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 それは、変わった引っ越し業者だった。


 転職に伴って引っ越しをすることになった僕。ネットの検索でたまたま見つけた、その引っ越し業者のサイトは、まるでホストかキャバクラで指名相手を選ぶかのようなものだった。

 ずらりと並んだ、屈強な男達の全身の写真とプロフィール。それこそホストのように容姿端麗で、細身でありながら筋肉質なイケメンから、ラガーマンや柔道家のような厳つい顔付きのガチムチに、相撲取りのような巨漢の男性までもが揃っている。


 そして、その業者のキャッチフレーズのように書かれた言葉はこうだった。


「引っ越しを機に、当社が揃えた肉体へとあなたも引っ越してみませんか?」


 正直、怪しいと思えるその文章には、胡散臭さしか感じなかった。しかし、料金表に記載された数字には、惹かれるものがあった。この業者は単身引っ越しであれば、他の業者よりもかなり格安になるよう設定されていたのだ。しかも荷物の量に応じて割引が適用されるという。これなら、かなり安価で引っ越しを済ませられるかもしれない──。

 そう思った僕は、とりあえず見積もりだけでもお願いすることにした。選んだのは187センチで、100キロ超級の元ラグビー選手だ。ラグビー界でも有名な大学出身で、高校時代は花園でも活躍したとある。顔は黒い線で目の部分だけ隠されていたが、魅力溢れる顔立ちなのは明らかだった。


 後日連絡があり、実際に会って話を聞くことになった。現れたのは、二十代前半と思しき大学生くらいに見える若い男性で、サイトにあった通り確かに鍛え上げられた体に、顔も想像通り精悍な男前といったところだ。

 彼は、平賀英幸(ひらが ひでゆき)と名乗った。僕は英幸に、引っ越し日時や作業時間などの条件を伝え、見積りを出してもらった。すると彼は僕の要望をあっさり受け入れ、金額を提示した。提示された額は、予算より遥かに安いものだった。思わず疑ってしまった僕に対し、彼は爽やかな笑顔を浮かべながら言った。


「俺たちの仕事は、お客様に満足していただいてナンボですから」


「……ありがとうございます」


 彼の笑顔を見た僕の背筋に、なぜかゾクゾクと悪寒が走った。



 引っ越し当日、英幸が軽トラに乗って一人でやってきた。普通の一人暮らしなら、ベッドやらタンスやらなどの家具があるため、もう少し大きなトラックが必要だろう。だけど僕が借りていた部屋は、元々備え付けられていた物がほとんどなので、軽トラでも十分すぎるほど荷物は少なかった。だからと言って、一人だけで運べるのか不安になったが、彼は何の問題もなく運び込んでしまった。

 荷物を全て積み終えると、僕たちは転居先へと向かった。引っ越し先は、駅から少し離れた住宅街にあるマンションの一室だ。部屋の間取りは2DKで、六畳の洋間と四畳半ほどの和室がある。僕は玄関に入ってすぐ横にある和室に、ダンボール箱を置いた。荷物は大した数もなく、全て梱包済みだったので、すぐに片付けることができた。財布を取り出して、英幸の方へと向き直った瞬間、僕は驚きの声を上げた。


「えっ……!?」


 いつの間にか英幸は、ズボンをずり下げながらこちらをうっとりとした表情で見つめていたのだ。一人で荷物を運んだせいか、真っ白なTシャツは汗でビショビショに濡れており、透けた胸板からは赤らんだ乳首がツンと浮かび上がっている。下着はケツワレを愛用しているようで、彼の股間の膨らみによって布地が引っ張られ、その中身の形までもくっきりとわかるようになっていた。僕は呆気に取られて声も出せず、ただただその姿を見つめることしかできなかった。


「俺の体、どうっすか? 俺の体に引っ越ししたくなりましたか?」


 英幸はそう言いながら、自分の体を誇示するように両手を広げて見せると、ボディビルダーのようにポージングを取り始めた。確かに彼の体は、写真で見る以上に魅力的だ。胸板や腕の肉は厚く盛り上がり、若い肌ははち切れんばかりに張り詰めている。こんな男の体になれたなら、毎日興奮して過ごせそうだ……いや違う! これは何かおかしい!


