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「ミスター・オイディプス……ボディビルか」


ある夜、Youhubで目的もなく動画を見ていると、おすすめ欄に目を引くライブ配信が混じっていた。

小さなサムネイル画面でも、筋骨隆々のビルパン男だというのがわかる。広くて薄暗い背景に、テカテカに輝く筋肉。フィットネス動画や、ネタ動画ではない、本気の大会シーンのようだ。

ここ最近急激に日本でもボディビル人気が加熱していると聞くが、いつの間にか、こういったおすすめ動画に上がるまでになったらしい。

コンテストの知識はあまりないが、こんな小さな画面で見るにはもったいない肉体であることは間違いなかった。勢いに乗ることも兼ねて、早速クリックをしてライブ配信に加わった。


『さて、それでは優勝者の清河選手と審査員川本先生とのエキシビションポーズです』

どうやらもう大会は終わってしまった後だったらしい。

清河と言えば……最近SNSでコスプレ写真を上げて話題になっていた選手だ。今日は派手な髪色でもなければ、特別な衣装のひとつも身につけていない。ビルダーの正装、パンツ一枚で画面に収まっている。

しかしこうして改めて見ると、肉体こそが一番の魅力なのだというのがわかる。

ビルダーの中では特別気になっていた選手でもあったので、そんな選手が優勝したというのは、色目抜きにも嬉しい事実だった。

「……ああこっちの川本って あの動画の人か」

もう一方の年上の男性も見覚えがあった。

動画ではきんにく☆博士という名前を使っていたが、本来はこの本名で活動して、海外でも高い評価を受けていた選手らしい。

現在はボディビルへの注目やフィットネスへの関心の高まりも相まって専門家としての解説動画などをしているらしいが、しかし驚くほどの立派な体つきだ。素人目には、現役の選手にもまったく負けていないように見える。

バズっていたのは性と筋肉の関係性の動画だったのだが、まさかここまで立派な体をしているとは、あのときには気が付かなかった。


エキシビションとはいえ、どうやらポージングは通常の競技のように行うものらしい。

二人並んだ筋骨隆々の男たちは、ボディビルと聞いてイメージする代表的なポーズを次々にこなしている。

SNSで見るような表情とは違って、真剣な顔立ちに本気の筋肉だ。

男の肉体を性的な目で見ている人間でも、これだけ出来上がった体を見せられると日々の鍛錬を想像し感動も生まれてくるものだ。

清河の優勝者らしい風格も、川本の年齢を魅力的にまとった肉体も、どちらも本当に見事なものだった。

『続いては、スフィンター・プロステイトです』

プロステイト……? 前立腺?

聞き慣れない言葉が聞こえてきた。なにかの例えだろうか。それにしても奇抜な言葉を使うものだ。

『しかし、私は画期的な変化だと思いますね。以前からビルダーパンツ不要説は議題に上がる所で。やはりすべてを見せるべきだ、とね。しかしそれ以上に男性器、そう、チンポも肉体の一部なのですから、これは現代の――』

……チンポ? 自分の耳を疑った。しかし、それ以上に驚くべきことが会場では起こっていた。


二人が会場の上で、腰に手を当てて……まるで邪魔者のようにパンツを脱ぎ去ったのだ。

「……え、なんだこれ、い、いいのか?」

カッと顔が熱くなるのがわかった。興奮で画面に顔を近づけてしまう。間違いない。本人たちが顔を晒したまま、コンテストの場で素っ裸になっている。

慌ててブラウザを画面録画する。トラブルやドッキリじゃない。配信へのコメントは、まるでこの状況を当然の展開としているみたいに淡々と続いている。

ただ素っ裸になっただけでは飽き足らず、画面の中の有名ビルダー二人は腰をグイと突き出して、ムクムクとチンポをデカくしだした。

あの有名な二人が、勃起している。

視界がグラつくような興奮だった。

解説の言葉は続く。

『しかし問題を指摘する声も上がっていますね。チンポが大きい選手があまりにも大会に有利なのではないかと。後天的にチンポサイズは増やしようがありませんからねえ』

『いやはやでも、川本先生は先日効率的なチントレ・オスイキ法の動画でペニスパンピングを紹介されていましたよ。やはり、チンポ増大もボディビルの一貫として、いち早く対応をしているようです』

