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純也は、保健室に隠すようにして置かれていた

黒い袋の中身をこっそりと見たー。


そこにはー

謎の注射器が入っていたー


袋には、”白崎” ”風間”の文字ー

つまり入れ替わっている穂乃香と英司のことだー。


「人間が生成できる成分じゃないー

 ”外部”からー

 注射されたような、そんな、感じだー」


病院の先生の言葉を思い出すー。


あの日ー

階段から転落した穂乃香と英司を保健室に運んだのは、

保健室の先生・由美だと聞いたー。


とは言えー、

保健室には、生徒会長の洋平もいたし、

その場で由美を問い詰めることはできなかったー。

そして、生徒会長の洋平を殴ったことで、

生徒指導室に連れていかれた英司(穂乃香)のことも気になるー。


生徒指導室の前にたどり着くと、

英司(穂乃香)が生徒指導室から出てきたー。


「---もう、、滅茶苦茶だよ」

生徒指導室から出てきた英司(穂乃香)が純也のほうを見て言うー。


「--…穂乃香…」

純也が悲しそうに呟くと、

英司(穂乃香)は言ったー。


「--純也はさ…わたしの”身体”が好きだったんでしょ?

 わたしの中身のことなんて、どうでもいいのー。


 だから、わたしがこの身体で、どんなに、どんなに

 純也に振り向いてもらおうとしても、

 純也は振り向いてくれない!」


英司(穂乃香)が叫ぶー。


学校の廊下特有の冷たい空気に晒されながら

純也は口を開くー


「それは違うー。

 俺は、穂乃香のことも、英司のこともー、

 本当に助けたいと思ってるー


 でもー」


純也は言葉に詰まるー。


”彼女”と”親友”がそれぞれ半分ずつになってしまったー。

どうしていいか、純也自身も、分からないー。


「---ーーいいよ、もう、」

英司(穂乃香)は、悔しそうにそう呟くー


この身体じゃー

もう、純也に振り向いてもらうことはできないー


「--穂乃香!」

純也が立ち去って行こうとする英司(穂乃香)に声を掛けるー。


「--ーー俺は英司ですよーだ!」

英司(穂乃香)はそれだけ言うと、立ち去ってしまったー。


「---」

純也は廊下を歩くー。


早くー

早く、二人を元に戻さないとー


”彼女”も”親友”も、どっちもー

失ってしまうー。


「----どうしたんですか?」

生徒会の書記ー、後輩の雫が、偶然通りがかって純也に声を掛けるー。


「---…神谷さん」

純也が雫の方を見つめるー


雫はクスッと笑ったー


「先輩の彼女さんってーまるで男みたいですし、

 先輩の親友さんってーーーなんか女々しいですよね?


 まるでーーー

 入れ替わっているみたいー」


クスッと不気味に微笑む雫ー


「ーーー…そ、そんなことないよ」

純也は”入れ替わりのこと”を隠そうと、そう返事をするー


雫は、微笑むと

「---先輩、見てると面白いですー

 色々な意味でー」

と、呟いて、そのまま立ち去っていくー


「-ーーー」

純也は雫の後ろ姿を見つめながら戸惑いつつもー

保健室の方を目指したー

由美先生に聞かないといけないー

”入れ替わり”のことをー。


保健室に戻った純也ー。


夕日に照らされる保健室で、

由美先生は、静かに純也のほうを見たー。


「--先生…お話があります」


”元ギャル”なんて噂まである由美先生ー。

だがー、

過去がどうあれ、学校では”みんなの人気者”だし、

穂乃香や英司が恨まれる理由なんて、ないはずー


「---」

由美先生は、純也のほうを見て、

静かに口を開いたー


・・・・・・・・・・・・・・・・


帰宅した純也は、部屋で頭を抱えるー。


”二人を入れ替えたのは、わたしー”

由美先生の言葉を思い出すー。


”あの日、階段を下りていた風間くんを背後から

 突き飛ばしてー

 二人が意識を失ったときにー

 二人に”入れ替わり薬”を注射したー”


「---」

純也は頭を抱えながら、机の上に置かれている写真を見つめるー。


”どうして、そんなことをー?”


