LANDCORAL10 (Pixiv Fanbox)
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■
「次の方~どうぞ~」
狭く暗い個室から前の客が出て行き、次の客が入ってくる。
「今日はお悩みですか?探し物ですか?」
「探し物です。どこをどう探せばいいものかさっぱりで」
「はいはい、探し物ですね。家の中ですか?外ですか?家の中なら間取り図があるといいんですけど」
「それは・・・答えるのが難しい質問ですね。家の中にあるのかも知れないですけど、どの家なのかは分かりません」
「ん?・・・あ、もしかして盗まれた物をお探しですか?」
「盗まれたと言えば盗まれたと言えるかも知れません。広い範囲からでも探し出せますか?」
「う~ん、探し物によります。広い範囲でもこの世に一つしか無いようなものなら見つけやすいですけど、ありふれたもの…あなたにとっては大事なものでも世の中にありふれてるものだとちょっと難しいかも知れません」
「そういうことならたぶん大丈夫かと。この世に二つは無いものですから」
「そうですか、分かりました。
えぇっとぉ…どんな?というか、具体的には何をお探しですすか?」
「箱です、小さな、手の平に乗るくらいの大きさの」
「はこ?ふむふむ、その中に宝石か何かが?」
「そう、ある意味宝石です。参考になるかどうか…似たようなモノがここに」
客は懐から箱を取りだし、向かい合っている占い師との間にある小さなテーブルの上に乗せる。
「・・・は、はぁ…宝石箱…ですね。でも似た物を見せられても余り探す役には…」
「見覚えはないですか?こういう箱に」
実は見覚えがあった。テーブルにのせられた瞬間にドクリと心臓が脈打ったが、そんなわけがないと思い込み平静を装った。
見覚えはない、と返事をする前に客が箱の蓋を開いた。
そこには大きく美しい珊瑚が収められたいた。そしてすぐに、占い師はそれが珊瑚ではないことを思い出す。
「え、え~と、これは、その…あなたはいったい…」
「すいませんが占い師さん、しばらく力を貸してください。1人じゃどうにも探しようがなくて」
唖然としている占い師の目の前で客はまた別の何かを懐から取り出す。
次の瞬間、占い師は懐かしい真っ暗な闇の中に居た。
『え、えぇぇ~~~っ!?な、なんでぇぇ???誰ですかあなたぁっ!あ、あなたもぉぉぉぉっ???』
およそ1年ぶりに身体の感覚が、一点を除いた身体の感覚がまるで無くなってしまう空間に送り込まれたリンジーはその事を忘れておりバタバタと藻掻く。元々行雲流水とした性格でもあるためとっさには以前自分を封印していた少年の名前も出てこない。出て来たところで先ほどまで目の前にいた男の風貌はまるで違うが。
何より、1カ所外に出ている部分がクリトリスではないという事にもまだ気づいていなかった。
客は何事もなかったかのようにテーブルの上の箱と、新たに手の平の上に出現した二つの箱を懐に仕舞い、慌てることなく占いの館を後にした。
■
「よぉ新入り。調子がいいらしいな」
「新入りって…そろそろ1年経ちますよ。それに特に調子がいいわけでもありません」
「謙遜すんなよ。何でもお前、マジャリの宮廷魔道士だったらしいじゃねぇか。ひょろひょろして冒険者らしくねぇとは思ってたけどよ」
「・・・それは間違った情報ですよ」
「そうなのか?でも腕はいいみたいじゃねぇか、ここん所のこなしっぷりを見てると。どうだ?次は俺と組んで仕事してみないか?」
「・・・遠慮しておきます。しばらくは誰とも組むつもりはありませんから」
能力は遙かにに劣っていても冒険者としては先輩に違いない気安い男を適当にあしらう。仮に優秀でもペペインには誰かと組んで仕事をする気はしばらくどころか全くなかった。
マジャリの宮廷魔道士の家系であれば、他国でも十分それなりの要職に就くことが出来たはずだが、安定した生活を送ることが目的で家を出たわけではないので、住む家を決めたペペインは同じくオティカの治安院で冒険者としての登録を済ませていた。
治安院を介して民間人に業務を委託する仕組みは分裂以前から存在しており、現在のベシーナ5各国でもそれほど変化することなく続いている。戦争が終わり騎士以外の一般兵を削減したい各国にとってはむしろ都合のいい制度であり、元々公的な業務の委託だったものにやがて民間からの依頼も加わるようになった。治安院を通すと報酬に加え仲介料が発生するが、一歩間違えばならず者と変わらないような冒険者もいる中で揉め事を避けるために公的機関を挟むのは民間の依頼者にとっても都合が良かった。
盗族などの犯罪者集団による自作自演を防ぐために仕事を受ける者は身分を提示した上で治安院に登録する必要がある。
彼らは冒険者や賞金稼ぎ、狩人などと呼ばれたり自称しているが、公的には単に被委託者と呼称されている。
マジャリを出ることにしたペペインはどこを新天地とするか、2国で悩んでいた。
ウポレとニチェは特にこれといった特徴が思い浮かばない田舎国家という印象が強かったため始めから頭になく、バーマとオティカで迷っていた。
大賢者が住まうバーマはマジャリ以外の4カ国の中でも特に国家として魔法使いを優遇しているため、家からの援助が何も無い状態で1人で生活を始める土地としては好ましいように思えたが、その賢者を慕って各地から様々な魔法使いが集まってくるため、自分の能力が並以下ではないことを分かっているペペインもその中に紛れてしまうのではという可能性を嫌い、結局真逆とも言える騎士国家のオティカを選んだ。
男から離れ、掲示板に目を通す。
依頼にはいくつか種類があるが、掲示板には登録者なら誰でも受けることが出来るものだけが張り出されている。
各地の治安院はその名の通り治安維持機関であり、既に判明している犯罪者を確保はするが、不明な犯人の捜査は行わない。そのため何らかの事件の解明が持ち込まれることも多い。
多い、が、人気はない。
たいていの冒険者は短期間で報酬のいい案件を選んでいくので、そういった手間がかかる依頼は余り好まれない。
ただし犯罪のに関わる事案を冒険者の好みに任せておくわけにもいかないため、捜査関連の依頼に全く手を出そうとしない者は院側から仕事を指定され、それでも従わない場合は登録を外される。
ペペインはオティカの治安院に冒険者として登録を済ませてからおよそ1年、まだ数こそ少ないがそういった犯人が特定されていない犯罪がらみの案件ばかりを選び、全て解決していた。
この日ももペペインは同様の仕事を掲示板から選び事務員に提出した。
「くんくんくん・・・もうずいぶん経つのに匂いが消えないのは不思議だね、リンジー」
ペペインは手の平に乗る大きさの器の表面に鼻を近づけ、嗅ぐ。
器は封印器であり、表面に出ているのは封印されている者の肛門だった。
『あ~嗅がないでぇ、恥ずかしいんですよぉ、それぇ』
被封印者、リンジーは微かに鼻息が掛かり続ける肛門をきゅっとすぼめる。自分の肛門の匂いがどんなものなのか知る由もないが、どんな匂いだったとしても排泄孔を嗅がれること自体が恥ずかしく、中で頬を染めている。
新たな仕事を受けたをペペインは準備を整え、馬車で現地に向かっていた。
家を出てオティカで生活を始めた当初は駅馬車を利用していたが、元々人の多い空間が好きではないため冒険者としての報酬で資金に余裕が出来ると移動の度に御者を雇うようになっていた。
その客車の中で懐からリンジーの箱を取りだし、整った形の肛門を眺め、匂いを嗅ぎながら時間を潰していた。
携帯しているの鞄のみで、その鞄の中には6つの箱が入っている。
ペペインにとって必要なのは探索機としてのリンジーと、何かの時に助けになるかも知れない大魔法使いの箱のみで、それ以外は出来ることなら持ち運びたくはなかったが、借りている部屋に置いておくのも心配なのでやむなく全てを鞄に入れたまま移動している。
邪魔でしかないためいずれ一軒家を購入した後には道具として不要な箱は観賞用として陳列し、秘密を守れる人物を雇い管理させようと考えていた。
「くんくん…恥ずかしいかも知れないけど、本当に理由が分からないんだよ。何度も洗ったのに」
『やだぁ、そりゃおしりの穴なんだから匂いくらいしますよぉ~!
・・・もう占い始めればいいんですかぁ?』
「まだいいよ、向こうに着いてからで」
およそ一年前、封印された6人の女達を手に入れたペペインはオティカで部屋を借りて以降、その研究を始めていた。
封印術、しかもクリトリスだけを外に出す様な封印の解析など初めてで、そんなものが存在することすら知らなかったが、何故かすんなりと構成を理解することが出来た。
封印器としての箱の形状こそそれぞれ違いはあるものの、6人の女達をそこに閉じ込めている術はどれも同じだった。
一般的な封印術は、仮に2人の魔法使いが別々にペンと椅子を封印した場合、その二つは同じ未知の異空間内の何処かに存在する。
しかしクリトリスだけを外に出す封印術を考え出した人物は元々ある封印術を流用することなく、独自の封印方式を作り出していた。
女達はそれぞれ独立した封印空間に閉じ込められており、繋がりはない。
更に一見それほど難しくないように思えるクリトリスだけを外に出すという形式も複雑な構造によって実現されていた。
人体に対し使用される機会が最も多い加療魔法にも切られた腕や穴の開いた心臓を自動的に特定し治す魔法はなく、いずれも施術者が損傷箇所に対して術を掛ける。
図らずも手に入れるに至った陰核開放型封印術は封印される対象の身長や性器の形状に関係なくクリトリスを特定し、その部分だけを封印から除外していた。
ペペインはいくつかの要素で構成されている陰核開放型封印術の内の、その部分からまず解析を始めた。
医療に関してはマジャリでさえ魔法に頼っている部分が大きいため、ベシーナ地方では純粋な医学の発展はかなりり遅れていた。医者でも加療魔法士でもないペペインにも人体に関する解剖学的知識はほぼなかった。
しかし研究を始めて程なく、ペペインは陰核開放型封印術が神経の位置関係を基にクリトリスを特定していることに気づいた。
神経の子細な流れには個体差があっても、指先や鼻、乳首、そしてクリトリスなどの終点は性別が同じなら差はなく、陰核開放型封印術は魔法言語化された神経図を元にクリトリスの位置を導き出していた。。
人体に関する知識、そもそも人体に神経網が存在することを知らなければ魔法言語を見ても何の情報が変換されているのか見当もつかないはずだが、ペペインには何故かそれが分かった。
そしてそれを応用することも。
神経の相互比較によって任意の箇所を特定しているので、必要なのは1カ所だけなのにも関わらず女性の神経網が全て魔法言語化されていたため、そこには膣や肛門も含まれていた。
それが分かれば最終的に封印空間から外に出す部分を変更することも出来るはずだった。
そしてそれはリンジーによって正しいことが証明された。
今のペペインにはいくつか目的があるが、その内の一つはマジャリで他の魔法使いから白い目で見られつつもある程度の地位を与えられている生活に甘んじることなく魔法使いとして大成することだった。
宮廷魔道士の家系であると言う地位を利用せず冒険者として治安院に登録したことからも分かるように自分自身の脚で各地を巡って見識を広める気も勿論あるが、それ以上にもっと効率のいい知識の入手方法をペペインは思いついていた。
魔法使いは全体数は少ないものの一般人が出来ないことが出来てしまう特別な人種であることには違いない。そのためマジャリは言うに及ばずその他の4カ国でもそこで暮らす魔法使いには一般人と別に専用の法が作られていた。
洗脳術や人間に対しての封印術、人体や建造物に損傷を及ぼす規模の物理現象魔法などは使用自体が禁止されており、細かい部分では施術者以外の魔法使いが簡単に解呪できないような魔法の販売も規制されている。防犯術や施錠術など普通に流通し一般人でも使えるような単純な魔法でも、作成者以外の魔法使いが解読できないような暗号を組み込む事は出来ない。
魔法使いは大別すると2種類、下級と上級に別れる。
その線引きは明確で、魔法を作り出せるか否かで決まる。
魔法の歴史は長く、古魔術研究者ですら未だにその起源に辿り着いていない。
そのため現在までに魔法言語化され魔力の生成さえ出来ればどの程度の魔法使いでも使う事が出来る魔法は無数にある。
そういった既にある魔法を使うだけの魔法使い達は下級に分類され、各地の都市で魔法商を営んでいる場合が多い。
一方上級魔法使いは、下級魔法士が使う魔法を作り出すことが出来る。
今の所単純に知能の高さの違いでしかないように思われてはいるものの、起源同様まだ完全に解明、発見され尽くしていない魔法言語に、複雑な人間の神経構造を変換するような作業は並の知性では行えず、魔力の生成量を左右する魔力体の質のように、何らかの遺伝的特質も少なからず関わっているのではと考える者もいる。
一般化された魔法商品に暗号などを組み込む作業は魔法を作り出しているとは見なされず、下級魔法士でも行える。
上級下級は半々ではなく圧倒的に上級魔法士の方が少ないが、イングリッドのような突出した異物とまでは行かなくとも、上級の中の更に上となると独断で使用されると国家運営に支障を来すような魔法まで使えてしまうため、ベシーナの各国とも自国に住まう上級魔法士の管理には余念がない。
マジャリ以外の4カ国は元々神聖力を信奉しすぎるサマンビータに反目して独立したので、魔法使い自体は基本的に優遇している。その魔法を独自の判断でなく、国の管理下で使用してさえくれれば。
そのため4カ国いずれも国が運営する魔法研究院を設け、上級魔法士達はそこで要職に就いている場合が多い。
しかしそれを良しとしない上級魔法使いもいる。
かつてのミルドレッドの様に自分が作り出した魔法を好きなように使いたいと考える魔法使いは高額の賞金首として扱われ、かつてのヘザーの様に抗魔遺伝子を持つ賞金稼ぎに狙われることになる。
自らも賞金稼ぎとなったペペインはそんな無法上級魔法使い達が起こしたのではと思われる事件だけを選んでいた。
ちまちまと各地を渡り歩きながら魔法の見識を広げるよりも、国に監視されることなく好き勝手に、気の向くままに研究を続けている無法魔法士の成果をまるごと頂いてしまった方が、遙かに効率的だとペペインは考えていた。
悪い噂を聞く魔法使いはいずれも上級だった。下級魔法士は法に背いたところで騎士や抗魔遺伝子を持つ戦士に対抗できないので、必然的に国に逆らって違法な研究をするには上級の力が必要になる。
最終的には依頼者に直接会って詳細を聞く必要はあるものの、冒険者向けの掲示板に貼られている内容はある程度詳細であるため、ペペインは各地に隠れている無法上級魔法士を見つけるためそこから状況的に何らかの魔法が使われていなければ起こりえなさそうな事件だけを選んでいた。
残念ながら今の所まだ当たりは引いておらず、これまで引き受けて解決した事件はどれもただの人間同士の諍いだった。
それでも収入にはなる為無駄にはならない。
いずれ目論み通り上級魔法士が引き起こした事件に出会えた場合も、魔法使いの研究成果とは基本的には知識なので、捕らえた魔法使いと共に押収品を治安院に引き渡しても、その前に暗記さえしておけば問題はない。
宮廷魔道士の家系を利用はしなくても自負はあるペペインは、この先見つける事が出来た上級魔法士の力が自分より上かも知れないという可能性は考慮していなかった。
「くんくんくん…じゃあリンジー、そろそろ占って貰おうかな」
『うぅ~占いますから鼻どけてくださぁい』
ペペインはリンジーの箱を乗せている手を下ろし、鼻から遠ざけてやる。
依頼者が住む町ニコンヤに到着し、直接話を聞いたペペインは宿を取ることもなく早速犯人捜しを始めた。
リンジーを手に入れる前の何件かの仕事はそれなりに日数を要したが、手に入れた後はリンジーが犯人を見つけてくれるため、上手く行けば到着したその日のうちに解決できることもある。
今度の仕事は消えた3人の娼婦を探して欲しいという、同じ娼婦仲間からの依頼だった。
消えたのも依頼者も娼婦、しかもこの事件に関しては依頼者が魔法使いを目撃しているので、ペペインが引き受けなければ長い間放置されたあげく最終的に何れかの冒険者に無理矢理割り当てられるような案件だった。
しかしペペインに取っては失踪という事件内容も魔法使いが目撃されている点も好ましかった。
単純に考えれば魔法使いが娼婦を攫い、何らかの実験をしているように思える。
3人は順番に消えたのではなく、同じ日に同じ場所で一瞬のうちに同時に消えていた。その様子を3人のもとに向かおうとしていた依頼者が目撃している。依頼者の娼婦は3人が突然消えた場所から立ち去った女が魔法使いだと知っていたわけではなく、3人が突然消されたので魔法使いの仕業に違いないと言うことらしい。
という話を全て、ペペインは懐のリンジーにも聞かせていた。
殺人や傷害などを犯して逃走している人物を捜す場合は犯人そのものを占って貰うしか無いが、今回のような誘拐や盗難の場合は犯人よりも盗まれた物を占って貰った方が確実で早い。
依頼者の話を聞いたペペインは念のため物陰に隠れてリンジーを取りだし、早速占いを始めて貰う事にした。
本来ならこれから町を歩いて噂になっているような無法魔法士がいないか聞いて回らなければならないが、リンジーがいれば、或いはあれば直接目的地まで導いて貰える。
「じゃ、出していいよ。出せる?何も塗らなくても」
『うぅ~…出せますけど出すとこ見ないでくださぁい』
ペペインの視線を感じ続ける肛門がひくひくと収縮し、やがて盛り上がり始めた。
『んんん~~~っ!!』
盛り上がった肛門が今度は広がり始める。色素が沈着し周囲の肌とは色が違う肛門の、更に色が違う桃色の肉壁が見え始めるとすぐに、奥に何かが入っていることが分かる。
その何かが肛門を更に押し広げながら少しずつ外に出て来る。
『んんん~~~~っ・・・んっっっ!!』
リンジーが力を込めると、表面に黄色い腸液を纏わせた何かがぷちゅりと音を立てながら完全に姿を現した。
『は、はぁぁぁ・・・で、でました?』
「うん、じゃあ早速で悪いけど、消えた娼婦達を探して貰える?」
かつてのようにクリトリスではなく、肛門だけを外に出した状態で封印されたリンジーはそこを入り口として使い慣れた三連輪内臓球形占術器を腸内に押し込まれていた。
かつての所有者達は占術器をクリトリスに吊して使用していたようだったが、必要ない時は全てを収納できた方がいいと考え、ペペインは実験も兼ねてリンジーに肛門開放型封印術を使ってみた。
新しい封印術は不具合なく機能し、このまま改良を続ければ膣や尿道は勿論、ペニスだけを外に出した男を封印する事も出来なくはなさそうだったが、少なくとも今の所ペペインにはそんなことをする気は一切無かった。
「どう?すぐ見つかりそうかな?」
『うぅ~そんなに難しくはないと思いますけどぉ…』
リンジーは広がったままの肛門に違和感を感じながら、その原因である球体に意識を集中する。
振り子運動は奪われているがリンジーの占術にとって重要なのは三つの輪の動きなので、それほど支障はない。魔法使いであるペペインは読心術が使えるため、意思の疎通に文字盤を必要とはしない。
肛門を大きく広げたまま半分以上が出ている球体が落ちてしまわないのは、腸内の占術器が8の字になっている為だった。
封印した当初は腸内に封印器を入れたまま占いをさせればいいと考えていたペペインだったが、封印空間の影響か上手く行かず、やはり球体は体外に出す必要があった。そのため町の細工師に依頼し、元の球体の下にもう一つの球体を繋げた肛門用の占術器を作らせていた。
外に出る上部は元々リンジーが使用していた占術器で、下部には伸縮するイラストマ製の球体が取り付けられている。
上部の球体は封印器の直径より小さいためリンジーがいきめば外に出るが、下部の球体は膨らませると直径よりも大きくなるため全て外に飛び出しててしまうことはない。
ペペインはリンジーの指示に従って歩き始める。
肛門が球体を産むところさえ見られなければ後は球体が肛門を隠してしまうので何の問題もなく人混みを歩くことが出来た。
仮に出す瞬間を見られても、手の平に肛門が乗っていると思う者はいないが。
リンジーはとにかくもう自分は封印されて占いの道具として扱われる運命なのだと半ば諦めていた。
かつて20年としばらくの間そうされていたようにクリトリスではなく肛門が外に出ていることに気づいた時は驚いたが、クリトリスに占術器を吊され、引き延ばされた裏側を回転する刷毛で磨かれながら占いをさせられるような辛さはなくなった。
しかし恥ずかしさは遙かに増してしまった。
新しい所有者のペペインは代謝が停滞している封印空間内の身体や腸内ならいざ知らず、外に出ている肛門の匂いがいつまでも消えないことを不思議に思っているらしく、リンジーは無抵抗な肛門を広げられ内側を拭かれては匂いを確かめられてしまい、その度に封印空間内で顔を真っ赤に染めていた。
しかも外に出ているのが肛門のせいか、ペペインの持ち方のせいか、クリトリスが外に出た状態で封印されている時は仰向けに感じていた中での姿勢が、今は下を向いているように感じる。その状態で占いをさせられると肛門から占術器を覗かせた尻を突き出して後ろ向きに運ばれながら探し物をしているような、間抜けでみっともない気分まで味わわされていた。
まず3人の娼婦が消えた場所に運んで貰い、そこから占いを始める。
リンジーは占術を学んだわけではなく、ある意味天才ではある。占えば当たるという結果があるからこそ占い師として成立しているが、本当に自分が占術器を使って占っているのか、占術器が占った結果を自分が読み取っているだけなのかも良く分かっていない。
しかも全ての占い師が三連輪を使用して占いをするわけではなくリンジーの家系に伝わっていた占術器を使用しているだけで、輪がある動きをしたときはこういうことを伝えているといった明確な教えがあるわけでもなく、自分が読み取っているつもりの輪の動きが、本当にその通りの情報を伝えたがっているのかという確証もない。
全てを感覚、かつては目や指や手の平、その後クリトリスになり今では肛門になってしまっている感覚で読み取っており、何の根拠もなくそんな気がするだけなので、輪は世界の終わりの日を伝えたがっているのにリンジーはそれを娼婦の居場所と解釈しているに過ぎないという可能性も無くはない。
それでも最終的には当たってしまうので、今の所リンジーにも所有者にも支障はなかった。
■
「あらあら~♫そんなにぷるぷるしても逃げられないの知ってるでしょぉ?
なぁに?もっと休みたかったの?でもあなたが交替してあげないと他の娘達が休めないでしょ?
それとも何かしら?あなたの分までお友達を責めた方がいいの?それならそれで構わないわよ?
そうしてほしいならちゃんとそうお願いしてみなさい。私の代わりに友達を苦しめてくださいって♫
・・・あらあらあらぁ?言えないの?うふふ♫友達思いのいい子ねぇ、あなた♫じゃあちゃんと順番通りにあなたが虐められる番でいいのね?
じゃあ早速準備しましょうね、またつら~い時間が始まるわよぉ♫♫♫」
責めを受けることを認めてもまだフルフルと震えているクリトリスに、マグダレナは硝子の蓋を被せる。
自分達を連れ去った女に自身によってしつこいほど説明を受けたため、自分が魔法によって封印されクリトリスだけを外に出した状態であることは良く分かっていた。
そして、何の抵抗も出来ないことも。
女の、女が使うモノの責めは容赦がなく、本心ではもっと休ませて欲しかった。連れ去られてから体感では1ヶ月ほど経過しており、その間定期的に休ませて貰える期間がある。それが自分以外に他に2人責める相手がいる為であることも分かっており、もしも攫われたのが自分一人だったと想像すると背筋が凍った。
クリトリスの先端に動くモノが触れ、クリトリスの持ち主は覚悟を決めた。
「ほ~ら、ジャグラタもあなたを責めたくて待ちかねてたみたいよぉ♫たっぷり鳴かせて貰いなさい♫」
クリトリスに被せた硝子の蓋の裏には、くねくねと蠢く軟体生物が張り付いていた。
ぴちぴちと不規則に動いていた大小12本の触手がクリトリスを見つけると一斉にその方向に手を伸ばし、早く捕まえたいと催促しているような様はマグダレナの言うとおりクリトリスへの責めを待ちかねていたかのように見えた。
マグダレナが作成し、ジャグラタと名付けた魔法生物は蓋が完全に閉まる前から自身の中心にクリトリスの先端が位置するよう触手を広げ、蓋と土台が完全に密着するとその触手を閉じ、8方向からクリトリスをしっかりと抱きしめた。胴から生えている触手は8本だが、途中で二叉に分かれているモノがあるため、クリトリスの根元では12本になっている。
クリトリスに密着すると、ジャグラタは打って変わって大人しくなった。静止しているわけではなく、胴をゆっくりとくねらせ、すりすりと触手を滑らせながら、捕らえられ為す術なく自分に責められるしかないクリトリスを愛でているように見える。
もう一つ、長く責めるために創造主から動力源を与えて貰うのを待ってもいた。
流通経路は不明だが、数ヶ月前ニコンヤの魔法商から人造魔法生物の卵を手に入れたマグダレナはそれを改造しジャグラタを作り出していた。
魔法商はその用途が分からないまま、珍しく且つ高度な人造生物として入手したようだったが、その卵よりも前に陰核開放型封印術に出会い既に解析を終えていたマグダレナはすぐにそれが陰核を責めるための生物であることに気づいた。
元の生物は魔法商の言うとおり出来が良く、陰核を責めるという行為に於いては手を加える余地はなかった。
しかし魔法使いとしてまさに魔法生物学こそが専門分野であるマグダレナは如何に高度に作られていても他人が作ったモノをそのまま使うのが気に入らず、自分好みに作り替えていた。そのため改良ではなく改造になる。
マグダレナはジャグラタを乗せてある机に突っ伏し、指先から魔力を与えてやる。元の生物は取り付いた相手の尿を動力に変換し、封印空間の特性を利用しながら外されない限り半永久的に動き続ける構造が確立されていたが、やはり他人が作った構造は如何に素晴らしくとも、むしろ素晴らしければ素晴らしいほど癪に障りそのまま使いたくなかった。
また手に入れたクリトリス達は単なる観賞用ではなく実験材料としての用途もあるため半永久的に責める気はなく、定期的に外して休ませるのに都合のいいようジャグラタの動力は単純な魔力供給式に作り替えた。
尤も実験材料としての役目が終わり、マグダレナが尿変換式以上に効率的な動力循環法を思いついてしまった場合、クリトリス達の運命は決まってしまうが。
生命維持だけでなく、激しく長時間動けるだけの魔力を与えて貰ったジャグラタは表面に魔法言語を浮かび上がらせながら徐々に動きを早めていく。
マグダレナのオモチャになっているクリトリスは3人分あるが、ジャグラタは1体しかいない。
単なる生物としてならいくらでも培養できたが、マグダレナは魔法生物学が専門だけあって元の生物にはなかった機能も追加しており、そのせいで複数体作ることが出来なくなっている。
しかしその機能によってジャグラタは先ほどまで責めていたクリトリスと今責めているクリトリスが別物であり、もう一つと合わせて自分が3人のクリトリスを責めていることを理解している。更に1度だけ、短い時間味わった4つ目があることも。
ジャグラタは表面を撫でていた触手に力を入れ、全方向からぎゅっとクリトリスをつまむ。
そして裏筋、裏の両側、側面、背の両側、背中、それらの根元をそれぞれ独立した動きで擦り始める。
「ほ~ら、始まったわよぉ♫もう気持ちいいわよねぇ?すぐにイっちゃいそう?
