正義の警官ヒーローVS変態洗脳怪人アヘガニ (Pixiv Fanbox)
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そいつは海の底から現れ、街の闇へとたどり着いた。
赤々とした外皮は固く尖ったおり、下手くそな歩行と合わせて街のコンクリートをガリガリと傷つけた。海から離れた位置まで歩いてきたというのにいつまでも海水が垂れ、磯の香りと……独特の生臭さを撒き散らしている。
異形。だが、それはまちがいなく、人間のように二本の足で立っていた。
怪しく、しかして人型。それは紛れもなく『怪人』だった。
異変の始まりはなんてことのない平日の昼間だった。
海開きがもうすぐということで、地域一帯が一眼となって活気づいていた。そういった欲望が高まりがあれば、世の常として例年以上の怪物が姿を表す。
しかしそれも慣れたもので、既に都会から応援のヒーローが複数配備されていた。
毎年のことであり、一部のヒーローマニア以外にとっては取り立てて騒ぐようなことではない。
ヒーローの台頭により怪物の出現数がイコール事故数ではなくなって幾十年。人々の関心は明日起きるかもしれない驚異より、来週に迫った海開きに集まっていた。
市民も、市長も、そしてヒーローでさえもだ。
「ふぅー、今日もあっついのう」
街の平和を守る警察官にしてヒーロー『角山保』は水色の服に身を包み、仰け反りながら歩いていた。
毛の生えた男らしいゴツ腕が額を拭う。ボゥボゥに生い茂った繋がり眉が、夏の暑さでぐにゃりと歪んでいた。
「平和はなにより、ウムなによりなにより。――しかし、そりゃあいいが、こうパトロールばっかじゃあ腕がなまっちまいそうじゃ」
角山は分厚い制帽を脱ぐと、団扇代わりにパタパタと首元を扇いだ。鈍ると語っているものの、彼は早朝四時からもうぶっ続けで六時間以上街を歩き、駆け、跳び、縦横無尽にパトロールをこなしている。男盛り、働き盛り、ヒーロー盛りの肉体は、余すことなく雄臭く、そして活力に満ちているのだ。この愚痴も退屈だからという理由ではなく、ここいらで変身して戦闘をこなしておいたほうが、夏本番のときに動きやすいからという理由だ。
「ま、ええか。今年は都会から大勢くるっちゅう話だ。たまにゃあ大人しく夏を過ごすんも悪くないな」
そう言いながらも、角山は休むことなくパトロールを続けた。のっしのしと歩く姿は、それだけで犯罪者も怪物も萎縮してしまいそうな迫力だった。
「……ん?」
角山がそれに気がついたのは、本当にただの偶然であった。
角山は膝を折って地面に転がった赤い生物を拾い上げた。浜辺近くでもない場所なのに、道端にカニが転がっている。ピンボール大ほどの小さな体で、ハサミを力なく動かしている。
「なんじゃあ泡吹いとるの、どうしたお前、こげんところで」
角山はまるで子供のように甲殻類に語りかけながら、小さく脆いその体を拾い上げた。
「んー……どうするかのぉ」
キョロキョロと角山は辺りを伺った。海まで距離はあるが、それは変身していないならばの話だ。
だが、自然の摂理であるともいえるし、こんなことで貴重なエナジーを消耗してはいけないというのも一つある、だが救える命を放り出すのはヒーローとしての同義に反する。
角山はいかつい眉を歪めてしばらく悩んだ。
皮肉な話だ。彼が下等生物を容赦なく踏み潰すような男であれば、この街と中年ヒーローの運命は変わることなどなかったのだから。
プシュゥウッッ。
「ぬぉッ!?」
炭酸を抜くような音と同時に角山の掌でへばっていたカニから、白く小さな泡がスプレーのように飛び出した。
「うおっぷっ!?」
