雄性矯正センター No3.「川田堅一」 (Pixiv Fanbox)
Downloads
Content
息苦しい。
目を覚ますと真っ白な部屋だった。
手は後ろ手に縛られ動かすことができない。
長方形のキューブ状の部屋だ、ドアも窓も見当たらない。
しくじった。
弟が、所謂「洗脳商品」の被害を受けたと聞いたのは、丁度同じような事件に巻き込まれた同僚の後始末をしている時のことだった。
警察官の被害者が出た時点で他人事ではないと理解はしていた。だが、自分の兄弟にまで被害が及んだという事実は、病院のベッドで弟の髭面を見るまで信じられなかった。
退院してしばらく、弟から嫁さんが出ていったという報告を受けた。
あの事件が原因で、なにもかもうまくいかなくなってしまったのだという。
兄弟揃って別居とは、皮肉なもんだなええおい。そんなことを慰め代わり、皮肉交じりに言ってやることしかできなかった。弟からすれば、同じなものか、という気分だっただろう。
俺の方は仕事にかまけて娘の誕生日もほっぽりだした結果の、いわば自業自得だ。
俺の方はもう手遅れだ。
だが、弟は違う。
悪いのは、このクソッタレの犯罪と商品だ。
自分の娘たちに対する悔恨の念もあってか、俺はそれから私生活も投げ売って事件の捜査に打ち込んだ。
そんな弟、雄一との連絡が途絶えた。
いい大人の男だ、代わり映えしない自分の右手に飽きて一人旅でもしてやがるんだろう。嫌な予感を押し込むように、最初はそう考えた。
しかし、弟の家に訪問してみるとそんな楽観的思考は吹き飛んだ。拉致や殺人ではない。だが、長旅とも違う。事件のニオイがした。
家中をひっくり返して、ようやくひとつだけ手掛かりらしい走り書きのメモを見つけた。
「センター 積上山 矯正」
俺は上に報告をしたが、この件には一切関わるなと釘を刺されて終わった。
案の定だ。よほどデカいヤマなのだろう。
だが、だからといって俺は手をこまねいていられるような気分じゃなかった。
どうせ一生一端のデカで終わるのだ。せめて家族の危機くらいは動いてやろうじゃねえか。
――今思えば、とっくに警察組織にも手が及んでいたのだろう。
意気込んでセンターに乗り込もうした俺は、到着すら叶わずこうして捕らえられた。
「クソ……クラクラッ……しやがる……」
なにか仕込まれた。縛られていない足が満足に動かねえ。そのくせ、なぜか股間は最大限に怒張してやがる。
嗅覚や感覚が妙に鮮明で、唯一身に付けさせられた靴下からは蒸れた臭いがムンムンと立ち昇ってくるのがわかった。
くそったれな気分だ。だが、冷静さを欠いてはいけない。絶望的な状況だが、なんとかここから脱出し、マトモな警察官に報告すりゃあなんとかなる。
俺が決意を固めたところで、無機質な合成音声が狭い部屋に響いた。
『こんにちは こちら雄性矯正センターAIオイディプスです あなたの深層雄性度数をチェックします』
センター、矯正。弟のメモの通りである。この真っ白な部屋は、俺が向かっていたセンターに違いなかった。そして、事件の首謀者も。
『……チェック終了 あなたの雄性度数は19%です 子作りを経験した人間としては著しく低い結果です 当センターはあなたの収容を拒絶します』
「ふざけたこと言いやがって、何が雄性だ、何がチェックだ。このセンターはなんだ、弟がここにいるのはわかってんだぞ、今すぐここから出しやがれ!」
『NO.2-K.Y.は優秀な培養個体です その申請を受け入れることは不可能です 最終チェックの後 あなたは記憶消去か乳海入水の処理がなされます どちらでも自由に選択してください』
会話は出来るが、意思の疎通ができない。俺はいよいよ焦った。記憶の消去。おそらく本気で可能だからこんな平然と俺に「選択しろ」などと偉そうなことを言えるのだ。
