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◆3 警察官 あの朝から数ヶ月。 唐突に始まった異常は、洋蔵の知る限り世界各地で起きていた。 一定以上に逞しい雄を「除いて」世界の全ては変わった。古い常識に取り残された男達は、皆「マッスル人間」などと呼ばれるふざけた姿に変えられ、各々にあてがわれた変態的衣装だけを着ることを許されている。 洋蔵の場合は筋肉に食い込む細いマンキニがそれだ。柱田は褌とねじり鉢巻き姿で年中過ごすドシフン人間。草尾に至っては衣服ですらない、軍手のみだ。 最初は皆、この異常性を必死になって訴えた。 だがそういった不適合者は、すぐさま「通報」され一切の疑問や羞恥を忘れたマッスル人間へと変えられた。一週間もするうちに、誰も異常だなどと口にしなくなった。できなくなった。 己の精神や誇りを守る為に、皮肉なことであるが、変態的な行動を取るしかなくなった。それが今の洋蔵のような男である。 だが、そんな男も今では殆ど残っていない。羞恥に堪え切れず逃げようとした者、あまりの仕打ちに激昂した者、快感に堪え切れず自ら望んでしまった者、男達は一人、また一人と、脳髄の芯の芯までマッスル人間へと変わっていった。 草尾もそうだ。 最初に会った時は、まだ心からのマッスル人間などではなかった。だが、自衛官の新しい任務だなどと言われ、日々街をパトロールさせられるうちに……どんどんおかしくなってしまった。 腰振りを褒められ、勃起を褒められ、老若男女から賞賛の言葉を投げかけられ続けるうち、彼はいつしか本物の変態へと変わり果ててしまった。 今では身も心も立派なグンチンマッスル人間だ。自ら望んでパトロールに出ては、何発も何発もグンチン射精を披露し、町に明るい笑いを振りまいている。 「マッスル! マッスルマッスル!」 草尾の肉棒からは今日も強烈な臭いがした。チンポの軍手には精液がどっぷりと染み込んでいる。カチカチに固くなった場所からは、腐り果てたチーズのような臭いがプンプンとしていた。そこに新たに、先ほど出したばかりの精液をどろどろと染み込ませている。明日はもっと酷い有様になっているだろう。 しかしそんな姿を皆は讃えている。 街の人々は、洋蔵よりも遥か淫乱で変態な草尾に夢中だ。拍手喝采、大盛りあがりだ。 ――しかし、そんな光景は唐突に終わってしまった。 「ん……んぉ!?」 草尾叫びが聞こえて、洋蔵は振り返った。 そこにいた草尾の表情は、数カ月ぶりに見る羞恥だった。ガニ股で力こぶを見せつけていたポーズをやめて、褐色の逞しい体を隠すように縮こまっている。 ボサボサの眉をした顔が真っ赤になって、目には涙さえ浮かべていた。 まさか、正常な思考が戻ったのだろうか。 洋蔵は混乱の中、僅かな希望を胸に草尾に近づいた。 「か、かえしてくれええ、ワシのグンチン、もってかんでくれええン」 だが、そこで気がついた。草尾の肉棒が、丸出しとなっていたのだ。先端にひっかかっていた軍手がない。去っていくのは背の小さなワルガキだ。手には異臭を放つ軍手がパタパタとはためいている。グンチンポーズに夢中になるあまり、現役自衛官は子供の悪戯にまんまと餌食になったのだ。 かつての草尾であったなら、およそ想像も出来ない失態だ。洋蔵は失望の目で先輩を見た。だが、周囲の反応はそんな程度のものではなかった。 「うわああ、変態!!」 誰かの叫びが、引き攣るようにこだました。 「な、なんだあのおっさん!」「うわあ、くっせぇ!!」「こ、こんな往来で、まったく嘆かわしい!」「おっさん確か自衛官だろ!そんな格好、恥ずかしいと思わないのか!」 罵る言葉が合唱となって草尾を突き刺していく。笑顔の人間は一人としていない。さっきまであんなに讃えていた男を、今度は軽蔑の眼差しで睨みつけている。 「あぁ……あぁぁ……」 草尾は火が消えたように静まり返り、一言も言い返さずにただ内股になって股間を隠していた。恥ずかしくってたまらない。そんな顔で涙ぐんでいる。なんともみっともない。体育会出身の現役自衛官とはとても思えない姿だ。 「……ち、違うんじゃぁあ、わしはぁ、ああぁあぁぁ」 草尾はチンポの軍手を失った。今の姿は素っ裸に両手の軍手の着衣のみだ。確かにこれも変態だが、しかし先までの姿と何が違うかと言えば、何も違わない。