それはまるでシャボン玉のように膨らんで、日に焼けた角山の鼻に当たるとパチン弾けて露と消えた。
「ま、まったく、助けてやろうっちゅうのに、わからん奴だなあ」
そんな優しい言葉が、警察官角山保が正常な状態で発した最後の言葉であった。
「あ゛………?」
まさに泡が弾けて消え去るように突然、角山の頭の中……頭蓋に守られた脳の内部に、なにかが起こった。
パチン。
弾けるように、角山の屈強な体が跳ね上がった。
「あ、あ……、アァ、アヘェッ?」
角山は足場が歪むのを感じた。まさか熱中症か。いや、そんなことはこれまでの人生一度もなかった。制帽を被った頭が危機的状況に警鐘を鳴らす。変身するか。何が起きている。どうした。わしはいったい今どうなっている。
彼は必死に状況を把握し、対応しようとしていた。だが、即効性の液体は既に角山の小脳にまで達していた。
「ん、おぉぉ……ッ?」
まっすぐ立っていられない。体が熱い。顔中が痒い。県内無敗を誇った逞しき肉体が、右へ、左へ、ふらりふらりと千鳥足。
白昼堂々酒でも飲んでいる酔っぱらいのように、警官姿の筋骨隆々とした親父はだらしなくよろけて動いている。そんな姿を、道行く少年達が不思議な目で眺めていた。
「なんじゃぁぁ、なん、じゃ、あぁッ……はぁぁン?」
せめて転ばぬようにと、角山は股の間隔を大きく開いた。これで膝さえ伸ばしていれば、仁王立ちで犯罪者を威嚇する男らしい警官であっただろう。だが、ブルブル震える膝は曲がり、腰は落ち、口も目も間抜けな半開きだ。いつもの威厳は、露ほどもない。
「あえぇぇ……ど、どう、し――ちまったん、じゃあぁ」
「ガーニガニガニガニッッさっそく一人ぃぃ、やっつけたガニィィ!!!」
突如、奇っ怪な馬鹿笑いが街に響いた。
狭い路地裏からぬっと、街の闇に潜んでいたそれは現れた。
「ガニガニガニッ、俺様の名は変脳怪人アヘガニィッ、今日から貴様の御主人様となる偉大な怪人ガニィ!!! ガーニガニガニガニッ!!」
真っ赤な体に横に分厚いカニの上半身。ずっしりと重たげな二本のハサミ。まぎれもなくカニ型の巨大な生物に、奇妙なことにガニ股状態の人間の下半身が生えている。
人型でありながら奇っ怪。人語を解するが人間ではない。
間違いない、人間とヒーローを脅かす怪人だ。――それも、とびきりへんてこな。
「な、なんじゃあ貴様ッ、さ、さっきのカニは貴様の、罠っちゅうことかぁッ!!」
「『貴様』とは、なんえしつれいなやつガニか! もっとアヘガニ様を敬うガニィッ!!」
怪人は一方的にそう言い放つと、口と思しき場所から大量の泡を吐きつけた。消防車のホースから繰り出される水のような勢いで、角山の全身を泡が襲う。あわや直撃化、というところで、角山はガニ股状態の脚にグッと力を込めた。
「ヌゥッ……プ、プライマルチェェンジィィッ!!」
角山は咆吼と同時に、上空に跳躍した。青空に包まれるように水色の警官服が一瞬で見えなくなる。太陽を背に浴びた角刈り頭の警察官はその瞬間、一人の男から正義のヒーローへと変身した。
真っ青なスーツが全身をぴっちりと包み込む。割れた腹筋、盛り上がった胸板、たくましい肩から指先まで余すところなく完全に包み込む。青一色になった男の身体に、今度は清らかな白のラインが走る。逞しさと正しさをより強調するかのように、全身タイツがヒーロースーツへと変化する。最後に白い地下足袋型のブーツが装着されると、ヒーローはそのままズシンと大地に降り立った。
「正義のヒーロープライマルポリス参上ッ! 青い空と輝くお天道様が見とる限り、貴様らの好きにィンいぃいい!???」