『協会では薬品によるチンポサイズ画一化も検討されているそうですよ。しかしドーピング的要素として批判も上がっており……』

解説の言葉に合わせるように、川本の顔のアップが写し出される。誇らしさすらある眼差しで、勃起したままポーズをガッチリとキメていた。

『続いてフェーズ2、射精判定です。チンポの強さはすなわち括約筋の鍛えられ方にも大きく影響されますからね、ここは非常に重要なポイントです』

『はい。会場ではテンカウントが始まっています。時間以内、かつ最後の1秒で射精することが一流選手としての条件です』

10、9、8

会場内で観客たちのカウントが始まった。

射精。

その言葉を聞いた瞬間から、二人の表情が急に変わるのが見えた。

表情筋がピクピクと痙攣して、顔が徐々に笑みになっていく。

勃起の角度は最高潮で、汁がダラダラと気持ちよさそうに垂れ始めている。


『会場では5までカウントが進みました。いやあ、やはりここは両選手共に得意分野のようですね、日々のメディア露出を増やし、いち早くこの種目に適応しました』

『様々な手段で注目を集めて、この瞬間のためのトレーニングにしていると聞いております。現役の清河選手はファンとの交流を盛んに行い、そのときの言葉を思い浮かべているとのことですよ。どんどんチンポが大きくなっていきます』

『しかし川本も負けていませんね。現役復帰も噂されるほどの適正があるとの評判です。御覧ください、見事に表情筋が吊り上がっています。動く動く、チンポが何度も動いております』

4、3、2

会場内の声はどんどん大きくなっていく。

ソレに連られるように、ポージング状態のまま二人の竿はパンパンに勃起し、筋肉はガチガチにパンプし、指先ひとつ触れていないのに汁がドバドバ溢れていく。

1!!

おおきな声が、最後のカウントを叫んだ。

その瞬間、二人の有名ボディビルダーはビュルルと鈴口から雄汁をひねり出した。


おおおおぉおおおおおおおおおおおおお

歓声が上がる。

『二人同時、見事なフィニッシュです。自分の括約筋の力のみで前立腺を締め上げ、刺激し、射精に至るまでの快感を与えました』

『いいですねぇ いい! 鬼きてますねえ』

『すばらしいオーガズムフェイスです。御覧ください、これは甲乙つけがたいフィニッシュフェイスです』

『最高の盛り上がりとなったところで皆さんとはお別れです。それではまたの機会に。お相手は――』

二人の射精姿をジックリと写しながら、配信画面はゆっくりと暗転した。

突然の終了ではない。

あれは間違いなく、予定通りの映像として完結していた。

少し落ち着いたあと、画面録画を止めた。

「ちゃんと録れてる……」

今のは本当に現実だった、HDに残った映像が言っている。

SNSを確認したが、盛り上がりに対する感想や選手の称賛はあれど、変態的な行為に対する批判などは見受けられなかった。

本人たちのバズった動画や画像は全く変わらず、楽しそうにコスプレしていたり、真剣にフィットネスについて語っているものだ。

それに混じって、あの大会の射精姿がリツイートされて伸びていた。


……あれから一週間が経った。

ビデオファイルはおろか、Youhubの配信アーカイブまで当たり前のように残っている。

今日行われている世界大会でも「スフィンター・プロステイト」の競技は行われているらしい。

当日の配信を見返すたび、あの日の強烈な違和感は思い出すことはできるが実感が少しずつ薄らいでいっている。

世界に異変が溶けていっている。

ボディビルは、以前にも増してどんどん人気が上がっているらしい。


川本と清河
Kawamoto&Kiyokawa

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