早くイって頂戴♫イってもイっても立て続けにイかされてぴぃぴぃ鳴いちゃう声が聞きたいのよぉ♫」
マグダレナは机に突っ伏したままの姿勢で動き始めたジャグラタとびくびくと暴れ始めたクリトリスを眺めている。
元となった生物はクリトリスを完全に覆い尽くす形状たっが、マグダレナはそれを嫌いクリトリスを責める器官を胴から触手に変えた。それに付随して土台の表面に張り付くのではなく蓋に張り付いて上から包み込む形状に変えられている。
胴で責める方式を嫌ったのは作成者に対する嫉妬ではなく、もっとはっきり責められて悶えるクリトリスを見たかったからに過ぎない。
改造は功を奏し、責められながら赤く充血し、逃れようと藻掻くクリトリスをよりはっきりと眺める事が出来た。
元となる生物はその胴によってクリトリスを完全に掌握していたが、ジャグラタは藻掻くクリトリスを追いかけながら責め続けている。今は。
ジャグラタが本領を発揮する前に、触手に擦られていたクリトリスは1度目の絶頂を迎えた。
「あらぁ?うふ♫今イったのかしら?イったのよねぇ♫
さぁ、ここからが大変よぉ♫知ってるわよねぇ?これからどんどん激しくなって、何度も何度もイかされちゃうのよねぇ♫どんなにイヤがってもダメよぉ、あなたはどんなにイきたくなくて泣きながらお願いしてもどうにも出来ずにイかされ続けるしかないのよぉ♫手も足も出ず…ふっ、ふふふっ♫本当に手も足も出てないんだものねぇ、あなたは♫
私を楽しませるためにたっぷり苦しまないとねぇ♫ずっとあなたの可愛い鳴き声聞いててあげる♫
あら、2回目かしら?イけばイくほど辛くなるのに早いわねぇ、でもこれからが本番よぉ♫」
ここからが本番というマグダレナの言を理解したかのようにジャグラタは更に動きを早める。
蓋から下に向かって伸びている触手の半分はクリトリスの表面を這いながら擦る動きで刺激を与えているが、もう半分、先端はかりかりこりこりと引っ掻くような動きで別の刺激を与えている。
そしてその触手の裏側、クリトリスに接する面にはびっしりと繊毛が生えていた。
胴でクリトリスを包む形状を変更したものの繊毛での刺激は残したかったため必然的に生やす部位は決まってしまった。触手の裏のみに生えているため胴の内側全体に生えそろっていたときより数は減っているが、その効果は衰えていない。
元の生物はでは根元を責める為だけに使われていた触手が今度はクリトリス全体を刺激しながら激しく動き回るため、繊毛は個別に動きながら触手に合わせてその位置自体も大きく変化させる。結果的にクリトリスはやはり全体を細かい繊毛にまさぐられることになる。
しかもクリトリスにクリトリスに吸い付きながら動いていた胴の圧力がなくなったため、マグダレナは意地悪く何の魔法も薬も使われていない、執拗な責めによって肥大しただけのクリトリスでもはっきりとその動きが分かるように繊毛をより硬く作り直していた。
また先端が届かない触手自身の付け根、クリトリスにとっては先端に当たる部分にはぼこぼこと細かい凹凸が作られており、その部分も独立して動きながら先端だけを刺激し続けている。
既に連続絶頂が始まり、一層激しくのたうち回り始めたクリトリスにジャグラタは追従し、擦り、搔き、突き、くすぐりながら喜々として責め立てる。
同じ姿勢のままマグダレナは苦しみ始めたクリトリスをうっとりと眺め、左手を股間に向かわせて既に濡れている自身の割れ目に指を這わせ始めた。
「んふん♫まだ本番じゃないのにもうずいぶんイっちゃったわねぇ♫
そんなにすぐイってたら後々どんどん辛くなるわよぉ♫・・・だってあなた、今度は10日くらいそのままなんだから♫♫」
既に中で喚いてはいたがまだ相手の言った意味が分かる程度には意識がはっきりしていた中の女は目を見開いた。
これまでは2、3日責められては休憩を与えられたいたが、女はそれを一気に3倍以上に延ばすという。
すぐさま外の女に向かって懇願を始めたが、それがマグダレナを喜ばせるだけであることも、まだ本番ではないという意味も中の女には分かっていた。
リンジーの占いに導かれながら娼婦誘拐犯を捜し始めたペペインはすぐにニコンヤを出た。
「ねぇリンジー、だいたいの距離とかも分かるのかな?目的地までの」
『えぇと、正確には分かりませんけど、今度はちょっと遠いかも知れません』
探索機としてリンジーを入手する前も後も、治安院を介して選んだ仕事の犯人はどれもただの人間だったため、いずれも同じ町や村の中など近場で見つけることが出来た。
そのため短時間で効率よく解決できていたが、目星の人物が遠くに逃げていたり隠れていたりすれば移動だけで時間を取られてしまう。
如何にリンジーの占いと言えど開始直後に目的の人物がいる場所を特定できるわけでなく、三連輪の動きを読みながら徐々に方向を調整しやがて到着するので、近くまで一気に馬車で向かう事が出来ない。手の平の肛門に喋りかけている姿を見られる危険もあるし、後々あの冒険者は迷うことなくすぐに犯人がいる場所へ向かった、共犯者かも知れないという噂を流されても困る。
連れ去り現場以来リンジーは肛門から占術器を出したままだった。外の球と中の球が繋がっている部分はそれほど太くはないとはいえ、数時間肛門が開きっぱなしになっていることには違いない。
リンジーの肛門の匂いがいつまでも消えないのはこの辺りに理由があるとペペインは考えていた。
封印される瞬間に体内に残っていた物は一緒に封印されるため排泄物も同時に封じ込められている。外に出ているのがクリトリスの場合それらはそのまま中に残り続けるが、リンジーの場合は外に出すことが出来た。寧ろ元々中に占術器を収納する目的で肛門を外に出すことを選択したため、是が非でも腸内を洗浄しておく必要があたった。
リンジーは封印するとすぐに何度も浣腸され、完全に固形物が混ざらなくなるまで中に残っていた排泄物を出し切っていた。
そのためこの先二度と排便をすることのなくなったリンジーの肛門はいずれただの穴の開いた皮膚として匂いは無くなっていくものと考えていたが、およそ半年たった今でもまだ肛門特有の酸っぱさの混ざった匂いが残っている事をペペインは不思議に思っていた。
実は外に出ている部分も中同様代謝が滞っているのではないかとも考えた。もしそうなら6つの箱の内3人分のクリトリスに被されていたビラチーナと名付けられているらしい陰核酷使用生物のエネルギー供給方式を尿変換式から完全循環式に改良することも出来る。
しかし実際は違うようっだった。
太い占術器を大してほぐして貰えないまま無理矢理押し込まれた際、リンジーの肛門は少し切れてしまった。
その傷が今ではすっかり治ってしまっているため、やはり封印の外に出ている部分は代謝が働いていると考えられた。
そのためペペインは今ではその占術器自体が匂いの元になっていると考えるようになっていた。
一度排泄された便が尿のように封印空間で循環し再生成されることはない。しかし腸液は分泌され続けている。
普段は腸内に収納され、必要に応じてその腸液を纏いながら出し入れされる占術器が偽物の便の役割を果たし、肛門に匂いを残し続けているのだろうとペペインはほぼ結論づけた。
だとすればその結果はこの先の封印術研究に何の影響も及ぼさない無意味な現象でしかない。
唯一意味があるとすればペペインはリンジーの肛門の匂いが嫌いなわけではないので、それが今後も残り続けるならそれはそれで楽しむことが出来た。
ニコンヤを出たときはまだ明るかったが、既に辺りは闇に包まれている。
生まれてこの方頭を使うばかりで運動らしい運動などしてこなかったペペインはかなり疲れていた。
「ね、ねぇ…リンジー、これ以上掛かるなら今日はもうここまでにようかと思うんだけど。野宿は不本意だけど」
『疲れてますね、そんなに歩きました?中だとあんまり時間の感覚が無くて』
リンジーは僅かに皮肉を込めて言う。実際は今までで一番長く肛門が開きっぱなしになっているのである程度時間の経過は察している。
「はぁ…後どれくらいかな?まさか探してる相手が移動してるって事はないよね?」
『それはないと思いますけど…何処かに森が見えますか?』
「何処かにって言うか、正面に広がってるよ。今そこに向かって進んでる」
『あ、じゃあもうすぐですよ。その森の何処かだと思います』
ペペインは胸をなで下ろした。森の入り口までまだ数キロはあるが、このまま歩き続ければ何の準備もしていない状態での野宿は避けられる。
ペペインは犯人を捕らえ、且つその犯人が身を隠しているであろう屋根のある場所で休息を取るべく、森に向かって歩を早め始めた。
結局リンジーのおかげで日付が変わる前に犯人の元にたどり着けそうだったが、そのリンジーに頼らず普通の冒険者のように町で情報を集めていれば、森の中に住む魔法使いがどのような人物であるのかも、消えたのが3人の娼婦だけではないという情報もペペインは手に入れることが出来ていたはずだった。
藻掻くクリトリスを眺めながらの自慰を終えたマグダレナは研究用の机の前に移動していた。
マグダレナにとって最も楽しいのは責めが始まりクリトリスの持ち主が止めて欲しいと哀願を続けられるまでの期間で、そのために定期的に休息を与えていると言っても良かった。
ある程度責めが続くとクリトリスの持ち主は懇願することも出来なくなり快感による苦悶の嬌声を上げるだけになってしまうので、そうなると鑑賞は終わる。
ただし泣きながらイキ続ける女達の声は耳に心地いいので、眺め続けることは止めて研究を再開しても読心術を切ることはなく聞き続けている。
そんな心地よい鳴き声に混ざって、耳障りな警戒音が聞こえて来た。
マグダレナは培養皿を覗き込んでいた頭を起こす。
「あらぁ?珍しいわねぇ、同業者が来たわ」
理由は様々でも人目を憚り隠れ住む魔法使いが皆来訪者を警戒し術を施しているように、マグダレナもまた家の周囲に警報術を張り巡らせていた。
更にマグダレナは警戒領域内に侵入した者がいる事だけでなく、監視紋で確認する前からその来訪者が魔法使いであることも知ることが出来た。
マグダレナは森の中に自ら作り出した監視生物を放っていた。
小さな羽虫は普段はただの虫として活動しながら、特定の領域内に創造主以外の人物が侵入しているのを見つけると、その相手が人間か魔法使いかを判断し異なる警報音を発する。また木や地面に施されている警報術と違い自ら移動できるため、発見した人物の後を追い監視を続ける。侵入者が領域から出ていけばそれで良し、更に自分が産まれた地点に近づくようなら徐々に警報音を大きくしていく。
もしも侵入者が複数なら周囲を飛んでいる仲間を呼び集め一対一で追跡する。
警報音は監視虫が物理的に発しているわけではなく、通常の警報術同様魔力として送信され施術者、この場合作成者のみに聞こえる。
が、ペペインは何者かの警戒領域に自分が侵入してしまったことに気づいた。
警報を魔力で送信している以上、それが紋からでも虫からでも感知力の高い人間なら魔力の動線に重なると魔力が直接身体に触れていることになる為気づくことが出来る。。
ペペインはその発生源が周囲を飛んでいる虫であることまでは気づかなかったが、何処かから何処かへ向けて魔力が送られ始めたことには気づいた。
「お疲れ様、リンジー。今回もちゃんと占えたね。着いたみたいだよ」
『え?あ、そうですか、着きましたはぎゅっっ!?』
ペペインは用がなくなった占術器をリンジーの腸内にぎゅむりと押し込む。球と球の連結部の太さで広がっていた直腸が通過する占術器の直径まで一気に拡げられ、その痛みに耐えるようにひくひくと蠢き、やがてぎゅっと窄まる。
『くぅぅぅ~~~っ…も、もっと優しくするか、しっかりほぐしてくださぁぁぁい』
ペペインは読心術も早々に解除し、蓋をしたリンジーを袖の中に仕舞う。
紋は見つからないが何らかの警報術を使用しているとなると、目撃者の言うとおり目当ての人物は魔法使いで間違いないらしく、ペペインは一応警戒する。用心深い魔法使いならこの先問答無用で接近者を攻撃するような術を施している可能性もある。
ペペインの想像ほどではないが、マグダレナもまた来訪者を警戒し全身に魔力を張り巡らせる。
敵として対峙する際魔法使いが最も嫌うのは騎士、次に魔法耐性を持つ戦士で、同じ魔法使いは3番目でしかなかった。
魔法使いが魔法を攻撃に使う場合、大きく分けて2種類の選択肢がある。魔法によって炎や雷、または氷の弾など物理現象を引き起こして相手の肉体に直接的な損傷を与える方法と、術そのものを相手に対して使用する方法。
物理現象は言わば騎士や戦士が剣や弓を武器に使うのと等しく、素早く動き回ることの出来る彼らに対し並の人間と同程度の身体能力しか持たない魔法使いが発生させた現象を命中させるのは難しい。
逆に同じ魔法使いに対しては物理現象魔法が有効になる。魔法には洗脳術や麻酔術、捕縛術など他人の自由を奪い、その後悠々ととどめをさせる種類のモノが多々あるが、それらは予め魔力を纏っておくことで命中した瞬間にかき消すことが出来る。しかし爆風で吹き飛ばされた無数のつぶてや高速で襲いかかる氷の弾を避けることは難しい為、魔法使いには物理現象の法が効果的だった。
相手が魔法使いであることが分かっているマグダレナはまず魔法を直接掛けられることを警戒して身体に魔力を纏った。
魔法使いたちは魔法を使う前に何らかの目的で魔力を帯びておくことを纏うと表現するが、薄衣のような魔力を身体の表面に纏っているわけではなく、魔力を細胞内に留めておくことを言う。魔法言語化された術ではないため、帯魔防御法とも呼ばれる。
魔法言語に変換されていない魔力は通常、そのままの状態では空気中に留まることは出来ず、すぐに霧散してしまう。しかし細胞壁内になら細胞一つ一つの容量分溜めておくことが出来た。
予め魔力を纏っておくことは魔法の発動時間を短縮する効果もあるが、魔力が細胞の内側にあるため物理的な攻撃はほとんど防ぐことは出来ず、身を守る場合操心系や麻痺系など直接人体に影響を与える魔法を接触した瞬間相殺させるために使われる。
爆発や矢などを魔法で防御するには体表に術を張る必要があるが、魔法言語に変換されていてもいなくても細胞外に放出された魔力はつい先ほどペペインが警報術に気づけたように、ある程度の魔法使いなら感知することが出来てしまう。
魔力を纏うことは感知されることなく最低限の防御態勢を整えることが出来るため、敵対することになるかどうか分からないが警戒が必要な魔法使いと対峙する必要が場合、保険として使用されることが多い。
既に1つの様式になってしまっているため感知は出来なくとも相手が魔力を纏っているであろう事は想定されてしまうが、どういう展開になるか分からない相手に露骨に体表に魔力の膜を張って対峙するよりは必要以上の警戒心を与えずに済み、猶且つ自分の力量を隠しておくことも出来る。
細胞内に魔力を溜めるためどんなに力の差がある魔法使いでも量に大差は無いが、その防御性能は魔力の密度に依存しており、その密度は魔力体の質によって変わるため、単純に魔法使いとしての能力が高ければ高いほど攻撃を相殺しやすくなる。
そのため力量に差がありすぎると魔力を纏ったところで大した効果は期待出来ないが、上級魔法士の中でも上位に位置するマグダレナにその心配はほとんど無かった。
同時にそれはマグダレナの魔法は魔力を纏っている他の魔法使いのほとんどに効果を発揮するという事でもある。
マグダレナは今回も一方的に相手に麻酔術なり捕縛術なりを使い、悠々と相手の攻撃を封じることが出来ると考えており目的が分からない同業者の来訪にも全く慌てることなく、寧ろうきうきしながら山荘に到着するのを待っていた。
相手に敵意があろうとなかろうと、マグダレナにとって侵入者は自ら進んで人目に付かない場所までやって来てくれた実験材料でしかなかった。
とはいえ、十中八九侵入者は敵意を持った相手、恐らくは賞金稼ぎだろうとマグダレナは予想していた。
ちらりと、机の上で苦しみ続けている心当たりに目を向ける。
法律に背くことは何とも思っていなくともこれ以上敵を増やすこともないと考えマグダレナは娼婦を攫っていた。
始めからジャグラタに責めさせる目的だったため本当ならもっと若く無垢で、性的な知識のないような良家の少女を無慈悲に責め立てて楽しみたかったが、間違いなく大騒ぎになる事を経験上分かっていたため、消えたところで誰も気にしなさそうな娼婦で妥協していた。妥協と折り合いを付けるために数を3人にしたのだが、その3人には消えた事を心配し冒険者に捜索を依頼するような家族なり友人がいたのかも知れない。
それはそれでマグダレナに更なる楽しみを予感させた。
来訪者が女ならすぐさま四つ目のオモチャとして、男だったとしても予想同意通り賞金稼ぎで依頼者が女なら、捕らえた後その依頼者を聞き出し、苦悶の日々を送るクリトリス達の仲間に加えてやることが出来る。
もうじき何者かがやって来るにも関わらず、マグダレナはまたも無意識に股間に指を伸ばした。
ペペインも既に魔力を纏っていた。
警報発生地点からしばらく歩き、辿り着いた灯りの漏れる山荘の中にいるのが誘拐犯でほぼ間違いないとは思っている。しかし娼婦の捜索以外の個人的な目的もあるものの、正式に治安院から仕事を受けた冒険者として訪れる以上問答無用で先に攻撃するわけにも行かず、逆になりふり構わず先手を取ってくるかも知れない相手からの攻撃に備えておくことは必須だった。
フドヘドラーフ家の血はペペインに上級魔法士の力を与えてはくれたが、その境遇はペペインに自分より上の魔法使いと出会う機会を奪ってもいた。
本人は油断していないつもりだが、なまじ才能があるだけに目の前の扉の向こうにいる相手が自分以上の魔法使いであるかも知れないという可能性の考慮がすっぽりと抜け落ちている。
ペペインは丁寧に4度、扉をノックした。
「すいません、中の方。こちらに女性が3人監禁されていると思うのですが、中を確認させて頂けませんでしょうか?」
「・・・あらぁ?ずいぶん礼儀正しいわねぇ。いいわよぉ、入っても。鍵は開いてるから」
中から聞こえて来た声に従いノブに手を掛けようとしたとき、ペペインは自分が何も考えずに扉をノックしてしまっていたことに気づいた。扉に何らかの罠魔法が仕掛けられていた場合ノックもノブを掴むことも変わりなく、如何に相殺防御用に魔力を纏っていても一度攻撃を相殺し、消費された分の魔力を改めて溜め直す瞬間を狙われて仕舞ったのでは何の意味も無い。
魔力は自動的に細胞内に留まってくれるわけでなく、何度も練習し自身の魔力が外に漏れない許容量を把握しておく必要がある。微妙な調整が必要なため瞬間的に小さな細胞の容積ぴったりに魔力を満たすのは難しく、だからこそペペインもマグダレナでさえも事前に準備しておく必要があった。
ペペインは気を引き締め直して慎重に扉を開き、中に入った。
「まぁ♫若いお客さんねぇ。何てだったかしら?ここに誰かが監禁されてるって言ってたかしら?」
マグダレナは椅子に腰掛けたままペペインを迎えた。指を舐め、舌で膣液を拭う。
「ええ、私は冒険者です。この近くのニコンヤから連れ去られた3人の女性を探しているのですが、ここに居ませんか?」
「まぁ、3人も?それは大変ねぇ。でもこんな小さな小屋の中に3人も人が閉じ込められてるように見えるかしら?」
ペペインは室内を見回す。外から見た時点で山荘の大きさは分かっており、確かに大きくはない。部屋は複数あるようで3人程度の人間を隠しておくことは出来そうだが、家主以外の気配は感じない。
魔力が細胞内に留まっていても訪問者を直接視認した瞬間マグダレナにはその力量が分かったため、後はお遊びだった。拘束しようと思えばいつでも出来るため、しばらくしらばっくれてみる。来訪者がなぜここに女達が居ると分かったのかも分からないし、クリトリスだけになっている女達を見せてその反応を見てみるのも楽しそうだとも考えている。
「・・・魔法使いですよね、あなた。隠す方法はいくらでもあるでしょう?探させて貰ってもいいですか?」
「あらぁ、傷ついちゃうわぁ。私、人を攫ったりするように見えるのかしらぁ?
でもいいわよぉ、どうぞ探して頂戴。何も隠すようなことはないんだから」
室内を捜索する許可を貰ったペペインは女に背を向けることを警戒しながら隣の部屋に移動する。
捜査らしいことなど全くしていないため女が誘拐犯である証拠は一切無く、女自身も自分は無関係と言っているが、ペペインは全く自身の判断、というよりもリンジーの占いの実績を疑っていなかった。リンジーを使うようになってまだ両手で数えられるほどの件数しか仕事をこなしていないが、いずれも的確に犯人まで案内して貰えたため今では導かれた先にいるのが目当ての人物であると信じて疑わなかった。しかし根拠がない以上リンジーが占いを失敗している可能性も皆無ではないため、問答無用で相手を拘束しその後証拠を探すようなことはせず、今回の場合は先に娼婦たちを見つけておきたい。もしも相手が先に何らかの攻撃を仕掛けてきたなら、それはそれでその行動自体が証拠になる。
ペペインは名前すら知らない女の台所を漁っていく。
名前すら知らない。ペペインは部屋から顔だけを出し、女に名前を尋ねた。
「あらぁ?名前も知らないのに私が犯人だと思ってこんな所まで来たのぉ?心外ねぇ、私はマグダレナよ♫」
「マグダレナ…」
ペペインは娼婦達の捜索を再開した。女、マグダレナが魔法使いである以上気配を出させず狭い空間に人間を隠す方法はいくらでもある。一目見ただけで人がいなさそうに見えてもいないとは限らない。
麻酔術を掛ければ気配は消せ、封印術を使えば人間一人を隠すのに人間一人分の空間は必要ない。最終的には生け捕りにして治安院に引き渡すことになるので、目撃したものをばらされないようにリンジーを使って探すことは出来ない。
「・・・ん?」
そう考えながら台所を捜索していたペペインは、つい先ほど、山荘内に入った時点での光景を思い出した。
「封印術…いや、まさか…」
椅子に座っていたマグダレナの横の研究机の上に、見慣れた珊瑚の宝石が2つ飾られていたように思えた。室内を見回した際に目には入っていたが、自分以外の人間が知っているはずがないと思っていたため、今の瞬間まで気に留めていなかった。
しかし娼婦達が封印術で隠されている可能性があるなら、あれも封印術の一種には違いない。ペペイン自身誰かが考え出した封印術を習得しているに過ぎないため、マグダレナが知らないという保証はない。
「なぁに?何をぶつぶつ言ってるのかしら?女の子達なんていないでしょ?」
ペペインはもう一度机の上を見るために台所から姿を現した。珊瑚が蠢いているのを確認できれば、それは珊瑚ではないという事になる。
「・・・そうですね…もしかしたら私の勘違いかも知れません。人の気配もないですし…」
捜索を断念した風を装ってゆっくりとマグダレナに近づく。珊瑚が予想通りであった瞬間攻撃を仕掛けるため、纏っていた魔力を流用し、気づかれないように発声しない詠唱の準備も始める。
「あらぁ?もういいのぉ?他の部屋も探さなくていいのかしらぁ?」
珊瑚の他にもう一つ、ペペインには気になることがあった。
マグダレナという名前に聞き覚え、というより見覚えがあった。
治安院に登録し被委託者となったペペインは冒険者達に注意を喚起するために作られた要接触警戒者の一覧を見る機会があった。一覧の最上位には皮肉にもその後閲覧者自身に所有されることになる大魔法使いの名が書かれていたが、その下、複数いる上位の警戒対象者の中にマグダレナの名前があったことを、ペペインは思い出した。
しかし名前だけでは判断できない。名簿には備考の欄もあった。
「・・・マグダレナさん、同じ魔法使いとしての純粋な質問なんですが、何を専門になさってます?」
「専門?そうねぇ、何でも出来るけど、しいて言うなら魔法生物かしら?」
そう聞いた瞬間、ペペインは準備していた攻撃用の詠唱を静かに放棄した。
まだ確定したわけでは無いものの、目の前にいるのが警戒対象の上位に挙げられていたマグダレナと同一人物なら、帯魔防御法によって攻撃を打ち消すことが出来るのは自分ではなく相手の方だった。
相手が自分より上の魔法使いという可能性が出て来た以上、無謀な攻撃を仕掛けるよりも一旦立ち去った方が賢明だとペペインは即座に判断した。もしも先に攻撃された場合悠々と後手に回ることなど出来ず、初手がそのまま効果を発揮してしまう。
「マグダレナさん、やはりここに人が監禁されてるとは思えません。情報が間違っていたようです。夜分ですので後日改めてお詫びに…」
「あらぁ、情報?どんな情報かしらぁ?情報を元にここまで辿り着いた割には私の名前も知らなかったのよねぇ?本当はどんな方法を使って私が女の子達を攫った事を知ったのか気になるわぁ♫」
「えっ?」
マグダレナが娼婦達の誘拐を示唆したことに気づいた次の瞬間には、ペペインは既に麻痺術を掛けられその場に立ち尽くしていた。来訪者の態度の急変をマグダレナが不審に思わないはずがなく、漸く対峙している相手がが自分より上だと気づいた賞金稼ぎが逃げ出す気になった事はすぐに気づかれていた。
ペペインに取っては回復魔法以外を始めて他者から掛けられたことになる。
「う・・・く・・・」
一応解除できないかと試してみるが叶わず、そのこと自体が目の前の女が要警戒対象のマグダレナ本人であることをほぼ決定づけていた。ペペインも一応上級魔法士ではあるので、その自分の防御法を越えて魔法を掛けられるマグダレナという名の女魔法使いは恐らく一人しかいない。
「う・・・失敗しました。マグダレナさんというのは、あのマグダレナさんなんですね?」
「あのって言われても、どのかしら?まぁ、言いたいことは分かるけど。たぶんそのマグダレナよ♫本当に知らずにここに来ちゃったのねぇ。ダメよ、冒険者が下調べもせずに動き回っちゃ♫」
捕まってしまった直後だというのにペペインはマグダレナの言うとおりだと反省し始めた。何事にも油断はしていないつもりだったが効率を優先する余りリンジーに頼りすぎていたこと自体が油断だった。
「でも不思議ねぇ、そんなに優秀な賞金稼ぎ君には見えないけど、名前も知らないままこの場所は見つけられたのよねぇ?名前を知らなかったって言うのは演技かしら?でも私のことを知ってるならのこのこやって来るはずもないし、やっぱり不思議ねぇ」
マグダレナは来訪者が自分の素性を知らされないまま送り込まれた先兵かも知れないという可能性も考慮していた。
娼婦の捜索などと言うのは口実でしかなく、もっとやっかいな連中が警報圏外に控えているかも知れない。
「・・・目撃されてましたよ。3人を攫うところを」
「あらぁ、そうなのぉ?それは失敗しちゃったわぁ、娼婦なら消えても誰も探さないと思ったんだけど。その目撃者が依頼者かしら?」
「そうです」
「ふ~ん、娼婦のくせに一応友情があるのねぇ。なまいきぃ♫
でもその目撃者が私を知ってたわけじゃないわよねぇ?知ってたらあなたも知ってるはずだもの。
ニコンヤで聞いて回ったとしても同じよねぇ?もし私の噂を聞いてここを探し当てたならやっぱり名前を知らないのはおかしいし、不思議よねぇ?あなたの言う情報ってどういうものなのかしらぁ?」
マグダレナは漸く椅子から立ち上がり、口の端に笑みを浮かべながらペペインに詰め寄る。
来訪者の処遇をどうするか決めるためにも、その素性をはっきりさせる必要があった。本当にただの賞金稼ぎなら予定通りオモチャに出来るが、万が一先兵ならゆっくりはしていられない。
ペペインは数少ない動かせる部位で歯噛みする。さっさとマグダレナから距離を置きたいが為に口走ってしまった情報とはリンジーの占いのことに他ならず、その事を伏せたまま自分の行動に整合性を持たせるのは不可能だった。
ただし今となってはもし慎重に言葉を選んでいたとしても自分より上手のマグダレナから逃げられていたとは思えない。
「・・・右の袖を探ってみてください。別に危険なモノが入っているわけじゃありません」
「袖ぇ?」
マグダレナはまず外から袖を触り、確かに中に何か硬い物が入っていることを認めた。ほぼ直立の状態で硬直しているペペインの袖口からリンジーが落ちてしまわないのは、左右の袖の内側に収納用の袋を縫い付けているためだった。
名前と専門分野、そして軽はずみに接触してはならない相手と言うこと以外ペペインはマグダレナのことを何も知らない。単に並かそれ以上の冒険者でも太刀打ち出来ないという理由から危険人物に認定されているのか、それ以外の理由があるのか分からない以上、ペペインは極力抵抗せず山荘を見つけ出した理由を素直に教え、怒りを買わないように時間を稼ぐことにした。
認めるのは癪だが、マグダレナにとっては取るに足らない賞金稼ぎにすぎない自分自身より、その男が所有している箱詰めの肛門の方が興味をそそるのではと考えた。時間さえ稼げれば打開策は既にある。
マグダレナは取るに足らない賞金稼ぎを一応警戒しながら袖をまくり、内側の袋から小箱を取りだした。
「あら、これは…」
手に取った時点でマグダレナにはそれがどういう物なのか分かった。まさかと言う思いはあるものの、そこに施されている魔法は紛れもなく良く知っているモノだった。
蓋を開ける。
中にあったのは良く知る物ではなかった。
「あらぁぁぁぁっ???あらあらあらぁぁ!?お尻の穴じゃないのぉ♫まぁまぁまぁ♫あなたもこの封印術が使えるのね?それともただこれを手に入れただけかしら?
うふふ♫可愛い穴ねぇ♫奇麗な皺♫くんくん、くんくんくん・・・♫ちゃんと匂いも残ってるのねぇ♫
久しぶりに見たわぁ、私以外にもこの封印が出来る魔法使いがいたのねぇ」
確かにマグダレナはペペインの望み通りすぐに肛門の方に興味を移してくれた。しかしそれ以上に気になることがある。
「あの、私以外とは?」
「だってぇ、私が最初に好きな部分を外に出せる封印術を作ったんだと思ってたものぉ」
■
マジャリの宰相ヨドークスから依頼を受けたマグダレナは、参考にと見せられた珊瑚筺を一目で気に入った。
ヨドークスの依頼は聖女を、正確には次期聖女候補者をこの筺のように封印して欲しいというモノだった。
クリトリスだけを外に出した状態での封印など150年生きているマグダレナでも始めて目にしたが、解析自体は難しくなく聖女を封印しようと思えばすぐにでも出来た。
しかしヨドークスは珊瑚箱と同じ状態での封印ではなく、身体自体は残した状態でクリトリス以外に更に4カ所、口、尿道、膣、肛門の計5カ所を、それぞれ独立した状態で用意されていた5つの抵抗石製の箱に封印して欲しいという。
その要望にはマグダレナでも骨を折ることになった。
ヨドークスはマグダレナの悪評だけを元に、彼女なら自分でも途方もないと自覚している依頼でも引き受けてくれるだろうと考えて接触を図っており、その専門が魔法生物であることなどは全く知らなかった。しかし人間と魔法生物という差はあれど偶然にも神経に関する知識を持ち合わせていたマグダレナは、数ヶ月前のペペインと同じ結論に、数年前に既に達していた。
魔法言語化された女性の神経網情報の解析はペペインよりも時間が掛かったものの終えることが出来、マグダレナは好きな箇所を解放した状態での封印術を手に入れた。
問題はそこからだった。
対象を個別の領域に圧縮するという珊瑚筺の封印形式はマグダレナでも感心するほど出来が良く、専門分野でもないため嫉妬も感じなかった。
しかしその性質上、ヨドークスの要望通りの結果を生むには向いていなかった。
珊瑚筺の解析、改良によって1つの封印器に5つの出口を設けることは可能だったが、対象を固有の領域で封じているため身体を残したまま各部位を分けて封印するのは難しい。
為政者の目論見になど興味がないためマグダレナは深くは聞かなかったが、ヨドークスは聖女の5つの部位を使って各地の裏の権力者に取り入りたいらしく、どうしてもバラバラにする必要があるとのことだった。
ごく一部を除いて魔法はこの世の理の内側にある。
封印術同様空間を制御する長距離移動術なども規模は桁外れだが理外の魔法ではない。
空間は切ったり穴を開けたり出来る様な性質を持っておらず、ただ歪むだけのものである以上珊瑚筺の改良を進めても目的の成果に達することはない。
マグダレナは理の外にある魔法を使わざるを得なかった。
召喚術も理外魔法の1つだった。
使う事を決めた時点でマグダレナは召喚術を使用したことは全く無かった。一度の使用に途方もない量の魔力が要求され、本来魔法使いが単独で使うことが想定されていない魔法であるらしいと言うのも使用経験がない理由の1つだったが、何よりも使う意味がないというのが最大の理由だった。
まず第一に理外魔法も通常の魔法と同じ魔法言語で書かれてはいるものの、余りに複雑であるためそれまで何人たりとも、イングリッドでさえ手を加えることが出来ていない。そのためもし使うとしても遙か昔に作られ現在まで伝わっているものをそのまま使うしかない。
また召喚魔法と一括りにはされてはいるが実際はアハンカラだけを呼び出す魔法、ルサやファゴサイトラジャキヤだけを呼び出す魔法と言った召喚する対象が決められた魔法の総称でしかない。
そしてアハンカラもルサも現在は存在していない。
大量の魔力を使用して現存しない何者かを呼び出したところで何も得る物がないため、マグダレナだけでなくほとんどの魔法使いは召喚術の存在は知っていても気に掛ける事はなく、魔法言語学者が未発見の言語を見つけるために研究する程度のものだった。
ただし召喚対象を任意の何かに変更することが出来れば非常に便利な魔法であることは間違いない。
マグダレナが聖女の性器と口をバラバラにする為にそこまで難易度の高い魔法を使うことにしたのは無論ヨドークスのためなどではなかった。しかし依頼者が一国の宰相であると言う点は大きい。
実験の度に必要になる大量の魔力は言うに及ばず、本来の専門である稀少な魔法生物なども宰相に命じ、その人脈を使って各地から集めさせることが出来た。
元々ヨドークスの間に何の力関係もなく、珊瑚筺が気に入ったから引き受けたに過ぎない。
そのためしばらく研究を進めてみて無理なようなら断念し、万が一解析が成功しようものなら1点ではあるものの魔法使いの頂点であるイングリッドを超えることが出来ると考えた。
マグダレナのしばらくはその後2年続いた。
その結果、知る者こそ少ないが今現在聖女はマジャリ王室の地下室で眠らされ、生きながら安置されている。
マグダレナは現在の魔法使いの中で唯一召喚術を解析した魔法使いとなった。
出来ることならすぐにでもその事を公表し他の魔法使い達から羨望を、イングリッドからは嫉妬を向けられたかった。しかし使用相手が聖女であるため未だに様子を見ている。
任意開放式封印術と、それが霞むほどの成果を得たマグダレナはヨドークスにとっても無用となった珊瑚箱だけを報酬として譲り受け、マジャリを去った。
「最初に?・・・この封印術を作ったのはあなただったんですか?」
「…まぁ、好きな所を外に出す方法は私ねぇ。一番最初のは違うけど」
「一番最初というと、ク…陰核を外に出す封印術の事ですか?どこでそれを?」
「ちょっとぉ?それはこっちの質問よぉ?あなたこそどこでこの術を知ったかしらぁ?
まさかあなたが作ったんじゃないわよねぇ?・・・どう見てもまだ一度も若返ってないし」
「作ったのではなく、解析したんです」
「え~?あなたがぁ?私は簡単に解析できたけど、あなたに出来るのかしらぁ?
