救聖天使ブライトハート「観覧車に巣食う蜘蛛!スパイダオウマ現る!」 (Pixiv Fanbox)
Content
挿絵 ⓜⓐⓒⓐⓡⓞⓝⓨ様
バンクイラスト さーばーふぇいず様
次回予告 べろす様
灯とエンヴィがステージオウマを浄化してからしばらく…
寮の自室でくつろぐ灯の脇で、エンヴィが大好きなアニメを楽しそうに見ていた。
エンヴィがいる生活が当たり前になりつつあり、寮の生活に少し寂しさを感じていた灯にとって、それはうれしい変化であった。
「ねぇねぇ灯ちゃん、あれ、この間行ったテーマパークデビ?」
テレビを見ていたエンヴィの声に、灯は読んでいた本から顔を上げる。
テレビからはニュースが流れ、そこにはステージオウマと対峙した劇場のあるテーマパークが映し出されていた。
画面には『またも緊急停止!テーマパークの目玉・巨大観覧車に何が?』のテロップが表示され、レポーターが事態を事細かに報告しているところであった。
「緊急停止?」
灯も状況を確認するため画面に集中する。
なんでも、決まった時間になぜか観覧車が一時停止し、観客が数分間中に閉じ込められるという事故が数日続いており、しばらく休止になるということだった。
数日後にオープンからのハーフイヤーアニバーサリーを記念した大型イベントが控えており、観覧車のライトアップはその目玉となる予定とレポーターが告げ、スタジオのアナウンサーが神妙な面持ちでそれを説明する。
そのライトアップの開催期間まで暫く観覧車の営業を停止して万全を期すというもので、人気のスポットの停止はテーマパークにとって痛手になるだろう、とニュースは締めくくられた。
「これって…もしかするのかな?」
灯が気になったのは、緊急停止が発生している時間がすべて夕方以降ということであった。
乗客にとっては楽しい観覧車も、途中で止まって空中に取り残されるようなことがあれば、とたんに乗客の心に大きな恐怖を生むことになる…
その時発生する負のエネルギー『マイナート』を狙った悪魔の手先・オウマの暗躍を予感し、灯の顔に緊張が走る。
「わかんないデビ…気になるなら行ってみるデビ?」
エンヴィも確信は持てない様子で、判断は灯に委ねてきた。
「でも今のニュースだと暫くは休業するって…イベントの日のチケットはもう売り切れているだろうし…」
ただでさえ人気のスポットに大型イベントが重なれば、前のようにチケットをもらっていくことも厳しい…
どうしたものかと頭を悩ませる灯に、エンヴィがあっけらかんと告げる。
「今回はフレキュアショーじゃなくて、救聖天使のお仕事デビ!気にしないで飛んで入ればいいデビよ!」
確かにエンジェルフォームで飛んでいけば、誰にみられることもなくテーマパークに入ることが出来る。
「いいのかな…」
何かずるいことをしているような後ろめたさを感じてしまう灯であったが、エンヴィが明るく後押しする。
「大丈夫デビ!それに本当にオウマだったら大変デビよ!」
少しでも怖い思いをする人が減るのなら…灯の目に決意の光が宿る。
「わかったわ…エンヴィ、まずは調査に向かいましょう!」
オウマの被害にあう人をなくしたい…その想いを胸に、灯は再びテーマパークへと向かうのであった…
数日後、ハーフイヤーアニバーサリーのイベントで盛り上がるテーマパーク…
当日、話題の観覧車の籠に腰掛けるエンジェルフォームの灯とエンヴィの姿がそこにはあった。
天使としての姿になった灯やエンヴィは周りの人々からは見ることが出来ない存在となるため、下を行き交う人たちを見ながら時間が過ぎるのを待っていた。
「もしオウマが現れるとしたら夕方以降かしら…」
学校終わりにかけつけた灯たちであったが、まだ観覧車に不審な動きは見えない。
夕方に差し掛かり、あたりは暗くなり始めていた。
「そうデビねぇ…ねぇねぇ灯ちゃん…あそこはなんデビか?」
籠の上で二周ほど回ったところで、最初ははしゃいでいたエンヴィにも少し飽きの様子が見え始める。
