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「♪~~~~」

派手な衣装を身にまとったアイドルが、ステージの上で

綺麗な歌声を響かせるー。


ファンたちが、目を輝かせて、リズムに合わせて手を叩き、

嬉しそうにしているー。


自分が大好きなアイドルのライブを見に来ているのだからーー

それは”普通”の光景なのかもしれないー


しかしーー

観客たちの様子はどこかぎこちなくー

”虚ろな目”にも見えるー


「--みんな~~!今日もありがと~~!」

”真面目そうな美少女”そんな感じの外見とは裏腹にー

まるで、ビジュアル系バンドのような、派手な服装とパフォーマンスで

ファンを魅了する人気アイドル”J”-。


”J”の由来は不明ー

彼女の本名も、不明ー


ある日突然表舞台に姿を現して、

一躍、人気者になった

”謎のカリスマアイドル”だー


・・・・・・・・・・・・・・


とある高校ー


「ーーーーなぁなぁ、”J”って知ってるか?」

親友の矢崎 健司(やざき けんじ)が、昼休みに声を掛けて来たー


「--え?J?あぁ、最近話題のやつ?」

親友からの言葉に、福森 直之(ふくもり なおゆき)が

返事をすると、健司が「そうそう!」と笑みを浮かべたー。


スマホを手にする健司ー。


「---最近すっげぇ人気だよな~

 C組の俺の友人もドはまりしちゃってさ~」

苦笑いしながら健司が、スマホに表示させた”J”の写真を見せて来るー。


「---イマイチ俺、この子の良さが分かんないんだけど、

 お前はどう思う?」

健司の言葉に、直之が健司のスマホに表示された”J”の

写真を見つめるー


可愛らしい少女だがー

鎖やら何やら、アクセサリーをじゃらじゃらさせている感じの

スタイルが、正直、直之の好みではなかったー


「なんか派手すぎるよな…俺にはちょっと」

直之がそう言うと、

健司も「だろ~?俺もそう思うんだよ」と言いながら、

”J”の顔のあたりを指さすー


「せっかく、可愛い顔してるのにさ~

 なんか、無駄にチャラそうな感じになっちゃっててさ~」


「わかるわかる」


”J”の話で盛り上がるふたりー。


今や”カリスマアイドル”とまで呼ばれている”J”は、

数カ月前に、突如として表舞台に姿を現したー。


それからは、あっという間にその人気を拡大させ、

今では、動画の配信チャンネルは圧倒的な

登録者数を誇るー。


ライブ配信をするだけで、相当な金額が

彼女の懐に入る、とまで言われており、

実際に物凄い金額を、投げ入れる熱狂的なファンも多いのだとかー。


最近では、テレビにまで登場しており、

そのブームっぷりは、目を見張るものがあるー。


「---俺さ、イマイチ、Jがここまでブーム起こしてるのか

 わかんないんだよなぁ~


 歌も平均的な気がするし~」


健司の言葉に、直之は笑うー


「ま、ブームなんてそんなものだろ。

 一度、何かのきっかけで広がり出すと、

 こう、ばばばばばばば~っとさ」


直之が、ジェスチャーを加えながら言うー。


世の中の”ブーム”には

実力も必要だし、運も必要だー。


そして、何らかのきっかけで、一度”波”に乗ると

恐ろしい速度で拡散し、一度ブームを起こし始めたら

もう、止まらないー


”人気だから”という理由で、また新しいファンが産まれ、

さらに拡散していくのだー。


「---まぁ、確かに顔は可愛いけどさ~」

直之が言うと、


「---え~?なんの話~?」

と、背後から女子の声がしたー


「-わ!?びっくりしたぁ」

直之が、驚いて振り返ると、

そこには直之の彼女・真凛(まりん)の姿があったー。


「---顔が可愛いってなんの話~?」

じーっと、直之の方を見つめる真凛ー。


真凛は優しくて、穏やか、優等生な少女だが、

時折、嫉妬深い一面があるー。


「---え、、あ、、いや…」

直之が、ビクッとしながら真凛の方を見ていると、

助け舟を出すかのように、親友の健司が口を挟んだー。


「--いや、ホラ、今、人気の”J”の話だよ」

