アルティマミレーヌ「襲い来るメカロイド」 (Pixiv Fanbox)
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挿絵 れみん様
しばしの平和が訪れていた地球…
その守護に当たる正義の女神・アルティマミレーヌは、今日も防衛隊隊員『卯月メイ』として忙しい日々を送っていた。
侵略者の影もなく、怪獣たちも散発的に暴れるだけの日々の中、人類はかつて未踏の地であった海底開発に熱を上げていた。
多くのエネルギー資源やレアアースをめぐって各国の開発競争が熾烈を極めていく中、いくつかの資源基地で不可解な事故が発生する。
あくまで資源の取り合いによる国家間のいざこざかと思われていたが、今の人類の技術では不可能と思われる破壊跡が発見されたことで、防衛隊にも調査の依頼がかかるのであった…
防衛隊基地で訓練に励んでいたメイ隊員は、防衛隊の研究部門からの呼び出しを受けていた。
メイは時折、うっかり彼女が『本来持っている力』でしかわからないようなことを言い当ててしまい、防衛隊内では困った時のメイ頼みが行われることがあったのである。
視認できない距離のものを見定めてしまったり、聞き取れない波長をききとってしまったり…
義姉のアルティマリオナからは、人間としての限界値を考えて生活を送るように釘を刺されていたが、メイは夢中になるとそれが頭から抜けてしまうことが多かった。
「うう…緊急性のないこと以外は気づかないふりをしないと…」
下手に目立つとまたリオナに怒られてしまう…
メイはボロが出ないように祈りながら研究部門へと向かうのだった…
研究棟に到着すると、そこでは海底資源基地で起きた事故の検証が行われていた。
メイも席に加わって話を聞いていると、事故現場では謎の波長を発する石が多数発見されているとのことで、その波形がプロジェクターで示されていた。
「(あれ?…これって…)」
今日はポロっと口に出さずに済んだことに安堵するメイ。
その波形は地球人にはまだ馴染みのない符牒であったが、銀河連邦では正式に採用されているモールスのような緊急信号だった。
しかし、その内容を判読したメイは今度は驚きを顔に出さないようにすることに苦労することとなる。
「“アルティマミレーヌ…この指定座標まで一人で来られたし…”」
まるで果し状のような物言いの信号に戦慄するメイ。
しかしこの内容は同時に、メイ…アルティマミレーヌが自ら出向かなければ、今回の資源基地襲撃事件が解決にならないことを彼女に理解させた。
メイは緊急の出動が入ったと研究棟を中座し、指定された座標へと向かい飛び出していく。
「ミレーヌッ!」
無人の海岸線で眩い光が煌めくと、白銀の女神が現れた。
ミレーヌは待ち受ける罠も知らず、陰謀渦巻く海底へと飛び込んでいくのだった…
ズゥウン…ズゥウン…
重々しい足音を水中に響かせ、メカロイド・ゴブリューDが海底を進んでいく。
指定された座標をゴブリューDが歩いていることを確認したミレーヌは、その前方へと舞い降りた。
海底にミレーヌが足をつくと、ふわっと砂が舞い上がる。
「ここ最近、海底資源基地を襲撃していたのはあなたね!いったい何のつもりなの?」
ミレーヌを呼び出した割には、何も答えずゴブリューDは歩みを進める。
「この先にはメタンハイドレードの貯蔵基地…何かあったら、被害は今までの比ではないわ!てぁっ!」
ミレーヌはゴブリューDの進行方向に立ちふさがると、組み合ってその歩みを止めようと試みた。
「ぐ…ぅ…なんてパワー…」
足元が砂地の海底で踏ん張りがきかないということもあったが、メカロイドのすさまじいパワーの前に振り回されてしまうミレーヌ。
バキィ!