「あ、あの……、あなたの体に引っ越すってどういうことなんですか?!」


「言葉通りっすよ。あなたが俺の体に引っ越して、俺が代わりにあなたの体に引っ越す。要は体を入れ替えるんです」


 僕は耳を疑った。そんな馬鹿げた話が信じられるかと思ったのだが、目の前で当たり前といったように告げる彼を見ると、それが本当のことなのではないかと信じそうになってしまう。


「じゃあその、あなたと入れ替わった僕はどうなるんですか?」


「普通に生活することになりますよ。見た目も名前も、存在すらも俺と入れ替わったままでね。俺はこの部屋で、あなたの代わりに新しい人生を始めることになります」


「ちょ、ちょっと待ってください。そんな簡単に、他人と体の交換なんてできるわけないじゃないですか……」


 僕の言葉に英幸はニヤリと笑うと、おもむろにシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になった。そして今度はズボンに手をかけ、ゆっくりと下ろしていく。現れたのは、筋肉で盛り上がった見事な太腿だ。


「ふぅ……、実は俺、この会社に就職してからこの日のために半年以上前からジムに行って、体を鍛えてきたんですよ。おかげでこんなムキムキのボディになっちゃって、最高の気分です。ほら、見てくださいよ。腹筋だってバキバキに割れてるし、今までは剃ったりしてたんすけど、腋毛も生やしました。これも全て、入れ替わってくださるお客様のためなんです! この体をお客様が使ってくださるところを想像しただけで、勃起してザーメンぶち撒けちまいそうっす!」


 英幸は興奮しながらそう言うと、そのまま勢いよくパンツをずり下ろし、僕の方へと見せつけるように腰を突き出した。そこには黒々と茂った陰毛が生え揃い、太ましい陰茎がぶら下がっていた。それはあまりにも立派で、まるで巨大なフランクフルトのようにも見える。だがその堂々たる見た目に反し、女性との性行為があまりないのか、日焼けしていない肌と同じ色をしているのが、さらに欲情を掻き立てる。


「さあ、お客様も!」


 その股間に釘付けになっていると、やにわに近付いてきた彼が強引に僕の衣服を脱がしていく。汗ばんだ彼の手のひらが触れるたび、ゾクゾクとした感覚が背筋を走る。体育会系の男性がかいた汗の香り。それに香水の混じった匂いが鼻腔を通り抜け、ガツンと脳髄を刺激する。気付けば、いつの間にかズボンやトランクスもずり下ろされ、僕たち二人は下半身が剥き出しの状態で向き合っていた。英幸は僕の性器を凝視したあと、小瓶に入ったケミカルな色をした飲み物を差し出してきた。


「じゃあ、これを飲んでください!」


 にこやかに告げると、英幸は小瓶の中のドロリとした液体を飲み干した。その様子を見ても僕はどうにも踏ん切りがつかず、受け取ったものをじっと見つめていると、彼は僕の手から小瓶を奪って口に含み、唇を重ねて流し込んできた。口移しで与えられる甘ったるい味。初めての男性との口付け。舌を絡められ、彼の荒い鼻息が顔にかかるたびに頭がボーっとしてくる。飲み込めなかった唾液が、口の端を伝ってこぼれ落ちた。


「どうですか? 効いてきましたか?」


 長いキスを終えてようやく口を離すと、彼が尋ねてきた。その彼の顔が赤らんで見える。僕の顔もまた熱を帯びているだろう。体全体が熱い。心臓がドクドクと脈打ち、全身の血が激しく巡っているのを感じる。今飲まされた薬のせいで体が火照り始めたようだ。


「そろそろ、いいみたいっすね。あとはお互いの精子を摂取し合えば、引っ越し完了です!」


「へっ?!」


 情けない声を出した僕のことなど気にすることもなく、彼はシックスナインの体勢になると僕の萎えたチンポを口に含んだ。温かく、ヌルリとした彼の口の粘膜に包まれて、僕は一気に気持ち良くなってしまう。


「うあっ……!! な、何を?!」


 思わず声を上げる僕に、英幸はさらに強く吸い付いた。その快感で僕のチンポは瞬く間に硬くなっていく。それを察した英幸は、フェラチオをしつつ、僕の尻に手を回してきた。割れ目に指先を入れられて、柔らかなアナルが優しく撫でられる。それだけでも感じてしまいそうだというのに、次の瞬間には彼の太い中指が、ぐいと力任せに押し込まれた。


