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「健ちゃん、学校行こー」

「うん」

玄関のドアを開けると、真理奈ちゃんが立っていた。


僕は学ラン、真理奈ちゃんはセーラー服に身を包んでいる。

お互い、何の変哲もなく。地元の公立中学校に進学。


「・・・“紅世さん”」

僕はいわゆる“照れ”・・・以外の感情を込みで、苗字で呼んだ。


「健ちゃん、どしたの」

真理奈ちゃんはいつも通り、あっけらかんとしている。


「・・・・・」

セーラー服の襟口から見える『胸当て』の生地、そこから覗く“谷間”。

『Y字』な谷間はそのまま、セーラー服の胸元に大きな膨らみを形成している。


「健ちゃん、聞いてる?」

真理奈ちゃんは少し“前屈み”になり、僕に目線を合わせた。

その所作と連動するかのように、“膨らみ”がユサッと揺れた。


「・・・っ」

明らかに、おっぱいと思われる二つの物体の縦揺れ。

しかし僕は、揺れる胸元より、“屈むことで合う目線”がショックだった。


「また、背・・・高くなった?」

「あ、うん」

そう。真理奈ちゃんはまた、背が高くなっていた。

目線一つどころか、二つ分は真理奈ちゃんの方が高いのだ。



「おい、あれ」

「うぉ、すげぇ」

案の定、クラスの男子たちは真理奈ちゃんを見る度、感嘆の声を上げた。


そりゃあ、そうだろう。


歩く度に、ブルンブルンッと胸元が揺れるのだ。

ホンの少し前まで、小学生だったとは思えない肢体。


「なぁ・・・おい、健太。紅世さんっていつから、“ああ”なったんだ?」

「さ、さぁ・・・」

小学校から同じなクラスメイトが、代わる代わる僕に聞いて来る。

一部の旧友は、僕と真理奈ちゃんが同じ団地住まいなのは知っているのだ。


「ねぇ、健ちゃん。帰ろ・・・あれ?」

真理奈ちゃんが呼び掛けるより早く、僕は始業式が終わった教室を飛び出した。

鮮烈な中学デビューになった真理奈ちゃんと、平凡な僕。


並んで帰りでもしたら、目立って仕方ないのだ。

小心者な僕には、耐えられない。


「あー、居たっ! おーい、健ちゃーん」

「あっ」

僕が校門に差し掛かった辺りで、入口から出た真理奈ちゃんに捕捉された。


校舎の入り口から校門までは、50mぐらいの距離がある。意外と遠い。

僕は後で言い訳すれば良いや、とスッと校門を出た。


「ちょっと、健ちゃん!」

「え?」

次の瞬間。僕は、腕をガシッと掴まれた。


「真理・・・紅世さん」

「・・・・・。ちょっと、何で先に行っちゃうの?」

僕の腕を後ろから掴んだのは、確かに真理奈ちゃんだった。


ってか、いつの間に・・・。


僕が校舎入り口から視線を切って、校門を出たのはほぼ、同時。

それから、ホンの数秒しか経っていない。


