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作品の傾向等が確認できるよう、全編無料で見られる短編です。

体育会系の先輩からアマレスユニフォームを押し付けられた釣具店の筋肉社長。奇妙な指示と報告書に、羞恥と快感を煽られていきやがて――

――――――

露出報告書

「いやしかし…先輩、自分もそんな年でもないですから」

梶原洋蔵は歯切れ悪くそう言うと、固く結んだネクタイをわずかに緩めた。

社員六名を抱える梶原釣具店の店長として、常に規律正しい真っ当な態度と衣装を……。そう心がけていたが、この夏の暑さと先輩の頼み事の二重苦は、洋蔵の浅黒い肌にずいぶんと掻きたくもない汗を滲ませた。

こんな頼みごとなど今すぐにでもお断りしたいところだが、どうにも口ごもってしまう。根っから体育会系を叩きこまれた脳を数年ぶりに恨めしく思った。

「まあそう構えるな、なあに大した頼みってことじゃあねえだろう」

先輩と呼ばれた男、藤岡は小さな目と太い眉を下げ、しかし口を大きく開いてそう言った。バンと洋蔵の大きな背中を叩き、「なあ、いいだろう」と肩を抱いてくる。パリッとアイロンが掛けられたシャツが筋肉の形に歪む。

「別に誰に見られる訳でもないし、困るようなことはなにもないだろ、なぁ」

「いやあ……しかし、その……」

確かに、誰かに迷惑をかけるわけでもなければ、自分の社員や家族に恥ずかしい思いをさせることもない。それは頭ではわかっている。だが――

洋蔵は白いシャツからのぞく逞しい黒い二の腕で、己を悩ませる『物体』を手にとった。

吊りパン。

正式名称があるのかどうかも知らない、青くタイトなレスリング用のシングレットだ。

実際に手に取るのも初めてなら、間近で観察するのも初めてだ。試作品と聞かされたその布地は、想像していたよりずっと薄く頼りなさげに見えた。

藤岡の頼みは、このシングレットを身につけ、その着心地や伸縮性、運動時のリアクション等々の報告をしてほしい、ということだ。

(他のユニフォームならまだしも、選手でもない俺がコレを身につけるのは……)

洋蔵は考えて、己の体を見つめ直した。

「自分もですね、……怠けているわけではないですが、本格的にラグビーをやっていたのも何年も前で、ましてレスリングなんぞまったくの門外漢ですから。とても参考にはならん、と思いますが」

弛んだ、とまでは思わない。しかし現役時代とは流石に体の絞れ方が違う。腕は太く、背筋は分厚く、大臀筋もまだまだ力強い丸みを帯びているが、どこもかしこも脂肪と筋肉の混じり合ったものだ。

そんな自分がこのようなユニフォームを身に着けて、鏡の前であれこれとポーズを取る。想像するだけで顔が熱くなる。元来羞恥心の強い梶原にとって、それは珍しい先輩の頼み事を断るのに十分な理由だった。

「や、やはり駄目だ、先輩、申し訳ありませんが――」

シングレットをテーブルに戻した梶原は、いよいよ本格的に声を大にして藤岡に向き直った。

だが、藤岡は相変わらず剛毅な笑顔で言った。

「だから、それが大事なんじゃあねえか、な」

藤岡はシングレットを手に取り、ぐいと洋蔵の胸板にこすり付けてきた。

「こいつはそういう、普段着用してねえ中年や、初めての人間を想定してつくってあるんだよ。つまりお前のそのリアクションは最高ッ、恥ずかしいくらいが丁度いいんって話だ。ま、そういうことで、テストとレポート待ってるぞ! お前は昔からレポートが得意だったからな、俺も下からせっつかれてんだ、じゃあ頼んだぞ!!」

