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【キラービーの巣 三個目】 『地図だとこの辺りのはずですけど……これといって何もありませんね』 「まあ、地図で示されてるのは結局のところこの辺にあるよ、っていうだけなのは承知だけれど……それにしたって何もないわねえ」 二個目の巣を破壊してから1時間と半分くらいが過ぎ、マリーツィアたち2人は森林の中心付近にやって来ていた。 依頼書にある地図が正しければこの周辺に三つ目の巣があるはずだが、その割にはこの周辺は平和すぎる。 道中でもちょっとした虫系モンスターや植物モンスターなどに襲われることはあったが、それは単なる「はぐれ」だ。まとまった巣になど入り込んだ時には、それはそれは恐ろしいことになるのは間違いない。 今回で言えばキラービーの縄張りが近いため、辺りを無数の蜂が飛び回っていてもおかしくない。というより、飛んでいない方がおかしいのだ。 だというのにはぐれモンスターの一匹も見当たらない平穏さは、ダンジョンに於いては逆に異質だ。それが逆に不気味だし、巣の破壊が依頼である以上とにかく巣を探し当てないことには何も始まらない。 「……しかし、この森の中をノーヒントで捜しまわるのは骨よねえ……」 『ですね……襲ってくるキラービーでもいれば、逆に巣が近いということがわかるのですけれど……』 こういう時、冒険者が使う常套手段がある。それは周辺をうろつく敵の動きを観察し、そこから巣を突き止めるということ。 当然だが巣が近い場合、偵察をしたり侵入者を排除するための攻撃などを仕掛けてくることが大半だ。ならばその攻撃部隊がどこから来たのかを突き止めれば、そこに巣があることがわかる。極めて常識的な、学校で習うレベルの常套手。 二個目の巣の時も、周辺で飛び回るキラービーについていくことで巣の場所を突き止めたのだ。巣そのものは見つからなくとも、敵の一匹でも見つかればやりようはある。 逆にそれが一匹も見つからなければ、どうしようもないのだ。 「面倒だけどしらみつぶしに行くしかなさそうね……アミちゃん、準備はいい?」 『あ、アミちゃん……ですか。ええ、構いませんよ』 であれば、多少非効率でも最後の手に出るしかない。 木々が生い茂る森の中、見晴らしが最悪レベルに悪い森の中を、ただひたすらに探して回る。単純極まる人海戦術。 それをたった2人だけであっても、やらなくてはならない。たとえこの周辺でキラービーが、依頼書の内容に反してほとんど確認されていなくとも、巣を破壊することが依頼である限り。 巣など元々ないのか、あるいは何らかの拍子に破壊されているのか、それとも目立たないだけでやっぱりここにあるのか。それを確かめないことには帰ることなどできないのだ。 そんな長丁場の戦いに挑むマリーツィアは、傍らに佇むお嬢様のささいな変化に気付くことができなかった。 あまりの面倒くささに消沈していたためか、あるいは先ほどの悪い想像によって諦めが芽生えていたためか…… 彼女の横で微笑と共に佇む少女の顔が、少し強張っていることに気付くことがなかった。 〈10分後……〉 「……アミちゃん、そっちはどうー?」 『こちらもだめです……そろそろ折り返しでしょうか?』 「そうね。この辺りで折り返して、あの木の向こうあたりから一直線に行ってみましょう」 それから10分。2人はひたすら森の中を捜索する作業に取り掛かっていた。 2人は依頼書に記されていたキラービーの生息半径を示す円に従い、その端から順に二人がかりで捜索していたのだ。 円の端から始まって、その縁に沿ってまるで塗り潰すように探索していく地道な作業。 左方をマリーツィアが、右方をアミーリアがそれぞれ見回り、どちらかに少しでも違和感があればそこに向かう。単純なしらみつぶし。 何度も折り返し折り返し、少しずつ円を塗りつぶす地味な探索。 2人の依頼遂行は、まだ遠い。 〈20分後……〉 「……聞くまでもないとは思うけど、そっちはどう?」 『ご想像の通り、何も……です……』 「かれこれ10回くらい折り返したけど、な~んにも見当たらないわね……そろそろ円の中心部に来るはずだけど」 『中心ほど距離が長くなりますから、これから大変ですね……』 「もうさ、諦めて次行かない?一個くらい踏み倒したって気づきはしないでしょ」 『そ、そうは参りません!我がエルウィース家を代表する者として、受けた依頼を不完全なまま終えてしまっては……!』 「も、もちろん冗談よ?冗談……本気じゃないわ」 「……ね、聞いてもいい?どうして貴女みたいなお嬢様が、冒険者になんてなったのか」 『……そうですね。気を紛らわすためにも、道すがらお話しましょうか』 しらみつぶしの探索を始めてから20分。2人はおよそ全体の3分の1ほどを廻り終え、真ん中付近のところに差し掛かっていた。 円の中でも一番幅が広い部分であり、ここを折り返して塗り潰していくのはなかなかに骨が折れる。 その退屈を補う意味でも、マリーツィアは一つの興味をお嬢様に聞くことにした。それは少女が冒険者をする理由。 長くなるであろうその話をお供に、探索をしようというのだ。 『まずわたくしたちの治める領地ですが……この森からほど近い、温暖な地域で農耕と畜産を営んで暮らしております』 「ここは中央ギルド西方支部の近く……西方地域っていうと、小さい国々がずらりと並んでるところよね。私もこの辺の出身だけど」 『……はい。ですが近年、ある一つの島国が周辺国に宣戦を布告しておりまして』 「ああ、それは私も聞いたことがあるわ。確か真聖……なんとか帝国」 『な、なんとか帝国……まあはい、その帝国が周辺国を次々と取り込み、勢力を拡大しているのです』 「ふむ……それで、貴女が冒険者になるってこととその帝国の侵攻とはどういった関係が?」 