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――しくじった。


俺はトレーニング終わりでパンプアップした背中をどっかりと壁に預けて、ジッ……と周囲を見渡した。熱を帯びた筋肉から汗がじくじくと噴き上がる。これではいい歳をしたオヤジがまるで大慌てでもしちまっているようだ。


周囲は見渡す限り冒険者だらけだった。まだあどけなさの残る剣士。ゆったりとしたローブを羽織った魔道士。鎧に冷却呪文を掛け続けている重戦士。人の往来が収まる様子がまるでない。


しくじった。

俺は先日切り揃えたばかりの短い頭髪を掻きむしった。


待ち合わせは表通りから少し外れたこの道。

領主の像のすぐ近く。

当方は体を鍛えるのが趣味の戦士。

特徴、傍らに携えたバカでかい大槌。


これだけ条件があれば簡単に見つかるものだと思っていたが、既に誤算が四つほどある。


一つ、この街の馬車圏内で見つかった廃鉱山に挑むため、冒険者がこんな脇道ですらひっきりなしに往来していること。

二つ、ここの領主が自分の銅像を、ポーズと表情違いで四つも五つもズラズラと並べ立てるような自己顕示欲の塊だったこと。

三つ、こんな街中で大槌を持ち上げる訳にはいかないので、目印としては地味なこと。

四つ、待ち合わせ相手の使い魔から送られてきた、この紙だ。


俺は胸元に仕込んだ紙を取り出し、そこに記載されたまだ見ぬ男の情報を読み込んだ。

『魔道士です。黒髪です。軽装ローブと旅人衣です。本を装備しています。エルディーラ村出身です』


………。



見つかるか?


太陽が真上に来てから、既に9人ほど同じような特徴の男を見ている。

もっとこう…魔道士ならばアミュレットの色だとか、体に刻んだ生体魔法陣の形だとか、いろいろあっただろうに。なんだ、出身地って。

これだから……人付き合いが苦手で、陰気で、縮こまりがちな魔道士は困っちまう。


あれか。こっちか。それともお前さんか。

俺は仕方がなく相手を探して首を動かした。ごく自然に目線をやっていたつもりだ。顔立ちも、それほど怖いものではない。だが、魔道士っていうものは習性でもあるみたいに、目が合ったたはしから目線をずらしてくる。


――そんなに恐ろしい風体をしているつもりはないぞ。

取り回しのいい肩アーマーに、筋肉の動きを阻害しない半袖のリネンとリシュリン混合の生地。太い脚用に特注したズボン。少量のアミュレットが取り付けられたレザーベルトと、同じ素材のブーツ。

返り血避けの毛皮も新調したばかりだ。

顔立ちは筋肉質で髭も生やしているが、目鼻立ちが怖いとは言われない。


確かに鍛え抜かれた筋肉が目立つような装備ばかりだが、それは戦士であれば珍しいものじゃない。

…こうして筋肉テンションを掛けていると、いざというときの集中力が違うのだ。

つまり、珍しい格好ではない。ゴツい体をした大槌戦士のオヤジ、といった姿だ。なにも魔物や、あらくれ者ではない。


しょうがない。

俺は観念して領主の銅像の前で腕を組んだ。

こうなれば向こう側から見つけてもらう他ない。

ここでじっとしていれば、いずれは魔道士の方から近づいてくるだろう。待ちの姿勢は性に合わないが。

……もう少し目立たせるか。

俺は肩につけていた毛皮を除けて、より二の腕や三角筋が見えるようにした。トレーニングで汗ばんだ肌が正午の日に当たってテカテカと見事に輝く。


さて、ポージングのひとつでもしておいてやるか…などと考えていた時、……こちらを見るローブの視線に気がついた。


半分隠れた顔であってもわかるくらい目を見開いて、俺の顔……そして筋肉をじっと見ている。その顔が一旦手元に広げられた紙に向かう。そしてまた俺の顔を見る。また紙を見る。右に一歩。左に一歩。後ずさり。そしてまた紙へ。



「レイヴン――さん、か?」

「えぇ!? あ、ハイ! すみません!」


いや、なんで謝った。

話しかけて来ねえからコッチから行っただけなんだが……。


眼の前に迫った俺に対して、ローブの男……待ち合わせ相手の魔道士レイヴンは、ビビりちらして上ずった声を上げた。

ビビられた挙げ句、初手謝罪、からの後退り。まるで俺が悪党みたいだ。

魔具好きの魔道士、という特徴から可能性は考えちゃあいたが、どうやら俺の想定以上の魔具オタク……今どき減ってきたコミュニケーション能力に問題アリの奴が来てしまったようだ。


「え、え!? あ……あなたが……ハーガル……さん??」

「ああ、間違いねえぞ、今日はよろしくな」

「え、だって……えぇ……」


魔道士……レイヴンはローブを脱ぐと、しげしげと特徴が記載された紙を見た。そして、改めて俺に視線を向けた。いや、正確には違う。おもいっくそ目が合わん。目が泳ぎまくっている。

「えっと、すごい……ですね……」

想定以上なのは、この魔道士にとっても同じだったようだ。

魔具好きの戦士というだけでもレアなうえ、俺の年齢を感じさせないほど鍛え抜いた(と自負している)太い二の腕、分厚い胸板、広がった肩幅、どっしりとした体幹に戸惑っている。


筋肉が物珍しいというか、目をどこにやったらいいか迷っている、そんな感じだ。

………。

ふぅん……。

まあ、悪い気はしないもんだ。



「……。ま、とにかく問題ねえなら向かうとします、か。どうもここは人が多すぎるからな」

「そ、そうですね」

いつまでもマゴマゴしていてもしょうがない。

俺は大槌を傍らに持ち上げて目的の場所に向かって歩き出した。そうなるとさすがについてくるしかない。


「でも、あの……ホントにほんとに、ハーガル、さん。ですよね?」

「ここで嘘をついてどうする」

「え、あ、ハイ、それはその……あの……ハーガルさん。今日、俺と一緒に……魔具や呪具と宝石とアミュレットを見たいっていう」

「ん、そうだ、問題ないだろ?」


目的地へと向かう最中、レイヴンくんとやらはオドオドとしながら質問を投げてきた。

なかなか現実が受け入れられないのか、それとも単に恐縮しているというか。対人関係で物怖じというものを経験したことがないので、正直よくわからない。


「大槌使ってる男が魔具好きってのは、そんなに疑わしいモンか?」

「いえ、その、自分で作ったりもするので、しょうじき嬉しいです。ただ、珍しいな……と」

「ま、実際そうだわな」

俺は言いながら、自分の手首を彩る石を見た。

彼の言うこともわからんでもない。実際、仲間内でもいまだそういった偏見を持っているやつが多いのは事実だ。補助なんぞ邪道だとか、どんなマジナイが掛けられているわからんとか、大抵そんな理由だ。

