アルティマミレーヌ「甦る剣」 (Pixiv Fanbox)
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挿絵 べろす様 きんぎょにく様 炭酸水様
※本作は過去に更新した「閉ざされた記憶」「受け継がれる獅子の意思」から続くお話となります。単作でもお楽しみいただけますが、上記二作と中編「ガルデン大王の復讐編」をお読みいただけると、さらに楽しんでいただけるかと思いますので、よろしければそちらもどうぞ!
「ふぅ…」
ミレーヌが地球を守る任務についてしばらく…
光の星で皇族としての復帰を果たし、ソフィは外交や聖十字隊の仕事に追われる日々を送っている。
忙しい日常にやりがいも感じていたが、最近は悩みの種も増えつつあった。
というのも、銀河の混乱期に『チームα』の一員として悪の成敗にあたっていたソフィを恨む賊は未だ多く存在し、そういった敵に襲われることも少なくなかったのである。
ソフィ自身もある程度戦えるため、難なく撃退できることがほとんどであったが、時折捕えられて銀河守備隊のお世話になることも、彼女の心労の一つであった。
「あまり迷惑をかけるわけにはいかないし…なにか自衛策を考えないといけないわね…」
しかし、多忙な中では修行をするわけにもいかないし…
思案に暮れるソフィに、女王・アルティマユウリからの招集がかかったのはそんな時であった…
光の星の王宮…それも女王からの直々の呼び出しということもあり、ソフィは緊張感を持って謁見の間へと歩みを進める。
「以前お会いしたのは…皇位の剥奪の時だったわね…」
ガルデン大王が光の星を攻めた際、代々ソフィの家で保管・管理を任されていた国宝剣『アルティメイトブレード』と、対をなす盾『アルティメイトイージス』を持ち出したうえで、これを撃退。
しかし結果として国宝は両方とも破壊され、その責任をとってソフィは当時第三位だった皇位を剥奪されていた。
とはいえ、その働きがなければ光の星は間違いなく滅んでいたという状況を踏まえ、ユウリからは感謝の言葉をかけられたことをソフィは思い出す。
「今度は何もしていないはずだけど…まずはお話を伺ってからね…」
そうこう考えている間に、ソフィは謁見の間の中心にまで到達していた。
「よくきてくださいました。ソフィ…」
女王・ユウリの声が室内に響き、ソフィは咄嗟に膝をつく。
「はっ…女王陛下におかれましては…」
挨拶の口上を述べようとしたソフィを、ユウリの声が遮った。
「堅苦しい挨拶は無しとしましょう。忙しいあなたにあまり時間を取らせてはいけませんからね。顔を上げて楽になさって。」
優しい声で語りかけるユウリの声に従い、顔を上げるソフィ。
そこには幼女の姿のユウリが立っていた。
「ちょっと力をセーブしなくてはならなくて…こんな出立で失礼するわ。」
ユウリは不老であり、その姿を自由に変えられることはソフィも知っていた。
確か、最後に謁見した時も最初はこの姿であったはず…
最近はあまり表立って活動されることはなくなったと聞いていたが、何かと忙しいのだとソフィも理解していた。
「その…今日は一体どんな要件で…」
おずおずと切り出したソフィに、ユウリは笑顔で応える。
「まずは皇位の復帰、そしてその後の働きに感謝を…とはいえ、私が剥奪したのだから、少し白々しいですね。」
目を伏せるユウリに、ソフィは首を振ってそれを否定する。
「いえ!あれは緊急時とはいえ、私の行動は明らかな越権行為でした。国宝を同時に二つも損失したことを考えれば、十分に寛大な処置であったかと…」
ユウリの判断を慮るソフィの態度に、女王も改めて頭を下げた。
「あの時破壊されたアルティメイトブレード、そしてイージスは改めて本来の形へと復元させました。そしていま再び、これをあなたに預けたく思います。」
その言葉にソフィは驚愕の表情でユウリを仰ぎ見た。
「そんな…有用な装備であれば銀河守備隊に回すべきでは…」
ソフィの視線に全くたじろぐこともなく、ユウリは優しい表情で視線を返す。
