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「なんもかんも終わったときは、そん時ァコイツで四人パァっと盛り上がろうと思ってな」

「おぉ酒盛りか、あん時以来やな」

「ハハハッ、そんなめでたい宴会となれば、俺もさすがに一杯付き合わせてもらいましょう。息子にはまた文句を言われて……しまうな、きっとな……」


この戦いが終わったらなにをする。

誰からともなくそんな話題が持ち上がったのは、互いの覚悟を確かめ合うためだった。


今や我らは孤立無援。

ここにいる仲間たちだけが、最後の希望なのだ。

薄暗い地下室、むせ返るような男の汗を鼻に感じながら、三人の屈強な自衛官はいつ開けられるかもわからない日本酒を見つめていた。ただでさえ天井の低い部屋だが、上背と横幅、そして見惚れるような筋肉を蓄えた男がぞろり集まれば、それはもう天然のサウナのようなものだ。


「必ず達成しよう」

「あったりまえや」

「おう、わしらのヤマト魂を見せつてやるわ」


むくつけき男たちは、妻や部下、旧友、息子にさえも明かせない胸の内を静かに吐露し、固く拳をぶつけ合った。


勇ましく、頼もしい友情だ。

その体に身に着けているものが、紐のように細い水着一枚……マンキニ姿でさえなければ、だが。




彼らは至って正気だった。

このマンキニ姿を変態的と感じ、日中から男同士でまぐわうことを卑猥と思い、偉大なる王を称えるマンキニポーズも好まない。

今の世界において、これ以上ないほど異常だと言われる価値観。世界が一変したあの日からずっと、元の世界を取り戻そうと活動する四人の屈強な警察官、自衛官の集まりだった。



「こんな格好で毎朝息子と社員たちに行ってきますという生活……、なんでもないという演技。それもじき終わる、終わらせられる。待っていろ工兵、父さんはきっと耐えてみせるからな……!」


いかにも大黒柱といった風体のどっしりとした体格の男、真面目な二児の父、海上自衛官の淀屋ヤマトは太い眉に深いシワを作って、青い迷彩マンキニを力強く左右に引っ張った。

これが、こんなフザケた変態芸人の衣装のようなものが、陸海空すべての自衛官の制服となっていた。マンキニ。尻と股間に食い込む変態そのものな衣装。

これを四六時中、寝ても覚めても身に着けているのだ。工場仕事で一般的な肌色だったはずのヤマトの体は、すっかり浅黒い海の男といったそれだけならまだしも、マンキニ状に日焼け跡が残ってしまった。くっきりと、白いVの字がマンキニを脱ぎ捨てても残っている。

「……こんなものが海上自衛官の勲章だとして、家族からも友人からも息子からも褒められるのだから、たまったものではない!」



「なぁにがマンキニ様、魔王様じゃ」

糸のように細い目、毛深い体、その名の通り山から這い出てきたような大男里村コウゾウは緑の迷彩柄のマンキニを引きちぎるように脱ぎ捨て、やはり憎々しげに叩きつけた。

あとに残るのは、手に残った白い軍手と、ガッチリとした造りの防暑靴だ。自衛官はマンキニ一丁以外の選択はない。だが、武装やこういった末端の着衣はその限りではない。だが、どんな格好をしたとしても変態性が際立ってしまう。

「ふぅ……清々したわ、こんな格好で往来を行進なんぞ、本来のわしらの仕事とはまるで関係ないことじゃ」

マンキニを脱いだ里村は頭をボリボリと掻いて、日中の行進を思い出して顔をあらかめた。


本来の自衛官としての制服などもう何ヶ月も着ていない。マンキニだけを身に着け、来る日も来る日も筋肉を酷使する肉体労働、そして行進。

本来里村は防衛省技術研究本部所属の優秀な男としてキャリアを重ねてきた。ここ数年では、部下たちを指導する、頭脳労働も増えてきた。

しかし世界が一変した直後から、「逞しい男は汗を掻いて労働するべきなのだ、マンキニッ」などというお上の一言で本来の資質も資格もすべて失った。里村にとって、屈辱でしかない毎日だ。