まっすぐ立ち、決めポーズとして勇ましい敬礼を見せつけようとした瞬間、何百と繰り返してきた正義の口上が崩れた。
「ン――どうしたガニィ?? どうしたガニィ??」
「んヒィ……ンヒィッ、か、からだが、わしの身体が、勝手にィいィィイイ??」
掌が開いていない。指が勝手に丸まっていく。人差し指と中指だけを残し、ぐりぐり拳になっていく。
頬の筋肉が痙攣し、顔が勝手に吊り上がる。笑っているような、不思議がっているような、中途半端な表情だ。
そのうえ脚が伸びていない。気がつけばまたガニ股だ。こんな下品な下半身のままヒーローとして着地していたのか。
それだけではない変身までしたのに、頭の奥で今もバブルが弾けるような奇妙な感覚が残っている。頭がクラクラする。なんだこれは、何が起こっているのだ。
「あへっ」
その声が自分のものだと、プライマルポリスはすぐに気が付かなかった。
「アヘッ」「アヘッ」
しかし二度目、三度目、声と同時に肩が跳ね、身体が反っていることでようやく気がついた。それだけ間抜けな……笑い声だった。
「アヘ、アヘ、アヘ、アヘヘ、アヘッ!」
奇っ怪な笑い声が、中年の分厚い胸板から勝手に溢れてくる。
待て、わしは何を笑っとるんじゃ。
今は正義の時間だ。この無礼で奇妙な怪人をとっちめて、街の平和を取り戻せ。
「アヘッ♪」
だが、体も心も自由にならず、ついにプライマルポリスはガッチリピースを両手に作って、心底楽しそうな笑い声を上げてしまった。
「アヘッ、わしッ、アヘッ、わしぃぃ、ど、どうし……しまったン…じゃぁッ、……アヘッ♪」
足の間隔はさらに広がり、膝がガクガク笑いだす。胸板をせり出し、ケツがグイグイスーツに食い込む。
「さあさあもっとアヘガニ様を称えるポーズをするガニィ」
「だ、だれッ、ハへッ、ホへへっ、だれがッ、アヒ、アヘッ♪ あ゛ッ、め、目んだま、がぁあ、目ェ回るぅぅうぅぅッッ?」
プライマルポリスのむき出しな顔はどんどん赤くなり、細く小さな目がぐるんぐるんと回りだす。脳の変質がいよいよ進行する。親父くさい顔はあっという間に異常者のようなものになった。
勝手に目線が眉間に寄り、口は窄み、眉がハの字に歪む。
顔のパーツが中央に集まっていく。プライマルポリスには既に、前方をまともに見ることさえできない。ただ人々のざわめきが聞こえた。警官姿でありヒーローである自分を案じる人々の声だ。
大丈夫じゃ。
プライマルポリスは市井の人々にそう伝えようとした。
「アヘェ、アヘ、アヘへ、アヘッ!」
しかし口から出たのは、マヌケな笑いと白い泡だった。
口の端で息を含んだヨダレが小さな泡を作ってしまっている。まるで声を飲み込んだかのようにぶくぶくと次から次に溢れ出てくる。
(なんじゃ、わしぃい、わしのアタマ、どうなっとるんじゃぁああ)
脳の中で何かが弾け続けている。
違う、なにかではない。頭にあるものなど決まっている。
わしの脳だ。正義がパンパンに詰まった脳みそが、パチンパチンと愉快なまでに弾けている。
角山保、プライマルポリスとして生きてきた十余年共にしてきた脳みそが、どこかにいく、どこかへと消えていく。
「お、おまわりさん、あの……!」
「アヘッ、アヘッ、アへへへっ♪」
プライマルポリスは動かなくなっていた。ただガニ股中腰で固まって、両腕を肩の高さまで上げていた。その手にははっきりとピースサインが握られている。
とても楽しそうなポージングだ。いや、実際プライマルポリスの顔は笑っていた。
楽しい。
頭の中で泡が弾けている。楽しさ、という泡が弾けている。
理由はない。ただ楽しい。愉快だ。なぜだか気持ちいい。笑えてくる。