『……わたくしたちの国にも、何度が使者が訪れたのです。なにしろ戦争をしている国ですから、食料をどうにか調達したいという思惑があるのでしょう。わたくしの国は畜産と農業で生計を立てておりますから』 「……ああ、なるほどね。今はまだぼちぼち食べ物を売ってあげるだけで済むけれど、いつかそれじゃ済まなくなる時が来るかもしれないわね」 『しかし、わたくしの国はとても小さく……戦争になどなれば勝てはしないでしょう。大人しく降伏するほか、道は残されていないのです』 『ですが、わたくしは故郷が大好きです。人も、お天気も穏やかで、畑と牛さんの相手をすることに一日をかけて……のどかで、穏やかな暮らしを営むことを、愛しています』 『……せっかく育てた作物や牛さんを、戦争のために売り渡すだなんて、本当は嫌なのです。たとえそれが侵攻を遅らせるためだとしても』 「……なるほど。それで冒険者になったわけね。A級ともなると、その武名は大国ですら畏怖するほど……どんな国ですら、敵に回したくない相手になるから」 『そうです。この地にわたくしあり、というほどにまで名を上げられれば、帝国もわたくしの祖国に手を出そうとは思わないはずです』 「だからがんばるのね。エルウィースの名を世界に轟かせて、祖国を守護するために……」 「…………………………感動した」 「感動したわアミちゃんっっっっっ!!!!!!!!!そのふるさとへの熱い想い!!!!次期領主としての責任をその若さで背負う心意気!!!!領民たちへの深い愛情!!!!!まさにノブレスオブリィイイイイイイイイイイッッッジュ!!!!!!!!」 『……え?あの、マリーツィア様……?』 「……こほん、ごめんなさいね。ちょっと感動しちゃって……」 『……ふふ、おかしな方ですね。まだ子どものわたくしが、こんな無茶な夢を語っているのに諫めもしないだなんて』 「あら、私もA級志望だもの。同類よ?」 『……それは、言われてみると……確かに』 「いいじゃない、A級冒険者でお嬢様……世界でも類を見ない偉業、目指し甲斐もあるってものよね。同じA級を目指す者として、応援してるわ」 『……ふふっ、わたくしも……あなたが次席から成り上がる日をお待ちしておりますわ』 「さて、アミちゃんの夢を聞いたところで……気づいた?さっきからこの辺りの木、なにかおかしいわよね」 道すがら、アミーリアがなぜお嬢様でありながら冒険者となったのかについて話していた2人。 すっかり話し込んでいるうち、2人の周りを取り巻く状況には少し変化が現れていた。 2人の周りをぐるりと囲む、鬱蒼たる木々。これまでと変わりないように見えるそれだが、よく見てみるとそこかしこに武器で斬りつけたような傷がついているのがわかる。 これが果たして、何を意味するのだろうか。 『……本当ですね。至るところに傷が……いったいどなたが付けられたのでしょう?』 「まあ、どう見ても魔物が付けるようなものじゃあないから必然人間のものってことになるけど……そういえばさっき私たち、冒険者を助けなかったっけ」 『………………あ』 そう。先ほど助けた冒険者たち。あれらもまた修行目的で訪れていた冒険者であり、いわば魔物を狩ることが目的の一団だ。 その通り道にいた魔物を全滅させていても何らおかしなことはない。 そしてそれはここしばらくの様子がおかしなこととも一致する。キラービーも、はぐれ魔物も、その全てを彼らが仕留めていたのなら。 そしてその疲労が先ほどの巣で出てしまい、2人に助けられる羽目となったこともうなずける。 『だ、だとすると……』 「……まあ、いっくら探しても見つからないはずよねえ。もう壊されてるんだもの」 『そ……そんな……』 そしてそれは一つの悲しい現実をも意味していた。 三つ目の巣を探すため、費やしてきた約30分。それが全て無駄だったという一つの事実を。 「そんなに落ち込まないで。また次を見つければいいんだから」 『うぅ……それはそうですが……』 落ち込むアミーリアに、気を取り直すよう励ましの言葉を贈るマリーツィア。 しかし彼女は知らない。お嬢様が落ち込む理由が、ただ時間を無駄にしたというだけではないということを。 アミーリア・エルウィース HP 142/210 MP 300/320 装備 みぎて 黒水晶のつえ ひだりて エルウィースバックラー ふく 高級シルクのローブ あし 精霊のブーツ したぎ しろのレース 魔法 中位属性魔法全般 ヒール キュアー キュアヒール ヒーリング ディフェンス ヘイスト 所持品 MPポーション×15 HPポーション×13 水ボトル×2 お茶セット一式 見事な肩透かしを食らってしまったC級冒険者。 先ほど助けた一団がまさか先に三つ目の巣を壊滅させていたなどとは思いもよらず、貴重な時間を無駄に費やしてしまった。 気を取り直して次の巣に向かうものの、その表情はどこか浮かない。 果たしてそれは無駄な苦労をさせられたことによるものなのか、それとも……? 何かを隠している14歳。 __________________ 【キラービーの巣 四個目】 「アミちゃん、そっち行ったわよ!」 『こちらは大丈夫です!マリーツィア様は巣の方を、どうか!』 「がってん、承知っ!!」 ごうごうと燃える爆炎を叩きつけ、四つ目の巣を撃ち滅ぼすマリーツィア達。 徒労に終わった三つ目から2時間。長い長い距離を歩き続け、2人は依頼の8割をようやく遂行し終えた。あとに残るは最後の巣だけである。 それだけの時間行動を共にしていた2人の連携はなかなかのもので、自分である程度回復のできるアミーリアが敵を引き付け、守りが開いたところをすかさずマリーツィアが狙撃。敵の護衛対象である巣を破壊するという戦い方で、キラービーの巣を会敵からわずか5分で破壊してのけたのだ。 もちろんこれは、B級の中でも屈指の実力を持つマリーツィアの攻撃能力があってのことではあるのだが。 