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「大きくなったら、わたし、矢神くんのお嫁さんになるー!」


それはーー

遠い昔の記憶ー


二人の園児の、甘い記憶ー


とある幼稚園の年少クラスで交わされた約束ー。


辻村 琴美(つじむら ことみ)は、無邪気に、

相手の男の子にそう告げたー


琴美の言葉に、相手の男の子ー

矢神 清太郎(やがみ せいたろう)は、嬉しそうにほほ笑んだー


「じゃあ、ぼく、大きくなったら、琴美ちゃんを迎えに行くー!」

とー。


”子供同士の約束”

よくある光景だー。

そして、その”約束”が果たされることなど、

めったにないー


幼き日の思い出としてー

いやーーー

小学生、中学生、高校生ー

成長するにつれて、

そんな約束があったことすらー

相手の顔すらー

次第に、おぼろげになっていくー


その”約束”から20年。


20代中盤になり、

OLとして忙しい日々を送る琴美は、

”矢神くん”のことなど、すっかり忘れていたー


「---はぁ~、今日もつかれた~!」

帰宅した琴美は、部屋で一息つくー。


大学時代に一人暮らしを初めて、

それからはずっと一人暮らしだ。

大学時代に知り合った彼氏・西郷 友幸(さいごう ともゆき)との

付き合いも続いているが、

お互いに仕事が忙しくて”結婚”には至っていないー。


琴美は、昨日読んでいた本の続きを読み始めると、

少しウトウトしてきたー


”いけないいけない”と、思いながら

晩御飯の支度を始める琴美ー


忙しいけれどー

平凡でー

十分、幸せな日々ー


だがーーー


♪~~~~~


この日をきっかけに、

それは、

崩れることになるー


「--あ、は~い!」

琴美がインターホンの方に向かって、返事をするー


そしてー

「はい」と、インターホン越しに

応答するー

インターホンの映像に写っているのはー

見知らぬ小太りの男だったー。


セールスか何かだろうか。


「--ーーー琴美ちゃん、約束通り、迎えに来たよ」

小太りの男はそう言ったー


約束ー?

琴美は心のあたりのない言葉に困惑するー。

そもそも、インターホン越しに見える小太りの男と

面識もないし、

”約束”を誰かとした覚えもないー


「あの…どちら様でしょうか?」

琴美は、冷静に、そう、返事をした。


人違いか何かだろう、と思いながらー


「---どちら様って…?僕だよ~!ほら、約束したじゃん!」

小太りの男が言うー

まるで、子供のような無邪気な口ぶりー。

年齢は、琴美と同じぐらいに見えるのだが、

どこか幼い雰囲気に感じるー


「あの~…すみません。

 人違いなされてませんか?」

琴美が優しく聞き返す。


”僕だよ~”と、言われても、知らない。

面識もないし、約束とやらも何のことだかわからない。


「人違い?そんなことするわけないじゃないか~

 お嫁さんを勘違いなんて、絶対しないもんね」

小太りの男が言うー


子供のような喋り方が、より不気味さを増幅させているー


琴美は気味が悪くなって呟くー。


「--あ、、あのっ…どちら様なんですか…?

 お名前とご用件を言って下さらないと、わかりません!」


とー。


小太りの男は、

その言葉にムッとした様子を見せながらも

「ほら、僕だよ。矢神 清太郎ー!

 小さいころ、約束したじゃん!」

と、答えたー。


”約束”?

そう言われてもー

と、思いながら、琴美は聞き返すー


「小さいころ…?あ、学校で一緒だった…とかですか?」

琴美は戸惑うー


頭をフル回転させながら”矢神 清太郎”なる人物を

思い出そうとするー。


だがー

幼稚園の時代までさかのぼって、”同じクラスの人間全員”を

思い浮かべるのは、なかなか難しいー。


「--ーくま組の矢神だよ!」

小太りの男が答えたー


”くま組”

その言葉に、琴美は「あ、幼稚園のときの…」と、返事をするー


”矢神 清太郎”