「くふぅっ!!」


 僕はたまらず喘ぎ声を上げた。痛みはない。これまでにディルドを挿入して、オナニーをすることは何度もあった。だが、初めて受け入れる男の人の中指。それも節くれだった太い指。そんなものが入り込んできたのだ。圧迫感はあるが、それがたまらなく刺激的だった。

 そうしている間にも、英幸は容赦なく僕の陰茎を喉奥まで頬張るので気が狂いそうになる。さらに、その太く長い指で腸内を引っ掻かれれば、自然と腰が前後に動いてしまう。気付けば僕の方からも必死になって彼の性器にむしゃぶりついていた。

 二人分の汗の匂いと濃厚な雄の香りが混ざり合い、室内を満たしていく。ジュプジュプという卑猥な水音が耳を打つ度に興奮が高まる。こんな状況なのに僕の体はすっかり発情してしまい、頭の中ではただひたすら早く終わって欲しいという思いと、もっと続けていたいという相反する思いで葛藤が起きていた。だがその考えすら吹き飛ばすほどの快感に、次第に意識が朧気になっていく。もう何も考えられない。


「んっ……ぶふぅ、お客様。 イク時は、ちゃんとおっしゃってくださいね」


「おっしゃるもなにも……、あぁっ! もう、だめぇ! イク! イッちゃうぅ!!」


 ドクン! どぷどぷっ、びゅくびゅるるるるーー!!


 僕の肛門に入っていた彼の中指が、グリグリと奥深くを刺激した瞬間、全身を貫くような衝撃が走った。それは今までの比ではなく、一瞬で絶頂に達してしまった。ビクビクと震えながら勢いよく放たれた僕の精液が、彼の口内へと放出されていく。それを感じとると、英幸は僕の性器を強く吸引した。あまりの気持ち良さに頭が真っ白になった僕は、しばらく射精を止めることができなかった。

 彼の方はといえば、ゴクゴクと喉を鳴らしながら僕のザーメンを飲み込んでいく。やがて全てを飲み終えると、満足そうな吐息とともに、彼もまた硬くなった肉棒を震わせて僕の口腔内へと熱い精液をぶち撒けた。ドロリと粘ついた液体が舌の上に広がり、青臭い風味が広がる。しかし嫌悪感はなく、むしろ愛おしささえ感じるほどだ。僕は夢中で彼のものを舐め取り、最後の一滴まで搾り取るように吸い上げた。


「ふう……。お疲れ様です!」


「はぁ……はぁ……。こ、これで、終わりですか?」


「はい、ありがとうございます。では、こちらへどうぞ」


 英幸に促されて、床に敷かれた布団の上に二人並ぶと、下着を履いただけの状態で手を繋いで横たわった。ごつごつとした男らしい手に触れているだけでドキドキしてしまう。


「それじゃあ、始めますよ。目を閉じてリラックスしてくださいね……」


「はい……お願いします」


 言われるままに目を閉じる。するとすぐに眠気が襲ってきた。僕たち二人は同時に、そのまま深い眠りに落ちていった。



「──お客様、目を開いてください」


 英幸の落ち着いた低い声が耳に──、と言うよりも頭に直接響いたように感じた僕は目を覚ました。フワフワとした心地良い浮遊感の中、ゆっくりと瞼を開く。そこには英幸の顔があった。その顔も、体も薄く透けていて後ろの壁が見えている。まるで幽霊のようだ。僕たちの体は空中に浮いており、眼下には手を繋いだまま目を瞑っている僕たちが見えた。どうやらこれは幽体離脱というヤツだろうか?


「お客様にはこれから、引っ越し先である俺にふさわしい姿に変わってもらいます」


 幽体となり生まれたままの姿になっている僕に近付いてくると、彼もまた裸体になった全身を密着させて、唇に吸い付いてきた。先ほどのキスとは比べ物にならないくらい激しいディープキス。互いの唾液を交換し合うかのように舌を絡ませあう。その最中にも、彼の大きな手が僕の体をまさぐり始めた。胸を揉みしだいたり、乳首を摘んだりと、あらゆる方法で刺激を与えてくる。そのたびに僕は甘い声を上げて身を捩らせた。全身を雷のような快楽が駆け巡り、頭の中に霞がかかったようになって思考が鈍っていく。

