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「わたしを剥けよ」

いつもより色っぽい雰囲気の桃花が言うー


「---え…え…?」

彼氏の昌平は、完全に戸惑っていたー


彼女の様子がおかしいー。


異変の始まりはー

昨日、彼女の桃花が突然大学を”無断で”休んだことだったー


心配した昌平や友人たちが、桃花に連絡を取ろうとしたものの

既読がつくだけで、桃花から一切返事はなかったー。


”何か事件にでも巻き込まれたのではないか”

そう思った彼氏の昌平は、

ちょうど、休日の今日、片道1時間30分の位置にある

桃花の家にはるばるやってきたのだった。


桃花は無事だったー


ただしー

いつもより、色っぽい姿で、

部屋には、たくさんのバナナー

それでいて、意味不明な言動を繰り返しているー


「ほら、わたしを剥いてごらん」

桃花は、自分の後頭部のあたりをつんつんとつつくー


「--…その黒いバナナみたいにー

 わたしの中身も、黒いかもよ?

 うふふふふふふふ♡」

不気味な笑みを浮かべる桃花ー


机の上には、先ほど桃花が皮を剥いた

”皮は綺麗だけど、中身は真っ黒”な

バナナが置かれているー


「---…い、、、意味がわからない…

 ほんとうに、、どうしちゃったんだ」


桃花は、クスクスと笑いながら、

バナナを口にして、挑発的な目線を昌平の方に送っているー


「---ほら!ほら!ほら!

 わたしをバナナみたいに剥いてごらん!

 あははははははっ!あははははははっ!」

桃花の声に”狂気”が混じっているー


”わたしを剥け”とは、

どういうことだー?


昌平には、まるで意味が理解できなかったー


”エッチを誘っているのか?”

昌平は、そんな風にも考えるー


本当に、桃花が何を言いたいのか、

サッパリ分からないのだー

そして、様子がおかしい


「桃花…よ、、酔ってるのか…?」

戸惑いながら、やっとの思いで言葉を振り絞る昌平ー


桃花の奇行ー

酒に酔ってるぐらいしか、考えられないー


「酔ってねーよ!」

桃花がバナナを思いっきり昌平の方に

放り投げて来るー


「--じゃ…な、、なんなんだよ!」

昌平が困り果てた表情で叫ぶー


大事な桃花がー

意味不明な行動を繰り返していることに

昌平は、困惑と怒りを覚えていたー。


「--わたしはね、小さいころから、

 バナナが大好きだったの」

桃花が突然、うっとりとした表情で語りだすー


「----…」

昌平は戸惑いながらも、桃花の話を聞くー


「わたしの親はね、どんなに細かいことでも

 何でも見つけ出してケチをつけて来る親だったの。

 勉強でも、私生活でも、

 ”ほんの少し”悪い部分があれば、

 何でも指摘してくるー


 ”お前には、パーフェクトな人間になってもらいたい”ってね」


桃花の言葉に、

昌平は首をかしげるー


昌平は、桃花の両親とも面識があるが、

そんな風には思えなかったー


「少しでも、わたしがミスをすれば、

 説教のはじまりー

 毎日毎日怒られて、パーフェクトになれって、

 ばっかり言われてー…


 でもね…

 ある日、わたしの母親が、バナナを買ってきたのー

 

 ”完璧主義”の母親が、”中身の黒い部分”を

 見抜けずに、ねー?」


桃花は言うー

母親が買ってきたバナナの中身は、黒く染まっていて

傷んでいたのだとー

けれど、皮が綺麗だったから、母親は、それに気づかなかった、とー。


どんなに些細な点でも細かく見つけて

指摘する両親が、見つけることのできない”黒”


「--そのときから、わたしは、バナナになりたかったの。

 バナナの実にね!うふふふふふっ♡」

桃花は、まだ皮を剥いていないバナナを手にするとー

そのバナナの皮を剥くー


「--バナナの実になればー

 父や母から、”黒い部分”を指摘されずに済むー…

 素敵でしょ…?」


どんなに細かいミスでも指摘する

”異様なパーフェクト主義”の両親に追い詰められて、

バナナに光を見出し、

ずっとずっと、”バナナの実”になる方法を

探していたのだと、桃花は説明したー。


「そして、見つけたー」

桃花が口元を歪めるー


「--わたしは、バナナの実になる方法を見つけたの!」

桃花の表情が、狂気に染まっているー


”狂っている”

昌平は、そう思ったー


「おい、、、もも、、か…」

昌平は、戸惑いを隠せないー


「-わたしは、バナナの実になったの!!

