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治夫が、柄の悪い不良に絡まれていた女子高生に手を差し伸べるー。


パトロールの最中に、偶然、地元の不良に

部活帰りの女子高生が絡まれている場面に遭遇した治夫は、

その不良たちを撃退しー、

絡まれていた女子高生に手を差し伸べた。


「--あ、ありがとうございます」

目に涙を浮かべながら、女子高生が、お礼の言葉を口にする。


”怖かっただろうに、強い子だな”

治夫はそんな風に思いながら、不良に絡まれた際に

その女子高生が落とした鞄や荷物を拾うのを手伝うー。


高校の生徒手帳を拾い、それをその子に手渡すー


生徒手帳に刻まれた名前は、

”片桐 由愛”

近くの高校に通う女子高生だったー。


「--由愛ちゃんか。気を付けて帰るんだぞ」

治夫が微笑みながらそう言い、荷物を全て手渡すと、

そのまま立ち去ろうとしたー。


「あ、、、あの…!」

由愛が立ち去ろうとする治夫を呼び止めるー


「--ん?」

治夫が振り返ると、由愛は”自分を助けてくれたお回りさん”である

治夫の名前を尋ねたー。


「-ーー長瀬 治夫ー

 その先の交番にいつもいるから、

 またあいつらに絡まれるようなことがあったら、

 いつでも相談に乗るよ」


治夫はそれだけ言うと、その場から立ち去って行ったー


それが、交番勤務の警察官・長瀬治夫と、

女子高生・片桐由愛が知り合ったきっかけだったー。


・・・・・・・・・・・・・・


登場人物


長瀬 治夫(ながせ はるお)

若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく


松永 亜香里(まつなが あかり)

治夫の彼女。現在同居中。


長瀬 聡美(ながせ さとみ)

治夫の妹。亜香里に激しいライバル心を燃やしている。


片桐 由愛(かたぎり ゆめ)

かつて治夫に助けられた女子高生。


目黒 圭吾(めぐろ けいご)

警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。


矢神 明信 / 堂林 幸成 / 三枝 真綾 / 剛

目黒警視正率いる「モルティング対策班」のメンバー。


黒崎 陣矢(くろさき じんや)

指名手配中の凶悪犯罪者


・・・・・・・・・・・・・・


19:00-

西地区の第7倉庫ー


その場所で、

治夫は、

目黒警視正らが”モルティング”と呼ぶ

”人を皮にする凶悪犯”黒崎陣矢と対峙していたー。


陣矢の横には、イスに縛られた由愛の姿ー。


治夫が入って来た入口に向かって、陣矢の立つ背後の出口から

強い風が倉庫内に吹き抜けるー。


治夫は、すぐに陣矢以外に誰かいないか

周囲を確認したが、

人の気配はなかったー。


相手は、黒崎陣矢ひとりだけだー。


「--な、、長瀬さん!た、、助けて…!」

縛られた由愛が泣きながら叫ぶー。


「-由愛ちゃん…大丈夫。必ず助けるから」

治夫は力強くそう言うと、陣矢の方を睨んだー


由愛は、陣矢に皮にされて

”悪事”を働かされていたー。

皮にされた人間は、洋服のように”着られて”

完全に意識も身体も乗っ取られてしまうー。


だがー

今、黒崎陣矢が由愛の隣にいるということは、

由愛が正気であることを意味するー。


そして、今が、由愛を助け出す最大のチャンスでもあったー。


「---へへへ…威勢がいいじゃねぇか」

黒崎陣矢が笑うー。


「--黒崎陣矢…!逃げられると思うな!」

治夫が叫ぶー。


「--塚田さんや、宮辺さんの仇も、ここで取ってやる!」

銃を構える治夫ー。


交番の先輩たちー

死んだ、塚田総司や、宮辺奈々子のことを思い出しながらー

治夫は怒りの形相で叫ぶー


「-ーーははははは!

 若さと正義感に突き動かされる警察官!