そのまま一息に言い切ると、パンッと洋蔵の大きい尻を叩いて、断る暇も与えず部屋から出ていってしまった。

「な……! あ……ああー……も、もう、分かりましたよ! こちらの書類に……ず、ずいぶんな量だ……、ええっと、これらに記入すれば良い、ということですね!」

「おお、さっすが洋蔵だあ! そう言ってくれると思っとったぞ!」

藤岡は背中を向けたまま、調子よく笑って手のひらをブラブラと振って去っていってしまった。

「まったく、突然来たかと思えば相変わらず強引なもんだ。……あの調子で部下や家族が迷惑していないといいが」

洋蔵はため息を付いて、嵐のように去っていった藤岡を目だけで見送った。学生時代から何十年経っているというのに、あの態度や強引さはまるで変わっていない。強いて言うならば、以前よりさらに歩き方がガニ股になったくらいだ。

「社長ー、お客様お帰りになられましたか? どのようなご用件でしたー?」

「んッ、ああ、気にするな。仕事じゃあない、個人的な話に来ただけだ!」

仕切りの向こうから聞こえてきた声に、洋蔵は慌ててシングレットをカバンに詰め込んだ。

深い海のように真っ青なくせに、二人の男の手で握られたそれは妙なほどに熱くなっていた。

『――仕事じゃあない、個人的な話に来ただけだ!』

遠ざかる声を聞きながら、藤岡は一人、ゴクリと唾を飲み込んだ。浅黒い喉仏が動く。ゴリラのような厳つい顔にはやはり笑顔が浮かんでいた。

しかしその笑顔は、後輩である洋蔵に見せていたものとはまるで違うものになっていた。

「おっ…うっ…ほっぉぉお」

洋蔵に振っていたのとは別の手が、がっしりと己の股間を鷲掴みにしていた。その膨らみにはくっきりと、棒状の硬いものが浮かび上がっていた。

「こ、これで、いいんだろ、……なぁ。これで……これで……」

そのまま誰にでもなく呟いて、人とすれ違うかもしれない釣具店の店内を歩いていく。備え付けられた監視カメラを気にしながら、ビクリと背中を震わせていた。

「あぁ……、と、止まらね……誰かあ、止めてくれえ……ああ、お、俺は……こんな……はぁ……はぁ……」

悲鳴のような喘ぎを残して、藤岡は釣具店を去っていった。

その姿を店員が見ることも、映像を確認する者もいなかった。

藤岡のシャツの下で、インナーとは明らかに違う青く薄い生地がある事に、洋蔵はついに気が付かなかった。そして、長い付き合いである先輩の精神の変貌にも。

深夜。

大型釣具店のすぐ近く、梶原洋蔵は幼い子供を寝かしつけた後、妻が寝息を立てているのを確認し、居候中の社員三人がゲームに夢中になっているのを見届けた後、足音を消してリビングに戻ってきていた。

本当は自室が望ましい。しかし、姿見は妻の部屋と、妻がリビングに置いたこの二枚しかないことに気がついたのは、もう夕飯を食べ終えた後だった。

洋蔵は扉を閉めたことを確認し、改めてリビングの照明をつけた。

こんなにも強い光だったのか、と目を疑うほどの光が部屋を包む。洋蔵は慌てて灯りを一段階落とした。それでもまだ明るすぎた。しかしこれ以上下は豆電球だ。それではさすがに、自分の姿の確認すらおぼつかない。

「……ま、まあそう時間はかからん………よな?」

洋蔵は己を慰めるように呟いて、観念してカバンを開いた。

そこには詰め込んだままのブルーのシングレットがくしゃくしゃになって……しかしシワがつくこともなく収まっていた。

「いや……やはり、サイズを一つ、二つ……間違えているんじゃないのか、これは」

シングレットを取り出し、洋蔵は両手で持って広げて見た。しげしげと見なおしてみると、昼間見た時以上に小さく見えた。

肩から伸びる紐は細く、脇腹や胸板が収まりそうにない。太腿を収める部位もずいぶんと短い。これでは股間がギリギリ隠れる程度ではないか。神聖なスポーツユニフォームにこんな感想を抱く事自体が不謹慎だが、それでも……やはり随分と恥ずかしい衣装だ。