 ”綺麗な皮”を手に入れたの!

 ひひひひ、ふふふふふ、ひゃははははははっ♡」

桃花が、喉を傷めそうなぐらいに大きな声で笑うと、

机に置いてあったUSBメモリーを手にしてー

近くにあったパソコンに差し込んだー


「--ほら!見ろよ!」

桃花がゲラゲラ笑いながら、動画を再生したー


動画はーーー

”自撮り”だったー。

誰が撮影しているのかは分からないー

桃花だろうかー。


そんな風に思いながら、昌平が動画を見つめていると、

そこは見覚えのある場所だったー。

撮影者が、スマホで撮影しながら、歩いているような感じの映像でー

桃花の部屋に向かって、歩いているー


日付は”昨日の早朝”だー。

桃花の部屋の前に立つと、

桃花の部屋のインターホンを鳴らし始めたー


「---これ…桃花が撮影したのか?」

動画を見ながら、昌平が言うー


”自撮り映像”のため、

撮影者は写っていないー。

撮影者の目線視点な感じの動画だー


「--ふふ」

桃花は色っぽく足を組んだまま動画を見つめていて、答えないー


動画はー

インターホンを連打する場面に切り替わるー


そしてー

中からー

”眠そうな桃花”の声がするー


”お届け物です”

動画の撮影者が、そう返事をしたー


「-!」

昌平は動画を見ながら思うー


この動画の撮影者は”桃花”ではないー

今、男の声がしたー。


では、いったい?

そもそも、どうして桃花がこの動画を俺に見せる?


昌平は、そう思いながらも映像の続きを見つめるー


”お届け物”と言われた桃花が、眠そうにしながら

部屋から出て来るー


そしてー

次の瞬間ー

動画の撮影者は、桃花を無理やり部屋の中に

押し飛ばしたー


悲鳴を上げる桃花。


”な、、なんですか!?”


とー。


部屋の中に倒れた桃花に対して

動画の撮影者の男は笑うー


「--君が”新しいバナナの皮”だ」

とー。


動画に男は写っていないー

恐らく男が、スマホを手にして

動画を撮影しながら、歩いているー。


男が、桃花の部屋の中にスーパーの袋に入った

バナナを置くー


”た、、たすけて…”

悲鳴を上げる桃花ー


男は、桃花の後頭部を乱暴に掴むとー

次の瞬間ー

”動画”には、信じられない光景が収められていたー


悲鳴を上げる桃花の後頭部がー

パックリと割れるー


そしてー

男が、まるでバナナの皮を剥くように、

桃花を剥いていくー


4方向に剥かれた桃花ー


「俺は、バナナの実になるー」

動画撮影者の男が笑うー


桃花は、恐怖を顔に浮かべたまま

”皮”になっているー


「俺は、バナナの実

 この女は、バナナの皮


 俺がこの中にいれば、

 誰も、俺の黒い部分を見つけることはできないー


 ひひひひ…ひひひひひひひひーーー」


一瞬ー

男の映像がーー

桃花の部屋にある姿見の方を向きー

スマホを手にしている男の姿が映るー


神経質そうな男ー


そして、男は笑みを浮かべると、

”皮にした桃花”を着こみ始めたー


映像は、そこで終わる


ーー映像を見終えた昌平は、

唖然としていた。


何が起こっているー?

もはや、理解することが、できないー


「---これ、昨日の動画…

 これでわかった?

 わたし、皮にされちゃったの…!