「きゃああああっ!」
ついには腕の力だけで弾き飛ばされ、海底に倒れ込んでしまう。
「力では勝負にならないわ…一旦距離をとって…」
何とか体勢を立て直したミレーヌはバク転で距離をとると、腕を十字に組んで構える。
「この位置なら、爆発させても基地まで影響はないはず…ミレニウム…」
必殺の光線でゴブリューDを撃とうとしたその時、ミレーヌの耳に助けを呼ぶ声が響いた。
「ま、待ってくれ!俺はこのデカブツに閉じ込められているんだ!撃たないでくれ!」
制止する若い男の声に、ミレーヌはとっさに光線の構えを解いた。
「あなたは一体…どうしてロボットの中に?」
念話で聞き返したミレーヌに男が答える。
「俺にもわからないんだ…こいつの胸の水晶に捕らわれちまってるみたいなんだが…」
困惑する男の声に、嘘は感じられない…
たしかにゴブリューDには胸に水晶体が埋め込まれており、男の声もその中から聞こえていた。
「わかったわ!今助けるから待っていて!」
ミレーヌは素早く距離を詰めると、ゴブリューDの胸に手をかけて水晶体を掴む。
「ぐううう…固い…」
引きはがそうと力を込めるミレーヌ。
次の瞬間、集中する彼女を見下ろしていたゴブリューDの目が怪しく光ったことにミレーヌは気づかなかった・
それまでの愚鈍な動きが嘘のように、メカロイドの左右の腕が機敏に動く。
一気にミレーヌの首を両側から掴むと、ぎりぎりと音を立てて締め上げ始めた。
「かはっ…ぐぁ…」
とっさのことに反応の遅れたミレーヌを、ネックハンギングツリーの要領で持ち上げるゴブリューD。
海底から足が離れ、ミレーヌは水中に浮いた状態で首を締めあげられてしまう。
「くくく…相変わらずお優しいことで…アルティマミレーヌさんよぉ!」
先程までの助けを求める声色とは全く違う調子で、男の声がミレーヌへと響く。
「あなた…ぐ…いったい…」
そうこうしている間にも締め上げが強まり、ミレーヌの意識は遠のきかけていた。
「ちゃんとした挨拶はまたの機会だな…ああ、俺がその水晶体にいるなんてのは嘘だぜ。心配しなくても、安全なところからお前が苦しむ姿を楽しませてもらっているから安心してくれよなぁ!」
男の非情な言葉にミレーヌの顔に苦悶の表情がよぎる。
「そ…そんな…」
何とか腕を振りほどこうとしていたミレーヌの手が力なく落ちた。。
抵抗する力を奪ったことに満足したのか、ゴブリューDのミッションは次の段階へと進んでいく。
ズゥウウン…
そのままミレーヌを拘束し、海底へと倒れ込むゴブリューD。
「うっ…くぅ…何をしようとしているの…」
首締めの苦しみから解放されたミレーヌであったが、背後から拘束された現状では反撃の手立ては無かった。
「なぁに…次に挨拶するときに恥ずかしくないように、立派なロボに乗っていくからな!その起動エネルギーをちょいと拝借するぜ…」
男の言葉を待たずして、ゴブリューDは怪しく発光を始める。
ドクン…ドクン…
ミレーヌからエネルギーが吸い上げられ、ゴブリューDに飲み込まれていく。
「うぁああっ!?エネルギーが…吸われちゃう…」
ピコンピコンピコン…
ミレーヌのエナジータイマーが激しく点滅し、エネルギーが急速に枯渇していく様子を告げていた。
「さすがアルティマの戦士…エネルギーの質まで上等だ。あ、言っておくが、そのメカロイドは一定のエネルギーをこっちに転送したら爆発するように仕組んである。そんなとこで爆発させると、近くの基地ごとボカンだから気をつけてな。」
メタンハイドレート保管基地まではそう距離がない位置であることはミレーヌも理解していたが、急激なエネルギーの消失による意識の混濁が彼女を襲っていた。
「そ…んな…なんとか…しな…いと…」
ゴブリューDの目の光が一つずつ消灯し、爆発へのカウントダウンを進めていく。
ピピピピピ…
エナジータイマーは早鐘のように鳴り響き、ミレーヌの最後が近いことを警告する。
「こう…なったら…」
朦朧としたミレーヌの意識の中で閃いたのは、自らを犠牲にする方法だけだった。
「アルティマ…テレポート…」
残された全てのエネルギーを注ぎ込み、ゴブリューDごと転移を図るミレーヌ。
ズドオオオオ…ン
海底から姿を消したミレーヌとゴブリューD。
その遥か上空で、大きな爆発が観測される。
爆発の起こした漣が引いた後には、静かな海が戻ってくるのだった…
「う…あ…」
爆発の起きた位置から少し離れた海岸線に、傷ついた一人の女性が流れ着いた。
防衛隊病院に収容されたその女性…卯月メイ隊員の意識は戻らないまま時間が過ぎていく。
その様子をモニターで監視する今回の仕掛人・DDXはニヤリとほくそ笑んでいた。
「ふふふ…次はこいつでお前をズタボロにしてやる…いつまでもおねんねしてはいられないぞ、アルティマミレーヌ!」
その背後にはライトアップされたべダル星人の最高傑作・スペースロボット『キングジェイ』の姿がひかえるのだった…
続く…