『忍者ケモ少年たちが尿意我慢訓練に挑む話』 (Pixiv Fanbox)
Published:
2020-03-06 11:59:32
Edited:
2020-08-30 08:23:56
Imported:
2023-04
Content
『忍者ケモ少年たちが尿意我慢訓練に挑む話』
群雄割拠のこの時代、国の存亡の明暗を分けるのは、最早武力の量ではなくなっていた。
今、何よりも重宝されるべきなのは「情報」である。いち早く敵国の動きを察知し、いかに早く対策を講じることが出来るか。或いはいかに他国に気取られず、自身が有利になる手段を講じることが出来るか。「情報」の収集能力の高い国が敵を圧倒し栄え、そうでない国は見るも無残に朽ち滅びてゆくというのが、今ではこの時代における常識であった。
故に、忍びの質が国の質と呼んで差し支えないだろう。忍びとは、敵国へと気取られず侵入を果たし、有益な情報を持ち帰ってくることを生業とする者達の呼称であり、即ち諜報員である。彼らの働き如何で、国の存亡が決まると言っても過言ではない。
そのような事情の為、優秀な人材を抱える忍集団は重宝された。優秀な集団であればあるほど莫大な金銭のやり取りが発生し、噂によれば寺一つ建ちかねないほどの金が動いたこともあるという。
無論、いかに優秀な集団といえ、一度失敗が起これば瞬く間に堕落の噂が広がり、築き上げてきた名誉は一夜にして崩れ去るだろう。そうならぬ為に、忍達は常に非人道的とも呼べるような、苛酷極まりない修練を強いられているのだ。
とある大国の端、霧深く煙る山奥の一角に、小さな山寺があった。
その山寺に名はない。麓に住まう村の人々でさえ、ほとんど正確な場所を認知されていない、秘された場所である。
一見廃寺寸前のこの寺こそ、ある忍集団が修練を積むための場だった。とはいえ、実際に敵城に忍び込むことが出来るような、一人前と称される忍はここにはいない。まだ忍びと呼ぶのも烏滸がましいような若輩達が、一人前の忍びを目指すべく基礎修練を積むのがこの寺だった。この寺での厳しい修行に耐え抜いたごくごく一部の者だけが、忍と称することを許されるのである。
忍の適性が高いとされるのは、夜目が利く、小柄な種族の獣人達だった。侵入は大抵が光のない新月の夜を選ばれること、また大柄な身体は荒事には適している一方、潜伏には適さないことが理由である。瞬発力に長ける兎の種族や身のこなしに長ける猫の種族が最も多く、特殊な例で行けば鴉の鳥人なども多い。多種多様の忍集団の中には、鴉の鳥人だけで構成されるものもあるという話である。
閑話休題、これよりご覧頂くのは、忍を志す稚児たちの、苛酷極まりない修練の一風景である。一見馬鹿げたもののように思われるが、何を隠そうこれこそが、百ある修練の内一二を争う苛酷さであると忍達が口を揃えて述べる『利尿忍耐』の修練である。
『利尿忍耐』の修練とは、まさしくその名の通りの内容である。定められた時間尿意に耐え抜くことが出来れば修練は合格となる。
何故このような修練が執り行われるかといえば、理由は一つである。敵城への侵入は長丁場になることが多く、その際に生理現象で動きを鈍らせたり、侵入の痕跡を残してしまうことがあってはならないためだ。
多少の辛抱が出来る便意はともかく、一度催してしまった尿意ばかりは如何ともし難いものだ。故に、我慢できず果ててしまい、或いは敵城の中で済ませようとして、侵入を見つかってしまう忍も少なくはない。
そのような情けない痴態を避けるべく、この修練は昔より行われていた。
◆
薄青い秋天の覗く、神無月の早朝。
薄靄のかかる山寺の広い庭に、二人の少年の姿があった。庭に敷かれた薄いござの上に正座し、凛々しく背筋を伸ばしている。
片方は、まだ齢十にも満たない兎の少年である。灰みがかった白の毛皮を持ち、名を白波と呼ぶ。赤い双眸のくりくりとした、見目麗しい稚児である。体躯はまだ大変に小柄で、風が吹けば転がっていきそうなほどであるが、その細白い肉体にはよく見ればしっかりとした筋肉が蓄えられている。
もう片方は、齢十四の猫の少年である。闇夜に溶け込む黒灰色の毛並みを持ち、名を黒金という。金色の双眸は凛々しく生気を宿し、黒い毛皮の包む肉体は満遍なく鍛錬されており、まるで切り出された黒曜石のような美しささえ感じさせる。修練によって磨き上げられた彼の雰囲気は、既に大人顔負けの色気さえ漂っているように見えた。
肌寒さの包む早朝の屋外でありながら、二人は殆ど裸といっても差し支えない姿だった。兎の少年白波は赤の、猫の少年黒金は白の六尺褌を締めている以外、彼らの身を保護するものはなにもない。
一見何かの折檻でも受けているかのように見える、褌一丁の二人の姿だが、実のところこれが彼らの普段の姿である。というのも、この姿でいることもまた修練の一つなのだ。
山寺に住まい、忍になるべく修練を積むことを志した少年達は、外気への適応のためにほとんどの被服を禁じられる。寒風吹きすさび、雪が降り積もるような極寒の日も、燦々と太陽光線が降り注ぐ灼熱の日も、ごうごうと滝のような雨が降り注ぐ日も、彼らは常に急所を包む薄布一枚で凌がなければならない。麓の村に降り、食料や日用品などの調達を行うときも同様である。そうすることによって、健全かつ頑強な肉体が嫌でも育っていくというのがこの修練の狙いだった。