 いつの間にか、僕たちの肉体は完全に重なり合っていた。触れ合っている部分が熱を持ち、溶け合ってしまうのではないかと思うほどに。そして、実際に二人の体はドロリと溶け、融合し始めた。絡まっていた舌が一つに繋がり、股間でそそり立った二つの肉棒が一つの巨大な竿へと形を変えていく。それはまさに、男性の象徴とも言うべき立派なものだった。さらに、僕の背中へと回されていた丸太のように太い腕が、巨木のごとき両足が融合すると、最後に勢いをつけて彼の顔と上半身がドプリと音を立てて、僕の肉体の中へと侵入してきた。


「んぐぅ! はぁ……はぁ、これが、僕の……身体……!?」


「そうっすよ。今からあなたが、俺になるんです」


 頭の中で英幸の声が聞こえると、一つになった僕たちの体が、二の腕ほどもある巨大な男根を扱き始めた。僕が扱いているのか、彼が扱いているのか、もはや分からない。だが、それが凄まじい快感を生み出していることだけは確かだった。全身が性器になってしまったかのような錯覚を覚えるほどに気持ちが良い。


「「あっ! ああぁっ! すごいぃ!! イッグゥゥゥウ゛ウ゛ウ!!!」」


 全身がビクビクと痙攣し、視界が激しく明滅する。


 ドピュッ! ブビュルルルーー!! ビューーー、ビュッ、ドクンドクン!!


 僕たちは一つになった肉棒を震わせて、激しく射精した。二発三発、四発五発……、それでもまだ止まらない。肉棒からは大量の精液が放出され続けている。まるで、蛇口を全開にした水道管だ。空中には見る見るうちに精液溜まりが広がっていく。それと同時に、肉体は嵩が減るように萎んでいった。


「はぁ……はぁ……、な、なんなんだこれ……? こんなに出るなんて……!」


 長かった射精を終え、肩で息をしていると、人間の体積ほどもある目の前の精液の水溜まりが、グニャグニャと形を変え始めた。モーフィングのように動くと、徐々に人の形になっていく。胴体のような塊から手足が生え、頭が飛び出すと顔が造形されていく。やがて完成したその姿は──、僕そのものだった。そしてその様子を見ていた僕の体もまた、再び変化を始めた。ゴキゴキという音が聞こえそうなほどに骨が軋みだし、全身の筋肉が膨れ上がる。


「あ、熱い……!」


 四肢の筋肉が盛り上がり、パンプアップされたことで血管が浮き上がる。肩がメロンのように膨らむと、胸板が大きく張り出し、腹が綺麗に凹凸を作って割れていく。同時に肌の色も日焼け跡がくっきりとわかる、ツートンカラーへと変色していった。その見た目はまるで、プロレスラーのようだ。そして何よりの変化は──、下半身にあった。尻がボリュームを増すと、肉棒が肥大化しズル剥けの亀頭が現れる。巨根であるにもかかわらず、使い込まれていない肌色のチンポ。それはついさっき僕が咥えたばかりの、英幸のチンポだった。


「こ、これはいったい……!」


 声を出した僕は喉元を押さえた。耳に届いた声が野太く低いものになっていたのだ。慌てて体中を見回すと、全身には先ほどまで無かったはずの毛が生え揃い、股間にも黒々とした陰毛が密林を作っている。どうやら、僕の幽体は完全に英幸のモノへと変化してしまったらしい。


「おめでとうございます。お客様は無事に、俺の肉体にふさわしい姿になりましたよ」


 目の前にいる【僕】が、恍惚とした表情を浮かべている。


「最後に、お互いにふさわしくなった肉体に入り直して引っ越し完了です。先に俺がお客様のモノだった体に入りますので、お客様は俺の体の中に遠慮なく入ってください」


 【僕】の顔で、【僕】の声でそう告げると、英幸の幽体は横たわった僕の肉体の中へと溶け込んでいった。それを見てゴクリと生唾を飲み込んだ僕も、英幸の体の上に行くと腰を下ろして、彼そっくりになった幽体の下半身を彼の逞しい下半身に重ねていく。ドプリと音がして、ぬるま湯に浸かったような心地好い温かさが全身を覆うと、僕の肉体はゆっくりと英幸の肉体へと沈み始めた。


(あ、ああ……!)


