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 笹川、泉、森本に付き添われて、康一は家に帰宅した。彼女達は康一のママの前で、事の一部始終を説明してみせた。

「ふふ、康一くん、女の子の家でトイレに行くのが恥ずかしくて、また我慢しちゃってたみたいでー……。クスクス、おトイレ、また、間に合わなかったんです」

 我慢勝負のことも、最後に行われた『見せびらかし』のことも伏せられた。康一も女の子にいじめられていることを言い出せず、沈黙した。

 三人の女の子はママと康一の羞恥心を掻き立てるようにして、随所で耳障りな忍び笑いをもらしてみせた。ママの前で女の子達に自分の失敗をさもおかしげにクスクスと笑われ、康一の顔は自ずと羞恥の色に染まる。息子と息子のしでかした失態が、同級生の女の子達にせせら笑われる光景を前にして、ママも恥を感じずにはいられなかった。女の子達から誕生日プレゼントとして、たくさんのオムツを贈られたことを知って、ママの怒りはついに頂点に達した。

 笹川達が姿を消すやいなや、康一はママに家の外に放り出された。どうすることもできず、家の外で座り込んでいると、中学校の制服を着たお姉さんに声をかけられた。あのお姉さんだった。

「あー、康一くん、またおもらしー? あはっ、そりゃあ、ママも怒るよー。だって、今朝はおねしょもしちゃったんでしょー? おねしょ布団、干してあったからすぐにわかったよー? そういえばね、あっちで康一くんのお友達の女の子達、笑ってたよ。おもらしおもらしってね。幼稚園ぐらいの子達もいてね、康一くん、いーっぱい馬鹿にされちゃってた。ふふ、かわいい子達なのに、残念だったね」

 康一が何も言い返せずに小さくなっているだけなのを確認してから、お姉さんは「それじゃ、おもらしの罰、頑張ってねー」と姿を消した。

 遠い向こうの方から、洋子のけたたましい笑い声が聞こえた気がした。目を上げると、十二歳の誕生日の太陽が、遠い茜色の空に沈みつつあるのが見えた。


 次の日の朝も、康一の布団の上は洪水だった。

 女の子達に油性マジックで描かれた股間の落書きは、まだほとんど消えておらず、康一にはそれが呪いのごとき働きを示したように思えた。二日連続の夜の失敗は、それほどに、康一にとって信じられない出来事だった。

 ママは烈火のごとく怒った。前の夜、康一は今日は大丈夫だからオムツだけは着けたくない、と意地を張った。そのことを責めたのだった。

 康一が家を出ると、干されたおねしょ布団を見つけた集団登園中の洋子と美々が屈託のない大声を上げていた。

「またおねしょ! 二日連続おねしょ! ほら見て見て、あれねえ、六年生の男の子がやったおねしょなんだよ。康一クンって言うんだけどねえ……」園児仲間に対して得意げに話していた洋子が、康一の姿を見つけるやいなや表情を輝かせる。「あ! あのお兄ちゃんだよ。ほら、今、家から出てきた人。あれがおねしょの康一クン! 六年生のおにいちゃんのはずなのに、まだおねしょも治らない、おねしょジョーシューハンなんだよ!」

「もー、康一クン、どうしてオムツしなかったのー? どうせおねしょしちゃうんだから、意地張らずに、オムツ着けたら良かったのにー」美々が苦笑を浮かべた。

 康一は幼稚園児達の嘲笑の的になりながら、逃げるようにその場を後にするしかなかった。

 その日の晩、康一はママに厳しく責められ、女の子達からの悪意ある誕生日プレゼントを初めて股間にあてがった。自分では漏れないよう上手く着用できる自信がなかったため、恥を忍んで、ママに着けてもらった。

 赤ん坊と同じ姿勢で、ママにオムツを当ててもらう最中、女の子達のからかう声が聞こえた気がした。

「やだあ、本当にするんだー。康一くん、わかってるのお? それって、本物のオムツなんだよお? 康一くん、十二歳にもなって、オムツのお世話になっちゃうんだあ。オムツして眠るっていうことは、今夜も失敗する予定ってことだけど……そうなんだあ。そういう予定なんだあ、ぷぷっ」

「あははは! ママにオムツしてもらってんの。サイテー! あっ、ほらほら、おちんちんがオムツに包み込まれちゃうよ。いいの? 最後にママにオムツを当ててもらった年齢が十二歳に更新されちゃうよー……。ははっ、あちゃー、出来上がっちゃった。十二歳オムツ男子『康一くん』かんせーい」

「ふふ、オムツ再入園おめでとう、康一くん。女の子達みーんなに笑われちゃっても、治らないものはしょうがないよね。オムツ卒業なんて、お子チャマおちんちんの康一くんにはあまりにも難しすぎるもんね。ママに当ててもらった私達のお誕生日プレゼントの中で、毎日懲りずに失敗し続けていいからねー。ずうっと、ずうっと、失敗し続けてね。ずうっと、ずうっと、馬鹿にし続けてあげる」

