アルティマミレーヌ「受け継がれる獅子の意思」 (Pixiv Fanbox)
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挿絵 JAM様 福玉死瘟様
※このお話は途中で登場人物が増えるため、その際は「」の前に名前の頭文字が入ります。
ストーリー主体の為、ヒロピン描写は少なめです。ご了承ください。
「これからも星により一層の繁栄があらんことを…」
とある惑星で行われていた銀河連邦のへの加盟式典が、来賓であるアルティマリオナのスピーチによって幕を閉じる。
出席したその星の統治者たちからは万雷の拍手が巻き起こり、自分たちが銀河連邦の加護の元に踏み出した一歩を祝福していた。
「ふぅ…何とかこなせたかしら…」
壇上から降りたリオナは軽くため息をついた。
銀河連邦が大きくなっていくにつれて、その中心である『光の星』に求められる仕事は多くなっていく。
特に王族は加盟の権威付けの為に来訪を求められることが多く、常に人手が不足していた。
リオナの師であるアルティマソフィも一度は王族の地位をはく奪された身でありながら、『ガルデン大王侵略事件』の英雄であることなどを加味されて、最近は皇族としての活動に復帰していた。
それでも手が足りない状況となったことで、光の星の直系である『惑星レオン』の忘れ形見…その姫であったアルティマシオンの娘・リオナにも、ついにそのお鉢が回ってくることとなったのである。
本来の聖十字隊の任務に加えて新たな仕事が増えたことで、リオナは忙しい日々を送ることとなっていた。
幸いそれを口実にこういった式典参加は中座することを許されており、今回もスピーチを終えたところでリオナは光の星への帰路につこうとしていた。
「リオナ様!本日はありがとうございました。」
式典を主宰する統治者からねぎらいの言葉をもらい、リオナも微笑む。
「大変なのはこれからかと思います。どうか皆様の力で難局を乗り切っていってください。」
今回リオナが訪れた星は、過去に別の次元から送り込まれたガス星雲状の怪獣・バキュルモンの出現によって消滅した惑星であった。
事前に銀河連邦によって住民の避難は済んでおり、元あった位置に人口の惑星を作って設置する…
そしてその星に住民が戻り、新しいスタートを切ると同時に銀河連邦への加盟を果たした…というのが今回の式典の主旨であった。
リオナにとっては生まれる前の話であるが、彼女の母・シオンの生まれた星も侵略者によって滅ぼされた過去があり、そういう意味でもリオナは少し縁を感じていた。
「遠路はるばる御足労頂いたお礼に、こちらをお持ちくださいませ…」
統治者からリオナに渡された石…それは、同じ願いを持つものが二人同じ場所に存在した時、その願いをかなえるといわれる謎の石『ウィッシュストーン』であった。
貴重な石ながら、その効果の引換にそれを願った二人をとり殺す…なんていう伝説がまことしやかに噂される、いわくつきの代物…
自分たちの上位者である光の星に預けた方が、今後もトラブルに巻き込まれないだろうという統治者側の打算も透けて見えたが、リオナの一存で断ることもできない案件だった。
一度持ち帰って判断を仰ぐしかないか…
せっかくのおめでたい日に外交で水を差してもいけない…一人で移動する予定のリオナにとっては石の発動リスクもないと判断し、リオナはその贈答品を受け取ることとする。
この判断が、彼女の運命に大きく作用することに、リオナはまだ気づいていなかった…
式典に出席した使節団は、事後の対応の為に惑星に残り、リオナは一足先に光の星への帰途へ着いていた。
「そういえばこの辺にバキュルモンがでたということは…お母さんたちが消息を絶った場所もそう遠くはないのかしら…」
リオナの母、アルティマシオンと父・アルティマライオ、そしてミレーヌの父でありソフィの夫・アルティマケインは、超長距離の調査任務でこの星系を訪れていた際に、バキュルモン転移事件に巻き込まれた結果、行方不明になった…とリオナは聞いている。
正直なところ記録には不自然な内容が多く、本当に任務中の偶然の事故で両親が失われたのか、リオナは懐疑的であった。
そもそも銀河守備隊の大隊長・科学技術長官・設立したての怪獣保護区責任者…そんな要職につく人物が揃って同じ任務に行くなど、今であってはあり得ない話である。
「調べてみても私の権限では閲覧制限がついてしまうし、ソフィ様もその件に関してはあまり思い出したくない様子だった…やっぱりなにか裏があるのかな…」
聖十字隊の隊員として現場至上主義のリオナが、こうやって皇族としての公務に参加していたのも、いつか両親の情報を探ることのできる地位に上がる目があるかも…という期待も少しあったのである。
「お母さん…お父さんか…ふふっ…一人の時だとこんなことを考えてしまうのね。」
何もない宇宙空間を長距離を移動しているときは、こうやって物思いにふけってしまう。
リオナにとっても新鮮な感覚であったが、次の瞬間そんな気分は吹き飛んでしまった。
バチバチバチッ!