そのくせキラリと生地は薄く輝くようなヒロイックな色をしているのだから、なおさら困ってしまう。

しかし、男が受けてしまったことだ。

責任感の強い社長である梶原洋蔵は意を決し、部屋着をゆっくりと脱ぎだした。バサリと、誰もいない室内に布の落ちる音が響く。

鏡の前で日に焼けた素肌が次々に晒されていく。上は抵抗がなかった。下は少しためらった。最後のトランクスは、かなり恥ずかしかった。しかし止めることなく洋蔵は、家族や社員も出入りするリビングで真っ裸になった。

「よし、さっさと着て、終わらせよう。まあ、誰かに見つかったら……そのときは観念して事の次第を話せばいい」

考えられる最悪のケースを一旦シミュレートしてから、洋蔵はひょいと逞しい脚を持ち上げた。

両手で吊りパンを広げ、大きな入口と小さな出口に向けて勢いよく脚を突っ込んだ。

小さく見えた穴だったが、それは生物の口のように洋蔵の脚をずっぽりと容易に呑み込んでしまった。無理に押し広げているというのとは違う。最初からまるで洋蔵の体を待っていたかのようだった。

程よい抵抗と伸縮性、体を引き締めるようでいて、決して締め付けすぎない。適度な気持ちよさがあった。

「ほう、これは……また意外な」

新技術、というのはつまりこういうことだろうか。洋蔵は素直に感嘆の声を上げ、もう片方の足も同様にしてシングレットに包ませた。

「んぅぅ……ぐッ!」

両足を通し終えると、洋蔵は肩に乗せる部位をぐいと上に持ち上げた。

ギュウと、股間にテンションが掛かった。玉がぐにゅりと押し上げられ、会陰部が潰される。肉棒が擦られながら締め付けられ、尻の谷間の奥にまでキツク入り込んだ。

「着られる、ものだな……ン!」

最後に手を離すと、縮んだ生地が洋蔵の肩を叩きパンッ!と気持ちのいい音を出した。

――音が出た。

その事実に洋蔵は我に返ったように、慌ててあたりを見回した。扉は閉まっている。窓の外に人影はない。誰にも見られていない。

洋蔵はふぅと息を吐き、額の汗を拭った。心配は杞憂だったようだ。きつく感じた感触も、終わってみれば全身が見事にフィットしている。心地よいほどだ。汗ばんだ体に心地よい通気性がある。

姿見に目を向ける。

ほんのり暗い室内には不釣合いの、青いシングレットに身を包んだ分厚い中年男がそこにいた。

「ど、どうなんだ、これは……」

洋蔵は頬をポリポリと掻きながら、改めて全身を観察した。

切り込みは深く、胸の半分も隠れていない。盛り上がった胸筋が、乳首が、むしろ却って目立つくらいだ。

腹筋の溝は残っているが、やはりいくらか突き出ている。腰も腕も、どこも太い肉体をしている為、服の上からでは目立たないのだが、こうもぴっちりと体に密着しているとさすがに目立つ。

太腿の筋肉の形はそのまま、股下30~40cmの場所から色を着けたように青くなっている。まるでボディペイントのようだ。

「いやいや、いかん、これはユニフォームだからな……。多少、まあ、デザインというか形状が……」

――どこか卑猥だが。そんな言葉を言いそうになる自分を、制するようにゴホンと咳き込んだ。

スポーツマンとして、ユニフォームは男の正装である。それは間違いない。ラグビーを長年続けてきたからこそ、他のスポーツを見下すような真似はしたくない。したくはない、のだが。