「ガニガニガニッ、無駄ガニ無駄ガニッ、もはやそいつはおまわりさんなんかじゃなくって、この偉大なアヘガニ様のシモベへと変わっているんだガニィ~~~」
「ほひっ、ほひっ、なんじゃこりゃぁ~、なんじゃこりゃ~、わしゃいったい何をしとるんじゃぁ~っ、アへェ~~❤」
プライマルポリスはそう言いながらグイっと腰を突き出した。
スーツに覆われ、プロテクターに守られているはずの股間から、バチンと激しい音がなった。
カラン……むなしい音だけを地面に響かせ、プライマルポリスの股間の防御は取り払われた。そこには、ガチガチに勃起した肉棒が青いスーツにくっきり浮かび上がっていた。
「アヘェ~ッ、勃起ぃい!? わ、わし勃起しとるンかぁぁああ、アヘェェェ❤」
「どうガニかぁああそのポーズはきもちいぃぃガニかぁぁああ??」
「は、ハイィィ、気持ちいいィィッ❤ あ゛ッ、わ、わしは何を言って、ハヒ、はヒィ、ア、アヘェェエッッ❤」
「そうガニそうガニィ、そのポーズこそ、このアヘガニ様のシモベとして最も正しいポーズなんだガニィイッ!!」
プライマルポリスは両手にピースをつくり、顔を真赤にして、目を寄り目にして、がっぷりと四股を踏むようにガニ股になり、口から泡を吐いていた。
泥酔した親父がカニの真似をしておどけているような、無様で阿呆らしいポージング。それが、先程から正義のヒーロープライマルポリスがとっていた姿だった。
「体が勝手にピースしよるぅう❤ アへ、アヘ、でもこりゃ、とってもたまらァァァン❤ チンポコとっても気持ちええぇぇェェェ❤ アヘ❤ アヘェン❤ ガニ股チンポがビンッビンになっちまうぅゥウゥゥウッ❤❤」
プライマルポリスは己の滑稽さを理解しながら、脳内を埋め尽くす快感と幸福感でなにもできなかった。角山保という泡が大きく膨らみ、バチンと弾けて消えて……快感というシアワセだけが残っていく。
パチン。バチン。パチパチシュワシュワ。
「ハヘ❤ ハヘ❤ アァァヘヘヘェ❤❤」
怪人の目の前で変態的な姿を晒しているというのに、頭の中が気持ちよくって仕方がない。
もっとしたい。もっと晒したい。もっと従いたい。
もっともっともっと。
アヘ。アヘ。アヘ。
「アヘェッ???」
プライマルポリスはヒーロースーツの中が熱くなるのを感じた。触れてもいないチンポから、雄汁がダラダラ垂れていた。脚を少し動かすと、スーツの中にダラダラと溜め込んだ汁が広がっていく。
脚が動いている。
気がつけば脚が動いている。
だが、それは怪人に立ち向かうためでも、怪人から逃げるためでもなかった。
「アヘ❤ アヘーー❤ アヘェーーー❤」
プライマルポリスは両手のハサミをチョキチョキと開閉させながら、右へ左へサカサカと歩いていた。
股間の勃起を正面に向け、見せつけるように右に左に滑稽な踊り。見世物のようにプライマルポリスは横歩き。
「ガニッ❤ ガニッ❤ ガニィイ❤」
その笑い声は怪人からではなく、プライマルポリスの口から発せられたものだった。
低く男らしい声は、皮肉なことに……眼の前の怪人の笑い声によく似ていた。
「いいアヘガニ歩きガニィ、お前はなかなかスジがいいガニィッ」
「アヘアヘアヘェエ❤ こ、こりゃあ楽しいぃいーーーーッ❤ 体が勝手にぃいィ楽しいことしちまうでありますぅうう❤ ガニィィイイ❤❤」
体が勝手に動く。脳が勝手に考える。
あの泡を浴びたばっかりに、頭がアワアワブクブクで。
気持ちよさと間抜けなことしか考えられん。
待て角山保。
わしは警官だぞ、こんな場所でっ、こんな格好で、恥ずかしゅう思わんのか。
わしはプライマルポリス、正義のヒーローだぞッ。
ヒーローがこんな見られながら!
こんなポーズ!