『さ、さすがですね……中級魔法をあれだけ早く撃つことができるなんて……』 「まあ、この程度は撃ち慣れてるからね。その気になれば上位魔法も大差ないくらいで撃てるけど、あれだと火力があり過ぎて完全に消滅させちゃうからねえ……残った敵ごと一掃させたい時には向かないのよ」 『なるほど……それでは次の巣へ向かいましょうか』 「…………?」 (はて……アミちゃん、少し急いでないかしら?まあもうすぐ夕方とはいえ、ここの魔物程度なら私たちの敵じゃないし……門限?いや、まさか……) (…………まさか、ねえ……?) 刹那、脳裏をよぎる一つの疑惑。マリーツィアの胸に、諦めかけていた野望の火が再び燻る。 だが一方で、マリーツィアはそれを信じ切れずにいた。森に入ってからもう半日が経つというのに、これまでそんな素振りを少しも見せていなかったのだから。 流石にそんな人間がいるわけがないと、気のせいだと思ってしまう幻惑の魔女は、そのままお嬢様の言うがままに次の巣へと向かう。 【キラービーの巣 五個目】 『ま、マリーツィア様、おねがいします!』 「よし来た!受けなさい、太陽神の息吹……必殺のぉ、ゴッドブレスッッッ!!ユニヴァァァァアアアアス!!!!!!!!」 これが最後と、後先考えずに放った必殺の一撃。マリーツィアが持つ中でも最大火力の大魔法、太陽神の息吹。 炎熱魔法の上位にして、地上に太陽を召喚する恐るべき魔法。核融合がもたらす爆熱は、一瞬だけしか顕現していなくても周囲にあるものを焼き滅ぼすには十分に過ぎる。 ひととおりの属性魔法を習得しているマリーツィアだが、その中でも一番の得意魔法にして、必殺と位置付けている攻撃魔法である。 「ふう……よーし、これで全滅ってところかしら?お疲れ様ね、アミちゃん」 『……そうですね。後はもう帰るだけですし、参りましょうか』 「……え?まあ、そうね。そう、だけど……」 『きっとギルドの皆様も、わたくしたちの帰りを待っているはずです……さあ、マリーツィア様』 「ま、まあ……そうね?もうじき夜だけど……まあ、そうね?」 そんな大魔法を以て巣を破壊したマリーツィアを待っていたのは、これまでのふんわりとした空気が嘘のような圧力で帰還を迫るアミーリアだった。 有無を言わさぬ迫力でマリーツィアを押し切ると、つかつか歩き始める。そんなお嬢様の様子を訝しむ魔女の脳裏に、ふたたびある疑惑がよぎる。 もしかしたら、これまではずっと我慢していただけではないのかと。 今はまだ疑惑でしかない。こんなに我慢できるはずなどないという先入観が邪魔をして、それが確信に至っていない。 だがそれが確信に変わった時、その時こそこの清廉なるお嬢様の顔が羞恥に塗り潰されることとなるのだ。 アミーリア・エルウィース HP 142/210 MP 300/320 装備 みぎて 黒水晶のつえ ひだりて エルウィースバックラー ふく 高級シルクのローブ あし 精霊のブーツ したぎ しろのレース 魔法 中位属性魔法全般 ヒール キュアー キュアヒール ヒーリング ディフェンス ヘイスト 所持品 MPポーション×15 HPポーション×13 水ボトル×2 お茶セット一式 何やら急いでいるような感があるC級冒険者。 果たして何のために急ぐのか。気づかれないよう繕ってはいても、隠し切れない焦りが最悪の相手に疑念を抱かせてしまう。 早く帰りたい14歳。 ______________ 【帰路 1時間目】 『……っ』 これまで歩き続けていた疲れなど微塵も見せないように、アミーリアはつかつかと日の落ちゆく森を横切っていく。 ただでも広大な森林は、直線距離でも相当なものだ。今回のように依頼の都合でジグザグとした道を行かなくても、ただの直線でも平均して5時間程度はかかってしまう。 そのことを知ってか知らずか、お嬢様は猛スピードで突っ切ろうとしていた。 (……これは、やっぱりそうね。ほぼ間違いなく、これは……) (そろそろ日も落ちるし、やってみる価値はあるわね……) 一言も言葉を発さず、ただ黙々と歩き続けるだけのお嬢様。普通ならば疲れて口数が減ったのだと思わなくもないだろうが、しかし「そういう子」を見続けてきたマリーツィアの見解は違う。 お嬢様のこの沈黙が、内なる衝動から来る焦りによるものだと。そう結論づけたのだ。 そして最悪の相手に最悪の事実を気取られてしまった今、魔女の野望が動き出す。 【帰路 2時間目】 『…………?周りが、なんだか……』 (木々がざわめいて……風?いいえ違う、これは……!』 トレントのむれ があらわれた! 『……っ!?敵!?そんな、こんなに多く……!』 (……そうだ、今はもう夜……!魔物たちが活性化する時間。どうしてこんなことを忘れていたの……!?) 『……っ、ま、マリーツィア様!どうか援護を!』 『ま……マリーツィア……様……?』 アミーリアが帰路についてから2時間。つかつかと歩く彼女の前に、周辺の木々が動き始めて立ちはだかる。 それは植物魔物の中で最も力が強く頑丈な「木そのもの」の魔物。 夜になって活発化した瘴気が生み出す、意志を持つ木。トレント。 20を優に超えるトレントに囲まれたアミーリアは、近くにいるはずのマリーツィアに助けを求める。が、返事はない。 まさか。アミーリアの顔から血の気が引いていく。まさか、まさかそんなことがと。 早く帰りたいと焦ったがため、仲間からはぐれただなどと。 (ふふ、焦ってる焦ってる……でも安心して。本当に危なくなったら助けてあげるから) そんなアミーリアの様子を、認識阻害で見えなくなっているマリーツィアが草葉の陰から伺う。 マリーツィアはその目的のため、アミーリアが町へ帰るのを妨害しようとしているのだ。 彼女はもう夜になることを当然知っていたし、夜になるということが何を意味するのかも知っていた。 