その質問には、答えてもらえなかったー。


そしてー

由美先生は、頭を下げたー


その時に言われた言葉を思い出すー。


”二人を戻す方法はーーーないの。

 少なくともーわたしは知らない


 わたしは、頼まれただけだからー”


「---」

純也が、純也・穂乃香・英司の三人で撮影した

写真を見つめるー。


もう、戻れないー?


机の上に置かれたノートには、

文字がびっしりと書かれているー


必死に純也が”入れ替わり”について、

毎日毎日徹夜で調べ続けたことが

びっしりと、そこには隠れているー。


もうーーー

元の穂乃香にも、英司にもーーー

戻せないー?


”---俺さ…自分がどんどん女になってるのを感じるんだ…”

穂乃香(英司)から届いたLINEを見つめる純也ー。


”俺、どうすればいいのかな…?

 なぁ…英司…

 俺はお前の親友でいたい…

 でも、同時に彼女として愛してほしいって

 思っちゃうんだ…


 気持ち悪いよな…俺…。

 最低だよ”


穂乃香(英司)のLINEがさらに送られてくるー。


二人の、辛い想いー。


明日ー

由美先生をもっと、問い詰めてみようー。


純也は、そんな風に思いながら、

スマホを手にするー。



だがー

その”希望”さえも、砕かれてしまったー。


「---え」


翌日ー

保健室に、由美先生の姿は、もう、なかったー。


そこにいたのは、生活指導の先生ー。


「---由美先生はー

 今朝、退職届を校長に提出したよー。

 急にでびっくりしたけどさー」


その言葉にーー

純也は愕然としたー。


ふたりは、ずっとーー

このままーーー?


純也は、そのことを英司(穂乃香)、

穂乃香(英司)の二人に伝えたー。


英司(穂乃香)は泣いていたー。

穂乃香(英司)は腕組みしたまま、窓の外を見つめていたー。


やがてー

英司(穂乃香)が口を開くー


「--俺、、ホントに英司になっちゃおうかな」

とー。


涙を浮かべながら笑っているー


「---……」

穂乃香(英司)が暗い表情で英司(穂乃香)のほうを見るー


「ほら、二人も仲良くしなよ、、いや、しろよ。

 彼氏彼女だろ、ほら!」

英司(穂乃香)が、英司の口調で、

純也と穂乃香(英司)の手を掴み、

無理やり二人の手を握らせるー。


「--へへ、やっぱりお似合いだよね…

 いや、だよな!

 純也、、それにわた、、、ほ、、穂乃香!

 仲良くしろよ!」


英司(穂乃香)が、

自分が穂乃香であったことを忘れようとするかのように叫ぶー。


そして、教室から出ていこうとするー。


「--おい!それでいいのかよ!」

穂乃香(英司)が、英司(穂乃香)に向かって叫ぶー。


「--俺、、俺、、もう英司だし!!

 これ以上一緒にいたら、わたし、男の身体で、

 純也に迷惑かけちゃうし!!


 風間君には嫉妬しちゃうし!!!


 もう、、ダメなの!

 …ダメなんだよ!」


英司(穂乃香)はそれだけ言うと、外に出ていくー。


「---…」

穂乃香(英司)が、純也の方を見つめるー


「--親友半分、彼女半分ー」

穂乃香(英司)の言葉に、純也が「え…」と声を出すー。


「--感情がごっちゃになっててさ…

 このままじゃ、俺…おかしくなっちまいそうなんだ…

 

 ……お前のこと好きだし、友情も感じてるー

 俺……どうすりゃいいんだよ…」


穂乃香(英司)の言葉を聞いて、純也は

深呼吸をするー


”二人が元に戻らない未来ー”