こんなアヘガニ様を称えるポーズゥゥゥッ❤
アヘェ、アへェ❤なんかに従うなんてこと考えただけでチンポビンビン、ハサミチョキチョキ、ガニ股ガップリィ❤
あ、あ、ギンギンッチンポますますギンッギンッ❤
顔が戻らんチンポが戻らん頭が戻らんッ❤
もとに戻らんもどらん❤ もどりたくないぃぃい❤
もと……わし、もと、もと……ってなんじゃあァ❤
アヘ❤ アヘッ❤ アヘガニィ❤
わし、アヘガニになっちまう❤
わしもアヘガニになっちまうぅぅ❤
もと、もど、もどるうぅぅわし、わしは、わしの名前
わしのホントの名前はぁぁぁぁぁぁあああぁ❤
アヘ??
アヘ❤
「わしはぁあ、アヘガニ人間角山保ガニィィ❤❤ ガーニガニガニガニッッ❤❤」
こうして角山保は、アヘガニ人間第一号として、生まれ変わった。
「ガニガニガニィッ❤ チンポが勝手にきもちよぉおなるぅガニィ❤ ガニマタ最高ガニィッ❤ わしは今日から、アヘガニ怪人さまに忠誠をちかいますガニィッ❤ わしを洗脳してくださりありがとうございますガニィ❤❤」
角山は体をカニ歩きを駆使し、円を描きながらアヘガニへと近づくと、嬉しそうに両手――両ハサミをチョキチョキとさせてアヘガニを讃えた。
「よーしよし、ヒーローだからちょっと時間かかっちゃったけど、すっかりシモベにふさわしい態度になったガニねえッ!」
「ガニガニ❤ 無駄な抵抗をしてしまい、まっことに申し訳ありませんガニィ❤ これからはアヘアヘガニガニ精進いたしますガニィ❤」
頭を撫でる代わりなのか、アヘガニは角山の角刈り頭をチョキチョキとハサミで刈ってやった。
光栄に預かった、とでも感じたのか角山は体をブルブルと震わせながら、口の外に垂らした舌からダラダラよだれを垂らし、泡をブクブク口に作った。その姿は完全に怪人の虜。ヒーローとしての頼もしさどころか、警官としての知性も、人間としての尊厳すらも残っていなかった。
怪人が誕生した。
先ほど角山が拾い上げたもの、それがアヘガニの体から作り上げられた洗脳個体だった。
アヘガニの泡を浴びたが最後、男はアヘガニ人間へと改造されてしまう。
脳みそはカニ味噌同然にぐずぐずに蕩け、顔は常に眼球を上にむけたアヘ顔なる。その口からは常に涎を泡と吐き出し。ガニマタ以外の歩行はできない。勃起チンポを見せびらかせながら、両手でピースをつくりつづける。
それがアヘガニ人間だ。
「さあ、お前の使命をいってみるガニィッ!」
「ガニガニ!! わしはアヘガニ人間角山保ガニィッ! わし使命ッ、それは街中の男を、わしの泡でアヘガニ人間に改造してやることですガニィィイッ!!」
角山は警察官としての任務など、一瞬でゴミクズのように捨て去った。
既に頭にあるのは、同士を増やすことだけだ。偉大なるアヘガニ様に従うことだけだ。ただそれだけ、それが最もシアワセなのだ。
「さあ、そうとなったら早速働くガニッ!」
「ガニガニィッ❤ かしこまりましたガニィ❤ ――よぉぉおしまずはそこのおまえぇえ❤ わしのアヘガニバブルを喰らうガニィ❤」
角山は振り返った。そこには警官ヒーローの無様な最期を見たまま呆然としていた、ヒーローマニアの高校生が立っていた。この街が長い角山にとっては、顔も高校名もよく知っている少年だった。
だが、もう今の角山には彼の名前すら思い出すことはなかった。そんなことをは不要だった。やることはひとつ。
「ガニガニバブルチャーーージィイ❤」
角山は腰を振り、そのままグイっと突き出した。
「発射ガニィィインッ❤ ア゛ヘェ❤」
射精。
姿は射精のソレだが、角山の股間から噴き上がったのは、白い大量の泡状の精液だった。