そしてこの局面も、自分がいれば一瞬で片が付くことも知っている。だからこそ隠れたのだ。そうなると困るから。 少しでも長く、お嬢様がこの森にいてくれないと困るから。 そしてそれは、彼女からのある種の信頼をも意味していた。 いくらそのような目的があろうと、これだけの数の敵に囲ませるのは単純に危険だ。目的達成以前に、相手が死んでしまったら意味がない。 だがマリーツィアは信じていた。このお嬢様なら苦戦こそすれ、この数相手でも負けはしないだろうと。 ポーションを飲み、いい具合に消耗させられはしても、死ぬほどの事態にはならないだろうと。 そんな魔女の思惑を知る由もなく、その手のひらの上で、可憐なるお嬢様は踊らされることとなるのだ。 【帰路 2時間半目】 『う……くっ……!』 (わたくしとしたことが、はぐれてしまうだなんて……!急いでいたとはいえ、さすがに迂闊すぎる……!) (ど、どうしましょう……?もうすっかり夜で、炎魔法で照らしてもせいぜい4~5メートル遠くを見るのがやっと。周りは敵だらけ……ど、どうしたら……!) 群がるトレントたち植物魔物を相手に必死で戦いながら、なんとかそれでも帰還しようと前へ前へと進んで行くアミーリア。しかしその歩みは敵の妨害によって遅々として進まず、さらには月明りすら届かぬ鬱蒼とした森特有の見晴らしの悪さが邪魔をする。 周囲のどこを見ても闇というのは、方向感覚を狂わせる。アミーリアは自分が今どこにいてどこに行こうとしているのかもわからないだろう。 その上敵の襲撃を受けてそこら中を動き回っていては猶更、方角などわかるはずがない。邪魔さえなければ ずっと同じ方向に進むこともできていただろうが、それすらもできないのだ。 必然、アミーリアの往く道は蛇行したりぐるぐると同じところを旋回したりしていて、この30分の間全く進んでいないと言って過言ではなかった。 マリーツィアがいれば戦闘を彼女に任せ、アミーリアは暗闇の中でもなんとか方角を確認して退路を作ることもできていただろう。だが彼女とはぐれてしまった今、それは叶わない。 独力で切り抜けるほか、道はないのだ。 (は、早く帰りたいのに……!) 通常、冒険者はダンジョン内で夜を迎えてしまった時は魔物避けの陣を敷いてキャンプをすることが多い。 当然夜になる前に帰るのが常識なのだが、高難度ダンジョンなどではそれができないことも多く、そうした時の緊急策として魔物避けをしてのキャンプをすることがあるのだ。 魔物避けの陣はマリーツィアの使う認識阻害魔法とある程度似た性質を持つ魔法の術式が組み込まれたスクロールに魔力を通して発動する時限式魔法であり、発動している間は大半の魔物が陣の内部を「認識できなくなる」のだ。 それはさながら穴や壁があるようなもので、魔物はこの陣の内側に踏み入るようなことをまずしてこない。 そのためこの陣が敷かれている内は、ある程度安心なのだ。もちろん限度はあるのだが。 今回の場合においてもそれは同様で、トレントからの襲撃を凌いで安全に夜を明かそうとするなら魔物避けをしたうえでキャンプする方が良かっただろう。 だがアミーリアはそれを選ばず、頑なに町へ帰ろうとしていた。胸中に抱える、お嬢様のとある事情。 その事情がゆえ、彼女は果てしのない戦いに身を投じることとなるのだ。 アミーリア・エルウィース HP 78/210 MP 118/320 装備 みぎて 黒水晶のつえ ひだりて エルウィースバックラー ふく 高級シルクのローブ あし 精霊のブーツ したぎ しろのレース 魔法 中位属性魔法全般 ヒール キュアー キュアヒール ヒーリング ディフェンス ヘイスト 所持品 MPポーション×10 HPポーション×11 水ボトル×2 お茶セット一式 何かに追い立てられているC級冒険者。 冒険者としての鉄則に自ら歯向かってまで急いで帰りたい事情を有するお嬢様。果たしてその身を苛む事情とは。 道中で戦闘を繰り返していることもあり、ポーションの消費はかなり嵩んでいる。それに伴って彼女の事情も深刻化しており、このままでは危ないかもしれない。 焦りを隠せない14歳。 ____________________ 【帰路 5時間目】 『はあっ、はあっ……!』 『……っ、ううぅっ……!』 ぎゅうぅ、ローブの裾をきつく握り、ふとももをすり合わせながら必死に魔法を放って応戦するアミーリア。しかしもう、その魔力は尽きつつあった。 その後もずっと戦い続け、前に進めているかもわからないままがむしゃらに進み続けた。それでもなお街にたどり着くことはできず、今や魔物避けを敷いている余裕さえも無くなってしまった。 夜が深まるにつれて増えていく魔物たち。手持ちのポーションもほとんど使い果たした彼女に、もはや抗う術は残されていない。 『……ごめんなさい、みんな……っ!』 迫りくる食人植物やトレント、毒虫たちの群れ。絶望を前に、目を閉じて死を覚悟した…… ズガアアアアアン!!!! 『…………え』 「アミちゃん、大丈夫っ!?」 その時だった。闇夜を裂くように紅蓮の炎がうなりを上げて敵の群れを包み込み、無数の炎弾がトレントの堅い樹皮を焼き尽くしていく。 爆音と共に聴こえてきたその声は、途方もない安堵と歓喜をアミーリアにもたらした。これまでいくら探しても会えなかった協力者が、やっと現れてくれたのだ。 『ま……り……つぃあ……様……!?ま、マリーツィア様あ……!!!ひっ……く、ひっ……!』 「…………ごめんなさいね、遅くなって。辺りが暗くて、探すのに手間取っちゃった。でも、もう大丈夫よ」 「……さて、よくもアミちゃんをいじめてくれたわね?覚悟はいいかしら」 怒りのひと睨みと共に、マリーツィアは大いなる魔力を込めて一つの巨大な業火球を作り上げた。 それは普段マリーツィアが使う灼熱のミニチュア太陽。