「ええ、そういう意見もあるでしょう…どうするかも含めて、今回はあなたに判断を託します。それでは、よしなに…」
ユウリが踵を返すと同時に、二人の間にはヴェールが降りてしまう。
「ユウリ様…」
後に残されたのは、膝をついて呆然とするソフィの姿であった…
「一体全体、ユウリ様はどういうおつもりなのかしら…」
アルティメイトブレードとアルティメイトイージス…
その二つを収容した水晶状のデバイスを渡され、ソフィは途方に暮れる。
前線に立つミレーヌに渡すべきか…
しかし彼女はエンプレスモードに目覚めたばかりで、まだその力の行使もままならない状態と聞いている。
弟子のリオナも嘘かまことか、次元を超えて再開した母・シオンから譲り受けたという新たな力・リオネスモードに目覚めていた。
どちらもまだ目先の力に振り回されていることを考えると、この力を託すことにはソフィも及び腰にならざるを得ない。
「そうなると彼女たちの先輩のアイリやエリナに任せるべきか…うーん、悩みどころね…」
色々と思案しながら、ソフィは地球へ向けて宇宙空間を飛翔していた。
地球で先日あった『DDX襲来事件』…
最終的にミレーヌとリオナが破壊したDDXの宇宙船がまだ地球の近くに残骸として放置されているという話を受け、ソフィはその回収・又は破壊のために出動していたのだった。
本来は銀河守備隊の隊員レベルで十分な仕事だったが、いろいろ思い悩むことにフラストレーションを貯めていたソフィは雑務でも身体を動かしたいと志願したのである。
ソフィの三つ編みの先っぽを留める髪留めはリオナがプレゼントしたストレージ機能を有したもので、中にある程度の装備を収容できる。
その中には先日ユウリに渡された、アルティメイトブレードなどを保管したデバイスも入っているのだった…
「特に問題はなさそうね…」
放置された残骸はそんなに大きな宇宙船ではなく、そのほとんどがミレーヌたちの光線で破壊されていた。
その中で、何個か部屋が連なったブロックが難を逃れており、ソフィはその中を探索していく。
とはいえ武器が残っている様子もなく、最後の部屋へとたどりつくソフィ。
電源が近くにあるのか、自動扉はまだ稼働しており、招き入れられるようにソフィは中へと進んでいった。
「ここは…工作室かしら?…アームがいくつか放置されている以外には特に何も…」
ここまで何もなかったことでソフィには多少の油断が生まれてしまう。
次の瞬間、突然室内に警報音が鳴り響いた。
「ピ…ガガ…生体反応を検知…優先捕獲対象…『アルティマソフィ』を確認…」
無機質な機械音声が流れたのち、周りに横たわっていたロボットアームが全て起動する。
「まさか…内部電源だけで稼働するの?」
ソフィが身構えるよりも一瞬早く、アームが四方八方から襲いかかる。
「ぐ…この!きゃあああっ!」
もともとアルティマレディたちを捕えるために作られたアーム…
ソフィの力では対抗できるはずもなく、あっという間に絡め取られてしまう。
「はなしなさい!もうこの船は廃棄されているわ…こんなことしても意味はないのよ!」
機械に話しかけても意味が無いことはわかっていたが、一縷の望みをかけてソフィは叫ぶ。
しかし、アームはインプットされたプログラムを強制的に行うだけであった。
ソフィの胸部に絡みつくと、胸の先端にエナジードレイン用のカップを押し付けるアーム。
ソフィの大きな胸がたわわに揺れると同時に、ちくっとした痛みが身体を走る。
「うああっ…またっ…ぐぅっ…」
母乳状にエネルギーを胸から取り出すため、媚薬を打ち込まれてしまうソフィ。
ピコンピコンピコン…
エナジータイマーは点滅をはじめ、胸の先端に現れた乳首にはうっすらと母乳が滲みはじめる。
「このままやられてしまうの?…いつも…こんな…」
ソフィの脳裏にはこういった罠にとらえられ、助けを待つ情けない自分の姿がフラッシュバックする。
ミレーヌやリオナにも迷惑をかけ続ける自分に、ソフィは苛立ちを覚えていた。