しかし、そういった手合いは大抵の場合、適当な安物や出自不明の掘り出し物を装備して痛い目を見た野郎たちだ。


商売相手を選んで、自分の身心に適合するものを選んで装備すりゃあ良いだけ。それだけの話だ。勿論、自慢のガタイに似合うものは市場には少ないが、その労力を惜しんでるようじゃ冒険者として二流止まりだ。


俺は素直に、純粋な探究心で、断じてそれだけの理由で、ギルドの掲示板で募集を募った。そうして釣れた、マッチョに装備を見繕いたい男……それがこのレイヴンくんというわけだ。


「まあ知っているとはいえ素人知識だ。ってことで、ま、色々教えてくれや。詳しいんだろ?」

「一応……その、自信はあります」

「ほぉ、言うじゃねえか!」

「あ! で、でも自信があると言っても、ギルド長レベルでは全然ないですし、勿論商売が開けるとかそういうのではないんですし……魔道士仲間内でわいわい話すくらいでまだまだ自分なんてこれっぽっちも――」

「あーよしよし、わかったわかった」


正確に伝えようというのは伝わるが、その勢いに思わず笑ってしまう。

そんな俺を見て少しばかり照れながらも、魔道士クンも少しは緊張がほぐれた様子だった。そしてその白い指が、俺の褐色肌の腕を指した。


「そのぉ……そこまで太い腕や、がっしりした腰ですと」

「ん?」

「なかなか合うアミュレットや宝石もなかった、かんじです、か?」

「む、おう、まぁな」


おいおいおい。

距離の詰め方が独特すぎるぞ。

ジロジロ見ているとおもったら、案外積極的じゃねえか。

今にも触れそうな位置まで指が移動して、じっと俺の……まだ汗が引いていない腕を見てやがる。


――わ、悪い気はまったくしない。そうだな、男だったら多少大胆なくらいが……いや、まあイイ。


どうだ、触ってみるか。

俺は少し背を屈めて、ぐっと二の腕を力ませてこの陰気な青年に腕を差し出そうとした。今のうちにしっかり見ておいてもらうほうが、店でも円滑だろうって、まあそういう計算だ。


「どうだ――」

「あ、あの……!」

「おう」

「今の時期なら、この腕なら黒狼石なんかいいかもしれませんね……! 近場の廃鉱山でも見つかったから、大きいのがみつかるかもしれませんし! それに、それっ、あのっ、加工銀とか、エペス鉛なんかも似合うかもッ、そ、それに、ペトヴェニアも見つかったって話だから――――」


魔道士クンは俺が差し出すよりはやく指を引っ込めて、代わりとばかりに滝のような勢いで喋りだした。

明らかになにかを隠そうとしている。それがどういうものかは、男として察せられないもんでもない。


「そうかそうか。難しいことはゆっくり、じっくり聞かせてくれや、今日は一日時間あるからよ」

「え!? は――――ハイ」

……耳元でちょっと低めに語ってやると、根暗な魔道士くんは顔を真赤にして何度も頷いた。



図鑑で読んだ生き物との初めてのふれあい。

彼には申し訳ないが、気分としてはそいつが近かった。


おどおどしているが妙に積極的。

賢いことに違いはないが、伝え方に難がある。

どれもこれも、酒場や街中で見かけた特徴そのもので、歳下相手ということもあって微笑ましかった。







「それじゃあコイツはどうだ、ちょっと首周りはキツイが、なかなか似合ってるだろ?」

「あ、格好いいです。ですけど――あんまりそのぉ……相性は良くない……かも、しれません、ハイ。たしかに筋力の向上って効果はあるんですけど……、グリーンクロンを首飾りにつけるのって瞬発力重視――っていうのかな……、どちらかというと細身の盗賊とのほうが向いてて……」

「あーそう言われてみりゃそうか。……なるほど、案外違うもんだなあ」


俺は手に持った首飾りを元の場所に戻して、次の商品を指差し同じように問いかけた。

胡散臭いオーラ、禍々しい魔力、素人目ではそれくらいしかわからんものに対して、魔道士クンは「それはこうで」「こっちはああです」といった具合にスラスラと答えてくれた。


「しっかし、噂以上の露店の数だな」

「そ、そうですね、こんだけ多いとは思いませんでした」

俺たちが向かった場所、それは薄暗く、入り組んでいて、怪しげな露店が十も二十もズラリと並んだ奇っ怪な裏通りだった。


……まあいわゆる、ダンジョンが近くに見つかった街に時折現れる例のアレだ。

流通のツテがない冒険者や、ギルドから破門食らったようなやつが頼りにする、いわゆる闇市というやつだ。


そんな店先に並んでいるのは、当然とばかりにこれまた妖しい宝石、鉱石、金銀あれこれ。


店主がいるものが半分、もう半分は怪しげな髑髏だの宝石だのと一緒に『お客様を信じます』とおどろおどろしい字が書かれている。おそらく呪術が仕掛けられている。他の露天商の目もあり、ここから盗もうなどという馬鹿はそういない。そもそも、どんな性質かもわからんのだ。買う人間からして多くはない。