「後で、部屋行くかんね」

「あ、うん」

一度捕まった以上、別々に帰る訳にも行かず。

僕たちは、言葉少な目に帰路に着いた。



「健ちゃん、入るよー」

「え、早っ」

帰宅して、数分。僕が学ランの上着を脱いだぐらいのタイミング。

なのに、真理奈ちゃんは既にラフな格好で、ウチを訪れていた。


何だろう。動きが早いというか、速いというか・・・。


「真理奈ちゃん、まだ着替えてるから待っ・・・」

「ダーメ♪」

真理奈ちゃんは靴を脱ぐと、背を向けた僕に取り付いた。

羽交い締めというか、昔のドラマでいう『あすなろ抱き』というか。


「ちょ、放し・・・て」

「勝負、しよ」

真理奈ちゃんは突然、そんなことを言い出した。


「私はこれから、健ちゃんを“擽(くすぐ)り”ます」

「何を、言って・・・」

振り解こうにも、真理奈ちゃんの腕は“相変わらず”ビクともしない。

小学六年生の時と変わっていない。いや、むしろ・・・。


「『一分間』、“参った”しなかったら健ちゃんの勝ち」

「じゃあ、勝ったら?」

仕方なく、僕は真理奈ちゃんの提案に乗る。


「負けた方が、勝った方の言う事を一つ、聞く」

「わ、わかった」

“力勝負”ならまだしも、“擽(くすぐ)り勝負”なら耐えられる。

僕はそう、簡単に考えていた。


「じゃあ、行くよ」

ふよんっ、と真理奈ちゃんのふくよかな胸元が僕の背中に圧し付けられる。

マシュマロというか、大きな餅、というか。


しかし、そんな天国な感触は、一瞬で消し飛ぶ。


「コチョコチョー」

「え? あ・・・」

真理奈ちゃんの指が、僕の上半身を這う度。


「あ、ぎ・・・」

めきっ。


「コチョチョー」

「ぎ、ぃ、あ・・・」

めりっ。


「コッチョ、コチョー」

「い、だだだっ」

真理奈ちゃんの指が肋骨に掛かると、骨が軋み。

脇腹の筋肉に掛かると、肉が挽き千切れそうになる。


「えーいっ♪」

「真理奈ちゃん、ちょっ・・・痛、いでででででっ!」

真理奈ちゃんは愉しんでいるのか、夢中なのか。

僕の悲鳴を、全く意に介していない。


「ちょ、やめ、て・・・」

真理奈ちゃんは何も、常に身体全体で抱き付いている訳ではない。

擽(くすぐ)る箇所によっては、手先だけで僕の身体をホールド。


「う、ぐ、あ・・・ぁっ」

その“手先だけ”の擽(くすぐ)りですら、僕は振り解けない。

上半身を捩(よ)じり、両腕を駆使しても、真理奈ちゃんは微動だにしない。


「ま、参った」

「ん? やったー♪」

二十秒ほど頑張った所で、僕は全身の悲鳴をそのまま口に出した。


「はぁ、はぁ。はぁはぁっ」

「えへへ。私の勝ちー」

真理奈ちゃんは、某格闘ゲームのキャラのように、その場で跳んで喜びを表現。


ビョンッ・・・


「え、凄っ・・・うわ」

ズンッ!