やはりこれは余談であるが、実際この山寺より排出された忍びたちは皆、どれほど苛酷な地の気候であろうと平気な顔で耐え忍ぶことが出来るというのだから、この修練は理に適ったものであると考えられていたのだ。仮に身体を壊し弱るならば、それは忍たる素質が欠けていたというように扱われる。
さて、そんな裸同然の彼らがござの上に座していると、庭を一瞥できる縁側の奥より一人の老人が現れる。白波と同じ白毛の兎獣人で、枯れ枝のように痩せ細った身には紫紺色の袈裟が着られていた。
一見寺の住職のようだが、その正体は忍集団の元頭領である。名を羽柴といい、加齢を理由に忍の一線を退いたのち忍を志す若子達の修練師を買って出た人物である。少年たちにとっては父のように偉大な存在であり、またその修練の苛酷さより鬼のように畏怖されてもいた。
老師羽柴は二人の若造の姿を剣呑な眼差しで眺め回した後、懐から二本の赤蝋燭を取り出した。蝋燭の片方は一般的な太さだが、もう片方は羽柴のしわがれた手には持て余すほどに太い。
白波と黒金、兎と猫の少年たちは、それぞれが蝋燭をに視線を送る。
白波が視線を送るのは普通の太さの蝋燭、黒金の前が眺めるのはふとましい蝋燭である。白波が蝋燭を緊張の面持ちで見やるのに対し、黒金は苦々しさを噛み締めるような表情を浮かべていた。
「これより、『利尿忍耐』の修練を始める。各々がた、準備は良いか?」
羽柴の静かな声に、少年二人の背筋がぴしりと伸びる。
「黒金、準備万端に御座る」
「おなじく白波、問題ないでありますっ!」
二人の少年の威勢の良い声に頷き、羽柴は予め縁側に用意してあった大きな瓢箪を二人に手渡す。体躯の育った黒金はともかく、まだ幼い白波にとっては両手で抱えなければいけない程の大きさである。
「では、飲み干されよ」
羽柴のその言葉を皮切りに、少年二人は一斉に瓢箪の蓋を開け、中にたんまりと詰まった液体を喉へと流し込み始めた。手練れた様子で腹の中へと詰め込んでゆく黒金とは対照的に、白波はその量の多さに目を白黒とさせている。
二人が飲んでいるのは、羽柴特製の薬水である。強烈な利尿効果を及ぼす五種の薬草が漬け込まれており、飲めば次第に爆発的な尿意を催してしまうという代物だ。
しかも、沢の流れにきんきんに冷やされており、量にしておおよそ一升(約1.8リットル)もある。そんなものを一気に腹に溜め込めば、どうなるかは考えずとも瞭然であるだろう。
どうにか飲み終えた二人の少年の前に、火のついた蝋燭の立つ蝋燭台が置かれた。白波の前には普通の太さのもの、黒金の前には大きく太いものが置かれている。
「よいか。お前たちの目の前にある蝋燭の火が消えるまで、そのござより出ることは許されない。小便を漏らせば、この修練は失敗となる。よいな黒金、白波よ」
「……承知しておりまする」
「はい! 忍たるもの、辛抱が要でありますゆえ!」
重々しく頷く黒金とは対照的に、白波は威勢よく手を挙げる。白波の手に巻かれた鈴がちりんと鳴った。
少年達の四肢に巻かれた鈴は、大きく身を揺らしたりすれば鳴ってしまう。我慢の為に激しく身を揺らしたり、もしくはござの上を歩き回ることは出来ないのだ。
「あっ」
「……鳴らしてはいかんぞ。次鳴らしたら、罰を与えるからの」
「も、もうしわけありません!」
羽柴に呆れたように見下ろされ、白波の身体は縮こまった。羽柴は溜息を吐く。
「蝋燭は特別製だ。白波のは一時間、黒金のものは六時間経てば火が消える。それまでは、雨が降ろうが風が吹こうが決して消えぬ。火が消える時まで、只管に耐え忍ぶのだぞ」
励めよ、と言い残し、羽柴は縁側の奥へと去っていく。
寒空の下に残されたのは、褌一丁の獣少年達のみである。
二人はその柔らかな身体をぎゅっと引き締め、揺れる蝋燭の火を睨んでいた。
◆
それからおおよそ三十分後。
上空を広々と流れる雲間から挿し込んだ朝日が庭を照らし、佇む少年二人の姿を明るみに曝け出す。
黒猫の少年黒金は、時折呼吸のために腹が動く以外は、ござの上に座したまま微動だにしない。しゃんと背筋を伸ばした裸体はしなやかに伸びきり、その双眸を閉ざしたまま、静かに瞑想にふけっているようだった。
他方、隣に座る白兎の少年白波は、どうにも落ち着きがない。四肢に括られた鈴が鳴らないよう慎重に、その身体をそわそわと揺らしている。瞼をぎゅっと瞑ったかと思えばすぐに開き、その細く柔らかい身体を微震させ、唇をきつく噛み締めては離してを繰り返していた。泰然自若とした黒金の素振りと比較すると、あからさまに呼気が荒い。
白波の小さな肉身の内側、下腹部に存在する小さな水袋は、早くもずっしりとした重みを湛え始める。利尿作用の或る薬草の効果と冷水をため込んだ身体の冷えが相まって、白波は十五分ほど前より強い排尿欲求に苛まれていた。
『利尿忍耐』の修練は、幾度となく繰り返されるのが特徴だ。まずは一時間の忍耐より始め、二時間、三時間と、肉体の成長と共に次第に耐久の時間を伸ばしてゆくのである。そして最終的に六時間の苛酷な忍耐を終えた時、修練の修了が言い渡される。
