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「--落ち着いて聞いてねー。

 確かに、この身体は、”麗菜”

 でもねーー

 わたしは、麗菜じゃないのー」


帰宅した修一に対して、妻の麗菜が言い放った言葉は、

修一がこれまで”現実逃避”してきたことだったー。


高校時代ー

友達がいない自分のような人間に告白してきた

”憧れのクラスメイト”麗菜。


可愛くて、なんでもできるようなタイプの彼女が

何故、自分なんかに告白してくれたのだろうかー。


罰ゲームで告白してきたのではないかー?

何度も、何度も疑ったー。


そして、高校時代、麗菜が”皮”のように垂れ下がり、

中から男が出てきている光景を修一は確かに見たー。


何度も何度も聞こうと思った。

でも、聞けなかったー

そうしているうちに、大学生になり、社会人になり

ついには結婚して、

麗菜は今、修一の”妻”だー。


”あれは見間違いだったんだ”

そう自分に言い聞かせて、この10年以上を過ごしてきたー。


少し前にー

”麗菜の皮”がまるで、着ぐるみショーの着ぐるみのように

物干しざおに干されている光景を見た時もー


”見間違い”と、自分で自分を強引に納得させたー


けれどー

今ー


麗菜自身が、

”わたしは、麗菜じゃない”

と、そう口にしたのだー。


「---は、、、はははははは」

修一は思わず笑ってしまったー


麗菜が表情を歪めるー。


「---今日はエイプリルフールじゃないぞ、麗菜」

修一はそう呟くと、そのまま仕事の服から私服に

着替えようとするー。


「---お願い…ちゃんと聞いて」

麗菜が悲しそうに言う。


修一は麗菜のほうを見て、その表情から笑顔を消すー。


「---…」

麗菜の表情は、真剣そのものだったー。


修一は、悲しそうに、近くのイスに座ると、

頭を抱えるー。


「----……」

麗菜は、修一が”話を聞いてくれるリアクションを示した”と

判断して、そのまま独り言のように呟き始めたー。


「わたしは…麗菜じゃない。

 この身体は、確かに麗菜のものー。


 でもねー…

 麗菜は、松中 麗菜は、もう、いないー。」


修一は答えないー。

聞きたくない。

麗菜の中から男が出てきていたなんて、夢だー嘘だー。


そう思いながらも、

「嘘だあああああ!」と叫びたくなりながらも、

修一は必死にそれをこらえたー。


言葉は出なかったー。

泣き叫ばないようにするのが、やっとだったー。


麗菜は続けるー。


「--信じられないと思うケド、

 わたしは、…いいや、”俺”はー

 人を皮にする力で、高校時代の麗菜を

 ”皮”にしたー」


麗菜は言うー


麗菜が”俺”と言ったー。

麗菜が自分のことを”俺”と言ったー。


修一は頭を抱えたまま、答えないー。


「修一をいじめていた男子…覚えてる?

 望月 健太郎…」


麗菜が言う。

健太郎とは、先日、偶然再会しているし、

忘れたことはないー。


修一はやっとの思いで、頷いたー。


「---彼が、俺に、”人を皮にして着込む薬”を

 くれたのー。

 どこで、手に入れたかは分からないー

 でも、健太郎は怪しい裏サイトで手に入れたって言ってたー」


麗菜が言うー。


男言葉と女言葉が入り乱れていて、

不気味な感じだー。


「---最初はね…わたしも健太郎も、

 ”そんなことできるわけねぇだろ”って面白半分でー

 人を皮にする薬を試してみることにしたのー


 それで、試した相手がー

 クラスでも一番人気のあった麗菜ー…

 つまり、わたし……いや、この女ね」


麗菜が言う。


当時の健太郎と”麗菜に入っている男”は、

人を皮にする薬を手に入れ、”面白半分”で

文化祭の日に、

それを、クラスで一番の人気者だった麗菜に使ったー。


そして、その結果ーーー

麗菜は、本当に”皮”になってしまったのだー


「え…あ…え…え、、た、、たすけ…」

皮にする薬を打ち込まれた麗菜はー

空き教室で、みるみると変異していきー

着ぐるみのようになって、床に崩れ落ちたー


「たすけ、、、て、、、たすけ、、、」

麗菜は、そう言っていたー


健太郎も、麗菜を乗っ取った男も、戸惑うー。


「--俺たちは、わたし、、いや、この女が、

 本当に皮になっちゃうなんて、思って無かったのー。

 だから…この女が、皮になっちゃって、

 本当に驚いたし、パニックになったー」


麗菜が悲しそうに言う。


修一は答えないー。


「---わたし…いや、俺は…

 あなたをいじめていた健太郎の友人で、

 健太郎の幼馴染…

 

