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挿絵 らすP様


リフレクト星人の一件以降、地球にはしばしの平和が訪れていた。

ルクリアの観測によるとゴーデスはまた地球を離れたようで、月の裏の特異点も大きな動きを見せていなかった。

そんなルクリアに、タイラントの一件で破損した怪獣墓地の結界補修の仕事が宇宙警備隊より依頼される。

その間の守りを固める宇宙警備隊の戦士の到着を待って、ルクリアは任務へと赴いていった。

「前もあったけど…ルクリアのいない生活っていうのも落ち着かないわね…」

すっかりルクリアとの生活に慣れていたアンナは、ソワソワする気持ちを感じながら日々の生活を過ごしていく。

春桜学園もある程度落ち着いていたが、多感な生徒たちにとってはここ数ヶ月で起きた多数の事件はあまりに刺激的であった。

前向きに状況を楽しむものもいれば、不安で不調をきたすものも少なくない。

スクールカウンセラーとしてのアンナの仕事は山積みであり、その忙しい日々はルクリアの不在を感じなくなるほど足早に過ぎていくのだった…


「今日の面談予定はこれで終わり…学園に戻る時間はないかな。」

自宅療養を続ける生徒の面談を終え、自家用車を走らせるアンナ。

もともと直帰の申請をして出てきていたので、心置きなく自宅へと車を向ける。

「そういえばルクリアとの出会いも帰宅中のことだったっけ…」

数ヶ月前のことだというのに、はるか昔のことのように感じ、アンナは苦笑する。

目まぐるしい日々ではあったものの、かけがえのない経験をしていることで、不思議とアンナは充実感を得ているのだった。

「あ、そうだ!買い物して帰らないと…」

家の冷蔵庫が空なことを思い出し、近隣のスーパーに立ちよるアンナ。

しばらくは過ごせるだけの食料を買い込み、店を出ようとしたその時、入れ違いに入ってくる人物と目が合った。

「「あ…」」

お互いに気づいた二人は同じ言葉を発して硬直する。

アンナの視線の先には、ゴーデスと手を組んだ後輩…『新堂タケシ』の姿があった…


「こんにちは、タケシくん…」

いまや仇敵となったタケシに対しても、アンナは笑顔で声を掛けた。

ゴーデスの手先になってしまったとしても、彼が自分の大切な後輩であることに変わりはない…

アンナの中でのそんな想いが、タケシを前にしても彼女を冷静でいさせていた。

そんなアンナの様子に、タケシは苦笑交じりに肩をすくめる。

「前に会った時も言いましたけど…今の僕らはそんなに気やすい関係じゃないんじゃないですか?」

期せずしてルクリアとゴーデス、それぞれのパートナーとなってしまったもの同士、にこやかに顔を合わせるということが既におかしい状況であった。

「そうはいっても…お互い分かっている事でしょうけど、今はパートナーも不在だし。今だけは単純な先輩後輩でもいいんじゃない?」

先日二人が対峙した時…それはアンナにとっては危機的状況であった。

アルティマレディ・メリムの助けによって事なきを得たものの、その状況の首謀者であるタケシには複雑な感情があってもおかしくない。

そう思っていたタケシにとって、アンナの反応は予想外の物であった。

「へぇ…意外と余裕があるんですね。僕がこの間問いかけた問題に答えは出たんですか?」

タケシの返しにアンナの表情が少し曇る。

以前対峙した時に、タケシはゴーデス細胞によって生かされていることをアンナに告げていた。

ゴーデスを倒したり浄化することは自分を殺すことを意味する。

その覚悟を問われたアンナは明確な答えを示すことができなかったのである。

「うーん…それはまだ模索中かな…ねぇ、その答えを出すため…ってわけでもないけど、ちょっとお話ししない?今ならお互い保護者もいないし…」

ルクリアとゴーデスがいない今だからこそできる話もあるのでは…

アンナの提案に、タケシはため息をついてかぶりを振った。

「いやですよ…興が削がれましたし、今日は大人しく帰るとします。では…」

ザァッ…

振り向いてスーパーの外に出ようとした瞬間、スコールの様な雨がタケシの前に降り注いだ。

「えぇ…」

近くに住むタケシは特に雨具に用意などせず買い物に来ていたため、いきなりの雨に顔を顰める。

「お客さ〜ん…今なら格安でお送りしますよ〜」

背後から笑顔で近づくアンナの指先では、くるくると車のキーが踊っていた…


家まで送る代わりに、お茶一杯分だけアンナとのおしゃべりに付き合う。

タケシは提示された条件を渋々のみ、アンナの車の助手席に収まっていた。

アンナはまるで自宅へ向かう様にすんなりとタケシの邸宅にたどり着く。

「へぇ…敵のアジトの位置はバッチリ記憶してるってやつですか?」

嫌味っぽく茶化したタケシに、少しだけ表情を曇らせるアンナ。

「昔、何度かこのお家に通ったから…」

新任のカウンセラーとして学園に戻った後、休学していたタケシを訪ねてアンナはこの道を通ったことがあった。

前にあった時にそんなことを言っていたな…

タケシもそのことに思い当たって複雑な気分になる。

「そういえばそうでしたね。あの頃は病院だったからな…」

遠い目をするタケシ。

そうこうしているうちに車は家の前まで着いていた。

「この辺は道路も含めてうちの私有地です。車は適当に停めてくださいね。」