俺たちが今見ているのも、そんな後者のほうだった。


「いやあ俺も詳しい方だとは思ったが、なかなかどうしてハイレベルなもんだ、ちっともわからんもんばっかだな」

「正規の宝石ギルドを通してないですからね、加工や研磨も甘いから色味だけじゃ誤解するものもありますよこれ。でも、そのぶんお値打ちです」


いやはやなんとも、魔道士クンは本調子である。

一つ聞けば、3も4も返ってくる。見ていてなかなか面白い。


「ほ、ほらこれなんか内部の精霊量が随分多いでしょ?」

「うむ、わからんぞ」

俺はさっぱりと笑いながら豪快に答えた。

「え、そ、そうですかね」

「ああわからん。だからお前が頼りだな」

「………ハイ」


お、ちょっと嬉しそうだ。

うつむきがちだが、結構顔に出るタイプのようだ。


「……うんよし、そうだな、今日はいっそ魔道士クンに全部お任せってことはどうだ?」

「え、全部……!?」

「ああ、俺にはわからんことがよくわかったからな。頼りにしてしまおうって話だ。ま、そのぶん問題ごとや警護は任せておけ、商品選びにじっくり集中してくれたまえ」

俺はそういって改めて自分の腕の太さを見せつけた。

「この腕に見合うもん、じっくり選んでくれよ、頼むぜ」

「………ッ! あ、あの…………はい……。や、やはりっですねッ! ええっと、ハーガルさんの体格、だと……いや難しいな、これ以上パワーを補強させるよりも、もっとバランスをとって紫妖紋章のほうが……でも、こっちのバンドなら……!」


俺の筋肉を少しだけ眺めたレイヴンは、今回もまた大慌てという様子で喋りだした。口だけでなく、目も手もとにかく忙しない。ブツブツと喋りながらベルトやグローブ、リストバンドに額当てと、ズラリ並んだ加工品から、雑多に積もれた宝石屑まで、次から次へと探している。

……それでいながら視線はチラチラ、ジロジロと俺の逞しい部分を見つめてくるのだ。本能と理性がせめぎ合っているのがよく分かる。ただのスケベには出せないこの迷い箸……ならぬ迷い目線。


面白いと言っちゃあ失礼だが、しかし実際たまらんものがある。

ああ、クソォ……もうちょっと押してみるか?


「ハハッ、性能は勿論だが、オヤジのツラにも似合いそうなもんで頼むぞ~」

「………。ええ、あっ、ハイ、頑張ります!」


じっと顔を見て、眉、髭、目元と俺を見つめて……首がひん曲がりそうな勢いで逃げられてしまった。


いやあやっぱりたまらんな、魔道士クン。


………。


いや、待て待て。

これは、楽しんでいる場合なのか?

こりゃあ本当に大丈夫か?

そりゃこれはこれで興奮――もとい、悪くはないが、今のところマトモに俺の顔を見られてもいない。タッチに至っては一度もナシだ。

これじゃあちょっとばかり心配だ。もちろん、しっかりオヤジな俺に見合ったものが選べるかどうか、が、だ。


こんな機会はめったにないんだぞ。もっとこう、積極的になったらどうだ男なら。

………。

仕方がない。ここは俺が一肌脱いでやりますか。どうやら魔道士クンも俺のことを悪からず思っているようだ。奥手な彼の楽しみを、もう少しだけ増やしてやるとしよう。

俺は自分の僧帽筋……首の後ろをボリボリと掻いて、魔道士クンのすぐ横にしゃがみこんだ。



「そういや言い忘れてたんだがよ」

「は、ハイ」

「今日は朝方に汗を流してきたもんで、まあまあパンプアップしてるんだが、そういうのも考慮にいれてもらったほうがいいのかい?」

俺はそう言って、わざとらしく腕をまくった。

がっつりと露出した腕。汗ばんだ肌。筋肉の膨らみ。

そういったものを、グッと彼の鼻先近くにアピールする。


「へ」

「そうだ、ちょっと触ってみるか? いいぞ。いや、むしろ頼む。確かめてもらったほうが助かるんだ、俺としてもな」

「あ……や、そのっ………!!」


さあどうだ。根性出せよ魔道士クン。

俺はグッと力こぶをつくって、それはもうたっぷりとデカくした腕を差し出した。


「どうだあ、デカくねえか? 俺くらいの歳でここまでってのは、なかなかないぞ」

「………」

だが、答えは硬直だった。


いやいや触れって。許可してるんだぜ。さすがにちょっと唐突だったか?もしかしてこれってセクハラってことになるのか。

一周回ってなんだか気まずく、オヤジなりに照れくさくもなってきた。

流石に引っ込めるか。

そう思った次の瞬間、おずおずと手が伸びてくるのがわかった。


おっ、おっ……おっ……!