「こ、ここはさすがに……」

戦う男のユニフォーム、としても……。

股間に目を向けると、どうにもこれは擁護ができない。股下の切れ込みから、すぐ横にそれがあるのだ。あるで目を誘導するようなデザインだ。見るなという方が無理がある。

青い生地に落ちた濃い影。

もっこり、している。日本語で表現するとなると、これ以外にふさわしい言葉が思いつかない。雄の象徴がくっきりと、ふてぶてしいまでの大きさで膨らんでいる。

社員の前でこんな格好をしてしまえば、調子の良い若造はさすがに恐れも忘れて野次ってくるに違いない。

どこで竿が収まっているのか。とぐろを巻いているのか。玉が二つどうなっているか。じっとみつめれば、皮がどうなっているかもバレてしまいそうだ。

学生の時代から度々目をつけられ、大型マグナムだ、いやいや大砲だなどとからかわれてきたのを思い出す。その中にはあの先輩の姿もあった。覚えていたのか、忘れていたからか、こんな格好を改めて自分にさせるなど、本当に困ったものだ。

「ま、まあ着心地は悪くはない、と……さて、報告を、だな……――」

洋蔵は眉間にシワを作って、逃げるように鏡から離れた。

「うっ!? おっぉ……?」

一歩。

背後に置いておいたカバンに近づいた。それだけだ。それだけで、思わずうわずった情けない声が上がった。出てしまった。

「な、なんだ……ッ、う、おぉ……!?」

ぴったりと張り付いていたかに思えたシングレットが、洋蔵の股間で僅かに動いたのだ。両足に引っ張られるようにだ。たった一枚の生地のように思えていたが、まるで内部で複数の布地が重なっていたかのように、股間や尻の部分だけがギュッと引き締められて妙なむず痒い刺激があった。

「ハァ……ど、どうしたんだ。や、やはりサイズを間違えて……いたんじゃ……ないのか、こ、こんな」

股間が先まで以上に吊りパンを押し上げるのが見えた。

顔が年甲斐もなく真っ赤になる。服に擦りつけて感じるなど、思春期の子供でもあるまい。

「こ、こんな感想も、書かんといかんのか……、いやそんなことはない、だろう」

渡されている資料と報告書には、違和感を感じる部分や理由を書く欄があった。あくまでテストなのだから当然なのだが、しかしこれはどう書けというのだ。

『股間が擦れてしまいます。不快ではない感覚ですが、勃起してしまいそうです。竿が揺れ、亀頭が、皮が勝手に動き、会陰を押し上げながらなので、より――』

「あ、うぅうぅ……ば、馬鹿な事を」

感想文を頭でなぞっただけだ。それなのに、なぜこんな卑猥になるのか。洋蔵は股の部分のシングレットを掴み、体から無理矢理に離した。

口をすぼめて息を吐き、何度も吐き、心を落ち着かせる。

股間から離せばやがて汗は引き、心音の乱れは収まった。

この項目は後でいい。

そう無理矢理に決めて、洋蔵は次の資料に目を向けた。

いくつか代表的な構え、ポーズが記されている。

種目はまるで違うが、洋蔵はラガーマン時代を思い出した。タックルの形、最初はこんなように覚え、教えたものだ。そうだ、これは運動だ。競技なのだ。変に思う事など無い。

「足は……ハァ……こ、この間隔で開き……うぅ」

気にすることはない。すぐに慣れる。頭に言い聞かせながら、洋蔵はゆっくりと構えていく。

腕を突き出す。何の処理もしていない腋がむわりと汗を出す。

背を丸め前傾姿勢になる。肉の付いた逞しい背が紐を引き、尻を押し上げる。

どっしりと天井裏を踏んでいた脚を開く。股間部分の余裕がさらになくなり、肉棒が、皮が……。

「あ、……おっ、おぅ……」

腹の下から何かがこみ上げ、股間にばかり意識が集まっていく。

洋蔵は首を反らせて、唇をすぼめて喘いだ。丁度亀頭の部分に、じんわりとむず痒い刺激が集まっていた。

ふと鏡の向こう側を見ると、指示されたポーズを取る洋蔵の姿は雄々しく、しかし同時に卑猥だった。

なにせ格好の九割以上は完成されたスポーツマンでありながら、腰だけ……尻だけが不恰好に浮いている。チンポから流れてくる快感に、感じて腰を引いている中年親父だと、ひとめで分かってしまう格好だ。