それに普段より何倍も多くの魔力をつぎ込み、頭上で煌々と輝く両手で抱えるほど大きなサイズの小型太陽を生み出したのだ。 そう。これこそ多数の敵を殲滅するためマリーツィアが用いる最強の直接攻撃魔法にして、本当の太陽神の息吹。 「ゴッドブレス・ユニヴァアアアアアァァァァアアアアッッッス!!!!!!!」 ひと握りの罪悪感と、それを誤魔化すごとく燃え上がる怒りを込めて叩きつけた大魔法。それは森の地表を焦がし、抉り、大きなクレーターを作り出すほどの破壊力をもたらした。 そこに水を溜めれば小さな池くらいにはなるだろうほどの穴を作り上げる爆炎。そんなものを受けた植物魔物は当然無事では済まず、数十はいた魔物の群れは跡形もなく消し飛んでいた。 「……さて、これでしばらくは大丈夫でしょう。魔物たちだって死にたくはないでしょうし、あれだけハデに仲間を消し飛ばした私に襲い掛かってくるようなことは……」 『マリーツィア様……!ひっ……、ひっく、まりーつぃあ、さまぁ……!』 「………………………………」 しまった、とマリーツィアは思った。なにしろアミーリアとはぐれたのは彼女が急いでいたせいもあると言えばあるが、ほとんどはマリーツィアが自分の欲望を満たすためにやったことだからだ。 そんなことを知る由もない少女が、自分の半分ほどしか生きていないこの少女が、魔物ひしめく夜の森に独りぼっちでいるということ。それがどれほど怖いだろうか。どんなに才能が溢れていようと、貴族の息女として高い誇りと人格を備えた清廉な人物であろうと、この子はまだ少女なのだ。 胸の中ですすり泣く少女に対し、ばつの悪い想いを抱きながら……魔女はしばらく、お嬢様の涙を受け止めるのだった。 『…………すみません、取り乱してしまって……もう大丈夫ですから……』 「気にすることないわ。夜の森に一人でなんていたら、誰だって怖いものね。よくがんばったわ」 『……お恥ずかしいところをお見せしました……』 「さて、この後だけど……セオリー通りならキャンプを張るべきだと思うけど、アミちゃんはどう?」 『……あ、いえ、わたくしは……その……』 『…………で、できれば……街に帰らせていただければと……』 「ふむ、そうね……魔物避けだって完璧じゃないし、さっき私がハデに吹っ飛ばした恐怖がまだ残ってるうちに突っ切るのもアリっていえばアリ……」 「じゃあこうしましょうか。今からしばらく歩いて、一回でも敵の妨害を受けたらキャンプ、受けなければそのまま突っ切りましょう。私の魔力も、もうじきからっけつだから」 アミーリアを助け、お嬢様の涙を魔女が受け止めてからしばらく。立ち直ったアミーリアはマリーツィアと相談し、なんとか街に帰ろうとする。 マリーツィアの方も一日戦い続けてきたことで魔力が尽きる寸前であり、もうあまり小細工のできる状態ではない。携帯糧食バーを食べて少し休めば多少なり回復するだろうが、今はアミーリアの心のままにさせるのが最良だと判断したのだ。 (……さて、さっきはちょっと罪悪感あったけど、その分の借りはさっき返した……というわけで) (今日一日助けてあげた分の報酬、いただかないとね♪) (あーーーーーーー楽しみだわあ。森に入ってからかれこれ15~6時間くらい経ってるけど、その間一回もこの子済ませてないものねえ。さっきの戦闘中も、誰も見てないと思ってふとももぎゅってしてたりローブの裾を握ってたりわかりやすかったし……だいぶキてるはずよねえ) (いやーさすがはお嬢様ってことかしら?貴婦人よねえ。さっきまで割ともじもじしてたのに、今は平気そうにしてるんだもの。私がいるせいだと思うけど、よく取り繕えるわあ。すっごい強い膀胱してるのねえ。おねえさんそういう子だぁい好き……!) (あーーーー楽しみ。あーーーーーーーーーーーーーーーー楽しみだわあ。今からまっすぐ帰ったって3時間くらいかかるのを最後まで耐えきるか、それか……あああああぁーーーーーーーーーーーーー楽しみだわあ……!) そして魔女の野望がとうとう動き出そうとしていた。 はぐれてからこれまでのアミーリアをずっと監視し続けてようやく確信を得た彼女は、ついにその欲望を清廉なるお嬢様に向けようというのだ。 既に長く我慢しているアミーリア。ポーションもこれまで数多く飲んできているお嬢様に、これから長い帰宅への道が立ちはだかる。 アミーリア・エルウィース HP 34/210 MP 10/320 状態 がまん 装備 みぎて 黒水晶のつえ ひだりて エルウィースバックラー ふく 高級シルクのローブ あし 精霊のブーツ したぎ しろのレース 魔法 中位属性魔法全般 ヒール キュアー キュアヒール ヒーリング ディフェンス ヘイスト 所持品 MPポーション×0 HPポーション×0 水ボトル×2 お茶セット一式 ついに気づかれてしまったC級冒険者。 これまでお嬢様であるがゆえの我慢強さで見せずにいた「事情」。だが先ほど一人でいた時どうしても我慢しきれず見せてしまったそのしぐさが、魔女の疑惑を確信に変えてしまった。 そのローブの下で募り続けてきたものが今、牙を剥く。 密かに耐え続ける14歳。 _______________ 【帰路 6時間目】 「ふん、ふん…………ぶつぶつぶつぶつ……」 『あ、あの……』 「あの星があっちに……ならここはこの……」 『あの、マリーツィア様……!』 「ん?あ、ああ……ごめんねアミちゃん、どうしたの?」 『あ、その……わたくしたちはその、ちゃんと帰れているのでしょうか……?もうずっと、周りの景色が、変わらなくて……!』 「まあ、そのはずだけど……依頼書の地図と星を見て割り出した方角とを照らしながら歩いてるから、どうしても遅くなっちゃうのよ。ごめんなさいね」 『あ……そ、そう、ですよね……!申し訳ございません……!』 帰り道、不安になったアミーリアがマリーツィアを急かす。 