健司の言葉に、

真凛が「あ~~!なんか人気のあの子だよね」と、

健司のスマホの方を見つめるー。


「---わたしには、なんでこの子が人気なのか

 あんまりよくわかんないなぁ~」

真凛が、そう呟くと、

健司が「そ。俺たちもそう言ってたんだよ。

顔は可愛いけど、なんかこう、、振る舞いとか服装が好きになれない~ってさ」と

つけ加えたー。


「---ふぅん~

 直之が、この子のファンになったのかと思った~!」

真凛の言葉に、直之は「俺は真凛一筋だよ」と苦笑いしながら答えるー


「--ふふふ、嬉しい~」

真凛は、笑いながらすっかりご機嫌になると、

直之に、別の話題を振ったー


・・・・・・・・・・・・・・・・


「---------」

一人の女子大生が、虚ろな目で、廃墟の工場のような場所を歩いているー。


「---」

よろよろと、とても正気ではないー

”何かに操られている”雰囲気でー。


「----」

廃工場の奥に歩いていくと、

じゃらじゃらと鎖の音を立てながら、

アクセサリーまみれの服を着た、アイドル”J”が姿を現したー


「---ふふふ…ご苦労様」

”J”は、そう言うと、イスに足を組んで座るー。


「--今日はあんたにわたしの靴を磨かせてあげる」

そう言うと、”J”は足を差し出したー


「はい…女王様…」

女子大生は虚ろな目で、”J”の足元に歩いていくと、

”J”の靴を舌で掃除し始めたー。


「-ふふふふふふ…”この力”があればー

 何もかも思いのままー」

”J”が笑みを浮かべるー。


「----ほら、もっと心を込めて綺麗にしなさい」

”J”が嬉しそうに笑うー


顔立ちは優しそうな少女だが、

その振る舞いはまるで”女王”のようだったー


目を赤く光らせる”J”-。

女子大生がビクンと、震えるとー

「女王様…」と呟きながら先ほどよりも激しくJの靴を磨き始めたー。


「-----ーー女王様」

背後からスーツ姿の男がやって来るー。


「--なに?」

”J”が、横暴な態度で振り返ると、

マネージャーの男は、「お時間です」と呟くー


”J”は、少しだけ不満そうにすると、

自分の靴を掃除していた女子大生をまるでごみ扱いで

蹴り飛ばして、立ち上がったー


「--さ、行くわよ」

”J”は笑みを浮かべるー


「-わたしは至上最高のアイドルー”J”よー。

 この力があれば、ファンなんて、

 いくらでも作り出せるー」


”J”は、ふふっ、と笑いながら、マネージャーの男の方に向かって

歩き出したー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


直之が帰宅すると、

妹の静江(しずえ)が、何やらCDを手にしていたー


静江は来年高校生の妹で、

兄の直之とも、仲が良いー

ツインテールがトレードマークの妹だー。


静江が机の上に置いていたCDを見つめると

直之は声を上げたー。


「あ、これ、Jのやつじゃん!」

とー。


「--あ、お兄ちゃん!」

静江が直之が帰宅したことに気づいて、直之の方に

近づいてくるー。


「-ーー静江も、Jが好きなの?」

直之が苦笑いしながら聞くと、

静江は首を振ったー。


「ううん。わたしじゃなくて、クラスの友達が、ね」

と、静江は半分呆れ顔でCDを見つめるー


「---友達がこの前、ライブに行ったんだけど、

 それから”J”にすごいはまっちゃってさ、

 わたしにも1回Jの曲聞いてほしい聞いてほしい

 うるさくて」


静江がやれやれ、という様子で呟くー


「へ~~~静江がJのファンになったのかと思った」

直之が笑いながら言うと、

「-むりむり、わたし、ああいう女の人、苦手~」

と、静江が笑いながら否定したー。


「---まぁ、ファンが多いのは知ってるし、

 好きになるのは自由だけどね」

と、静江が付け加えると、

「--友達がうるさいから、適当に1回だけ聴いて

 明日返しちゃおーっと」と、静江はJのCDを手に

自分の部屋の方に向かっていくー


「--静江もJのファンになっちゃったりしてな?」

