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彼は、”死”に興味があったー。

死んでしまった人間はどうなってしまうのだろう。


死後の世界は、あるのだろうか。

それとも、死んだ人間は、等しく土に還り、その先に待つのは

”無”なのだろうかー。


外科医・藤本 佳也(ふじもと けいや)は、

人の死に立ち会うこともあるからか、

”死後の世界”に、人一倍強い興味を持っていたのだ。


そんなある日ー。


「--え?」

佳也は、驚くべき言葉を病院の上層部から聞かされたー。


副院長の増森 隼人(ますもり はやと)が言う。


「-ーー”死後の世界”

 きみ、確か、興味あったよな?」

増森副院長の言葉に、

佳也は「あ、はい…。」と答える。


「--その死後の世界を体験することができる、

 と、言ったらどうかな?」

増森副院長は、整えられた髭を触りながら

優しく微笑んだー。


「死後の世界の体験…ですか?」


「あぁ。そうだ」

増森副院長は、そう言うと、立ち上がる。


「これからいうことは、全て”極秘事項”だ。

 誰にも口外しないと、約束することはできるかな?」

増森副院長の言葉に、佳也は少し考えてから頷いた。


佳也の覚悟を見届けると、増森副院長は

「来たまえ」と告げて、

普段、一般の外科医が立ち入ることのできない

”極秘病棟”と呼ばれる、この病院の秘密の場所へと

佳也を案内したー。


「---これは」

案内された場所に到着した佳也は驚くー。


「--私もね、死後の人間がどうなってしまうのか、

 ということに興味があったんだ。昔からね。」


増森副院長はそう言いながら、

装置に繋がれた若い女性の方を見つめる。


「この人は…?」

佳也が言うと、増森副院長は呟いた。


「---先日…この病院で息を引き取った

 佐上 里穂(さがみ りほ)さんだ。

 まだ若い女子大生だったんだがー

 特殊な病気でね。

 現代の医療では助けることができなかった」


増森副院長の言葉に、

佳也は寂しそうに、里穂の遺体を見つめたー


この、里穂という人は今、どうしているのだろうか。

何も感じないのだろうか。

それとも、天国にいるのだろうか。


死後の世界に興味のある佳也は、

そんなことを考えてしまうー。


そしてふと、装置の方を見つめる。


里穂の遺体があるベットの横に、もう一つベットがあり、

そこに、装置の一部が取り付けられている。


「---これは…」

佳也が言うと、

増森副院長は頷いた。


「--”精神を入れ替える装置”だ。

 私が、10年以上かけて極秘に開発した」

増森副院長の言葉に、佳也は驚く。


「私の独自の研究で、

 死んだ人間の”意思”は、身体や脳が完全に機能を停止してからも

 その身体の中に残っていることがわかった


 信じられないことだと思うが、

 まず間違いない。」


増森副院長が言う。


「つまり、そこの佐上里穂さんも、まだ、身体の中に

 本人の意識が残っているー。


 これは私の推測なのだが、

 佐上里穂さんは、おそらく今、夢を見ているような

 状態なのだと思う。


 そのあとどうなるかは分からないが…

 今、佐上里穂さんは、死後の世界にいるのだよ」


増森副院長の言葉をじっと聞いている佳也。


「--つまり。

 この入れ替わり装置を使って

 佐上里穂さんの遺体と君が入れ替わることで、

 君は”死後の世界”を体験することができるー。


 里穂さんの身体でね」


増森副院長の言葉に、佳也は驚きを隠せない。


「し、、しかし…安全なのですか?」

佳也が言うと、

増森副院長は頷いた。