エンヴィが指さした先には大きなステージが組まれ、その壇上には大きなレバーが仰々しく設置されていた。
「えっと…たしか今日の夜に観覧車のライトアップのカウントダウンイベントがあるんだけど、その時にあれを倒すとスイッチが入るって仕掛けなんだって。有名なタレントがあれを押しに来るってテレビで言ってたよ。」
灯の言葉にエンヴィの目がキラキラと輝く。
「ええっ?!じゃあきっとフレキュアが来るデビ!やったーデビ!」
エンヴィの中での有名人といえばフレキュアなのか…と苦笑する灯。
そうだといいね、と声をかけようとしたその時、いきなり観覧車がガコンと揺れて静止する。
「…きた!」
やはりこのタイミング…
たくさんの乗客でにぎわい、人々のポジティブな感情『プラウス』が高まったその時に、絶望での反転でより強い負の感情『マイナート』を生み出しに来る…
そう想像していた灯の予想通り、オウマは仕掛けてきたのである。
「灯ちゃん、あそこデビ!」
エンヴィが指さしたその先、ちょうど観覧車の中心の回転軸部分に人間より一回り大きい影が走る。
「あれが…オウマ…」
視線の先には巨大な蜘蛛型のオウマ…スパイダオウマが、糸を吐き出して観覧車の駆動部を縛り上げていた。
「きゃああああ!」
いきなりの停止に、籠内ではパニックになった乗客たちの悲鳴が木霊する。
このままでは乗客や地上の人々の不安から、マイナートがたくさん生成されてしまう…
灯は覚悟を決めると、胸のコアジュエルに手をかざす。
「エンヴィ、いこう!ホーリー・ライトアップ!ブライトハート!」
変身の口上を唱え、光に包まれる灯。
そのまま籠の上に降り立つと、スパイダオウマへと向き直る。
「闇夜を照らす一条の光!救聖天使ブライトハート、光臨です!」
カカカカカ…
ハートに気がついたスパイダオウマが、威嚇するようにその顎を鳴らすと、何本もの糸を吐いて牽制を入れる。
「とぉっ!てやぁ!」
ハートも負けじとエンジェリングスラッシュを手首へと発生させ、その糸を切り裂いて距離を詰めていく。
しかしそれは、まだ戦士としては未熟なハートを窮地に誘う罠であった。
シュルルッ!
普通の糸に混ぜて、スパイダオウマの放った極太の触手がハートの手首を縛りあげる。
「…っ!しまった!」
すぐにスパイダオウマは新たな触手を繰り出し、ハートを拘束してしまった。
ギリギリ…
強力な締め上げにハートの表情が苦悶に歪む。
「ああっ…ぐ…離して…ぇ…」
今まで糸を払うために使っていたエンジェリングスラッシュを拘束によって手首ごと封じられてしまい、ハートは窮地を脱する術を失ってしまった。
カカカ…
獲物を捕らえて舌舐めずりをするスパイダオウマ。
プシッ!
口から糸とはまたちがう液体を吐き出すと、それをハートへと吹きかけていく。
「うあ…なに…これ…気持ち悪い…ああっ?!」
液体がかけられたところからコスチュームが溶け始め、ハートの肢体があらわになってしまう。
「い…いやぁ!やめてぇ!」
まだ経験の浅いハートは思いがけぬ窮地に焦り、パニックになってしまうのであった…
「あややや…ハートが大ピンチデビ!こうなったら…」
︎▶「なにかオウマの気を逸らすものはないデビか?」
「フレキュア直伝!エンヴィキックをお見舞いするデビー!」
「このままじゃハートがやられちゃうデビ!オウマの気をひかなきゃ…こうなったら一か八かデビ!」
自分の攻撃ではオウマに歯が立たない…
それを悟っていたエンヴィは、賭けに出るため地上へと飛んでゆく。
地上のイベント会場では、ライトアップの点灯式の式次第が進んでいたが、観覧車が停止したことで参加者が事態を見守っているところであった。
エンヴィは勢いをつけてライトアップのスイッチレバーへ突進する。
「これでどうデビ!あチョーデビ!」
フレキュアの真似事であったが体重を乗せたキックがレバーに命中し、スイッチがオンへと切り替わった。
ドドドドン!