もし解析できたとしても、そもそもの封印術はとこで手に入れたのかしらぁ?あなたもクリトリスの箱から解析したんでしょぉ?」
マグダレナもまた封印術を使えることを知ったペペインはどうしても聞きたいことがあった。マグダレナ自身が大本の封印術の開発者ではないようだがそれでも問題はない。
しかし生殺与奪の権利を持っている相手との会話に無理矢理質問をねじ込むわけにはいかず、一旦保留するしかない。
「・・・拾いました」
「ん?拾った?」浮かべたままの笑みが一瞬顔から消える。マグダレナはヨドークスから譲り受けた最初の珊瑚筺を事故により失っていた「どこで?」
「マジャリでです」
「マジャリ?マジャリのどこで?」
「・・・サンプラティの近くです」
「サンプラティ?う~ん・・・じゃあ違うわねぇ」
「?・・・違うとは?」
「何でもないわぁ、あなたが気にすることじゃないのよぉ。で、どこかしらぁ?あなたが解析に使ったクリトリスはぁ」
「家にあります」
「家ぇ?お尻の穴は持ち歩いてるのにぃ?嘘おっしゃい、鞄の中にあるんでしょぉ?」
マグダレナは視線をペペインの肩に掛かっている鞄に向ける。ペペインは焦りを押し殺す。このままでは全く時間を稼げないまま手の内を全て暴かれてしまうかも知れない。
「いえ、それを持ち歩いてるのには理由があるんです。…広げてみてください」
「え?」マグダレナは鞄に伸ばしかけていた手をピタリと止める「広げる?このお尻の穴をかしら?」
「そうです。広げて貰えれば持ち歩いてる理由が分かります」
「まぁ♫この可愛いお尻の穴を広げて中を見ろって言ってるのねぇ?いやらしいわねぇ♫♫
いいわよぉ、広げてあげる♫何があるのかしらぁ?
・・・あら?あらあらあらぁぁぁっ?何か入れられてるわぁ♫何を入れてるのぉ?」
「それは占術器です。白状します、肛門の持ち主は占い師です。その占いのおかげでここを見つけることが出来たんです」
「まぁまぁまぁ♫そうだったのぉ♫じゃああなた、このお尻の穴を道具として使ってのねぇ、非道い子♫
何の抵抗も出来ないお尻の穴にこんな大きなモノを入れて道具扱いするなんてぇ♫うふふ、楽しそぉ♫
そんな可愛そうなお尻の穴は慰めてあげないといけないわねぇ♫♫♫」
目に見えてマグダレナの頬は上気し、くねくねと尻をくねらせ始めた。
「ん~…このまま待ってなさい、あなたに虐められたお尻の穴を可愛がってあげないといけないからぁ♫ちゅちゅっ♫」
状況が分からずぴくぴくと開閉を繰り返す肛門にキスをしながら、マグダレナはペペインの前を離れる。
自身でも肛門開放型封印術を使えるにも関わらずジャグラタを作るのに夢中で、完成した後はそれを使って責めるのにまた夢中になり攫った娼婦達を全て陰核開放型で封印していたマグダレナは、久しぶりに見た憐れな肛門に興奮し早速、またも自慰を始める気でいた。
ペペインはマグダレナの意識が鞄から改めてリンジーの肛門に移ってくれたこと安堵し、ため息を漏らしかけたのをぐっと堪える。
「戻って来たら全部聞かせて貰うわよぉ?大人しく待ってなさいねぇ♫」
そう言いながらマグダレナは隣室に消えた。今度こそペペインは安堵のため息を吐いた。
漸く監視の目がなくなった。しかしどのくらい保つか定かでは無い。マグダレナがリンジーを持って別室に理由は直前の様子を見ていれば何をする気かだいたい見当はついたが、どのくらい楽しむつもりなのかは分からない。
そしてその際、マグダレナが読心術を使い会話を始めてしまうとリンジーの性格を考えれば何もかもペラペラと喋ってしまうかも知れない。
とはいえこの後に及んでそんなことをぐずぐずと考えている場合でも無かった。
小一時間ほどで戻って来たマグダレナの手にリンジーは握られていなかった。マグダレナにしてみれば借りたのではなく取り上げたつもりでいる。
「うふ♫お待たせしちゃったかしらぁ?じゃあ今度こそちゃんと話を聞かせて貰うわよぉ♫」
涎が垂れたままの口元に気づいたのか、ぺろりと舌で唇を舐める。絶頂で疲れたマグダレナは椅子に座ってペペインに目を向ける。
「もうほとんどお伝えしきってますけど。・・・ところでマグダレナさん、気になってるんですが、あなたもあの封印術が使えると言うことは、もしかしてその机にある2つの珊瑚は…」
「あらぁ♫ちゃんと気づいてたのねぇ、そうよぉ♫」
マグダレナは椅子から尻を浮かせ、その2つの珊瑚、のようなクリトリスを手に取る。下着は隣室に消える前から履いておらず、スカートの裏地と性器との間で膣液が糸を引いている。
「あなたが探してた3人の内のふたりよぉ♫後であなたにばらして反応を楽しもうと思ってたんだけど、元々知ってたなら驚かないわよねぇ」
マグダレナは再びペペインの前に立ち、動く事の出来ないその顔を2つのクリトリスで撫でる。
「この子達がここに来てからは初めてのお客様だからたぶん驚いてるわよぉ。外の音は聞こえてるからもしかしたら助け出して貰えると期待しちゃったかも。ふふ♫残念だったわねぇ、あなた達。あなた達を探しに来たこの魔法使い君はあなた達を助けられるほどの魔法使いじゃなかったみたいよぉ♫」
ペペインの眉間にぴくりと皺が寄る。
現状を鑑みればマグダレナの言うとおりなのだが、はっきりと口に出されると一層自尊心が傷つく。
「それで…もう一人は?あなたが攫ったのは3人で間違いないんですよね?まさか…」
「なぁに?私がこんなに愛らしいクリトリスに何かしたのでも思ってるのかしらぁ?ちゃんともう一人もいるわよぉ。
・・・もったいないけど見せてあげましょう♫」
マグダレナは研究机の引き出しから3つ目のクリトリスを取り出す。
手の平どころか親指の腹にでも乗せられる程度の大きさしかない観賞用の器に入れられているクリトリスでも、その透明な蓋の中で激しく動き回っているものがあればすぐに気づかれ、来訪者と無実の容疑者ごっこをする時間が短くなってしまうのではと考えたマグダレナはジャグラタに責めさせているクリトリスだけは予め隠しておいた。
マグダレナはそれもペペインの鼻先に突きつける。ペペインは思わず目を寄らせながら激しく動き続けているそれを凝視する。
「あれ、これ、ビ…」
瞬間的にペペインは鞄の中のヘザー、ミルドレッド、パトリスを責め続けているビラチーナを連想した。形状も色もかなり違うが、クリトリスを責める生き物という点は同じだった。何より姿は違ってもクリトリスに取り付いてぴちぴちと動く様はビラチーナとそっくりでもある。
「び?あんまり驚いてないわねぇ」
「びっ…っくりしたました。何ですか?これは」
「うふ♫何って、見ての通り可愛いクリトリスをもっと可愛くしてあげるモノよ♫ぴくぴく暴れて可愛いでしょぉ?」
既に真っ赤に充血し、意思の疎通が図れなくとも苦しんでいるのが在り在りと分かるクリトリスが目の前にある。
反射的に誤魔化してしまったペペインだが、すぐに考えを改めた。
「これ…もしかしてこれにも元となるモノがありますか?似たようなモノを見たことがあるんですが」
未だ3度の絶頂の余韻に浸っていたマグダレナの顔からすっと赤みが引く。
「何ですって?どこで?…やっぱりあなたからは徹底的に話を聞かないといけないようねぇ」
マグダレナの顔からは笑みも消え、冷ややかな視線をペペインに向ける。
「分かってます、逃げられそうもないので全てお話しします。それに、嘘もついてました。実は最初に手に入れた箱は今も持ってるんです」
「あらぁ?やっぱり悪い子ねぇ。でもそんなことだろうと思ってたわぁ」
「あ、そっちじゃありません。反対の袖に入ってます」
改めて鞄に手を伸ばそうとしていたマグダレナはリンジーを見つけたときと同じようにまず袖を外から触って確かめる。
「・・・うふ♫ホントにあったわぁ。こっちの子はどこが出てるのかしらねぇ?楽しみだわぁ♫
・・・あらっ重い…なぁに?金かしら?それにこの装飾、凝ってるわねぇ♫こんな器を使うような特別な女の子が封印されてるのかしらぁ?ますます楽しみねぇ♫」
マグダレナはずしりと重い箱の蓋を開けようと見回す。ペペインはマグダレナが魔法でこじ開けようとしてしまう前に開き方を教えてやる。
マグダレナが模様に隠された二つのボタンを同時に押すと、仕掛け蓋がかしゃかしゃと小さな音を立てながら開いていく。
「あらぁ?あらあらあらぁぁぁ!?まあ!これは…」
蓋が開き大きく育ったクリトリスが姿を現したが、マグダレナの目を引いたのはその周囲だった。
「これぇ♫拷問…」
次の瞬間、マグダレナは真っ暗な闇の中にいた。
■
マグダレナが抵抗石にこれまで触れたことがなかったのは幸運でもあり必然でもあった。
ペペイン自身も入手した際触れただけでは気づけず、開け方が分からない蓋を魔力でこじ開けようとして始めてまさかという思いと共に気づいた。
存在やその性質は勿論知っているが、抵抗石を最も研究しているのは魔法使いではなく鍛冶師達で、稀少金属という以上の、研究対象としての価値を見いだしている魔法使いは少なかった。魔力に抗うという性質は鉱物界のマジャリのようなもので、寧ろ存在すること自体を嫌っている魔法使いの方が多い。
イングリッドですら取引としてマジャリの大家令から入手するしかないような鉱物であるため、興味を抱いてない者の手に偶然渡るような代物ではない。
唯一万人にとって利用価値のある魔法防御も、上級の魔法使いであればあるほど抵抗石を使わなくても自分自身の力で事足りた。
マグダレナは隣室に下がった時を含めて終始魔力を纏っていたが、細胞外に出ていない魔力を魔法使いが関知出来ないように、抵抗石も直接接触していない魔力を消失させることは出来ない。そのため魔力が消されていく感覚で触れた箱が抵抗石製であることを気づくこともなかった。
1時間前。
ペペインは右袖の内側の生地を硬く太い2本の糸に変化させ、同時に押さなければならない2つのボタンを押し、蓋を開けた。
マグダレナの麻痺術は身体の動作だけでなく魔力の放出も封じていたが、機巧術に影響はない。
「イングリッドさん、聞こえますか?」
「・・・ん?どうしたの?」
「ちょっと協力して欲しいんです。イングリッドさん、封印術使えますよね?」
「封印術?どっちの?ま、どっちでも使えるけど?」
「今イングリッドさんが封印されてる方のです。ボクの代わりに使って欲しいんですけど、お願い出来ますか?」
「どうして?あんたも使えるでしょ?あんたもまあまあの魔法使いだと思ったけど?」
「ちょっと…手強い魔法使いに捕まってしまいまして、今、動けない状態です」
「あら、そうなの?
う~ん、使ってあげるのはいいけど、どうせその相手も防御してるんでしょうしあんたもしてたんでしょ?
まあまあの魔法使いの防御を貫通できるくらいの相手を封印するだけの魔力、いくらアタシでもクリトリスからだけじゃ出せないわよ?」
「時間を稼ぎますから、溜めてください。今は蓋を開いたままにしておきますから」
魔法使いであるペペインは蓋が閉まった状態でも読心術を使って封印された女達と会話をすることが出来たが、イングリッドの封印器だけは抵抗石製であるため蓋を開けなければならなかった。厳密にはその箱には前所有者によって読心術が組み込まれているため受心器があれば蓋越しでも会話は可能だったが、身体動かせないので鞄から取りだし耳に掛ける事が出来ない。
また、自分の代わりに封印術を使って貰うつもりなので最終的には蓋を開ける必要がある。如何にイングリッドの魔法でも抵抗石製の蓋を通過させることは出来ない。
イングリッドにマグダレナの麻痺術を解いて貰うという選択肢もあるにはあったが、どの道解除するためにも魔力を溜める必要があり、時間が限られている以上最も効果的な1つを選ぶしかなかった。
動ける様になったところで自分の魔力でマグダレナの防御を打ち抜くことが出来るとは今は思えない。
「どうしよっかなぁ~、使ってあげてもいいけど、この中じゃ魔力回復しないから、使えば使うほど減ってっちゃうのよあひゃっっ♫」
ペペインはボタンを押すために変形させていた生地を使ってイングリッドのクリトリスを撫でる。そんなことにすら僅かとはいえエネルギーを奪われているが、イングリッドのご機嫌を取るためには使うしかない。
「使って頂いた分の魔力は後でお返ししますから、お願いします」
「うぅ~ん♫返してくれるのぉ?どうせなら封印されてからいままで使わされちゃった分も補給して欲しいなぁ♫」
「・・・分かりましたよ、その分も補給します。それに、ご褒美もあげますから」
ペペインはクリトリスを撫でていた毛糸のような太さの生地を素早く動かし始める。
「あぅぅぅん♫あっ、ご褒美!ご褒美欲しいぃ~っ♫」
「しばらく気持ち良くなってないですよね?助けてくれたらこの周りの刷毛を動かしてあげますから」
ペペインは生地をクリトリスから離す。
「あぁんもっとぉ…手伝ったらごクリトリス磨いてくれるのぉ?じゃ使う~♫♫」
イングリッドはしばらくぶりに僅かな刺激を与えて貰ってふるふる震えるクリトリスの周囲に、封印術に使用する為の魔力を溜め始める。
通常空気中では霧散してしまう魔力も一旦魔法言語化してしまえば体外に溜めておくことが出来た。簡単なことのように思えてもそれが出来るのは上級魔法士の中でも数えるほどしかいない。
魔法言語化し魔力を自身の周辺に溜めること自体はそれほど難しくないが、それを魔力に戻す際に高度な処理能力が要求される。
今のイングリッドの場合、封印術に必要な魔力をクリトリスからだけでは発生させられないため、予め必要量を溜めておく必要がある。
封印術のように既に解析が終わり1つの魔法として確立されているものは詠唱によってそれを構成している魔法言語に魔力を送り混むだけで発動させることが出来る。
しかし仮の魔法言語に蓄積された魔力はそのまま送り込むことが出来ず、一度魔法言語から取りだしただの魔力に戻す必要がある。
この時、言わば2つの魔法を同時に使用していることになる。
詠唱は必ずしも発声を必要としないため一概に比べることは出来ないが、ただの会話のための言葉でも朝の挨拶と別れの挨拶を同時に口から発するのは不可能に近い。
溜めた魔力を使って別の魔法を発動させるというのはほぼそれと同じ行為だった。魔法の場合はもっと長く複雑で、しかも一方を普通に読み上げながら一方を逆から読み上げているようなものでもある。
それらは何度若返っても習得できるような類いの技術ではなく、イングリッドのような天才的な言語処理能力を持って生まれた者だけが使える特権でもあった。
だからこそ施術者が一度に生成出来る量を上回る魔力量を要求される魔法を使う必要がある際は、上級魔法士達でも自分の魔力としてそのまま使う事が出来る、深海石などに溜められた凝縮魔力を重宝していた。
「どのくらい時間を稼げばいいですか?・・・といってもイングリッドさんに魔力を溜めて頂いている間にボクの方も器を用意しないといけないんですけど」
「はぁ・・・封印術はあんたの切り札でしょ?それなのに器も用意してないなんて…買い被りすぎだったかしら?」
「すいません、仰るとおりです。返す言葉もありません」
言葉を返す代わりにペペインは加工した生地を再び動かし、イングリッドのクリトリスを撫で始める。
「全くぅ♫…君に不用意に動かれるとアタシまでとばっちり受けることになるんだから、しっかりしてよねっんひっ♫
焦らすの卑怯よぉ♫…えっとぉ、時間だっけぇ?んふ~っ♫君より少し上の魔法使いを封印出来るくらいでいいのぉ?」
裏筋をすすすと撫で上げられ、中のイングリッドの肌に鳥肌が立つ。肛門も思わずきゅっと締まる。
「あ、そうですよね。相手が分からないと。
マグダレナさんって言う方なんですけど、ご存じだったりしますか?」
「ぶっっっ!!・・・ま、マグダレナぁぁぁっ!?あ、あんたあんな婆の所に乗り込んでるのっ!?その程度の才能しかないのに??まぁまぁ賢いと思ってたのに大馬鹿だなお前!!」
久しぶりに、小出しにされながら与えらる快感でくねくねと揺れ動いていたクリトリスがぴんと跳ね起き、一気に陶酔から冷める。
「そ・・・そんなに怒鳴らないでください。驚いてこそこそしてることがばれちゃうじゃないですか。
…お恥ずかしい話、要注意人物だと言うこともさっき思い出したんですが・・・そんなに怒ると言うことは、もしかしてイングリッドさんより凄いとか…?」
「それはない。
でもあんた、確実に殺されるわよ?その前に色々実験に使われてね。
・・・全く、これだからマジャリで育った魔法使いは物を知らないのよ。狂魔女マグダレナを知らないんだから。
ここ何年かは少し大人しくなってたけど、とんでもないお尋ね者なのよ、あの婆は」
今でこそ魔法生物学を専門としているマグダレナはかつては生物全般を研究していた。
魔法生物とは魔法使い同様に細胞内に魔力体を持つ生き物で、その形態が動物でも植物でも一括りにされている。
人間の中にも魔力体を持ちながらも生成される魔力を制御する能力がないため”抗魔力を有する人間”として魔法使いとは区別されている者がいるように、魔法生物にも使用は出来ないが魔力の生成は出来る種や、魔力は操れるが自力では生成出来ない種が存在する。
魔力を生成し、使用できるというのは生存に有利な点だが、その利用法は他の動植物とそれほど変わらず、繁殖や捕食に使用されている。彼らは風や小動物に頼らずに種子を任意の地点に運べ、獲物に気づかれたり反撃されることなく遠距離から仕留めることが出来る。
植物、動物共に大きく育つ個体もいるので、凝縮魔力用に栽培、飼育されている種もあり、抽出機さえあれば魔法使いでなくても魔力を取り出せるため、普通の人間が農業、畜産業の一種としてそれらの職に就くことは珍しくない。
飼育、栽培が許可されていない種はあるものの、自然に生息している魔法生物を商品として扱うことは基本的に自由ではある。
しかしそれらを改造する分子魔法生物学は研究自体がベシーナ全域で禁止されていた。
分裂以前、以降共に時折改造の失敗、或いは予想以上の成功によって大規模な災害が起こってきた事と、ベシーナ東方に広がる大森林に住まい、お互いを禁忌としながら長らく接触を断っている特殊な民の発生原因とも考えられ始めたため、最終的には魔法研究に最も寛容で積極的なバーマですら禁止するに至っている。
特にマジャリでは研究、所持、販売全てを厳しく取り締まっているため、明らかに改造魔法生物である陰核酷使用生物を手に入れたサンプラティの魔法商も、解析だけ行った後すぐに他国の魔法商に売り払ってしまっている。
そんな学問を専門としているマグダレナは当然各国から手配されているが、理由はそれだけではなかった。
ある水準以上の魔法使いが皆そうするように、マグダレナも若返りを繰り返し現在は150歳ほどだが、その若返りのために何度となく人間を誘拐していた。しかも魔法使いを。
通常若返りに使用される代謝術が使えないわけではなく、現にマグダレナは今の所その代謝術を使って3度若返っている。
マグダレナの目的は新たな若返り法の開発だった。
若返りながら人間の平均寿命の何倍も生き続ける上級魔法士達も、本当なら若返るのではなく自分の肉体が最も活発な年齢、主に最も多くの魔力を生成出来る年齢を維持し続けるのが理想だった。
老いた後に若返るのは分裂により劣化した細胞を修復する、加療魔法の上位に位置する劣化修復術、若さを維持するのはそもそも細胞を分裂させない代謝停滞術で、本来代謝術とは停滞術の事を指す。
しかし停滞術は使える者が殆どおらず、若返りを繰り返している魔法使い達が使用しているのは修復術ばかりであることからいつの間にかそちらも代謝術と呼ばれるようになっている。
要求される魔力は少なくないものの、修復術は若返る瞬間にだけ使用すれば事足りる。ただし修復術は細胞を修復する際、新たな細胞を分裂により作り出している。細胞の分裂回数限界は若返った年齢時のものに戻っているが、修復に使用された分裂は蓄積されていく。それは定期的に後退を繰り返しながら前進しているようなもので、最終的には出発点よりも前に進んでいる。そのためいつかは限界に達し寿命を迎える。
魔力の要求量という問題以前に施術そのものによる限界を伸ばすため、上級魔法士達は短い周期で修復術を繰り返すことなく、年老い、高度な魔法を使うのが危うくなり始めてから漸く若返っていた。
停滞術にはそれらの欠点がない。
分裂そのものを抑制しているため細胞の劣化自体が起こらず、寿命がなくなるに等しい。そのため外的な要因以外で死ぬことはなくなる。
上級魔法士達は出来ることなら不死の魔法とも言える停滞術を使いたかったが、それにはどこかの大魔法使いのように常時、睡眠中すら魔力を惜しげもなく、湯水の如く消費し続けていても苦にならないような常軌を逸した生成力が必要だった。
マグダレナやミルドレッドの様に知性に於いての天才は定期的に生まれてくるが、尋常でない量の魔力を生成できる肉体の才能を持った魔法使いはほとんど現れない。
修復術による若返りの問題点を克服するため、マグダレナは転生術に目を付けた。
魔法使いが自身に転生術を使わないのは転生先の肉体が少なくとも元の肉体と同等の才能を持っている保証がないことが最大の理由だが、予め同等どころかより優れた肉体を用意できれば若返りの手法として転生術は有用になる。
そして転生に使う身体は自分自身の身体が相応しいともマグダレナは考えた。
自分自身の身体を使えば少なくとも転生後の能力が転生前より劣ることはない。更にその肉体を改造しておけば、今以上に優れた若い身体に生まれ変わることが出来る。
良識のある魔法使いなら思いついても手を出さない研究を、マグダレナは躊躇うことなく始めた。
マグダレナが魔法使いとしては珍しい生物学に興味を持ったのはまさに若返りのためだったが、転生術を用いた若返り法を思いついた時点ではまだ人体の複製には手を出しておらず、まずはそこから研究を始めることにした。
無論いきなり自分の身体を使うことはなく、魔力体がない分魔法使いよりも構造が単純な普通の人間を攫い、彼らを使って複製の実験を繰り返し始める。
魔法使いであるため専用の術を新たに作り出し複製実験に臨んでいたものの中々上手く行かず、それ以上に実験の度に消費される魔力もバカにならないため、やがてマグダレナは人体の複製に魔法生物を使う方法も思いついた。
その辺りからマグダレナは今まで以上に魔法生物を専門としていく。
まず分裂で増殖する、植物と動物の中間のような魔法生物を人体複製用生物に改造し、必要な魔力もその生物自身に生成させる。
住処の周辺に実験の残骸が溜まる度にマグダレナは別の場所に移り住んだ。後に残るのは攫われた人々と、大きな魔法生物と、人のような形をした何かの腐乱死体だけだった。
マグダレナが若さを保って生き続けるために命を提供してくれた彼らのおかげで、やがてマグダレナは複製法を確立させた。
人間の複製の次は魔法使いの複製とその改造だった。とうとうマグダレナは下級魔法士を攫い始める。
魔法使いはその頂点に立つ者でも1つの細胞に1つの魔力体しか内包していない。しかし魔法生物の中には細胞内に2つも3つも魔力体を持っている種も存在した。
自身の知性には何の不満もないマグダレナが求めるより優れた肉体とは大魔法使いに匹敵する量の魔力を生成出来る身体で、それを手に入れられれば修復術に頼ることなく停滞術によって望む年齢のまま生き続けることが出来る。
それどころが魔力量さえ匹敵すれば自身が魔法使いの頂点に立つことも不可能ではないかもしれない。
マグダレナは魔力量増産のために一細胞内に複数の魔力体を持つ魔法生物の特性を利用することにした。
魔力体の質自体を向上させる事も頭をよぎったが、それにはまず魔力体、延いては魔法使いそのものの究明が必要になり、既に存在する特性を細胞に組み込む事に対して余りにも難易度が高く膨大な時間が掛かることが容易に予想できたため、現在の実験を成功させ老いない身体を手に入れてからでもいいと考えた。
若返りだけでなく魔法使いとしての野望まで抱き始めたマグダレナは一層人目を憚ることなく、実験の為魔法使いも魔法生物も更に収集し、実験を繰り返した。
その実験の残骸が溜まる度にマグダレナはウポレやオティカなどベシーナ北東部を点々と移り住んだ。
移転先は実験材料が豊富な比較的大きな町の近くを選んだ。人間は自分で調達するしかないが、魔法生物は厚かましくも犯罪者として自身を追っている治安院を介し、冒険者を使ってベシーナ各地から集めさせた。
研究と名誉欲に取り付かれていてもマグダレナはバカではないので、攫う人間は魔法使いも含めて犯罪者や町の鼻つまみ者ばかりだった。
住処を変える度に実験に使用した人間や生物の死体を残していくため、徐々に無慈悲な狂魔女として恐れられ始めてはいたものの、一部では町のゴミ掃除をしてくれていると感じる者もいた。
研究は順調に進んだ。
が、余裕が出て来ると同時に悪い虫も騒ぎ始めた。
実験材料には犯罪者などを使用していたので必然的に男が多かったが、やがてマグダレナはその実験の合間に楽しむため好みの女達も攫うようになった。
それが良くなかった。
今でこそその反省点を生かし娼婦を攫ってはいるが、当時のマグダレナは好みを優先する余り貴族の娘を攫ってしまい、治安兵だけでなく魔法使いの天敵とも言える騎士団にまで追われることになってしまった。
そのため性的に弄ぶ為の女達どころか実験材料の収集も難しくなり、しばらく身を潜めるしかなくなった。
そんな中マジャリの宰相から声が掛かり、しばらく別の国で別の魔法を研究することになる。
マグダレナも魔法使いである以上マジャリのことは嫌いだったが、依頼内容の面白さとほとぼりを冷ますのに丁度いいと考え引き受けた。
純粋に魔法の研究成果としては新たな若返り法よりも遙かに価値のある成果を手に入れマグダレナはオティカに戻った。
しかし、貴族の娘を含めた数十人を殺害し逃亡している魔法使いの捜索が2年で打ち切られるずもなく、未だにマグダレナは本来の研究を再開していなかった。
マグダレナはこれまでの自分の行動を反省し、初心に返って消えても誰も探さなそうな人物だけを使い、騎士団が自分の捜索を断念するまでの暇つぶしに使っていた。
マグダレナが点々と移り住んだベシーナ北部の住人達が皆マグダレナのことを知っているわけではないが、ペペインがニコンヤの人々からしっかり話を聞いておけば、人が突然消えた事とマグダレナを結びつける者も少なからずいたはずだった。
また、拘束されてしまう前にもう少し室内を捜索出来ていれば、地上の面積と同等の地下室を発見し、そこに保管されている稀少な魔法生物たちの標本や、魔法ではなく物理的にバラバラにされた人体の薬液漬けを目にすることにもなっていたはずだった。
「・・・そうですか、まずい人に捕まってしまったみたいですね」
「そういうことよ。アタシがいなかったら死んでたわよ、あんた」
全てを把握しているわけではないが、一時イングリッドにも秘密裏に捜索と討伐の要請があったため、マグダレナが人間を攫って人体実験を繰り返し、今なお騎士団に追われていることは知っていた。
「助かります。
・・・それで、封印器なんですが…」
ペペインはイングリッドのクリトリスの正面にある、裏筋に苦痛を与える為の回転鋸を変化させ始める。後で元に戻せるかどうか定かでは無いが、イングリッドが魔力を溜め終わった後はその魔力をマグダレナに感知されないように遮断しておく必要があるため、元に戻すのが簡単そうな蓋を使うわけにはいかなかった
イングリッドのような規格外の魔法使いのみならず、自力脱出を防ぐために魔法使いを任意部位解放式封印術で封印する場合抵抗石製の器は必須だった。
ただし何も全てを抵抗石製にすることはないとペペインは考えていた。
外に出す部分の周囲だけを抵抗石にすれば事足りるはずだと。
ある程度の魔法使いなら開放されている部分だけから放てる魔法で蓋や土台を壊すことは出来るかも知れないが、脱出は出来ない。
もし暴れて器を壊すようなら、しっかりとお仕置きして教育すればいい。
途中から機巧術多用の危険性を知った赤毛の少年とは違い、最初からそれらを知ることが出来たペペインはエネルギーを自分自身の身体以外から供給する方法を見つけるまで如何に便利で貴重でも使いたくはなかったが、今の状況では他に選択肢はない。
湖底で見つけたときに鞄の中に入っていた物は全て捨てずに保管してあるが、抵抗石のインゴットや三種の魔法薬などは持ち運ぶ理由がないため部屋に置いてあった。そのため既に拷問器として使用されている抵抗石を流用するしかないが、回転鋸はクリトリスの正面にあるため、狙いを定めることが不可能なイングリッドでも正面に向かって術を放てば必ず命中し、結果的に都合が良かった。
「そりゃそうよね、それ使うわよね。ふふふ♫マグダレナも驚くわよ、脱出出来なくて。
・・・でも今抵抗術を使うなら、その分でアタシを出してくれてもいいのよ?ちゃんと助けてあげるから」
拾った鞄の中にあった6人分のクリトリスの1つが、伝説の大魔法使いのものであることをペペインはしばらく信じられなかった。
他の魔法使いと出会った回数はマジャリで過ごした19年よりも出てからの1年の方が多いペペインですらイングリッドの名は知っており、魔法使いの頂点であると言う理由だけで尊敬していた。
イングリッド自身によってクリトリスの持ち主がイングリッドであることが証明されるとペペインは自分の方が優位な立場にあるにも関わらず取り入り始めた。
取り入りながら、穏やかに飼い慣らす。
イングリッドがある程度魔法使いとしての才能を認めてくれたため、抵抗石製の封印器からの脱出を手伝うという名目で協力を取り付けていた。
「それはもう少し待ってください。やはりエネルギー源の解明だけでも終わらないと…」
「はいはいそうよね、ま、いいわ。それで、どういう手順を考えてるの?」
ペペインはマグダレナを封印して貰うための計画を伝えるが、計画と言うほどのものでもない。身体を動かせないい以上袖から箱を出すのも蓋を開けるのもマグダレナ任せになる。ペペインがやれることと言えば袖の中の封印器の存在を明かし、マグダレナの興味を引くことぐらいしかない。
「なんか稚拙ねぇ…あの婆さんがアタシの裏側♫を身体に向けて蓋を開くとは限らないでしょ?逆だったらどうするのよ?」
「それは…何とかなりませんか?」
「なるに決まってるでしょ。誰だと思ってるのよ。あんたの考えが穴だらけなのを指摘したかっただけ」
監視紋を浮かび上がらせていたのではクリトリスを見られた瞬間異変を察知されると考え、イングリッドは最初から相手を視認して封印術を放つ気はなかった。帯魔防御法によって外に出ていないはずの魔力をマグダレナが感知し、ペペインの力量を容易く見抜いたように、ある程度の魔法使いに探られてしまってはたとえ細胞内にすら溜めていなくても微量の魔力を感知されてしまう。
そのためイングリッドは蓋が開かれた際の向きがどうあれマグダレナの魔力を目標に封印術を放つつもりでいた。
クリトリスの正面に抵抗石の輪を配置すれば封印術を通過させやすいなどと言う気遣いは、イングリッドに取っては要らぬ心配でしかなかった。
まさか相手がイングリッドを所持しているなどとは考えつくはずもなく、ペペインと違い油断していなかったマグダレナもあっけなく封印されてしまった。
『あらぁ?どういうことかしら?・・・なぜ私が封印されちゃってるのぉ?』
拾い上げたペペインの目をクリトリスで見つめながらマグダレナは自問する。
施術者が封印されたことにより麻痺が取れ、多少ふらつく身体をかがめてゆっくりと床に落ちた二つの封印器をペペインが拾い上げる10秒足らずの間にマグダレナは状況を察し、すぐさまクリトリスに監視紋を浮かび上がらせていた。
既に所有している7つに比べ極々小さい封印器を三つの指で摘み、顔の正面に位置させないように観察する。イングリッド同様マグダレナでも人を殺傷できる魔法をクリトリスから放出できるものとして接する。そして実際出来る。
「やはり凄いですねマグダレナさん。もう監視紋を使っていると言うことは既に状況はご理解頂けているわけですよね。たぶんクリトリスだけでも魔法を使えると思うんですけど、抵抗せずに話を聞いて頂けますか?」
ペペインはマグダレナの器、といってもクリトリスの根元を取り囲む輪ほどの大きさしかない封印器に転写術で読心術を組み込み会話を試みる。これで袖、封印器、転写と3度不本意ながら機巧術を使ったことになる。
魔法使いのペペインはクリトリスに直接読心術を施せるが、施術者より相手の力が上なら拒むことも出来てしまう。
しかし機巧術、しかも抵抗石製の輪に組み込んだ読心術は魔法使いではどうすることも出来ず、相手が怒っていても強制的に会話する事が出来る。
『う~ん、そうよねぇ?君が封印したのよねぇやっぱり。でもどうやってぇ?実力を隠してたとも思えないしぃ…』
封印されてしまった屈辱はあるものの、マグダレナもかつてのイングリッド同様、出ようと思えばいつでも自力で脱出出来ると高を括っている。そのため格下の魔法使いに封印されてしまったことを純粋に疑問に思い、思考を割く余裕がある。
「それも説明しますけど、まず先にマグダレナさん、たぶんいつでも出られると考えていらっしゃると思うんですけど、もうそこから出る事は出来ません」
『え~?ほんとぉ?今出るとすぐにあなたを殺しちゃいそうだから中にいてあげてるんだけど、そんなこと言うならもう出ちゃいましょうかぁ?』
「試して頂いても結構です。でもあまり魔力の無駄遣いはなさらないように…」
マグダレナはクリトリスから魔力を放出する。通常この封印術は符牒魔法によって解除するのが正しい脱出方法だが、ある程度の魔法使いになると魔力そのもので無理矢理こじ開けることが出来る。
封印器がただの金属なら。
『・・・・・あらぁ?なぁに、これぇ?魔力が伝わらないわぁ』
封印器そのものを消し飛ばすために目の、監視紋の端に見えている輪に魔力を送ろうとするが、送る先から消えていってしまう。施術者に対する侮りが邪魔をし、封印器が魔力をかき消す様を直接体験してもまだマグダレナはその素材の正体に気づかない。
「実は蓋を開けて貰うときに気づかれるのではとビクビクしてたんですが、まだ分からないと言うことはこれまで触れらことがなかったみたいですね。マジャリ出身のボクでさえこの間まで見たことも無かったので無理もありませんが。
今マグダレナさんが閉じ込められているのは抵抗石です」
『・・・て、抵抗石ぃ?』
魔力を流すのを止める。さすがのマグダレナも背中に冷たい物が流れる。
『抵抗石なんて…どうしてあなたが持ってるのかしらぁ?』
「拾ったんですよ。偶然ですけど」
『偶然拾ったぁ?抵抗石を偶然拾うなんてことあるかしらぁ?しかも原石じゃなくて加工されてる物をぉ』
ペペインにはマグダレナに確認したいことがあった。それと同様に、マグダレナもペペインに確認しておきたいことが出て来た。
『ねぇえ?あなたもしかして、騎士団に雇われてたりしなぃ?』
「?…騎士団?いえ、全く関係ありません。・・・もしかして追われているという騎士団ですか?ご安心ください、ボクは本当にただのしがない冒険者です」
『・・・ホントに不思議な子ねぇ、なんで私が追われてることを知ってるのかしらぁ?
