁああ!」

大声を上げてーーー

角兵衛が剣を振り上げてーー

小夜が抱えていた小包ごと、小夜を叩き斬ったーー


ーーはずだったーーー


「---?」

角兵衛は、強い違和感を感じたー


(なんだー?)

何やら、様子が変だー

状況が飲み込めないー

小夜を斬り捨てたはずの自分が、

尻餅をついて、道端に座り込んでいるー。


そして、その違和感はーー

小夜にとっても同じことだったー


”斬られる”

そう思って目を閉じたまま、悲鳴を上げた小夜ー。


だが、いつまで経っても”自分の身体を襲うはずの痛み”が

自分に伝わってこないのだー。


(え……)


”わたし、助かったの…?”

”痛みを感じる前に、死んじゃったってこと…?”


そんな風に思いながら、小夜はさらに違和感を覚えたー。

自分が、何かを握りしめている気がするー。

いやー

尻餅をつくような状態だったはずの自分が

いつの間にか立ち上がっているような気もするー


これはいったいー、

どういうことなのかー。


小夜はそんな風に思いながら、恐る恐る目を開けるとー


「----え」


「---な、、な、なんだこれは…」


2人は同時に呟いたー


小夜は驚くー


”目の前に、座り込んだわたしが…?”


同時に、角兵衛も驚いたー


”な、なんで刀を持った俺が目の前にー?”


とー。


人の気配のない夜の道ー。

2人は、激しく混乱していたー


「-わ、わたしが、刀を……?」

小夜は、自分がいつの間にか刀を握っていることに

戸惑いの表情を浮かべるー。


いやー

それだけではない。

自分の口から出る声は、

小夜のものではなく、男の声になっていたー


「え…??え…?」

小夜は、辻斬り・角兵衛の身体になっていたのだー。


さらにー

「--…ど、、ど、、うへ…?」

戸惑いながら、小夜になった角兵衛は自分の胸を触るー


「へへ、、す、、すげっ…」

小夜(角兵衛)がイヤらしい笑みを浮かべると、

すぐに我に返って、

角兵衛(小夜)の方を見て、驚きの声を上げたー。


「ま、、ま、、まさか、俺とお前が、入れ替わったっていうのか?」

小夜(角兵衛)は、さっきまで悲鳴を上げていた町娘とは

思えないような態度で、そう叫んだー。


「--ひっ、、わ、、わ、、わたしは、、何も、、

 何もしていません、、お、、御助けを…!」

角兵衛(小夜)は、目から涙をこぼしながら必死に、そう呟くー


小夜にとっては

”角兵衛と入れ替わってしまった”ということよりも

”とにかく助かりたい”一心だったー。


「---ーーき、、貴様、、図ったな!?

 俺に何をしたー!?」


小夜になった角兵衛は、

さっきまで泣いていた小夜の顔を鬼のように歪めながら

角兵衛になった小夜に襲い掛かるー


「やめて!やめて!!たすけて!」

角兵衛(小夜)が必死にもがくー。


「--!?」


ドサッ、と音がしたー。


「---え」

もがいていた角兵衛(小夜)も唖然とした表情ー。


襲い掛かった小夜(角兵衛)が

いとも簡単に角兵衛(小夜)に突き飛ばされて

雑草の上に尻餅をついているー。


「--…!」

小夜になった角兵衛は、自分の手を見つめるー

小夜の、華奢で綺麗な手ー


「----くそっ!貴様!俺に何をした!」

小夜(角兵衛)は再び怒りの形相で、

角兵衛(小夜)に襲い掛かり、つかみ合いになるー


しかしー

再び小夜(角兵衛)の身体が簡単に突き飛ばされたー


先程まで悲鳴をあげていた角兵衛(小夜)は

きょとんとした表情で、元自分の身体…、小夜になった角兵衛の方を

見つめたー。


地面に付着した白い粉を手に付着させながら

小夜(角兵衛)は歯ぎしりをするー。


江戸時代の夜道ー

街から離れたこの道には、他の人間が通ることは、まずないー


この、異常事態に直面しているのは、

小夜と角兵衛の二人だけー。


だからこそ、時々人が通るこの場所で、

角兵衛は待ち伏せをし、やってきた人間を

斬り捨てていたのだー


”くそっ…この娘…どこまで貧弱なんだー”

小夜になった角兵衛は、地面に手をついたまま歯ぎしりをするー。


小夜の身体は、角兵衛からしてみれば、貧弱だったー

そのため、角兵衛になった小夜に乱暴しようとしても、

すぐに振り払われてしまうー


角兵衛と小夜の身体では決定的に、

力の差があったのだー


「---!」

小夜(角兵衛)がどうしようかと考えているとー

満月の月に背を向けた角兵衛(小夜)が、

じっと、小夜になった角兵衛の方を見つめていたー。


そして、角兵衛(小夜)は、角兵衛が握りしめていた刀と

小夜になった角兵衛の方を交互に見つめるとー

目に涙を浮かべながら、刀を握りしめるー。


「---!!!!!!!!」

小夜(角兵衛)は、表情を歪めたー


「----」

涙目のまま、無言で近づいてくる角兵衛(小夜)ー


「--ちょ、、ま、、ま、、待て!待つんだ!」

小夜(角兵衛)が叫ぶー


「ーわ、わ、、わ、わたし、、まだ、、死にたくないんです!