「このままじゃあ、この国は、いや、この世界はおかしゅうなってしまう、わしらが取り戻すんじゃ!」



「アホなことつきあってられんわ、どいつもこいつもニタニタ笑って、男やないわあんなもん!」

白を基調とした迷彩柄のマンキニを握りしめ、角刈り頭の額に青筋を浮かべて怒るが関西弁の男、寺水ゴウは汚らしいものを払うように自らの体を払った。

「わしはそもそも、自衛官なんぞ……ぐぅ……!」

さすがに二人の前ということもあって、大工の棟ゴウにまで上り詰めたゴウは口をつぐんだ。

他の二人以上に、寺水の立場はもっと酷い。

もともと陸上自衛官だった里村、かつて海上自衛官だったヤマトと違い、寺水という男はそもそもまったく航空自衛官とは無関係だった。

ただ「屈強な肉体で、マンキニに映える」ただそれだけの理由で大工からマンキニ自衛官に『昇進』『栄転』した。されてしまった。


昨日まで苦楽をともにした喧嘩っ早い仲間たちは、一人として引き止めはしなかった。

皆マンキニ一丁で迷彩柄のマンキニを手渡されるゴウを見つめて、羨ましそうにヨダレを垂らして「マンキニマンキニ」と叫ぶばかりだった。


「戻ったらあの阿呆共、一発づつ根性注入しなおしや、まったくッ!」




そしてもうひとり。

警察官角山キュウゾウ。


今はまだ姿を見せていない彼も、マンキニ姿には日々憤っていた。

正気なのは、この町で……もしかしたらこの国で、もう四人しかいない。



「で、『あの酒』の成分の分析の結果は?」

「おう、順調じゃあ。どこもかしこも頼りにならんが、そのぶん設備も手薄での。なんとかかき集めた機材と時間で、ようやく目処がついたところじゃ。あと一週間ってところじゃな」