 他人の体の中に入っていく感覚というのは、実に不思議なものだった。それはまるで魂が吸い寄せられるような、抗うことなどできない吸引力を持っていた。これから別の人間──、それも理想的な肉体の持ち主へと変身することへの興奮。それと同時に英幸そっくりの幽体となったことで、あるべき場所へと戻るのだという懐かしさのような感情が沸き起こってくる。


(うっ、くぅ……♥ はぁ、はぁ……! んっ♥♥ ふぅ……♥)


 英幸の肉体に僕の幽体が完全に収まった瞬間、凄まじい快感が襲ってきた。まるで脳みそをシェイクされているかのような衝撃に、英幸の全身からは汗が噴き出し、口の端からは涎が流れ落ちる。今まで体験したことのない快楽の奔流に、頭の中が蕩けてしまいそうだ。彼の胴体が、手足が、顔が僕のモノになっていく感覚。神経が初めて繋がったかのような、痺れるような刺激が駆け巡り、僕のモノになった英幸の脳内が多幸感で満たされる。


「あっ……はぁっ……♥ ん゛お゛お゛おおぉぉぉっっ♥♥♥」


 ブビュルルルルーーッ!! ビューーー、ビュッ、ドクンドクン!!!


 僕は【平賀英幸】へと生まれ変わった瞬間、彼の巨大な男根を震わせ、履いていたケツワレの中へと勢いよく大量射精してしまった──。



「う、うおぉ……!」


 俺は今、鏡の前に立って全裸の自分自身の姿を見つめている。汗に塗れて淫靡に光る自身のモノになった裸体に目を奪われ、思わず息を吞んでしまう。その様は他人からは、ナルシストのようにしか見えないだろう。しかし、それも無理はないと思ってほしい。改めて見る【平賀英幸】の肉体は、見事としか言いようがないものだったのだから。


「すごいな……。これが今の……俺か……」


 低い声でポツリと呟いた自分の声が耳に届いて、背筋がゾクゾクする。

 胸筋はパンパンに張り詰め、シックスパックがくっきりと浮き出ている腹筋。腕や太腿には太い血管が幾重にも浮いており、まるで丸太のような迫力だ。みっちりと詰まった筋肉の上に、うっすらと脂肪が乗った英幸の体は、非常に肉感的で欲情を掻き立てる。

 そしてその体つきに負けず劣らず、顔もまた素晴らしい。横を刈り上げた短い髪にがっしりとした男らしい四角顔。太い眉に、一重の大きな目、筋の通った鼻。全体的に野性味を感じさせるワイルドな風貌は、まさに理想的と言っていい。


(ああ……最高すぎる! これこそ正真正銘、理想の【俺】じゃないか……!)


 心の中で歓喜の声を上げる。どうやら使用する脳味噌が【平賀英幸】のモノとなったため、精神面も変化してしまったようだ。かつての記憶も残ってはいるが、英幸の記憶も全て手に入れたことで、今ではそれが本来の自分のように感じられる。この新しい肉体に完全に適応し、自然と【俺】という一人称を使っている自分にも違和感を覚えることはなかった。


「お客様──、いえ、平賀さん。【俺】の肉体は気に入ってもらえましたか?」


 そんなことを考えている俺の背後に、【僕】がやってきた。鏡に先ほどまでの自分が、俺と同じく下着だけを身に着けた状態で佇んでいる。その顔は赤く染まっており、肌から流れ落ちる大量の汗が体を妖しく濡らしている。おそらく彼もまた俺と同じく、別人の肉体になったことで快楽に襲われたのだろう。彼の股間は勃起して、トランクスに小山のような膨らみができている。

 自分の顔をした男が発情しきった顔をしている光景は実に奇妙なものではあったが、同時にとても興奮させられるものがあった。


「ええ、最高っすよ。こんな最高の身体を手に入れられるなんて夢みたいっす! ありがとうございます!!」


 振り向いて礼を言うと、勢いよく彼に抱き付いて、筋肉質になった肉体を密着させる。耳元で熱い吐息を漏らしながら、ケツワレ越しに硬くなった肉棒を擦り付けると、彼は嬉しそうに喉を鳴らし、腰を動かして自ら俺のモノへと押し当ててきた。そのまま互いに互いの肉体を刺激し合うように、俺たちは激しく愛撫し始める。


「はぁっ……、んっ♥ んぅ……♥ 平賀さんっ……♥♥」


「お客様っ……♥ はぁっ……♥♥」


 どうやら俺には別人の肉体と入れ替わったことで、新しい性癖が生まれたらしい。肉体が、脳が、過去の自分の体を本能的に求めている。その証拠にこうして触れ合っているだけで、凄まじい多幸感に包まれるのだ。そしてそれは相手も同じらしく、彼は【僕】の顔でとろんとした表情を浮かべながら、口の端から唾液を垂らしていた。その情欲を掻き立てられる姿に、俺は思わず目の前にある唇に、吸い付くようにしてキスをした。