会場を照らしていた照明が一瞬全て消え、会場の参加者が何事かと息を呑んだ瞬間、たくさんの花火が打ち上られた。
そしてライトアップの光が観覧車を美しく彩ってゆく。
イベントが始まったことで、観覧車の停止は演出の一部だとでも思ったのか、観客や観覧車の乗客たちから歓声が上がり始めるのだった…
スパイダオウマに拘束されたハートのそばでも光の花が咲き乱れ、一瞬拘束されていることを忘れて目を奪われてしまう。
それに合わせて地上や静止した観覧車の籠からも歓声が上がり、観客たちは目を輝かせていた。
してやったりといった表情でエンヴィがハートのもとへと戻ってくる。
「は〜と〜!みんなが喜んでる今なら、プラウスがためられるデビ!反撃デビよ!」
ライトアップと花火に心を奪われたみんなのポジティブな感情から生まれた『プラウス』が、一気にハートのコアジュエルへと流れ込む。
「これならいけるかも…エンヴィ、ありがとう!」
コアジュエルが眩く輝き、花火と同じように瞬間ハートを包み込み、コスチュームを修復してゆく。
「シャアアアッ!」
強烈な濃度のプラウスの光に焼かれ、ひるんだスパイダオウマはハートを拘束する触手を手離し、距離を取った。
「このまま決めます!エンジェリング、展開!」
ハートの腕輪から発生したエンジェリングがコアジュエルの前に展開され、スパイダオウマに狙いを定める。
「届け!サークレッド・ハートウェイブ!」
コアジュエルから発生したプラウスの波動がスパイダオウマを包み込み、一気に浄化させていく。
スパイダオウマは観覧車の駆動部を止めていた糸ごと浄化され、跡形もなく消えていった。
「イヴィルシード、いただきデビ!」
消えゆくオウマの体から抜け落ちたイヴィルシードは、エンヴィがパクリと飲み込みこんで満足そうに笑みを浮かべる。
「ハート、これで一件落着デビ!」
エンヴィの言う通り、動き出した観覧車とライトアップ、そしてそれを楽しむ人々の様子に、ハートもホッと胸を撫で下ろす。
「そうみたいね。さ、私たちも帰りましょう!」
「え〜、もっと花火見ていきたいデビ〜!」
エンジェルフォームへと戻った灯は、しぶるエンヴィと共に帰路へと着く。
花火とライトアップの光を浴びて空を飛ぶ…
そうそうできない経験に、灯の心も高揚するのだった…
オウマを浄化し気が緩んだ二人は、はるか上空から自分たちを見下ろす目があることなど気づきもしなかった。
「最近、オウマたちが活発な割にはマイナートの発生が弱まっていたのはあれが原因か…まぁいい、近いうちに挨拶に伺うとしよう…ブライトハートくん…」
その影は花火の光に照らされた瞬間、かき消えるように夜の帷へと溶け込んでゆくのだった…
次回予告
新規オープンのプールで倒れる人たちが続出して、みんな大慌て!
エンヴィはオウマの仕業にして遊びにいきたがるし…
次回、救聖天使ブライトハート!『水面に潜む謎の影!襲いくるヌメヌメ触手』に光臨です!
※上記作品は、前ニ作と共に取りまとめに収録される書き下ろし作品です。
支援サイトの次回作はまた別のお話になりますので、そちらもご期待ください!