「---来週…」

純也は、意を決して、口を開いたー。


「--来週…デートしよう」

とー。


・・・・・・・・・・・・・・


”もう、やめてあげてー

 二人を、元に戻してあげてー…”


「-----」


保健室の先生・由美からのメールを見つめるー。


純也にばれたことー

そして、あの学校を辞職したことー

この先”どんなこと”をされても、もう、協力できないという

”決別”の言葉がそこには綴られていたー。


「-----」

由美に”入れ替わり薬”を渡しー

英司と穂乃香を入れ替えるように”指示”した人物が、

そのメールを見つめると、スマホを握りしめて、

返事を入力したー。


”元に戻す方法なんて、ないー”

とー。


そうー

元に戻す方法なんて、ないー


”入れ替わりの薬”は、研究室から盗み出したものー。


元に戻す方法なんて知らないしー

もう、同じものは、手元に存在しないー。


「---」

由美先生に返事を送ると、その人物は立ち上がったー


・・・・・・・・・・・・・・・


大粒の雪が空から舞い落ちるー。

2月の雪の日ー。


純也は”デート”の当日を迎えていたー。


寂しそうな表情でスマホの写真を見つめるー。


ライトアップされた遊園地ー。

観覧車が、色とりどりの光を放つ中ー、

彼は、一人、寂しげにー

その光を見つめていたー


幻想的な光が、美しく、そして、虚しく光輝くー。


「--------」

純也が顔をあげると、そこには”大切な人”がいたー。


もう、戻れないー

あの時にはー。


それでもー

純也が、悲しそうに、相手に向かって微笑むー。

そして、”大切な写真”を見つめるー。


純也と、純也にくっつく可愛らしい少女とー

二人を見守る男子生徒ー。


三人はー

いつも仲良しだったー

小さいころから、ずっとー

三人、一緒だったー。


「----ーー」

純也がスマホをしまうと、

少しだけ驚いた様子で相手を見つめたー


三人の絆は、もう戻らないー


三人の絆ー

決して切れないはずだった、絆が壊れていくー。


「----…よー」

やってきたのはー

穂乃香(英司)だったー。


どうしてー

どうして、こんなことになってしまったのだろうー。


この1か月間ー

揺れ動いた三人の絆ー


けれどー

純也は”その答え”を出そうとしていたー

三人の未来のためにー


「俺、決めたよー」

純也が、静かに口を開いたー


光輝く、遊園地の中でー。


「----…え」

穂乃香(英司)が戸惑いながら、

寒そうに純也の方を見つめるー


大粒の雪が、舞い落ちるー。


「-ーー俺…やっぱ、穂乃香が好きだからー

 俺、やっぱ、英司は大切な親友だからー」


純也の言葉に、

穂乃香(英司)は、首を傾げるー。


「--だからーー決めた」


「--!」

穂乃香(英司)が振り返ると、

そこには英司(穂乃香)の姿もあったー。


純也が”デート”に誘ったのは

穂乃香(英司)だけではなくー

英司(穂乃香)のことも誘っていたー。


「---…あれ…」

英司(穂乃香)が、穂乃香(英司)も

呼ばれていたことに驚くー。


そして、二人は純也の方を見つめるー。


純也は必死に、二人を元に戻そうとしていたー

けれど、その”道”が絶たれてしまったー


このままじゃ、英司も、穂乃香も失うことになってしまうー

三人の、固い三角形のような絆は、

もう、ボロボロだったー。


かと言ってー

穂乃香(英司)を選べばーー

英司(穂乃香)を選べばーー


大切な”どちらか”を失ってしまうー。


純也はこの1週間、必死に不器用な自分を奮い立たせながら、

答えを出したー。


「------」

純也が微笑みながら、二人の方に向かって歩いてくるー。


観覧車の光が、三人を照らすー。


「--ーー俺は、穂乃香が好きだー。

 そして、英司のことは、本当に大事な親友だー」


純也が静かに呟くー。


「---穂乃香」

純也が英司(穂乃香)の方を見つめるー


「-身体目的なの?って聞いたよな?」

純也は、ようやく答えを出したー


「---うん」

英司(穂乃香)が返事をするー。


純也は、観覧車の方を見上げたー


「--身体目的ーーっていうと、変だけど、

 穂乃香の身体…”外側”は、好きだよー。」


”やっぱ身体目的なんだー”