 くくくくく」

笑う桃花ー


「--え…え…ちょ、、、冗談きついなぁ…」

昌平がヘラヘラ笑うー


あまりの非現実的な光景に、

現実を受け入れられなくなってしまった昌平ー


彼女の桃花が何者かに”何らかの手段で、皮にされ”

今、桃花の中には、何者かがいて、乗っ取られているー


昨日、大学に来なかったのはー

連絡がなかったのはー

今日、様子がおかしいのはー


桃花が乗っ取られているからー


そう、頭のどこかで理解しながらも

昌平は

「ドッキリにしちゃ、手が込みすぎてるよ!」と

苦笑いしたー


現実逃避ー


「ドッキリかどうか…試してごらん?」

桃花が、自分の頭を触るー


「--剥け」

桃花が命令口調で言う。

その表情からは笑みが消えているー


「い、、いやだ…」

昌平は泣きそうになりながら言うー


剥けばー

桃花が皮にされて、誰かに乗っ取られている現実をー

受け入れざるを得なくなるー


「剥けよ!」

桃花が大声で怒鳴ったー


「う…う、、、うああああああああああああ!!」

昌平がパニックを起こして、桃花の後頭部に手を掛けるー


そしてーー

”剥いたー”


無情にも、桃花の皮はめくれていきー

中から、桃花を乗っ取っている男が

姿を現したー


「あ…」

昌平は、恐怖のあまり、そのまま失神してしまったー


・・・・・・・・・・・・・・


「---ねぇ」


「----ねぇってば」


「---!!!」

昌平が飛び起きるー


「え…」

周囲を見渡す昌平ー


桃花の部屋ー。


そして、目の前には、心配そうな表情を浮かべた桃花ー


「ひっ…」

昌平がおびえていると、桃花は「どうしたの?うなされてたよ?」と

心配そうに言うー


カレンダーを見る昌平ー

時間を見る昌平ー


3時間が経過していたー


「---あ、、、あれ…俺?」

周囲を見渡す昌平ー


部屋にバナナは1本もなく、

桃花もいつも通りの服装・雰囲気ー


「--も~、寝ぼけてるの?

 わたしの家に、心配してきてくれて、

 そのまま疲れて寝ちゃったんでしょ~」

桃花が笑いながら、昌平にお茶を差し出すー


「え…あ、、そ、、そっか」

昌平は戸惑うー


昨日、大学を無断欠席した桃花ー

連絡も取れないことから、心配した昌平が

今日、桃花の家の様子を見に来たー


そして、そこでーー

恐ろしい光景を見たー

豹変した桃花がいてー

桃花が皮にされる動画を見てー

桃花が、本当に皮のようにめくれたー


「---怖い夢を見て…」

昌平がそう言うと、

桃花は「だいじょうぶだいじょうぶ」と、

昌平のことを優しく撫でたー


「昨日、、大学を休んだのは…?」

昌平が理由を聞くと、桃花は「体調不良で寝込んでて」と

笑いながら説明したー


”夢”


昌平は、ため息をつくー


”夢でよかった”


”夢で、本当によかったー”


昌平は、笑みを浮かべて、桃花の方に歩いていくー

桃花と雑談をする昌平ー


”夢で、本当に、本当によかったー”


昌平は、震えていたー

自分に言い聞かせるように、

何度も、何度も、何度も

”夢で良かった”と繰り返すー


心のどこかでー”さっきのは”

夢じゃないことを理解しながらもー


”夢で良かった”と繰り返すー


いや、”夢がいいーー”


「---」

そんな昌平を見つめて、桃花は笑うー


そう、夢じゃないー

気絶した昌平が、目を覚ますまでに着替えて、

いつも通りの雰囲気にして、

バナナを全部片づけただけー。


どうしてそんなことをするかってー?


急に奇行に走った彼女に戸惑う彼氏を見るのが楽しいしー

無理やり”夢でも見てたんだね”と、告げることでー

現実逃避して、

もっともっと戸惑う彼氏を見るのが楽しいからー


「---夢で、、夢で本当によかったー」

そう呟く昌平はー

安堵の笑みを浮かべながらー

同時に、涙もこぼしていたー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・


コメント


バナナを語る彼女、の後編でした~!


恐ろしいですネ…!笑

今日もお読み下さりありがとうございました!!

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