つまり、今日が白波にとっては初めての『利尿耐久』の修練の時間だったのだ。隣に座する兄弟子黒金や他の弟子より『利尿忍耐』の修練がいかに過酷なものであるかを聞かされていた白波だが、本音を言えば高を括っていた。たかが一時間や二時間小便を我慢するなど余裕であるだろう――と思っていたのだが、その思いがいかに甘かったかを、彼は現在身を持って体験していた。
身をよじる、息を吐く、背筋を伸ばし、太腿を抓り上げる。全ての所作は、今までにないほど高速でこみ上げてくる尿意を誤魔化すためのものである。白い毛並みは既に酷く汗ばみ、照らす太陽の光を浴びててらてらと輝いていた。
「う、ぐぅ……っ」
白兎の少年白波は、ぐっと噛み締めた口端から唸りを漏らす。頬から一筋の汗が滴り落ち、膝の柔らかな被毛へと吸い込まれていく。
かたかたと小刻みに震える両足の間、赤い褌の布に包まれた小さな膨らみの奥。まだ未成熟な男の証の先端に、白波は全神経を集中させた。もし一瞬でも気を抜けば、小さな竿の先端から生暖かいものが広がっていくだろうという確信があった。それほどまでに利尿作用は強烈で、白波の尿意は限界だったのだ。
目の前に立てられた蝋燭を睨みつける。いま、ようやく全体の半分が燃え融けようとしていた。しかし、裏を返せばやっと半分でしかない。この強烈な尿意に苦しんだまま、後三十分もの時間を座して待ち続けなくてはいけないのだ。
「おしっ、こ……」
鈴が鳴らないよう慎重に、膝の上で握り締められた両手を動かし、褌の上からきゅっと股間を握り締める。腹を引っ込め、全身をこわばらせただけでは、既に辛抱が利かなくなりつつあった。もじもじと身を揺らし、両手で股間を抑えるさまは白波の憧れる立派な忍者とは程遠い子供じみた姿であるが、そうしなければ粗相をしてしまう。
いまや白波の頭の中も、膀胱も、小便で満杯にまで満たされていた。
今日の朝、寝起き一番に駆け込んだ厠で、何の懸念もなく放出した小便の感触を思い出す。粗末な厠の床に開けられた小さな穴目掛け、小さな竿の先端を向けて解き放たれた温い水流が、穴の底に溜まった水に突き刺さってちょぼちょぼとか細い水音を立てる様子。伴って、解放の快感や下腹部が軽くなってゆく感触を思い出し、いっそう尿意が強くなっていく。
厠に行きたい。それ以外のことは何も考えられなかった。今からでも立ち上がり、ござを出て、厠へと駆け込みたい。褌をずらして、気持ちよく放尿がしたい。いやもういっそのこと、そこが厠でなくてもいい。屋敷の裏手の草藪とか、なんならこの場で出してもいい。とにかく、おしっこが、したい。
まだ幼い白波は、肉体のみならず精神までもが尿意に切迫されていた。ほんの三十分ほど前、辛抱が忍びの要と勢いよく豪語していた忍者の卵としての姿はどこへやら、白波は酷く憔悴しきっていた。
「あ、っ……で、ちゃ……う」
少しずつ、少しずつ、辛抱が利かなくなっていく。汗で湿った褌の内側が、いっそう強く湿り気を帯びていく。涙で潤んだ赤い双眸が捉えるのは、尿意に悶え苦しむ白波をあざ笑うかのように揺れる蝋燭の炎だった。
目を白黒させる白波の姿は、誰がどう見ても決壊寸前だった。蝋燭は少しずつ融け落ち、後十五分もすれば火は消えてしまうことだろう。しかし、その十五分を凌ぐほどの余力は、白波の中にはもう存在しなかった。
万事休すか。もはや白波の粗相は誰の目にも疑う余地がない。――そう思われた、その時。
「辛抱されよ、白波」
隣で目を瞑っていた黒金が目を開き、視線を白波へと流す。
案ずるでもなく、ただ一瞥するのみ。しかし、吐き出された激励の言葉は温かみを持って、白波の崩壊寸前の心を奮い立たせる。
「あ、兄上……っ」
白波にとって、黒金は寝食と夢とを共にする同胞の一人でありながら、同時に敬愛すべき兄貴分でもあった。稀代の天才と称された黒金は、わずか齢十四にして百の修練の内の半数を突破しており、白波にとっては最も身近にある憧れの存在だったのだ。身体捌きの鍛錬や道具扱いの鍛錬の際、直々に手ほどきを受けたこともあり、白波の黒金に対する尊敬心は他の誰よりも強いものがあった。
「で、でも……おしっこ、したい……っ」
「余りそのことを考えなさるな。精神を強く持ち、無心を心掛けよ。これはただの忍耐の修練に非ず、精神修行も兼ねているのだ」
「せ、精神、修行……?」
「忍びたるもの、いかなる時も耐え忍ばねばならぬ。耐えるためには強靭な肉体も必要であるだろうが、同時に精神も強く在らねばならないのだ。……互いに、修練を成し遂げよう」
それだけを告げ、黒金は再度双眸を閉ざす。これ以上の言葉は不要、という事らしい。
「兄上……感謝いたします。この白波、耐えきってみせましょう」
白波の、頽れそうになっていた心に再度火が灯る。ほんの僅かな言葉でありながらも、黒金の言は的確に白波を奮い立たせた。
隣に座する黒金もまた、自分と同じような苦しみに必死に耐え抜こうとしているのだ。激励の言葉に続き、「互いに成し遂げよう」とまで言われたのに、その言葉に答えられないなど名折れにも程がある。
白波は歪んでいた姿勢を正し、背筋を伸ばす。今にも小便が溢れ出しそうな竿の鈴口をぎゅっと引き締め、蝋の火が落ちる瞬間を、ただ只管に待ち続けた。