と、英司(穂乃香)は少し表情を曇らせるー


「でもー」

純也が英司(穂乃香)の方をまっすぐ見たー。


「--外側だけじゃない、中身も大好きなんだー。

 外も、中も大好きなんだー。


 中身が好きだからー

 なんていう人もいるけど、

 俺はさ、違うと思うんだー。


 ホントに好きな人のことは、

 外側も内側も、、、どっちか、じゃなくて、

 ホントに、、相手の全部を好きになると思うんだ…!


 だから、穂乃香、俺はー

 俺は、穂乃香の外側…そう、身体、中身も大好きなんだ。

 下心なんかじゃないー

 穂乃香の全部が好きなんだ…!


 だから、、だから、身体目的なの?って言われてもー

 違う、とは言えなかったー… 

 ごめんー


 全部、好きだからー」


純也の言葉に

英司(穂乃香)は、「純也…」と呟くー。


「でも、わたしはもう、、」


純也の言う通りー

”外見”と”中身”両方好きだとしてもー

入れ替わってしまった穂乃香はー

”外見”と”中身”がバラバラになってしまったー


「---…英司」

純也が穂乃香(英司)の方を見るー


「彼女として振舞えばいいのか、親友として振舞えばいいのか

 分からないって言ったよなー?」


純也はそれだけ言うと、静かに微笑んだー


「--”両方”でいいと思うんだー。

 俺、色々考えたけどさー。

 両方ー。

 それで、いいと思うんだー


 俺は英司の外見も、英司の中身も、どっちも揃って

 親友だと思ってるからさー」


そこまで言うと、

純也は二人の方をまっすぐと見つめたー。


「---俺と、改めて付き合ってほしい」

純也が言うー。


穂乃香(英司)が、自分を指さしながら首を傾げているー。

英司(穂乃香)も、周囲をキョロキョロしながら不思議そうにしているー。


「どっち?」

英司(穂乃香)が不思議そうに言うと、

純也は笑ったー


「---そして、俺と改めて親友になってほしいー」


純也は、そこまで言うと、

「--二人に、お願いしてるんだー」

と、少しだけ笑みを浮かべるー


「-え」

穂乃香(英司)の言葉に、

純也は続けたー。


「--英司の外見、英司の中身ー

 穂乃香の外見、穂乃香の中身ー

 俺は、全部好きなんだー。

 全部揃って、親友と、彼女ー」


穂乃香(英司)の方を見つめるー。


「--俺が英司の、彼氏と親友になるー」


そして、英司(穂乃香)の方を見つめるー。


「--俺が穂乃香の、彼氏と親友になるー」


「---俺は”4つの宝物”

 どれも、手放したくないし、順位もつけられないー

 本当に、大切な存在なんだー。


 だからー」


純也は、穂乃香(英司)と英司(穂乃香)をまとめて抱きしめたー。


”元に戻ったあとー”

そればかりを考えていたー


でも、もう、戻れないかもしれないならー


これがー

”俺の出した答えー”