関係ないならいいんだけどぉ…こんな状態で騎士団に引き渡されたら、いくら私でも簡単に処刑場まで連れて行かれちゃうもの。あなたは私を処刑したいなんて思わないわよねぇ?』
「勿論です。ただし、出してあげることも致しませんが」
『…出してくれたら見逃してあげるって言ってもぉ?』
「申し訳ありませんが、それを信じるわけにはまいりませし、出しさえしなければ見逃して貰う必要もありません。
…そう仰って頂けると言うことは、自力での脱出が不可能だとご理解頂けましたか?」
『そうねぇ、封印器が抵抗石ならいくら私でも出られないわねぇ』
「安心しました。そういうことですので無駄な抵抗は控えて頂けますか?」
『う~ん、いいわよぉ。この状態でもあなたを殺せるけど、殺しちゃったら出る方法もなくなるものねぇ』
「・・・それと、もう一つお伝えしておかなければならないことがあるんです。
恐らくボクが抵抗石を所持していたことよりも驚かれると思いますが…」
『あらぁ?意味深ねぇ、何かしらぁ?』
「ボクがマグダレナさんを封印出来た理由です」
『あぁ!そうよぉ、どうやったのかしらぁ?あなたの魔力じゃ私を封印するなんて無理なはずなんだけどぉ?』
ペペインは監視紋が浮かんでいるマグダレナのクリトリスの正面に手の平にのせたもう一つの封印器をかざす。
『さっきの箱じゃない…これが何…あらぁ?そういえばこの箱から・・・』
「そうなんです。一瞬だったと思うので分かりづらかったかも知れませんが、マグダレナさんを封印したのはボクじゃなくてこの箱…というかこのクリトリスの持ち主です。
その持ち主なんですが・・・」
ペペインはマグダレナのクリトリスを唇に近づけ、その名前をささやく。
『・・・・・・・・・え゛っっっ!!??』
抵抗石の輪を掴んでいた指に振動が届くほどマグダレナのクリトリスがびくりと反り返る。心なしか監視紋も見開かれたように見える。
『・・・・・い、イングリッドぉ?そんなはずは…私が知ってるイングリッドは一人しかいないわよぉ?でも…』
「正真正銘本物の、あのイングリッドさんです。ボクも最初は信じられませんでした。でもマグダレナさんほどの魔法使いが封印されてしまったことを考えると信じやすいんじゃないですか?」
確かにイングリッドなら自分を封印出来ても不思議はないとマグダレナは思った。しかしそうすると今度はイングリッドほどの魔法使いが既に封印されており、来訪者を助けた事のほうが不思議に思える。
『ふっふっふ♫マグダレナ、久しぶりぃ♫本当のイングリッド様よ?驚いたぁ?』
マグダレナ同様既に監視紋を浮かび上がらせていたイングリッドは向かい合ったクリトリスに向けて読心術を送る。
『…ほ、本当にイングリッドなのぉ?』
『そうよ♫あんたが弟子入りに来たとき以来だから100年は経ってるわよね?』
『う゛・・・』
それだけでマグダレナには向かい合っているクリトリスの持ち主が本物のイングリッドであることが分かった。
二人はお互いに存在を知っているだけでなく、僅かではあるが面識があった。まだ一度も若返っていない時代のマグダレナは、まさにその若返りのためにイングリッドが使用している代謝停滞術の教えを請うために弟子入りを志願していた。
しかし弟子を取る気など更更なく、また永遠に老いず可愛い姿のまま生き続けるのは自分一人でいいと思っていたイングリッドに悪し様に追い返され、結果独自の若返り法の研究を始めることになった。
『ど、どういうことかしらぁ?どうしてあなたが封印されてるのぉ?』
『忌々しいことにこの器も抵抗石製なのよ。だからアタシでも出れないの。あんたも無駄な抵抗はしない方がいいわよ?』
『それはさっきこの坊やに聞いたわぁ。そうじゃなくそもそもどうしてあなたが封印されちゃってるのか知りたいのよぉ?あの大魔法使い様ともあろう方がぁ…ふふふ♫』
『…笑ってられるのかなぁ?あたしを封印したのはと~~~っても珍しい機巧術士だからある意味凄いけど、あんたなんてただの格下魔法使いに…ま、封印したのはアタシだけど、捕まっちゃってるくせにぃ~あはははは♫』
いつでも出られると考え囚われた魔法使い少女ごっこを楽しんでいる間に抵抗石製の封印器を使われてしまったことは口が裂けても言えない。
『機巧術士ですってぇ?そんなもの実在するわけないでしょぉ?ただ油断してただけのくせにぃ♫どうせ大助平魔法使い様は囚われた魔法使いにでもなったつもりでその大きくて恥ずかしいクリトリスが責められるのを楽しんでたら、いつの間にか抵抗石に閉じ込められでもしたんじゃないのかしらぁ?間抜けねぇほほほ~♫』
『ぐ・・・ふ、ふん!どうせお前もこれからその既に真っ赤なクリトリスを責められて何の抵抗も出来ずにひぃひぃ言わされるんだ!何でまだ何もされてないのに真っ赤なんだ?どうせ自慰ばっかりしてたんだろ?この三流雌猿魔法使いぃ~っ!』
『あらぁ?私もぉ?私持って言うことは、あなたも既にひぃひぃ言わされてるって事かしらぁぁぁっ?』
『へ~ん!こいつはアタシの仲間だからもう時々しかひぃひぃ言わされてないもんねぇ~!これからはお前がそのあっかいクリトリス責められまくってビクビク暴れてるとこ高みの見物してやるぅぅぅ~っ♫♫♫』
「いや、お二人とも・・・すいませんイングリッドさん、ちょっと仕舞いますね」
大魔法使いと上級魔法使いのクリトリスが一触即発の様を呈し始めたので、ペペインはイングリッドの蓋を閉め、袖の中に戻す。
二人がクリトリスから魔法を出し合ってケンカを始めた場合、二人は防御しあうことが出来るかも知れないが、その二つを持っている格下の魔法使いはとばっちりで死んでしまうかも知れない。
「すいません、マグダレナさん。お二人がお知り合いとは知らなかったので・・・でもとりあえずそこから自力では脱出出来ないと言うことは分かって貰えましたよね?」
『・・・そうねぇ…イングリッドでも出られずあなたに協力してるんだもの、出られそうにないわねぇ。
どうしてあんな傲慢女があなたに協力してるのかしらぁ?そんなに酷い目に遭わせてるのぉ?』
マグダレナのクリトリスがぴくんと動く。平静を装ってはいるが、先ほどイングリッドによって指摘されたため、脱出出来る出来ないはもとよりクリトリスが無防備な状態であることに漸く考えが至っていた。
「そんなに非道いことはしていませんよ。イングリッドさんの周りの仕掛けを見たと思いますが、あれはボクが作った物じゃありませんから。まあ時々使いはしますけど」
『そうよぉ、あれは拷問具だったわよねぇ?あれでイングリッドを手なずけたのかしらぁ?』
「・・・大魔法使いとしてのイングリッドさんの名誉に関わりますのであまり大きな声では言えませんが、ボクがイングリッドさんを手に入れたときにはもう既にかなり手なずけられてました」
『既に・・・そうそうあの女、機巧術士に封印されたって言ってたわよぉ?あなたも知ってたのぉ?そんなの本当にいるのかしらぁ?まだあなたが封印したって言われた方が信じられるわぁ』
「いるみたいです。ボクも実際自分が使えるようになるまでは存在すら知りませんでした」
『・・・え、えぇ?あなたが使えるぅ?』
「はい、追い追い説明しますけど、イングリッドさん入れた際に、機巧術まで同時に手に入れた…というか手に入ってしまったんです。
とりあえずその証拠だけでも。…こんなに小さいと逆に扱いづらいですから」
ペペインは1時間ほど前に捜索した台所から鉄の鍋を持ち出し、それを机にのせたマグダレナのクリトリスの目の前で変化させていく。これでこの日、2時間足らずの間に4度目の使用になる。
『あ…あらぁ・・・まぁまぁまぁ…錬金術…じゃないのよねぇ?』
機巧術は見たことがない、どころか存在を信じてさえいなかったマグダレナも、目の前で使用されているのが錬金術でないことは分かる。錬金術は結果的に物体の形状を変えることも出来るが、あくまで石を金に変えるようにその物質を形作る最小粒子の構成を組み替える魔法なので、石は一旦魔法言語に変化した後金に変わる。目の前の元鍋のようにうねうねと粘土のようにくねりながら形状が変化することはない。
機巧術は使えてもその力をもたらしてくれた赤毛の少年の様に細工や仕掛けの技術を持っていないペペインは、マグダレナが3人の娼婦を封印するのに使っていた器を見たまま真似、その土台の上にマグダレナのクリトリスを置き、一体化させる。
もうマグダレナは封印出来たので出来れば当分機巧術を使いたくはなかったが、使わなければ鉄と抵抗石を繋げる事が出来ない。
またその人格がどうあれ、魔法使いとして大成したいと考えているペペインは自分以上の魔法使いに対しては率直に尊敬の念を感じるため、自分を過信してのこのこ乗り込み、あっさり拘束された間抜けな魔法使いと思われたままではいたくない。
機巧術を使える様を見せ、少しでも自分に対するマグダレナの評価を回復出来ればいいとも考えた。
「ふぅ…分かって頂けました?実はその抵抗石の輪もボクが急遽用意しました」
『・・・信じられないわぁ、でも目の前で見せられちゃったしものねぇ。早く聞かせて貰いたいわぁ、何がどうなって機巧術なんかを使えるようになったのかをぉ』
ベシーナ各地で発見される抵抗石のほとんどはマジャリ王室に集まる。マグダレナを追っているのはオティカの騎士達なので抵抗石とは関係なく思えるが、騎士団と同じく国の直轄機関である魔法研究所には恐らくどこの国でも分析用に多少の抵抗石が保管されているはずだった。
クリトリスを取り囲む大きさに都合良く加工された抵抗石を拾ったなど言う話は戯言にしか思えず、いつまでもマグダレナを捕らえられない騎士団がとうとう本気を出し、封印術を使える魔法使いに抵抗石を持たせ送り込んできたのではと言う可能性をマグダレナは捨てきれずにいが、騎士団ですら手を出せないイングリッドが封印されている様と、抵抗石すら操れるという迷信じみた機巧術を実際に見せられた今となっては、少なくともその心配はしなくても良さそうだった。
「そうですね、ですから追い追い。これからはマグダレナさんとも一緒にいることが多くなりますから、お話しする機会はいくらでもあります。ただ申し訳ないんですが、少しボクからも質問させてください。
マグダレナさんが封印術を使えると分かったときから気になっていたんですが、どこで珊瑚筺を手に入れました?
マグダレナさんほどの方なら珊瑚筺方式の封印術の発明者であってもおかしくはないと思ったんですが、そういうことではないんですよね?
ボクもそうだったんですが、最初に陰核が外に出ている封印器を見つけ、そこから陰核以外も外に出せる封印術を開発した。
その元になった珊瑚筺の事を知りたいんです」
イングリッド達や抵抗石を見つけた際、ペペインはそれらが入っていた鞄の中に2冊のノートを見つけていた。
水に濡れてしまっていたその2冊を乾かしてはみたが、そもそもかなり古いものだったらしく、それが濡れてしまったことにより大半は判読できなくなってしまっていた。
それでも判別がつく部分にだけ目を通してみると、それが封印術や、その封印術で無防備になったクリトリスを責めるための魔法薬などについて書かれているノートだと分かった。珊瑚箱という呼び名もそのノートで知った。
所持していたのは赤毛の少年だが、少年が書いたとは思えない。
どういう経緯で少年が所持しているのかは不明だが、そのノートが今や魔法使いの頂点たるイングリッドまで捕らえられるに至った封印術を発明した者の覚書だとペペインは考えた。
ただしそのノート自体はペペインにはさほど重要ではない。任意部位解放式封印術の研究に多少役に立った程度だった。
マグダレナが封印術を使えると知ったときはマグダレナがノートの作成者かとも思ったが、どうやら違う。
寧ろ違う方が好ましい。ペペインに取っては封印術の発明者は誰でも良かった。
フドヘドラーフ家を出る際、ペペインには大きな目的が2つあった。
一つは魔法使いとして大成することで、それは今この瞬間もマグダレナとその研究成果を手に入れたことによって着々と進んでいる。封印術と機巧術の解析も目的だが、それらはマジャリを出た後に追加された。
もう一つは箱の捜索だった。
本人にその自覚はなかったが、家族に言わせるとペペインはある時を境に急に性格が変わったらしい。
その時期が家とマジャリを出ようと決意した頃と重なるため、ペペインはその二つを見限った事が態度に出てしまったのだろうと考えていた。
箱に関しては家と国を見限る以前から探さなければと言う思いがあった。
しかし頭に思い浮かぶのは大きさと形状だけで、中に何が入っているのかもどこにあるのかもなぜ探したいのかすら分からない。
しかし重要な物だという確信だけがあり、魔法使いとして大成しながらその箱を探すために家を出た。
冒険者を職に選んだのも無法魔法使いが関わる案件を探し、彼らから効率よく研究成果を入手するためだけではない。
オティカを新天地とし、オティカの治安院に登録したが、冒険者の仕事が一国内で収まると言うことはない。
商人の護衛として各国を回ることもあれば、マグダレナが名を隠してそうしたように、正規の研究者から稀少生物の収集を依頼される事もある。
他の職に就きながらその合間に稼いだ金を使って各地を回るのではなく、各地を回ること自体に報酬が発生する冒険者の仕事は箱探しに都合が良かった。
それでもオティカに住み始めてしばらくはどうすることも出来なかった。
中身や見つけたい理由はともかく、どこにあるのかも分からないものは各地を巡ったところで探し様がない。
6つの箱と覚書はムラドハナを出立したその日に見つけており、ペペインはオティカ国内の仕事をしながら封印術の研究を進めていた。
その研究が進むにつれ、ペペインの中に新たな予感が沸き上がってきた。
箱には陰核が収められており、その箱はバーマにあると。
封印術の研究が一段落したペペインはすぐにバーマに向かう事にした。しかし都合良く目的地周辺を巡る依頼が舞い込むはずもなく、最初の捜索は結局治安院の仕事とは関係なく行うことになった。
見つけることは出来なかった。
向かった先に朽ちた山荘はあったが、それだけだった。
再び手がかり、単に頭に沸いてきた予感でしかないため手がかりと呼べるかどうかも怪しいが、少なくとも次にどこを探せばいいかもまた分からなくなり、ペペインは肩を落としてオティカに戻ることにした。
その際、ペペインはマジャリを経由することにした。
マジャリを横断した方が目的地までの距離が短いにも関わらず出たばかりの母国に入るのを嫌い、ペペインは行き道、遠回りになるにも関わらずウポレを経由していた。
しかし期待はずれの結果に終わり、帰りは遠回りする気力がなくマジャリを通って戻ることにした。
そして国境の町シャンニで、確実に当たると評判になっていた占い師の名を聞いたペペインに赤毛の少年から入手した情報が蘇り、解析と再構築が終わったばかりの肛門解放式封印術を始めて使うことになる。
『それじゃあ私が解析に使った箱があなたが探してる箱だっていうのぉ?』
「そうです、と言い切ることは出来ません。お恥ずかしい話、僕自身なぜその箱を探したいのか良く分かっていませんので。箱が封印器だろうという確信はあるのですが、誰が封印されているのかも分かりません。ですのでマグダレナさんに封印されていた人物の名を教えて貰ったところで答え合わせは出来ないんですが」
『おかしな話ねぇ。じゃあどうやって私が持ってた箱があなたが探してるものだって確かめるのぉ?』
「それはリンジーを使えば分かります。
しかし…持ってた、という事は今は持っていないんですか?」
『もうないわぁ。だから新しい女の子達が欲しかったのよぉ♫』
「そうですか…とにかく先にリンジーを回収しましょう。マグダレナさんが持っていた箱がボクが探している箱では無かった場合、これ以上詳しく聞く必要はなくなりますから。
・・・リンジーは無事ですよね?」
『無事に決まってるわぁ。案内してあげるわよぉ、私はこの状態だから、運んでくれるぅ?』
ペペインはマグダレナを手に乗せ、部屋を出た。
麻痺術で拘束されている間にマグダレナがリンジーを持ち去ったのは隣室だと思っていたが、部屋の外は廊下だった。その廊下の突き当たりに、地下に向かう階段がある。
ペペインはマグダレナに案内され、その階段を下りていく。マグダレナ自身に反省させられたこともあり、もう油断はしない。何らかの罠に誘い込もうとしている可能性も考え、魔力を纏い直し手すりにも触れないようにする。
降りた先にある半開きの扉も、つま先でゆっくりと押し開ける。
「う・・・こ、これは…」
ペペインは思わずマグダレナを乗せていない方の手で鼻と口を押さえる。
「…本当に怖い人だったんですね…」
室内は無数の標本や薬液漬けの瓶が棚に並べられ、地下用の研究机の上には何かの塊が置かれたままになっている。
魔法生物の標本だけならまだしも、瓶の中には明らかに人間の手や足が浸けられている。一見しただけでは首から上が見当たらないのが救いだった。
『・・・あぁ~、やっと分かったわぁ、そういうことねぇ。名前も知らなかったのに急に詳しくなったと思ったら、私を封印する準備をしながらイングリッドに聞いたのねぇ?』
「はい・・・うっ…こ、こういうことをしたから騎士団に追われてるんですね」
マグダレナの言うとおりイングリッドから大まかな話を聞いてはいたものの、つい先ほどまでは魔法使いとしての凄さ以外特に恐怖は感じていなかった。しかし地下室の光景を見、考えを新たにする。
同時にリンジーの安否もやはり心配になってきた。
イングリッドやマグダレナも貴重だが、今のペペインに取って最も必要なのはリンジーだった。
元がなんなのかも分からないものが乗った机に近寄っていく。目では気味の悪い光景を見続けているが、鼻は全く無事だった。反射的に手で覆いはしたが、マグダレナ自身も匂いを嫌い何らかの処置をしていることは明らかで、その点はありがたかった。おかげで嘔吐せずに済む。
「リンジーは無事なんですよね?」
『しつこいわねぇ。実験材料以外に非道い事なんてしないわよぉ。そこにあるじゃないのぉ』
クリトリスに浮かんだ監視紋が示す先、わけが分からないモノの横にリンジーの器は置かれていた。すぐに読心術を施し、蓋が開いたままの肛門に話しかける。
「大丈夫だった?リンジー」
『んはっ!?ペペイン君!?…大丈夫じゃないですぅ~~~っ、お尻…お尻がぁ…』
「お尻が…何?・・・見た限りでは特に怪我はなさそうだけど、痛い?何かされた?」
『お尻がぁ…切ないですぅぅ~、弄ってくださぁぁぁい』
リンジーの肛門は確かに怪我などはしていなかったが、てらてらと光りながら広がったままになっていた。普段なら少し穴が開いただけで見えるはずの占術器の頭が見えず、その広がったままの肛門を覗き込んで漸く見えるほど奥に押し込まれている。
「マグダレナさん、薬か何か使いましたか?」
『何もしてないわぁ、ちょっとほじほじしてあげただけよぉ♫あなた全然ほぐしてなかったでしょぉ?』
リンジーは何の魔法も薬品も使われていなかった。ただ散々人体を弄んできたマグダレナの指と舌で丁寧に肛門をほぐされ、瞬く間に性感帯として開発されてしまったに過ぎない。
封印され、浣腸により中身を空にされて以来、匂いを嗅がれるか球体を出し入れするだけだった肛門をマグダレナによって膣のように柔らかくなるまでほぐされ、開いたままの穴から覗いている桃色の肉壁を撫でられ、恥ずかしい匂いを誉められ、染み出てくる腸液を味わわれ、1時間ほどの間にリンジーはすっかり肛門を弄ばれることに快感を感じるようになっていた。
同性であること以外名前も知らない相手に排泄孔を覗かれ、命じられるまま大きな球体を産み出す。
その球体によって広がり、皺が引き延ばされた穴の周辺を指先でぐるりとなぞられる。
そしてペペインがしたように一気に腸内に、ペペイン以上に奥まで球を押し戻されるが、もう痛みは感じない。
柔らかくなった直腸はごくりと太い球を飲み込む感覚を気持ちいいと認識し、もっとして欲しくて自らまた球を産み出す。
マグダレナが1階に戻ってしまうとリンジーは物足りない肛門を拡げたまま、指と舌の持ち主が戻ってきてくれるのを待っていた。
『ペペインくぅ~ん、私のお尻開いたままになってませんかぁ~っ?』
「なってるよ?」
『そこをごしごししてくださぃ~、あの人みたいにぃ~っ!』
「あの人みたいにって言われても、ボクは見てないから…」
ペペインは肛門の内側に触れてみる。少なくとも魔力の痕跡は感じない。そして確かにこれまでとは全く感触が違う。
「本当にほぐしただけですか?危険なことはしていないんですね?」
『もぉ~くどいわよぉ?、後でゆっくり遊ぼうと思ってたんだものぉ、すぐに壊しちゃうようなことしないわよぉ』
「じゃあ放って置いて大丈夫なんですね?」
『ほっとくってなんですかぁ?ほっとかないでくださいぃ~~っ!』
抗議を示すかのようにリンジーの肛門がひくひくと収縮する。が、やはり最後までは締まり切らない。
「リンジー、要するにただむらむらしてるだけって事だよね?だったら悪いけど先にちょっと占って貰えるかな?」
『えぇ~?今は出来ないかも知れませぇん』
「後でしてあげるから。あ、そうそう、それからさっきの人、マグダレナさんはもう封印し終わったから安心して」
『えぇ~!?あの人封印しちゃったんですかぁ?』
自分が置かれている地下室の様子を知らないリンジーはマグダレナにもっと弄って貰いたがっていた。
リンジー自身は使えないが読心術のように監視紋もペペインが施してやることも出来る。部屋を見せれば興奮は冷めるような気もするが、代わりに動揺してしまいそうなのでそのままにしておく。
結局リンジーは腹に力をいつも以上に込め、奥に入っている占術器をぷちゅりと産み出した。要望に応えて占いをしてあげると言うよりも、ペペインが弄ってくれないなら疼く肛門に自力で何かを通過させたい。
『はふぅ~~~っ♫♫』
占っている最中までイかされていた前回の封印時と違い、今回リンジーは一度も絶頂に達していなかった。
解放されている箇所が違うので当然でもあるが、ペペインはリンジーを完全に探索機として所持しているため封印してからの数ヶ月間、肛門が快感と認識出来る様な刺激を一切与えていなかった。
しかし新たな所有者の考えとは裏腹に、肛門を見られ嗅がれ出し入れされ、そして道具扱いされていること自体にもリンジーは悶々と燻り続けていた。
そしてつい先ほど漸く、望んでいたはっきりとした快感をマグダレナに与えて貰えはしたが、その箇所が肛門であるため結局燻りを発散出来る様な絶頂には至っていない。
より一層悶々とさせられただけのリンジーはほぐされた肛門をぱくぱくと開閉させ、ペペインに続きをねだるしかなかった。
『何を占うんですかぁ?』
「さっきの人、マグダレナさんもボクのように珊瑚筺を持っていたんだけど、それがボクが探しているモノだったかどうか確かめて貰いたいんだよ」
『そうなんですかぁ?じゃあ探してみます~。終わったらお尻の穴弄ってくれますかぁ?』
「分かったよ、弄ってあげる。だから頼むよ」
リンジーは疼く肛門に意識を集中し、三連輪の回転を読み始めた。
指でもクリトリスでも肛門でも、占術器の三連輪を読もうとすると無意識に意識を集中している箇所がぴくぴくと動く。
肛門は自身の周縁部を奇麗な円形に拡げている球体をきゅっきゅと締める。今のリンジーはどうせならつるつるした表面の物よりも、もっと歪で摩擦が大きい物をぎゅっと締め付け、それでごしごしと擦って貰いたかった。
それでもさっさと占いを終わらせ、早くご褒美を貰おうとする。
やはり未だに原理も原動力も分かっていないが、上下、左右、前後の回転軸以外は占う物の内容によって変化し、その違いによって場所を特定していく。
探し物の場合、それを誰かが所有していたとしても人ではなく場所が導き出される。また最終的にはそれがある場所に辿り着くが、その過程ではあくまで大まかな方向だけが分かり、都度占いを繰り返しながら微調整していく。
「うんっ…うんっ・・・んっ!」
自分の意志で身体のいろんな部分を使って占いをしてみようなどと思うはずもないので無理もないが、クリトリスに占術器を吊られた時からリンジーは、自分が手以外でも三連輪の動きを読めることをに驚いていた。
刷毛で磨かれたり占術器自体で拡げられたりと集中を妨げる無駄な刺激を与えられてはいるが、最終的な結果は今の所間違っていない。
バーマ南西の森からオティカに戻る途中にリンジーを入手したペペインは、探し物は無くした場所から占いを開始した方が見つけやすいという助言に従い、もう一度山荘に戻っていた。3人の娼婦達も依頼者が目撃した連れ去り現場から追跡を開始している。
既に捜索済みの山荘にないことは分かっていたが、戻ったおかげでリンジーは探し物が間違いなくその山荘にあったことだけは感じ取ることが出来た。
しかしそこから先、次にどこに向かうべきなのかは分からなかった。
リンジーに限らず、占い師全般が長く時間が経過した遺失物の捜索を苦手としていた。そもそもペペインは自分が捜索を依頼している品が自分の所有物だったのか、所有していたとしてもどのくらい前に手元を離れた物なのかも分かっていない。
それでも優秀な占い師であるリンジーは山荘から遺失物が移動した方向を感じ取ることは出来た。
ただし、複数。
それだけで遺失物、ペペインの探す珊瑚筺が長い間にベシーナ各地を転々としている事が分かった。
たとえ探し物が頻繁に何百キロと移動していても、それが短期間であれば要所要所が線で繋がり、終点が分かる。
しかしあまりに時間が経過していると線が見えず、要所要所しか分からない。
探し物の場合要所とはそれが移動せず留まっていた地点で、捜索を継続するなら次はその何れかの場所に移動し、改めて占う必要がある。
ただし時間軸が失われているため、実際に行ってみなければいつ頃探し物が留まっていた場所なのかは分からない。
赴いた先が比較的新しければそこから終点、少なくとも直近に存在していた地点を導き出せるが、古ければまた次の場所へ行ってみなければならない。
またその要所もはっきりと分かるわけではなく、占いを開始した地点からの方向と大まかな距離しか読むことが出来ない。
リンジーは山荘での占いで分かったいくつかの要所を全て覚えているが、それらはバーマの北東やマジャリの中央、そしてオティカの南東といった広い範囲でしかない。正確に次の占い開始点を探すには実際にその周辺に行き、改めて占う必要がある。
時間経過を見失ってしまう基準は占い師の才能と探し物の情報量に依存している。
リンジーの場合才能は申し分なく、10年20年と時間が経っていても探し物が詳細なら見つけられるが、1年2年しか経っていなくても曖昧であれば苦労する。
かつてリンジーは20年以上前に持ち去られたヘザーとミルドレッドを発見したが、探し物の情報を占い師であるリンジー自身が持っていたため容易く見つけられた。
しかしペペインの頼みは、どこでいつ無くしたのかも、そもそも無くしたのかどうかも定かではないモノを探してくれというものだった為、如何にリンジーでもまだ終点を見つけられずにいた。
誰が中に居るのかは分からないが、探し物がリンジーが嫌と言うほど良く知っている珊瑚筺だったため辛うじていくつかの要所は見つけられたが、並の占い師なら白旗を揚げるか、適当な場所を伝えてお茶を濁すしかない。
無くした場所から探した方が見つけやすいというのは占う対象の情報を増やすため占い師達には常識だったが、ただでさえ情報の少ないペペインの依頼の場合は必須だった。
『んふ~~~っ!…っはぁ・・・・・あのぉ、近くにはないみたいです。探すのってあれでいいんですよね?最初に言ってた…』
「うん。もしかしたらマグダレナさんが参考にした箱があれじゃないかと思ったんだけど、違ったか…」
『あ、でも、もう近くにはないですけど、ここにあったような気はします』
マグダレナが持っていた箱とペペインが探している箱が同一かどうかは、ペペインの箱の行方を占うだけで分かる。
この場所からペペインの探し物を占い、終点か新たな移動先を読む取ることが出来ればここが要所だとわかり、ある時点までここにペペインが求める箱があったことになる。
「あった?じゃあやっぱり…」
「しかも結構最近まであったみたいなので、もうすぐ見つけられると思います?」
「!?本当に??それは素晴らしいよ。流石リンジー、ありがとう」
『い、いやぁ♫・・・じゃ、あの…いいですかきゅぅぅぅっ!!』
ペペインは占術器をリンジーの中に押し込み、蓋を閉めてしまった。リンジーがほぐされた肛門を刺激して欲しがっていることは分かっているし、してやらないでもないが、今は忙しい。
「聞きましたか?マグダレナさん。やはりマグダレナさんが持っていた箱がボクが探している箱だったようです」
『そうなのぉ?わたしは占いなんて信じないけど、この場所は見つけられたんだものねぇ』
「今の所リンジーの占いは全て当たっています。
それでは教えて頂けますか?箱をどこへやったんです?」
いかにリンジーの占いが正しくとも、つい最近まで箱を所持していた者が目の前にいるなら直接聞いた方が早い。
『どこって…それはぁ…』
マグダレナは頭を回転させた。
入手先は口が裂けても言えない。自分を封印した男の事はまだ名前すら知らない。しかしマジャリの人間らしいことは分かっている。
入手元であるヨドークスが死んだため、自分が聖女をバラバラにしたことはこの先ばれることはないだろうと安心していたが、いずれ何らかの原因で聖女の現状が世間に明かされた時、自分とヨドークスに繋がりがあることをこの男が知っていれば、容易く自分が犯人だとばれてしまう。何しろこの山荘には聖女をバラバラにするのに使用した魔法の研究成果も置かれている。
男の思想は知らないが、一般的なマジャリ人と同じ考え持っているとすれば当然聖女を崇拝しているはずで、自分が聖女に危害を加えたことを知られると、何をされるか分からない。
個人的に報復されるならまだしも、マジャリ王室につき出されてしまうとオティカ騎士団に捕らえられた場合と同様に命に関わる。
ただしペペインが尋ねているのは入手先ではなく今現在どこにあるかだった。
それはそれであまり教えたくない。箱がどうなったかを教えると言うことは、自身の実験の失敗を教えることにもなる。
相手が誰であれ自分が如何なる状態であれ、上級魔法士としては実験の失敗談など語りたくもない。マグダレナは何とか失敗の部分を省いて伝えられないかを考える。
「・・・どうしました?教えて頂けないんですか?」
『あの箱はねぇ…盗まれたのよぉ?』
「盗まれた?・・・マグダレナさん、封印されてしまっている相手に向かって言うこととも思えませんが、どこの誰がマグダレナさんほどの魔法使いから盗みを働けるんです?嘘をつかれても…」
『嘘じゃないのよぉ、それに人間でもないのよぉ。
この部屋を見れば分かるでしょぉ?箱を盗んだのは魔法生物なのよぉ』
「魔法生物?確かにたくさんありますけど、どれも生きてませんよ?」
『そりゃぁ実験に使ったら死んじゃうけど、最初から死体じゃないのよぉ?それにあなたまだ…あなた、お名前は?』
「これは失礼しました、最初に名乗っていませんでしたね。ペペインと申します」
『そう、ペペイン。ペペインちゃんはまだ隣の部屋を見てないでしょぉ?ちゃんとまだ生きてる魔法生物もいるのよぉ』
部屋の様子、主に保管されている人間の部位を見たくなかったのでよく観察していなかったが、言われてみると奥にまだ扉がある。
「そうですか。ですがそれが事実だとして、どうして魔法生物が箱なんか盗むんです?」
『それはぁ…遊んでたのよぉ♫ペペインちゃんだって遊ぶでしょぉ?イングリッドのクリトリスでぇ♫』
「つまり…魔法生物にクリトリスを責めさせていたら、その魔法生物が箱を持って逃げ出してしまったって事ですか?