リオナの進行方向に謎の次元断裂が発生し、その口が大きく開いていく。
「嘘…そんな反応どこにも…きゃあああっ!」
宇宙空間を高速で移動するための巡航モードで飛翔していたリオナには、その断裂を避けることは不可能であった。
ボシュウウウ…
断裂はそのままリオナを飲み込み、その場でバチバチと明滅を続けるのだった…
ズゥウウン…
バキュルモンヘと向かう船内では、その行動を阻止しようとする謎の生命体とアルティマシオンとの戦いが続いていた。
いきなり銀河を飲み込む規模で顕現した超巨大ガス生命体バキュルモン…
それに対応するため、銀河連邦でも最も科学の進歩した光の星から精鋭三人の乗った宇宙船が、バキュルモンの中心へと向かっていた。
バキュルモンもそう簡単に懐には入れまいと抵抗し、体内に子飼いにしている怪獣をけしかけてくる。
先程まで船外での戦いを担当していたシオンは、怪獣軍団の最期の一体と相打ちになる形で船内へと戻ってきていた。
シオン(以下シ)「あたた…外壁の損傷は…よし、自動補修が間に合ってる…敵さんもしばらくはもう来ないで欲しいなぁ…」
胸のエナジータイマーは赤く点滅し、̪シオンがギリギリのところで勝利したことを物語っていた。
現在操船はリーダーであるアルティマケインが…この後の作戦の詰めをシオンの夫・アルティマライオが遂行しており、シオンは外敵から船を守る任務に就いていた。
しかし、バキュルモンの抵抗は苛烈を極め、対応に当たるシオンの消耗は目に見えて顕著であった。
シ「エネルギーの回復アンプルも切れちゃったし…どうしよ…」
今襲われたらひとたまりもないだろう。
船自体にもライオが開発した防御機能や迎撃の武器が仕込まれていたが、それであの怪獣たちをいなすのは至難の業に思えた。
シ「ソフィに啖呵切って出てきちゃった手前、諦めるわけにはいかないのよねぇ…はぁ…思い出したら会いたくなってきちゃった…」
窮地に立ったことでセンチメンタルな気分にでもなったのか、シオンの中で気弱な思考が鎌首をもたげてくる。
シ「ソフィ…リオナ…会いたいなぁ…ってダメダメ!こんなんじゃ二人に会わせる顔が無いぞ、アルティマシオン!」
ほっぺをパチパチと叩いて気合を入れるシオンの目の前で、通路のど真ん中に空間断裂が発生する。
シ「うそ…そんなの反則でしょ?!」
まさか宇宙船内に直接乗り込んでくる敵がいるとは考えていなかったシオンは、慌てて体勢を整えようとするも足に力が入らずにへたり込んでしまう。
シ「何とか刺し違えてでもあいつらの元には行かせない!」
なんとか上半身だけでも構えをとるシオン。
バシュウッ!
気合だけで上体を起こしたシオンの目の前に、空間断裂から一人の女性が転がり出てくる。
?「あいたたた…あ、あれ?私、宇宙空間にいたはずなのに…ここは?」
自分とそんなに年恰好も違わなさそうなその女性は、明らかに自分と同じアルティマの戦士に見えた。
まさかだれか密航していた?