いたかもしれないー。


インターホン越しに卒園アルバムを見せて来る清太郎ー。

そこには、確かに

”辻村 琴美”と”矢神 清太郎”の写真が

同じ”くま組”に並んでいたー


「あ~~~…」

琴美は、少しだけ思い出したような、思い出してないような気持に

なりながら呟くー。


仲良しな男の子ー。

よく一緒に遊んだ男の子ー

確かに、いたー。


だんだんと記憶が戻って来るー

”矢神くん”と、仲良くしていたことの頃を、

完全にではないものの、琴美は思い出していたー。


だがー

昔の明るく無邪気な笑顔を浮かべている”矢神くん”とは

まるでイメージが違う。


神経質そうで、小太りで、容姿には全く無頓着そうな

オトナになった”矢神くん”が、そこには、いるー


「---」

琴美は、少しだけ警戒を解きそうになったものの、

すぐに”え?なんでわたしの住所知ってるの?”と

不安を覚えるー。


「あ、、そっか、矢神くん…!お、、お久しぶりです」

琴美は、そう返事をしたー


幼稚園時代の同級生とは言え、卒園したあとは

一切接点がなかった。

だから、大人になった今、敬語で話す、以外の選択肢は、

少なくとも琴美には、全くなかったー。


「ええっと……それで…何の御用でしょうか?」

琴美がそう言うと、

清太郎は答えたー


「何の用って…?ホラ…忘れちゃったの…?

 「大きくなったら、わたし、矢神くんのお嫁さんになるー!」

 って、言ってたじゃん」


とー。


「---え」

琴美は戸惑う。

幼稚園児同士、そういうことを言い合ったりすることは

よくあることー。

正直、琴美は、その言葉すらよく覚えていないー。


「--そ、、それは…その、小さいころの…」

琴美が、言葉に詰まっていると、清太郎はさらに続けた。


「じゃあ、ぼく、大きくなったら、琴美ちゃんを迎えに行くー!」


「--約束通り”大きくなった”から、迎えに来たよ」

ニヤァ…と、不気味な笑みを浮かべる清太郎ー


「え…え??ちょ???ま、、待ってください」

琴美が戸惑いながら返事をするー


”矢神くん”は、

幼稚園の年少の時にした”約束”をずっとずっとずっと、覚えていたー

どんな時でも、忘れたことはなかったー。

そう、忘れた日などない。

どんなに辛い人生でも、”琴美ちゃんをお嫁さんにするために迎えに行く”

その約束を果たすためだけに、生きてきたー


それはー

常軌を逸した”愛”


「---ご、、ごめんなさい…!」


「--え」

”矢神くん”が放心状態になっているー


「--そ、、そんな約束、、してたのかも、覚えてないんですけど…

 そ、、それって、幼稚園のときのやり取りですよね??

 わたしと、矢神さんは、卒園後は1回も会ってないわけですし、、

 ちょ、ちょっと、無理があるっていうか…」

琴美が慌ててそう呟くと、

清太郎は呟いたー


「---約束…破るの?」

とー。


「え…だ、、だから、、、お、、お嫁さんになるっていうのは…」

琴美は、戸惑うー。


”嘘つき”と言われればそうなのかもしれないー


でもー

20年前の幼稚園時代の約束なんて

そんな、、

そういう小さな子同士のやりとりなんて、よくあるものじゃ…?


”大きくなったらパパと結婚するー”と同じようなレベルの話じゃ…?


琴美は、激しく動揺していたー


「---わ、、わたしはあの、、お嫁さんにはなれませんので…!

 すみません!」


琴美は、それだけ告げると、インターホンの電源を切ったー


「---------」

玄関前で立ち尽くす清太郎ー。


清太郎は、再度インターホンを鳴らすこともせず、

玄関の扉を叩くこともせずー

ただ、その場に立ち続けたー


そしてー

30分以上が経過したタイミングで、

ようやく、清太郎は、立ち去って行ったー。


・・・・・・・・・・・・・・・


清太郎はー

帰宅したー。


みじめな自分の人生ー。

いじめを受けたり、周囲からキモがられたり、

テストで0点取って、親から怒られてもー


授業をサボり続けて、高校退学になってもー

ツイッターで誹謗中傷を繰り返した挙句、

趣味のグループから追い出されても、

どんな時でもー

”琴美ちゃんをお嫁さんにする”ためだけに-

その約束を守るためだけに、

矢神清太郎は生きてきた。


それなのにー

この仕打ちは、いったい、なんだ?