「ようし、わしらのこのしょぼくれた生活もいよいよ最後っちゅうことやな!」


あの日、男たちは四人で宴会をしていた。

その時飲んでいたのが、『あの酒』ことヤマトの父の代から受け継いできた御神酒のようなものだった。

大切に保管されていたその酒を、寺水が酔った勢いで開け、里村が先輩風を吹かせて皆に許可を出し、角山が豪快に一杯目をぐびりと飲み干した。


そうしてしたたかに酔った四人は大事の字になって眠り、目が覚めたら……世界は一変していた。

そして四人だけが取り残された。


突如現れた侵略者。

宇宙人なのか、異常な科学者なのか、どんな手段で皆をおかしく洗脳したのかもわからない。

なぜマンキニという服装に異常な執着をしているのか。

どうしてそれを身に着けたら、服従してしまうのか。

なにもかもがわからない。

ただ一つわかるのは、この酒に酔っていたおかげで、四人の脳は侵されず、今もマトモな男でいるということだ。



「しかしそれもここまでや、コイツで一発逆転、わしも鳶職に戻れるちゅうことや」

「はは、自衛隊は肌に合わんか」


残り少なく酒瓶に残っていたものをかき集めて、成分を分析した。

あと少し。これの量産に成功すれば、散布し、他の皆もマトモに戻すことができる。

あと一歩。

身を隠し、他の皆とおなじ振りをして、ずっとずっと仕込んできた作戦が、ようやく実行できる。


まずは警察から。

特に街中にいる警察官を仲間に出来れば、いっきに行動しやすくなる。

本来ここに居るはずの角山が、適切な機会を今日皆に共有する手筈になっていた。



「皆もとに戻るんや、しかし、あの男は……いったいなにをしとるんじゃ」


警察官、角山キュウゾウ。


彼もまた、マンキニポリスとして新しい仕事、職場、そして制服……マンキニを国から支給された。

その男が、今日に限っていない。


「なんぞ付き合いでもあったんかもしれんな」

「まあ、無理にこちらを優先して、勘ぐられるよりはいいのだがな……、うむ……」


無断欠席、四人集まらないことはこれまでも幾度かあった。

マンキニ行進への誘いだとか、マンキニ講義、マンキニ連れオナ、そういった「断る人間など一人もいない」誘いを受けてしまったものが、急遽来れなくなることが幾度かあった。


なんということはない。次の機会に伸ばせばいいだけだ。


「必ず俺たちが皆を救おう」

「おう、陸自の連中の目を覚ましてやるわ」

「マンキニなんぞ金輪際禁止や禁止」


敢えてそんな言葉を口にしたのは、その時にはすでに何事か不安を感じ取っていたのかもしれない。





◆海上自衛官編 淀屋ヤマト



「泳ぎの練習?」


「そう、海上自衛官として、いつでも誰かを助けられるように、泳ぎは得意じゃないとね」


「そ、それは、まあ……そのとおりでありますな! はっーーハハハッ」


起きてそうそう、朝食も食べる前からヤマトに新しい不可解な命令が下された。


泳ぎ。そんなもの、今更言われるまでもない。

口に出したいキモチをグッと腹に飲み込んで、ヤマトは年若い少年のような上官殿の言葉に賛同した。


上官。本来ならば、ここは親子が揃って朝食を食べる時間だった。口数の少ない息子との、数少ない交流の時間。それが今や、息子は軽々しく口を利くこともできない上官殿になってしまった。


「……ご、ご命令ありがとうございます! マンキニッ! より一層の精進を致しますッ、マンキニッ!」


ヤマトは礼を尽くして息子に応えた。相手が上官という以上に、マンキニを身に着けた肉体労働自衛官に頭脳的な働きは期待されていない。上が黒といえばブリーフだって黒である。


「それじゃあ今日から参加してね、……父さんも楽しんできてねえ」

「は、はぁ、ありがとうございます……マンキニッ!」

既に息子は食器に目を向けているが、ヤマトは律儀にガニ股になり感謝と敬服のマンキニコマネチで返した。


(必ず、必ずお前をもとに戻してやるからな……! 父さんが必ず……!)


その目に熱い決意が宿っていることは、誰にも見られることはなかった。



それが今朝のことだ。

その日本来予定されていた仕事はすべてキャンセルになり、ヤマトは指定された浜辺に向かった。


そこは本来であれば、公園が併設されてはいるもののシーズン以外は換算とした不人気な浜辺だった。

そんな場所に、ずらりと屈強な男だけが集まっている。

もちろん全員マンキニ一丁だ。


「いやあ昨日の夜から楽しみで、俺ぁもう一晩中ギンギンだったぜ」

「ハァハァ、ようし私はもっともっと立派なマンキニ自衛官になるぞお!」

「また一段といい色になったなぁ、板チョコみたいな腹筋がたまらんぞぉ」


尻と股間にギチギチとマンキニを食い込ませ、相手の筋肉やマンキニを称え合い、うっとりとした目を自分にも相手にも向ける変態集団。

これが、いまの海上自衛隊である。


これもあと一週間。


ヤマトはそう自分に言い聞かせながら、変態たちの集団に加わった。


「はい、それじゃあ全員準備をしてください! 今日から参加の人たちは、周りの人をよく見てまねしてください~」


息子と同い年ほどの上官殿が、拡声器片手に声を上げた。

泳ぎの練習と聞いてはいたが、全員海に背を向けている。いったいどういうことだろうか。ヤマトが訝しんでいると他の自衛官質が上官の方を向いて一斉に股を大きく開いた。


「「「マンキニッ!」」」

「マ、マンキニッ!」


気の緩みからか、返答のコマネチポーズが一瞬遅れてしまった。普段ならば即刻体調不良を疑われる行いだが、幸い今回の訓練の初参加だからしょうがないということでか見逃されたようだ。