緊張で冷えた手が、俺の上腕二頭筋を弱々しくペタリ……と触れた。


「うわ……!」

「お、なんだなんだ、ご感想はどうだぁ?」

「ふ、太い……ですね、すごい、パンパンだ」


白い手が俺の褐色の腕を舐める。まだ遠慮がちだがじっくり味わうように撫でる動きだ。


「戦闘中となりゃあもうちょっとデカくなるぜ」

「これより、もっと……!?」


ペタペタと触る手は俺の肌以上に汗ばんでいた。それもあってか、暫く動きはぎこちなかった。だが俺の筋肉を手のひらで味わっているうち、だんだん一皮剥けてくる。


「すごい……、腕って棒状じゃなくって、丸くなってくんすね」

「これが本物の筋肉の形だ。なんだよ、あんまり触ったことねえか?」

「あ、ハイ、その……ハイ」

「そりゃいけねえな、前衛の体がどうなってるのか知るのも、後衛の大事な大事な知識だろ? 本や妄想じゃあ、こればっかりはおぎなえねえだろうしなあ」


俺は調子に乗ってピクピクと胸板を動かしてやった。

視線が今度はそっちに向かう。

チラチラとこちらの顔を見るのがわかった。

俺は「いいぞ」と口にする代わりに、顎をシャクって笑ってみせた。


「ンンッ!」

胸板、というか突起に脇腹を揉むようにガシッと触ってきた。

両手でだ。

遠慮がない、というより……男の弱点ってものをわかっていない触り方だ。

ああ、こりゃ童貞だな、ハハっ、確実にそうだ。


「すごい、骨がないみたいだ……手が筋肉しかさわれない。ええっと……すごい……」

語彙も無くすくらいに緊張しているのか、顔は真っ赤で口も回っていない。

男も女も経験なし、だ。いや、女はそもそも経験することはなさそうだがな。この目線……、この反応、まあ、そういうことだろう。しょうがねえな。


「ン……どうだ……結構デッカイだろっ、おっさんでも鍛えりゃあ……こんくらいにはなるんだぜっ。……どんなっ……装備が似合いそうだ?」

「ええっとこれはその……ぉぉ」


服越しにも俺の胸板の弱い部分をグイグイ触ってくる。

「ハァ……んぬぅ……ッ……♥」

物珍しいのか、経験不足故か、それとも全部わかってて攻めてるのか……。正直……顔が緩んじまいそうなくらいに気持ちいい。

腰の奥、ケツの部分からじくじくじわじわ快感が込み上げてくる。

やべえ、この状況はいろいろやべえ。


「……ハァ……あとは、そうだなベルトを替えてえんだが、こっちはどうだ」

既にもうヤバい状態だったんだが、俺の口が勝手に『次』を要求していた。俺は童貞魔道士くんの腕を取ると、自分の腰に持っていって背中を向けた。


「は、え!?」

「歳もあるからな、ココは特に大事にしてるんだがよ」


そういって、俺は少しばかり、ほんの少しばかりズボンを下に降ろしてみせた。


「これ、ここ測ってみろ……!」

「え、ここって」

「測ってみろよ、ホラ……早くしてくれ……っ、み、見られちまうだろ」


露出した部分を隠させるように、俺はレイヴンの手を腰に這わせた。

勢い余ったのか、それとも故意なのか、両手がガッシリと俺の腰とケツを握りしめた。


「ンンッ……!」


褌に手が届いている。細く紐状にした部分と肌の境目に、指がズルリと潜り込んでいる。

――気のせいじゃない。

触らせたのは俺だが、明らかにどんどん大胆になっている。コイツの意思だ。


「あ、名前は知ってますこのパンツ……」

「あぁ、褌のことか?」

「あ、はい。こういうの履いてるんですね……」

「ンッ、まぁ……なんっつぅか……」


俺に説明させながら、指が大臀筋と褌の隙間で動いている。震えるような手つき。そのうえ弱ぇ力。だが明らかに男の欲望を感じさせるもんだ。このフードの中に……野郎、……しっかりいやらしい雄を隠してるじゃねえか。

体の中からますます強いジンジンが込み上げる。汗と興奮が吹き上がり、声が出そうになってくる。


まずいな、ここ外だぞ。

見ている人間は……今はいないが、壁のすぐ向こう側じゃあ冒険者たちの喧騒が聞こえてくる。


「ふ、普段からそれ、それ……はいて……履いてるんですか?」

「締めてるっていうんだ、コイツの場合はよ……そうだな、ケツに食い込むから、あんまり普段遣いはしねえ……」

「じゃあ、今日は……なんで」

「気合を入れる日、とかは特別に締めるんだよ……」


俺がそう言うと、俺の背後の童貞クンは明らかに興奮を抑えきれない様子で鼻息を荒くした。抱きしめられるみたいに、小さな体が俺のガッシリ太い筋肉に密着してくる。


「ベルト、ベルトをな……見繕ってもらいたくって、よぉ……♥ お、お前みたいな魔道士にっ……だから、しっかり触られたほうがっ……きもち――じゃねえ……あぁ……クソっ、とにかく……しっかり、な」

「ベルト……ベルト、ならっ、あの、用意がありますっ……」


用意?

なんだ、用意って。


「あの……」


振り返ると、彼は縮こまりながらもじっと俺の方を見ていた。

戦士としての経験というか、雄としての直感が、なにかを感じさせた。


「もし、よければ、なんですけど……」

俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。







「ようし、こんなもんかぁ」

俺は物陰からわざとらしく、浴びせるような大声を出した。

なかなかの大声だっていうのに、すぐ横を通りかかる旅人がこちらを『見なかった』。それを確認した俺は、さらにもう一度声を上げる。


「ほうほう……こりゃあ、ちゃんと効いてるみたいだな」

余裕綽々といったつもりだったが、すこしばかり上ずった声が出ていた。興奮が声に乗っている。全身を包む魔力のせいか? いや、そうだ。きっとそうに違いねえ。

「ちょっとばかし、脱ぎすぎじゃねえか。コレ本当に大丈夫なのか?」

「………え、あ、ハイ、その……大丈夫なはず、です!!」


顔は見えなかったが、魔道士クンも間違いなく興奮のご様子だ。

……もし彼が口先だけのイカサマ男だったら、俺と彼の魔力の相性が悪ければ、もしここに少し気を張った衛兵でも歩いてきたら。

戦士として培ってきた危機察知能力が、全身全霊で「あぶねえぞ」と伝えている。

だが、それ以上に雄として生きてきた数十年が「さっさとやっちまえ」と叫んでいる。


「……よ、よし」

少しの闘争の後、勝ったのはやはり雄としての俺だった。

俺は周囲を見回しながら、物陰から横に分厚い姿を表した。

俺の姿を見た魔道士が、目を見開き、声を失い、舐めるように俺を見た。


「ど、どうだ」

俺は腰に手を当ててまるで卸したての装備品でも自慢するように胸を張った。

足には分厚いブーツ、手には使い古したグローブ、いつも身につけている装備は……これだけだ。服と呼べるようなものはなにもない。かろうじて褌だけは残したが、胴体につけたものはこれとあとは……渡されたベルトだけだ。


「これで、本当に……俺は見られなくなってるんだよ、なあ……おい、今更冗談でした、はナシだぜ。おっさんの人生……大変なことになっちまうぞ……!」

「せ、正確には……透明になるわけじゃなくって、意識できない、しっかり注視しないと……気にもかからないみたいな、かんじです……間違いなく、効果は出ています……」

「ほう……そうかそうか……ふぅん」


俺は指先でベルト中央の宝石を弾いた。

黒い光沢のない宝石、道端に転がっていたら焼け落ちた石の塊にしか見えないような粗末な見た目だ。これが今の俺の命綱だっていうんだから、なんだか情けないやら、興奮するやら、頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。