ですがあの生き物にそんなことが出来るとは…」
『ジャグラタのことを言ってるのかしらぁ?あれじゃないわよぉ、もっと大きい魔法生物ぅ。だから今どこにあるのかは分からないのよぉ』
「・・・そうですか。いつ頃までここにあったんです?リンジーは最近まであったと言っていましたが」
『そうねぇ、半年くらい前かしらぁ?』
ペペインは口惜しさに苛まれた。もう少し早ければこの場所で大きな目的の1つが達成出来ていた。しかしマグダレナが1ヶ月前に3人の娼婦を攫ったからこそ偶然ここにたどり着けただけで、リンジーのみを頼りに捜索していたのではいつになったかは分からない。
「・・・失礼ですが、全て事実ですよね?」
『勿論よぉ、嘘なんかついたらペペインちゃん、私に非道いことをするでしょぉ?』
「ええ、します。分かりました、信じます」
箱の行方から遡り入手先を訪ねられたらどう話を作ろうかと考えていたが、上手く誤魔化せたとマグダレナは安堵した。魔法生物に箱を盗まれた事も失敗には違いなく事実でもあるが、実際の失敗にの規模に比べれば微々たるものでしかない。
実はマグダレナの方もペペインが封印術を知るに至ったきっかけは自分の所から持ち去られた封印器なのではないかと思っていた。
見つけたのがマジャリの首都に近いサンプラティだというので別物らしいとは思っていたが、見つけた場所などいくらでも嘘をつける。
しかし先ほどイングリッドが陰核解放式で封印されていることを知り、その箱から任意部位解放式を作り出したのだろうと考えていたマグダレナは、今もクリトリスを離さずにいるかもしれない自身の失敗作を見られずに済んでいることにも安堵していた。
その失敗作の存在を、バカ正直に明かすはずもない。
「今もここにあれば一番良かったんですが、安心しました。無くなったのが半年前程度ならリンジーは問題無く見つけられるはずですし、何よりマグダレナさんが箱の情報をもっと詳しくリンジーに伝えられますよね?
教えて頂けますか?ずっと気になってたんですが、誰なんです?あの箱に封印されているのは」
『え…?誰?』
今度は頭が回らなかった。研究のためマジャリの宰相に渡されてから2年、その後報酬として譲り受けてから数年、かなり長い間所有し様々な方法で弄んできたが、名前など聞いた記憶が無い。
『誰ってぇ…そんなの知らないわぁ。クリトリスはクリトリスだものぉ』
「知らないって、気にならなかったんですか?中に居るのがどういう人物なのか」
『ならないわよぉ、今持ってる三つだって名前なんか知らないものぉ。鳴き声を楽しむ為の物でしょぉ?あれはぁ♫
聞いたかも知れないけど、覚えてないわぁ』
マジャリでは召喚式分割封印術の研究、オティカに戻ってからは転生式若返り法の研究を再開し、マグダレナにとってはただの封印術によって封印された女達などその最中に流す音楽の代わり程度でしかなかった。
読心術を使い、責められ泣き喚く声を聞いているので、女達はどこかで自分達の名前を言っていたかもしれないがが、難解な研究を進めているマグダレナは記憶どころか気にも留めていなかった。
「そんなバ…」
知能の高い上級魔法士がたかが人の名前すら思えてないなど、そんなバカなことは無いだろうと思ったペペインだったが、イングリッドから話を聞き、自分自身の目でも地下室の惨状を見た後では、人の命を何とも思わないマグダレナなら遊び道具としてのクリトリスの人格など気にも留めないかも知れないと、納得出来てしまった。
「…まあ、名前はいいです。魔法生物が持って逃げたたなら探すのは箱でなくてもいいですし。
魔法生物の名前は流石に分かりますよね?」
馬鹿にされているような気がしてマグダレナは気を悪くする。そして生憎封印器を持って逃げたのは失敗作の改造魔法生物であるため、名前などつけていない。
マグダレナは急遽名前を考えてやる。
『…魔法生物が専門なのよぉ、知らないはずないでしょぉ?・・・ビャルサタよぉ』
「ビャルサタ。聞いたことありません、珍しい生き物なんでしょうね。
分かりました、半年前ならまだその生き物は生きてますよね。名前が分かってるものの方が箱より探しやすいかも知れません。後でリンジーに詳細を教えてください」
『・・・いいわよぉ。でも、後ででいいのぉ?』
「はい、少なくとも見つけられる目処は立ちましたから、おかげさまで。
それにまだすることもありますから」
箱の捜索も大きな目的だが、魔法使いとしての大成も同様に大事で、せっかく思惑通り無法上級魔法士、しかもマグダレナという希有な魔法使いに出会えたため、その研究成果をごっそり頂かなくてはならない。
更に冒険者としての仕事の事後処理もあるため、箱の捜索はそれらが終わってからになる。
ペペインはリンジーをイングリッドとは反対の袖に仕舞い、上の階に戻る。しばらくは嫌でも長居することになるが、今日はもうこれ以上地下室にいたくない。
マグダレナの椅子に腰掛け、長く息を吐き出す。
「ふぅ…ところでマグダレナさん、ボクはしばらくこの山荘に滞在させて頂きます。
それで、滞在中のマグダレナさんの処遇ですが・・・この生き物、何て名前でしたっけ?」
ペペインは机の上に置かれたままの3つのクリトリスの内、1つだけ硝子の蓋が被された物を手に取る。
『・・・ジャグラタだけどぉ?』
「ジャグラタ。このジャグラタをマグダレナさんのクリトリスに被せておこうと思うんですが、いいですか?」
『えぇ~?イヤよぉ、やめてぇ♫』
「この3人は後でちゃんと解放したいんですよ。仕事が失敗したことになるのはイヤなので。外したままにしておくとこれ、死んじゃうでしょ?」
『それは魔力が動力だから時々与えてれば死なないわよぉ、だから止めてぇ♫』
「そうですか。それなら尚更良かった。マグダレナさんが魔力を与えてあげてください。クリトリスから」
『イヤよぉ、私その子に恨まれてるから、めちゃくちゃにされちゃうわぁ♫』
「恨まれてるなんてそんな…たかが魔法生物ですよ。
さ、こうなったからにはもう諦めてください。抵抗石の蓋があればその方がいいんですが、今はどうにもならないので。
ただの硝子の蓋だけでは心配なので、しばらくイかせて貰っててくださいこの…ジャグラタに」
ペペインは未だ動き続けているジャグラタを蓋ごと娼婦のクリトリスから引き離す。触手が絡まったクリトリスが引き延ばされる。離れたくないと言っているように見える様はやはりビラチーナとそっくりだった。
封印器は全て持ち歩いているため、鞄の中には3体のビラチーナが今も3人のクリトリスを責め続けている。卵を産む頻度が早すぎて処理しきれないので、改造者であるイングリッドに現在は生殖機能を停止して貰っていた。無法魔法士の研究成果を頂く計画を立てて最初に出会ったのが魔法生物研究者のマグダレナなので、今後は自分でビラチーナの調整が出来る様になるかも知れないと既にペペインは考え始めていた。
ペペインは蓋をマグダレナに被せる。蓋はぴったりと土台に填まった。
クリトリス責めを楽しんでいたジャグラタはすぐに新しいクリトリスを与えられ、喜々として触手を這わせ始める。
『はっ!?はぁぁぁ~~~っっっ♫やっぱりすごいわぁぁぁ~~~っ♫♫♫』
1ヶ月前のニコンヤ。
マグダレナは夜の街角に立ち、娼婦を見繕っていた。
その数ヶ月前にマグダレナは遊び道具を失ってしまっていた。
騎士団に追われているため本来の研究に必要な人間達の収集は中止しているにも関わらず、数年間研究中に聞き続けた憐れな女の音楽が無いのは我慢できず、マグダレナは娼婦を攫うことにした。
娼婦なら誰でもいいというわけでは無論無く、出来るだけ若く、美しく、娼婦になって間もなくまだ仕事慣れしていなさそうな、通常の客と同じ基準で犠牲者を探していた。
不意にスカートの中の尻を撫でられ、マグダレナはゆっくりと振り返った。
「お、おお、姐ちゃん、履いてないのか。さ、流石だなぁ」
「…流石とはどういう意味かしらぁ?」
「い、いやぁ、この辺の娼婦らしからぬ高級そうな女が立ってるなぁと思ったら、し、下着も履いてないもんだからさ、一流の娼婦はち、違うなぁと思って」
「あらそぉ♫それはどうもぉ、私を買いたいのかしらぁ?」
酔っているのかどうか判別のつかない、舌足らずな赤ら顔の小汚い浮浪者がマグダレナの尻を触っていた。
マグダレナが振り返っても浮浪者は手を放さず、それどころか尻の谷間を分け入って指を滑り込ませ、肛門を探し当てた。
マグダレナもその手を払おうとしない。
不快に感じれば手も手の持ち主も消し去るが、マグダレナは不快に思っていなかった。
娼婦に間違えられた点にはやや苛立ったが、高級娼婦だと付け加えたため埋め合わされた。
勝手に身体を、しかも生の身体を触られたことに関しては全く不快ではなかった。
完全な若返りに固執しているマグダレナは自らの容姿に絶大な自信があり、寧ろ短いスカートの下からちらちらと見える尻の肉を目の前にして触れずにいられる男の方が不快だった。
「い、いやぁ、そりゃ出来るなら買いたいけど、金がなくてさぁ。もうちょっとだけ触らしてもらっていいかなぁ?」
不快に思っていなくても勝手に身体に触れた以上浮浪者の死は既に決まっていたが、不快でないため即殺しはしない。
「まぁ、お金がないのぉ?しょうがないわねぇ。まあいいわぁ♫私の用が済むまでならぁ。特別よぉ?」
マグダレナは自ら腰を反らし、男に自分の尻の谷間を差しだしてやる。
男は大喜びでそこを拡げ、むき出しになった美しい肛門を眺める。
「い、いやぁ、奇麗なもんだなぁ。ね、姐ちゃんはここは売らない娼婦か?」
「そうねぇ、そこは売らないわねぇ。欲しいなら大金が必要よぉ♫」
「へ、へへへ、じゃあ見れるだけでも幸運だな」
見せて貰えるだけで幸運と言っていた男はその舌の根も乾かぬうちに拡げた谷間に顔をうずめ、大きく鼻で息を吸い込んだ。
「あらぁ♫恥ずかしいじゃないのぉ♫」
男はふがふがと鼻を鳴らしながら肛門の匂いを吸い込み、やがてその前の箇所に舌を伸ばし始めた。
マグダレナは男が舐めやすいようにかがんだ膝に手をついて更に尻を突き出し、性器は前から下に移動する。
舌足らずな浮浪者の舌は以外に長く、膣の入り口だけで無く中にまで僅かに届く。
膣がとろりとした蜜を舌に与え始めると、男は尻を広げていた手を放し、クリトリスを摘み、こね始めた。
「まぁ♫あなた、上手なのねぇ♫」
「ふ、へへへ、こ、これでもむぐむぐ、若い頃はもてて、いろんな女と遊んでたんだもごもご」
「あらそうなのぉ、どおりでイかされちゃいそうなはずだわぁ♫」
男の舌と指でマグダレナが絶頂を迎えると同時に、通りの向こうの曲がり角から3人の娼婦が現れた。
「ンふぅ♫・・・なかなか上手だったわよぉ、あなたぁ♫でももう時間切れよぉ。
よかったわねぇ、最後に私を味わえてぇ♫」
「い、いやぁ、姐ちゃんこそ・・・最後?」
腰を伸ばしたマグダレナは振り返り、男に魔法を放った。
が、殺すためでは無い。
マグダレナの下半身に奉仕するためにしゃがんでいた男がふらりと立ち上がる。
つい先ほどまで只で美女の肛門を嗅げ、膣を味わえ、絶頂を与えられるという幸運にほころび切っていた顔からは一切の表情が消えている。
マグダレナが使ったのは操心術だった。
当初は溶解術で溶かし、道ばたの汚物にしてしまおうと思っていたマグダレナだったが、男の奉仕を受けている内に別の考えが浮かんだ。
「さ、行くわよ。付いて来なさぁい♫」
目についた3人の娼婦を用意した器に封印すると、マグダレナは自我を失った浮浪者を伴い、森の小屋へ引き上げていった。
マジャリからオティカに戻り転生式若返り法の為の魔力増産手段を研究していたマグダレナは、まだ転生部分の実験には着手していなかった。
その最大の理由はやはり魔力で、実験に使うには躊躇してしまう量の魔力が要求される。
しかし使い方は知っていても使ったことはないためどうしても何度かは試しておく必要があり、マグダレナは頭を悩ませていた。
何しろ実験である以上自分自身を転生させるわけにはいかず攫ってきた実験材料で行うことになるが、上手く転生を行えたとしても重要なのはその結果のみで、実験材料の元の身体と新しい身体には実験後何の用もない。
大量の魔力を使用しても無用の身体が1体、死体が1体出来るだけとなると、消費を惜しんでマグダレナは中々踏ん切りを付けられずにいた。
そんな中、膣の入り口を舌で舐められていたマグダレナはある考えを思いついた。
大量の魔力を使った結果使い道の無い身体が出来上がるのがもったいないのなら、使い道のある身体を用意した上で実験をすればいい。
そしてあくまで転生のみの実験である以上、用意する身体は人間である必要も無い。
既に魔法商から入手した陰核酷使用生物を元に独自の魔法生物を作り出していたマグダレナは、それを転生先の身体に使う事にした。
浮浪者が自我を取り戻した時、既に浮浪者は自分を浮浪者だと認識することが出来なくなっていた。
自分が人間であったことも。
既に浮浪者は人間では無かった。身体は小さくなり、かつて合わせて4本しか無かった手足が、今は8本もある。
これで前よりもっと自由に女の身体をまさぐれるとかつて浮浪者だった意識は喜んだ。
与えられた大きな肉の塊がクリトリスだと分かると元浮浪者は大いに興奮し、喜々として8本の手足を動かし始めた。
マグダレナもまた実験の成功を喜び、作り出した生物にジャグラタと名付けた。古い言葉で「浮浪者」と。
■
「皆さん、ご自身がどういう状態なのかは分かっていますか?」
『・・・』
『う・・・』
『わ、わかってます』
「犯人が誰なのかも?」
『・・・』
『ま・・・』
『マグダレナ?』
山荘の台所を漁り、お茶を入れたペペインは漸く一息ついていた。
しかしまだ一息分の休息しか取れない。
机の上にむき出しのクリトリスが並べられている。全てに読心術を使い、またクリトリス同士でも意思の疎通が出来る様に術を繋いでやったが、その内一つはつい先ほどまで責められ続けていたのでまだまともに喋れないらしい。
これからしばらくマグダレナの山荘に滞在し研究成果を調べることになるが、それがどのくらい掛かるか分からない。
他の冒険者が好まない種類の案件を淡々と短期間でこなしてきた事によって上がりつつある評判を落としたくないのでクリトリスの持ち主達は解放してやることになるが、最初から蓋が無かった二つはペペインとマグダレナの会話を既にある程度聞いてしまっていた。
ペペインが来たことを知らなければ研究成果を調べ終わるまで放って置けるが、少なくとも冒険者が現れ、1度捕まった事までは知られてしまっているため話をしておく必要がある。
「ご存じでしたか。では私が冒険者で皆さんを助けに来たという事も聞こえていましたか?…そうですか。
私は魔法使いです。
今すぐ皆さんをその状態から解放するのは難しいですが、しばらく…そうですね、10日ほど研究すれば出して差し上げられると思います。
私の仕事は皆さんの救出なので、このまま治安院までお連れしても一応成立します。
そこで皆さんに確認したいのですが、今のまま治安院にお連れするのがいいですか?それとも自分の足で歩いてここを出ていきたいですか?」
『そ、それは…』
『で、出たい!出してぇ!』
『ほ、本当に10日待てば出して貰えるんですか?』
「出せます。残念ながらマグダレナさんには逃げられてしまったので魔法を解除するための符牒を見つけなければいけません。ですがそれはそれほど難しくありませんので、お時間を頂ければ出して差し上げられます」
『・・・それじゃぁ…ねぇ?』
『う、うん…』
『このまま待ってるんで、出してください』
「お三方とも同意見ですか?」
3人は同時に肯定の返事をし、同時にクリトリスがぴくりと揺れる。
もしもクリトリスのままでいいからすぐに連れ出して欲しいと言われたら面倒な事になっていたが、ペペインは十中八九出して貰いたがるはずだと予想していた。
女達は犯人やクリトリスだけが外に出ているという状態は理解していたが、外からどう見えているかは分からず、自分達が小さな豆粒ほどの大きさしかないクリトリスだけになってしまっているように感じていた。
たとえ娼婦だったとしても、治安院の受付机の上にころんと転がされる小さな3粒の赤い芽を想像すると、恥ずかしさ以前に恐怖を感じる。
封印されたまま連れ帰られても治安院が魔法使いに術の解除を依頼し、最終的には外に出して貰えるはずだが、この状態を不特定多数の人間に見られたくも知られたくも無かった。その中の誰かがマグダレナのように無防備な自分達を弄びたくならないとも限らない。
「それでは、退屈だとは思いますがそのまましばらく待っていてください。近いうちに出して差し上げますので」
ペペインはクリトリス達を机の引出にしまった。音を遮るという意味では蓋も引出も変わらない。
これで漸く本当に休むことが出来る。この後続けて地下室で研究成果を漁る気力は残っていない。
目を閉じて椅子に背を預け、自分の身体の様子を探る。特に不調は感じない。規模は小さいものの4度機巧術を使ってしまったため何らかの変化が起こってしまうのではと不安に感じていたが、今の所問題無い。
前所有者が最終的にどうなったか知っているため機巧術の使用に対して過剰に慎重を期しているが、幼少期から何度となく機巧術を使い続けて来た赤毛の少年と、手に入れてから1年の内で数度しか使用していないペペインの消耗量など比較に値しない。
機巧術での消費は問題無くても神経をすり減らしたことは間違いなく、ペペインはマグダレナの寝具に横になりこの日は眠ることにした。
マジャリを出ようと決めた時から数年かけ、こつこつと溜めてきた凝縮魔力をいざマジャリを出る日、しかも家を出て僅か十数キロの地点で全て使い切ってしまったが、ペペインは全く後悔していなかった。
ムラドハナに最も近いサンプラティには何の用もなく、ただオティカに向かうために川と湖の境界に架かる橋を渡っているだけに過ぎなかった。
どの辺りから馬車に乗ろうかと考えていると、俄に同じく橋の上にいた人々が騒ぎ始めた。
振り返ると、北から走ってきた二頭の馬が速度を落とすことなく橋の袂の人混みに突入し、先頭の馬がそのまま欄干を越えて湖に落ちていくのが見えた。
暴走した馬の事故だと思い視線を外そうとした瞬間、白い馬が湖面に衝突することなく宙に浮くのが目の端に映った。
思わず目を見開き、率直に凄いと思った。
父や兄は上級魔法使いだが、これまで2人以外で見たことがある魔法使いは皆落下中の馬を空中で捕まえたりなど出来るはずもない魔法商の店主や出入り業者達下級魔法士だった。
何より人助けの為とは言え首都のお膝元で堂々と魔力を使うこと自体敬服に値した。マジャリでは防犯術のような販売が許可されている大衆魔法以外を無許可で使用することは禁止されている。救助目的で使用しているので恐らく罰則までは科されないはずだが、これだけ目撃者が多いと誤魔化すことも出来ず、後々治安院で事後手続きを取らなければならなくなる。
勢いよく走ってきた馬がふわふわと浮いたことにより漸く白馬の身体に張り付いていた物が荷物ではなく人間だと分かった目撃者達から自然と黒馬の魔法使いに対して拍手が送られ始める。
皆がつい先ほどのペペインのようにマジャリでは珍しく魔法使いが面倒事を省みず人助けをしたと思い込んでいる中、ペペインだけがそれが人助けではないことに気づいた。
黒馬の魔法使いが白馬の、恐らく意識がない少年に対して何らかの魔法を使っている。
少年は足を怪我している様だが、加療魔法は接触が必須であるため離れた位置から怪我を治すことは出来ず、実際治っていない。
一方で馬を浮かせながらもう一方で別の魔法を使っている時点でその魔法使いが上級魔法士の中でも更に上に位置することが分かる。
唐突に、やるなら今が絶好の機会だという思いがペペインに沸き上がってきた。
やれるときにやっておかないと、後々後悔することになると。
当時も、そして今現在もペペインはなぜ自分がそう感じたのか分かっていない。
しかしペペインは疑問を抱くことなく溜めていた凝縮魔法を使い、白馬から滴る水を氷の弾に変え黒馬の魔法使いに向けて放った。
しばらく橋の袂は大騒ぎになり、駆けつけた治安兵数人が湖に落下し溺れている白馬に縄を投げ引き上げた。その後喚く野次馬達によって漸く本当に助けなければならないのが馬ではなく一緒に落下した少年であることを知り、急いで服を脱ぎ湖に潜っていったが、少年、長い時間浮かんでこないためもう生きてはいないだろうと思われる少年の遺体を見つけることは出来なかった。
ペペインは予定を変更し、サンプラティに宿を取った。
そしてその夜、人目を気にしながら湖に潜っていった。観光都市であるため深夜でも人通りがあり、日が昇る直前の朝方まで待った。
昼間の出来事は魔法使いが突然負傷し、少年の遺体が見つからなかったことからただの事故以上に大きな噂になっており、だからこそすぐさま行動する必要があるとペペインは考えた。まだしばらくは捜索が続けられるはずなので、人々が感心を失う頃には遺留品や遺体が見つかり、先に治安兵の手に渡ってしまうかも知れない。
何の疑問もなく生まれて初めて他者を魔法で攻撃し深手を負わせたが、しばらく時間が経つとペペインは疑問に思わないことを疑問に思い始めた。
昼間の自分は間違いなく黒馬の魔法使いを敵と認識した上で攻撃したが、初対面、しかも一見すると人助けをしているかのような魔法使いをなぜ敵と見なしたのか、自分でも分からない。
傷を負った魔法使いは黒馬と共に逃げてしまったが、少年は見つかってはいないものの湖のどこかには沈んでいるはずで、当初白馬に括り付けられている荷物のように見えた少年自身も鞄を肩に掛けていたことを視認している。
黒馬を追えない以上、残っている少年の荷物から魔法使いに関する情報を得られないかと思い、ペペインは湖底を捜索することにした。
泳ぎを含め運動全般が苦手なこともあるが、服を脱ぐこと自体を嫌いペペインは残っていた凝縮魔力を使い全身に防除術の膜を張った。自分自身の魔力でも術を使う事は出来たが、身体の表面に合わせてでなく、ある程度潜ったままでいられるように空気を取り込んだ状態で膜を拡げるとそれだけ消費が多くなり、長く保たない。そのため残りの凝縮魔力を使用し、結果的にこの捜索で全ての蓄えを使い切ってしまった。
人目を避け、念のため川から入水し、橋の下をくぐって落下地点へ向かう。
夜、水中、しかも足の裏が湖底に着いているほど深く潜っているため、視界は全く利かない。
ペペインは魔力を指先に点して湖底を捜索する。
湖ではあるが川が流れ込んでいるため、遺体は落下地点から南へ流されたのかも知れないとペペインは考えていた。
しかし、探し物はほぼ落水地点の真下であっさりと見つかった。
浮き沈みを繰り返しながら、救出されるまで暴れ続けた馬にかき混ぜられた湖底の堆積物が鞄を覆い隠してしまい昼間でも治安兵達は見つけられなかった様だが、少年を流してしまっていたと考えていた川の流れこそがその砂の覆いを取り払い、湖底に鞄を出現させていた。
ただしやはり遺体はその周囲にもない。
ペペインはひとまずその鞄を膜の内側に取り込んだ。見た目以上に、水を含んでいることを差し引いてもやたらと重い鞄を確保し、中を見るのは水から出た後にする。
更に遺体も探す。身分証などがあるとするなら鞄の中だろうとは思ったが、黒馬の魔法使いに何らかの魔法を使われている場面を見ているので、その痕跡が残っていないかと考えた。
移動しようと一歩踏み出したとき、足で何かを踏んだ。
どかした足の下にあったのは石ではなく箱だった。
鞄から出てしまったのか、危うく見過ごすところだったとその箱も拾い上げ、しっかりと閉じている拾った鞄を開けて中に押し込む。
その後、凝縮魔力がなくなるまでペペインは湖底を探し回ったが、結局少年の遺体だけは見つからず、捜索を諦め陸に戻った。
既に夜は明けていた。
全く濡れることなく宿に戻ったペペインは早速自室で鞄の中身を確認し始めた。
ボロ切れ、濡れてしまっている2冊のノートや紙の束、僅かな金、いくつかのがらくた、重さの原因である何かのインゴット、そして箱。
手がかりになりそうな物はノートや紙束くらいしかなかったが、中まで濡れてしまっているためまず乾かさなければならない。どんなインクで書かれているのか外からは分からないが、水で読めなくなっていないことを願うしかない。
次に目を引いたのは7つの箱だった。装飾があったりなかったりと見た目はそれぞれ違うが大きさはどれも手の平にのせられる程度で、宝石箱にしか見えない。
ペペインは1つだけ二回りほど大きく、形状も装飾も他の物とは明らかに違う箱を手に取った。その箱も見た目以上に重い。
7つの箱に7つの宝石が入っているのなら、それを狙われていたのだろうかと考えながら蓋を開けようとする。しかし開け方が分からない。
箱自体もある程度値が張りそうだったので壊すのは少し躊躇ったが、中を見たい誘惑には勝てず魔力でこじ開けようとする。
その魔力は送り込んだ先からかき消された。
しばらく手の平の上で起こっている現象がどういうことか理解出来ず魔力を送り続けたが、不意にまさかという考えが頭をよぎった。魔力を送るのを止めた指が細かく震える。
見たことも触れたこともないがマジャリ人である以上抵抗石の存在も性質も馴染み深い。しかし見たことも触れたこともないため、箱の素材が抵抗石だという確信は持てない。
代わりに少年が黒馬の魔法使いに追われていた理由は察することが出来た。
妙に重いインゴットも抵抗石、少なくとも箱と同じ物質であることにはすぐに気づいた。そしてもうじき出ていくため大して気にも留めていなかったが、抵抗石の盗難犯としてしばらく前に少年が手配されていると言うことを、夕食の席で父と母が嘆いていたことを思い出した。
抵抗石を所持している人間がそうそういるはずもなく、ペペインはあの少年が抵抗石の盗難犯で、そのために魔法使いに追われていたのだろうと考えた。なぜ治安兵でなく魔法使いに追われていたのかは分からないが。
箱が十中八九抵抗石製であり、開け方が分からない以上魔法使いにはどうすることも出来ず、ペペインは興奮冷めやらぬまま最後に拾った箱を手に取った。明らかに一つ目の箱とは重さが違う。蓋も容易く開いた。
そしてペペインは意識を失った。
ノックの音でペペインは目を覚ました。夜を待つ場所が必要だったので朝まで宿を取ったが、時間になっても出てこないため従業員が様子を見に来た。
ペペインは急いで荷物を片付け、今度こそ本当に国を出るためまず宿屋を出た。
数時間前まで潜っていた湖に架かる橋を改める渡る。一瞥もくれない。そこに何も残っていないことはもう分かっていた。
驚いてはいるが、知っていて当然、或いは元々知っていたような気もするので奇妙な気分としか形容伸しようがない。
すぐにでも使ってみたいが、使用自体が危険な事も分かっているので軽々に試してみることも出来ない。
今朝捜索を終えた時点では疲れたためサンプラティから駅馬車に乗ってしまおうかとも思ったが、同乗者がいては都合が悪ので、考えをまとめながらひとまず次の町まで歩くことにした。
機巧術を試すことは出来ないため、代わりに開けられなかった箱を取り出す。そして当然の様に2つのボタンを同時に押し、蓋を開く。
完全に理解しているのは機巧術に関する情報だけだが、所々に関係ない情報も紛れている。サンプラティを後にして歩き始めてからも時折、何かの情報が不意に頭に浮かんでくるが、書物の中の無作為に選んだ一文だけを見せられているようで、脈絡がないため大半は何のことかはよく分からない。
「!?」
ペペインは思わず足を止めた。
蓋の中は想像と全く違った。中央の珊瑚を囲むように何らかの仕掛けが配置されている。
その珊瑚がぴくぴくと動いたのをきっかけに、ペペインは珊瑚が実はクリトリスで、クリトリスの持ち主が実は伝説の大魔法使いで、自らを伝説の大魔法使いと称するクリトリスが本当に正真正銘イングリッドのものであることを、2日掛けて理解するに至った。
「ああそう、そういうことならあいつはもう死んじゃってるのねぇ。・・・死んじゃってるって言うのもちょっと違うか、機巧術になった、かな」
「そうですね、言葉通りの意味でボクの中で生きてるという事になります。情報のみで、人格は見当たりませんが」
「ま、あの子が私をこんな状態にしたわけだからそんなに同情はしないけど、不憫と言えば不憫よね。
ま、いなくなった人間の事はどうでもいいわ。じゃ、あんた、そろそろ出して貰えるかしら?」
「え…イングリッドさんをですか?それはちょっと待って貰えますか?」
「どうして?あいつから受け継いで機巧術を使えるようになったんでしょ?ならこの抵抗石の封印器も壊せるじゃない」
「それはそうなんですけど、今すぐ機巧術を使うのは控えさせてください」
機巧術を受け継ぐに至った経緯を説明する中で、その多用が使用者の死を早めること既に伝えているにも関わらず解放して貰えて当然と考えているイングリッドに、ペペインは改めて説明する。
確かにイングリッドのクリトリスを覆っている小さな抵抗石製の封印器を壊したところで即座に死亡したり激しく消費してしまうことはないが、その消費が回復不能である以上、前所有者と同じ轍を踏まないためにも使用は極力避けたかった。
「しばらく研究して、使用者のエネルギー以外を利用できるようになったら必ず出して差し上げますから、それまで待って頂けませんか?」
「研究?あんたがぁ?う~ん、まあそんなに出来の悪い魔法使いじゃなさそうだけど、そんなことならアタシが研究した方が早いわよ」
「それは・・・」
ペペインは一瞬考え、それが恰好の申し出であることに気づいた。研究したいというのは本心だが、つい数日前まで存在すら知らなかった機巧術の解析などイングリッドの言うとおり手に余るのではと言う不安があるのも事実だった。
そして研究したいのは機巧術だけでなく封印術自体もだった。封印術を研究している間にイングリッドが機巧術の研究を引き受けてくれるのならそれに越したことはない。
「・・・そうですよね、その通りです。イングリッドさんが研究した方が早いと思います。
ただ言いづらいんですが、そのク…陰核だけの状態で研究できますか?」
「出来るに決まってるでしょ?あたしを誰だと思ってるのよ。そもそも外に出てるのがクリトリスなだけで、身体も頭もこっち側にはしっかりあるのよ。
頭さえあればアタシは何でも出来るの」
更にペペインはもう一つの利点にも気づいていた。
大魔法使いが自分で研究を進めると明言した以上、断念したり格下の魔法使いからの助言を求めるようなことはないだろうと。引くことは大魔法使いの沽券に関わる。
実際、今この瞬間も脱出は出来ていないにも関わらず、何でも出来ると言い切っている。
機巧術は魔法ではなく、発動に使用されるエネルギーも魔力ではない。頂点とは言え魔法使いである以上、イングリッドであっても機巧術に関する知識はほぼ持ち合わせてないはずで、その知識を持っているのはペペインに他ならない。
イングリッドに機巧術の研究を任せる、或いは任せたことにしておけば、その間はせっつかれることなく堂々とクリトリスのまま所持しておけのではとペペインは即座に考えていた。
いずれ本当に解析されてしまったとしてもそれはそれ、開放するしないはペペインにしか決められない。
「失礼しました。それではお願いしていいですか?害なく機巧術を使用する方法を見つけて頂けたら、すぐさま出して差し上げます」
「いいわよ。じゃあ2,3ヶ月後には晴れて自由の身ね。言っておくけど、もし約束を破ったらあんたも敵と見なすからね?」
2,3ヶ月後にイングリッドが自由になることはなかった。
機巧術に関する情報の有無以前に、どれだけ長く、激しく責められ続けても脳が破綻することなく延々苦しみ続ける事になるという封印空間の特性がイングリッドにも作用しているため、何人たりとも封印中に新たなひらめきを得ることはない。
封印術を知って間もないペペインがその事を知らないのも無理はないが、拾われた時点で既に数ヶ月経過しているにも関わらずイングリッドがその事にまだ気づけていないこと自体がそれを証明していた。
読心術によって外から新たな情報を与えることは出来るが、それらは単に記憶されているだけで、頭の中で上手く結びつけることは出来ない。
そのため如何に封印空間内で大魔法使いが精力を注いでも機巧術を究明することは出来ず、図らずもペペインはイングリッドをクリトリスのまま、いつまでも所持できることになった。
「勿論、イングリッドさんのことはこうしてお目にかかる前から存じてましたし、尊敬もしてましたから約束を破ったりなんかしません。
・・・ところで、ずっと気になってたんですが…この周りのモノは…?」
「う…それね…そりゃ気になるわよね。でもあんまり言いたくない」
「これ、この刷毛のようなモノと他の…物騒な形状の物は素材が違いますね。刷毛の方はただの鉄で、物騒な方は…あ、これも抵抗石」
「そうよ、だから壊したくても壊せないの。刷毛の方は壊せるけど、そっちは壊したくないし」
「これ、どう見ても拷問具ですよね?是非教えてください、これをどう使われてたんですか?」
ペペインはそれらの器具が邪魔になり触りにくいクリトリスの先端をつんつんとつつく。
「う…恥ずかしいから言いたくなぁい♫」
「そう言わずに教えてください。どう使う物なんですか?これらは」
「・・・もぉ~しょうがないなぁ♫そんなに知りたいのぉ?