 しびれるねぇ!」


陣矢はそれだけ言うと、由愛の方に銃を向けたー。


「--ひっ…」

由愛が涙を流しながら身体を震わせるー


「おい!やめろっ!おい!」

治夫が必死に叫ぶー。


「--人を皮にする力を手に入れた俺は

 今やー”神”だー。


 他人を皮にして”洋服”のように着るのもー

 乗っ取った身体で悪事を働くのもー

 飽きた”皮”を処分するのもー

 皮にした人間を元の姿に戻すのもー


 全て、俺の自由だ!」


陣矢の狂気的な笑みー


改めて、治夫は陣矢が”正常な倫理観の持ち主”では

ないことを実感するー。


黒崎陣矢はー

筋金入りのサイコパスである、とー。


「--そしてーー」

陣矢が続けたー


「-元に戻したやつをぶっ殺すのも、俺の自由だァ!」

陣矢が由愛に銃を向けたまま、そう叫んだー。


「--うあああああああああああっ!!!!!!」

治夫は、怒り狂った形相で、走ったー。


何か秘策があったわけではないー

”由愛ちゃんを助けたい”


その一心でーー

治夫は、気づいたときには、走り出していたー


「--!」

陣矢は、治夫の行動が少し予想外だったのか、

治夫の方を見て、少し驚いた様子を浮かべたー


「--これ以上、お前の好きにさせてたまるかぁぁぁ!」

”鬼”

そう表現するにふさわしい形相で、治夫が突進してくるー。


陣矢は、由愛に向けていた銃を治夫に向けるー。


がー

銃声が響き渡ると同時に、治夫が陣矢の顔面を殴り飛ばしたー。


吹き飛ぶ陣矢ー。


だが、すぐに陣矢も起き上がり、治夫に応戦するー。

治夫と陣矢の殴り合いが繰り広げられる中、

由愛は、不安そうな表情を浮かべるー。


「--お前のせいで!!多くの人が、犠牲になったんだ!

 お前のせいで!」

治夫が、陣矢の頬を殴りつけながら叫ぶー。


「-ーお前は桜が散るのを見て、高揚感を感じたりしないか?」

陣矢が、治夫を殴りながら笑うー。


「--桜!?何を言ってるんだ!」

治夫が、すぐに陣矢に向けて拳を振るうー。


「--俺は、するー。

 桜が散る瞬間ー

 いいや、花が散る瞬間は美しい!」

陣矢が、治夫に殴られながらも叫ぶー。


「---”人間”も同じだー

 

 ”命”が消える瞬間ー

 俺にとってはそれこそが、

 何よりも美しい”総合芸術”なんだよ!


 人が死ぬ瞬間、何を考えるのか、

 どんな表情を浮かべるのかー


 そいつの人生を、この手でー

 そいつが何十年も積み重ねた人生を


 俺の、この手でー」


陣矢が拳を作りながら叫ぶー。


「--俺のこの手でー”散らすー”

 その瞬間がーーー


 たまらねぇんだよ!」


陣矢の拳が、治夫の顔面に叩きつけられるー


「--俺は人殺しじゃないー

 命が散る瞬間を作り出すー

 ”芸術家”だ!」


しかしー

治夫は怯まなかったーー


「--ふざけるな!!

 何が芸術家だ…!


 お前はーーー」


治夫が拳を今まで以上に強く握りしめーー


それをーー


「---お前はただの人殺しのクソ野郎だ!」


陣矢の顔面に強く叩きつけたー。


陣矢の身体が吹き飛ばされて、倉庫内の壁に叩きつけられるー。


「---由愛ちゃん!今、助けるからな!」

治夫が、陣矢の方に銃を向けながら、由愛に向かって叫ぶー。


「---はい…」

由愛が泣きながらも、嬉しそうに頷くー。


「-もう少し、待っててくれ」

治夫は由愛にそう言うと、座り込んだ陣矢の方に向かって

歩き出すー。


手錠を手にする治夫ー。


「--黒崎陣矢ー」


黒崎陣矢の背後には”黒幕”がいると目黒警視正は言っていたー。

黒崎陣矢のことは、八つ裂きにしてやりたいぐらい憎かったが、

色々聞かなくてはならないことがあるー。

だから、殺すわけにはいかないー。


目黒警視正は、”黒幕”を見つけ出すため、

黒崎陣矢をあえて捕まえずに泳がせていたー

確かに、黒崎陣矢を捕まえても、この性格だと、

口を割るとは思えないー。


だが、それでもー

治夫は、これ以上、黒崎陣矢による被害者を出したくなかったー。


目黒警視正のように”多少の犠牲は仕方ない”というような

振る舞いは、治夫にはできなかったー。


「----」

黒崎陣矢を追い詰めている治夫の背後ではーーー

縛られていたはずの由愛がー

いつもの間にか拘束を解いていたー


「--ククククク」

由愛が不気味な笑みを浮かべながら、太ももに

巻きつけて、スカートの中に隠していたナイフを

手にするー。


「----」

ピキッーー


由愛の後頭部に少しだけ亀裂が入るー。


”黒幕”が提案した、”治夫を確実に始末する方法”