今回の任務は極秘裏に行われているものであり、一部の人間以外には知らされてすらいない。
ライオが作った船内の警戒システムに引っかからずにここまで過ごすということは不可能に近いはずであった。
混乱するシオンであったが、目の前に現れたアルティマレディがなぜか敵であるとは思えず困惑する。
?「あ…あなた!エネルギーが尽きかけてる…ちょっと待っていて!」
あっけにとられるシオンとは対照的に、傷ついた彼女をみつけたアルティマレディは、すぐに治療へと取り掛かっていた。
透き通るような水色の髪と、同じ色のラインが純白のボディを彩る。
大人びてこそいたが、かつて見た愛らしさが、その面影には残っていた。
シオンは目の前の事象を信じられない気持ちであったが、その心は既に一つの結論を導き出していた。
シ「あなた…リオナなの?」
目の前の救護対象からいきなり自身の名前を呼ばれ、驚きの表情を見せるもう一人のアルティマレディ…
リオナ(以下リ)「どこかでお会いしてましたか?ごめんなさい、私、次元断裂に飲み込まれてしまって、ここはどこかもわかってないんです…」
先ほど謎の現象に巻き込まれたリオナは、次の瞬間にはこの場所へと転移していた。
いきなり目の前で倒れているアルティマレディを見つけて咄嗟に救護に入ったものの、状況が分からずリオナは混乱したまま。
そんな時に目の前の女性が発した自らの名前…
リオナは自らを知る人間がいることに安堵したが、目の前の女性は困惑の表情を浮べていた。
リ「あの…大丈夫ですか?」
リオナの問いかけに我に返ったシオンは、今も目の前の現象が信じられないという表情で硬く微笑む。
シ「あ、いや…なんて言ったらいいのか…私は今、死に際で幻でも見ているのかな…」
つい娘の名前を口にしてしまったものの、そんなまさか…といった感情がシオンのなかで芽生え始めていた。
リ「いえ…バイタルは正常ですし、混乱はありこそすれ、死の間際ということは無いと思いますが…」
冷静か!と心で突っ込みを入れそうになるのを抑え、まじまじとリオナを見つめるシオン。
リ「あの…そんなに見つめられると…恥ずかしいというか…あれ?…」
自分をのぞき込む視線に見覚えを感じ、リオナもシオンを見つめ返す。
いつかこうやってこの人に視線を向けてもらっていたことがあるような…
それはリオナにとってすでに薄れていた幼少期の記憶であった。
リ「もしかして…お母さん?」
戦いの中で煤けてしまってもなお、その輝きを失わない黄金の髪…
力強く、そして時にやさしく自分を見ていてくれていた視線を思い出し、リオナの目に涙があふれる。
シ「…!やっぱりそうなのね…リオナッ!」
お互いを認識したことで、うれしさのあまりシオンはリオナに抱き着き喜びを爆発させる。
リ「お母さん…会いたかった…ずっと…」
ソフィを師として、そして育ての母として慕う気持ちは嘘ではない…
しかし、リオナがシオンに抱き、抑えていた想いが本人を前にしてあふれ出る。
シオンも一瞬任務のことを忘れて、目の前に現れた愛娘に感情を爆発させていた。
?「こほん…盛り上がっているところ悪いんだけど…よろしいかな、お二人さん。」
突如横から声がかかり、抱き合って泣いていた二人は一緒にその方向へ顔を向ける。
そこにはやれやれといった表情のシオンの夫・アルティマライオが立っていた。
ライオ(以下ラ)「シオンのバイタルが下がっていたから駆けつけてみれば…というかこれはどういう状況?」
先程のシオンと同じく、ライオはリオナに警戒の目を向ける。
見慣れない女性の存在と、それに気を許している様子のシオン。
チャームの能力でシオンを懐柔したのか…
そんな視線を向けていたライオは、一瞬の逡巡の後、リオナに笑顔を向けた。
ラ「もしかしてリオナか?!また大きくなって…見違えたな…もう立派なレディじゃないか!」
嬉しそうにするライオに対し、けげんな表情を向けるシオン。