暗い森の中ではわからなくなりがちな方向感覚。それを星を見ることで補いつつ進むマリーツィアの脚はどうしても遅くなりがちで、事情を抱えたアミーリアはどうしても焦れてしまう。 もちろんこれはいじわる半分、本当に星を見るのに集中しているのが半分なので、アミーリアの不安も間違いではないのだが。 (ふふ、焦ってる焦ってる……平静を装うのも限界かしら?もう内心はおしっこしたくて堪らないんでしょうね……愛おしい……!) 普通に直線距離で、普通の速さで歩いても3時間の道のりをそれより遥かに遅く進む。2人の帰路は、まだ長い。 【帰路 7時間半目】 『……っ、~~~~~~~っ…………!』 (あ、だっ、なみ……っ!おさ、まっ……!) 『っっっ、ン……!ふ……っ』 (な……ん、とか、収まっ……!で、も……もう、そんなに長くは……!) 地図とにらめっこを続けるマリーツィアの横で、地面をつま先でぐりぐりと抉りながらふとももをきつく締め付ける。ローブの下で繰り広げられる、少女の熱い攻防。 人前であるがゆえにできない、乙女の最終手段。両手の助けなく、ただ下半身の力だけで耐え続けるのも限界が見えつつあった。 なにしろこれまでほとんど一日ずっと締め付け続けてきたのだ。いたいけな乙女の水門はもう疲れ果て、じんじんと痛みのアラートを発している。 ずしりとした重さの感じられるお腹はもうぱんぱんに張り詰めていて、軽くさすってみるとその硬さに驚くほどだ。この中に詰め込まれたものの量を、嫌が応にも痛感させられる。 『…………っ、』 (……この……ボトル……!) そんな折存在感を主張する、荷物袋の中で波打つ手つかずの「ボトル」。 それはギルドから支給された水分補給用のガラスびんにして、いざという時のためのエチケット。 冒険者にとって暗黙の了解。最後の手段。 (こ、これ……を……つかえば……) (………………で、できない……っ!できません……!エルウィースの名を広めるべく使命を持つわたくしが、こんな、お外でなんて……!) (ぜ、ぜったい……がまんしなくては……!) だがそれは、家の名を背負って戦う彼女にはとてもできないことだった。そうすれば楽になれるのだとしても、それでも。 きゅうんと疼く水風船を抱えて、お嬢様の密かな戦いは最終局面を迎えようとしていた。 アミーリア・エルウィース HP 34/210 MP 10/320 状態 がまん 装備 みぎて 黒水晶のつえ ひだりて エルウィースバックラー ふく 高級シルクのローブ あし 精霊のブーツ したぎ しろのレース 魔法 中位属性魔法全般 ヒール キュアー キュアヒール ヒーリング ディフェンス ヘイスト 所持品 MPポーション×0 HPポーション×0 水ボトル×2 お茶セット一式 お……てあらい……がまん…… エルウィースの長女たるもの……そ、そのような……! ぜ、ぜったい……がまんしないと…… ________________ 【帰路 9時間目】 (お……お、て……あらい……まだ……がまん、がまん……) (お小水……かえる……まで……がまん……) 「……あ、これやばいかも……」 「アミちゃんごめんね。多分もうしばらくで町だと思うのだけど……空に雲が出てきたわ。まだ星が見えないこともないけど、このまま広がると……」 『え……』 「星が見えなくなると方向がわからなくなって、まためちゃくちゃに進んでしまう可能性があるわ。ポーションも無いし、これ以上無茶をするわけには……」 『そ、んな……うそ……』 それは、アミーリアにとって死刑宣告にも等しいものだった。 既にぱんぱんの尿意を抱える彼女にとって、これ以上帰りが遅くなるのは命取りだ。いくら彼女が我慢強くとも、もう出口の感覚は麻痺しつつある。 エルウィースの長女たる誇りがゆえか、マリーツィアに気取られないよう下半身の力だけでこれまでずっと耐えてきた。だがもう、それも限界だ。これ以上無茶をすれば最悪の事態もあり得る。 『あ、あの、な、なんとか、なりませんか!?わたくし、その、そのっ……!』 「そうねえ、事情があるなら聞くけれど……そうでないなら無茶をするのは危険よ。冗談じゃなく全滅の危険があるわ」 『そ、れはっ、その、あの……!』 最後の言うべきひと言、喉元まで出かかっているその言葉。 ここでマリーツィアの協力を得られたなら、もしかすればなんとかなる可能性はある。助けてもらえる可能性はある。 だが言わないままでいたら、このままここで夜を明かすことになる。そうなったら、絶対に耐えられない。 言わなければ、ならない。ここで伝えるべき最後のひと言。これまでずっと抑え続けた、人間として当然の欲求の発露。 『あ、の……!わたっ、わたくし、その……ずっと、ずっと……!お……』 『お、お……おて、あ……、ええ、と……!』 だが、それでも。 それでも、領主の子としての誇りが、国を背負って戦う者としての誇りが、そして一人の女の子としての意地が、それを言わせてくれなかった。 「お手洗いに行きたい」そのたった一言が、彼女にとって無限に等しく遠かった。 「……もしかして、おトイレ?」 『………………~~~~~~~~っっっっっ!!!!!!!』 『……………………(こくん)』 そして、とうとうマリーツィアが助け舟を出した。 どうすればよりかわいらしく我慢に悶えてくれるか常日頃から考えている彼女にとっても、恥ずかしさに爆発してしまいそうなアミーリアの有様は見かねたのだろう。 結局図星を突かれたアミーリアの顔は湯気すら噴くほど湯上がってしまったのだが、しかしやっとお嬢様は自分の思いを魔女に伝えることができた。 そして知ってしまった以上、もはや傍観者ではいられない。助けなければ、それは彼女の沽券にもかかわってくる。 領主の子を故意に貶めた、などA級を目指す彼女にとってあってはならない汚名だから。 「あらあらあら……そうだったの。