由愛が、治夫の背後から、ナイフを手に、静かに忍び寄るー。


それに気づかず、陣矢を追い詰めている治夫は、

手錠を手に、陣矢に言い放ったー。


「--黒崎陣矢ー。

 もう逃げ場はないー観念しろ」

治夫がそう言い放つとー

治夫の背後から、ナイフを手に迫っている由愛の姿を見て、

陣矢は笑みを浮かべたー


「-ー残念だったなー

 逃げ場がないのは、お前だ」


「-!?」

治夫が表情を歪めるー


「-死ねぇっ!」

背後から、由愛の声が響き渡ったー。


治夫が驚いて振り返ろうとするー

首筋に迫るナイフー


襲い掛かる由愛を見て、”もう間に合わない”と

治夫が思ったその時だったー


パァン!


銃声が響き渡ったー


黒崎陣矢もー

治夫も、驚いた表情を浮かべるー


「---あ…」

由愛の腹部に穴が空き、血が流れているー


「--ゆ、、、由愛ちゃん!」

治夫が悲鳴に似た叫び声をあげるー


「ーーー!」

銃を撃ったのはー

治夫の居場所が分かるように、発信機を取り付けていた

目黒警視正から指示を受けて駆け付けた、

対策班のひとり、アウトロー風な刑事の矢神明信だったー。


「---うっ…くそがああああああああああ!」

由愛が狂ったような声を出して、明信の方に向かうー


明信は「--悪く思うんじゃねぇぞ」と、だけ呟いてーー

由愛に容赦なく銃弾を放ったー


「---あ…」

その場に倒れ込む由愛ー


「--な、、何をするんだ!」

治夫が怒りの形相で、明信に向かって叫ぶと、

明信はガムを噛みながら、倒れた由愛に銃を構えながら近づいていくー。

「---!」

治夫が驚くと同時に、背後で車のエンジン音がするー。


「---命拾いしたな!!」

黒崎陣矢がそう叫びながら、車で走り去っていくー。


「--くそっ!待て!」

治夫が陣矢を追おうとするが、すぐに追いつかないことを悟り、

明信の方を見つめるー


”由愛”の中から”男”を引きずり出した明信ー。

由愛の中にいた男は、由愛ごと貫かれて、既に死亡していたー。


「--どうして!!!何で!?!?!?」

治夫が怒りの形相で、由愛を撃った明信を見つめると、

明信はボサボサの頭を掻きながら、治夫を見つめたー


「--俺が来なきゃ、お前はこの由愛ちゃんに刺されて

 死んでた」


そう言い放つ明信ー

混乱する治夫に、明信は、ため息をつきながら、ガムを噛むー


そして、続けたー


「--この子は、”乗っ取られてた”-

 ”人を皮にする犯罪者”は、黒崎陣矢だけじゃねぇ。

 

 片桐由愛の中には、”別のやつ”が、潜んでいたんだよ」


明信が、倒れたままの由愛を指さしながら言ったー。


治夫を始末するための罠ー

黒崎陣矢が、着ていた由愛の皮を脱ぎ、”仲間の男”が由愛の皮を着て、

由愛を乗っ取った状態で”人質”になっているフリをしてー

治夫が油断したところで、由愛の身体で治夫を殺すー


”人を着る凶悪犯”が一人だと思い込んでいた治夫は、

黒崎陣矢が、由愛の外に出ていることで、

由愛は正気だと思い込んでしまっていたー。


明信が駆けつけなければ、治夫は今頃、

”乗っ取られた由愛”に殺されていただろうー。


「--でも…殺す必要はなかっただろ!

 由愛ちゃんは…由愛ちゃんは…!」


治夫が泣きながら、倒れたままの由愛に駆け寄るー。


「----由愛ちゃん…」

治夫が泣きながら、由愛に呼びかけるー。


「------」

由愛が目を開いたーー


治夫が、由愛の方を見つめるー。


中身の男が死亡したことで、

着られたままでも、由愛は、正気を取り戻していたのか、

治夫の顔を見ると、安心した様子で微笑んだー。


「---お巡りさんを…殺さずに済んで…よかったです…」

弱弱しくそう呟く由愛ー。


「---…い、、今、、助けを呼ぶから!」

治夫がそう叫ぶと、由愛は悲しそうに微笑んでー

今にも消えそうな小さい声で呟いたー


「--ーーたすけてくれて…ありがとう…」

とー。


由愛は、そのまま目を閉じたー。


「--うああああああああああ!!!」

治夫が怒り狂った形相で叫ぶー。


「--どけ!」

明信が治夫を突き飛ばすと、由愛の後頭部を掴みー

引き裂くようにしてーーー


”中身”の男を引きずり出したー。


そしてー

”黒崎陣矢”ではない、別の男の亡骸を地面に突き飛ばしたー。


「---お前…!よくも、、よくも由愛ちゃんを!!!」

治夫が泣きながら、明信の胸倉を掴むー


「--いつまでも綺麗ごと言ってんじゃねぇぞ 餓鬼が」

胸倉を掴まれた明信が、ガムを噛みながら治夫を睨み返すー。


「--何がきれいごとだ!