「うわああ、や、やめろぉぉお変態親父っぃいいいい!!!」
高校生はその言葉を最期に、泡に飲み込まれた。
泡がシュワシュワと潰れ、ぱちんと弾けだす頃。
「―――アヘ❤」
その泡の中から、角山と全く同じポーズをした全裸の高校生が現れたのは言うまでもない。
「みんな待ちやがるガニィイ❤ わしのチンポコアヘバブルをくらうガニィ❤ あおまえ達もアヘガニ人間になるがにぃン❤」
完全に怪人として生まれ変わった筋骨隆々の警官ヒーローは、逃げる市民を笑いながら追い回した。
だがその進行は、ガニマタを維持したカニ歩きだ。横向きにカサカサと駆ける姿は、なんとも滑稽で、そして不気味であった。
勃起チンポとデカジリを全ての民家に見せつけながら、角山は道路を走っていた。
「アヘ❤ そうじゃぁあ、わしはもっと、ゴツい男を改造すんじゃァ❤」
ぐずぐずのカニ味噌になった角山の脳みそだったが、それでも人間の頃の脳細胞がすべて消え去ったわけではない。組織にとって重要なことは残っていた。すなわち、ゴツい男の集まる場所だ。
それ以外は、もう何もかも。妻の顔すら忘れていた。
「ガニガニィッ❤ ここはゴツい男がいっぱいガニィ❤」
警察寮にたどり着いた角山は、その中でもたっぷり雄っけが感じられる柔道場へ向かった。
ヒーロースーツを身に着けたまま、滑稽なガニ股ピースポーズであがり込んだ角山を見て、彼等は皆言葉を失った。
赤ら顔の変質者が角山だとは、誰ひとり素直に受け入れられなかったのだ。その一瞬のためらい、静寂が、街と警官の運命を別けた。
「ガニィッ❤ アヘガニバブル発射ガニィッ❤」
柔道場から響いたのは、男達の悲鳴と雄叫び、そして笑い声だった。
角山から逃げようとせず、取り押さえようとした男がまず泡にあたった。
男は素っ裸になると、角山の横で同じように四股を踏むほどのガニ股になった。
アヘガニ怪人三号の誕生だった。
そこからは、倍々になっていくように広がった。
嫌だ、もとに戻ってくれ、角山さん、助けてくれ。
叫び声は様々だったが、皆すぐに「アヘ」と「ガニ」を語尾にしてガニ股になった。
ヨダレと鼻水に混じり、不要になった脳汁が柔道場にダラダラと垂れ、弾けて弾けて消えていく。
「わしはアヘガニ人間角山保ガニィッ❤ 組織に永遠の忠誠を誓いますガニィィッ❤」
角山は叫び、腰を振った。
チンポからは直に泡が溢れた。
ぶくぶくぶく。
「ア゛ッヘッヘエン❤ 泡だし射精ぎもぢいぃいガニィイ❤」
射精をぶりぶり小刻みに連発するような快感に、角山は限界までガニ股になってヨガリ狂った。泡が一粒溢れる度に腰をビクビク痙攣させていた。
続く男達も名前以外は全く同じ言葉を吐いた。そして仰け反り、ガニ股でよがった。
その行列は異常だった。
逞しい男達は皆ガニ股で、カニ歩きをしながら、ピースにした手をチョキンチョキンと鳴らしていた。
アヘガニとして完全に覚醒した角山は、羞恥心も正義感も、そして倫理観も全て失った。
もはやアヘガニ様の指示も必要ない。この大軍勢で、みんなをアヘガニにしてやるのだ。
「アヘェッ❤ わしは幸せものガニッィイ❤」
誰もが裸で、誰もが勃起で、そして誰もが笑っていた。
アヘアヘ、エヘエヘ、笑っていた。
「アヘェ❤」
また射精代わりの白い泡が、チンポの先から飛び出した。
カニ人間たちは誰もが無様に、チンポをふりふり泡を飛ばす。
カニ味噌になった脳ミソには、名前と男のことしかない。
彼等は残り少ないその脳ミソを、組織のためだけに使うのだ。子供の鳴き声も、妻の懇願も、何もかもを聞き流し、カニ男達の行列は進んでいく。
変脳怪人アヘガニとアヘガニ人間の驚異は始まったばかりである。