「”ふたり”にこだわる必要なんて、なかったんだー。

 彼氏・彼女・親友ー。

 俺たち、三人で、ひとつー…


 それでいいのかな…って、俺、そう思ったんだー

 穂乃香の心も体もー

 英司の心も体もー

 全て、俺には、宝物だからー。」


遊園地のライトが、三人を照らすー

心なしか、少しだけ、ライトが暖かく感じられたー。


「---そっか」

英司(穂乃香)が微笑んだー


「--親友でもあり、彼女でもあるーか」

穂乃香(英司)も少しだけ笑うー


「---…欲張りだな、お前は」

穂乃香(英司)はそう言うと、

「でも、友達も彼女も大事にする、お前らしいや」と

笑みを浮かべたー。


三人は、仲良く手をつなぐー。


「--周囲が何か言って来たってー

 言わせておけばいいー


 三人一組で歩んじゃいけないなんてルール、はないんだから」


純也の言葉はそこまで言うと、

「--なんて…俺は思ったけど…穂乃香と英司はどうかな…?」と

少しだけ申し訳なさそうに言ったー


「-ーー二人に同時に告白してるみたいで、変な気分だな」

純也は少し笑うと、遊園地の風景を見つめたー。


もし、断られてもー

自分の中での答えは出したー


親友も、彼女も、どっちも大事ー

順位をつけることなんてできないー

身体も、中身もどっちも大事ー。

どちらかに優劣をつけることは純也にはできないー。


二人が入れ替わってしまって、もう元に戻らないのならー

二人が想いの狭間で苦しんでいるのであればー

全部まとめてー

三人で歩んでいけばいいー


純也はそう答えを出したー


「--色々…大変だと思うよ」

英司(穂乃香)が呟くー


「--でもーーーーー」

英司(穂乃香)は、純也の方を見て笑ったー


「-ーー彼女と親友、、両方の立場を半分ずつって言うのも、

 悪くはないのかもねー」

英司(穂乃香)の言葉に、純也は優しく微笑んだー。


「--…そうだな…」

穂乃香(英司)は、それだけ呟くと、

純也の方を見てー

「--じゃあ、三人で一つのカップル…ってことにしておくか」

と笑ったー


これから先ー

三人で歩んでいく未来の先にはー

あらゆる困難が待ち受けているかもしれないー


けれど、

きっと、三人なら、乗り越えられるはずだからー


「--せっかく遊園地に来たんだから、遊んでいこうぜ!」

穂乃香(英司)は観覧車の方を指さしながら嬉しそうに走っていくー


「--なんか、わたしが、あの身体だったときよりも、

 女の子っぽくなってる気がする」

英司(穂乃香)が、笑いながら純也に向って言うと、

「---はは、そうかもなーー」と、純也も笑いながら

英司(穂乃香)と一緒に観覧車の方に向かったー


・・・・・・・・・・・・・・


三人の絆は取り戻されたー


どっちが彼女、どっちが親友ー

そんな区別は取り除いてー

両方彼女であり、両方親友であるー

そう、考えることにしたー


どっちか選べと言われてもー

どっちも大切で、

どっちも半分ずつになってしまって

もう元に戻れないのだからー

その未来を受け入れて、歩んでいくしかないー。


学校でもー

純也は、穂乃香(英司)、英司(穂乃香)