 お前は由愛ちゃんを殺したんだ!人殺し!」

治夫が食い下がらずに叫ぶー。


「---ーー」

明信が鋭い目つきで治夫を睨むー。


「由愛ちゃんを助け出す方法はきっとあったはずなんだ!!

 それなのに、それなのにー!」


治夫が泣きながら明信に向かって叫ぶと、

明信は呟いたー


「--お前は、家族を目の前で殺されたことはあるか?」


とー。


とても悲しそうな目でー。


「---え」

治夫が、明信の胸倉から、手を離すー。


明信はガムを噛みながら

由愛と、由愛の中に潜んでいた男の遺体を確認すると、

明信は目黒警視正に連絡を入れたー。


「------」

治夫は、動かなくなった由愛を前に、茫然としたまま、

しばらく動くことが出来なかったー。


・・・・・・・・・・・・・・・


”モルティング”対策本部に戻った治夫はー

暗いままだったー。


好青年風の堂林 幸成と、ギャル風の三枝 真綾が

治夫を慰めているも、治夫は、ふさぎ込んだままー。

明信はガムを噛みながら舌打ちしているー。


そんな中、目黒警視正が口を開いたー。


「ーあなたにはまだお伝えしていませんでしたが、

 ”人を皮にする力”を黒幕から授かった犯罪者ー

 通称”モルティング”は、現在4名、確認されていますー」


スクリーンに4人の顔写真が映し出されるー


黒崎 陣矢ー

臼井 隼人ー

班目 順太郎ー

中曽根 佳純ー


「--黒崎以外にも……人を皮にする犯罪者が…」

治夫が言うと、

目黒警視正は「ええ」と淡々と答えたー。


およそ1年ほど前から、

目黒警視正は”人を皮にする犯罪者=モルティング”を

秘密裏に追ってきたー


最初に確認された”モルティング”は、

裏社会で暗躍する詐欺師・臼井 隼人(うすい はやと)ー。


それ以降、既に”何人か”の殺害に成功してはいるもののー

その都度”新しいモルティング”が増え、事態は収束せずにいたー。


そのため、目黒警視正は、黒崎や、臼井ら、”人を皮にする凶悪犯”ではなく

その裏に潜む”人を皮にする力を犯罪者に与えている”=黒幕を

突き止めることに集中していたのだー。


「--先ほど、矢神くんが射殺した、片桐由愛の中に潜んでいたのは、

 この”班目 順太郎”という男ですー。」

目黒警視正が、4枚の顔写真のうちの一人を指さすー


確かに、由愛の中に潜んでいた男の顔だー。


「これで、残り3名ー、と言いたいところですが、

 班目が死んだことにより、また一人、新しく増えるでしょう-。


 ですから、どんな手を使ってでも”黒幕”を突き止め、

 黒幕を始末する必要があるのです」


目黒警視正は、そう説明したー。


「ーーあなたが憎む”黒崎 陣矢”も所詮は”駒”のひとつにすぎない。

 黒崎陣矢を仮に殺しても、

 第2、第3の黒崎陣矢が出現するだけです」


目黒警視正の冷徹な言葉に、治夫は悲しそうな表情を浮かべたー


「これでお判りでしょう?治夫くんー。

 相手は、あなたが考えているほど、甘くはないー。

 青臭い正義感だけでは、奴らを追い詰めることはできませんー」


 ”モルティングは、いくらでも補充されるー”」



目黒警視正は、そう言い放ったー。


帰宅した治夫の頭から、その言葉が離れなかったー。


由愛の死ー

複数存在する”人を皮にする凶悪犯”-


その、冷たい現実に、治夫は、眠れない夜を過ごすのだったー。



⑨へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今月最初の「モルティング」でした~!

今日もお読み下さり、ありがとうございました~!


次回は、少し前から

名前が出ている、主人公の妹さんが到着します~☆!

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