「本来は剣の柄なんかにつけて、切っ先の気配を鈍らせたりするのに使うものです。だけど……そこの露店で買ったそのブレスレットと一緒ならば、加護を全身に延展させることができます……」

「ほうほうつまり?」

「ど、どんなことしても、あんまり目立たないくらいには、出来ています」

「そりゃあ面白え。で、な~んでこんなもんを持ち歩いてやがったんだ~~、魔道士クン~~?」

「え……あっ」


こうして問い詰めると挙動不審なほどに慌てるくせに、こんなスケベアイテムを持ってきてやがったのだ。俺の体を触るのに一時間以上掛かったくせに、その内側ではどんだけ大量の妄想をしていたかわかったもんじゃねえ。

今だって、ジロジロと俺のガタイを上から下まで熱い視線を送っている。


「よし、まあいい。行くとするか。さ、この俺の背中についてきたまえ……!」

俺は焦らすように背中を見せて、やや急ぎ足で歩き出した。魔道士クンの妄想力に少しばかり感化されてしまったようだ。褌の前が危ないくらいに勃起している。

褌の前がキツイ。背中を向けた魔道士クンには、いつも以上に食い込んだ俺のケツが丸見えなことだろう。


「さて、ちゃんと良いものを探してくれよぉ、おっさんばっか見てちゃ駄目だし、その逆も禁止だからな」

「そ、そんな」

情けない声を背中に浴びながら、俺は敢えて振り向かずに前進した。

今頃前かがみになってるのか? それとも案外嗜虐的に笑ってるかも知れねえな。

俺は俺で一人楽しみながら、ズンズンと進んでいく。


彼から視線を外すと、眼の前に広がるのはただただ静かな露店と裏路地だ。

そんな中を、ただ俺だけが裸同然で歩いている。森から出てきたバーバリアンでも、もう少し身なりに気を使っているだろう。そのうえたまに魔道士クンがたまに「あっ」だの「ああっ」だの声を上げるのだからたまったもんじゃねえ。どうやら出物をみつけただけのようなのだが、こちらとしてはその一言一言が気が気でない。まさか俺の異様な姿に気がつかれたのか? 魔力切れが起きたのか? 一回一回、一言一言が俺を惑わし、追い詰め、狂わせてきやがる。


じわじわと筋肉の芯から熱が込み上げ、俺の勃起を固くしてくる。

頭の中がいやらしい色に染まってきちまう。

まだ何も起きてねえのに、じわじわ込み上げてきちまっている。


「――あ、これいいかも」

そうして歩いていると、ついに魔道士クンが目ぼしいものを見つけたようだ。

さてどんなもんを見つけてきたんだ。この童貞スケベくんのことだ、何が飛び出すかわからねえ。

俺は期待――ではなく不安を抱えながら振り返った。


「どれだ、説明頼むぜ……」

「は、ハイ」

興奮状態付与か、強制命令か、まさか呪いが込められてるもんじゃないだろうな。

俺は心臓を高鳴らせながら、彼から手渡された細く長いリングをグローブにくぐらせた。


「ええと、ハーガルさんの大槌、見るからに重そうなので、風の加護は相性良しのはず、です。これ、干渉も強すぎないし、普段武具の取り回しに精霊力を使わない方でも、消耗も最低限だとおもうんです」

「え!? ………おう、そうか……っ」

俺は彼の言葉通り、大真面目に自分の獲物を取り出して握ってみた。


「どう……でしょう?」

「今のところ、特には感じねえな」

「あ、それでいいんです。試しに振ってみてもらえますか?」

「………。おう」

俺は要望通り、いつものように大地を踏みしめて、構えをとってみせた。

握りしめた大槌の重みは変わらないが、振りかぶった際に巻き起こる風が確かに……。



いや、待て待て待て!! お前この期に及んで、本当に大真面目に俺の装備を選んでるのかよ!!


「わ、悪くねえな……。ああ、本当に、ちょうどこういうのもありゃあ、小物退治のときなんかに助かると思ってたんだ、ああ」

「よ、よかった! 最初のうちはどうしても違和感あるでしょうけど、ハーガルさんほどのベテランなら、すぐになれると思います!」


だぁああ焦れってえなあ!

童貞ってのはこんなもんだったか!? 俺のときにはもっとこうガツガツしてたぞ!

まさかこのベルトも、本当に俺の筋肉を鑑賞して、似合う装備を見繕ってやりたいっていう善意の魔具か!? 魔道士クンよ、さすがにそれは……男としてどうかと思うぞ!