◆
そして、修練の開始より、一時間の時が過ぎた。
黒金の前に立つ太蝋燭は、漸く僅かに欠け始めた頃合いである。先刻と比べほんの僅かに呼気が荒くなったように見えるが、黒金は至って平静な様子を保ったまま、じっと風に揺らぐ蝋燭の焔を見つめていた。
驚くべきは、隣に座する白波もまた、同様に落ち着き払っていたことである。よく見やればその身体は小刻みに震え、顔は青ざめ苦悶に満ちていた。加えて両の手は忙しなく股間を揉みしだいていたが、それでも赤子のように唸ったりわめいたりすることはなく、ただ只管にその時が来るのを待っていた。
「白波よ」
老師羽柴の声を受け、白波は顔を上げる。目の前に置かれた蝋燭台には、先ほどまで揺れていた筈の焔もなければ、そびえたつ細い赤蝋も存在していない。
それが何を意味するのか、一瞬白波は理解が及ばなかった。口を呆けたように開け、その後に漸く気付く。
「た、耐えきった……?」
「見事一時間辛抱してみせたな、白波よ。お前は修練の第一歩を成し遂げたのだ」
「っ、では……!」
苦悶に満ち満ちていた白波の顔が、突如ぱあっと明るくなる。修練を成し遂げたという喜び――というよりは、ようやく溜まりに溜まった小便が放出できるということに関しての喜びだった。
「気持ちよく出してくるとよい。ほれ、そこの隅でじゃあっとやってしまえ」
「! ……失礼、しますっ!」
老師羽柴が顎でしゃくりあげた先は庭の隅、ほっそりと曲がりくねった幹を携えて立つ一本の松の木があった。
許可を得るや否や、白波は目にも止まらぬ速度で立ち上がり、両手で股間を抑え込みながら駆ける。松の前に立つや否や、褌の前袋を乱暴にまくり上げる。汗にしっとりと湿った赤布の内側から、体毛と同じ白色の包皮を被った肉竿がちょこんと垂れた。
「――っ!」
手指を添える余裕はなかった。小便をこれでもかと溜め込み、限界まで縮こまったおちんちんが一瞬だけひくりと震えたかと思えば、即座に念願の放水が始まる。
――じょわああああああああああっ……!
白波の小さなおちんちんの先から迸る、透明色の温水。決壊の寸前まで溜め込まれただけあってか水流の勢いは大層強く、鉄砲水のように激しく噴出しては松の根元に突き刺さり、ばちばちと飛沫を上げる。
小便の勢いに振り回され、すっぽりと先端まで厚い皮の被った白波の子供竿がぷるんぷるんと激しく震えていた。小便の軌道はあちらこちらに拡散し、正面に捉えた松の根元だけでなく、その周辺や足元にまで透明な水溜りを広げていく。
裸足の指先に暖かい小便溜まりが触れようとも、白波はその場を動かない。今までに味わったことのないほどの開放感、眩暈がするほどの強烈な快感と達成感とを、目を閉じながらしっかと味わっていた。
「っ、はあああ……っ」
溜息一つ。短い兎耳をぱたぱたと揺らし、白波は空を仰ぐ。
真っ青に広がる涼やかな晴天に、流れてゆく雲間。ちょぽちょぽと緩やかな、せせらぎの音。
弛緩しきった白波の小さな身体を、流れる緩やかな秋風が撫でつける。白くやわらかな被毛がさわりとそよぎ、ふるりと身体が震える。勢いを失いつつあった小便の水流が風下へと流れてゆく。
心地よい。まるで自分の体そのものが、空気の中へと蕩けだしてしまったかのようだった。性の快感をまだ知らぬ年頃の白波にとって、波のように襲い来る悦楽的快感はいかんともし難い感情を芽生えさせる。うっとりと恍惚に緩むその表情は、初々しくもきりりと研ぎ澄まされた忍の卵としての普段の顔からはまるで想像できなかった。
最後の一滴までを出し切り、皮を剥いてすぼめての繰り返しで残尿を絞り出す。褌に染みを残さないよう先端をしきりに振った後、白波は褌の中へとおちんちんを仕舞い込んだ。
「ふぅ……」
そこで漸く周囲を見回し、自身の残した痕跡を知る。
狙いを定めていた松の細幹はじっとりと濡れ、小便は未だに滴っていた。地面にはむわりと臭気の漂う大きな水溜りが広がっており、あろうことか自身の両足は水溜りに思い切り足を突っ込んでいた。
水を並々湛えた手桶をぶちまけたぐらいの惨状である。それが全て自分の身体から排出された液体であるという事を理解し、白波は急激に羞恥心がこみ上げてきた。白い毛の揃う頬が、熱された鉄のようにかあっと赤く染まる。
「済んだか、白波よ」
「お、お師さま……」
惨状に立ち尽くす白波の背後から、薄らとほほ笑む羽柴の声がかかる。白波は粗相の見つかった子供のような顔をした。
「よい、よい。そのような顔をせずとも。後始末はこちらでするからの」
「す、すみませぬ……うっ」
身体の内から不意にこみ上げてくるものを感じ、白波はぶるりと身を震わせた。
尿意である。先程全て出し切った筈なのに、どういう訳かまた即座に催し始めていた。しかも先ほどの比ではない速さで。
白波はもじもじと身をよじり、下腹部をさすった。その様子を見て、羽柴は髭を撫でる。
「あ、あれ? お、お師さま……その、またおしっこが……」
「まだ薬が抜けきっておらんのじゃろ。暫く催し続けるじゃろうから、水と塩とをよく摂って、治まるまで厠に籠っているとよい」
「ぎょ、御意!」