清太郎は、激しい怒りを感じていたー


そしてー

パソコンのキーボードを狂ったように叩き始めるー


素手でスナック菓子を掴み、

口に大量に放り込んでバリバリ砕きながら、

清太郎は、パソコンで何を調べているー


”他人を洗脳する方法”

”他人を思い通りにする方法”

”約束を守らせる方法”

”約束を守らせる洗脳”

”誰かに操られているのか”

”洗脳を解除する方法”

”お嫁さんにするための洗脳”


あらゆるワードを検索していく清太郎ー。


そしてーーーー


「---!」

清太郎は、ネットの深淵に存在する”それ”にたどり着いてしまったー


”洗脳”

にー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


あれから2週間ー


琴美は

”矢神清太郎”が訪ねて来たことも忘れかけて、

平穏な日常を取り戻していたー


会社で仕事を終え、

夕食を、彼氏の友幸、幼馴染の里奈(さとな)たちと

一緒に取るー。


里奈は、琴美の幼馴染で、小学生時代からの付き合いだー。


3人で楽しく晩御飯を食べるー


「ね~ね~、二人はいつ結婚するの~?」

里奈が笑いながら聞くと、

友幸は珍しく真剣な表情で考えたー


そしてー

「--そろそろ、真剣に考えなくちゃな」と、

琴美の方を見て、笑みを浮かべたー


友幸は”ずっと結婚しない”タイプではないー

ちゃんと、琴美のことも考えてくれているー


琴美は「うん」と嬉しそうに答えるー


ファミレスから出る三人ー

3人とも、明日の仕事が早いために、

これ以上の”長居”は出来ないー。


「--それにしても~二人って本当にお似合いだよね!

 結婚式には、ちゃんと呼んでよね!」

里奈が言うと、琴美は「うん!」と嬉しそうに答えたー



ザッー


物陰からー

”矢神くん”がその光景を見つめていたー


「け、、、、、、っ、、、こん?????????」

清太郎の目に、炎が宿るー


「--こ、、こと、、、ことみちゃんは…

 僕の、、、僕のお嫁さんだ!」

清太郎が怒りの形相で叫ぶー


僕を裏切っただけでなくー

浮気までしていたなんてーーー


許せないーー

許せないーーー

許せないーーー

許せない許せない許せない許せない許せない!!!!


清太郎はその場で叫ぶー


「琴美ちゃんは、僕のお嫁さんだ!!!!!!!!」

とー。


その言葉が、賑わっている三人に届くことはなかったー。


清太郎は”洗脳”の力を手に入れていたー

その力で、琴美を洗脳して、玄関を開けさせようとしていたがー

”計画変更”だー。


元々は玄関を開けさせるためだけに”洗脳”を使おうとしていたー


だが、琴美が裏切るなら、話は、別ー。


三人が分かれていくー


清太郎は、すかさず、そのうちのひとりを追いー、

声をかけたー


「え…?」

琴美の親友・里奈に声をかけた清太郎ー。


清太郎は名乗るー

「琴美ちゃんの婚約者の、矢神清太郎だけど」

とー。


精神が”子供のまま”状態で成長してしまった清太郎は、

初対面の里奈にも、いきなりタメ口を利くー。


「婚約者…?」

戸惑う里奈。


「---僕、幼稚園の頃、琴美ちゃんにプロポーズされたんだ!

 で、僕はそのプロポーズを受けたんだよ!

 だから、僕は琴美ちゃんの婚約者なんだ!」

嬉しそうに叫ぶ清太郎ー


「え…何を言って…?」

戸惑う里奈ー


そんな里奈に向かって清太郎は告げたー


「--お前には、僕と琴美ちゃんが結婚するために協力してほしいんだ」

とー。


里奈は反論する


「-え??意味わからないんですけど!

 大体、どちら様ですか?」


だがー

その直後、里奈は、”清太郎の目が赤く光る”のを見たー


そして、里奈の目が、とろーん、と変化していくー


「--僕と、琴美ちゃんは結婚するんだ。

 僕のために、力を貸してくれるかい?」

清太郎が言うと、

里奈は「はい…ごしゅじんさま…」と、虚ろな目で呟いたー


「くくく…いい子だ。お前は僕と琴美ちゃんのためのペットだ。

 琴美ちゃんを奪おうとしてる浮気男を、どうにかして、

 琴美ちゃんを僕の方に振り向かせろ。いいな」


清太郎の言葉に、

洗脳されてしまった里奈は「はい…」と、答えたー


・・・・・・・・・・


「ふ~、楽しかった」

帰宅した琴美ー。


別の場所で、

たった今、親友の里奈が”矢神くん”に洗脳されたなどと

夢にも思わずー

ごく普通に帰宅して、のんびりする琴美ー。


”矢神くん”の狂気と、”洗脳”の魔の手が迫っていることをー

琴美はまだ、知らなかったー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今日は導入部分でした~!

洗脳の恐怖…

次回からはゾクゾク度もたっぷりデス!

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