「--入れ替わり装置を再度起動すれば、

 君の意識は君の身体に戻る。

 何も、心配はいらない」


その言葉に、佳也は戸惑いながらも

もう一つ尋ねたー


「入れ替わった後…死んだ里穂さんは

 俺の身体に入るってことですよね?」


増森副院長は、「そうだ」と答えるー


つまり、死んだはずの里穂が、

生きた身体を手に入れることによって、

一時的に生き返ることになる。


「--安心しなさい。君の身体は

 この装置で、眠らせておくから、

 君の身体になった佐上里穂さんが

 目を覚ますことはないー」


増森副院長はそう告げると、頷いた。


里穂の身体で”死後の世界”を体験する間、

里穂の意識は”生きている佳也の身体”に入るー

もしも佳也の身体で里穂という子が目を覚ましたら

”死にたくない”という可能性は高いし、

元に戻すときに

”死んだ自分の身体に戻りなさい”というのは

酷な話だ。


だからー

佳也の身体に入った里穂の意識は、眠らせておく、

と、増森副院長は告げたー


「---どうだね?死後の世界の体験…

 してみるか?」

増森副院長の言葉に、

佳也は戸惑うー


”絶対に安全”とは言えないー


だが、増森副院長は信頼できる人間だし、

院長の朝田(あさだ)とは違い、

腕前も確かだ。


「---やります」

佳也は答えたー


”死後の世界を体験できる”

その好奇心が、恐怖に打ち勝ったー。


「ーーー君なら、そう言うと思ったよ」

増森副院長は嬉しそうにほほ笑む。


「---半日で、私の方で君を元の身体に

 戻すから安心したまえ」


そう言うと、増森副院長は、

佳也に、里穂の横のベットに横たわるように告げたー


死んだ身体と”入れ替わり”をすることで、

死後の世界を体験することができるー

生きて帰れるのであれば、本当に夢のような話だ。


「--本当は、私が自分で体験したかったのだがー

 もう私も高齢だし、

 それに、装置の操作を完全にできるのは

 私だけなのでね…」

増森副院長はそう言いながら、佳也と

里穂の遺体を入れ替える準備をするー。


「--あ、そうだ


 …私からは君が何をしているのかは

 見えないからー…

 その……

 まぁ……好きなことしていいんだぞ」


増森副院長は苦笑いしながらそう言うと、

佳也は「…え?」と一瞬首をかしげたが、

すぐに、横のベットで横たわっている

里穂の身体を見て納得したー


「あ、、あぁ…そういうことですか。

 まぁ、余裕があったら考えます」


笑う佳也ー。

”エッチなことしてもいいんだぞ”と

増森副院長からのメッセージだったー。


「-----では、入れ替えするが、

 心の準備はできたかな?」

増森副院長の言葉に、

佳也は静かに頷いた。


「ええ」


その言葉を確認すると、

増森副院長は、装置を起動したー


”生きている佳也”と

”死んでいる里穂”の身体を入れ替えるー


装置の音がして、

佳也の意識が、瞬間的に飛ぶー


そしてー

激しい光に包まれたー


・・・・・


・・・・・・・・・・・


「-----う…」

佳也が目を覚ますとー

そこは”知らない部屋”だったー。


「--あ……れ…?」

”死後の世界”ってこれなのか?

と、戸惑いながら佳也が周囲を見渡すー。


ごく普通の女子大生らしい部屋ー。


鏡を見ると、

自分が、遺体となっていた里穂の姿に

なっていることに気づく。


「お…おぉ」

里穂になった佳也がそう声を出すと、

可愛い声が口から出たのに気づいて

ドキッとしてしまうー


「な、、なんか、思った以上にかわいい子だな」

里穂(佳也)がそう呟きながら

立ち上がるー


”これは、この子の部屋か…”