 次の日の朝、初めて、女の子からの悪意ある誕生日プレゼントの中に失敗した。前の夜に増して、女の子達の嘲りの声が聞こえた気がした。

「やだあ、本当にしたんだー。どーお? 私達の誕生日プレゼントの中で、おねしょしちゃった気分はー? あはっ、落ち込んじゃったあ? どんどん自信がなくなっちゃうねえ。今日もオムツに助けてもらわなかったら、お布団びっしょりだったもんねえ。こうなっちゃったら、今晩も絶対オムツしないとだねえ」

「あーあ、サイテー。ほんとに使っちゃったんだー、私達のプレゼント。明日もオムツ、明後日もオムツ、ずうっとオムツ。一体、いつになったら、オムツを外せるの? 洋子や美々ちゃん達に追いつけるのー?」

「ふふふ、同級生の女の子にもらったオムツの中でするおねしょ、気持ちよかったあ? あらら、涙ぐんじゃうぐらい屈辱的、だったのお? だいじょーぶ、じきに慣れるよ。あ、ほらほら、ママが来る。今日は叱られなかったらいいねえ。でも、無理かなあ。お布団を汚さなくても、おねしょはおねしょだもんねえ」

 そして、その幻の嘲笑を受けて苦痛であるはずの自分の身体が、奇妙な反応を示していることにも、また、気づいた。

 康一の夜の失敗は常態化した。同時に、女の子達からの悪意あるプレゼントへの依存も深まった。康一は股間の落書きさえ消えれば夜の失敗も治る、と信じるようになった。全てこの落書きの呪いのせいで起きていることで、落書きさえ消えればこの悪癖も一緒に消えてなくなるに違いない――何の確証もないことだったが、そうでも考えないと気持ちを保てなかった。

 ある天気の悪い日、数日前の夜に汚した女の子達からの悪意あるプレゼントが乾き切らなかった。手元に乾いたオムツがなくなってしまった康一は、ママに言われ、ついに洋子のお下がりである紙オムツのお世話になる羽目に陥った。翌朝、自分が洋子の紙オムツの中でしてしまったことを知った瞬間、洋子の素っ頓狂な声が脳裏に再生された。

「やったあ。やっちゃったあ。六歳の洋子のお下がりオムツの中で、十二歳おねしょ。きゃはははは! なっさけなーい! 二度と治らなくなっちゃえー」

 また別の日、同じ理由で、美々のお下がりにもお世話になった。美々の控えめな、でも、ほのかな毒を含んだ声が頭の中に響いた。

「あ、美々の、使っちゃうんだ……。くすくす、幼稚園の子はみんな卒業してるのに、六年生の康一クンは紙オムツに逆戻りなんだ。いいよ。美々のお下がりオムツ、ぜーんぶ使っちゃっても。足りなくなっちゃったら、もっとちっちゃい卒業した子にお下がりオムツをもらったらいいね。アハハ」

 口惜しかった。現実でも洋子や美々に会う度、おねしょのことを当て擦られた。おねしょ布団がなくなったのはどうしてなのお、代わりにオムツみたいなのが干されてるのはなんでなのお、と意地悪く聞かれた。笹川や泉や森本からは「私達のプレゼントの使い心地はどう? どうせ、ママにオムツしてもらってるんでしょー。今度は私達がオムツ当ててあげよっかあ?」などと意地悪く笑われた。口惜しさはあった。口惜しさはあったけれども、あの二度目の女の子の家での失敗以来、康一の心には変化が生まれていた。限界失禁の圧倒的快感に色付けられた体験の記憶が、同時に味わった屈辱や不快感、女の子の嘲弄と併せて脳に焼き付いてしまい、無意識にその再現を求めるようになっていた。女の子の悪意あるプレゼントや、幼稚園児のお下がりオムツの中でする失敗も、康一の脳を狂わせた、あの快感に溢れた屈辱を想起させるものだった。

 康一自身はそれでもなお、あの強烈な記憶から遠ざかり、再発した悪癖が快癒することを願っていた。

 股間の落書きは日に日に薄れていき、そして、完全に消えた。消えてから、二日が経過した。三日が経過した。治らなかった。

Comments

エックス

お疲れ様です! 今回もいいですね… 失敗の予定とか、再入園とかの言い回しが良かったですね。これも全部康一の妄想なわけで…。 ふと思うと、ママは股間の落書きを見ながらオムツをしていたんですよね…

無能一文

いつもコメントありがとうございます。 お気に召したようで何よりです。 が……ええと、股間の落書きにつきましては、最初に書いたバージョンと付け足した部分との間に発生した不整合でして……端的に言えば、ただのミスですねー。すみません。 とりあえず、すぐには直せそうもないのでこのままにしておきますが、いつか直すかもしれません。