「ああ、こ、こんな格好で……俺はいったい、だ、誰が来るかもわからんところで……!!」

洋蔵は再び振り返り、閉ざされた扉の向こうを見つめた。子供は眠っているが、水を飲みにやってくるかもしれない。社員達などはまだ起きて馬鹿騒ぎをしているのだから突然やってきてもおかしくない。

「うう……ッ!」

ブルリと体が震える。ビックンと股間の膨らみが震えると、そこを中心に熱が広がった。

「ああ、し、しまった……し、し……染みが……、あぁ……ぁぁ」

尿道に特に刺激が走り、とろりとこぼれてしまった。洋蔵は股間に、濃い青の染みを作ってしまっていた。

いい年をして、責任ある立場の雄が、服に我慢汁をにじませてしまったのだ。

「こ、こんなことを、バレでもしたら……」

先輩に何と言われるか分からない。

当然洗濯はする。しかし万が一感づかれたら、なんと思われるだろう。二人の子を持つ親父が、こんな真似をしていたなど。もし洗濯時に誰かに見られでもしたら。

「ハァァ……! お、俺は、いったいそんな、どうしたら……!」

恐怖に違いない妄想が、洋蔵の興奮をさらに強めていく。おかしい、俺にそんなシュミはないはずだ。しかし、体の興奮が収まらない。股間がどんどん「膨らみ」から「肉棒」の形へと変貌していく。

止められない。雄の本能が収まらない。

洋蔵は羞恥のあまり、つい先端のシミを拭おうとしてしまった。それが却っていけなかった。

「あ、ぁあ゛……ッ!」

そこは当然、最も神経の集中している亀頭の先だ。男の肉体で最も敏感な場所を刺激してしまった洋蔵からは、更に汗や先走りがどろどろととろけ出した。

溢れ出る。

閉じ込めておいた性欲が、この膨らんだ肉体に針を差したように溢れてくる。股間の、この染みが……正体を明らかにするようだ。

「ハァ……ハァ……あぁ、広がるぅ……広がってしまう……こんな格好で、こんなところで……」

拭えない。

それどころか、染みはどんどん広がっていくばかりだ。押しつぶすと、ぐしゅぐしゅと音を立てながら泡を立てる程にだ。

洋蔵は悪化しているにも関わらず、洋蔵は猿のように股間の膨らみをいじり続けた。いつしか爪の間にまで、恥ずかしい我慢汁が入り込む。濃厚な臭いのカスを作ってしまう。

「ああ、だ、駄目だ、何をしているんだ……俺は」

自制せねば。

どうもおかしい。なにかが。コレを着てから、変だ。

早々に終わらせよう。そして、早く……。

早く脱いで、すっぱだかになって……コレをゆっくりと吐き出したい。扱きたい。

既に洋蔵の体は、責任感や、先輩への恩義では動いていなかった。

性欲が緩慢に、しかし確実に彼を内側から操りだしていた。

洋蔵は勃起を収めようともせず、急かされるように動き出した。資料に記載された構え、ポーズ、状況を一つ一つ再現していく。

渋い顔立ちは一見真面目なように見える。しかしその実、股間へ刺激が行くポーズにばかりねっとりと長く時間を取り。股を広げ、尻をクイと動かし、吊りパンのズレを誤魔化しながら刺激を味わっていた。

