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ごく普通の幸せな家庭ー


金村 優姫(かねむら ゆき)は、

結婚5年目ー

とても、幸せだったー。


夫の金村 貞夫(かねむら さだお)とは

5年目になった今も、仲良しだったー


貞夫の大学時代に出会い、

意気投合して、やがて結婚、

今では3歳になる子供・清太郎(せいたろう)もいるー。


”幸せを感じる日々”-


清太郎の幸せを見つめながら、

貞夫と共に微笑み合うー


そんな、夢のような時間が流れていたー


けれどー…


「-----」

優姫は表情を歪めるー。


誰もいない家ー。

優姫は、スマホを見つめながら

悲しそうにため息をついたー


”接種日のお知らせ”


優姫は、それを見て現実に引き戻されるー

幸せな日々は”偽り”で、あると。


夫の貞夫と、息子の清太郎と一緒に写る

写真を見つめながら

優姫は”7年前”を思い出すー


7年前、自分はは”優姫”ですらなかったー。


黒金 由貴哉(くろがね ゆきや)--


そう、金村 優姫というのは偽名ー

優姫には、夫にも子供にも

伝えることのできていない秘密があるー


それはー

”自分が元男であることー”


高校を卒業したばかりの頃ー

当時、まだ男だった彼はーー

就職もせずに、

夜の街でふらふらと遊ぶ日々を送っていたー


そんなある日、

地元の不良たちと喧嘩になってしまい、

由貴哉はボロボロになるまで殴られ、サンドバック

状態にされてしまっていた。


「--も、、もう、、もうやめてくれ!」

両親とも不仲、素行不良の由貴哉にとって

喧嘩は日常茶飯事だったが

ここまでボコボコにされたのは初めてー。


怯えながら、不良集団の方を見つめるー


「へへへ、さっきまでの威勢のいい態度はどうした?」

不良のリーダー格がそう呟く。


さらに始まる暴行ー

由貴哉は悲鳴を上げたー。


その時だったー。


「やめろ!」

集団リンチを偶然見かけた男が、

たった一人で、大声の不良集団に声をかけたのだ。


「-なんだぁ?」

不良集団のリーダーが首をかしげる。


「--集団リンチなんて、みっともない真似はよせ」

堂々と集団の中に割って入りながら

平和的に収めようとする、その男ー。


見たところ、大学生ぐらいの男だ。


しかし、平和的に収まるはずなどなく、

不良集団が、助けに入った男子大学生に襲い掛かるー。


だが、彼は素早い身のこなしで、

相手を傷つけない程度に倒していくと、

「-警察、呼びましょうか?」と不良たちに

スマホをかざして見せつけた。


「くそっ!なんだこいつは!?おい、行くぞ!」

集団で襲い掛かっても

攻撃を軽々とかわしていく男子大学生に

気圧された不良集団は、そのまま

捨て台詞を残して走り去っていったー。


「さて…と。大丈夫か?」


「あ……はい…」

集団リンチされていた由貴哉を助けたのがー

当時大学生だった貞夫ー

女体化した由貴哉・優姫の夫となる男だったー


貞夫は「高校生?」と由貴哉に尋ねるー


「あ、いえ…卒業はしたんですけど」

由貴哉がそう言うと、

貞夫は、それ以上は深くは詮索しなかったー。


「-ーーー自分を、大事にしろよ」

貞夫はそれだけ言うと、由貴哉の肩を

優しく叩いて、

そのまま立ち去って行こうとするー


「あ、、あの…」

由貴哉が叫ぶ。


由貴哉の両親は、どうしようもない両親で喧嘩ばかりー。

由貴哉は、”人に助けてもらう”という経験を

ほとんどしないまま育ったためー

見ず知らずの貞夫が助けてくれたことに

強く心を打たれていたー


「--お名前は…?」

由貴哉が言うと、

貞夫は振り返ったー


「--はは、名乗るほどのことしてないし、

 気にするな。

 もう、危ないことはするんじゃないぞ」