促されるままに車を停車したアンナは、先に降りたタケシを追って門を潜る。

開けた庭に入った瞬間、地球のものとは思えない植物が群生しているのに直面し、アンナの足が止まった。

「ああ、それはゴーデスがこの星で育つ植物の調査とかで植えてるものですね。毒性はないですし、認識阻害の結界で囲んであるのでご心配なく…」

意にも介さず進んでいくタケシの後に続いて、邸宅に入るアンナ。

外の様子から中はどんな魔境になっているのか…

そう焦るアンナであったが、邸内はすっきりと整理されていた。

「意外とゴーデスは綺麗好きでね。家の中はあれが巡回して掃除してるんですよ。」

タケシの指差した先では謎の機械が宙に浮いていた。

「最新鋭のルンバみたいなものかしら…」

浮いている機械に頭をぶつけないように気をつけながら、タケシの後を追うアンナ。

タケシの私室に入っていくと、立派なフィギュア棚が目に止まる。

そこには何百体という怪獣のフィギュアが綺麗に収まっていた。

「これ…アルティママンの…」

棚を抜けた先のデスクで、タケシが紅茶の準備を進めていた。

「座ってください。これ飲んだら帰ってくださいね。」

ここまでの駄賃として律儀にお茶を用意するタケシの様子に昔と変わらない真面目さを垣間見て、アンナの顔に笑顔が浮かぶ。

「それにしてもすごいね、このフィギュア…」

「まぁ…とくにその手前のやつなんかは…」

アンナに褒められたことで気をよくしたのか、タケシは嬉しそうにフィギュアの説明を始める。

その姿は縦割り学級時代に無邪気に接してきたタケシの姿をアンナに思い出させた。

懐かしい感覚に包まれ、二人の時間は緩やかにすぎていくのだった…

とっくにお茶を飲むだけの時間はオーバーしていたが、二人は楽しく会話を続けていた。

いつのまにかタケシもアンナへの敬語が抜け、昔の関係性へと戻っていく。

そうした居心地の良さにふと気づき、タケシはため息をついた。

「元気ならこういう会話もできるし、身体に気を使わずに生きていられる…でもこれは結局ゴーデスのおかげなんだ…奴に出会わなければ、僕は死んでいたわけだしね。」

タケシの口をついてでた本音に、アンナも楽しい時から現実へと引き戻される。

「そうだね…やっぱり病状は厳しいの?」

アンナの問いに、タケシは自分の手を見つめながら答えた。

「多分この身体を起こすこともできなくなってるはずだよ。今野先輩…この間の問いを覚えてるかい?」

以前、ルクリア抜きでタケシと対峙した際、アンナはこの状況を聞いた上での選択を迫られていた。

ゴーデスを倒したり浄化してしまえば、その細胞によって生かされているタケシは死んでしまう。

自分を殺す覚悟があるのかと問うタケシに、アンナは答えを持ち合わせてはいなかった。

「うん…あれから色々考えてはみたの…でも、答えはまだ…」

アンナの答えに、未だ自分を殺して多を救うという選択肢をとれていないことを理解し、タケシは苦笑した。

「そんなことを悠長に言っていられる時間はもうないかもよ…ほら!」

タケシの声色が変わり、その目が怪しく光る。

次の瞬間、座っていたアンナの足首に、謎の触手がまとわり付いた。

「きゃああっ!?」

触手は凄まじい力でアンナを引きずり、邸外の庭へ放り出した。

「くぅっ…はああああっ!」

アンナは腕にブレスを発現させ、バトルフォームへと変身する。


「家の中で暴れられると困るんでね…荒事は外でお願いしますよ!」

タケシが軒先に現れ手を振ると、庭の植物たちが一斉に触手を伸ばしてアンナを襲い、そのまま空中に縛り上げる。

「あう…放しなさい…タケシくん…」

ギリギリと締め上げる触手に苦悶の表情を浮かべるアンナ。


「先輩が悩んでいる間に、僕はどんどん人間からかけ離れていく。昔の後輩なんて情は捨てて、さっさと切り捨てるべきなんですよ…」

自嘲気味に笑うタケシを前に、アンナの瞳に力が宿る。

「大丈夫よ、タケシくん!あなたがどんなに人から離れていっても、私が止めて見せます。ミックスアップ!アルティマレディ・マイン!」


アンナの身体が眩く光り、まとわりついた触手を弾き飛ばす。

「へぇ…」

神々しい光を放ち、タケシの前に降り立つアンナ。

アルティマレディ・アカリから与えられた力は、アンナを単独でアルティマレディと変身させることに成功していた。

「ねぇ、見て。人から離れていっているってことなら私も一緒…身体を侵したゴーデス細胞を中和するために光の力を借りているわ。この力はなかったら多分生きていけないのはタケシくんと同じなのよ…」

立場が逆転し、見下ろされる側に戻ったタケシは複雑な表情でアンナを見つめる。

「タケシくんは一人じゃない…人でなくなっているのは私も一緒。だから何かあったらいつでも相談してね…私、人の話を聞くのがお仕事だし!」

タケシはそんなアンナに背を向けて、邸内へ戻っていく。

「おしゃべりには十分付き合った…次会う時はまた敵同士ですよ…先輩。」

タケシが邸内に消えたことを確認したアンナは、自らも邸外に停めた車に向かう。

「今日のところはここまでかな。また話そうね、タケシくん…」

少し後ろ髪を引かれる思いでタケシの邸宅を後にするアンナ。

雨は上がったものの、春野市の空には未だ曇天が広がるのだった…


続く

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