かといって、この状況で「もっとスケベな装備をもってこい」なんて言えるわけがねえ。それをやったら本気で本当の変態だ。


「あの、もうちょっと振ってみせてもらっていいです、か?」

「おう、いいぜ……」

俺は少しばかり消沈しながらも、善意の魔道士クンのリクエストに応えてやった。

右から左、上から下。その逆、さらに応用編。

全身の筋肉を使い、格闘技の型でも見せるように次から次へと見せつける。

俺は相変わらず裸同然。ここは街中。だが、こうしていると武芸の披露のようでもあり、なんだか羞恥心も収まってきた。そう感じた頃だった。


「……ン………?」


魔道士クンの視線というか雰囲気というか、纏うものが変わっていた。

なんというか、純粋なものだけじゃない。男にはわかる、なんというかねちっこい目線だ。

筋肉に対する執着というか。

……俺に対する、はっきとした……これは………。


「……俺の筋肉、好きか?」

「え!?」

「ど、どうなんだ、俺のガタイは、嫌いか?」

「き、嫌いじゃないで――」

「なら、も、もっと触って確かめろって、な? 俺もそのほうが助かるから、よぉ」


俺は見逃さなかった。

彼の股間が、俺以上にガッチガチにテントを張っていやがった。


ずっとずっと、俺を見て本当は興奮してやがるのだ。

俺に逞しいポーズをとらせていることを、魔具を身に付けさせていることを、あきらかに楽しんでやがるのだ。

――今の『これ』は、彼なりの助平心と、親切心と、魔道士の誇り、全部が詰まった提案だったようだ。


俺のなかで、収まっていた熱がムクムクと盛り返してくるのがわかった。


「ほれ、触ってみろ、いいぞ」

「あの」

「おう」

「じゃあ……失礼します」

「おう、どんとこい、おおぉ!?」

彼は俺の大槌を避けながら、露出した内ももに触れてきた。

ガチガチに勃起した竿でもなく、胸板でもなく、ケツでもなく。腿だ。

確かに構えの際にはここにぐっと力を込めて大股を開くが、……ここか。ここなのか。


「……すごい硬いですね、ええっと……力強く張っていて……緊張状態っていうのかな」

「そうかっ……そうだろっ……♥」

ブツブツと独り言を呟きながら、俺の腿を案外遠慮なく触ってくる。

そのすぐ横でガチガチに勃起した俺の雄棒があるっていうのに、そこには触れずに何度も何度も近づいては離れ、ギリギリまで来ては遠ざかる。

気持ちよさと歯がゆさでどうにかなりそうだった。

とにかくこの魔道士クン、全てが俺の予想外。うまいものは積極的にガツガツ食い散らかしてきた俺の性格じゃあ絶対やらないことばかりだ。そのもどかしさが……いかにも童貞で根暗で頭でっかちってかんじで……なんかもう、やべえって。


「あの、後ろの方もいい、ですか」

「一々、許可なんか……とらねえで、いいって♥」

俺は全身に力を入れ、筋肉を強調しながらも……口調はトロトロになっちまっていた。


「あの、じゃあ、ここ……お尻、触りますね」

「だから――ああ、も、もう勝手にしろッ♥ あとそこは大殿筋ってんだ、よく覚えッ……ンンンッ♥」


ケツっ、ケツを魔道士クンが触ってやがる。

まじで確かめるような動きで、エロ目的の責めとは違う。そこがまたいい。

なんかまるで、俺一人だけが助平心で興奮しているみたいだ。俺一人が裸で。俺一人が変質者で。俺一人が感じている。


こんなに大勢がいる街のなかで、声を殺して俺だけが喘いでいる。

いや、喘ぎ声を上げさせられている。この童貞クンに、だ。


「弾力がすごい……弾かれちゃうな、手が」

「ぬぅう……ふぅう……♥ そうだろ、そうだろ、これが……オヤジとはいえ、戦士として……鍛え続けたガタイだぜ……っ♥」

「よ、よしわかりました、じゃあ、次……もっと……いいチャームがあるかもしれません……」

「ほぅ……♥ いいぜ、なんでも……もう、なんでもいいぜっ♥」

彼はさんざん俺を高ぶらせておきながら、すっと離れて別の露店へと向かっていった。


俺もそんな彼に引っ張られるように、フラフラと後をついていった。

先走りはダラダラ。褌の中はムレムレだ。俺の竿は先から根本まで完全に敏感で、ドスケベオヤジ全開だ。それなのにまだ一回も触られてもいねえ。完全に異常事態だ。アタマも竿も混乱しちまっている。

まさかこれも彼の、魔道士クンの策略なのか?



「これ……ブーツにつけるチャームなんですけど……」

「ああ……そうか、つける、つけるぜ……♥」

「大地への干渉を強めてくれるので、踏みしめる力や、空からの奇襲の威力なんかが上がると思います」

「なるほど、そりゃあいい……っ♥」


二人並んでいると、俺のほうが偉そうにふんぞり返ってガタイも良い、歳も随分上だ、だが……今の状況はまるで首輪をつけられた犬のようだ。

与えられるものに、尻尾ならぬちんぽを振って喜んで求めちまう。


「あの……このチョーカー……首輪なんか、いいかもしれないです」

「ぬぅ! お、そ、そうか♥」

そんなタイミングで提案してきたもんだから、魔道士クンはなにか俺を操る術でも使ってるんじゃないかと疑いたくなるくらいだ。

あまりにもやられっぱなしは性に合わねえ。

俺は口を開いた。

――今度こそ、エロ系の装備じゃないだろうなぁ。

これくらいの軽口を叩いてやるつもりで俺は振り返った。


「まさか――――ぬぅ……おごぉおッ♥」

「んぶっ、あ、す、すみませっ……!」

振り向くと彼はちょうど、露店からチョーカーだかを買い付けている最中だった。露店、地面に直接並べた商品、つまるところ……彼は屈んでやがったのだ。


「う……おぉぉ♥」

顔面と股間が直に触れ合った、予想外のやわらけえ刺激。アリそうでなかった、今日始めての下半身の刺激。何時間も前戯されていたみたいに超敏感になっていた俺の竿は、情けねえことにあっという間に……。


「あ、やべッ、やべぇッ……♥ ハァあ……あぁぁあッイッイッちまうぅぅう♥♥」

「え、あぁ……あぁぁ!!」


尻餅をついた魔道士クンの前で、俺は情けなく声を上げて射精をした。褌の中に、溜め込んだ種汁がドクドクと溢れちまう。ケツアナを締めたり、竿に力を入れても、筋肉は何の役にもたたねえ。射精がとまらん。気持ちよさが後から後から溢れてきちまう。


「フゥウッ♥ と、とまらねえァ♥ はぁぁあ、はぁぁあ♥」

とろけた目、半開きの口からだらしなく舌がでて、……間違いなく情けねえエロ顔を晒しちまってる。


そんな俺の顔を、ガタイを、ちんぽを、魔道士クンは目を見開いてじっと見つめている。


「ああ、み、見られッ、やべえ、見られちまってるックソぉぉおあぁぁッッ♥♥」


それがまた俺の快感を激しくブーストして、俺は悶えながら腰を振った。

童貞だなんだといじっておきながら、この俺が先に……それもこんな刺激であっけなく。その事実を脳に刻み込みながら、俺は最後の一滴まで気持ちよさを堪能しながら射精した。