「準備かいし!」


その声に合わせて、男たちは一斉に浜辺の砂にうつ伏せになった。

ヤマトもそれに合わせて体をべったりと熱せられた砂につけた。マンキニと筋肉の隙間に砂が紛れ込み、なんともいえない感触がした。顔を砂に埋めまいと首を上げると、目の前に鍛えられた尻とそれに食い込むマンキニがズラリと並んでいる不快な景色が広がっていた。


(泳ぎの訓練といったが……いったいなにを……)


ヤマトは困惑しながらも決して目立とうとせずに息を殺した。

声に出して望まなくとも、答えはすぐに与えられた。


「はい、始め!」


「「「マンキニぃッ!!」」」


浜辺に寝そべった何十人もの屈強な自衛官たちが、一斉に平泳ぎの動作を開始したのだ。


「おぉぉ――♥」

「むほふぉぉお♥」

「お、すご、マンキニが、くいこむ、おほぉおお♥」


ずり、ずり、ずり……!!

砂の上を、太い腕と逞しい脚がカサカサと動き回る。

それは異様な光景だった。

マヌケな蛙のような動作を賢明に繰り返すいい年の男たち。こんなものが泳ぎの特訓であるものか。


(くっ、だ、だがバレるわけにはいかない、俺もこの動きを――ぐぅ……)


海を愛する男として屈辱だったが、ヤマトはその気持を押し殺して彼らと同じ動作をした。


「――ムッ…………ムゥ………♥」


ググ……とがに股になり、腕を縮め力を溜める。そうして圧縮した力を、ピィンと脚と腕を伸ばして開放する。

ガニ股、伸ばす。ガニ股、伸ばす。

必然浮き沈みする腰が、マンキニごと砂浜と擦れ、えぐり……得も言われぬ感触をヤマトのチンポに送りつける。


(こ、これは……ンッふぅぅう……♥♥)


マンキニの中で、愚息が勝手に反応するのがわかった。

腰が思わず揺れて、汗が吹き出る。いけない。こんな妙な声を出す訳にはいかない。


そう思ってヤマトは周囲に目をやった。


「はぁぁはぁはぁぁ♥」

「きもちええ、はぁあんきもちええマンキニぃ♥」

「おおぉぉお俺は海の男だあぁぁ♥ すいっすいっすいっとぉお♥」


どこもかしこも、皆腰を浮かせて揺らして、気持ちよさそうにデカケツを突き出していた。

ちらりと見えるもっこりは、どれもこれもビンビンだ。


(そ、そういうことか、ま、まったく、何が泳ぎの訓練だッ。仕方がない、これも、任務のため……い、今は彼らのように振る舞おう……)


つまり、気持ちよくなる集団センズリのようなものなのだ、これは。

納得がいったヤマトは、自分のプライドの許す範囲でペニスを気持ちよくさせた。


これも平和のため。皆のため。

恥を忍んで戦うのが、真の男というものだ。自衛官というものだ。


(ハァハァ……皆待っていろ……父さんが、俺が、必ず助けるからな……!)


決意を胸に宿せば、自然に力が湧いてくる。父親にして自衛官であるヤマトにとって、それはごく自然なことだった。

己こそがみんなのヒーローなのだと言い聞かせるのは少しばかり気恥ずかしいが、それ以上に心が熱くなる。筋肉にエネルギーが漲ってくる。


ヤマトの平泳ぎは徐々に精彩さを増し、砂浜をバッサバッサと掻き上げた。


「ハァ……ハァッ、ハァッ……♥」


気持ちがいい。だからなんだというのだ。こんなものは生理現象だ。マンキニが食い込むからなんだ。チンポが勃起するからどうした。俺は男だ。それだけだ。こんなものはただの衣装だ。俺の心はこんなものに支配されたりしない。