部屋の向かう静江に対して冗談を口にする直之ー


「まさか~?だって、歌もあんま上手くないって評判だし」


「-確かに」


笑いながら自分の部屋に入っていく静江ー。


「--しっかし、CDまで買うなんて

 熱心な子もいるんだな~」

直之は、そう呟いたー

直之ぐらいの世代だと、CDを買うより

スマホでダウンロードしたり、

動画配信サイトで動画を見て満足したりする人が多いー。


妹の静江の世代なら、なおさらだろうー。

それをわざわざCDまで買っている、ということは

静江の友達はよほど熱心なファンなのかもしれないー。


「--ま~、ランキング1位にもなってたし

 結構売れてるのかな」


そんな風に思いながら、直之も自分の部屋へと入っていったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夜ーーー


♪~~~~

♪~~~~~~


直之はスマホをいじりながら、

隣の部屋から聞こえてくる音に、ため息をついたー


(随分大音量で聞いてるなー?)

ハッキリとは聞こえないが、あまり上手ではない歌声が

聞こえているー。


妹の静江がJのCDを聞いているのだろうー。


”1回だけ”と言っていた気がするが、

さっきからずっと音が聞こえる気がするし、

何なら、だんだんボリュームが大きくなっているような気さえする。


「--さすがに音がうるさい気がするな…時間も時間だし」

直之は、そんな風に思いながら、直之が妹・静江の部屋をノックするー


返事がないー。


「---」

直之は、違和感を覚えたー


もしかしてー

妹の静江がCDを再生したまま、倒れているんじゃないか?と

不安に思うー。


「--静江?大丈夫か?」

部屋の外から、もう一度妹の部屋をノックするー。


だが、やはり返事はないー


「--静江!?」

直之は、慌てた様子で、静江の部屋の扉を開いたー


だがーー

静江は激しく身体を動かしながら、

”J”の曲に合わせて、リズムを取っていたー。


「---静江!?」

部屋には大音量の”J”のCDが流れているー


「---♪~~~」

静江は、兄の直之に一切反応せず、

髪を振り乱しながら踊っているー


「--おい!静江ってば!」

直之は、CDの再生を止めると、

静江の方を見たー


「-----」

ぼーっとした様子の静江ー。


「--もう夜遅いし、さすがに音量大きすぎるよ…」

直之が、呆れた様子で静江の方を見ると

静江は「あ、、、、おにいちゃん」とようやく呟いたー


「--はは、Jにはまったのか?」

直之が苦笑いしながら言うと、


「--女王様…」

と、静江は呟いたー。


「--ん?」

直之が首をかしげるー


「----わたし、勘違いしてた…」

静江が顔を赤らめながら言うー。


「-え?何を?」

直之の言葉に、静江はほほ笑むー


「”J”って、すっごい素敵…」

うっとりとした表情の静江ー。


「---……はは、マジでファンになったのかよ」

直之は、あまり深く考えず、

「とにかくもう、夜遅いから、今日はやめとけよ?」と、

軽く静江を注意すると、そのまま自分の部屋に戻っていったー。



部屋の扉が閉まるー。


静江は、部屋の扉が閉まったのを確認すると

「女王様…」と呟きながら、

イヤホンを用意してー

イヤホンで、Jの曲を再び聞き始めたー


何度もー

何度もー

耳が痛くなるほどの大音量でーー


涎を垂らしながら幸せそうな笑みを浮かべる静江ー


「--あ♡ あっ♡ …あっ♡」

Jの曲を聴きながら静江の様子がどんどん

おかしくなっていくー。


だが、そのことに、兄の直之はまだ、気づいていなかったー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・


コメント


「洗脳」でファンを増やしていく謎のアイドル…J。

まずは妹が餌食になってしまいました~!


次回もお楽しみに~!

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