わたわたしていると今度こそ漏らしかねない。白波は股間をぎゅっと握り締め、ばたばたと忙しなく屋敷の裏手の厠へと走り去ろうとする。
しかし、何かに思い至ったかのように一瞬立ちどまり、振り返った。視線の先には、未だござの上で耐え忍んでいる兄弟子黒金の姿があった。
「兄上!」
白波の呼びかけに、黒金はゆっくりと目を開いた。その表情には、僅かな苦悶が浮かんでいる。
「兄上のお陰で、白波は耐え忍ぶことが出来ました! ……健闘を祈りまする!」
白波のその言葉に、黒金は何を言うでもなく小さく頷き、再度目を閉じる。
白波はにっと微笑みを浮かべ、それからいよいよ辛抱が利かなくなってきたのか、血相を変えて屋敷の裏手へと走っていった。
「師匠、白波は行きましたか」
「うむ。もう此処にはおらんぞ」
白波の所在を問う黒金の言に、羽柴が返す。
その次の瞬間、黒金は泰然自若と澄ました表情を解き、今まで膝に置いていた両の掌で、白い褌に包まれた股間の膨らみをぎゅっと抑え込む。
「う、うううっ……」
全身の毛穴からびっしょりと冷や汗が噴き出し、黒い毛並みをしっとりと濡らしていく。吐く呼気は急に荒くなり、口端からは病人のような呻き声が漏れ始める。先程までの平然とした様子とは打って変わって、黒金は酷く憔悴し始めた。
「弟弟子を不安にさせぬよう、虚勢を張っていたか。弟思いよな、黒金よ」
「っく……」
そう。
今まで見せていた平然とした様子は、いかにも尿意など催していないと言いたげな落ち着き払った態度は、全てが虚勢だったのだ。本当は白波と同じ程度尿意を催していたし、膀胱はすでに張り詰めてぱんぱんだった。口を固く閉ざしていなければ、すぐに呻き声やら弱音やらが漏れだしそうになってしまう。
何故虚勢を張っていたのかといえば、まさしく羽柴の指摘通りである。弟弟子の前で情けない姿を見せることなど矜持が許さなかったし、白波を不安にさせるわけにはいかなかった。いかに苦しく、小便がしたくてたまらないとしても、それを表に出してしまえば白波の心は一層弱ってしまうだろうことを、黒金は知っていたのだ。
「その態度やよし。忍とは耐え忍ぶ者、いかに苦しくとも周囲に気取られてはならぬ。忍の志が出来ておるな、天晴れよ」
「……ありがたき、お言葉、でござる……っ」
「だが、地獄はこれからであるぞ。後四時間半、そろそろお前の立派な姿を儂に見せておくれ」
「……く、っ」
黒金は目を開き、自身の前に立つ蝋燭を眺めた。通常の六倍もの燃焼時間を持つ特製の太蝋燭は、まだまだ半分以上残っている。黒金に課せられた『利尿忍耐』の修練は、まだ折り返しですらない。
黒金は冷や汗を垂らし、呻き続ける。地獄は未だ始まったばかりだった。
◆
修練の開始から凡そ二時間。
股間を両の手でぎゅっと抑えつけながら、黒金はこれまでに自身が積み上げてきた屈辱の歴史を思い出していた。
黒金が初めて『利尿忍耐』の修練を始めたのは、ちょうど白波と同じ年頃のことだった。
初めての一時間耐久の際は、三十分もいかないうちに果ててしまったことを、黒金は鮮明に覚えている。粗相をした褌を洗濯の名目で剥ぎ取られ、その日一日は素裸を晒しながら他の修練に挑まされ、酷く恥ずかしい思いをしたものだ。
二度目の耐久の時は、当時尊敬していた年上の同胞の一人と共に挑まされた。尿意にくじけそうになる心を、隣で必死に励ましてもらったのを覚えている。その励ましのかいあってか一時間の地獄に耐えきることが出来たのだ。
その要領で、黒金は二時間、三時間と忍耐の時間を伸ばしていった。あの時掛けてもらった言葉がなければ、とうに心は折れて砕けてしまっていただろう。今はどこかで忍として活躍しているだろう彼にもう会うことはないだろうが、あの暖かく厳しい言葉は黒金の中で今も生き続けており、それは巡り巡って白波の心を奮い立たせたのだった。
しかし、黒金は再度壁に突き当たる。四時間の忍耐の壁がどうしても超えられず、幾度となく修練は失敗した。粗相の瞬間に股の内側に広がる生温い感触と屈辱的な解放感とを幾たびも味わい、夜皆が寝静まったころに独り枕を濡らしたことも多い。
だが、黒金の心はもう折れることはなかった。
身体も精神も不足しているという自覚の下に、黒金は只管に修練に励み続けた。
寝る間も惜しんで体躯を鍛え、朝は誰よりも早く起きて山奥の滝に打たれ、精神を鍛え上げる。いつしか寺に住まう忍の卵の中でも一番と称される実力を身に着け、気が付けば齢は十二となっていた。
甘ったるく鈴を転がすような子供声は少しずつ成熟し、体躯は次第に男性的なものになっていく。若くして寺の代表の証である白褌を身に着けたその日、黒金は念願かなって四時間の壁を乗り越えることが出来たのだった。
それから一年かけて五時間の耐久を終え、そして今、齢十四。黒金は最後の関門である、六時間の耐久に挑み続けていた。
極寒の冬より始め、秋まで凡そ半年以上の時間を掛けても、黒金は六時間を耐え抜くことが出来なかった。
しかしそれは黒金の怠慢ではない。
そもそも、六時間の耐久を達成することが出来るのは、ある程度心身が成熟しきった十八歳以降の者しかありえないと考えられていたのだ。黒金の到達速度が速すぎた結果、身体の成熟度合と要求される結果とが釣り合わなくなっていたのである。