それはね、クリトリスのご褒美用とお仕置き用なのよぉ♫」
「え?・・・ご褒美はまだ理解出来るんですが、お仕置きですか?イングリッドさん、前の持ち主にお仕置きされてたんですか?」
「やだぁ、恥ずかしいぃ♫そうよぉ、アタシアルとダナに虐められてたのぉ♫」
「ダナ?ダナってまさか・・・手に入れた箱の中に、同じ名前の女の子も封印されてるんですけど」
「それ口の悪い女の子ぉ?じゃあその子だわぁ、アルと一緒にあたしを虐めてたのぉ♫仕返しさせてぇ♫」
「仕返しはまぁ…後でさせてあげます。もう既に苦しんでますけどね。
それよりイングリッドさんのことを教えてください。どういう風に虐められてたんですか?」
「もぉ~聞かないでぇ♫あのねぇ、アタシのクリトリスの周りにある奴を使ってね、アタシ躾けられてたのぉ♫」
「躾け?イングリッドさんをですか?」
「そうなのぉ♫アタシがちゃんと言うこと聞いたら刷毛でクリトリスを磨いて貰えてぇ、言うこと聞かなかったりぐずぐずしてたら拷問されちゃうのぉ♫」
「拷問…勿論クリトリスにですよね?この仕掛け、かなり痛そうですけど…」
「そうなのよぉ!すっごく痛くてアタシ泣いちゃってるのに許して貰えないのぉ♫痛くて痛くてぴぃぴぃ泣きながら許してぇ~ってお願いしてるのに、アタシの鳴き声聞きながら喜んでるのぉ♫はぁはぁ♫」
「それは非道いですね。でもかのイングリッドさんのことです、拷問されても躾けられちゃったりはしてないですよね?」
「うぅ~、躾けられちゃったぁ♫アタシ、アルとダナの言うこと何でも聞いてたのぉ♫」
「イングリッドさんほどの人がですか?そんなに凄いんですか、この仕掛け。
でも動かすには機巧術が必要なんですよね…」
「いらないのよぉ♫
最初はそうだったのよぉ、どうやってるのかわかんなかったけどぉずーっと動きっぱなしで、アタシ何ヶ月も拷問されたままだったのぉ♫」
「何ヶ月もですか?こんなに可愛いクリトリスを?」
ペペインは指の先端でクリトリスの先端を撫でる。
「はふぅ~♫そうなのぉ、アタシの可愛いクリトリス、ずっと拷問されてて、アタシずっと泣き喚いてたのぉ♫
でもしばらく前に改造したみたいでぇ、ダナでも使えるように撥条式になってるのぉ♫」
「撥条式?ああ!そういえば鞄の中にねじ回しが入ってました。何に使うのかと思ってたんですけど、イングリッドさんを躾けるための物だったんですね」
「やだぁ♫もう見つけてたのぉ?」
「はい、え~っと・・・これだ、ちゃんと捨てずに取ってあります。
・・・これをどうするんですか?
ペペインは指の代わりにネジ巻きでイングリッドの先端をつつく。
「いやぁん♫それ使いたいのぉ?使われたくなぁい♫」
イングリッドはつつかれているクリトリスをぷるぷると動かす。
「教えてください。刷毛の方だけでいいですから」
「聞いてどうするのぉ?それアタシを躾けるための道具なのよぉ?君…ペペインもアタシのこと躾けたいのぉ?」
「そんな、恐れ多い…動かし方を知っておきたいだけです」
「えぇ~、簡単だからそっち教えたらお仕置きの方もばれちゃうぅ♫・・・教えたらご褒美くれるぅ?」
「勿論です、動かして差し上げます」
「じゃあおしえる♫あのねぇ…」
最初はそこが蓋を開閉させるための物だと思っていたため、土台の後部外側に三つの穴が三角に並んでいることは既に知っていた。ペペインはその穴が研磨機用の撥条を巻く穴と可動を切り替える為の穴であることを教わる。そうなると残りは必然的に拷問器の撥条を巻くための穴と言うことになる。
ペペインはその両方にネジ巻きを差し込み、撥条を巻く。
「まいたぁ?じゃあ左に回してぇ♫はぁはぁ♫」
震えていたクリトリスが期待でピンと反り返る。ペペインは言われたとおり三角形に並んでいる穴の上部にねじ回しを差し込み、左へ回した。
一瞬の間を置き、最初に設置されていたと思われる拷問器の隙間に収まっていた研磨機が動き始め、クリトリスを取り囲むように位置を変え始める。
更にもう一瞬の間を置き、その刷毛がが音もなく動き始めた。
「はっ!?あひゃぁぁっ♫これぇぇっ♫これ好きぃぃぃぃ♫♫」
可動部は静かなものだが、刷毛が乾いたクリトリスの表面を研磨するすりすりという音はかすかに聞こえる。
「なるほど…これは…ボクが機巧術を使えたとしても真似できるかどうか…。
気持ちいいですか?イングリッドさん。見た限りではくすぐったそうなんですが」
「んふ~っ♫くすぐったいけど気持ちいいのぉ♫アタシ、クリトリスびんかんにされてるからぁぁ♫」
「敏感…ああ!もしかして鞄の中にあったあの薬…あの薬のことも後で教えてくださいね」
「やだぁ♫教えたらもっとびんかんにされちゃうぅぅぅっ♫」
箱に収められていたクリトリスの持ち主がイングリッドであると理解するまでの間にペペインはサンプラティの次の町に到着していたが、駅馬車に乗ること無く依然歩き続けていた。
これほど長く歩き続けているのは生まれて初めてだが、好奇心が刺激され続けている為疲れは全く感じない。
「これは…どのくらい動かし続けておけばいいんですか?」
「あひっ♫あひっ♫撥条が切れるまでほっといてぇ♫4時間くらい~♫」
「そんなに?イキすぎて辛くなりませんか?」
「ご褒美だからいいのぉ♫あたしずっとイクぅ~♫あひぃぃぃ~~~イクぅぅぅ♫」
尊敬する大魔法使いがそのままでいいというので、ペペインは刷毛に磨かれ続け何度となくビクビクと跳ね上がるクリトリスを手の平にのせたまま歩く。
「・・・それじゃあ中にはボクが産まれた頃から封印されたままの女性も居るわけですか」
「そうよぉ♫くぅ~イクぅ♫この中じゃ年取らないからず~っと責められっぱなしぃ♫」
「金属の責め具はあの少年が作った物だと思うんですが、あれはなんですか?クリトリスを覆っている生き物…のような物が三つほどあるんですが」
「あれはビラチーナぁ♫あれはすごいのぉ♫クリトリスをめちゃくちゃに責められておかしくなっちゃうのぉ~んひぃ~イクイクぅ♫」
「そんなに凄い物なんですか。確かにひっきりなしに動いてましたけど。
ビラチーナでしたっけ?あれもイングリッドさんのクリトリスに被せてみてもいいんですか?」
「あれは絶対いいやぁぁ~~~っ♫あれ被せられるとアタシもうしゃべれなくなっちゃうぅぅ~♫」
「喋れなくなるのは困りますね、イングリッドさんには色々ご教授頂きたいですし」
イキながらであってもイングリッドとの会話のおかげでノートの読めなかった箇所や、繋げられなかった断片的な情報の隙間が少しずつ埋められていった。
「あふ、あふ、あふ♫ん~それでぇ、アタシはどこに連れて行かれるのぉ?」
「オティカに向かおうと思ってるんですが、よろしいですか?」
「イクぅ♫どこでもいい~♫アタシどこにでも運ばれちゃうのぉ~♫」
ペペインはイングリッドを封印したまま所持し続けるための考えを破棄しようかと思った。大魔法使いの誇りを利用しなくとも、この仕掛けを使えばそれだけでイングリッドを制御できるような気がする。
そもそもこの痴態を演じている相手に大魔法使いとしての誇りがあるようには思えない。
やがて次の町に到着し、流石にペペインは馬車を使うことにした。手持ちは十分にあるので駅馬車で無く個人の御者を雇えば客車の中でイングリッドと会話を続けられる。
馬車を借りる手続きをしている間に研磨機のゼンマイは巻かれたエネルギーを全て動力として使い切っていた。
「止まってしまいましたね、イングリッドさん」
「んふ~♫時々動かしてくれるぅ?」
「ええ、勿論。では次は右に回してみてもいいですか?」
「・・・えっ!?ダメダメぇ!そっちは拷問用なんだってばぁ!」
「ですが一応動作を確認しておきたいので。少し我慢してください」
「まってまってまって~~~~い゛っっっ!!??いぎゃぁぁぁぁ~~~っっっ!!!」
切り替え用の穴に差し込んだネジを右に回すと、まずクリトリスを取り囲んでいた研磨機が半分に割れて左右に収納され、最初に蓋を開けた時から最も目を引いていた拷問器がクリトリスに狙いを定める。
そして規則正しく動き始め、規則正しくクリトリスに苦痛を与え始めた。
「いいいいだいぃぃぃ~~~~っっっ!!拷問やだぁぁぁぁ~~~っ!!!」
研磨機と違ってはっきりと音が聞こえる。主にクリトリスを打ち据える小さな3本の鞭の音が。
「これは…機巧術を最大限活用するには細工の技術も学ばないといけなさそうですね」
ペペインはイングリッドを乗せた手の平の角度をあれこれ変え、精密な動きを繰り替えず拷問器をしげしげと眺める。
「実際に動かして見ると想像以上に痛そうですね」
「いだぃ~~~~っ!!もう止めてぇぇぇ~~~っ!!!」
「どれが一番痛いですか?」
「んぐぅぅぅ~~~!!どれも痛いぃぃぃ~~~っ!!!はやく止めてぇぇ~~~っ!!」
「麻酔術を…あ、そうか、掛けても抵抗石が消してしまうのか…加療魔法も接触してる間は…」
ペペインは痛みにのたうち回る、事もほとんど出来ないほど逃げ場の無い責めに苦しむクリトリスを見つめながら、ぶつぶつと考え事を始めてしまった。もしも自分が封じられてしまった場合、逃げ出すすべかせめて苦痛を和らげる手段が無いだろうかと。
「いだだだだだぁぁぁ~~~~っっ!!かくにんしたいだけって言ったのにぃぃぃ~~~っっっ!!!」
その間に研磨機の撥条もまき直しておく。
しばらく考えてみたが、何も思い浮かばなかった。しかしそれは安心材料にもなった。これほど痛がっているのに大魔法使いですら自力で出てこられないなら抵抗石製の封印器に脱出法は無く、蓋さえ閉めておけば心置きなく所持しておける。
ペペインはねじ回しの角度を戻し、拷問器を止めてやる。
「んひぃ~っ、んひぃ~っ、んひぃ~っ、な、長いぃぃぃ!!何にも失敗してないのにアタシ拷問するの止めてぇ」
「すいません、考え事をしてしまいまして。
でも確かに今みたいに責められてしまっては、イングリッドさんが躾けられてしまっても無理は無いかも知れないですね」
「そうよぉ、痛いのやだぁ♫拷問されたらアタシ躾けられちゃうぅ♫」
ペペインはネジ巻きを左に傾ける。
「おひゃっっ!?なにぃ~?拷問のご褒美ぃ?はふふぅ♫」
そしてすぐさま、垂直に静止させること無く一気に右に回す。
「あぎゃぁぁぁ~~~っっ!!な、なんでぇぇぇ~~~~っ!?」
「凄く滑らかに切り替わるなぁと思いまして」
ペペインはカチャカチャと何度もねじ回しを左右に切り替える。研磨、拷問どちらも1秒足らずで位置を整え、快感と苦痛を交互に与える。
特に拷問器は、かつて経験があるという数ヶ月の継続後はどうだったか不明だが、短い期間では繊細なクリトリスに傷を付けること無く上手く痛みだけを与えている。
回転鋸や針、3方向からの鞭で藻掻いていたクリトリスも研磨機で磨かれ始めると大人しくなり、ふるふると身悶えする。
「こういう風に飴と鞭を与えられて躾けられてしまったわけですね、イングリッドさん」
「そうなのぉ♫アタシ大魔法使いなのにぃ♫」
「指を少し動かすだけでその大魔法使い様を喜ばせることも苦しませることも自在とは、良く出来た仕掛けですね。…やはりボクも学ばなければ…」
「んぐぅぅ~~っ!!き、君もやっぱりアタシ躾けようとしてるぅぅぅ~~~っ!!」
「いえ、決してそんなことは。ただせっかく大魔法使い様が言葉通り手中にあるのですから、機巧術の研究以外にも色々とお力添えを賜れればとは思いますが」
「くふぅ~♫かちゃかちゃ変えないでぇ♫いたずらするなら協力してあげなぁい♫あひぃ♫」
「悪戯ではありませんよ、前の所有者を見習ってるんです。イングリッドさんからの協力を取り付け易いように」
「あだだだだだぁぁぁ~~~っ!!ごっ、拷問はやめてぇぇ!!拷問はお仕置きの時だけにしてぇぇ~~~っ!!」
「お仕置きでなら拷問してもいいんですか?」
「う、うん、はひぃっ♫アタシが失敗したり言うこと聞かなかったら拷問してもいいよぉ♫ふぅぅ~っ♫」
「・・・そんなつもりはなかったんですが、結局ボクもイングリッドさんを躾けることになってしまいそうですね」
「いやぁぁん♫アタシいろんな人から躾けられちゃうぅ♫恥ずかしいぃ~♫イクぅ~♫」
そしてペペインは慇懃にイングリッドを飼い鳴らし始めた。
飴と鞭を交互に与えるという行為を言葉通りに実戦しすぎていたが、効果はあった。
数日前までイングリッドに関する情報は伝説の大魔法使いだからとにかく凄いんだろうという程度でしか無かったが、そこに新たな情報が追加された。
能力では無く性質に関して。
イングリッドは与えられるのが快感であれ痛みであれ、弄ばれること自体に興奮を感じているらしかった。
この世に、少なくともベシーナに於いては1人として敵になるような相手のいない自分自身が囚われてしまっているという状況はイングリッドにとって本来ならあり得ず、その状況ならではの楽しみ方をしているとペペインは推測し、事実その通りだった。
能力に関しても少なくとも分裂戦争当時から300年以上生きていると言うだけでどんな魔法書よりも有用な辞書にはなると考えられた。
実際ペペインが存在すら知らなかった機巧術もイングリッドは知っていた。
最初に手に入れた封印済みの女性がイングリッドだったことが、冒険者の仕事をしながら無法魔法士の研究成果を頂いてしまおうという考えにも結びついた。
イングリッド以外の5人の女達の内3人は気味の悪い生き物をクリトリスに被されており口がきける状態では無かった。
その内一人は上級魔法士らしかったが、魔法使いは既にイングリッドがいる上に能力もペペイン自身とそれほど差が無いように思われたため、気味の悪い生き物、ビラチーナに責めさせたままにした。
更にもう一人が聖女騎士だと知るとマジャリ人であるペペインは驚きを隠せなかった。魔法使いの天敵である騎士の中でも聖女騎士は特に優れた者が選ばれる。魔法使いの頂点とその天敵ですら封印出来、その上脱出も出来ないとなると最早封印術から逃れられる者はいないのでは無いかと思えた。
3人の内の最後の1人が抗魔遺伝子を持つ戦士であることが分かると、ペペインは更にその考えを確信した。
無意識に常時帯魔防御法を張り続けているに等しい抗魔戦士でもやはり術を弾くことも、抵抗石製で無い封印器を破ることも出来ないでいるらしい。
辛うじて口をきける2人の内の、明らかにクリトリスや僅かに覗いている包皮の色が濃い1人は、同じマジャリに住む少数民族の元族長だった。強い痒みで責められているらしく狂ったように掻いてくれとせがむ。
特に周囲の器具が邪魔にならなかったので試しに掻いてやると、驚くほど真っ赤なクリトリス跳ね回らせ喜びを現す。ただしイングリッドが作ったと教えられた魔法薬によって与えられた痒みは引くことが無く、指を離すとすぐさままたぶり返す。周囲の細い何かが一層その痒みを耐え難くしているようだったが、ちぎってしまうと元に戻せそうに無いためそのバパナ族の女には引き続き痒みで悶え続けて貰う事にした。
最後の1人からは直近の前所有者の少年に関する情報が得られた。しかしペペインが知りたいと考えている黒馬の魔法使いも、少年がなぜその魔法使いに追われていたのかも知らないとのことだった。
無数の小さな指でクリトリスをくすぐられ続けている盗族の少女は会話中も常にきひきひと笑い続けていたが、自由に機巧術を使えず、細工の知識も無いペペインには手の出しようが無く、やはりそのままにしておく。
前所有者、そして前々所有者が意図していたのかどうか定かでは無いが、抗魔戦士、上級魔法士、聖女騎士、バパナ族、盗族、そして大魔法使いと、1人として普通の人間がいない。
その後更に天才占術師を所有したペペインは、稀少で能力のある女達を封印術で収集してみるのも面白いかも知れないと考えるようになっていた。
■
驚くことがありすぎた。
山荘の主がマグダレナだと知る前はどんな研究成果が見つかったところで3日もあれば全て暗記できると思っていた。
相手がマグダレナだと判明してからは7日、地下室を見てからは14日と予想を修正していったが、いざ調べ初めて見ると半年でも足りなく思える。
予想以上に成果は多かったものの、記憶するだけなら半月もあれば事足りる。
しかし調査を始めて3日目に転生式若返り法、7日目に召喚式分割封印術の研究結果を見つけると、半月、半年どころか1年掛けても理解しきれるとは思えなくなった。
記憶したところで理解出来なければ使いようがない。
更に当初特に用はないと思っていた魔法生物たちも調べないわけにはいかなくなった。
稀少生物にも種類がある。
生息数は少なくないが、生息場所が危険地帯であるため入手が困難なモノと、生息数自体が少ないモノ。
危険地帯に生息する稀少生物は大金を出すか、場合によっては自力でも採取出来る。しかし絶対数が少ない生物は抵抗石や深海石のように金を積んだところで通常入手するのが極めて難しい。
マグダレナの地下室にはそれら真の稀少生物も保管されていた。標本や剥製、或いは残骸としてだけで無く、生きているモノまで。
魔法の研究成果ならそれが超高度な内容であっても情報である以上ひとまず記憶し、後々徐々に理解していくことも出来るが、放置するにも廃棄するにも惜しい超稀少生物は運び出すしか無く、その処遇もペペインを悩ませていた。
ペペインはオティカの首都にほど近いエカタカに仮の部屋を借り仕事と各種研究を始め今もそこに住んでいるが、多数の生物を飼っておけるほどの広さは無い。
ペペインは娼婦達に解放に掛かる期間が少し延びそうだと伝える。
予想を遙かに超えて手が掛かりそうだったが、最初の無法魔法士との遭遇でこれほどの研究成果を得られたのは運が良かったとも言える。そしてそれらの研究を進めていた者を既に手に入れている。
ただしマグダレナに逐一研究内容について尋ねる事は出来なかった。
素直に教えてくれるかどうかはともかく、暗記するだけで一月は掛かりそうな内容を理解しながら整理していったのではいつ山荘を出て行けるのか分からない。
やはり必要な物を記憶し、運び出す準備をし、女達を解放し冒険者の仕事を終えてから徐々に学んでいくしかなかった。
ジャグラタは与えられたクリトリスの表面を触手でゆるゆると撫で、まず持ち主を確認した。
持ち主によって責め方を変えるために。
イかされ続ける事を心底嫌う者や、寸止めを繰り返されるくらいならイかせ続けて欲しいと望む者、どんな責め方をしても頭の芯の部分では喜んでいる者と、これまで与えられた三つのクリトリスの持ち主だけでも三者三様だった。
今取り付いているクリトリスには馴染みが無かった。しかし記憶に無いこともない。
一番最初、目が覚めて始めて与えられたクリトリスに似ている。
自分を産み出し、ジャグラタという名を与えてくれた者のクリトリスに。
そう気づいたジャグラタはすぐに責めを開始することが出来なかった。以前責めた時は3回イかせただけで逃げられてしまった。他の三つのクリトリスと違い、このクリトリスは逃げることが出来る。激しくするとまた逃げられてしまうかも知れない。
ジャグラタはゆっくりと丁寧に、8本から始まり12本へと分かれる触手で微かに震えている創造主の芽の表面を撫でていく。
「はぁぁぁん♫このまま放置するのは止めてぇ、ペペインちゃぁん♫せめて見ててぇ♫」
創造主の声が聞こえる。ジャグラタには読心術が器官として組み込まれていた。会話をすることも難しい言葉を理解することも出来ないが、自分の責めに対する反応を直接聞く事は出来る。
ジャグラタはその機能を与えてくれた事にもぼんやりと感謝していた。
創造主、マグダレナはジャグラタが自分を恨んでいるはずなので被せるのを止めるようペペインに伝えてはいたが、創造主であるからこそジャグラタにそこまでの知能は備わっていないことも分かっていた。
確かにジャグラタはマグダレナを恨んでいない、しかし感謝を感じる程度の知能は備わっていた。
元の身体に比べ新しい身体はあまりに小さいため、それに比例して思考能力は大幅に低下しているものの、マグダレナの予想以上には残っていた。
その差分は全てクリトリスの持ち主に帰ってくる。
ジャグラタは徐々に力を込める。触手の筋肉に力を込めると付随してその裏側一面に生えている繊毛も硬さを増す。
定期的に入れ替わりはしたが休むこと無く責め続けた3人のクリトリスに比べ、創造主のクリトリスはかなり小さい。しかし感度はいい。
ジャグラタが繊毛を細かく動かしくすぐってみると、創造主のクリトリスはビクビクと反応しすぐに絶頂に達しようとし始める。
このくらいの刺激での絶頂なら嫌がらないだろうと、ジャグラタはそのままクリトリスをくすぐり続ける。
「あっ、あっ、あぁぁぁん♫んん~~~~っっっ♫」
絶頂を伝える創造主の艶めかしい鳴き声にうっとりと聞き入る。かつて興奮した時には身体に変化が起こっていた気もするが、良く分からない。代わりにもっとその声を聞きたくなる。
もっと大きい方が撫でやすいなと、ジャグラタは思った。
ゆるゆると動かしている繊毛の先端を何本か、僅かにクリトリスの表面に差す。まだ鋭敏化していないため、くすぐられる刺激の方が遙かに強く、ちくりとすら感じない。
ジャグラタはその先端から適量、肥大液を注入し、クリトリスに浸透させていく。
「んひっ、んひっ、んんんっ!?あっ、何してるのぉ?やめてぇ♫」
くすぐったさとは別のむずむずした感覚と共に、クリトリスに触れている触手の感覚が強くなっていく。やがて触手が強くクリトリスを掴み始めたのでは無く、クリトリスの方が触手に迫っているのだと気づいた。何しろ自分が設計したのだから。
マグダレナはジャグラタに各種の性能を備えた体液を作り出す器官を与えていたが、分泌型では無く注射型にしていた。どちらが優れているかと言うことも特にそうしたい理由も無かったが、しいて言うなら参考にした陰核酷使生物とは違う方法を選んだに過ぎない。
クリトリスの先端がジャグラタの根元に届いた。鋭敏化されていなくてもぼこぼことした凹凸を感じる。
ジャグラタは動きこそ止めないが、葛藤していた。
本当ならすぐさまもう一度、そしてまたもう一度、もう一度と何度も休む間を与えずにイかせたい。
絶頂の度に鋭敏液を注入せずとも勝手に敏感になっていくクリトリスが、もうイキたくないと暴れ始めるのが、そしてそれを押さえつけて無慈悲に次の絶頂を与えるのが好きだった。
しかしこのクリトリスは逃げるかも知れない。
ジャグラタは試しに繊毛の動きを遅め、逆に触手の動きを早めてみる。
「んはぁぁぁ~~~っ♫いっ♫いっ♫いひぃぃぃ~~~っ♫」
触手を8本の指のように使いクリトリスを上下に扱くと、創造主は往復の度に鳴き声を上げる。
胴体を使った動きを奪われた代わりに、ジャグラタはクリトリス全体に届くようになった触手でそれらの動きを補うことが出来た。それどころかしごき、捻り、振動させながら、擦り、捏ね、引っ掻き、つつくと言った触手としての刺激も同時に加えられる。
「はあぁぁ~っイクぅぅぅ~~~っ♫んっんっんっ~~~っ♫」
創造主だからと贔屓目に見ているわけでは無く、ジャグラタは他のクリトリスの持ち主の泣き声より遙かにいい声だと思った。手加減しながら責めてもこの美しい声を聞かせて貰えるなら、本気を出せばどれほど憐れな嬌声を聞く事が出来るだろうかとも。
「イクぅ~っ♫イクイクイクぅ~~~っ♫」
ぎゅっぎゅっとクリトリスを引き延ばし触手の付け根に引き寄せる。凹凸が蠢動しごりごりと、丸めた手の平で子供の頭を撫でるようにその先端を擦る。
いつの間にかマグダレナは10回以上イかされていた。
「んひぃぃぃ~~~っ♫ちょっと休ませてぇぇぇ~~~っ♫」
ジャグラタもそれに気づいた。哀願を始めた創造主の声に聞き入っていて、慎重に扱おうという決意を忘れていた。
忘れていたのに、逃げていない。
ジャグラタは更に2度3度イかせてみる。
「んん~~~っ!あぁぁぁ~~~っ!もう無理よぉぉぉ~~~っ♫」
無理と言っているのに、やはり逃げない。
もしかしてと思いながら更に4度5度、6度7度とイかせ、やがて20回を越えた。
それでもクリトリスは逃げない。
ジャグラタの表面に浮き出ている魔法言語が激しく明滅を始める。
今度の創造主は逃げることが出来ないのだと、漸くジャグラタは確信した。その喜びが更に明滅を早める。
逃げられないなら、本気で責められる。
肥大し掴みやすくなったクリトリスを糸で縛り上げるかのように触手で抱きしめ、ぎゅうっと引き上げる。
「んほぉ~~~~~っっっ!!♫」
マグダレナの肛門が思わずぎゅっと窄まる。先端はジャグラタの裏側に接触しているためクリトリス全体が持ち上げられるわけでは無く、根元を引き延ばされながら先端に向かって潰されるような2種類の未知の感覚を与えられ、窄まった肛門から背筋を通ってうなじへと、冷や汗が出るようなぞわぞわとした波が移動していく。
ジャグラタはぎゅっぎゅと細かく、またはぎゅぅぅっと強くクリトリスを引き延ばし続ける。肛門の様子までは把握できないが、引っ張る度に腰が力む反応はクリトリスを通じて感じることが出来る。
顔も声帯も無いが、ジャグラタは思考の中で笑い声を上げた。他の女達が嫌がる責めを与えて見たがやはり逃げない。それどころか逃げようとするそぶりも無い。
ジャグラタは引き上げ縮んだクリトリスをぐりぐりと揺すりながら、あえて痛みを感じるように繊毛を何本か、ちくちくと露わになった根元に突き刺す。
「はっ!?んん~っ、痛いわぁっ止めてぇぇっ♫」
創造主である以上繊毛に刺されることが何を意味しているか分かるはずで、これからクリトリスがどうなるかを予め知らせるためにあえて痛みを与えた。
触手を緩め、一旦クリトリスを解放する。
先端でつんつんと突きながら、注入した鋭敏液が浸透していくのを待つ。それほど時間が掛かるわけでは無く、寧ろ分泌式よりも効果が現れるまでの時間は短い。
つつつと表面に触手の先端を這わせていると、すぐにクリトリスの反応が変わってくる。
「あっあひっ♫うひっ♫あ~~~っ打っちゃったのぉ?」
その通り、とジャグラタは返答する。創造主には聞こえないが。
ジャグラタは再び力を込め、一気に触手、繊毛共に激しく動かし始める。
「きひぃぃぃ~~~っ!!いっ、いきなりはぁぁぁ止めてぇぇぇ~~~~っ♫くほぉぉぉ~~~っ!!!」
ここからは触手の動きで刺激を増やすのでは無く、触手は常に最大限の刺激を与えたまま鋭敏液によって快感を増やしていく。
鋭敏化させすぎるとどんな刺激も痛みとしてしか認識出来なくなるためマグダレナも上限は設けていた。
しかしまだまだマグダレナのクリトリスには感度が上がる余地がある。
「いいいイクぅぅぅ~~~っ♫イクイクイクぅぅぅ~~~っっっ♫♫」
触手に締め上げられたクリトリスがビクビクと立て続けに反応し、親切にもジャグラタに絶頂を伝えていく。
立て続けに起こり始めるその反応によってジャグラタは更に自身が責めているクリトリスの弱い箇所を学んでいく。
裏筋の根元から先端に向かっての刺激が弱いと分かれば執拗にそこを責め、包皮の隙間も弱いと分かれば先端を差し込み、掃除をするようにずりずりと溝を掻く。
「ひっひっいひっ!も、もう止めてぇじジャグラタちゃぁぁぁんっっっ!!イクぅぅぅ~~~っ♫」
創造主が何度か絶頂に達する度に、ジャグラタは少しずつ鋭敏液を追加していく。
高まり続ける快感から逃れようとビクビクと跳ね回るクリトリスを押さえ込み、押さえ込む力自体が刺激となる。
「んひぃ~っ!んひぃぃぃ~~~っ!!じゃ、ジャグ、ジャグぅぅぅ~~~っぐふぅぅぅ~~~っ♫♫」
他の女達よりも余裕があるように感じていた創造主も、他の女達同様言葉を奪われていく。
責められ始めた女達が徐々に哀願すら出来なくなり、憐れな喘ぎ声を上げ続けるだけになる様をマグダレナが好んでいたように、ジャグラタもその過程を楽しんでいた。
読心器官によって哀願そのものを聞く事も出来るが、それ以上に暴れ回るクリトリスの反応自体が何よりも雄弁に快感による苦悩をジャグラタに伝えてくれる。
その苦悩するクリトリス、しかも創造主のを支配している感覚にジャグラタは酔い始める。
どれほどクリトリスが苦しみを露わにしても、それをどうするかは自分次第だった。
休ませてやることも、責め続けることも、更なる苦しみを与えてやることも支配者たるジャグラタの自由だった。
ジャグラタは当然、更に苦しめることを選ぶ。
ちくちくとクリトリスを刺して体液を注入し、その僅かな痛みですら快感と認識し始めたクリトリスを縦横無尽に揉み続ける。
既に絶頂と絶頂の間隔がほぼ無くなり、イキ続けているクリトリスは真っ赤に充血し、食い込んだ触手を押し返すほど固くなっている。
「おほほほほ~~~っ!!ひぃぃっくぅぅぅ~~~!ほぉ~~~~っっっ♫♫んほぉっ!?」
その固さが緩み始め、再び触手や繊毛が食い込み始める。
ジャグラタが注入したのは弛緩液だった。
既に創造主のクリトリスは数百回絶頂を与えられ、感度は上限に達している。次はそのクリトリスから一切の抵抗を奪い取り、更なる絶望を与える番だった。
マグダレナも最後に注入されたのが弛緩液だと気づいた。
「いひっ!いひっ!いひぃぃぃ~~~っ!!やっ、柔らかくしちゃだめぇぇぇ~~~くほほほぉ~~~っ♫♫♫」
その後もイかせ続けたまま何度か弛緩液を注入し、クリトリスの凝りを完全に取り去る。
「んがぁぁぁ~~~っっっ!!!イグイグイグ~~~~っ!!!やめでぇぇ~~~っ!!!」