ごめんなさいね、気づかなくて」 「そういうことなら、もう少し急いでみましょうか。でもその代わり、星が見えn」 『………………あっ、あの!あのっっ!!!!!!?』 「え?は、はいっ!?」 『もも、申し訳ありません!もうしわけありませんっっ!!?どうかあっちをむいてっっ!!みみを、どうかあっ!!』 だが、事態は魔女の予想を超えて急転した。 マリーツィアは、お嬢様はまだ我慢ができると踏んでいた。というよりまだ我慢をさせるつもりだった。 それで町まで着けばそれでよし。耐えられなければそれもよし。 その前に星が隠れたのなら無理にでもキャンプをし、その辺りでさせることを考えていた。 だが事態は、それより遥か早く推移していったのである。 慌てふためき叫ぶお嬢様の様子はどう見ても「これからする」人間のもので、事実、向こうを向いたマリーツィアのすぐ後ろから衣擦れの音がする。 そして当のアミーリアは、恥ずかしさに茹だりながらも必死に頭を働かせていた。 自分が今からしようとしていることの意味。その傍にマリーツィアがいることの意味。 そしてこれからすることのために、何が必要なのかということ。 『……んぐっ、んぐっ……!!!』 かばんから水の入ったボトルを取り出し、口につけて一気に傾ける。 むせかえりそうになりながら、涙を目に浮かべながらも必死にそれを飲み干し、また次のボトルに口を付ける。 そうして出来上がった、簡易な「おトイレ」。 仕切りもない、扉もない。眼を遮るものが何もない中で…… お嬢様はローブを捲り、下着を下ろして清らかな乙女の秘裂を露にする。 我慢に疲れたそこはほのかに赤らみ、その時をまちわびるようにひくひくとわなないている。 そして清廉なるお嬢様ははしたなくも腰を突き出し、期待にひくつくそこに空きびんをあてがって…… ずっとずっと耐え続けてきたものを、解き放った。 アミーリア・エルウィース HP 34/210 MP 10/320 状態 噴射 ぶしゅうううううううううぅーーーーーーー!!!!!!しゅうっ、しゅうっ、しゅしゅしゅぅううううううぅううーーーーーーー………… 『んっ……!ふ、んふぁ……!んくぅぅ……!』 (だ、め……!いきおい、おさえな……きゃ……きかれ、ちゃう……!) 瞬間、堰を切ったように溢れ出す少女の熱水。それを決死の思いで堰き止め、少しずつ少しずつ出していく。 それは乙女として最後の意地。恥ずかしい音だけは絶対に聞かれたくないという、涙ぐましいまでのがんばりがもたらしたものだった。 だがそれでも、こんなもどかしい解放であっても背筋をぞくぞくとした快感が突き抜け、少女を甘く誘惑してくる。 もう我慢なんてしないで、全部出してしまえと。 (……っ、それだけは……!) ぐぎい、と歯を食いしばり、渾身の力で溢れる水流を寸断したアミーリア。すかさず次のびんをあてがう。 っぷしゅうううううううぅぅぅぅーーーーーーーっっっっ、しぃうっ、しうっ、しゅいいいいっ……しゅいっ 『はあ……っ、はあっ……!』 アミーリアの夢は、冒険者としての自分の名を広めて祖国を守護すること。故に、それだけは避けなくてはならなかった。 オモラシ娘という、不名誉極まる名前を広めることだけは。 だからアミーリアは、一滴たりともこれを溢れさせるわけにはいかなかった。きちんとトイレで済ませることは叶わなくとも、せめてこの容れ物の中に全て納めなくては。 そうでなければ、これは単なるオモラシになってしまうから。 だからアミーリアは、決死の覚悟でこの迸る水流を押しとどめなくてはならなかった。 しかしここで、最大のピンチに直面する。 アミーリアのお腹の「中身」はまだぱんぱんに残っていて、お嬢様のお腹をぽっこりと膨らませている。 だがそれを受け止めるびんはもう8割がいっぱいになっていて、とてもこの残り全てを受け入れることはできない。 二本でおよそ1リットルもの容量を以てしてなお、彼女の溜めたオシッコを出し切るには遠く遠く及ばなかったのだ。 (だっ、だめ、止めな……!でも、でもどうしたら……!ぜんぜん、足りないぃ……!) ありったけの力を込めて、もう一度噴射する流れを抑え込む。だが彼女の出口はもうびりびりと痺れるような痛みを訴えていて、そう長くは止めていられない。 ほんの少しではあるがお腹の重さはましになったが、それでもまだまるで足りない。このままここで夜を明かし、町まで耐えることはとても無理だ。 『…………っ』 恥を忍んで、アミーリアは傍で悶々としているマリーツィアの裾を引っ張った。 『…………あ、あの……!もうしわけございませんっ、まりちあしゃまっ、その、あのっ……!』 「へぇっ!?ど、どうしたのアミちゃん!?」 自分のすぐ後ろでお嬢様が放尿している事実に興奮状態の魔女は、予想外の呼び出しに声を裏返らせながら答える。 今にも溢れそうな尿意を堪え、はしたなく小さなお尻を左右に振りながら上目遣いで魔女を見上げるお嬢様の姿に胸を跳ねさせる魔女に、まったく予想もしていなかったお願いがぶつけられる。 『あの、なんでもいいのでいれものっ、くださいませんか……!た、たりなく……て……!』 もう我慢が利かないのだろう。腰を振り、ぎゅうっと前を押さえながらお願いしてくるお嬢様。そんなアミーリアの切なるお願いを聞かないわけにはいかない。 慌ててかばんを漁り、ありったけの空きびんを彼女に渡す。いざという時自分が使おうと思って持ってきていた、10本の空きびん。 『ありが……!?あっ、まっ……!』 『ううううぅっっ……!!!!』 ぶっっっしゅうううううぅうううううううーーーーーーーー!!!!!!じゅぼぼぼぼぼぼぼっっっ!!!!ぶしゅしゅしゅしゅううううううううーーーーーーー!!!!! 受け取るなり堰を切ったように溢れ出すお嬢様の限界オシッコ。我慢の力を失った排泄孔から、びんに穴でも開けてしまうのではないかと思うほど高圧の水流が噴き出していく。 