あと数年もすれば、黒金は六時間の忍耐をやすやすと突破することが出来るだろう――というのが羽柴の見解だった。しかし、それでも今の時点で取り組みたいという黒金の言葉を尊重し、無謀な修練に取り組ませているのである。
「忍び……耐える……く、うう……っ」
これまで白波に見せていた、年長者としての威厳ある姿とは打って変わって、黒金は十四の歳相応としか言いようのない弱り切った姿を羽柴の前へと晒していた。
張り詰める膀胱に苦しみ、強烈な尿意に悶える少年黒金の痛々しい姿を、羽柴はじっと押し黙ったまま見守ることしかできなかった。
◆
修練開始より四時間。
幾度となく襲い来る尿意の波に晒され、黒金の精神は崩壊寸前にまで追い詰められていた。
強烈な力で股間を揉み込む両の手を一瞬でも緩めれば、即座に洪水が巻き起こるだろうことは承知していた。むしろそうしてしまった方が楽かもしれない、と頽れそうになる心を必死に抑え込みつつ、下腹部に向ける意識を必死に研ぎ澄まし続ける。
黒金のしなやかな肉体は発汗でじっとりと湿り、特に褌の内側は汗を吸って酷く湿っていた。薄い生地の白褌故に、布地の内側に押し込められた柔らかな竿や玉の形がくっきりと浮かび上がっている。幾ら精神が強靭であろうと、黒金の肉体はまだ十四相応のものでしかない。それはどうやら、股座にぶら下がる雄についてもその通りのようだった。
「くっ……ふう、っ……」
呼吸の度に、満杯にまで温水の収められた膀胱の中が流動し、そのまま漏れ出しそうになる。今や呼吸一つが命がけだった。
確かに下腹部の括約筋を引き締めている筈なのに、なぜか鈴口から小便が溢れて止まらなかったときの記憶を思い出しては、激しく歯を噛み締める。もうあのような惨めさは味わいたくなかった。
羽柴による薬水の効果は、一般に伝えられる利尿薬の数倍は強烈である。特に訓練を受けていない、一般的な体躯の成人男性が規定量服用した場合、おおよそ一時間程度で膀胱が満杯になるという研究の結果がある。
つまり、今現在の黒金は、成人男性四人分の小便をため込んでいるに等しかった。黒金がしっかりとした修練を受けていなければ、今頃膀胱が破裂していただろうことは想像に難くない。
とはいえ、既に膀胱の臨界点は越えている。今黒金の周囲が水浸しになっていないのは、ひとえに彼の強靭な精神力の賜物というしかない。一瞬でも集中が途切れるようなことがあれば、それが黒金への止めとなるだろう。
(でる、っ……もれる……っ)
不意に風向きが変わり、黒金の鼻腔に小便の酸い臭いが漂ってくる。
どうやらそれは、先ほど白波が庭の隅にぶちまけた小便の池からきているらしかった。
鼻の内側にするりと滑り込むその臭いに、今までになく強烈に排尿欲求を刺激される。
それだけではない。先程白波が気持ちよさそうに地面にぶちまけていた、その一部始終の水音が脳内で再生されてしまう。
「したい、っ……あっ、あ、……っ」
出したい。白波のように、全て出し切って、早く楽になりたい。――いっそ、漏らしてしまおうか。
漏らしたところで、誰も修練の失敗を咎める者はいない。もともと無謀な挑戦なのだ、失敗して当然、今回もまたダメだったと、それだけのことでしかないだろう。
耳元で囁かれる甘言。それは黒金にとって魅力的な提案だった。しかし。
「……っ、ううう……ぐうう……っ!」
だめだ。漏らしてはいけない。漏らす訳にはいかない。
顎の骨が砕けんばかりに歯を食いしばり、歯止めが効かなくなりそうなのをすんでのところで押し留める。
白波と交わした言葉が、黒金の脳裏に木霊していた。――共に成し遂げよう、と。
白波は苦しみながらも、確かに己に課された修練を成し遂げたのだ。だというのに、兄弟子たる自分が、道半ばで屈していい筈がないだろう。忍たるもの、兄たるもの、常に誇り高く在らねばならないのだ。
呻き、身を捩り、噛み締めた唇に血が滲む。苦悶の最中にいる少年をあざ笑うかのように揺れる蝋燭の焔を、黒金は血走った眼で睨みつけた。
◆
修練開始より五時間と十分。
黒金の端正な顔立ちは苦痛に歪み切り、顔面は死人のように蒼白だった。吹き抜ける風が黒金のしなやかな肢体を撫でつけるたびに、鍛え上げられた括約筋を締め上げることでどうにか押し留めている小便が噴き出しそうになる。
膀胱はきりきりと収縮し、尿道が少しずつ緩んでいく。褌の上から股間を抑え込む両手に時折じわりと生暖かい液体が滲み、その度に黒金は生きた心地がしなくなる。少しずつ、しかし確かに近づいてくる決壊の足音と、残り少ない蝋燭の蝋が尽きるのとでは、果たしてどちらが早いだろうか。後者であることを祈るしか、今の黒金に出来ることはなかった。
「っ……ああッ……! っく、でる、でちゃうっ……!」
ござの上で絶え間なく身を揉むその姿に、修練開始時に見せたような冷静さの面影はない。悍ましく荒れ狂う尿意に悶え苦しむ、十四歳の黒猫の少年の無惨な姿があるだけだ。目尻には涙が浮かび、はあはあと荒い息を撒き散らす口端からは一筋の涎が垂れている。双眸は大きく見開かれて血走り、喉の奥からは言葉にならない悲鳴が常に垂れ流され続けていた。