どちらとも仲良く、周囲から何を言われても堂々と振舞ったー


三人の明るさと、元々の友達の多さもあってかー

最初は揶揄う者もいたがー

次第に、クラスも自然と純也たちのことを受け入れたー


「---」

純也は自宅の写真を見つめるー


そこには、2枚の写真ー


クリスマスの時に撮影した純也・穂乃香・英司の写真とー

この前撮影した純也・穂乃香(英司)・英司(穂乃香)の写真ー


”形”は変わってもー

二人は大事な彼女と親友だー。

二人とも彼女であり、二人とも親友だー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


数年後ー


大学に進学した三人は、

同居生活を始めていたー


そんなある日ー


「------」

空港を歩く女が立ち止まるー。


「---お姉ちゃん」

背後から声を掛けられて女が振り返るー。


大学を卒業して、地方の企業に就職ー

”逃げるようにして”実家を離れようとした女に

声を掛けたのはー


英司の身体になった穂乃香だったー。


「----」

振り返ったのは、穂乃香の姉・千里ー。


穂乃香になった英司を”異様”に溺愛していた姉だー。


「---お姉ちゃん、なんだよね…?」

英司(穂乃香)が呟くー


「----穂乃香…」

姉・千里が呟くー。

そして荷物を手にしたまま、英司(穂乃香)の方に近づいてくるー。


入れ替わりを仕組んだ犯人ー

それが、姉・千里であると、英司(穂乃香)は気づいていたー。


「--ーーーごめんなさいー」

千里はそう口にすると、

全てを話したー。


穂乃香と英司の入れ替わりを仕組んだことは自分であることー。


妹である穂乃香が、高校に入学してから、千里の過保護っぷりを

嫌がるようになったことで、強い寂しさを感じていたことー


入れ替わり薬は大学の研究室から盗み出したもので、

元に戻す方法は分からないことー


穂乃香たちの高校時代の保健室の先生・由美は、

穂乃香の姉・千里の高校時代の先輩で、

噂通り、当時ギャルだった由美の悪さや秘密を握っていた

千里は、それをネタに、由美先生を脅し、

入れ替わり薬を英司と穂乃香に投与するように指示したことー


高校時代の悪事をネタに脅された由美先生は、

既に家族持ちであったこともあり、家族にそれを知られたくない、

という一心で、千里に協力したー。

保健室に無防備に袋に入れた空の注射器を置いたままだったのはー

どこかに、罪悪感があったからなのかもしれないー。


「--やっぱ…由美先生、元ギャルだったんだー」

英司(穂乃香)が少しだけ笑いながら呟くー


「--お姉ちゃんの先輩だったなんて、知らなかったー」

姉・千里は、浪人していたこともあり、由美は先に就職、

保健室の先生として働いていたのだったー。


「---でもーーー

 やっぱり、身体は穂乃香でもー

 わたしは、中身も穂乃香じゃないと、満足できなかったー」


それだけ言うと、千里は、英司(穂乃香)に背を向けるー


”妹の穂乃香が大好き”な姉・千里は

英司や純也に嫉妬し、英司と穂乃香を入れ替えることで、三人を苦しめてー

さらには、自分の愛を拒む穂乃香の中身を別の男子にすることで、

穂乃香を思いのままに溺愛しようとしたー


それが、入れ替わりの理由ー


「お姉ちゃんー

 わたしこそ、お姉ちゃんに冷たくしてごめんねー…」

英司(穂乃香)が謝罪の言葉を口にすると、

千里は振り返ったー


「---でも、今、わたし、男子の身体になっちゃったけどー

 幸せだからー…


 心配しないでー」


英司(穂乃香)の言葉に、

千里は、少しだけ微笑むとー

英司(穂乃香)に背を向けて、

そのまま空港の奥の方に歩いて行ったー


・・・・・・・・・・・・・


どっちも彼女で、どっちも親友ー


そして、二人にとっては純也が彼氏であり、親友ー

入れ替わった相手は、もう一人の自分ー


誰一人として欠かせない存在ー


「---ただいま」

大学から帰宅した純也が微笑むー


今日も家にはー

大切な彼女が二人と、

大切な親友が二人、いるー


”普通”じゃないかもしれないー


でも、これがー俺のー

俺たちの選択ー。


壊れかけた三人の三角形は、

今、あの日々を通じて、さらに固くなったー。


どんなに叩かれても砕けることのない、

トライアングルのようにー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


親友と彼女が入れ替わってしまって

三人の絆が揺らぐ入れ替わりモノでした~!


最終的に主人公が出した答え…

もしも皆様が彼の立場だったらどんな答えを出したでしょうか~?


お読み下さり、ありがとうございました!!

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Comments

飛龍

まさかの誰も傷つかないハッピーエンド…! タイトルのトライアングルをこういう形で回収してくるのは意表を突かれて面白かったです! 黒幕の正体も意外過ぎでした~。まさかお姉ちゃんが伏線だったとは…w

無名

コメントありがとうございます~! タイトルは「どんなに揺れても崩れることのない三角関係」 …最終回のあとの三人の絆を現したタイトルでも ありました~☆ お姉ちゃんの溺愛と保健室の先生の元ギャル疑惑が 伏線になっていました~笑