シ「いや…なんで一瞬で分かった上に受け入れてるのよ…私たち、こんなちっちゃいリオナとお別れしてきたばっかりでしょうに。」
目の前のリオナが本物であることは既にシオンも疑っていなかったが、この状況には理解できない要素が多すぎる。
科学者のライオが簡単に状況を受け入れたことに、シオンは不可思議な気持ちでいた。
ラ「ええ?親だもの…っていうのはジョークだけど、こればかりは勘と言った方がいいかな。君だって結局のところ、そんなところだろう?」
意外とあっけらかんと答えるライオに、シオンはえぇ…とあきれた表情で応じる。
リ「お父さん…」
リオナは嬉しそうに父を見上げ、ライオは優しくその頭を撫ぜる。
シオンがハグは譲らないわよ…と睨み付け、ライオは苦笑しながらやさしくリオナに微笑みかけた。
ラ「とはいえ、現状を把握しておかないと…このままじゃリオナを死地へ連れていくことになってしまうぞ。」
未だリオナたちの背後には彼女が抜けてきた次元断裂が維持されており、リオナはここへと転送された状況を事細かに二人へと説明する。
ラ「うーん…となると、そのウィッシュストーンなる代物が、君をここに導いたということなのか…でも、本来同じ場所で二人が同じ願いをかけないと発動しないはず…と。」
リ「ちょうど飛んでいた宙域が、お父さんたちが行方不明になった場所って聞いていて、二人に会いたいって思ったのは事実なの。でもあの場には私しかいなかったし…」
リオナも心当たりのない様子で視線を落とす。
シ「あの~…」
その時シオンが、おずおずと手を挙げる。
シ「私もさっき…死ぬかなって考えたときに、リオナに会いたいっておもっちゃった…」
恥ずかしそうに赤面するシオンににやにやとした視線を向けるライオ。
ラ「素直でよろしい。となると…可能性としてあり得るのは、リオナとシオンが時間は離れていても『同じ場所』で互いに会いたいと願ったことで、石が反応したということかな…」
確かにウィッシュストーンには不可解な部分が多く、その仮説を否定できる材料は無かった。
しかし本当に願いが叶ってしまったのなら、もう一つの問題が残ってしまう。
リ「でもそれだと、私たち二人は願いをかなえた代償を払うことになるって…」
石が持つ伝説を話すと、ライオはしばし考え込む。
ラ「そのことなんだけど…リオナ、石を私たちに託してくれないか?」
何かを思いついたのか、ライオは石をこの場に出してくれるようにリオナへと頼んだ。
リ「うん…これなんだけれど…」
リオナは首につけたベル・チョーカーに収納していたウィッシュストーンを取り出し、ライオに渡した。
石は宝石のような輝きを振りまき、今まさに発動中といった様子で通路を明るく照らす。
シ「これ…やっぱり私たちの願いをかなえてるのよね…」
きれいな光に目を奪われながらも、不安そうな声を漏らすシオン。
それとは対照的に、ライオは目を輝かせて石をまじまじと眺め始めた。
ラ「いや…これならいけるかもしれないぞ!」
嬉しそうにこれからの作戦を話し始めるライオ…
それは要約すると以下の様なものであった。
まずライオは、バキュルモンが発生個所から動かない理由に関して、一つの仮説を立てていた。
それは、バキュルモンがこちらへの転移を拒んでいる…
つまり、もと居た星系に戻るため、自らをこの銀河へ送り込んだ『ゲート』を維持しようとしているというものであった。
今回の作戦はそのゲートへと宇宙船で接近し、光の星の力の源『スパークルフラッシュ』を圧縮した爆弾を投下してゲートをさらに拡張。
バキュルモンを彼のいた宇宙へと送り返すというのが、軸になっていた。
シ「作戦を変更するの?」
シオンの疑問にライオは新たな案を説明する。