「アルティマソフィ…あなた、自分で前線にでてきたのよね…こんな、醜態をさらし続けて…それで『あの人たち』に顔向けできるの?」
媚薬による快感に焼かれながら、それでも自問自答するソフィ。
その脳裏には先に逝ってしまった仲間と、今も自分を慕ってくれる娘たちの姿が交互に浮かぶ。
「こんなことは…もう…うんざり…私に力が足りないというなら…どんなものにだって縋ってやるわ!ユウリ様…ごめんなさい!」
キッと見開かれたその瞳には、ソフィの戦う意思がまばゆく光っていた…
光の星の王宮では、女王・アルティマユウリが自室の寝台に横たわりながら薄くその目を開ける。
「そう…ソフィ…あなたがそう決めたなら…それもまた運命なのね…ミレーヌたちとともに戦うことを選ぶなら…今よりも過酷な未来が待っている…でも、私が振るった『力』をあなたが使うことが出来たなら…もしかしたら…」
そこまで独り言のように呟いてから、ユウリの瞳は再び閉じられるのだった…
「たあああっ!」
ソフィが念を送ると三つ編みを留めていた髪留めが光を放つ。
「出てきて!アルティメイトクオーツ!」
ストレージが開放され、ソフィの前で水晶が黄金の光を放つ…
それこそソフィがユウリから託された、アルティメイトブレードとイージスが収納されたデバイスであった。
ソフィはこの二つの国宝にまつわる逸話を思い出す。
かつて銀河を守るために前線に立ち続けたアルティマユウリは、常にこの剣と盾を振るって味方を鼓舞し続けていたという…
その二つ名…それこそがこの力を呼び起こす鍵となる…
「いくわよ!ウェイクアップ!ヴァルキュリアモード!」
ソフィは掛け声にあわせて、自らが秘めた念動力をフルパワーでアルティメイトクオーツへと注ぎ込む。
黄金に輝く水晶は、それに呼応するようにソフィの額へと吸い寄せられるのだった…
バキバキッ!
ソフィを捕らえていたはずのアームは全て弾け飛び、無残に宇宙船の壁へと叩きつけられる。
そしてソフィの捕らえられていた場所には、金色の女神の姿があった…
身体全体を黄金と青のラインが走り、腰には美しいヴェールがスカートのように翻る。
両手にはそれぞれ、ソフィの身体にサイズをフィットしたアルティメイトブレード・アルティメイトイージスが握られ、荘厳な輝きを放つ。
そして、その額に黄金の水晶を宿した新たなる姿…それこそがアルティマソフィ・ヴァルキュリアモードであった。
ガガ…ギギ…
吹き飛ばされたアームの一つが、それでもプログラムを遂行しようと残されたエネルギーを収束させる。
バシュウウウ!
怪獣の熱線にも匹敵する威力の光線がソフィを襲う。
ソフィは身じろぎせずに左手に構えたアルティメイトイージスを身体の前に構えた。
キィン…
高い音が響いた次の瞬間、光線は盾へと吸収される。
淡く光った盾を見たソフィの身体は、まるでやり方を熟知しているかのようにスムーズに動いた。
光り輝く盾に剣を差し込むと、その形はまるで大剣のように一体化する。
盾の吸収したエネルギーが剣の刀身へと伝わり、ソフィの身体も一緒に黄金の輝きへと包まれた。
「アルティメイトブレード…バーティカルスラッシュ!」
床に剣を付けた状態から縦に一閃した瞬間、刀身からは光り輝く閃光が走る。
まばゆい光が消えた後には、ソフィ以外の全てが光刃の中へと消えていた…
「ふぅ…これが…ヴァルキュリアモード…」
ブレードを振り切った方向にあった宇宙船の残骸は、光の奔流に飲まれて消滅していた。
ソフィの身体は技を放ってなお金色のオーラに包まれていた。
漲る力に飲み込まれないように、ソフィはゆっくりと深呼吸する。
再度念を送った瞬間、額のアルティマクオーツが外れ、ソフィは元の姿に戻っていた。
クオーツは再び髪留めの中に収納される。
「一度発動させてしまった以上、責任もって私が使わないといけないわね…なんて報告しようかしら…」
これからも今まで以上に忙しくなりそうな予感に苦笑するソフィ。
しかしその瞳には、娘たちに並び立つ力を得た自信が強い光として宿るのだった…
終