 同時に右手で乳首を、左手で股間を刺激すると【僕】は切なげに喘いだ。


「あぁん……♥ ちゅぱっ……、ふぅっ……♥」


「ぢゅるっ……♥ んむ゛ッ……、れろぉ……っ♥」


 俺は彼の口内へ舌を差し込むと、濃厚なディープキスを始める。絡みつく舌は柔らかく、熱く、全身が蕩けてしまいそうだ。互いの舌を絡ませ合い、溢れる唾液を交換していく。そしてたっぷり数十秒も続いた深い接吻を終えると、彼は名残惜しそうな様子を見せた。それは俺も同じだった。


「はぁ……はぁ……、もっと……欲しいです……。平賀さん♥」


「……良いんですか、お客様?」


「はい……お願いします。僕のケツマンコに、どうか平賀さんの極太ペニスをぶち込んでください!」


 彼は四つん這いになると、下着を脱いで尻をこちらに向けてきた。突き出されたアナルは物欲しげにヒクついている。その姿に、俺の興奮も一気に高まっていく。英幸の記憶を遡ってみても、彼が男に欲情したことは一度たりともなかった。だが、そのノンケラガーマンとなった今の俺のチンポは、痛くなるほどに勃起してダラダラと先走りを垂れ流し、すでに精液塗れになったケツワレに再び暗い染みを作っている。


(ああ……もう我慢できないっ!)


「はぁっ……はぁっ……お客様、いきますよ?」


「はい……早く、くださいっ! あっ、ああぁぁーーーっ♥♥」


 俺が背後から覆い被さるようにして挿入すると、彼は甲高い声で絶叫した。それと同時に、腸壁がきゅっと締まり、俺のモノに強烈な快感を与えてくる。


(これが【僕】の……、男のケツか……! なんて締め付けなんだッ♥♥)


 入れ替わる前の【僕】は、ゲイだった。屈強な男性──、特に英幸のような筋肉隆々のマッチョに犯されることを想像しながら、毎日のようにディルドをアナルに捻じ込んでいた。そのせいもあって、【僕】の肛門はとても具合が良いものだった。キツキツで狭いものの、適度に柔らかさもあり絶妙に締め上げてくれる。前もって解しもしなかったというのに、しとどに濡れた俺の極太チンポは、根元まで一気に呑み込まれてしまった。まるで搾り取られるような感覚に、危うく射精してしまいそうになったが、なんとか堪えて腰を動かし始めた。


「おほっ……♥ んぎぃっ……♥♥ すごっ、【俺】のチンポ太いぃっ♥♥♥」


「はあぁっ……♥ 【僕】のケツ穴も……、すごく良いっすよ、お客様♥」


 ヌブヌブと卑猥な水音を鳴らして、激しく股間を尻タブに打ち付ける。腰を振るたびに彼の腸内の肉がうねり、亀頭を揉まれるように刺激される。気を抜けば一瞬で絶頂を迎えてしまいそうだったが、俺は必死に耐えて抽送を続ける。しかしそれは相手も同様だったらしく、シーツにはビクビクと震えるチンポの先から溢れ出した大量の愛液の水溜まりができており、床にまで染み渡っていた。

 片や理想の相手とのセックス。一方の俺も、入れ替わったことで以前の自分を、筆舌に尽くしがたいほどに愛してしまっている。おまけに体が入れ替わった直後で、感度が普段の数倍、いや数十倍にも膨れ上がっている。かつての自分を犯し、かつての自分に犯される。倒錯したこの状況が、さらに俺たちの新しくなった頭の中身を狂わせていく。

 心臓が激しく脈打ち、小鼻を膨らませた俺の口から野太い喘ぎ声が漏れ出る。それを聞いて興奮したのか、【僕】も激しく悶え始める。ついさっきまで自分のモノではなかった太い肉竿が、ついさっきまでの自分のアナルの中を貪っている。熱い肉壁が、新しい俺のチンポをしゃぶり尽くすように、うねうねと蠢いている。


「はあぁっ……♥ しゅごぉいっ……、きもちいいですぅっ♥ ひぁぁぁぁっ!! イ゛ぐッ、イ゛ッちゃいますぅ♥♥」


「んぐっ、おお゛ぉ♥♥ 俺もイ゛っぐううぅぅッ!!! イ゛ッぎますう゛う゛うぅぅ♥♥♥」


 俺はギリリと歯を食いしばりながら、ケツの穴に思い切り力を込めた。そしてそのまま勢いよく射精すると、【僕】のケツの中にザーメンを流し込んだ。


 ドクン!! ブビュルルルルルル!! どぷどぷどぷぅ!!!