それだけ言うと、貞夫は

少しだけ笑みを浮かべて、

そのまま立ち去って行ったー。


由貴哉は、そんな貞夫に、心を強く打たれたー


同じ男のはずなのに、

恋愛感情のようなものを抱いたー。


ある日、偶然、貞夫がバイト先の飲食店に

大学の友達と共にやってきたー


「--あ、この前の…」

由貴哉が言うと、貞夫が「お!頑張ってるな」と

笑いながら、由貴哉のことを思い出してくれたー


バイト中だったため、それ以上の会話はなかったー


だが、由貴哉の中の貞夫への好意は

さらに膨れ上がりつつあったー


そんな中、

貞夫が、一緒にやってきていた友達と

話している会話が耳に入ったー


”彼女とかいるのか~?貞夫は?”

友達のそんな言葉に、

貞夫は

”いやぁ~全然”と笑いながら答えていたー


この時、由貴哉は初めて

自分を助けてくれた人の名前を知ったー


そしてー


”自分が女だったら…”

と、いう感情が芽生え始めていたー


そんな中、偶然ネットで

怪しげな広告を見つけたー。


それは”女体化薬”と呼ばれる新薬の

研究開発の協力の募集だったー


「女体化薬…?そんなものが…」

説明を読む由貴哉ー


説明には、

”男性が飲むことで女性になることができる”

と書かれていたほか、

”偽名セット一式”もつくと書かれていたー


確実に怪しい団体のものであることは

容易に予想ができたー


だが、由貴哉は貞夫に恋をしてしまっていた。

もしも、もしも、自分が女になることができればー。


そう考えた由貴哉は、女体化薬の開発を行っている団体に

連絡を入れたー


その結果ー

彼は”女体化”したー。

試験段階の薬で”命の保証もない”などと言われたが

それでも彼は、女体化薬を服用してー

”女”になったのだー。


女になった由貴哉が、自分の身体を見つめながら

研究主任・花崎(はなざき)の方を見るー。


研究主任・花崎は眼鏡をいじりながら呟いたー


「-ーー女体を維持するためには

 月に1度、女体化薬の接種が必要です。

 接種を怠ると”男”に戻りますので

 必ず、当研究所に月1度、お越しいただくよう

 お願いします」


「わかりましたー」


こうしてー

由貴哉は、優姫と名前を変えてー

貞夫が通う大学の文化祭などに顔を出し、

バイトをしながら積極的なアピールを続けた結果ー

貞夫と付き合うことになり、

無事にゴールインしたのだったー


貞夫は、知らないー

優姫が、”元男”であり、

かつて、自分が助けた由貴哉という少年であることをー。


けれどー

月に1度、注射で女体化薬を、研究所で投与していれば

男に戻ることもないし、

研究所が、”優姫”として生きられるように

手続きもしてくれたようで、

何も困ることはなかったー。


女体化して7年ー

今や20中盤の優姫は、

すっかり女として生きることに慣れ、

おしゃれな格好で街に出ることが多かったー


だがーー


「え…」

優姫は、落ち着かない様子で髪をいじりながら呟くー


「--花崎は、先日、急性心不全で亡くなりました」

”TS研究所”の、研修主任・花崎が先日、突然死して

しまったというのだー


「え…花崎さんが…」

優姫は戸惑うー


花崎は、女体化薬の試験の担当で、

開発主任でもあった男だー。


だが、優姫はこの時点では

本当の衝撃をまだ知らなかったー。


花崎の後任の男・中久保(なかくぼ)は、

呟くー


「それで、申し上げにくいのですが…」

中久保の言葉に、優姫は「はい?」と

不思議そうな顔を浮かべる。


「---実は…女体化薬の生成方法は

 花崎以外に、知るものがいないのですー」


中久保の言葉に、

優姫はゾっとしたー。


女体化薬の生成方法を、

あの花崎さん以外、知らないー?


と、いうことは…???