それ以外は早急に、肉棒を弄らないものなど無価値であるように進めていく。

その事実を指摘する人間は、どこにもいない。誰かが来るかもしれない、しかしここには誰もいない。

洋蔵は焦燥と恐怖に駆り立てられて、たった一人の鑑賞会にのめり込んでいた。

「こ、今度は、される、側か……フゥ…ぅ」

される側。つまり技を受ける側だ。

今までのような勇ましい姿とは変わってくる。洋蔵は四足になり、押さえつけられる姿を再現した。指示には鏡に尻を向け行えと、そう記載されている。直接的、命令的指示に洋蔵は従順し従っていく。

「もっと低く、こう……か……」

汗がポタポタと垂れる。

尻を突き上げ、情けない敗者の格好を自ら進んでとっていく。仕方がない。そう書いてある、指示されているのだ。報告しなくてはならないのだ。

俺は真面目に、この命令を完遂しようとしているのだ。

それに、こうすると、また違う感触が股間に、尻にクるのだ。

「はぁあぁ、こ、これは、これで……おぉぉ……!!」

洋蔵は虚ろな目で、腰を振りながら振り返った。筋肉の鎧で覆われた体でありながら、情けない無様な姿を晒す自分がいた。

股間は既にバキバキに勃起し、尻にはぴっちりと釣りパンが食い込んでいる。露出した腕と太腿の黒さと、それを隠す爽やかな青色のコントラストが、釣具店の社長で父である自分の男らしさを際立たせていた。

「し、指示だ。これは指示なんだ、だから仕方が無いんだ……!」

ついに洋蔵は声を出しながら腰を振った。まるで、そこに誰かがいるかのように。

そのまま言葉を深く理解もせず、ただ快感を暴食するように洋蔵は動いた。

命令に従い、そして報告せねばいけない。

体が熱い。汗が腿を伝っている。汗に強い生地だ。優れている。

その割に、ここはどうしたことだ。

仁王立ちになった洋蔵は、再び股間に目をやった。くっきりと、苛め抜かれて悦びの汁を垂らす後が残っている。ここだけがクッキリと跡が残る。なんて卑猥な姿だ。男の勲章はここが最重要だとでも言うかのような。

なんて不謹慎なんだ。これも、報告しなくてはいけない。

しっかりと書き、伝えなければ。チンポ汁が目立ってしまうと書かなければ。

息が上がっている。体温の上昇に伴い、本当にレスリングをしていたかのような、運動後の高揚感が体育会系で育った洋蔵の脳を包む。

選手のような気分になってくる。

「だいぶ、サマになって、ハァ……きたんじゃないか……」

動いているうちに、そんな気がしてきた。

現役時代の猛る闘志が蘇ってくる。

鏡の向こうの自分。青い吊りパンに、ガッチリと肉と脂肪を閉じ込めた体も、こうしてポージングすれば、一人のアスリートに戻ったようだ。

ぐっと体に力を込める。力こぶをつくり、鏡の前で気取ってみる。恥ずかしい。しかし、悪い気がしない。格好いい気さえしてくる。

「あぁ、ハァ……俺は……俺は………」

現役時代を思い出す。歓声に囲まれながらプレイをする快感。己の力と、一挙一動に空気が湧くあの鼓動。

血が沸き上がってくる。

もっと、あの歓声を浴びたい。人の目に…………。

「おぅぅ……!ち、チンポ……チンポが……ぁぁ!!」

見られる、そのことを肯定的に感じた瞬間。これまで以上の快感が鋭く下半身からこみ上げてきた。既に十割の勃起だ。もうどんなポーズをとっても、そこばかりが目立つだろう。見られるとしたら、ここだろう。鍛え上げた体も、このシングレットも、全てこのヒクヒク動く盛り上がりで台無しだ。