 まぁ、高校は別々だったから、

 あなたとは、面識はなかったんだけど…」


麗菜はそこまで言うと、

「皮になっちゃったこの女を見て

 健太郎が言ったのー。

 ”お、、おまえ、とりあえず、着てみろ”ってー」


麗菜が皮になってしまったことに驚いた

健太郎と友人ー。

その時、健太郎が、友人に対して”麗菜を着ろ”と言ったー。


麗菜を皮にしてしまったことを隠蔽する目的もあったー。


そして、健太郎の友人は、麗菜を着たー。


「その日から、俺は…いいえ、わたしは、麗菜」


麗菜は言うー


だから、麗菜本人の意識は

その時にもう、きっと死んでいるのだとー。

あの時の文化祭以降は、麗菜であって麗菜でないのだとー。


「---麗菜になったわたしは、健太郎から言われたのー。

 ”おもしれぇやつがいるから、告白してみろよ”ってー」


麗菜が言うー。


修一はようやく口を開いた。


「-やっぱ、罰ゲームだったのか」

と、残念そうにー。


麗菜は答えないー。


健太郎から言われて、麗菜の皮を着た友人は、

麗菜として、修一に告白したー。

それが、”突然、クラスの憧れの女子が、

クラスでも目立たない男子に告白した真相”


健太郎たちがいじめてこなくなったのはー

”ある目的”のためー。


「--修一と仲良くなって、わたしのこと大好きになったらー

 こっぴどく振って、地獄に突き落としてやるー。

 健太郎とわたしは、そういうつもりで、

 あなたに告白した」


麗菜は言うー。


「---そうかそうか…」

修一は不貞腐れたように言うー


やっぱり、罰ゲームだった。

自分のような、人間が、麗菜みたいな女性に愛されるわけがないー


「でもねー」

麗菜は言うー。


「--わた、、いや、俺はーー

 いや、、もうわたしでいいか…

 

 わたしは、修一と一緒にいるうちに、

 ホントに修一のことが、好きになっちゃったのー…


 ”俺”ではなく…”麗菜”としてー

 女としてー」


麗菜が涙目で言う。


「---」

修一が麗菜のほうを見るー。


「---健太郎に言われたの。

 ”おまえ、いつまで修一の彼女でいるんだ?”ってー

 ”そろそろこっぴどく振ってやれよー”ってー。


 でもねー

 わたしは断ったー


 「--俺、あいつのこと、好きになっちゃった」ってー


 健太郎は言ってたー

 ”勝手にしろ”ってー」


麗菜の言葉ー


修一が高校時代に目撃した、”麗菜が皮のようにひび割れて、中から男が出てきて

 いじめっ子の健太郎と会話している場面”ー

それは、この時の会話だったー


遠くからで会話は聞こえなかったがー

あの時、健太郎に、麗菜を乗っ取った男は、

”本当に修一が好きになってしまったこと”

そして、”麗菜として生きる決意”を伝えたのだったー


「--ずっとずっと、隠しててごめんなさいー

 でも、でもね…

 今は本当に修一のこと大好きだし、愛してるし、

 修一の妻でずっといたい…

 いっしょにいたい」


麗菜は涙をボロボロとこぼしているー。


「---さっき、”俺”って言ったけど…

 もう、わたし、”俺”って言ったり、男言葉使ったりするほうが

 違和感で、これが今の自然なわたしの姿なのー。


 わたしは麗菜じゃないー

 麗菜を乗っ取って皮にして着込んでる男ー


 それは分かってるー


 でも、でも、今は、もう…

 わたしは、麗菜としてしか生きることができないー」


麗菜は、

続けて”黙っていてごめんなさい”と何度も何度も

謝るー


涙をこぼしながらー


”嫌われてしまう”

”怖がられてしまう”

”減滅されてしまう”


色々な恐怖から麗菜を乗っ取った男は

ずっとずっと秘密を隠していたー


だが、先日、修一と再会した健太郎が、

”修一がまだ麗菜と暮らしていること”

”麗菜がまだ修一に本当にことを打ち明けていないこと”を知り、

修一と別れた後、麗菜に連絡したのだったー


”お前…いい加減、打ち明けろよ”