「こ、このスケベぇッ♥ まさか、ね、狙ってやがったんじゃねえだろうなあぁ……?」

「ち、違いますっ、ええっと、あの、ごめんなさい、偶然なんですっ」

「ホントか、ホントに偶然だろうなッ♥ ハァ……ハァ……ああぁ……やべえ、出きったと思ったのに、まだ……込み上げてきやがった……」

「え、あ、すご……い、ですね……」

「ン、ンンンッ……そ、そうかっ………」


魔道士クンのすぐ横に腰掛けた俺は、汗だくのうえ雄汁でぐっちょりした腰をボリボリと掻いた。

冷静になると、あんだけ大声を出しちまった自分が恥ずかしくってたまらない。どうやらベルトの魔力はまだ有効なようで、俺のことを見ているのは眼の前の魔道士クンだけだった。


「しかし……本当に、こ、これバレてねえんだよな……あんな射精しちまったところ、見られて、噂でも経ったら、俺の戦士人生……、お、終わっちまうぞ……♥」

「大丈夫です、まだ魔力は十分込められていますし……その、すぐ近くには人もいなかったですから」

「……そうか、匂い、臭いとかも、大丈夫……なんだよな」

「え」


魔道士クンはそこで初めて、しまったという顔をした。

「おいおいおい!」

「あ、で、でも臭いの発生源とかはわからないはずです!」

「ほんとか!? た、頼むぜおい!」

「はい、大丈夫です……! す、すみませんまさか、そのぉお………」

彼は言いづらそうにしていた。なんとなく、何を言いたいかはわかった。

「そのぉ、まさか射精、しちゃうとは、思って、なくって……」

「ぐ、ぬぅ♥♥」


てっきり口には出さないと思ったが、彼は容赦なく追い打ちを掛けてきた。


「す、すごい出てましたね……あの……眼の前で……」

「アレは……い、いきなりお前さんが……♥ そのぉ……っ♥」

気がつけば魔道士クンの振る舞いは、少しだけ……しかし明確に変わっていた。

決して嘲るような感じではないが、間違いなくさっきまでにはなかった積極さと、すこしの意地悪さをはらんでいる。


「ふ、普段は、あんなに……簡単に出たりしねえ、あんなんじゃねえんだぞっ」

「じゃ、じゃあ俺の前だけで、特別です、ね……?」

「こ、この野郎ぅ……」


俺の射精したての竿がヒクヒクまた動くのがわかった。


「すごい、長い時間、でてましたね……」

「お、おう……」

「いま、どうなってるか、確かめてみてもいいですか」

「………」


さすがにはいどうぞ、なんて答える事はできず俺は口どもった。その沈黙を許可と受け取ったのか、魔道士クンが俺に覆いかぶさるようにしてきた。


「あ……おい♥」

「失礼します」

さっき筋肉したように、彼の手がついに俺の褌の前袋を掴む。

「んぐぅぅう♥」

優しい手付き可と思いきや、案外力強く握りしめられちまって俺は仰け反った。

ああ、間違いなく童貞だ。

手が震えてやがる。

しかもこの力の込めよう。俺くらい頑丈じゃなきゃ参っちまうところだぞ……。


「うわ、すごっ……すごい」

「ハァハァ♥ あぁぁ……まて、ここでお前出す気じゃ、ああぁ……あぁぁッ♥」

俺の制止をついに無視するまでになっちまった童貞クンは、俺の褌を横にずらして中からズルリと俺の一本竿を取り出した。

雄汁まみれで、再び勃起したイカ臭いオヤジのチンポが、白昼堂々さらけ出される。


「やべっ……やべえって、なあ、臭いは……するんだろッ♥」

「大丈夫、大丈夫ですっ」

彼はこれまでのような冷静さをまるでなくして、ただそれだけ言って俺の竿を握った。

「は……あぁぁ♥♥」


それだけだ。ただそれだけで、俺の筋肉も抵抗もノックダウンだ。驚くほどあっさり征服されちまう。


「ああーーったく、たまらねえ♥ ……すげえ……すげえ気持ちいいぜ……♥♥」

「そ、その顔、もっと見せてください」


彼は右手で俺のチンポを、左手で俺の頬に触れて、唇を寄せて語ってきた。


「なんだ、こ、こんなオヤジを……こんな面にさせて、た、たのしいのか……」

「すごくカワイイですっ……」

「カワイイって、ば、ばかやろうおまえ……っ♥」


一度射精してから、まるで世界が反転でもしたみたいにぐちゃぐちゃだ。


どんどん童貞魔道士クンは強くなり、反面俺は吸い取られるみたいに力が抜けていく。


「あぁあ…………力はいらねえよ、筋肉全部……っ♥」

「かなり体力を使う、みたいですからね……射精って」

そう言いながら、彼は俺の雄汁まみれの竿を上下に扱いた。

「うぅうぅ♥ ぬぅぅうッッ♥」

「最近は……ココに……つける装備も、色々あって……」

「え、ぁぁ……♥♥」

「たとえば、射精時の噴き上がった力をそのまま回収して、溜め込んでおくリングとか……。逆に、そもそも射精を禁止する装備だとか……」


俺は彼の手コキを味わいながら、ぼんやりした脳で魔道士クンの講釈を聞いていた。気持ちよさにいろんなものがぶっ飛ばされちまう。そこをクチュクチュされちまうと、頭の中を直接触られているみてえに、ぼんやりしてくる。