「い、今助けるぞぉ♥ ……まっていろぉ、今、俺が助けるぞぉお♥♥」


海難救助をするときのように声を上げて、ヤマトは砂浜の上で延々と平泳ぎをした。

勇ましい姿に、我ながら満足する。

チンポはガチガチに勃起し、砂浜に先走り汁をダラダラと垂らした。チンポ型にくり抜かれた穴に、肉棒がぼすんぼすんと上下する。マンキニの生地が絶妙に擦れて痛気持ちいい。

ああ、イキそうだ。射精しそうだ。マンキニのなかに臭い男汁が溢れそうだ……。ああ………あぁっぁぁ……。




「はい一旦やめー」


その最高の瞬間の直前、拡声器から声がした。

砂浜を穢していたマンキニ男たちの動きさ、一斉にピタリと止まる。


上官が砂を踏みながらこちらに向かってくるのがわかった。

一瞬、冷静になったヤマトの頭が警鐘を鳴らした。まさか、勘付かれたのだろうか。この俺が正常なことが、俺が変態ではないことが、動きや声でバレてしまったのだろうか。


「今日はとっても素晴らしいお手本がありまーす」

だが、答えはそうではなかった。

「む……!」


ヤマトはむしろ表彰ものだとされたのだ。


「すごい立派な平泳ぎだったね、もっともっと皆もこのおじさんのようになりましょう」

「え? ハァ、そ、それはどうも……、ハァ……あ、ありがたき、幸せ……であります……っ」

「ほらほら、皆にも見せてあげて、つづけてつづけて」


ヤマトは命令のまま砂の上の平泳ぎを再開した。


海上自衛官たちの目が集まるのがわかった。

変態の動作とはいえ、こうまで見られると妙な緊張感がある。


(こ、こんな動きを皆に……く、いや、考えるな……俺は、命令に従っていればいいのだ……マンキニのまま、平泳ぎをッ、そう、それだけだ、それだけかんがえろッ……周囲の目など……むぅううっ。い、いやお手本を、見せてやれ、見せつけてやるくらいに、完璧に達成するのだ……!)


お手本。

その言葉が、再び頭の中で響く。


お手本のような男。

そうだ、俺は皆の先導者となるのだ。

俺が皆を救う。

俺こそが本物の海上自衛官だ。

この窮地を乗り越えてやるくらい、わけないことだ……!


「ねえねえ、どうしてそんなに泳ぎが得意なのかな」

「そ、それは……人々を助けることを想像して、泳いでおりました。そうすると、体から力が溢れてくるのであります……♥」

虚言は却って心を読まれるとして、ヤマトは誠実に正直に答えた。

その返答に砂浜中から小さな歓声が上がる。


「そうだねえ当たり前のようだけど、初心っていうのは大事ってことだねえ」

「そ、そのとおりであります……♥」


答えれば答えるほど、マンキニに収められた肉棒はギンギンに固くなり、鍛えられたケツの谷間にギュウギュウ食い込んできた。その気持ちよさにヤマトは喘ぎながら、よりいっそう激しく平泳ぎを続けた。