元々ほとんど抵抗する術が無かったクリトリスは、完全に抵抗力を失った。幾ら腰に力を入れてもクリトリスには伝わらず、刺激を受け流すことも絶頂を堪えることも出来ない。
ふにふにと柔らかくなったクリトリスは残像が見えるほど素早く細かく動き続ける触手から与えられる全ての刺激を、最大まで感度を高められたクリトリスで全て余すこと無く受け止めさせられる。
何度も何度も、100回ずつ数えなければ追いつかないほどの間隔でマグダレナは強制的に絶頂に達せられる。
最早娼婦も創造主も大差なかった。
「んごぉぉぉ~~~っ!ふごっ♫ふごっ♫ふごぉぉぉ~~っ♫おへぇぇぇ~~~~っっっ♫♫♫」
ジャグラタは満足した。とうとう自分を作り出した美しい声で鳴く女も、他の女達と同じように奇声を上げ悶え続けるだけの生き物になった。
ビラチーナと違い尿道を塞がれていないマグダレナはちょろちょろと失禁を続けながら強すぎる快感から何とか逃れようと腰を、全身を力ませる。
その度に失禁は止まり、逆に肛門から腸液が飛び出る。
しかしその努力は決して報われず、マグダレナは常時絶頂状態に突入した。
「いへへへへへぇっ♫けへぇぇぇ~~~~っっっ♫」
ビラチーナであればここで終わりだった。ビラチーナから作り出されたままのジャグラタでもここで終わりだった。
しかし今のジャグラタの楽しみはまだまだ続く。
ジャグラタはその楽しみのため、快感と苦痛に脳を占拠されたマグダレナをそのまま二日間イかせ続ける。
鼻水や涎、膣液や腸液と言った粘度の高い体液を垂れ流し、汗や涙がそれらを洗い流す。体表から離れた瞬間にエネルギーに代わり、また垂れ流されるために身体に戻る。
いっさい休息を与えられることなく、マグダレナは48時間以上掛けて既に数千回イかされ続けていた。
「んへへへぇっっっ!!こひぃ~っこひぃ~っぷほぉぉぉ~~~っ!!」
「んぎっ!おっ!おぐぅっ!い、いぐいぐいぐぅ~~~っ♫えひぃぃぃ~~~っ!!」
「へっ、へひっ!くひぃぃぃぃ~~~っっ♫ほぉぉ~~イクぅぅぅ~~~♫」
「んおぉぉぉ~~~っ!!もっ、もうやめてぇぇぇ~~~イかせないでぇぇぇ~~~ジャグラタちゃぁぁぁんっ!!」
そのマグダレナが常時絶頂から解放され、徐々に懇願する言葉を取り戻していく。
責めが始まり徐々に快感による苦痛がましていく様を好んでいたため、マグダレナは鋭敏化やその他の効果を永続化させることはしなかった。
そのため各種体液の注入を停止するといずれ元の状態に戻る。
丸2日、三種の体液をクリトリスに注入し続けて感度や大きさ、柔らかさを保ち続けさせていたジャグラタは、数時間前に維持を停止させていた。
触手は相変わらず激しく動きクリトリスはビクビクと跳ね回っているが、弛緩液の注入も止めたためクリトリスはビクビクと跳ね回り苦しみを現す自由を取り戻している。
ジャグラタは更に触手の動き自体も遅め、力を抜く。そして自身を楽しませるためしっかりと苦しんでくれたクリトリスを誉めるように、ゆるゆると触手の先端で撫でる。
「はぁぁぁ~~~っ♫も、もう許してぇ♫許してくれたのぉ?」
常時絶頂状態に陥っていた間は快感による苦悩と絶望しか感じられず、マグダレナは消耗具合から既に6日は経過したように感じている。そのため自身のクリトリスから得られる魔力の量がジャグラタの活動に必要な量を下回り、責めを緩めたのではと考えた。
そう考えられるだけの思考力も戻って来ている。
違った。
ジャグラタはクリトリスを誉めている触手の繊毛を、再びちくちくと突き刺す。
感度は元に戻っているが同時に刺激も減っているクリトリスが微かな痛みを感じてから数秒後、むずりとした感覚を覚えた瞬間、マグダレナはジャグラタに与えているもう一つの器官を思い出し、自分の考えが希望的観測に過ぎなかったことに思い至った。
むずりとした感覚がクリトリス全体に広がり、やがてむずむずと変わる。
「はぁぁぁ~っ!今度はどうするつもりなのぉぉぉジャグラタちゃぁぁん!」
むずむず程度だった痒みは徐々に強くなっていく。
マグダレナはビラチーナには無かった掻痒液分泌腺もジャグラタに組み込んでいた。単純に痒がっているクリトリスを刺激した方がより一層強い快楽を与えられると考えて。また多様な魔法生物が手元にあり、痒みを発生させる体液を分泌する器官を得やすかったこともある。
マグダレナは何種かある痒みを利用する生物の内、敵に対する攻撃に痒みを用いる生物を選んだ。
吸血虫に刺された事による免疫反応としての副次的な原因によって生じる痒みに比べ、敵対する相手を撃退する為に用いられる痒みは桁外れに強い。
その掻痒液を、マグダレナはクリトリスに注入された。
「いひひひひぃぃぃ~~~っっ!!ひっ!ひどいわぁぁぁジャグラタちゃぁぁん!こんなのぉぉぉ~~~っ!!」
マグダレナのクリトリスはイかされ続けている時よりも激しくのたうち回り始めた。
既にジャグラタは触手を動かしても力を入れてもいない。単にクリトリスの周囲にある柔らかい蔦と化している。
「じゃ、ジャグラタちゃぁぁんっ!!かゆいわぁぁぁっ!!掻いてちょうだぁぁぁぁい!!」
強烈な痒みで跳ね回るクリトリスは時折垂らされた触手に触れる。そしてその内側の繊毛を利用しようと自身をこすりつける。
その度にジャグラタはすっと触手を動かし、マグダレナのクリトリスから逃げる。
「あぁぁ~~~っ!!どうしたのぉぉぉぉジャグラタちゃぁんっ!イかせんるんじゃないのぉぉっ!?掻いてくれたらわたしをいっぱいイかせられるわよぉっっっ!?」
逃げる触手をクリトリスが追う。イかせ続けている時とは全く逆の構図だった。
勿論ジャグラタはマグダレナが作成時考えていたように、痒みに悶えるクリトリスに一層の快感を与えるつもりでいた。最終的には。
クリトリスが痒みに絶えかねてだだをこね、その持ち主が憐れな鳴き声で掻いて欲しいと懇願する様を、常時絶頂時と同じだけ傍観するつもりだった。
快感や絶頂とは別の理由で真っ赤になっているクリトリスがジャグラタの触手を求めてぐいんぐいんと反り返り、ブルブルと左右に振れる。
これからまた二日間、マグダレナは耐え難い痒みでクリトリスをのたうち回らせる。
その間ジャグラタはクリトリスを避け、痒みを維持するために体液を注入する時のみ触れる。その際一層クリトリスを悶えさせるため、一瞬だけ掻いてやる。
マグダレナはただでさえ苦しんでいるクリトリスが定期的にやって来る痒みの波に襲われる度に、誇りや自尊心を全て投げ捨てて自身が作り出した矮小な生物に哀願する。
「かっ、掻いてぇぇ~~~ジャグラタちゃぁぁぁんっ!!もっ、もうおねがいよぉぉぉ~~~っ!!」
「どうしてぇぇぇぇっ!?もう掻いてぇぇぇっ!!いっぱいイクからぁぁぁぁっ!!」
「ジャグラタちゃぁぁんっいじめてぇぇぇっ!!わたし白目剥いて泡ふきながらいくからぁぁぁっ!!見たいでしょぉぉぉっ!?見てちょうだぁぁいっ!!」
痒みから逃れるため、マグダレナは必死に自分を責めさせようとする。
ジャグラタも我慢していた。確かに創造主をすぐにでも責めて1度目以上の快感で狂わせたい。
しかしそれ以上に、マグダレナ以上にジャグラタは犠牲者の懇願を好んでいた。為す術の無い女達が自分に媚びることなど生まれ変わる前は一度も無かった、気がする。
しかし今は自分の一挙手一投足によって面白いように女達を操れる。
痒みでも快感でも、その気になれば痛みでも好きなように女達を鳴かせる事が出来た。
その全能感を存分に味わうため、ジャグラタはしばらくの間創造主を痒みで弄ぶことにした。
我慢の限界に達したらまた一からクリトリスを育て、イかせ続ける。
どの分泌液も永続効果を与えられていないため、ジャグラタは強制絶頂と痒み責めを、一からの状態で何度でも楽しめるはずだった。
しかし創造主はこれまで2、3日で責めるクリトリスを変えてしまったため良くて1度、イかせる事に夢中になっていると一度も痒みで悶えさせられないまま交換されていた。
しかし今回は違った。何しろ交換していた相手を責めている。
マグダレナは2度目の掻痒期間に入っていた。元の大きさと感度に戻ったクリトリスをまた痒みで悶えさせられている。
しかし今度は動いてはいない。
マグダレナは掻痒液に加え、弛緩液も打たれていた。
「くきぃぃぃ~~~っっ!!かっ、かいてぇ~~~っ掻いて掻いて掻いてぇぇぇ~~~~っ!!」
どれだけ痒くても、また痒みの波に絶えようと力んでも、最早マグダレナのクリトリスはぴくりとも動かない。ジャグラタも触手を逃がす必要もなく、酷使し続けていた自身の身体を休ませつつ悲痛な哀願に聞き入っている。
既に絶頂責めと痒み責めの組み合わせを1度経験しているマグダレナはもうじき掻いて貰えることも、そして掻かれ始めると再び白目を剥いて体液を垂れ流しながら悶え続ける数日が始まることも分かっている。
それでも自身の支配者に痒みからの解放を求めるしかなかった。
「ジャグラタさまぁぁぁっ!はやくかいてぇっ~~っ!!掻いてくれたらいっぱい鳴くわよぉぉぉ~~~っ!!」
「私の鳴き声好きでしょぉぉぉっ!!はやく責めちょうだぁぁいっ!!責めててくれたらわたしまたひぃひぃ苦しむからぁぁぁ~~っ!!苦しむわたし好きでしょぉぉ~~~っ!!」
ジャグラタはとうとう根負けした。既に2度目の痒みを与え始めてから2日経っており、今度はもっと長く眺めていたかったが、責められている相手が言うとおり快楽で苦しむ様をまた見たくなってしまった。痒みでも十分苦しんでいるが。
ジャグラタはマグダレナのクリトリスに肥大液を注入する。縮んでいる上に柔らかいクリトリスは掴みにくい。
分散系を利用した甘く柔らかい食べ物のようにぷるぷると震えながら大きくなっていくクリトリスを、2日ぶりに触手で掴む。
「ふぉぉぉっ!?そ、そうよぉぉっ!!か、かいてっ!!今なら私のクリトリス好き放題できるわよぉぉぉ♫」
今でなくてももう創造主のクリトリスは自分の物だと思いつつ、ジャグラタは一気に全ての触手と繊毛を激しく動かし始める。刺激を与えると決めたなら出し惜しみせず最初から最大の快感を与えた方が反応を楽しめる。
「くほぉぉぉぉぉ~~~っっっ♫♫♫いいいいっイぐぅぅぅ~~~~っ♫♫♫」
一瞬でマグダレナは絶頂に達した。求めていた刺激を急激に与えられ、腸内の気体が大きな音を立てながら放出される。
その振動が弛緩し暴れることのないクリトリスを通過し、ジャグラタにも感じ取れた。
視覚がないため一度も見たことは無いはずだが、なぜかぼんやりと思い浮かぶ美しい創造主が放屁しながら絶頂に達したことにジャグラタは新たな喜びを見いだした。
耐え難い痒みに耐えさせられていたクリトリスはジャグラタが喜んでいる間にも何度となく絶頂に達している。
そしてそのまままた数日、痒みが恋しくなるほど無慈悲にイかされ続ける。
創造主のクリトリスを与えられてから7日近く経ち、漸くジャグラタは創造主を与えてくれた別の創造主、或いは支配者がいるはずだと気づくに至った。
そしてマグダレナの発するあらゆる苦痛の音を聞きながら、その支配者が出来るだけ長く創造主を取り上げないでいてくれることを願っていた。
■
サラバラハ蝶は稀少生物でも、魔法生物ですらなかった。
しかしその幼虫は稀少魔法生物だった。
サラバラハは本来稀少ではなく、人の手でも繁殖させられるほどだった。
にも関わらずサラバラハの幼虫を稀少生物としているのは、その餌に原因があった。
サラバラハの幼虫はチキトサの葉しか餌としない。そのチキトサこそが超稀少魔法植物だった。
チキトサは加療魔法を使う事が出来る。そのため古くから、気休めでない真の薬草として重宝されていた。
しかしその能力が知られれば知られるほど採取する人間も増え、絶滅の危機に瀕している。サラバラハと違って人工繁殖も難しい。
サラバラハ蝶はチキトサに卵を産み落とし、孵化した幼虫は成虫になるまで産み落とされた一輪のチキトサのみを食べて成長する。
食べ尽くすことはない。
チキトサは加療魔法を使えるが、自ら魔力を生成する事が出来ない。
サラバラハは魔法を使うことは出来ないが、細胞内に魔力体は持っている。
サラバラハの幼虫は成長するためにチキトサの葉を食べ、そのお礼に生成した魔力をチキトサに与える。
チキトサはその魔力で回復魔法を使い、食べられた葉を再生する。
そのためチキトサが食べ尽くされることはなく、完全な共生関係だった。
成虫になったサラバラハはチキトサの生息地から離れ、ただの蝶としてどこかの花畑で生殖を行い、またチキトサの元へ卵を産みに戻ってくる。
山荘への滞在が半月を超え、ペペインは魔法生物の整理を始めた。
全く理解出来ていないため使用することは出来ないが、召喚式分割封印法と未完成の転生式若返り法はとりあえず記憶し終えた。
記憶し終わったところでペペインは方針を変えたため、20日も滞在し続けたことは無意味になった。
ペペインは封印術、性魔法でない通常の封印術を使って必要な物を山荘から持ち出すことにした。それ以外に貴重な魔法生物を放棄せずに済む手段がなかった為だったが、もっと早く決断していれば魔法の研究書も持ち出してゆっくりと読み進められた。二つの凄まじい新魔法以外にもペペインの知らない魔法がいくつかあり、結局研究書も全て持ち帰ることにしたため、3人の娼婦は待たされ損だった。
封印術での運搬を躊躇っていたのは管理が必要になるためだった。
封印術は理外魔法だった。しかし同じく理外魔法である召喚術のように膨大な魔力は要求されない。
ただし理外魔法だけあって構文は複雑で、下級魔法士はもとより上級魔法士でも暗唱は難しい為、たいてい呪符化された状態で使われている。封印し終わった物や人が空間内のどこに位置するかを把握し続けるための印を任意の何かに施す必要がり、それを予め記しておけるという点でも呪符としての使用は都合が良かった。
同じく呪符化された状態でよく使われる防犯術などは文字通り手の平に乗るほどの大きさの札に魔法言語を書き込めるが、複雑な術であればあるほど札の面積は大きくなり札と言うより巻物に近くなる。
ペペインはその封印術も記憶していた。魔力生成量も知能も他の上級魔法士より特に優れているわけではないペペインだが、魔法に関する記憶力だけは瞠目に値した。理外魔法でも封印術とは格が違うため理解も出来ている。
使う気になれなかったのは部屋が狭いからだった。
いずれは地下室のある一軒家を購入、少なくとも借りようと思っているが、今現在ペペインが住んでいるのは集合物件だった。
多くの荷物を運んだところで出す場所がなく、いつになるか分からない転居の日まで荷物を封印し続けておかねばならなかった。
現在ではほぼ運搬用魔法としてしか使用されていないが、封印術は無機物であればそのまま保管することも出来る。
しかし通常の封印術には性魔法封印術のようにエネルギーを循環させ自動的に生命が維持されるような効果が無く、外から魔力で管理し続ける必要があり、生物の長期保管には向いていない。
ペペインがしたいのはまさにその生物の長期保管だった。
そのためあまり好ましくは無かったが、現時点では他に手が無いため、解除するまで定期的に魔力を供給しなければならないという面倒に目を瞑るしか無かった。
そしてもしかすると、それほど面倒ではないかも知れないと言う発見もあり、ペペインは封印術を使う事にした。
「やはり凄いですね、マグダレナさん。
研究書を読んだ限りでは若返り法のために魔法生物を集めているだけかと思ってましたけど、ちゃんと魔法生物自体の研究もしていたんですね」
『当たり前よぉ、んふぅ♫繁殖させないとすぐ使い切っちゃうでしょぉ、あぁん♫』
「若返り法はボクもいずれ使わせて貰う事になるかも知れませんのでクリトリスのままでも研究を続けて欲しいんですが、何が必要ですか?」
『んひっ♫あっ、あっ♫封印術で運ぶなら全部運んでちょうだぁぁい♫んひ~っっ♫』
「全部…そうですよね。ただそれほど貴重でなくて若返り法に必要ない物は置いて行かせて下さい」
『あらぁぁぁん♫せっかく集めたのにぃ、はひっ、あんっ♫』
娼婦達を解放し治安院に引き渡す際、どうしても発見場所も伝えなければならない。犯人であるマグダレナには逃げられたことにすればいいが、山荘に残した物は治安兵も目にすることになる。その際地下室が空だと不審がられるかも知れないため、どうしても必要な物以外は残して行こうとペペインは考えた。
攫った娼婦を10日間責め続ける気だったマグダレナは、自分自身が10日以上責められ続けていたが、荷物の選別をする為数日前にジャグラタから解放されていた。
『んふ~っ♫それは・・・まぁいいわぁ、置いていってもぉ。でも卵は持っていってぇんひんっ♫』
まだ通常封印術は発動させていない。
封印術は魔法言語を通じて未知の空間に接触する魔法で、だからこそ理外魔法だが、1度通路を閉じて改めて開くと別々の術に封印されることになってしまう。一つの術で管理するには対象物を1度にまとめて送り込む必要があるため、まず地下室内で要不要の選別をしている。
『研究書は置いてっちゃだめよぉ♫坊やが覚えたとしても置いてったら広まっちゃうでしょぉんひぃ♫』
マグダレナは召喚式封印術の拡散によって聖女分割犯であることの発覚を警戒しているが、それを知らないペペインも研究書は最初から置いていく気は無く、封印術の使用を決める前は暗記後焼き捨てようと考えていた。
せっかくの超貴重で超高度な新魔法を世の中に無償で解き放つ気は更更ない。
「それにしても…本当に凄いです、この召喚術は。
・・・何に使ったんですか?」
『それはぁ…っはんっ♫思いついたから書き起こしただけよぉぉん♫まだ使ってないわぁん♫』
ジャグラタからは解放されたマグダレナだったが、クリトリスが完全に自由になっているわけではない。
「危険な生物がいるなら教えてくださいね。ボクに何かあったらマグダレナさんもそのままなんですから」
『わかってるわよぉ♫あひっ、はっっ♫
と、ところでこれもう取ってくれないかしらぁん♫もう十分よぉふひっ♫』
マグダレナのクリトリスにはサラバラハの幼虫が乗せられていた。
無数の小さな足でぴったりと表面に張り付き、もぞもぞと這い回っている。
『くすぐったいわぁ♫んひっ、もう取ってぇ♫』
ジャグラタに責められている時は惨めな音を鳴らす時以外固く閉じられていた肛門が、這い回る芋虫のくすぐったさとむず痒さに合わせてぱくぱくと開閉を繰り返している。
幼虫は這い回りながら時折小さな口でクリトリスの表面を甘く噛む。痛みはないが、流石のマグダレナも自慰に芋虫を使ったことはなく、初めての感覚に鳥肌を立たせたまま喘いでいる。
マグダレナのクリトリスにはサラバラハの餌として山荘の外で栽培されているチキトサから作り出した香水が振りかけられている。ペペインはマグダレナがチキトサの栽培に成功していたことに驚いていた。
幼虫は葉を噛むための鋭利でない歯でクリトリスをむにむにと噛み、味も匂いも好物なのに噛み切れず、しかし腹は満たされることを不思議に感じながら、いつまでもなくならない餌を食べ続ける。
そしてその代わりにクリトリスに魔力を与える。
マグダレナは研究に使う凝縮魔力のために魔力を生成し他者に分け与える生物を集めており、サラバラハの幼虫もその一つだった。
そして改造済みでもある。
マグダレナのクリトリスを這い、食べ、魔力を与えているサラバラハは、幼虫でもあり成虫でもあった。
マグダレナに必要なのはサラバラハが幼虫の時にだけ持つ能力で、ただの蝶に用はない。そのため幼虫から個体進化機能を取り去り、言わばサラバラハの幼虫のようなサラバラハの成虫を作り出していた。
それによりサラバラハは餌さえ与えられれば、寿命がくるまでいつまででも乗せられた凝縮魔法石に魔力を送り続ける事が出来る。
その凝縮石の代わりに、今はクリトリスに乗せられている。
サラバラハの改造よりも餌の安定供給の方が難しかったが、チキトサの人工栽培が成功したことによって解決した。
クリトリス、本来は凝縮石に振りかけている香水はただの抽出液で、匂いや味だけでなくサラバラハの生命維持に必要な養分もしっかりと含まれていた。
葉をちぎって食べさせてもサラバラハは凝縮石ではなく噛んだ歯の方に魔力を与えてしまい、また葉を毟られたチキトサは本体は魔力を得られず自身を回復させられないため、樹液だけを拝借し魔力を与えたい対象に振りかける必要がある。
『んひっ♫んっ、んふっ♫ねぇ取ってぇ、ペペインちゃぁん♫』
黙々と分別作業を続けるペペインの脇で、毛虫にクリトリスを這い回られているマグダレナはもぞもぞとしたくすぐったさに身悶えし続けている。魔法生物に慣れているため気味の悪さは感じないが、小さな無数の足に張り付かれ這い回られる感覚には慣れない。
『はひっ♫んにっ♫んっ♫いやだぁ、この子私を食べようとするのよぉ♫』
くすぐったさの合間に、時折小さな小さな指でクリトリスの様面を緩く挟まれ、くいくいと引っ張られる感覚がある。
サラバラハにしても全く歯が通らない凝縮石よりも、柔らかいクリトリスの方が噛み応えがあった。
「この芋虫はどのくらい生きるんですか?」
『分からないわぁ、改造しちゃったものぉ♫ん~っ♫もう魔力はいいから、取ってちょうだぁい♫』
地下室でサラバラハを見つけたペペインはまず封印術の維持に使えるかも知れないと考えた。その次に陰核解放式封印術に封じられた後に消耗した魔法使いの回復にも使えるとも気づいた。
ただしマグダレナでなくイングリッドに。
マグダレナに捕らわれるという失態から助けて貰う際にイングリッドがこれまでクリトリスから消費した魔力を回復させると約束したが、買うにしろ自分の魔力を与えるにしろイングリッドがどのくらい消費しているか分からないため気が重かった。しかしサラバラハをクリトリスの上で飼っておけば、魔力や懐を痛ませることなくいつかは約束を果たせる。
そのためにまず元々の飼い主であるマグダレナのクリトリスで試していた。封印されて1年以上経っているイングリッドの消費とは比べようがないが、十数日間自分のクリトリスを責め続けていたジャグラタに多少魔力を奪われているはずなので、回復させる余地は残っている。何よりイングリッドの封印器は周囲に邪魔な物が多々あり、またそれらを収納するための穴や隙間が空いているため、小さな芋虫はそこに入り込んでしまうかも知れない。
マグダレナの様子を見る限り魔力を回復させる手段としては十分に有用だったが、イングリッドのクリトリスに使うにはやはり機巧術の研究が進めるしかなかった。
ペペインはふと手を止めマグダレナを振り返る。そこにあるのはマグダレナ自身ではなく、芋虫の裏側を見たくないため監視紋も浮かべていないマグダレナのクリトリスだけだが、喋りかけようとするとつい相手の方を向いてしまう。
「そうそう、マグダレナさんが口をきけるようになったらお願いしないといけないことがあったんでした。
リンジーに例の、箱を持って逃げた魔法生物の詳細を教えて頂けますか?」
クリトリスが返事をする。芋虫が這い回るのに合わせてくねくねとゆっくり動いている様は、読心術で声を聞かなければサラバラハに遊んで貰えて喜んでいるようにも見える。
『んふっ♫っひぃっ♫こっ、このままでぇ?芋虫にクリトリス食べられながらじゃお喋り出来ないわぁんっふぅ♫』
今まさに毛虫に囓られながら喋っているじゃないかと思いつつ、口には出さない。代わりに袖からリンジーを取り出し、蓋を開ける。
『…っはっ!?ペペインくぅ~ん、約束がちがぁ~~~う!』
蓋を開いた瞬間にもリンジーは肛門をひくつかせていた。マグダレナに開発されて疼いている肛門を後で弄ってやると約束して蓋を閉めて以来、暗記と整理に集中してしまいこの瞬間まで放置していた。
「ごめん、色々やることがあって忘れてたよ。でもずいぶん経ったから、もう落ち着いたんじゃない?」
『ひどい~っ!たしかにもう落ち着いちゃいましたけど、ずっと悶々としてたんですぅ~!』
「ごめんごめん。もう2,3日でここを出て行けるから。そうしたら今度こそ。それでいい?」
『本当ですかぁ?絶対ですよぉ?・・・それで、何ですかぁ?何か占います?』
ペペインはリンジーをマグダレナに向かい合わせ、マグダレナに読心術を使わせる。これでまたサラバラハが魔力を与える余地が出来た。
ペペインはマグダレナにリンジーへの説明を頼み、少しでも早く今回の仕事を終わらせるため荷物の選別に戻った。
封印術を発動させると対象物の周りを魔法言語が取り囲み、やがて1点に収束していく。空間に穴が開くようなことはない。
そして最後に管理用の印が残る。呪符を使わないペペインはそれを2番目に安全と思われるマグダレナの封印器の裏に焼き付けた。一番はイングリッドだが、抵抗石は理外魔法すらかき消し、せっかく分別し封印した貴重品は未知の空間に閉じ込められたまま永遠に失われてしまう。
滞在日数が1ヶ月を超えてしまう前にペペインは何とか全ての品の整理を終え、封印術に収納した。
漸く冒険者としての仕事も終えることが出来る。
サラバラハと香水だけは封印せずに鞄にしまってある。魔力が回復し、箱の情報源としてもひとまず用のなくなったマグダレナはまたジャグラタに責めさせている。
若返り法や召喚術にも興味があるためいずれは教えを請うことになるが、先に機巧術やのまだ終わりきっていない封印術の研究を進めなければならないため、いつになるかは分からない。
それまでジャグラタから解放する気は無いためかなり長く苦しむことにはなるかもしれないが、イングリッドと違いただの硝子製の蓋なので、何も処置をしないまま放置するのは不安だった。
両袖はリンジーとイングリッドで埋まっているため、マグダレナも鞄に仕舞われた。
最後に忘れ物がないかもう一度地下室を確認すると、山荘から持ち出すべき物は残り3つとなった。
ペペインは机の上からそれを1つずつ手に取り、マグダレナからとっくに聞き出していた解呪符牒を使って順に中身を解放していく。
1分後には娼婦が3人、床の上に裸の尻を付けていた。
「ほ、ホントに出られた…」
「みんな…いる?いるよね?」
「あれ?…あんまりまぶしくない?」
女達はゆっくりと立ち上がる。どこも傷むことはなかった。本人達には真っ暗な闇の中に閉じ込められていた感覚があり、そこから解放されれば光を強烈に眩しく感じたり関節が痛んだりするのではと思っていたが、身体には一切の不調がない。
封印空間内では肉体の代謝はほぼないに等しくなるため、2ヶ月でも20年でも、解放された被封印者の身体は封印される直前の状態を保っている。
立ち上がった女達はペペインに抱きつき感謝の言葉を述べながら至る所に何度も口づけをする。
「あの…私は仕事をしたまでですから。これ以上の感謝はあなた方の捜索を治安院に依頼したご友人にして下さい」
ペペインは中々離れない女達を押しのける。
「それでは、私はこれからニコンヤに向かい、治安兵を呼んできます。皆さんはここがどこなのか分からないと思いますが、町からそう遠くはないので…」
話の途中でペペインが言わんとしていることを理解した女達は互いに顔を見合わせる。
「いいいやよ!こんな所に置いていかないで!」
「う、うんうん!ここで人を待つくらいなら裸で歩いた方がいい!」
「しかし、皆さんの服がここにはないんですよ」封印術で攫われた女達の服は犯行現場に残されたままになっているはずだった「ですから戻ってくる時に何か着る物を…」
「いやだってば!だってあの悪魔の女は逃げちゃってるんでしょ?」
「そ、そうよ!あなたがいない間に戻って来たらどうするの!?」
「裸でもいいから一緒に連れてってぇ!!」
「・・・そうですか?そう仰るなら…行きましょうか」
女達が裸で構わないと言ってもペペインは構う。裸の女を3人連れているいている様を人に見られたら何を噂されるか分からない。
助け出した後服がないかも知れないと考えなかったのはペペインの手落ちなので、娼婦達の要望に従いカーテンとシーツを纏わせてニコンヤに向かう。
ペペイン自身、ほぼ一か月ぶりに森の外に出た。自由の身で山荘に籠もっていたペペインの方が木々に遮られない日光を眩しく感じる。
女達はペペインの少し後ろでなにやら話している。
「ね、ねえ魔法使い様、お願いがあるんだけど」
「私たちが…あの…あの感じで閉じ込められてたって事、内緒にしてて貰えないかな?」
「普通に…普通にって言うのも変だけど、檻か何かに閉じ込められてたことにしてくれないですか?」
願ってもない申し出だった。ペペインはすぐに了承する。
「それは構いませんよ。そうですね、その方がいいかもしれません。変な噂が立つこともないでしょうし」
性魔法封印術の存在はまだ当分世間に知られて欲しくなかった。今回は不運にも封印術を知る格上の相手に当たってしまいイングリッドの力を借りるしかなかったが、ペペインに取って機巧術同様、魔力の消費だけで使用できることを考えれば機巧術以上の切り札であることに違いはなかった。
「ただ、檻は止めてください。治安兵がこの後山荘を調べても、あなた方3人を閉じ込めておけるような大きな檻は見つかりませんから。
そうですね…麻酔術で眠らせていたことにしましょう。その方が事情聴取も楽に住みます。何せ眠っていたと言えばいいだけですから」
じろじろと、人々の視線を感じる。
ペペインは居心地の悪さを感じていたが、町に戻って来られた娼婦達は好奇の目を気にすることなく純粋に喜んでいる。
ペペインは一直線に治安院に向かう。