「さっき、さっき、ですね……」

「あぁ……♥ なんだ、なんだよぉ♥♥」

「さっきあっちの露店で……そんなような装備見つけたんですけど、買いに……いきますか?」

「……ン……ぐぅう♥♥」


やべえことを言われていることだけはわかる。

今この状態の俺に、スケベな装備品なんてつけられたらどうなっちまうか分からねえ。

しかも買いに行くってことは、この状態で歩けってことか。

おいおい魔道士。

こらこら童貞。

俺がどんな状態かわかってるのか。おっさんの射精ってのは、余韻がすげえんだぞ。



「……ハーガルさん、いきましょう?」

「し、仕方ねえなぁ♥♥」



俺の口は、操られるみてぇに彼の提案を受け入れていた。




「こっち、だったかな……多分」

「た、頼むぜ、とっとと見つけてくれねえ、と、さすがに……やべえんだからな……これ、これッほんと、やっべえ♥♥」

「は、はい、善処しますっ」


俺はフラフラの足取りで彼の後をついていっていた。


勃起したチンポは相変わらず褌からはみ出たままだ。右に左に、俺が動く度に派手に揺れて、風に吹かれて、匂いが俺の鼻にまで込み上げてくる。


露店を開いている男ども、買い物中のパーティ、多くはないが確かにいる住民たちが、そんな俺の香りに怪訝そうな顔をする。

ベルトの効果で気にされていないというのは本当のことだが、それでも半分くらいみられているような気分だ。


今にもぶっ倒れそうなほど恥ずかしい。

それがこの魔道士クン相手だと意識するとなおさらだ。

口の中のヨダレをまた飲み込んで、俺はふらつく足を持ち直した。


「あ、ありました」

「おう……っ♥」


彼は露天商と話をしている間も、俺はチンポからヨダレを垂らしながら待っていた。

もう完全に調教中の犬っころみてえなもんだ。

新しい首輪をもらいたくってウズウズしている。この俺が。こんな童貞クンに……♥


「はい……これ……サイズも合うはず、です」

「……お前さん、ずっと目をつけてやがったのか……この野郎ッ♥」

「は、はい、ごめんなさい。でも……似合うと思って……」

「似合う、か。ったく口がうめえなぁ……魔道士ってやつはよぉ……♥」

彼が差し出したのは、紫色の……怪しげな装備品だった。


普段の俺ならば間違いなく手を出さん代物だ。

確実に人体を支配するたぐいの魔力が込められている。素人目にもまるわかりだ。


「で、これは……どんな……効果だ」

「これを装備すると、体のなかの……魔力と反応して、装備部位と……ええっと……」

彼はこれまでと同じように説明するように口を開いて、そして閉じた。

そして俺にずいと一歩近づいて、装備を……チンポの眼の前に持っていった。そして言った。


「とっても、エロくなっちゃいます。ハーガルさんみたいな人でも」

「こ、このぉお♥♥」


完全に固くなった俺の竿に、装備がコツンと触れた。


「う――――おぉぉお♥♥」


拒否権なんてあるわけねえ。

俺はチンポのいいなりだし、このチンポは今や童貞クンのいいなりだ。


装備させられちまう。確実にやべえもの身につけちまう。

だというのに、俺は気持ち良すぎて腰をむしろ前に突き出していた。


「うぅぅ……ほぉぉお♥♥」

チンポを装備が包んでいく。

やべえ気配がビンビンしている。声も抑えきれねえ、匂いもプンプン出まくっている。それなのに、気持ちよくってたまらねえ。


「あぁ、また出るッ、出ちまうッ♥♥」

「はい、いいですよ」

「ぬぐぅぅう♥♥ うぅぅうう♥♥♥ お、おぅぅう♥♥♥」

生意気に、一丁前に、童貞相手に「射精の許可」まで出されておいて……それで俺は気持ちよくて射精しちまった。

魔道士クンの手に、びゅくびゅくと捧げるみたいに雄汁を吐き出した。

今度こそ足腰も持たずに、俺はガクガクと崩れ落ちながら射精した。

気持ち良すぎて気を失いそうになっている俺の耳に、装備がガッチリとハマる音だけが確かに聞こえていた。






――俺の装備状態は、歪の一言だった。


腕やブーツには宝石や魔石がついているってのに、辛うじて残していた褌もなくして腰にはベルトただ一つだけだ。

グローブも脱いじまった。

全裸より少しマシ、いや……全裸より恥ずかしい格好だ。

その上チンポはガチガチに勃起し、とまらない雄汁をダラダラいつまでも垂らしている。


「なぁ……これ、とまんねぇ……♥ とまんねえんだけど……どうすりゃいいんだよぉ……♥♥」

「いま、時間計測して、ハーガルさんの精力の合計を見ているので……そのままでお願いしますね」

「クッソぉッ……勘弁、しろよぉお♥♥」


露天商から離れて、静かな街路樹のすぐ横。

いかにも発情期の若造が絡み合うような場所に、俺ぐらいの年齢の、収入も名声もある冒険者が横たわっている。


「み、見てるばっかじゃなくって、なんとかしてくれって……おい、なぁ……ッ♥ これやべえんだって……ずっと、ずっと垂れてるんのに、イッたかんじがねえから、もどかしいんだってぇ♥」


俺は腰を突き上げて、眼の前の魔道士を誘うように……それこそウケ丸出しで声を出した。



あの日、あの露天商での一件以来俺たちは、ことあるごとに会っては「新しい装備」を確かめ合う関係になった。


どれも驚くほどの適合率。

依頼の達成率も上がり、筋肉の成長も今まで以上に抜群だ。

酒場で会う他の戦士には、いったいどうしちまったんだと妬みと尊敬の混じった顔をされることも増えた。


……まさか言えるわけがねえ。


俺の体を隅々までよく理解した専属魔道士が、俺をスケベにする代わりにどんどん見繕っているのだなんて。


「もうちょっとだけ、もうちょっとだけ測ったら、終わりですから……ね」


眼の前の魔道士は……服こそガッチリと装備しているが、その正面には一本露出した雄竿がある。俺に負けず劣らず、なかなか立派なもんだ。予想通り、まるで使ってもいねえ色をしているが、若いだけあってガッチガチだ。


こんなになってやがるのに、まだ計測だの、装備だのと考えている真面目さが、むしろ今では心地よかった。


「ハーガルさん、どんどん強くなっているし、逞しくなっちゃっているから、毎回しっかり測り直さないとだめなんです、ほら、頑張ってください、もっともっと良くなりますから、これが終わったら」

「グ、クゥゥウ、ほんっとに、口がうめえ野郎だなあ♥♥」


俺は今日も腰をせつなくさせながら、この童貞で奥手で堅物な魔道士に全部を預ける。

そのうち本気でヤベえことになるかもしれない。

そんな予感を感じながら、俺は腰をふるだけで射精した。





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Comments

shun

エロかったです! 魅了付きの服従の首輪とか、強制興奮+射精制御のコックリングとか、エロファンタジーアイテムのアイディアの妄想が膨らみました🤤

dukekatu

ありがとうございます! 呪いも祝福も薄皮一枚の差…みたいな設定で色々装備を試したり頑張ったりするオハナシ色々書きたいです!w

猫丸

続き希望!