「おっほぉぉォォオッ……!」

洋蔵は尻側の生地を持って引っ張った。亀頭が皮と生地に擦れてまくってたまらない。

ビンビンのチンポの膨らみが、ぐにぐにと上下に揺れている。こんなチンポを目立たせる格好を、何故しているんだ。情けない。ああ、でも気持いい。

熱い。

鏡の向こうの自分が挑発している。ガニ股になってチンポを目立たせた、中年アスリート。変態アスリートだ。

何をしている、梶原洋蔵。何をしているんだ。駄目だ。駄目だ。

心のどこかで響く警鐘が、洋蔵の心臓を強く打つ。しかしその背徳感すら、次第に快感になり洋蔵の生真面目な脳を巡っていく。痺れさせ、熱が瞼の力を奪う。

ああ、気持ちがいい。もう、脱ぐ時間すらもったいない。

いや、この格好がいい。このまま……しごきあげたい。思い切り、センズリをしたい。

「あ、あぁぁ゛……!も、もう我慢……ああ、できん……!はぁ……チンポ…おぉぉ!」

洋蔵はついに、勢いよく股間の膨らみを扱き出してしまった。

「おぉお!擦れ!るっ!ほぉぉお……皮とぉ!吊りパン……がぁ!同時に、同時にぃいぃい、ンぉおほぉぉ!!」

全身がビンと張る。股間を中心に弓なりなる。扱く意外の刺激が、体を動かすだけで襲ってくるのだ。

たまらん。チンポが全身に、この吊りパン全体に広がっていくようだ。

ああ、気持ちがいい。

こんな場所を見られたら終わりだ。真面目な社長としての人生が終わってしまう。それがわかっているのに、この卑猥なセンズリを止められない。そう思えば思うほど、ますます止められない。