ラ「僕の仮説があっていたとすれば…このウィッシュストーンなるものの発動条件と効果がリオナの言う通りなら、帰りたいというバキュルモンの『目的』と、帰ってもらいたいという僕たちの『目的』は一致する。この石をもってバキュルモンの中心までたどり着ければ、その効果で彼をもと居た銀河へ送り返すことが出来るかもしれない。まぁ、無理なら当初の予定通り、爆弾持って次元の裂け目に突っ込むだけさ。」
0.1パーセントの可能性が0.2パーセントになるくらいかな、と笑うライオの頭を、シオンがぽかりとはたく。
シ「そんなことに石を使ったらリオナが帰れなくなるでしょうが!まずは私たちが祈ってこの子をもとの時間に返さないと…」
いままで記憶の中でおぼろげにしか感じられなかった両親が元気に夫婦漫才を繰り広げる姿に、リオナはうれしさとさみしさで胸がいっぱいになるのを感じていた。
この時間はもう長くは続かない…目の前で少しずつ閉じ始めたゲートを見たリオナは、名残惜しさを振り切って両親の間に割って入った。
リ「おとうさん、たぶん私の出てきたゲートはまだ使えるはず。こっちが元の時間に戻ることはきにしなくて大丈夫だと思う。ただ…吸い込まれた後はすごい早い流れに乗ってきたから、たぶんそれを逆流するくらいのパワーが必要だけど…」
ラ「うん…現状の把握と問題点の抜出がしっかりできている。やるべきことも理解しているし…さすがは僕の娘だね。」
うむうむとうなずくライオの腰をシオンの蹴りが襲う。
シ「どうせあたしに似てなくて良かったですよ!っていうかそこまで分かってるなら、どや顔してないでさっさと解決策を…」
そこまで言ったところで、シオンはライオの意図を理解した。
ラ「みなまで言わせないでよ…君にも娘にいいかっこするところを取っておいてあげたんだから…」
いたた…と腰をさすりながら苦笑いするライオ。
シ「察しが悪くて悪うございましたね…リオナ、ちょっとごめんね。」
シオンはリオナの太ももや腰回りを撫でるようにペタペタと触っていく。
リ「ちょ…おかあさん…んっ…くすぐったい…」
突然の母からのスキンシップに顔を赤らめるリオナ。
しかしシオンは表情を崩さず、何かに納得したように頷いた。
シ「柔軟だけどとてもよく鍛えられているわ…リオナ、あなた誰かに師事しているの?」
リ「ええと…お母さんの使っていたっていう『獅子皇拳』を、ネグルさんから教わってたんだけど…」
シオンの問いに、まだ赤面したままのリオナ。
護身のために、と、ソフィから紹介されて、彼女の元臣下であったアルティマネグルから格闘の手解きを受けていたことを思い出すリオナ。
シ「さすがネグルさん…しっかり鍛えてもらったのね。彼も祖先を辿ると私たちと同じ、惑星レオンの血を継ぐ人なのよ。これなら…」
シオンとライオが何かを示し合わせるように頷き、リオナへと向き合った。
シ「リオナ…私たちは小さかったあなたに何も残してあげられなかったけれど、今ここでこうやって巡り会えたのも何かの運命…今ここで、私たちにできる最大限の贈り物をあなたに送るわ。」
リ「贈り物?」
きょとんとするリオナの前でシオンが眼を瞑り、ライオがその身体に手をかざす。
するとシオンの脚にはめられた『アルティマリング』と肩の『アルティマケープ』が小さな光の玉へと変わった。
そのままライオは光の玉を操り、その光はリオナのベルチョーカーへとゆっくりと収まっていく。
リ「これは…」
事態を飲み込めないリオナに、シオンが優しく語りかける。
シ「今のは私の星に代々伝えられた神具…これをリオナに託すわ。きっとあなたの助けになってくれるはず!」
ラ「この後僕たちがどうなるかは、結局未知数だからね。君という未来に渡せるならそれが本望ってやつさ。」
笑顔の二人を見つめるリオナの瞳が涙に濡れる。
リ「おとうさん…おかあさん…」
シオンは黙ってリオナを抱きしめ、ライオは優しくその頭を撫でた。
シ「自慢の娘にますます磨きがかかって、私たちも鼻が高いわ…こんなに立派に育ててくれたソフィにもお礼を言わなくちゃ!」