その場で軽く跳んだだけに見えた真理奈ちゃんの身体は、僕の腰より高く上がり。

床を揺らすぐらいの衝撃で着地した。


「真理奈ちゃん。脚、速くなった?」

「何、突然。さぁ、わかんない」

校舎から校門までの50mを、一瞬で詰めたのは。

今、目の前で跳んでみせた脚力の為せる技、だったのだろうか。


「それに・・・“力も強く”なってない?」

「え、どゆこと?」

真理奈ちゃんは、キョトンとしている。

やはり、というか。どうやら、真理奈ちゃん自身に自覚がない模様。


「ほら、これ」

僕は、脱ぎ掛けだったシャツを抜いで、上半身を露出した。


「きゃ、何・・・え」

流石の真理奈ちゃんも、僕の身体の異変に気が付いた。


「“それ”、いつから・・・」

「今、だよ」

僕の上半身、その前面には無数の痣(あざ)が出来ていた。正確には、内出血。


「え、でも。私、軽く・・・」

指を這わせた場所は覚えていたようで、痣と一致していることに気付いたらしい。


「真理奈ちゃん。何か、運動とか・・・始めたりした?」

いわゆる、習い事。お稽古ごと。


僕は改めて、真理奈ちゃんの全身を見遣(みや)る。

真理奈ちゃんの全身と、自分の身体を見比べる。


家の柱を使い、僕は密かに身長を測っていて。今は、155cmぐらい。

ちょうど一年ぐらい前に聞いた、真理奈ちゃんの身長に追い付いた。


だけど、僕が伸びた以上に、真理奈ちゃんの背も伸びていたのだ。

そして、差を感じるのは何も、“縦方向”だけでは無かった。


真理奈ちゃんの格好は、いつものTシャツと短パン。

それだけに目立つ、中一女子とは思えないような、肢体。


今日だけで何度も揺れているのを見た、豊満な胸元。

以前と違い、成長と共にキュッと縊れつつある、ウェスト。

胸だけが大きいトランジスタグラマーとは異なる、大きなお尻。


「・・・運動? うぅん、何もしてないよ」

真理奈ちゃん曰く。学校の体育の授業以外で、全く運動していないと言う。

真理奈ちゃんの言葉は信じるし、実際のところ、真実だろう。


「・・・・・」

僕の身体をガチッとホールドして微動だにしなかった、太い腕。

垂直跳びで軽く1m近く跳び、50mをものの数秒で詰める、太腿。


腕の太さも、太腿の大きさも、明らかに肥満な“それ”ではない。

動く度に筋がメキッとなり、肉がモコッと盛り上がる。


「真理奈ちゃん、“こう”してみて」

「え、“こう”・・・かな?」

僕に倣って、真理奈ちゃんが肩の高さで右腕を折り曲げた。

モコッと、リンゴ大の力瘤が盛り上がる。


「すご、固っ・・・」

僕は、渾身の力を籠めて真理奈ちゃんの二の腕を押し込む。


「きゃ、擽(くすぐ)ったい」

しかし、当の真理奈ちゃんは擽(くすぐ)られた程度の、感覚。


特に運動経験のない、13歳の中一女子。

そんな、普通に生活している中学生には不釣り合いな、筋肉。


強くなった力の根本、はわかったけど。じゃあ、【何故】と言う疑問が残る。


「そんなことより・・・私の勝ち、だかんね」

「あ、うん」

有耶無耶、には出来ないらしい。

何を要求されるのか・・・。


「私のこと、『真理奈』って呼んで」

「へ? それだけ?」

意外な、要求。


アイスを奢れ、とか。新作ゲームを先にプレイさせろ、とか。

もしくは、登下校で鞄を持って、とか。そういった類のを想像してた。


「良い? “ずっと”だよ」

「ずっと、って・・・?」

真理奈ちゃ・・・真理奈が言うには、時と場所を選ばず。

いわゆる、『TPO』を無視しろ、ってことらしい。


「・・・あ! それって・・・」

「そうだよ。学校でも、だからね♪」

真理奈は今日一日、ずっと僕の苗字呼びを気にしていて。

よそよそしさを感じて、内心凹んでいたらしい。


「・・・そっか、ごめん。わかったよ、真理奈」

「うん。ありがと、健ちゃん」

どんなに身体が大きくなって、力が強くなっても。

団地の隣に住む、幼馴染の真理奈であることに変わりはないのだ。


「じゃあ、僕からも一つだけ」

「え、何で。健ちゃん、負けじゃん」

敗者からの進言に、真理奈は『ブー』と口を膨らませる。


「明日からは、ちゃんとブラジャー着けて」

「・・・。何で、わかったの」

いや、いや。流石に、誰でもわかるよ。僕だけじゃない。

周りの男子もみんな、真理奈が“ノーブラ”だって気付いてる。


「だってぇ。『Dカップ』とかのブラ、可愛くないんだもん」

「へぇ・・・『D』、なんだ」

中一女子の胸のサイズが、『Dカップ』。


所詮、僕も中一男子、である。

目の前のおっぱいが『Dカップ』と知り、頭の中がそれ一杯になってしまう。


さっき、抱いた。【何故】と言う、疑問。

“それ”が後々、僕を現実に引き戻すことになるのだが・・・。



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