「くそ、離せ! やめろ、弟を返せ! 後生だ、頼む!」
『最終チェック完了……最重要項目 マスターピース発見 足部分から基準値を超える臭いの発生を確認』
挙句の果てには人を臭いと言ってくる始末だ。
俺は顔をしかめて言い返した。
「ふざけやがって、この足が臭いってか、当たり前だ、刑事の足だぞ。この足で犯人上げてんだ、何か文句でもあるかこの野郎が!」
いつか妻に向かって叫んだ言葉がそのまま出た。
『とても素晴らしい』
しかし、機械の返答は妻と違っていた。
機械の音声とは思えないような、喜悦の混じった、なにか待ちわびていたものを見つけたような、嬉しそうな声に聞こえた。
それが却って、気味が悪かった。
「く、くそ! やめろ! おい! それ、何を……おい! 機械! やめろ!」
『あなたの足臭は尋常ではありません これは当センターに入所しているどの雄性のものよりも強烈です センターはあなたを必要としています センターはあなたを待っていました センターはあなたを祝福します』
狭い天井から自律し動く管がゾロゾロと俺の足に這い寄ってくる。俺の臭いを「収集」しようとしているのだ、真剣に。
恥ずかしさで顔が焼けるように熱い。偉そうに言ってみせたのとは裏腹に、やはりコンプレックスではあった。そこを褒めらるというのは、むず痒いような、言いようのない感覚に包まれる。
そもそもこの状況はなんだ、全てが思考を混乱させる。考えが何もまとまらない。
『センターはあなたを祝福します ありがとうございます これまでの全てがあなたの足臭を肯定するためにあったとそう考えて下さい あなたのこれまでに感謝します あなたの激臭に感謝します ありがとうございます』
狭い箱の中がわけのわからない機械音声で包まれる。
混乱する、混濁していく、機械の声で頭が割れそうだ。感謝。肯定。祝福。そんな言葉が俺の頭に流れ込んでくる。
虚ろな否定を続けないと何もかも溶けて消えそうだった。
『収容に際し あなたの【男性性】を【☓☓☓性】に転換します 協力ありがとうございます」
一方的な宣言の後、狭い箱の中の空気が変わった。
生暖かく、鼻を付くような空気。
肌に絡みつくような臭い。
むせ返りそうな湿り気。
「うっ、く、臭い……臭ぇえ!」
『あなたから収集した臭気をここに満たします あなたが人生をかけて作り上げた臭気を注入します』
俺は顔を歪めた。これが本当に俺の臭いなのか? 臭え、臭すぎる、わけがわからねえ!!
『否定してはいけません あなたの全てです あなたの仕事や あなたの家族 あなたの愛が あなたの足を作り上げました あなたの臭いはあなたの全てです』
これが俺の全て。この臭いが。この男臭すぎるものが。
これが俺。この部屋に満ちているのが俺。
臭え。くせえ。だが、仕方がない。
俺は刑事だ、風呂に入らない日だって続く。足が蒸れるのも仕事のうちだ。
だからこの臭いは、俺だ。これは俺の臭いだ。――いや、臭い! 違う、ただの足臭だ! いや、でも、これを否定するのは俺を否定することにも……いや違う、ああ、なんだ、どうすりゃいいんだ、どうなってるんだ。
『この臭いこそまさに あなたの雄性の象徴です』
俺は息を吸い込んだ。
意識が遠のく。臭い。ああ、だが、これは、やっぱりそうだ。これは、やはり誇るべきなのだ。
白い小部屋を、全て染め尽くそうとしているこの足臭。
「足、くつした……くさい、におい、いや、俺は……家族を……助けに……この臭いこそが、助け……に、なる、のか………」
俺はここに家族を取り戻しに来た。その結果がこの臭い。
男としての俺が、この臭いに詰まっていたのか。これを否定していたから、俺は嫁を、娘を、弟を失っていたのか。
『認知してください あなたの雄性を認知してください その軌跡こそがこの臭いなのです』
「あぁ……あぁぁ………ん?」
ズッ……!