 わたし、、わたし…まだ!」

角兵衛(小夜)は、自分が助かるために、刀を必死に握りしめているー。


「--わ、、わ、わ、わ、わ、わかった!わかったよ!」

小夜(角兵衛)は必死に叫ぶー。

このままだと、自分が小夜の身体のまま斬られてしまうー


「--まずは、落ち着いて!」

小夜(角兵衛)は尻餅をついた状態のまま、

角兵衛(小夜)を見つめたー


「ーーーーはぁ、、はぁ、、はぁ、、はぁ」

角兵衛(小夜)は半分パニックになったまま、刀を

小夜(角兵衛)に向けているー。


角兵衛になった小夜は、さっきまで

自分が斬られる側だったことで、パニック状態だー

入れ替わったこの状況も、あまり理解できていない様子に見えるー


そう思った小夜(角兵衛)は

「-落ち着け、テメェが斬られることはもうねぇ」

と、叫んだー。


「---…はぁ、、、はぁ、、、はぁ」

角兵衛(小夜)は、怯えた表情のまま小夜(角兵衛)を見つめるー


「--見てみろ。自分の身体をー

 どうやら、俺たちは入れ替わっちまったみたいだぜ」

小夜(角兵衛)は立ち上がりながら、小夜の胸を触るー


「--はぁ…はぁ…なんで…」

角兵衛(小夜)は、刀を握りしめたまま、

”目の前にいる自分”を見つめるー


「-それは俺にも分からねぇ。

 だが、とにかくー

 お前はもう斬られることはねぇ。


 見てみな。

 今、刀を握りしめているのは、俺の身体になった

 お前のほうだー。


 お前の身体になった俺は、刀を持ってねぇ」


角兵衛になった小夜は刀を持っているー

パニックになったままでいられると、

斬られてしまう可能性もあるー。


そう思って焦っている小夜(角兵衛)は、

その焦りを悟られないように、冷静に振舞いながら

状況を説明していくー。


「--(へへへへ…最初は焦ったがこれはラッキーかもしれねぇな)」

小夜になった角兵衛は、小夜の身体を見つめるー。


女の身体にー

最強の刀ー


”身体は貧弱でもー

 2つを使えば今まで以上に楽しめそうだぜ”


”女辻斬りってのも、悪くねぇ”


小夜(角兵衛)は、そんな、下心丸出しの考えを浮かべながらー

角兵衛(小夜)を今一度見つめたー


「ま、身体が入れ替わっちまったものは仕方ねぇ。

 けど、もうお前は俺に斬られる心配をしなくていいんだー。

 俺の身体になったお前のほうが、力も強いし

 俺の身体になったお前のほうが、逃げ足も速いだろうよ。


 だからホラ、その刀を置いて、とっとと帰りなー」


小夜(角兵衛)の言葉にー

角兵衛になった小夜は、パニックを起こしかけていた心を

落ち着かせた様子だったー。


だが、じっと小夜(角兵衛)の方を見つめたまま、

刀を離そうとしないー。


「--へへへ 安心しろって、

 言っただろ?

 この身体じゃ俺の身体で全力疾走されたら

 追いつけやしねぇよ。


 それに、俺も”元・自分の身体”を斬るほど悪趣味じゃねぇ。

 

 刀を置いて、そのままさっさと帰りな。」


小夜(角兵衛)は

”角兵衛(小夜)が、刀を置いた瞬間に斬られることを

 警戒している”と、考えて、安心させるために

そう言葉を口にしたー


「--ーーー…… ---」

角兵衛(小夜)は、何度も、自分の身体と、

角兵衛の身体を見つめているー


「わたしたち、本当に…」

角兵衛(小夜)の言葉に、

小夜(角兵衛)は、「あぁ、本当に入れ替わっちまったみたいだな」と、

小夜の身体で笑みを浮かべたー。


「--そう、、ですか」

角兵衛(小夜)はそれだけ言うとー

ため息のようなものをついて、安堵の表情を浮かべるー。


”斬られる直前だった自分”が、

入れ替わりが起きたことにより、命拾いした安堵のため息ー


そしてーー


「---え」

小夜(角兵衛)が表情を歪めたー


「--じゃあーーー」

握りしめていた刀を見つめると、

角兵衛になった小夜は、笑みを浮かべながら

小夜(角兵衛)の方に向かってきたー


「-----え???」

小夜(角兵衛)が今一度間抜けな声を出すー。


「--じゃあ、わたしが”辻斬り”で、

 あなたが”斬られる娘”ってことでございますねー」


にっこりと笑う角兵衛(小夜)-


小夜(角兵衛)は

「--え、おい、ちょっ!?!?」

と、悲鳴に似た声を上げるー


角兵衛(小夜)は、その言葉に止まる様子もなく、

小夜(角兵衛)に襲い掛かって来たー


「--ちょ!待て!えっ!?じ、自分の身体を斬るのか!?

 おいっ!待て!」

小夜(角兵衛)は、悲鳴に似た声を上げながらー

角兵衛(小夜)の方を見つめたー


がー

角兵衛(小夜)は止まることなく

”元・自分の身体”に向かって刀を振るったー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


江戸時代が舞台の入れ替わりデス~!


斬られる側と斬る側が逆転してしまった

ふたりの運命は…!?


ぜひ次回もお楽しみくださいネ~!


今日もありがとうございました~!

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Comments

飛龍

自分の体を斬ろうとするとは何を考えているのか…!? 次回が楽しみです~

無名

コメントありがとうございます~!☆ きっと、何かがありますネ☆!