だが、立場は急転直下、英雄からド変態に早変わりだ。 異常である。だが、マッスル人間に定められたルール上では、これこそが正常なのである。 「こっちです、おまわりさん!」 罵り言葉の合唱の中でも、その特徴的な言葉はよく響いた。 自転車の甲高いブレーキ音がすると、人の波がさっと割れた。制帽をきりりと締めた男の影が、逆光を背負って現れた。 「こらぁあ、そこの変質者ぁあ!」 現れた市民の味方、町のお巡りさんは、しかしてまたも裸であった。そう広くない商店街の中に、三人目の素っ裸の変態親父が踏み込んできた。 鍛え上げた毛深いガチムチの肉体には、ベルトと制帽だけを身に着けていた。繋がった眉毛、ボサボサの短髪、顔をうめつくす無精髭。先日街のお巡りさんに移動となった、角山その人であった。 「ケイボウマッスル人間角山ただいま参上!! さあ本官が来たからには、変質者の好きにはさせんぞお!!」 角山は颯爽と名乗ると同時にガニ股になり、ベルトの下の肉棒をビンと真横にそそり勃たせた。使い込まれた既婚者の雄棒は黒々として、グロテスクな迫力があった。それでいて全身に雄らしい毛が生い茂っているというのに、肉棒の周りだけがつるつるに剃り上げられている。 あれで警棒に見立てているのだ。血管の浮き出た竿、パンパンに張った亀頭、ブラブラと揺れる玉、紛れも無く男の象徴だのに、そこには毛が一本も生えていない。変態的だが、謎の迫力に満ちていた。 「んぉっほぉお!」 角山はそれを鷲掴みにすると、うずくまる草尾にスキップで近づいた。汁をあちこちに飛ばしながら、変態警官は変質者へと組み掛かる。 「ちち、ちがうんじゃあ、ワシはぁあ!」 「ムッ、なにっ逃げるか変質者めえ! とまれ、とまらんかあ!!」 そうして人の囲いの中、裸以上に破廉恥な格好をしたごつい親父が二人、マンキニ姿の洋蔵を中心にして鬼ごっこを始めるではないか。 国のために働く男同士が、やっていることは子供でもやらないようなおマヌケで不毛な追いかけっこだ。 洋蔵はめまいがした。立っているのさえ難しかった。精液まみれの肉棒が二本体の周りをぐるぐると走るものだから、むせ返りそうな臭いで頭が霞んでいた。 「そ、それ以上逃げると発砲するぞぉおぉお!」 埒のあかない鬼ごっこに痺れを切らしたか、角山は片腕を上げてそう叫んだ。右手を竿から玉に移し、ごつい手でギュッとそれを掴んだ。 「ヌゥウン!」 左手を腰にやると、角山は雄臭い唸りを上げた。喉仏をぐいと迫り出し、無精髭の生い茂る顎を草尾へ向ける。 「ホヒッホヒッ! ホッヒィッ!」 笑い声と雄声が交じり合った奇っ怪な声を上げながら、角山は玉を思い切り下に引っ張っぱり始めた。尿道から溢れた汁が、ツバのようにどろり溢れた。 発砲。 変態警官は今、『銃』を握っているつもりなのだ。 玉をグリップに見立て、竿を銃身と思い、精子の弾丸を吐き出そうとしているのだ。 「発射ぁぁあ、あひ、あひ、はひぃいん❤」 角山は気持ちよさそうに顔面を空に向け、へなへなの声を上げて射精した。 白い精液がまさに弾丸の如きスピードで変質者草尾にぶち当たった。 ……だからどうということはない。精液は精液。ただそれだけだ。 草尾はヘコヘコガニ股姿のまま、必死に逃げるばかりである。 「こ、これでも観念せんかぁあ、なんちゅう厚顔無恥な変態じゃぁあ」 角山は両腕を上げ、漫画のキャラクターのように怒ってみせた。かと思うと、突如腕を振っての全力疾走に翻った。射精したての赤黒い肉棒がべちんべちん太ももにぶち当たりながら、角山はみるみるうちに草尾に追いついた。 草尾は両腕でチンポを隠している。角山が正しいフォームで走れば、決着は一瞬で付いた。 「あ、ああぁぁ!」 草尾はすぐに角山に羽交い締めにされた。レスラー顔負けのごつい親父が二人、全身を密着させてもがいている。 「こん変態が! いいとしこいて! 恥ずかしいとは思わんか!」 「だ、だから、わしは、ワシは本当はッ、ああ誤解なんじゃあ、あああ、やめてくれえ、チンポが皆に丸見えになっちまうぅうう!!」 「煩い! 犯罪者はみぃんなそういうんじゃ!」 二人はチンポとケツを擦りつけ合いながら、腰をガクガク下品に揺らしている。だが表情は真剣そのものだ。 彼等を見つめる人々の顔にはいつしか笑顔が戻っていた。さすがお巡りさんだ、これで平和になる、などと喜びの声が聞こえていた。 