呆けていた体に突如、何かが入ってくる感覚があった。
目を下に向ける。天井から伸びた管とその先に付いた張り型が、ぬるぬると水のようにうねって俺ののようにチンコに侵入しようとしていた。
「え………、あ、ああああ……やめ……う、んぉ……おぉ……」
元より動かない体、部屋の全てを満たす足臭によって呆けさせられた俺に抵抗できるだけの力はなかった。それに、その発想もなかった。
『あなたの体に【雄性】と【歓び】を結びつけます』
尿道の中を異物が上下している。
なにかが出るような感覚。何かが入ってくるような感覚。
俺の体が塗りつぶされていく。全部犯される。男の象徴のチンコがなにかに犯される。
ズンズンズン、ズン。犯される。チンコが犯される。男の俺が受け入れる側になっている。それが、心地よい。これが雄性ってやつなのか。この度量が、この男らしさが。
「……あ、ぁだめだ、あ、あ、あ、なん、だ、ぅぉおおおぉ……っおぉ」
ズルズルと尿道を逆流する感覚、穏やかに止まらない射精が続く。そんな錯覚。甘い刺激が刑事の思考をグチャグチャにかき乱す。
とすん、とチンコの根本に異物がたどり着いた感覚がキた。
ぴりり、と電流のようなものが流れる。
あ、出る。出る。わかる。俺のが出る。奥に当てられて、イク。
「――んぉ、……おぉ?? おぉぉぉおおおぉおおお!?」
俺はじわじわと漏らすように雄汁を出した。
扱いたわけでも、腰振ったわけでも、ナカに入れたわけでもないのに、それなのに、人生で一番の快楽だった。精液がズルズルっと管を伝い、天井へと登っていく。
「んぉおっ、すご、お、ぉぉおおぉ、奥、当たる、当たる、おぅう んぉお おっ おっ おっっ」
ひたすらに気持ちが良かった。
射精を繰り返して呼吸が荒ぶり、肺と鼻と脳に足臭をどんどん嗅いでしまう。
それによりもっと気持ちよくなってしまう。誇らしい俺の臭い、臭いで精子出てる、俺のガキ汁が、どんどん、どん、どどどどどどどど
「お、ぉお……んぅうぅ……でる、でてる、でるでるぅう」
区切りの無い射精が続く。
奥を突かれて、ナカに入られて、大事なものを溜めて、そして出す。
その快感。
ああ、これが親になるってことなのか。
これが雄。これが雄になるってことか。雄って気持ちよすぎるだろ、こんな、こんなことから俺は逃げてたのか。あぁ……いい、シアワセだ。
呼吸と共に、鼻を鳴らす度に管を伝い精液が天井へと登っていく。
俺はその様が、ひたすらに愛おしかった。俺の精子たちが、どんどん出ていく。いいぞ、いいぞ、元気だぞ、濃くてたっぷり、強くて男らしい。さすが俺の子だ。いいぞいいぞ……あぁぁ、あぁイク。またイク…………。
俺は、俺たちは雄になっていく。肩を並べ、大いなる……大いなる……?
満足感で押しつぶされそうだった。雄らしい逞しい体躯、頑張り臭を放つ両足。
最早何を目的にここに来たのかも忘れていた。
俺は足が臭ければそれだけで雄なのだ。それだけで子供を作れるとわかってしまった。
『おめでとうございます あなたの雄性度数が120%を超えました 最重要マスターピースとして当施設の永久入所を行います』
「ああ、わかった、そうだな、そうしよう……それがいい……」
俺は今、センターの奥へと運ばれていっている。
途中いろんな雄達と目が合った。皆幸せそうだ。ああ、そうだ俺たちは皆雄。皆で雄。俺たちは仲間だ。これから頑張ろう。
――途中、俺と似たような顔をした奴がいた。
ああ、いいツラしてるな、アイツも、へへ………。
よし、これからももっと頑張っちまうぞ。