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死んだ人間から”悪の部分だけ”を取り出すことができる能力。

検死官ジョーは、最初、この能力に気づいたとき、

”何の意味もない”と感じたー。


遺体から取り出した人間の”悪の部分”

彼は、それを”悪の魂”と呼んだ。


だが、検死官ジョーは、はじめ、その力を

積極的に使うことはしなかった。

なぜなら、

人間の遺体から、人間の悪の部分を取り出したところで、

何の実用性もないからだ。


しかし、ある日、彼は気づいた。

遺体から取り出した、”悪の魂”を、

生きている人間にねじ込むことができるとー。

それを知った彼は、それからあらゆる人間に悪の魂をねじ込んだ。


するとどうだろう。


人々はみんな、悪の魂に浸食されていき、

悪の道へと堕ちて行った。


悪の魂を憑依させられた人間はみな、悪の道へと堕ちてゆくのだ。


だが、あくまでも魂だけだ。

意識を乗っ取られているわけではない。

少しずつ、その憑依させた悪の部分と、憑依させられた人間の

意識が同化して、悪の道へと誘っていくー。


検死官ジョーは、興味を抱いた。


”悪意を無理やりねじ込まれた人間は、

 等しく、悪に堕ちるー”


だがー

悪に堕ちるまでの時間は、人によって違うし、

悪の魂を憑依させられたあとの変貌ぶりも違うー。


もしかしたらー

”悪の魂に憑依された”状態に打ち勝つような、

強き心の持ち主が、どこかにいるかもしれないー。


ジョーは、そんな風に思いながら、

悪の魂を、自分にとって何も関係ない人たちに

日々、憑依させて観察していた。


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西原 愛華に今のところ変わった様子はない。

ジョーはそう思いながら彼女の様子を”観察”していた。


ジョーには自分の姿を消すことができる能力も備わっていた。

自分が何者かは分からない。

もはや、人間ではないのかもしれない。


だが、そんなことはどうでもいい。


あれから3日。

愛華はいつも通り、優しい笑みを浮かべ、

クラスメイトたちとの関わりも、授業中も変わった様子が無い。


この娘はーー

もしかしたら、”悪の魂”に侵食されないのかもしれない。


検死官ジョーは、そんな風に思いながら、

愛華のことを見つめていた。


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「また明日~!」


「バイバイ!」


友人の紗枝と別れる愛華。


愛華は、ため息をつく。

検死官ジョーも含め”他人”からは、まだその”変化”を

見て取ることはできなかったが、

愛華は確実に”変化”していたー。


親友である紗枝の財布を盗もうとしたー。

あの日から、なんだか、自分の思考がーおかしい。


”今日も、何もしでかさなくて良かった”


「・・・どうしたんだろ、、わたし…」

そんな風に思ってしまうほどに、

愛華は、自分で自分の異変を感じ取られずには

いられなかった。


学校ではいつも通り振る舞うようにしている。


でもー

何故だかわからないけれどー


日に日に、衝動が強くなる。


自分の中に

”悪魔”が潜んでいるようなー

そんな、不気味な感覚ー


心の声が聞こえてくるー


”無防備な財布など盗んでしまえ!”


”いじめられている康介なんて助ける必要ないし!

 面倒なヤツ、見捨ててしまえ!”


”康介をいじめている智乃恵のグループ

 なんて脅して黙らせればいい”


そんな心の声が聞こえてくるー。


「どうしちゃったの…わたし…」


愛華は頭を抱えたー


心の叫びが日に日に大きくなる。

自分が、自分じゃなくなっているような、

そんな、不思議な感覚ー

今まで感じたことのないような、

言葉で言い表すのも難しい”不安”


それが、毎日毎日、

どんどん大きくなってくるのだ。


今日の昼間も危なかった。

康介が、いじめの相談をしてきているのを

聞いているだけで、愛華はものすごくイライラしてきたー。


思わず、何度か舌打ちもしてしまった。

康介には聞こえていなければいいけれどーー…


そんな風に思いながらも、

他人に舌打ちをしてしまったという事実が、

愛華をさらに苦しめていく。


康介は何も悪くない。


そんなことは分かっているー


”だから、わたしはいつも通りの笑顔を作って、

いつも通り、優しく微笑んで

彼の話を


”聞いてやった”


愛華が、表情を一瞬だけ歪めるー


”そう、聞いてやったんだ”


「----え?

 今、わたし・・・」


思わず口に出してしまう。


いつから”聞いてやった”などと偉そうなことを思える

人間になってしまったのかーーー


自分はーーー


愛華は家に帰ると、部屋に駆け込んだ


「……わたし、疲れてるみたいー。」


ベッドに飛び込んで、そのままうつぶせになる愛華ー。


どうしちゃったのー?