「お、おっちゃん」 そんな二人の間に、割って入るように子供の声がした。 「何じゃ坊主、この変質者に近づくんじゃなかッ!」 「ご、ごめんなさい、お巡りさん、おれ、これ……」 少年は申し訳無さそうに言いながら、手に持っていた軍手を草尾の勃起した肉のカサにぽさりと被せた。 「か、返すよ、おれ、ちょっとイタズラしただけだったんだ、ごめんなさい……」 「ん、おぉ、おぉおお! グンチン、わし、わしのグンチン戻ってきぞぉおお!」 草尾は声を張り上げながら、ガッツポーズで仰け反った。羽交い締めをしていた角山の手を離れ、自由となった変態男は、堂々たる勃起を人々へ見せつけた。 「おぅう、まったくこのワルガキがぁあ、……まあ、正直に言うたんなら許しちゃる、ほれ、わしのグンチンと仲直りの握手じゃあ」 「う、うん、握手!」 「あひ、んっぉお、な、な、なかなおりじゃぁああ、はぁぁ、はあぁァン、もっと、もっと仲良しに、おっぉお、もっともっと握手してくれぇえン❤❤」 草尾はすっかりグンチンマッスル人間として復活し、幼い少年の両手にチンポを擦りつけて無様に喘いだ。誇りを取り戻した。そんなような表情で、白い歯を見せて笑っている。 「なんじゃあ、変質者かと思えば、グンチンマッスル人間の草尾さんだったんか!!」 そんな二人の姿を見て、角山は心底驚いた表情で言った。 「なんや、すまんのう、全く気づかんかったわい」 「いやいや、わしとしたことが、ついこんガキにいたずらされてもうた、ナッハッハ! んひっ❤」 「もう少しで皆の人気者の マッスル人間をブタ箱送りにするとこじゃったわい! ガッハッハ!」 「もう済んだことだあ、気にしなさんなって、ヌハハハハ!!」 旧知の仲である二人は、一瞬で争いの構えを解くと、肩を組んでガニ股で馬鹿笑いをした。 「マッスルマッスル❤ グンチンマッスル❤❤」 「マッスルマッスル❤ ケイボウマッスル❤❤」 そうして二人は極自然な流れで、マッスル人間の「務め」を始めた。 肩を組んでいた肉体は正面から向かい合うと、ゴツイ鼻と鼻を突き合わせながら筋肉中年揃ってのガニ股コマネチだ。 どちらがより腰を落とせるかを競い合っているかのようだ。ケツの圧で会陰部を押しつぶし、快感を内側と外側から味わって二人はスケベに喘いだ。 「うっほほぉおン! グンチィングンチィン❤ やっぱりわしは、グンチン姿が一番じゃぁああ、グンチンマッスル人間、ここに復活、復活じゃあ❤」 「し、し、市民の皆様ァ、たいへんお騒がせしまあしたぁあん❤ マッスル、マッスル❤ おわびに本官達のとっておきの変態踊りをご覧くださぁあいい❤ ケイボウマッスルゥゥ❤」 草尾のチンポ軍手が角山のつるつるチンポをはたくと、さも気持ち良さ気に二人揃って仰け反った。変態行為が生む快感は強烈だ。勃起した竿を高速で扱くより、女陰に向かって腰を振るより、遥かに強く、破壊的な気持ちよさが脳と肉棒を強制的に書き換えていく。 それが今の世界。それが我々マッスル人間の宿命だ。 「おっほぉぉお、出る出る、本官出ちまいそうでありまぁああっす❤ 本官のケイボウマッスルエキスの大発射ァア❤ 皆様どうぞご覧くださあぁい❤」 角山が片手で敬礼をすると、たちまち肉棒から白い雄汁が飛び出した。標的はすぐ前でコマネチを繰り返す自衛官の全身だ。盛り上がった胸に、板チョコのように割れた腹筋に、軍手を突き破らんばかりの肉棒に、どろどろの臭汁が飛び散った。 「はひぃいん❤ なんてくさい雄汁じゃああ❤ さすがの街のお巡りさんだぁぁああうひぃい❤❤」 それを浴びた草尾が感極まったような雄叫びを上げて仰け反った。肉棒にかぶさっていた軍手を取ると、お返しとばかりに角山の角刈り頭にこってり濃厚な雄汁が飛ばすのが見えた。 「ほひほひほひ❤ ほひひひひひひ❤」 二人は今度はケツ同士を擦りつけあって、自分の肉体をムキムキと誇示しながら回転した。雄汁まみれの草尾、精液をだらだら垂らす角山。気の狂った男が二人、ドタドタと下品極まる絡み合いでオブジェと化していく。 人々は口々に、綺麗だ綺麗だと喜んでいた。 変態行為に酔いしれていないマンキニマッスル人間など、誰も目もくれていなかった。 続

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リクエストうけていただきありがとうございますこれからも頑張ってください更新楽しみにしてます