黒金はこれまで幾たびも『利尿耐久』の修練に挑み続けてきたが、ここまで耐え忍んだのは実のところ初めてだった。大抵が三、四時間過ぎたあたりで堪え切れずに放尿、もしくは四肢に巻かれた鈴が鳴ってしまったことで『仕置き』をされてしまい、その影響で粗相してしまっている。
かつて五時間の耐久に成功した際は、蝋燭の炎が消えるのとほぼ同時に盛大に失禁、厠に辿り着くどころか褌をずらすことさえ叶わないという、修練は成功しながらも何とも情けない結末を迎えてしまっていた。つまり、五時間以上の耐久は、黒金にとって未知の領域だったのだ。
五時間を過ぎたころから、時間の流れは余りにも鈍重に感じられた。一分、ほんの六十秒が、一時間にも二時間にも引き延ばされているようだった。早く消えろと蝋燭の炎を睨みつけたところで、何も変わらない。
小便がしたい。
小便がしたい。
小便が――
「……っ、あっ!」
じゅうっ、と熱い感覚が股座に迸る。ほんの少量、歯止めの利かなくなった液体が溢れてしまった。
とっさに股間を強く揉みしだくも、流れは止まらない。しょろ、しょろろ……と無慈悲に溢れ出し、褌の布地をべっとりと濡らしていく。熱いものが流れるたびに、縮こまった性器の先端がきゅうきゅうと疼いて、もっと出したいと主張を続ける。
「あっ、あっ……ん、くっ……!」
電撃のように迸る微量の快感に、黒金の喉元から嬌声が漏れる。咄嗟に両股を強い力で固く閉じ合わせても、太腿の内側に熱い液体の感覚が広がっていくばかり。紛れもなく「お漏らし」の兆候だった。
(い、嫌だ……嫌だ……ッ! 出るな、でるな、でるな――!)
黒金は目を瞑り、ぎゅっと身体を縮こまらせる。開かれた喉から無音の絶叫が迸る。しかし、黒金の渾身の祈りも虚しく、股座の熱はじわりじわりと強く広がっていく。最早抑えることは不可能だった。
しょろ、しょろろ……。
(あと少し、あと少し、なのにっ……!)
雫が迸り、水音が微かに響く。
残りの耐久時間はもう一時間を切っている。あと少し、ほんの少しだけ踏ん張り切ることが出来れば、黒金の念願は叶うだろう。しかし、耐え抜きたいという頑なな意志とは裏腹に、肉体はもう白旗を振り始めていた。きゅうきゅうと強烈な力で締め上げられていた括約筋は少しずつ弛緩を始め、溜め込まれていた温水は身体の外側へと排出されようとしていた。
しょろ、じょろろっ。
(あっ、ああっ、漏れる……っ!)
既に真っ白な褌の布地はぐしょりと濡れそぼり、おちびりを受け止めるだけの努力は無くなっていた。ぎゅっと固めた両足の間、股間を抑え込んだ両手の隙間より生暖かい液体がつうと滴り落ち、液体がござの上に広がっていく。
じゅっ、しゅぅぅぅっ……。
「……あ、っ!」
ひと際大きな悲鳴が上がる。ついに抵抗を止めた括約筋が一気に緩み、尿道を迸る熱い液。
排尿の快感が背筋を駆け上がる。それは限界にまで張り詰めた精神を、我慢に我慢を重ねた肉体を、全てを終わりにする強烈な刺激となって、黒金の身体をぐちゃりとかき混ぜた。
(許してくれ、白波……)
ついに、黒金の理性が、降伏の時を迎えた。
びくん、と一瞬、その汗ばんだ黒い毛並みを震わせたかと思うと――
――ぷしっ、じょわああああああああああああああああっ……!
固く股間を握り締めた両手の隙間から、勢いよく透明な液体が噴き出した。
正座に組んだ黒金の尻の下から、見る見るうちに水溜りが広がっていった。熱くじっとりとした感触が、黒金の褌を、股間を、尻を、太腿を、膝を、足を、それからぎゅっと固めた両手を、ぐっしょりと濡らしていく。
抑え込むことを、黒金はしようとしなかった。我慢に我慢を重ね、とうに限界を超えていた下半身は、一切の言うことを聞かないまま脱力しきっていたというのもあるし、尿道を伝って溢れ出していく暖かい感触が、もうどうしようもなく気持ちよくて、黒金は何も考えたくなかったのだ。
歯を食いしばり、呻き、苦しみ、泣き叫んだ。それらの負の感情が、放尿の強烈なまでの快感によって、全て塗りつぶされていく。我慢し続けたものをようやく吐き出せるという喜びと、放尿の気持ちよさとが、今の黒金に与えられたすべてだった。
「は、ああ、はあああああっ……」
深く、深いため息が、呆けたように大きく開かれた口から零れ落ちる。小便と共に、体中の力が流れ出していくようだった。
ぱんぱんに張り詰め切った下腹部が少しずつ萎んでいき、少しずつ軽くなっていく。太い水流が尿道を勢いよく駆け下っていく。性的なものによく似た、原始的な快楽に、黒金は完全に屈してしまっていた。
(きもち、いい……)
周囲に立ち込める強烈な小便の臭いが鼻をつく。ござの上一杯に広がった水溜りがなおも勢いを増して広がり続け、地面を黒々しく浸食していく様子を、黒金は淀み切った眼差しでぼんやりと見つめていた。
自分がみっともなく粗相をしてしまったという現実から目を背けるように、頬を紅潮させ、はあはあと荒い息を垂れ流し、蕩け切って腑抜けた表情を白日の下に晒しながら、黒金はなおも褌の中からばしゃばしゃと溢れ出し続ける小便の感触に浸り続け、全身で排尿の悦楽を貪り続けた。
「漏らして、しまったのう」
「あ、ああ……っ」
時間にして、三分と少し。永劫にも思えるほどの長さ続いた失禁が終わり、黒金の表情には陰りが射し込んでいた。