母の言葉に涙を拭い、リオナは二人に頭を下げる。
リ「ありがとう…二人が帰ってくる世界の平和を守るために、この力、お借りします!」
一人前の戦士としての表情を見せるリオナに、ライオも力強く頷いて応えた。
ラ「今の君なら、惑星レオン王家が代々継承した力を行使できるはず…やり方はわかるかい?」
ライオの問いに、リオナは精神を集中する。
そうすることで、自ずと彼女の中で答えが導き出されていった。
リ「感じる…これが私の新しい力!チェンジ!『リオネスモード』!」
リオナの掛け声に合わせてベルチョーカーが眩く光る。
次の瞬間、リオナは新たなる姿へと変身した。
リ「これが…私?」
淡い水色だった身体のラインはワインレッドへと変化し、その肩からはエネルギーのヴェールがマントのように翻る。
髪色も獅子の立髪を思わせる黄金に染まり、左足には『アルティマリング』が輝いていた。
リ「まるでおかあさんみたい…」
自らの変化に驚くリオナに、ライオが歩み寄る。
ラ「アルティマリングを中心に、リオナの装飾具を全てリンクさせたんだ。そのチョーカーも原案は僕が作ったものを利用していたようだったから、さほど難しくなかったよ。」
さっきの光の球を操っている際にそんな操作をしていたとは…
天才と聞いていた父の噂に違わぬ有能ぶりに、リオナは舌を巻いていた。
シ「その力はリングを中心に、身体全体にいきわたるの。私は慣れる為に常時発動させていたけど、あなたは少しずつ試していきなさい。」
確かに体にすさまじい力がみなぎるのをリオナは感じていたが、地に足がつかないようなふわふわとした違和感を感じていた。
ラ「そこで君の羽飾りに少し細工をさせてもらった。見てごらん、三枚の羽根に見えるだろう。慣れるまでの補助輪じゃないけど、それがリオネスモードのエネルギー残量を示してくれる。大技を使用すると羽根が欠けていくから、三枚目が消える前に元の姿に戻るように心掛けなさい。おそらくすべて使い切ってしまうと、暫く行動不能になってしまうからね。」
父のアドバイスを真剣な表情で聞き入るリオナ。
その時、三人の前で形を保っていた次元断裂に、わずかな揺らぎが入り始める。
シ「残念だけど…タイムリミットみたいね。リオナ、元気で…ソフィやミレーヌちゃんによろしくね。」
ラ「ここでのことは話しても信じてもらえないだろうけど…一応ユウリ様には報告しておいた方が良いだろうね。リオナのその姿は惑星リオンの正当後継者の証でもあるから…」
リオナにとっても二人との別れは辛いものであったが、二人を信じて去る決意を固める。
リ「二人とも本当にありがとう…私の時代ではケインさんと一緒に二人は行方不明のままだけど…きっと帰ってくるって信じてる。だから未来で待っているね。ソフィ様や可愛く育ったミレーヌにもあってほしいの…だから‥」
シ「わかってる…ソフィとも必ず生きて帰るって約束してるしね。こっちはこっちで何とかするわ!」
明るい笑顔でライオと肩を組み、サムズアップして見せるシオン。
自分の中でこうあってほしいと思っていた頼もしい母親の姿をシオンが体現していることが嬉しく、リオナは笑顔を見せる。
リ「それじゃあ…いってきます!」
後ろ髪を引かれる思いであったが、リオナは意を決して次元断裂へと向き合う。
リ「はああああっ…っ!すごい力…制御…できない…」
身体に力を込めてエネルギーの流れを掴もうとするも、リオネスモードの内包する凄まじいエネルギーに集中を乱されてしまうリオナ。
その時、肩にやさしく触れる手の感触があった。
シ「振り返らないで…そのまま…」
母の手に触れられることで身体の力みが抜け、リオナの力が制御されていく。
その温もりを忘れない様に心に刻み、リオナは技の発動に集中した。
リ「シューティングスター・ドライブ!」
はためくマントがエネルギーの渦を作り、アフターバーナーの様にリオナの身体を前へと押し出していく。
ドォン!