そう思いながら周囲を見渡すー。


死後の世界ー

案外、普通なんだな、

と、そんな風に佳也は思ったー


もっと、天空都市みたいな感じとか、

地獄の番犬みたいなのが出て来る感じとか、

花畑とか、そういうのを想像していたのだが

案外、日常的な場所だったー。


里穂の身体になっている、ということは

里穂の身体は既に死んでいたからー

これが、死んだ里穂が、残された意識で

体験していた世界ー

恐らくは、里穂の精神世界ともいうべき場所なのだろう。


「---死んだら、自分の思い出の中で

 永遠に過ごすってことか?」

里穂(佳也)はそう呟きながら周囲を見渡した。


何の変哲もない部屋だ。

窓の外を見ると、そこには車や人通りもあるー。


「--う~ん…記憶世界というより…

 なんだか、普通の日常って感じだな」


これでは、”死に方”によっては

自分が死んだことにすら気づかない気がする。


この子の場合は病気だったと聞いているし、

増森副院長によれば、闘病生活の末に

息を引き取ったらしいから、

”自分が死んだこと”を認識して

この世界にいたはずだー


だが、ある日、急に発作を起こしたり

急に交通事故に巻き込まれたりして

死んだ人間はどうだろうかー


こんな風に、日常の光景に放り込まれたら、

”自分が死んだ”ことすら、

認識できていないかもしれないー


「--ってか…スカートって落ち着かないな」

里穂(佳也)が呟く。

里穂の姿はスカート姿だったー。


「でも、スースーするとか、そういう感じは

 思ったよりないんだな」

そんな風に思いながら、自分の胸を見つめる里穂(佳也)。


佳也は特別エロいわけではないが、

やはり、女性の身体になっているー、

例え死後の世界であっても女の身体になっているとなれば

揉んでみたくもなるものだー。


「--と…ダメだダメだ。

 まず死後の世界を探索してからだ」


そう呟くと、里穂(佳也)はそのまま部屋の外に

出たー。


そこで、ふと気づくー


「ん…」


そう言えば、さっき

”スカートのスースーがない”と思ったが、

それは違ったー


「--そうか…そういうことか」

里穂(佳也)は呟くー


スカートを履いたときに、

スースーするような感じを感じなかったのはー

”何も感じていない”からだー。


試しに、里穂(佳也)は自分を叩いてみるー


痛みをまるで感じないー


”夢”のような状態ー


暑さもー

寒さもー

痛みもー

感触もー

空気もー

臭いもー


何も、感じないー


「これが、死後の世界…」

里穂(佳也)は呟くー


恐らく、これは死んだ里穂の身体の中に残っていた

里穂の心…精神のようなものが、見ている

”夢”のようなものなのだろうー。


里穂の身体は死んだー

脳も停止したー。

だが、その身体の中のどこかに

里穂の意識的なものは残っていて、

死んだ身体の中で、夢を見ているような状態ー


そんな感じなのかもしれないー


「---」

”ずっと”このまま なのだろうか。


それとも、少しすると、

天国や地獄のようなところに行くのだろうかー。


ふと、通行人に声をかけてみるー


だが、里穂(佳也)が声をかけても、

通行人は一切反応しなかったー


”里穂の生前の記憶”を元に

この”死後の世界”が作られているのだろうかー


通行人はそこに存在するわけではなく、

生前の里穂が”通行人の歩いているこの町”の光景を

いつも見ていたから、それを再現しているのかもしれないー


「---…なんだか、不気味だな」

里穂(佳也)は呟いたー


普通の日常に見えるのに、

感覚も何もないし、反応もないー

風が吹いている音はするが、

風を感じることもないー


「---…さ…もう少し色々見てみるか」


里穂(佳也)はそう呟いたー


・・・・・・・・・・


「----」

増森副院長は、脳波の様子を確認しながら

慎重に状況を把握していたー


佳也の脳波が反応しているー


佳也は今頃、死後の世界を見ているのだろうー。


佳也の身体は麻酔で眠らせているー

佳也の身体に入った里穂の意識が

目覚めることはないー


「--さて」

増森副院長は時計を見ると、病室の外に出て、

”トイレでも済ませておくか”と呟いたー


・・・


・・・・・


「------!!!」

佳也の身体が目を覚ましたー


佳也の身体になった里穂がーー

意識を取り戻してしまったーー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・


コメント


一風変わった入れ替わりモノですネ~!


入れ替わりは長編を書いている最中ですが、

いつもの長さ形式のも、定期的に出していきます~!


今日もありがとうございました!! 

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