「じゃあ今度は――」

そんなヤマトを見下ろしながら、上官はイイことを思いついたとばかりに声を弾ませた。


「皆のお手本になるように、仰向けになって」

「了解であります♥」


――考えるまもなく声が出ていた。

そんな声に、ヤマトは自分で驚いた。

全く考えることもなく、命令に従っていた。本当に、一瞬の逡巡もなかった。

だが、もう止まらない。

ここで余計な動きをして、バレる訳にはいかないのだ。


「はい、立って、すぐ」

「りょ、了解であり、ますぅ♥」


ヤマトは肌から砂をぽろぽろと落としながら、ふらつく脚で立ち上がった。

そしてそのまま、今度は背中を下にして寝転んだ。


青い太陽が全身を焦がす。

視界が白んで、頭がぼんやりとした。


「はじめ!」

「マンキニッ!!」


その命令にヤマトは一度コマネチをすると、すぐに平泳ぎのポーズへと切り替わった。


砂と擦れることがなくなった腕と脚は、遮るものなく動き続けますます機敏に空を掻いた。


「マン――」

ヤマトは力を込めながら尻の穴が開くほどにガニ股になり、腕がパンパンになるほど圧縮する。


「キニィイ――!!」

そうして今度は脚をピィーンと伸ばして、手をつま先まで力を込めてまっすぐ伸ばす。


「おほッ♥」


ぐいっとケツにマンキニが食い込んだ。それと同時に、ギリギリまでマンキニに食い込んでいた勃起チンポがボロンと表に飛び出した。

気持ちいい。

砂のオナホがなくなったが、そんなことはもう些末な違いだった。


このマンキニがあれば、十分に気持ちがいいではないか。

十分すぎるほど気持ちがいい。いや、これ以上の快感などないくらいに気持ちいい。爽快で、男らしく、それでいて美しい。マンキニがあればいい。

これがあれば。これさえあれば。他に何がいる。なにもいらない。


「マン――キニィィイ♥♥」


染み込んだ快感が溢れたかのように、ヤマトのむき出しのチンポから汁を垂らした。

「あぁぁきもちぃぃい♥♥ マン、キニィ♥ マン、キニィ♥ マンキニきンもちぃぃいい♥♥」

「ほらほら、お手本お手本」

「ふひぃ♥ マンキニッ♥ マンキニッ♥ み、みんなぁあいま助けるぞお父さんがみんなを助けるぞおおお♥ おいっちにぃ♥ さんしぃ♥ まんきにぃ♥ さんしぃぃい♥♥♥」


ヤマトはひっくり返った虫のような格好で、逞しい体を延々と動かし続けた。


平泳ぎの無様な動きが、今は最高に格好いい動作に思えた。

そして、それが気持ちよかった。


(あぁぁぁ俺は、俺はこんな動きでも逞しいなんて、マンキニを着ていても格好いいなんて……いや、マンキニを着ているからなのか、それだから俺は真の海上自衛官になれたのかぁ♥ ああぁこの迷彩マンキニが、き、きもちぃいぃい♥♥)


まとまらない思考の中でも、ハッキリと一つの言葉だけが何度も浮かび上がっていた。


皆の手本。


そう、皆の上にたつ男の中の男と認められたこと。自衛官の中の自衛官となったこと。他の男たちをさしおいて、平泳ぎを見せつけてる優越感。そして、頼もしさ。

それらが、父であり男であるヤマトの心をビンビンに刺激していた。


「マン、キニィッ♥ マン、キニィ♥ お、俺こそ本物の海上自衛官だぁぁあ♥ この俺が、父さんが、一番すごいんだぞぉお♥♥ み、みんなのお手本なんだぁぁあ♥♥♥」


声に合わせて平泳ぎ。無様で滑稽な仰向けの動作。

そんなことをしながら、ヤマトの顔はニタニタと下品な笑顔になっていた。

この数ヶ月鬱屈としていた気分が、なにもかも晴れていくような気持ちよさだった。

命令を忠実に達成する快感。

大勢の男達に見られる快感。

そして、マンキニが食い込む快感。


改めて味わうマンキニの快感は凄まじく、ヤマトの脳をあっという間に快楽が満たしてく。

海の波が小さな小枝をものともしないように、当たり前のようにその大波はヤマトの脳を埋め尽くす。マンキニが気持ちいい。皆と一緒が楽しくて仕方がない。マンキニがいい、マンキニがすごい、マンキニマンキニ、マンキニマンキニマンキニッ――――