治安院は文字通り各都市の治安を独自に守っているが、各都市を政治的に管理している市民院に属しているわけではなくあくまで中央、王室に属している。
そのためオティカ治安院への依頼はオティカ国内で共有されている。冒険者達はニコンヤへ持ち込まれた依頼をエカタカで受けることも、その逆も出来る。
最終的には仕事を受けた都市の治安院で報酬受け取りなどの事後処理をする必要があるが、犯人の引き渡しなどは最寄りの都市で行える。それが被害者でも同じだった。
ペペインは冒険者としての身分証を治安院の民間依頼係に提示し、助け出した3人を引き渡した。
そこですぐに終わりには出来ない。係は女達から話を聞き、救出したのがペペインで間違いないことを確認すると、依頼書に確認済みの印を押す。これを依頼を受けた都市、ペペインの場合はエカタカの治安院に提出し、今度はエカタカの事務係が印を押した都市の治安院に戻し、確認が取れると漸く依頼完了となり、報酬が支払われ掲示板から依頼書が剥がされる。今回ペペインは誰にも邪魔されなかったが、依頼は1人が受けても完了するまで何人でも受けられる為、人気のある、主に高額な依頼の場合冒険者が競合することもある。
女達は更に聴取と現場検証があるためまだ治安院を出られないが、手続きが終わりエカタカに戻るペペインに改めて何度を礼を言い、次に会った時には只で相手をすると小声で伝えた。
実質1ヶ月掛けて娼婦誘拐事件を解決し、ペペインはニコンヤを後にした。
■
「どう?どこか分かった?」
ニコンヤでの仕事は終えたが、そのままエカタカに戻るわけには行かない。ペペインはリンジーを袖から出し蓋を開けた。リンジーは小さく喘ぎながら肛門から占術器を産み、占いを始める。
『それが…また良く分からなくなりました』
「え?マグダレナさんから詳しく聞いたよね?箱じゃなくて持ち逃げした生き物の方でいいんだよ?」
『そうなんですけど…そっちを占ってるんですけど、良く分からなくて…』
リンジーが試しに元々ペペインから与えられていた情報だけで占ってみると、依然幾つか要所が現れてしまいはするものの、マグダレナの情報を元にするよりはっきりとした結果が現れた。
リンジーの占いが機能しないのも無理はなかった。マグダレナはペペインが運び出す荷物の整理に気を取られているのをいいことに、自身の大失敗を隠すため出鱈目を伝えていた。天才リンジーと言えど存在しない物を探すことは出来ない。
「おかしいなぁ、山荘にあったことは間違いないんだよね?」
『はい、それにやっぱり近くに…オティカのどこかにあると思います。ここから東と南に幾つか要所を感じるんですけど、他のより新しい気がするんで、そのどこかだと思います。
ただマグダレナさんから聞いた情報じゃなくて、ペペイン君の情報で占った結果ですけど』
「・・・もしかしたら、死んじゃったかな。持って逃げた生き物」
エカタカはニコンヤから北西に、リンジーが占った箱の在処とは真逆に位置する。このまま箱を探すなら戻らずに滞在した方が都合がいい。エカタカに戻るために駅馬車の発着場に向かっていたペペインは足を止め、悩む。
「・・・・・いや、やっぱり1度戻ろう。疲れも取りたいし」
結局ペペインはエカタカに戻ることにした。この場でマグダレナをもう一度質しても良かったが、一旦今回の仕事を全て終えたかった。冒険者が1つの仕事に1ヶ月を費やすことは珍しくなく、寧ろ早い方だったが、これまでリンジーのおかげで特に苦労することなく依頼をを片付けてきたペペインに取っては解決まで最も時間が掛かった仕事ととなってしまっていた。尤も攫われた女達の捜索と救出という依頼自体は1日で解決しており、それ以降は私用に費やされただけだったが。
1ヶ月ぶりにエカタカに戻って来た。特に感慨はない。
ペペインは治安院ではなく料理屋に向かった。マグダレナの山荘に滞在中、食事は全て蓄えられていた保存食ばかりだった。マグダレナが食べているものなので不味いわけではなかったが、同じものばかりで飽き飽きしていた。
久しぶりにまともなものを食べたペペインは一旦家に戻った。荷物を封印術から解放することは出来ないが、管理の準備をする。未知の空間にいる魔法生物たちのための生命維持も一旦家に戻ることにした理由の一つだった。
鞄からサラバラハを取りだし、マジャリを出る際に持ち出した凝縮石にチキトサの香水を振りかける。1度は空になってしまった凝縮石だが、その後改めて凝縮を始めたため多少は溜まっている。
更にマグダレナの封印器も取り出し、魔力導線で凝縮石と繋げる。強い魔法使いの封印器ならば安全だろうと、後先考えずに印を焼き付けてしまったため直接サラバラハを乗せるのは具合が悪い。
ペペインは凝縮席の上にサラバラハを乗せ、封印術の管理印に魔力の供給を始める。
印が記されている台座の上でマグダレナのクリトリスはジャグラタに激しく蹂躙されている。山荘でも時々眺めていたが、一切休むことなく動き続けているビラチーナと違い、ジャグラタは激しく動いている時とほとんど動かない時があった。
生命維持に魔力を利用しているので、停止している時は活動に足りなくなった魔力を溜めているのだろうとペペインは考えていた。ジャグラタが動いてなくともクリトリスの持ち主は強烈な痒みに悶えながら小さく下等な生物に責めを懇願していることをペペインは知らない。
マグダレナには改めて箱を盗んだ魔法生物の詳細を聞く必要があるが、当分はこのままジャグラタを被せておき、封印された者が如何に無力かをクリトリスを通じて教え込むつもりでいた。
結局ペペインは治安院には足を運ばず、この日はそのまま自室で休むことにした。
依頼完了の手続きを終えたが、すぐに報酬が支払われることはない。別の都市で被害者を引き渡したため、証明書類が2都市間をもう1往復することになる。
娼婦達をエカタカまで連れてくればその手間は省けたが、その方がより面倒が増える。特に引き渡すのが被害者でなく何らかの犯罪者だった場合、道中常に逃亡を警戒し続けなければならない。よほど金に困ってでもいない限り、どの冒険者も依頼完了の一次処理は最寄りの都市を選んでいた。
「今回はちょっと時間が掛かったみたいだねぇ、あんたでも」
「ええ、まさか相手がマグダレナだとは思ってませんでしたから」
「それだよそれ、ホントにまさかだよ。逃げられちゃったのは惜しかったけど、良くあのマグダレナを相手にして無事でいられたねぇ」
「運が良かったんですよ」
「これであんたも一流の賞金稼ぎの仲間入りだねぇ。忙しくなるよぉ。有名になったら個人的な依頼だって来るようになるんだから」
「まだまだ若輩ですよ、ボクは」
娼婦達の監禁場所の確認も終わっていないにもかかわらず、事務員のヒセラはペペインの自己申告だけで賞金首のマグダレナと対峙したことを信じた。
「ところであんた、しばらく町を離れてたから知らないだろ?ハドリー達の事」
確かに知らなかった。何があったのかという事以前に、ハドリーという人物自体を。
「仕事でやられちゃってねぇ、死にかけてるんだよ。ここしばらくウチで登録してる賞金稼ぎで大怪我するような連中はいなかったから、みんな驚いてねぇ」
少なくともハドリーが冒険者であることは分かった。
「何が…いえ、どんな仕事だったんです?死にかけるような仕事とは」
「それがそんな危ない仕事じゃなかったはずなのよぉ。畑が荒らされるから犯人、といっても野生動物でしょうけど、それを退治してくれって。良くあるでしょ?そんな依頼」
確かに農村からの大型獣駆除の依頼は多かった。ただし報酬は少ない。そんな依頼を引き受けると言うことはハドリーという人物は大した冒険者ではないらしい。
「そうですか、お気の毒ですね。それではボクは…」
「大火傷しちゃってねぇ、3人とも。・・・そういえばあんたニコンヤから戻って来たのよねぇ?ハドリー達もそこの病院に運び込まれてるのよ。ここまでとても連れて帰れないから」
大型獣程度に殺され掛けるような冒険者の話など聞いていられないと、立ち去ろうとしていたペペインは足を止める。
「大火傷?大火傷とは・・・もしかして魔法生物ですか?」
「だったんじゃないかってみんな噂してるのよぉ。3人とも意識がないから話を聞けないんだけど。
ただそれで困っちゃってねぇ、あの辺りにいる火を使うような魔法生物と言えばロスタとかドゥマパナでしょ?だから手が空いてる冒険者はみんな尻込みしちゃってねぇ。…ほら、治安院が依頼放棄なんて出来ないでしょお?」
ヒセラはちらちらとペペインの目を覗き込む。
ペペインは2度、まさかと思った。
まさかその魔法生物はマグダレナが逃がした魔法生物と関係あるのではないだろうか。
まさかヒセラはヘマをした3人からその依頼を受け継げと言っているのではないだろうか。
「・・・すいません、まだオティカの地理に詳しくないんですが、駆除の依頼があったのはニコンヤに近いんですか?」
「そう、ランバラファ山の村よ。ハドリー達が黒焦げになってるのを村人達が見つけて、ニコンヤに担ぎ込んだのよ」
「それで、その依頼を受ける人が他にいないんですか?」
「そうなのよねぇ、クラーセンやボニファシオは引く手あまたで忙しいでしょう?」
その2人ならペペインも知っていた。どちらも抗魔遺伝子を持つ第一級の賞金稼ぎで、確かに魔法生物退治程度の仕事を引き受けそうにはない。
治安院の仕事の中には、被委託者を指名して依頼されるものもある。それらはたいてい国や商家からの依頼で、報酬も多い。一級の有名冒険者はそういった依頼を絶えず抱えているため、程度の低い依頼を引き受けることはほぼない。
ただし今回のように当初只の大型獣による被害だったと思われていたものが、より危険な生物に因るものだったと判明した場合、治安には危険度の引き上げに伴い依頼金の追加を依頼者に要請できる。依頼者がそれを飲めば報奨金額が変わるだけで引き続き依頼は掲示され続けるが、対応できない場合治安院は依頼を破棄できる。
だだし1度受けた依頼を危険度が変わったことで破棄することは治安院の沽券に関わるため、実際に破棄される例はほぼない。現在の治安院では危険度に応じて報奨金をつり上げるのではなく、依頼者が払える程度のつり上げでお茶を濁していた。
そうなれば当然、3人を黒焦げにするような魔法生物の退治など誰も引き継ぎたがらない。
ヒセラはそれを、仕事を終えたばかりのペペインに引き継がせようとしている。
「・・・そうですか、分かりました。ボクが受けますよ、その依頼」
「あら!いいの?前の仕事が終わったばかりでしょ?」
ヒセラは白々しくペペインを気遣う。
運動神経が並の人間と同等かそれ以下であるため、本来なら魔法生物どころか只の害獣討伐すらペペインには受ける気が無かった。しかし今回の依頼は探し物と関係あるかも知れない。
後でマグダレナに確認する必要はあるが、もし違ってもリンジーの占いに因って箱がニコンヤの西から南の間にありそうだと言うことは分かっているため、どの道次の依頼は同じ方面の仕事を選ぶことになっていた。
危なさは感じるが、治安院に恩を売りつつ目的地方向の依頼を得られるなら、立て続けであること以外断る理由はない。
ペペインは依頼完了を申請する書類が残ったままの机で依頼受託の書類も記入し、提出した。
思ったより早くジャグラタから解放され、マグダレナは胸をなで下ろした。しかも上手く強制絶頂の最中に。
解放されるのが痒み責めの期間だった場合、取らないでと懇願しなければならない。
『それはたぶん違うわよぉ。私の所から逃げたのは大型じゃないし、外に向かって魔法なんか使えないものぉ』
「本当ですか?…どうもマグダレナさんは何か隠しているような気がするんですよ。詳細を教えて貰ったはずなのにリンジーが占えませんでしたし」
新たな依頼、魔法害獣駆除を受託したペペインはニコンヤに向かう馬車の中に居た。道中マグダレナを質す必要があるので駅馬車ではなく御者を雇った。
戻ったばかりですぐ引き返すかどうか悩んだが、今回は仕事よりも箱探しを優先するつもりなのでもう一日だけエカタカで疲れを取り、再びニコンヤに向けて出発した。
目的地はその南、ランバラファ山の中腹にあるダルナポラオという山村だが、もしかしたらハドリーとやらが意識を取り戻しているかも知れないため一旦ニコンヤに立ち寄る。目覚めていれば詳細を聞く事が出来る。
『何も隠してないわぁ…ニコンヤの辺りで炎を使う魔法生物ならロスタくらいでしょぉ?たぶん。あなたでも十分退治できるわよぉ、油断しなければ』
『い~や、お前嘘付いてるな。騙されちゃダメよ、ペペイン』
『あなたは黙っててくれるぅ?魔法生物は私の方が詳しいのよぉ?』
『ふっ…何に於いてもアタシの方が上に決まってるでしょ?でもそういうことじゃないのよね~。
ねぇねぇペペイン~、さっきまでマグダレナが責められてぴぃぴぃ鳴かされてたあの生き物、ジャグラタだっけ?何で浮浪者なんて名前を付けたのか知らないけど、あれ何かに似てると思わない~?』
ペペインは今後自分の便利な道具になって貰う予定の2人が険悪なままでは都合が悪いと思い、イングリッドの蓋も開け話に加わらせていた。
今回ペペインはマグダレナ、イングリッド、そしてリンジーだけを携帯していた。それ以外の女達は昨日金庫を購入し、その中にしまってある。元々助力が期待できるイングリッドとリンジー以外持ち運ぶ気はなく、前回の教訓からやはり不要な女達より抵抗石のインゴットを持ち歩いた方がいいと考えた。
そのため荷物の数は減ったが重量は増えてしまっている。それでもいざとなればエネルギーの消費を度外視し、魔法使いだろうと魔法生物であろうと魔法攻撃に関しては一切をかき消せると思えば心強い。
「それは確かに、僕も思ってました。あれに似ていると」
『でしょ?ちょっとだけアタシに触らせてみて。・・・かぶせちゃ嫌よ♫』
拷問器や研磨機が邪魔になり、被せられる心配はない。ペペインが蓋ごと近づけると、ジャグラタは新しいクリトリスを掴もうと必死に触手を伸ばし、その先端で先端に触れる。
『あひっ♫こ、こっちも中々凄そうね…ごくっ。
え~っと、どれどれ?ふむふむ、なるほどぉ~。えっ?やっぱりあんた狂ってるわね、こんなことまでしてるんだぁ』
マグダレナは封印器の中で冷や汗を流す。ジャグラタが何かに似ているといわれていることに心当たりは大いにあるが、なぜ2人がそれを知っているのかは分からない。
更にイングリッドはクリトリスを使ってジャグラタを解析しているらしい。悔しいがクリトリスを使っての魔法生物の解析などマグダレナでも出来ない。
『ん~、やっぱり間違いないわ。
マグダレナ、あんたこれ、ビラチーナを参考にしたんでしょ?』
「えっ?」
ペペインも思わず驚く。似ているとは思っていたが、イングリッドの言うとおりなら封印術だけでなく一時はビラチーナまで共通して所持していたことになる。
『ビラチーナぁそんな生き物知らないわぁ。私が知らないんだからそんな生き物いないわよぉ、出鱈目言わないでくれるかしらぁ?』
『そりゃいないし図鑑にも載ってないわよ。どこかの性魔法士が作って、アタシが改造したんだもん』
『・・・え?…あなたが?』
参考にした陰核酷使用改造魔法生物がビラチーナという名だったことは知らないが、嫉妬を覚えるほど出来が良かったのは確かで、だからこそそのまま使う事はせず色々と独自の改造を加えた。
しかし改造を加えたところでベシーナのどこかに自分以上に魔法生物の改造に精通した魔法使いがいる事は確かで、常に気にはなっていた。
その改造主がイングリッドだとすれば、色々と腑に落ちる。
マグダレナは専門家としての純粋な好奇心から色々とイングリッドに聞いてみたくなった。しかし尋ねた時点でビラチーナを参考にしたことが確定してしまう。
『ビラチーナねぇ、確かに別の生き物を参考にしてジャグラタを作ったわよぉ?でもそんな名前だったかしらぁ?』
『誤魔化そうとしたって無駄なのよ、お婆ちゃん♫白くて胴体の内側にいっぱい繊毛が生えた生き物だったでしょ?』
やはり自分が参考にしてしまったのはイングリッドが作ったビラチーナとか言う人造生物だったらしいとマグダレナは確信した。
『・・・だ、だとしたらどうだっていうのぉ?確かに私が参考にしたのはあなたが作ったビラチーナぁ?かもしれないけど、私が改造したことによって元よりもっと凄く…』
『あはははは~♫そ~んなことはどうでもいいのよ。今はあんたが隠そうとしてる恥ずかしい秘密を暴いてあげようとしてるの。
ねぇねぇペペイン~、あんたマグダレナの山荘でビラチーナを見た?』
「いえ、見てないです」
『でしょ?どこに行ったのかなぁ?
あんたが改造したって言ってるジャグラタ、あれビラチーナを改造したんじゃなくて、ビラチーナが備えてた機能をまねしただけよねぇ?じゃあ真似されたビラチーナの本体はどこにいったのかしらぁ?ん~?』
『そ、それはぁ…』
マグダレナは冷や汗どころか無理矢理イかされ続けている時のように大量の汗をかき始めた。
『もう全部わかってるのよねぇ♫
えぇえぇ、確かにあんたは最初はビラチーナそのものを改造しようとした。
でも失敗しちゃったんでしょ?
自分の好きなようにビラチーナを改造してると、突然暴走しだして、手が付けられなくて、その上改造したビラチーナで責めようと思っていたクリトリスを持って逃げられた。
そりゃそうよ、アタシ以外が手を加えようとしたら暴走するように、アタシか仕込んでおいたんだもん♫♫』
『・・・・・・えぇっ!?えぇぇっっっ!!??』
『当たり前でしょ?アタシが作ったモノは何でも完璧なんだから。そんな完璧なモノに手を加えようとする愚か者には痛い目を見させないと。ホントは改造者の身体の中に入って心臓を食い破るはずなんだけど、あんたは無事だったみたいね、残念♫』
『・・・』
魔法生物の専門家と自任している自分が、実験中その魔法生物を暴走させてしまい、その暴走の原因も分からないまま逃げられてしまったなどという大失敗は誰に問い詰められても隠しておきたかった。その詰問者が尤も疎ましい存在であるイングリッドなら尚更だった。
しかし大失敗の原因そのものがイングリッドにあるのなら、最早誤魔化す手段は一切無い。
マグダレナは改造中急激に形状が変化し、顔めがけて飛びかかってきた白い胴体の生き物、ビラチーナをはたき落としたことを思い出した。イングリッドの言うとおりなら、はたき落とせなければ口から身体に入られ、殺されていたかも知れない。
床に落とされた暴走ビラチーナはしばらくかさかさと動き回り、やがて被せて楽しもうと用意していたクリトリスを箱ごと胴体に取り込み、そのまま窓を破って逃げ去ってしまった。
『…あ、あたなが予め暴走するように仕込んでたなんて、そんなぁ…』
『ほ~ら、吐いたわね♫やっぱり思った通りだった。魔法生物の専門家を自称してる有名手配犯様が魔法生物の改造に失敗して逃げられた事を知られなくて誤魔化してたんでしょ、ははは~っ♫』
「どういうことですかマグダレナさん。本当にビラチーナを所持してたんですか?…こんなことなら置いてくるんじゃなかったな。今も3人ビラチーナに責められっぱなしなんですが。
…そんなことより、リンジーに伝えた情報は嘘だったって言うことですか?」
マグダレナはとうとう諦めた。
『・・・そうよぉ、イングリッドの言うとおりよぉ。だって恥ずかしいじゃなぁい、実験に失敗して逃げられた上に、大事なクリトリスまで盗まれるなんてぇ。この私がよぉ?
今度こそあのお尻の穴の子にちゃんと詳細を教えるからぁ、見逃してぇ♫』
『あ~あ、あんたが改造なんかせずに大人しくそのままビラチーナを使って楽しんでれば今頃ペペインは探し物を見つけられてたのになぁ~。
ねぇ、ペペイン~♫お仕置きした方がいいんじゃない?マグダレナのクリトリス拷問しようよぉ♫』
『ま、まってペペインちゃぁん。
・・・よく考えてみてぇ?確かに私はビラチーナって言う子を暴走させちゃったけど、その原因はイングリッドにあるのよぉ?
イングリッドが余計な仕掛けを組み込まなければ、あの子は逃げずに私の手元にいたはずだものぉ。お仕置きするならイングリッドよぉ。
あの周りの拷問器がイングリッドのクリトリスに食い込んでるところ見たいわぁ♫』
ペペインはため息をつく。2人を仲良くさせるのは機巧術や封印術の研究以上に骨が折れるかも知れない。
『はぁ、そんなにケンカしないでください。お仕置きは後で平等にお二人とも受けて貰います。
それよりもマグダレナさん、今度こそリンジーに正直に詳細を教えてくださいね?
それから一応確認しますけど、その暴走したビラチーナは火を噴いたりしないんですよね?イングリッドさんもですよ?」
『しないわぁ、ペペインちゃんが退治しなきゃいけないのは本当に別の生き物よぉ』
『そうそう、物理魔法を使えるような仕掛けは組み込んでないわ』
「分かりました。それではこの仕事はさっさと片付けて、箱を探しに行きます。
箱を見つけたらお二人とも、仲良くなると約束して頂けるまで拷問し続けますからね?覚悟してください」
『いやぁん♫拷問は許してちょうだぁい♫』
『仲良く出来ないぃ♫拷問やだぁぁっ♫』
ペペインはリンジーの肛門から指を抜いた。マグダレナとイングリッドが言い争いを始める前から約束通り肛門を揉み続けてやっていたため、抜いた指に腸液が糸を引いている。
『はふぅ~♫もう終わりですかぁ?ずっと揉み揉みしてて欲しいです~♫』
ペペインはマグダレナに、リンジーに読心術を使うよう厳しいで命じた。イングリッドが隠し事を見抜いてくれなければ当分騙され続けていたはずで、多少腹が立っている。
失敗と嘘を暴かれたマグダレナはお仕置きを恐れ、今度こそ本当に珊瑚筺を盗んだ暴走生物の詳細をリンジーに伝えた。
ニコンヤに到着した。
本当に只で抱きに来たと思われると気まずいので、助けたばかりの娼婦達に出会わないように気を使いながら病院を目指す。
ハドリーと2人の仲間は同じ病室で看護を受けていた。全員が全身を包帯で巻かれているためどれがハドリーなのか分からない。中には手足がない者までいる。
残念ながら意識を取り戻している者はいない。
意識を取り戻す前に麻酔術を掛けてしまうと回復の度合いが分からないため、彼らは純粋に意識を失っている。
「この状態だと魔法も効かなくて…」
看護婦はペペインに患者の状態を説明し始めたが、魔法使いであるペペインは3人を見る前から大凡どういう状態なのか察しが付いていた。
加療魔法は身体のどこかが切断されても、切断部位が残っていれば繋げることが出来る。熱湯や油を被ったような火傷も治すことが出来る。
外的損傷であれば、その程度によって魔力の要求量が変わっては来るものの、構文自体は難しくないためかなり下級の魔法士でも治すことが出来る。
しかし病気や体内の損傷となると急激に難しくなる。構文自体は同じだが、加療魔法は直接患部に施す必要があるため、病気そのものの知識と人体内部の知識も必要になる。
そのため医師として病院で働く魔法使いは医療魔法士と呼ばれ、魔法使いとしての能力が下級であってもかなり優遇されている。
腕が切り落とされた場合、切り落とされた腕が残っていなければ傷口を塞ぐことしか出来ない。
皮膚が炭になった場合、それは最早人体の一部ではなく加療魔法で再生することは出来ない。
病院に運び込まれ、魔法による治療を受けたはずの3人が未だに意識を取り戻せないという事は、皮膚や筋肉が炭になるほどの熱を浴びせられたのだろうと予想していた。ヒセラが3人の火傷の具合を黒焦げと現していたのは比喩ではなく、言葉通りの意味だった。
実際包帯の隙間から覗いている皮膚にはまだ所々炭化した表皮が残っている。
その状態では目を覚ますどころか死を待つだけだった。
「あの、お知り合いなんですよね?治安院にはもうお伝えしてあるんですけど、ご家族をご存じでしたら直接ご連絡を…」
「同僚ではあるんですけど、知り合いかどうかは…」
1人、顔の半分が包帯で巻かれていない男がいた。火傷は負っているようだが、他の部分に比べると軽度に見える。
その顔に見覚えがある。時折治安院で話しかけてくる、馴れ馴れしい先輩冒険者の顔の一部だった。確か娼婦誘拐事件を受ける前、一緒に仕事をしないかと誘われた気がする。その仕事がこれだったのかも知れない。
ただしこの男がハドリーなのかどうかは分からない。
「・・・なるほど、これは回復術では治せませんね」
「ええ、ですから…」
「ただ、聞きたいことがあるので治します」
「・・・はい?」
ペペインは詳細を聞く相手にハドリーかも知れない男を選んだ。
右手から、正確には右袖から魔法を施す。
「あ、あの!ダメですよっ!何してるんですか!?」
「医師を呼んで頂いて結構ですよ。回復術では治せませんが、代謝術なら治せます」
「え、た、代謝術??」
普通の人間ではあるが看護師である以上、女は代謝術を知っていた。それが上級魔法士の中でも更に上の魔法使いしか使えないはずの高度な魔法であることも。
「あ、あの、あなたもしかして、上級魔法士…様ですか!?」
「・・・ええ、そうです」
肯定したものの、ペペインは気まずさを感じた。上級魔法士には違いないが、代謝術を使っているのは自分ではない。
マグダレナと相対した際の教訓を生かし、ペペインは今回は決して油断しないと心に決めていた。もしハドリーとやらが目覚めていなければ無理矢理目指せさ、しっかりと情報を得た上で駆除に向かう。リンジーに頼ることはしない。
ただしイングリッドは頼る。
ハドリー達の容態を察していたペペインは代謝術が必要になるだろうと考え、馬車の中で予めイングリッドに使用を頼んでいた。
晩年から早年へと身体を若返らせられる代謝術なら、施術者の能力に応じて炭化した筋肉でも失った腕でも再生させられる。この場合の代謝術とはイングリッドが使える代謝停滞術ではなく、マグダレナが使う劣化修復術だった。
イングリッドはまだマグダレナの山荘で手を貸した時の約束を果たして貰ってないため渋ったが、近いうちに必ず魔力を完全に回復させ、更に拷問も免除するという条件と引き替えに施術を了承して貰った。
魔力の回復のためにクリトリスに芋虫を這わせられることになるとは夢にも思っていない。
「え、えぇぇ…す、すごいっ!」
施術者がイングリッドであるが故の速さだが、包帯がない部分の顔が見る間に治っていく。外からは見えないが、包帯の下でも同じ事が起こっている。
とうとうハドリーかも知れない男が呻き声をもらし始めた。
「はっ!?せ、先生~っ!!せんせ~~~っ!!」
回復に見とれていた看護婦が我に返り、病室を飛び出し医師を呼びに行った。
「う・・・うぅ・・・・う?」
男が目を開いた。ペペインはそろそろ芝居をすることにし、床に倒れた。
額に濡れた布を宛てられ、それを看護婦が抑えている。病室の長椅子に腰を下ろしているペペインの横には医療魔法士が立っている。
「すいません、1人治すのが限度みたいです」
「い、いえいえ…まさか代謝術をお使いになれる方がいらっしゃっていたとは…驚きました」
ペペインとっては治した男がハドリーであるかどうかなどどうでも良く、これから駆除する相手がどんな魔法生物なのかという情報を聞きたいだけだった。そのため最初から1人が目を覚ましたら魔力を使い切ったふりをしようと決めていた。3人全員を治すつもりなどない。
「す、すまないな、兄ちゃん。いや、命の恩人に兄ちゃんはないか。ペペインだったな?助かったよ」
「それにしてもお若いのに、代謝術とは…是非後でお話を…」
「すいませんが先生、彼に伺いたいことがあるので、少し席を外して頂けませんか?長くは掛かりません」
「そうですか…分かりました、では…」
医療魔法士と看護師は病室から出て行く。
「聞きたい事ってのはあれだな?分かってる。その前にもう一度礼を言わせてくれ、本当に助かったよペペイン。こいつ等のことは気にするな、そりゃあ魔力が回復した後こいつ等も治してくれればありがたいが、ほっといてもこいつ等はそう簡単にくたばりゃしねえよ。
で・・・聞きたい事ってのは、この原因だろ?」
「ええ、どうやら依頼内容に間違いがあったらしいですね。村の人々は只の大型獣だと思っていたようですが、実際は魔法生物だった。治安院ではロスタかドゥマパナではないかと噂されていますが…」
「・・・いや、それがな…」
回復の喜びで大きくなっていた声を男は急にひそめる。
「違うんだよ。大型獣でもロスタでもドゥマパナでもない・・・
若い女なんだよ、俺たちをやったのは」
「・・・えっ!?女?・・・獣ではなく人間と言うことですか?」
「そうなんだよ。俺も未だに信じられないんだよ。というかそもそもの依頼にあった畑を荒らしてる犯人がその女なのかどうかも分からない。とにかく俺たちをやったのはその女なんだよ」
「・・・・・その女にお三方は大火傷を負わされた…という事は」
「ああ、ありゃ魔法使いだよ。火色の髪の」
ペペインは男が覚えている限りの状況を全て聞き出した。あまりに予想外の話だったため、長く掛からないという医師との約束は守れそうにない。
演技で倒れたペペインと違い、回復したばかりの男が疲れを見せ始めため、ペペインは切り上げることにした。
「すまねぇな、役に立ったかい?ちょっと疲れちまったけど、あんたのおかげですぐに復帰できそうだ。この恩は忘れないからな」
ペペインは気にするなとだけ言い、病室から出ようとする
扉の前で足を止め、振り返る。
「すいません、1つ聞き忘れてました。お名前を教えて頂けますか?」
「俺か?俺はグラートだ」