わたし…?


頭が混乱するー


”盗め” ”殴れ” ”見捨てろ”

欲求が爆発しそうだ。


ふと、”わたしなら何をしても疑われない・・・”

そんな考えが頭を過った


普段まじめにやっているわたしなら、

何か起きても、先生たちは、わたしを疑わないー


「---!!!」

愛華は、ハッとするー


また、恐ろしいことを考えてしまっていたー。


違うでしょ!

ばれるばれないの問題じゃない!

私ったら何考えてるの!


”盗め”


「あーー!!うるさい!!」


愛華が、大声で怒鳴るー

誰もいない、部屋でー。

自分しかいない、部屋でー


自分の怒鳴り声ー

”わたし、こんな声出るんだ…”と、

思いながら、愛華は悲しそうに、そして不安そうに深呼吸をしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「むっ・・・」


愛華が一人、自分の部屋で怒鳴ったのを見て

ジョーは何かを感じ取った。


「・・・やはり彼女も・・・。


 彼女の経歴は完璧だった。 

 小学校、中学校、高校。

 どこでも優等生として通っている。

 プライベートにも問題なし。


 その彼女でも、悪の魂には勝てない…ということか」


ジョーはにやりと笑みを浮かべたー。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


翌日。


「・・・僕、どうしたらいいのかな?」


昼休み。

康介が、いつものように、愛華に悩みを

相談しているー


「・・・・・・・・・」

愛華は沈黙しているー。

今日の愛華は、いつものように

笑顔で康介の話を聞いては、いないー。


その変化を、康介も敏感に感じ取る。


「・・・?西原さん?どうしたの?」


康介が心配そうに尋ねる。

愛華はハッとした様子で康介の方を見ると

少しだけ微笑んだー。


「・・・・・・え、な、何でもないの。

 気にしないで」


とー


”私は・・・

どうしたら・・・。”


昨日よりもひどくなってる。

真面目にやってるのがバカらしく思えてきた。


どうしてーーー?


「でも、西原さん、なんか今日顔色が・・・」


康介がーーー


いや、”康介のヤツが”

弱弱しい、イライラする顔を向けてきたー


愛華は、カッとなって、叫んだー



「-----うっさいわね!」


とー。


「えっーーー」


康介が怯えた表情で後ろに1歩下がる。


「え…」

愛華は戸惑う。


”わたしは今ーーー?”

急速に罪悪感が芽生えてきた愛華は咄嗟に申しわけ無さそうな

表情を浮かべて、謝罪の言葉を口にした。


「--ーー・・・ご、、ごめん、、」


それでも、康介は怯えているー


「う、、、うん…」と、

やっとの思いで言葉を口にする康介。


それを見て、愛華は悲しい気持ちになってしまう。


「・・・ちょ、ちょっと疲れてるのかなわたし・・・

 ごめんね・・・・・・」


愛華は、無理やり作り笑いを浮かべて足早に立ち去った。


これ以上一緒にいたらー

康介を傷つけてしまうー。

そう、思いながらー


「・・・何なの・・・わたしは…一体?」


わけがわからないーーー

どうしてしまったのーーー?


ーーーーー。。


真面目にやってるのがバカみたい!

なんでわたしだけいつもいつも、

ニコニコしてなきゃいけないのよ!


今だってそう・・・。


心の中に、怒りが溢れ出て来るー。


愛華の心は確実に「悪」に浸食されていた。。

その様子を見てジョーはため息をつく。


「彼女もーーーダメだな・・・

 もう見込みはないだろう。

 次のターゲットに移るか・・・」


そう呟き、ジョーは99人目のターゲットに定めた、

藤森 彩乃(ふじもり あやの)の写真を見た。


新婚の24歳。

良妻として近所からの評判も良い


「---だが、」

ジョーは今一度 落ち込んだ様子の愛華を見た。


彼は 人を悪の魂で狂わせることに罪悪感を感じてはいない。

だが、その行く末を最後まで見届けること。

これは、礼儀だと考えていた。


「西原愛華ー。

 まだ浸食され尽くしてはいない。

 もう少しだけ、見届けなくてはな」


ジョーは口元を三日月に歪めたー


ジョーの視線の先では、不機嫌な様子で廊下の壁を蹴り飛ばす

愛華の姿があったー。



③へ続く


・・・・・・・・・・・・・・


コメント


悪の魂リメイクの第2回でした~!

今の私とだいぶ書き方が違ったりするので

色々修正・追加をしています~!


元々の原作が短いので、

いつもの通り、(初期作品のリメイク版は)100円

プランで読めるようにしてあります!


お読み下さりありがとうございました!!

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