今まで我慢していたのが不思議なくらい、マンキニの快楽を受け入れるのは幸福だった。


「マン、キニぃ♥ マン、キニィッッッ♥♥」


お手本の動作を始めて、わずか数分。

ヤマトのマンキニからはみ出したチンポから、大量のオス汁が吹き出していた。


「あ、あああ、ッマン、キニぃ♥ マン、キニィッッッ♥♥ 海上自衛官のマンキニ汁ゥゥゥ♥♥♥」


射精。

ただ、それをわざわざ騒ぐ気にもならなかった。

こうしてイクのは当然だった。

そもそも、もうずっとイキ続けているようなものだ。

マンキニポーズを受け入れてから、ずっと頭が射精の気持ちよさでチカチカ瞬いている。何かを考えられない。射精の快感で満杯だ。


ああ、そうか。

だから自衛官たちは、みんな上官の命令にハイハイと従っていたのか。

こんなに考えられない脳ミソでは、とても作戦達成など不可能だ。ああ、なんて合理的なのだ。


「さく、せぇん……♥」


作戦という言葉がなにか引っかかったような気がして、ヤマトは一言だけ繰り返した。

なにか大事な物、大切なことがあったような―――


「はい、お手本終了~よくできましたあ」


「あひぃ♥ お褒めいただきありがたきしわわわ、しあわせでありまぁぁすずうう♥♥」

ヤマトの頭の中にあった疑問は、ただヒトコト褒め言葉をもらったことで吹き飛んだ。


射精とチンポとマンキニで満たされていた頭にねじ込まれた褒め言葉で、他の余計なものがビュッと飛び出したのだ。


「あひ♥ 出る♥ はへ♥」

それと同時にヤマトの肉棒からまた大量の精液が噴き出していたが、誰も気にもとめなかった。ヤマトでさえもだ。その射精で、何週間も準備し、耐え抜いていた作戦の記憶が全て流れ出たのだが………今のヤマトにとってはそんなことは精液の一滴、精子一つぶんの価値もなかった。どうでもよかった。

ただ快感を全身に味わいながら、ヤマトはマンキニ姿で大の字に寝転んでいた。




「ようし、練習もしっかりしたし、それじゃあ海に向かって泳いでこよう!」


「おう!」

「マンキニッ!」

「了解でありますッ!」


長い長い快感の時間も、訓練の時間のほんの数分だったのだろう。

上官が再び声を上げると、仰向けだった自衛官たちが次々に立ち上がった。


ヤマトはその光景を舌をだらしなく出しながら見ていた。

だが、そのぼんやりとした時間もまた、長くはなかった。


「お、俺も負けんぞぉ、およぎなら誰にもまけんぞぉぉ♥ おいっちにぃ、さんしぃ♥ にぃに、まんきにぃ♥♥」


不細工な歌を歌いながら、ヤマトはガニ股のまま海へと掛けていった。


どぼん。

大柄な四角い体が水面に飛び込むと、ヤマトは海の中で目を開けた。


マンキニ姿の自衛官たちが、ガニ股で思い思いの方向に平泳ぎをしている。

チンポははみ出て、ケツや陰毛、脇毛は丸出し。


そして、彼らが泳いだあとには、白く濁った汁がぷかぷかと浮いている。


下品で男臭くて、たまらない夢のような光景だった。


「あひ♥ みんなすごいなあぁぁ……♥ で、でも、こんな素晴らしい自衛官たちのお手本になっていたなんて、お、俺もなかなか捨てたものじゃあないなあ♥ どうだあ父さんすごいだろうぅう、帰ったらいっっぱい自慢しちゃうぞぉぉお♥♥」


ヤマトはニヤリと笑うと、砂浜でしたように平泳ぎで彼らのなかにはいっていった。


逞しい海神のような筋肉の塊が海の中へと消え、そこからはただ白く濁った汁がぬらぬらと流れてきた。






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