弟子の醜態の一部始終を何も言わず眺め続けた羽柴の言葉が、憔悴しきった黒金の身体に突き刺さる。
漏らしてしまった。
その事実をありありと見せつけるのは、足元に広がる盛大な水溜りだった。既に液体は熱を失い、嫌な冷たさが黒金の下半身を浸し続ける。
排尿の際の強烈な快感の後に来るいっそう強烈な羞恥に、黒金は身を震わせた。どくどくと心臓が波打ち、喉は急激に渇きを覚え始める。顔は火でも噴きそうなほどに赤々と熱され、目尻には大粒の涙が浮かんでいた。
「修練は、失敗じゃ」
「……」
「粗相の後始末をしたら、褌と身体を浄めてくるとよい」
「……っ、はい」
羽柴の言葉に、黒金は頭を下げた。冷え切った空気に木霊する最低限の指示は、寧ろ黒金には有難いものだった。下手に慰められては、或いは強く罵倒でもされようものなら、既に粉々に砕け散った黒金の自尊心は二度と修復出来なくなってしまうところだった。
羽柴は去り、庭に残されたのは黒金一人と、盛大な粗相の跡のみである。
黒金はござの上に座り込んだまま、暫く放心したように粗相の跡を見つめていた。
――悔しい。
――恥ずかしい。
――情けない。
そんな感情が胸の内よりこんこんと湧き上がり、ぐるぐると頭の中を回り続ける。心の内がぐちゃぐちゃと揺さぶられ、目頭がじんわりと熱くなる。溢れた涙が頬を伝い、地面の水溜りに波紋を落とした。
「うっ……ううっ……ひ、っ……ううううっ……!」
静まり返った庭の中に、黒金のすすり泣きが木霊する。いつもの澄ました姿はもうどこにもなく、身を震わせて泣きじゃくる姿は、まるで年端もいかない子供のようにしか見えなかった。
情けない。白波と約束したのに。必ず互いに成し遂げようと、約束を交わしたというのに。
こんな情けない姿を、白波に見せる訳にはいかない。とにかく、急いで粗相の片づけをしなければ、誰かに見られればきっと笑い種になってしまうだろう。誇り高い黒金にとって、それだけは避けなければいけない事だった。
「……あ、兄上?」
しかし、現実は非情である。
偶然庭の近くを通りかかったのは、今黒金が最も会いたくない人物――白兎の少年、白波だった。
庭の中に大きく広がる水溜りに、噎せ返るような小便の香り。そしてその中心で佇む、その身に締めた白褌をぐっちょりと濡らした黒猫の少年。眼を赤く腫れ染めた少年――自分が兄上として慕う、黒金のその姿に、白波はここで起こった一部始終を理解した。
「し、白波……」
「ダメ、だったのですね」
「……すまない」
「っ、いえ……」
白波の幼い思考では、黒金に掛けるべき言葉を見つけることが出来なかった。
それは黒金も同じようで、二人は呆然とその場に立ち竦むばかり。重く、冷え切った空気が、庭の一帯を包み込んでいた。
◆
その日の夜。
一張羅の白褌が洗濯に回されたため、黒金は一糸纏わぬ全裸のまま、縁側に座り込んで庭を見つめていた。
月の光に照らされた庭は、昼間の惨状などどこ吹く風と言うように静まり返っていた。粗相の跡は無事に消え去り、臭いもない。黒金の心の内に深く刻まれた傷の他に、粗相の痕跡はもうどこにもなかった。
午後の修練に黒金が全裸で現れたため、同じ修練を行っていた同胞達には何があったかを察されていたようだが、それを詰るようなものは誰もいない。明日は我が身かもしれないという同情と、他者の心を折ってはいけないという暗黙の了解が、寺の中には存在していたのだった。
しかし、それが却って、黒金の心をささくれ立たせた。
いっそ馬鹿にして笑い飛ばしてくれた方が、惨めを晒した自分の姿を受け入れることが出来ただろう。皆の手本となるべき自分が、年下や後輩に気を使われているという事実が、心の内を一層惨めに染め上げていく。
夜の冷たい風が、黒金の裸体を冷やしていく。
寒い。しかし、寺の部屋の中には戻りたくない。気を使われるのも、情けなく裸を晒すのも、全てが嫌だった。
「兄上、風邪を引かれてしまいますよ」
「……白波」
今一番聞きたくない声が、座り込む黒金のすぐ後ろから聞こえた。黒金は振り向かないまま、庭を睨みつけた。
「軽蔑しただろう。お前に立派な言葉を残しておきながら、耐え忍ぶことも出来ず小便を漏らした俺のことを」
「いいえ、そんなことはありませぬ。兄上には、感謝こそあれど、軽蔑の念など一度たりとも覚えておりませぬ」
「感謝……?」
感謝などされる謂れはなかった。
「ともに成し遂げよう」などと大言壮語を叩いておきながら醜態を晒した自分には、白波に合わせる顔などないというのに。侮蔑こそされるだろうが、感謝される筋合いなど、黒金には思い当たることがなかった。
「本当はあの時、もうおしっこが我慢できなかったのです。でも、兄上の激励のお陰で、食いしばることが出来たのです」
「……」
黒金は黙ったまま何も言わない。白波は言葉を続けた。
「どうか腐らないでください、兄上。……共に、忍として大成するその日まで、一緒に励みましょう」
「白波……」
白波の優しい言葉が、心に広がる傷口にきりりと沁み渡る。
思わず目頭が熱くなった。涙が零れ落ちないよう、黒金は夜の空を静かに見上げる。
優しく降り注ぐ月の光が、ふたりの少年を照らしていた。