とー。


「健太郎から、言われて……

 やっぱ、ずっと隠したままじゃいけないと思ってー…」


麗菜は泣きながら、そう言い切ると、

ごめんなさい、と頭を下げて、

離婚届の紙を机の上に出したー


既に、麗菜の名前は記入されているー


「中身が男の女と長年付き合わせちゃってー

 ごめんなさいー」


麗菜が頭を深々と下げるー。


離婚される覚悟はできているー

いや、離婚だけでは済まないかもしれないー


最初はーー

面白半分だったー

まさか、麗菜が本当に皮になるとは思わなかったー


最初はー

罰ゲーム告白だったー

健太郎から、”揶揄ってやれよ”と言われて

おふざけで告白したー。

でも、修一は想像以上に優しくてー

麗菜に潜む男は、本当に修一を好きになってしまったー。


そして

健太郎にそれを伝えて、男は麗菜として生きていく決意をしてー

普通の女として、修一を愛したー


でもー

もう、それもおわりー


本当のことを伝えないとー

そう思いつつ、麗菜は10年以上も時を重ねてしまったー。


「--信じてない?」

麗菜は泣きながらそう呟くとー


「--俺は、風間 平介(かざま へいすけ)-。

 10年前に”失踪”してるー

 調べれば、当時のニュース記事…出て来るよ」


麗菜が泣きながら言うー


麗菜を乗っ取った男・平介は

ずっと麗菜の皮を着て麗菜として生活しているために

世間では”失踪”扱いになっているー

当時、ニュースにもなっているー


「---何なら、今、ここで……」

麗菜は自分の後頭部のあたりに手をかけようとしたー。


「----」

修一が立ち上がるー。


麗菜の方に近づいてくるー


「---」

麗菜は”殴られる”と思って

目を瞑ったー


しかしー


「----」

修一は、無言で麗菜を優しく抱きしめたー。


「---え」

麗菜が驚いて目を開くー


そしてー

修一は呟いたー


「--お腹空いちゃったなぁ…」

とー。


「--え…??え?」

麗菜が戸惑っていると

修一は「今日は、よく考えたらエイプリルフールだったよ」と

笑いながら、離婚届を破り捨てて、ゴミ箱に捨てるー。


今日はエイプリルフールなんかじゃないー


麗菜は、「--修一!?」と、声を上げるー


現実逃避をして、おかしくなってしまったのかー

と、一瞬、麗菜は不安を感じるー。


けれどー

そうではなかったー


「ーーー中身が何であろうとー

 麗菜は俺を愛してくれているー


 それだけでー

 十分だよ」


修一は、少しだけ悲しそうに、

けれどもー前向きに微笑んだー


麗菜を乗っ取った男は、

最初は罰ゲームだったのだとしても、

今は修一を好きになり、

心から支えたいと思っているー


そう聞いた修一は、

全てを水に流して、麗菜と生きていく決意をしたのだったー


”本当の麗菜”には申し訳ない気もするー。

でも、今更何を言っても本来の麗菜ー

修一に興味すらない麗菜は帰って来ないのだろうし、

それを言っても仕方ないー、と

修一は判断したー。


「----…え…わたし、、、中身は、、おとこ…」

麗菜が泣きながら言うと、

修一は、「---俺にとっての麗菜は、今の麗菜さ」

と、優しく微笑んだー


中の男のことは、一切詮索しなかったー。


修一は”エイプリルフール”と断言して、

この日のことを、聞かなかったことにしたー


”現実逃避”

そう言われれば、そうかもしれないー


でも、麗菜として生きることしかできないぐらいに

麗菜になりきってしまった、彼にとっても、


理由はどうあれ、麗菜のおかげで前向きになれて

いじめからも脱出できた修一にとってもー


これが、二人にとって、一番の幸せ、と言えたー。


”俺の妻の中には誰かがいる”


でも、それでもいいじゃないかー

俺にとって、麗菜は麗菜なんだし、

中に誰かがいようと、その”誰か”も、

麗菜として生きたいと願っていてー

俺のことを想ってくれていてー悪意はない。


なら、それでいいじゃないかー。


「---俺の妻の中には誰かがいるー

 でもーそんな妻が

 俺は大好きだー」


事実を受け入れた上での

現実逃避ー


10年以上も不安に感じていた”麗菜のひみつ”を知った修一は、

それを受け入れて、それでもなお、

麗菜と一緒に、人生を歩んでいく決意をしたのだったー。



おわり


・・・・・・・・・・・・・


コメント


「俺妻」(勝手に謎の略称を作る私…笑)の最終回でした~!


何だかんだで、うまくやっていきそうな感じですネ…!

(本物の麗菜は乗っ取られて災難ですけど…汗)


お読み下さりありがとうございました~!

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