「おっ!オッ!腰、腰止まらんッ!チンポがァ……チ、チンポが広がるッ!」

なんて格好だ。しかし、目が鏡から離れない。

扱いている。俺は今、全身の筋肉でセンズリをしている。

こんな格好で。神聖なアスリートの格好を穢している。

「あぁあ、俺は……俺はなんて、なんていやらしい格好をしとるんだ!」

一度扱きだせば、この格好はどこまでも卑猥なものにガラリと変わった。

乳首をさらけ出して、筋肉を強調し、尻の谷間まで見せつけて、もっこりした巨根を目立たせる。俺はこんなにいやらしい格好が、こんなに似合う男に……。

「ハァアァァ!こ、こんないやらしい動き!おッほッォ!」

両肩の紐を引っ張り、股間の部分を限界まで上に引き上げる。まさに吊られるように爪先立ちで、洋蔵は腰だけをカクカクと動かし始めた。

「す、すご!すぎるッ!ハァ!ハァ俺は!俺はぁぁ!あぁああチンポ、チンポゥ゛ッ!!」

勃起したチンポがぶるんぶるんと、吊りパンとぶち当たる。

セックスをしているようだ。ぐにゅぐにゅと生地の中に出し入れ。親父が一人でセックスをしている。

「体が勝手に゛ッ!おぉぉお゛ッ!こんな゛変態なカッコぉ゛!だ、誰かに!誰かに見られたら゛ッ!」

性欲に動かされる男の動きは、どこまでも惨めなまでにいやらしい。初めて着るにも関わらず、コレをどう使えばよりチンポが気持ちいいかが流れこんでくるようだ。

止まらない。止まらない。

声も、動きも、ああ、肉棒が……もう、もう我慢できない。

「イク!イクイクイク!……おっぉぉイってしま……!あぁぁ……!借り物の吊りパンに!駄目だッ!ああ、外に出さッ……お゛ぉぉぉおお゛ッ駄目だイグゥッゥウ゛!!!」

パン。再び肩の紐が食い込み、ピッチリとシングレットが洋蔵の腹を、胸を、そしてチンポを絞めつけた。

その瞬間に、洋蔵の盛り上がり濡れそぼった先端が小さく盛り上がった。

「でッ!でている゛ッ!我慢ッ!汚れッ!おっほぉぉぉ!た、堪らんんっ!精液でる!堪らんんッ!きもっち゛ぃぃい!!!」

びく、びくびく、びく。

よほど勢いよく出ているのだろう。洋蔵の匂い立つ濃厚な精液は、シングレットの生地を押し上げ、酸っぱい匂いの染みを作った。

溢れ出る性感の力が、両の拳に行っているのだろう。洋蔵は腰の位置で握り拳を造っている。レスリング姿と合わせれば逞しいポーズだ。

しかし股間を限界まで見せつけ、ガニ股で痙攣しながらのそれはどこまでも滑稽で、卑猥な姿に成り下がっていた。

「あ゛ー……お…おおぉおっ………お……」

びく、びく。

体を何度か弾ませたかと思うと、洋蔵の膝が力なく折れた。

べたんと、尻の汗が染みたシングレットが床に落ちる。射精後の脱力。脳がショートしてしまいそうな快感に、洋蔵の体からは完全に、力という力が抜けていた。

「………」

普段の厳しい姿からは想像もできない顔で、洋蔵は涎を垂らしていた。眉の垂れ下がった、口の緩んだ間抜けな顔だった。

数分間はそうしていただろう。

やがて洋蔵はゆっくりと立ち上がった。

「…………。忘れないうちに、詳細に報告しなければ……な」

そのまま洋蔵は大真面目な顔でペンをとり、事の次第を詳細に書き出し始めた。

「体験の気持ちよさ五段階。恥ずかしさ五段階。詳細……うむ、なんとも報告しやすい……な」

大変に気持ちがよく、あっという間に股間ががちがちになりました。

鏡の前で、そんなシュミでもないのに興奮してしまった。

男としての高揚感が得られる。非常に効果的。

太もも部分の締め付けも適度で気持ちがいい。

書かされる報告は、とてもスポーツ用のものとは思えないものばかりだった。しかし、筆が止まらなかった。あの興奮を忘れまいとするかのように、真面目な整った筆跡で卑猥の限りを尽くしていく。

竿は全体が気持ちいがとくに亀頭部分の刺激が良い。

腰が勝手に揺れてしまうがそれがまた気持ちよくなる。

股を開くと何もしていないのに勝手に心地よさが続く。

ああ、そういえば先輩のあの歩き方……。

まったく、そうか、そういうことだったのか。本当に厄介な先輩だ。いや、しかし先輩は悪くはない。きっとあの人も、他の誰かから「これ」を味わわされてしまったのだろう。であれば、もう逃げられないのは仕方がない。

俺も―――。

「な、なんだ、これは、まだこんなに報告内容が……残っていたのか……」

しかしそこで、洋蔵は自分が従っていた指示が全体の三割程度であることに気がついた。

報告書の八割を完成させたところで、洋蔵はひとつ気がついた。

報告内容第二回、第三回、第四回。カバンの億には、まだまだ指示が残っていた。

パラパラとめくると、内容は回を増すごとに卑猥に、そして過激になっていた。最後には露出する場所の指定までされている始末だ。

「第二回を希望……まる、か、ばつ、か……」

しかし、洋蔵の心に嫌悪感はなかった。

羞恥や恐れは残っていたが、それ以上の衝動が洋蔵の手を動かしていた。

あの快感を味わった今、過去の梶原洋蔵は死んだのだ。いま、もうここにいるのは作り変えられた男だ。

「まだ……可能ならば……引き続き第二回のご協力へ……か。ははは……こ、こんな時間に二回連続とは、こ、今度こそ、誰かがやってきてしまう、かもしれない、な……」

洋蔵がそう声に出すと、射精して萎えていた肉棒が再び熱をもつのがわかった。そうして勃起した肉棒が、雄汁の染み込んだ吊りパンにヌチュヌチュとこすれるのがわかった。

「第二回を希望……」

おおきな丸印を描いて、洋蔵は立ち上がった。

おわり

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