「---申し訳ありませんが

 女体化薬の投与は、もうできません」

中久保が、そう言いながら頭を下げたー


「え…そんな!?!?」

取り乱す優姫ー


女体化薬を投与できないー


それはーー


「-ーー女体を維持するためには

 月に1度、女体化薬の接種が必要です。

 接種を怠ると”男”に戻りますので

 必ず、当研究所に月1度、お越しいただくよう

 お願いします」


”男”に戻ることを意味するー


”夫”である貞夫の顔が浮かぶー

”息子”である清太郎の顔が浮かぶー


幸せな家庭がーー

今の幸せが、壊れるーー


「こ、、、困ります!

 わたし、、夫もいて、息子も…!

 き、急に男に戻れだなんて!

 困りますよ!!」

優姫が、悲鳴にも似た叫び声をあげるー


だが、担当の中久保は

「申し訳ございません」と

頭を下げるだけだった。


「--わ、、わたし、、ど、どうすればいいんですか!?

 なんとかならないんですか!?!?」

優姫が叫ぶー


「---あと、1週間」

中久保は呟く。


「--女体化薬の効力は、あと1週間ほどで切れます。

 その間に、身辺の整理をされたほうがよろしいかとー」


女体化の薬は、投与が若干ずれても問題ないように、

1が月と1週間ほど、効力が続くように

担当の花崎は作っていたー


だから、投与ができなくなった優姫にも

まだ1週間残されているー


「--男に戻る準備をしろってことですか?」

優姫が呟く。


「--ええ」

中久保は頷いたー


1週間の間に、”妻”としての自分を捨てろ、と

そう言っているのだー


「--ふざけんじゃねぇよ!」

優姫が机を叩いたー


女体化して7年ー

おしとやかに女として過ごしてきた優姫は、

声を荒げることもなかったー


だが、

”自分の幸せ”が壊れることー

そして家族を裏切ることになることー

色々な気持ちから

”女体化する前の頃”の、狂暴な面が

表に出てきたー


「おちついて…!おちついて!」

中久保が慌てるー


「--あんたには分からないよな!?」

優姫が、可愛い声で泣きそうになりながら叫ぶ。


”男”としての口調でしゃべるのは

この研究所の中でだけー。

他の場所では、女体化してからは

ずっと女子として、女として振舞ってきたー


「--急に男に戻れって…そんな…

 そんなのありかよ…」

優姫は、その場で泣き崩れてしまったー


・・・・・・・・・・・


帰宅した優姫は、

悲しそうに窓の外を見つめるー


「おかえり」

今日は休日の夫・貞夫が、

優しく出迎えてくれるー


貞夫には”めまいの診察”と伝えてあるー。


結婚から5年ー

それでも、貞夫は変わらず、とても優しかったー


そんな貞夫との日々が、もうすぐ終わるー


そう思っただけで、優姫の目からは涙がこぼれだしたー


「--おいおい、どうしたんだよ?」

貞夫が苦笑いしながらも、

優姫のことを優しく抱きしめるー。


「---大丈夫。大丈夫だよ」

貞夫はそう言いながら優姫の頭を

静かに撫でると、

「何かあったのか?」と尋ねたー。


「--ううん。ごめんね…

 なんでもないよ」

優姫はそう言うと、びっくりしている息子の清太郎にも

ごめんね、と呟いて、そのまま自分の部屋に向かったー


「---この幸せがずっと続けばいいのにーー

 なんで…」

優姫は、部屋で一人涙をこぼしながらー

あと、1週間のことを考えるー。


もし、自分が男に戻ってしまったらー

貞夫も、清太郎もびっくりしてしまうだろうー


貞夫に、一生恨まれるかもしれないし、

貞夫は、一生苦しむことになるかもしれないー


大好きな貞夫に、そんな想いはさせられないー


だったらー


カレンダーを見つめる優姫


今日は日曜日ー

”次の日曜日”で終わりにするー


優姫は、そう決意するー


”男に戻る前に、わたしはみんなの前から姿を消すー”


そう決意して、優姫は、

涙を流しながら家族写真を見つめ続けたー



②へ続く


・・・・・・・・・


コメント


男に戻るまであとわずか…

どうなってしまうのでしょうか~?


続きはまた近日中に☆!

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