慌ててびんをあてがうも、その持つ手ごと吹き飛ばしかねない水圧が震えるお嬢様の手にのしかかる。 もはや勢いを抑えることもできず、アミーリアは夜の森に恥ずかしい音を轟かせながら全力でオシッコを放っていた。 『あ……あ……』 『あ……はあああぁ……!』 そして渦中のお嬢様は、すっかり蕩けた顔で放尿の快感を貪っていた。 先ほどまでのささやかな放尿とは違う。我慢していた分、抑圧されていた分の排泄欲を全て解き放つ全力前回の限界放尿。びりびりと出口を震わせ、さっきとは比較にならないスピードで軽くなっていくお腹が、少女に未知の快楽を教え込む。 突き出した腰をガクガクと震わせて、尿線をあちこちに飛ばしながら迎える少女のエクスタシー。もう容れ物を取り換えるどころではなく、満杯になった瓶から大量の小便が逆流して地面に大きな水溜まりを作っていく。 制御を失った少女の最大出力オシッコは、いたいけなお嬢様の手をぐしょぐしょに汚しながら長く長く放ち続けるのだった。 __________________ ぷしゅう、しょろしょろ。15分かけて長く続いたアミーリアの全開オシッコは、その中身が無くなるにつれて勢いを失くし、ついにその長い解放を終えようとしていた。 股間にびんを押し当てたまま呆けているお嬢様は、長い我慢から解放された悦びの中で気を失い、自分の作った大きな大きな水溜まりの中に膝をついた。 後は、魔女の時間である。 (さ……てと。多少予想外の展開ではあったけど、いやーいいもの見れたわー。お嬢様の限界腰突き出し立ちションなんてそうそう見れるもんじゃないわよ) (それにこのでっっっかい水溜まり。バケツひっくり返したってこんなになるかしら?バケツなみのおしっこってとんでもないわよね。どれだけ我慢してたのかしら?ほとんどしぐさに出さないから見誤ってたわあ。さすが貴婦人ってことかしらねえ) (さ、それじゃあ寝てる隙に……戦利品をいただくとしましょうか) そしてマリーツィアは、お嬢様が寝ているのをいいことにあるものを盗み取った。 それはお嬢様が先ほど出したばかり。ほかほかの温もりが真新しい、オシッコまみれの尿入り瓶三つ。 出したてほやほやのそれに顔を近づけると、むせかえるような濃い匂いが鼻腔を侵す。 清廉なお嬢様から出たものとは思えない、むわりとする濃厚な尿臭。それは彼女の我慢がどれほどのものだったのかを暗に物語ってもいた。 (……さて、あとはこの子が起きた時認識改変で偽物を本物だと思い込むようにすれば完璧ね。さあ……明日に備えて寝るとしましょうか) 事を終えたマリーツィアはお嬢様を陣の中に横たえると、その横で自分も眠りについた。次の日の朝、お嬢様が起きるより前に自分が起きて裏工作をしないといけないから。 魔力がほとんど尽きた今の自分に、得意の幻惑魔法を使う余裕はない。そのため魔力の回復を待ってからでなくてはいけないのだ。 そして翌朝…… 『ぅ……ん……?あれ、ここは……』 「あら、起きた?」 『ぁ、おかあしゃま、おふぁよぅござ……』 『………………~~~~~~っっっ!!?!?!??!?』 「あら、あらあらあら。私ったらいつの間にかこんなカワイイ子のお母さんになってたのねえ。嬉しいわあ」 『ちっ、ちが、これはっ、その、いいまちがえて……!』 「耳まで真っ赤よ?そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに~。貴女くらいの年の子でも、たま~に学校で寝ぼけてる子とかいたしねえ。たまにだけど」 『うぅ……忘れてください……!』 「冗談よ。ああ、それと貴女が起きる前に、この辺一帯焼いておいたからね」 『え!?あ、確かにそこらじゅうが焼け野原に……いったいどうして……?』 「寝起きを襲われたら大変でしょ?だからそこらじゅう、跡形もなく燃やしておいたわ」 『あとかたも……』 そこまで言われて、ふと気づいた。アミーリアが昨晩しでかしてしまった「不祥事」の痕跡。 地面に大きく大きく残っていたはずのそれも含め、全てが「跡形もなく」消し飛んでいる。 これはつまり、そういうことなのだと。 『……ありがとうございます』 「……?何か言った?」 『いいえ、なんでも』 『あ、それと昨晩はその……お見苦しいものをお見せしました……』 「いいのよ。冒険者とはいえ人間なんだし、そういうこともあるわ」 「でもなんだか意外ね。貴女みたいな子は、絶対に人前でそういうところは見せないかと思ってたんだけど」 『まあ、わたくしもそのつもりではいたのですけれど……』 『その……またはぐれたら嫌だと……思いまして……』 小さく俯きながらそう答えるお嬢様に、マリーツィアの心臓は撃ちぬかれた。 それはつまり、夜の森で、一人で「する」ことができなかったのだということ。 あの時はぐれたのがトラウマとなり、一瞬もマリーツィアの傍を離れたくなかったのだということ。 「かわっっっっっ゛!!!!!!!!」 ばたん…… 『ま、マリーツィア様!?どうなさったのですか?マリーツィア様ぁ!?』 誇り高きお嬢様の、まだまだ子どもらしい一面を前にマリーツィアは心臓発作を起こして倒れてしまうのだった。 ともかくこれにて大森林での依頼は終わり、魔女はホクホク顔で自宅の棚に今回の「戦利品」を飾る。 果たして次はどんな子がこのコレクションに加わるのか楽しみにしながら、魔女は少女たちの恥の結晶を指でなぞって愛でるのだった。 マリアンヌ・ツィー・アウストリア(マリーツィア) 二つ名 幻惑のマリーツィア 習得魔法 視覚改変 聴覚改変 嗅覚改変 触覚改変 四大属性魔法全般 所持品 ティファニーのオシッコ×2 アミーリアのオシッコ×3

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