雷鳴の様な轟音と閃光を残し、リオナの姿は次元断裂の中へと消えていくのだった…
シ「いってらっしゃい…」
リオナを見送ったシオンは放心したようにその場に立ち尽くしていた。
シ「ねぇ…夢じゃなかったよね?」
珍しくしおらしい表情でライオを見上げるシオン。
ラ「僕はバキュルモンが見せた幻覚のセンも疑っているけど、それも無粋ってもんでしょ。」
意外とあっけらかんと肩をすくめるライオに、シオンの蹴りが飛ぶ。
シ「言ってるじゃない!そんなことないもん…あれはリオナだった…」
涙目で訴える妻の姿が思いの外可愛く、ライオはやれやれとシオンの頭を撫でる。
ラ「それを確かめる術は一つ!さすがの君にもわかるよね?」
シ「もちろん!この作戦を成功させて生き残ること!」
ラ「そう。ケインと三人で、帰って確かめればいい。そのためのアイテムもリオナが置いてってくれたしね。」
またリオナやソフィたちに会いたい…
目的がはっきりしたことで、シオンの目にはやる気の炎が灯っていた。
シ「そうと決まれば善は急げ!ライオ、いくわよ!」
ラ「はいはい、うちの姫様は人使いの荒いことで…」
絶望と死への旅路かと思われた中に光を見出したことで、夫婦は足取りも軽く歩き出すのだった…
親子の邂逅から数刻後…
バキュルモンは忽然と銀河からその姿を消した。
その対応に向かっていた英雄三人の消息も、同じ様に不明となる。
その行方を知るものは、誰一人としていないのであった…
「いったいいつまで続くの…」
リオナはシューティングスター・ドライブを発動しながら暗黒の中を進んでいく。
しかし、その終わりが何処なのか、彼女には皆目見当がつかなかった。
頭の羽根は二枚目が消え入りそうな状態になっている。
「おとうさんの見立てではそろそろ限界が…このまま帰れなかったら二人に合わせる顔がないわ…ミレーヌ…ソフィ様…力を貸して!」
その時、暗闇の彼方から自分を呼ぶ声をリオナは感じ取る。
「あれは…」
リオナはその方向に向けて最後の力を振り絞るのだった…
リオナが次元断裂に飲まれて数週間が過ぎようとしていた。
弟子の危機に捜索隊に参加したソフィは、リオナのチョーカーベルの反応が消えたエリアをくまなく探索していた。
「僅かだけどリオナのエネルギーの残滓を感じる…リオナお願い…いるなら応えて!」
ソフィは先日、とある敵との交戦によって記憶と共に封印していた強力な念動力を取り戻していた。
意識を集中し、潜水艦のソナーの様に念波を宙域へ広げていく。
少しでも反応があれば、そこを更なる念動力でこじ開ける算段であった。
バチバチッ…
すると程なくして、近くの空間に断裂が入り始める。
「…!!…すごいエネルギーが漏れ出そうとしている…きゃああっ!?」
エネルギーの奔流を感じ取り、身を守る障壁を構成するソフィ。
次の瞬間、次元断裂を貫いて一人の女性が飛び出してくる。
その姿を視認したソフィは自らの目を疑った。
「うそ…シオン?…」
かつて自分をおいて死地へ向かった親友・アルティマシオンと飛び出してきた女性がオーバーラップしたその時、一瞬のうちにその姿はソフィのよく知る愛弟子・アルティマリオナの姿へと戻っていた。
ピピピピ…
激しくエナジータイマーを点滅させ、指一本動かさず漂うリオナ。
ソフィはすぐにタイマーに手をかざしてリオナにエネルギー分け与える。
「リオナ!リオナ!あなた今まで何処に…」
リオナはうっすらと目を開け、幼い時に見せたような屈託のない笑顔をソフィに向ける…
「ソフィ様…私帰ってこられたんだ…おとうさん、おかあさん、ありがとう…」
そう言って気絶してしまうリオナ…
あっけに取られてしまったソフィであったが、リオナがシオンの様に見えたことは、彼女を立派に育て上げるという約束を果たせたようで、一抹淋しさと喜びがその胸に去来する。
リオナが目を覚ましたその時、あっと驚く冒険譚を聞かされることになるとは、この時のソフィはまだ知らないのであった…
終