 最大限にまで膨れ上がったチンポが腸内で暴れ回り、圧倒的な興奮によって濃縮された真っ白な愛液が、内臓を白く染め上げるではないかというほどに溢れかえる。【僕】の細い体を、鍛え上げられた太い両腕で掻き抱き、精液を吐き続けるチンポを何度も何度も根元まで肛門の中に出し入れする。


「好きだっ! 愛してます、お客様!!」


「あぁっ!! 僕も♥ 僕もですぅ♥♥」


 ウズラの卵ほどしかない玉が激しく上下に揺れ、普通サイズの【僕】のチンポから、ビュウビュウとシーツに向けて白濁液が撒き散らされる。アナルからチンポを引き抜くと、俺は彼のチンポを咥えて優しく奉仕し始めた。【僕】の顔が快楽に歪む。俺もそれを見て気分が良くなり、フェラチオに一層熱が入る。お互いのモノを味わい、舐め合い、扱き合ううちに、また勃起してしまう。彼のおかげで、こんなにも素晴らしい肉体が手に入ったのだ。感謝してもしきれない。先ほどまでの自分の汗を、唾液を、精液を敏感になった新しい舌で舐め回して味わうたびに、頭がクラクラしてくる。ああ……なんて美味いんだ! もっと……、もっとこの身体を感じたい。感じさせてほしい……。抑えきれない衝動を止められない俺は、再び彼に覆い被さり、柔らかな肛門に自らの剛直を突き刺した。



 それから俺たちは体位を変えつつ、延々と互いを愛し続けた。途中で何度か射精してしまっても萎えない俺のモノに対し、【僕】のチンポも何度射精しようと一向に小さくなることはなかった。結局夜遅くまで、俺たちの交わりに終わりが訪れることはなかった。


「お疲れ様でした、お客様。それじゃあ、俺はこれで──」


 とっぷりと日が暮れて、すっかり暗くなってしまったマンションの廊下には、明かりが灯っていた。俺は軽く頭を下げて、彼に挨拶をした。


「はい、お世話になりました……、って、あの……」


 本来ならこれから住むはずだった新居。そこから立ち去ろうとした時だった。不意に声をかけられ、振り向くと【僕】が何か言いづらそうにモジモジとしている。


「どうかしましたか?」


 尋ねると、少し躊躇いながらも彼は口を開いた。


「いえ、その……また僕と会ってもらえますか?」


「当り前じゃないっすか。……って言うか、会ってくれないと俺のほうがチンポやばいです」


 思わず苦笑しつつ答えた俺の言葉を聞いて安心したのか、彼は照れくさそうな笑顔を見せた。


「ありがとうございます。それでは、また!」


「はい、失礼します。……引っ越させてもらったこの体、大切に使わせてもらいますね」


 もう一度頭を下げると、今度こそ俺はその場を後にした。エレベーターに乗り込むと、一階のボタンを押す。ゆっくりと扉が閉まり、下降を始めると同時に、俺の股間が再びムクムクと膨れ上がっていく。


(やばいな……。さっきあんなに出したばっかなのに、もうムラムラしちまってやがる♥)


 ズボン越しにそっと股間を撫でると、交換したばかりの下着が、すでに我慢汁塗れになっているのがわかった。早く職場に戻ってから、家に帰ろう。新居になるはずだったさっきの家とは別の、新しい我が家へ。そして今日は一晩中、新しい自分の肉体を弄りながら、たっぷりとオナニーをしよう。その後は、過去の自分を犯すところを想像しながら……。


 軽トラに乗り込んだ俺は、ルームミラーに映った新しい自分の精悍な顔を見てうっとりとすると、キーを回してエンジンを掛けた。


(了)



以下、差分イラストです







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Comments

黒竜Leo

この引っ越しサービスがとても素敵です!