アルティマレディ・ルクリア 第九話「マリアが死んだ!ルクリアも死んだ! 前編」 (Pixiv Fanbox)
Content
マリアが死んだ!ルクリアも死んだ! 前編 挿絵 らすP様
火山怪鳥 バードン
食葉怪獣 ケムジラ
アルティママザー・マリア 登場
前話までのあらすじ
岩木山での戦いでジェロニモンに敗北したルクリア。
アンナの体にはゴーデス細胞による毒が残り、ルクリアはアンナをこれ以上巻き込んでいいのかと苦悩する。
しかし考える間を与えさせず、ゴーデスの攻勢が2人を襲う。
変身するもゴーデスの毒で弱っていたアンナの意識はすぐに消失し、ピンチに陥るルクリア。
追い討ちをかける様に、青年にアンナに負担を強いていることを指摘されたルクリアは戦意を喪失してしまう。
2大怪獣に嬲られるルクリアを救うため、彼女の師であるアルティママザー・マリアが今、地球へと向かっていた。
ケムジラに糸で締め付けられ、バードンに嘴で責められても変身を解かないルクリア。
自らの敗北がアンナの死につながることを恐れ、ルクリアは必死に耐えていた。
その様子をモニターで眺めながら、青年とゴーデスはこれからの指針を話し合っていた。
「あいつ、いつまで耐えるつもりかな?」
半ばその狂気じみた執念に困惑しながら、青年は尋ねる。
「奴は今、通常の戦闘エネルギーを消失しておる。おそらくアルティマ姉妹共のカラータイマーの様に、自らの寿命を引き換えに力を絞り出している状態じゃろう。奴らは長命…今しばらくは耐えるとみておるが…」
言葉を途中で切るゴーデス。
「お、きたようじゃな。ここからがわしに取っては本番じゃ。ちょっと行ってくるわい…」
そういってバードンに乗り移っていくゴーデス。
「忙しのないことで…」
状況を楽しんでいるパートナーを、笑顔で青年も見送るのであった。
ルクリアは朦朧とする意識の中で、ただひたすらに耐えていた。
このままゴーデス達が状況に飽きて去ってくれれば、自らの命を削った治癒でアンナを救うチャンスがあるかもしれない。
もしその機会が訪れないのであれば、いっそアンナと共に死ぬことでしか、彼女を巻き込んだ責任は取れない…
もはや思考も叶わない現状では、ルクリアはそんな一縷の望みに賭けるしかなかった。
その時、横たわるルクリアの真上の空間にエネルギーの奔流が走る。
それは何者かがゴーデスの作った空間に、外部から直接侵入を試みている証であった。
「…誰?」
ルクリアの視線の先、フィールドの中心にその戦姫は現れた。
ツインテールにまとめられた明るく美しいグリーンの髪。
戦士のそれとは違うものの、優しい微笑みの中にも隠せない威厳の様なものが垣間見える。
「マリア様…」
その姿を目にしたルクリアは、絞り出す様な声でその名を呼んだ。
アルティマレディ・マリア。
アルティママザーとも呼ばれる、光の国・銀十字軍の長官の姿がそこにはあった。
「ルクリア…お久しぶりです。でも、再開を喜ぶのは今しばらく先にしましょう。」
ルクリアにとってマリアは師匠に当たる。
ルクリアの中に浄化の才を見出したマリアは、前戦で戦えるまでに彼女を鍛え上げた。
戦闘能力の低いルクリアがここまで戦ってこられたのも、マリアの教えがあってこそである。
マリアは愛弟子とそのパートナーを救うため、持ってきた救急ポッドを起動する。
「待て待て…勝手をするでないわ、アルティママザー。」
その様子を見ていたバードンの目の色が変わり、その容貌に似つかわしくない老練な声をマリアにかける。
「その声、ゴーデスですね。私の弟子を随分と可愛がっていただいた様で…」
丁寧な物言いの中にも、秘めた怒りを隠そうともしないマリアの声が響く。
「弱いのは其奴の責任じゃろうて。しかし、勝手に乱入して水を差すのはいただけんのう。」
ゴーデスは悪びれもせず、言い放った。
「私がこのまま彼女を連れて行ったらどうするというのです?」
マリアはバードンとその中のゴーデスを見据えながら質問する。
「そうじゃのう…このフィールドを解いて市街地でこやつらを暴れさせる、というのはどうじゃ?おぬしの力で止められるなら好きにして良いぞ。」
マリアも従軍経験も豊富な銀十字軍の戦士であるが、ゴーデスの前で犠牲を出さずにこの場を乗り切ることは不可能であった。
「この星の人々に犠牲が出ることは私も望むところではありません。一つ条件をだしても?」
マリアもここまでは想定内といった様子で、交渉のカードを切ろうとしていた。
「ほう…聞こうではないか。」
ゴーデスは内心でほくそ笑みながらマリアの提案を促した。
「今この場でルクリアとアンナさんを光の国へ転送させてくれるなら、この2人が戻るまで私をこのフィールド内で好きにして良い、というのはどうです?」
ゴーデスは喜びを隠そうともせず、マリアに告げる。
「ほぅ…其奴が戻ってくる保証などないのだぞ…それでもその条件でよいのか?」
マリアはゴーデスをキッとにらめ付け、宣言した。
「私の弟子を舐めてもらっては困りますね、ゴーデス!この2人は必ず戻ります。怖いのでしたら別案でもお出ししましょうか…」
マリアの挑発など意にも介さず、ゴーデスは余裕たっぷりに答える。
「ファファファ、いいじゃろう。貴様にはその死に損ないが戻るまでの間、こやつらの相手をしてもらおうか。儂のネットワークで裏社会に生中継してやるわい!」
マリアに恨みを持つ犯罪者は山といる。
彼らがマリアを痛めつける様を見れば、そこから生まれる欲情や劣情がマイナスエネルギーとしてゴーデスの力となるのは必定であった。
「では其奴らを救ってやるといい…その間は手を出さんよ。」
マリアはルクリアに向き直ると、そっと抱き上げる。
「ルクリア、アンナさん…お待たせしてごめんなさい。」
先程起動したポッドにルクリアの体を寝かせ、治療を開始する。
そしてポッドと共にアルティマサインを光の国へと転送した。
「そちらの希望は叶えた…次はこちらの番じゃ…おや?」
ゴーデスはマリアの表情が曇るのを見逃さなかった。
ピコンピコンピコン…
それを裏付ける様に、マリアのカラータイマーが点滅を始めていた。
「はぁっ…はぁ…んっ…」
二回のテレポートを短期間で使用したことやエネルギーフィールドへの侵入で、マリアの消耗は大きかった。
そのままその場にへたり込んでしまうマリア。
「ファファファ…弟子がいなくなった途端にそれでは張り合いがないではないか…ここからが楽しくなるところじゃぞ。」
バードンとケムジラがゆっくりとマリアへの距離を詰めていく。
これから始まる地獄を前に、聖母に勝機はあるのだろうか…
「……ん…ここは……?」
アンナが目を覚ますと、そこは見覚えのない空間であった。
一糸纏わぬ姿で謎の液体の中にいる。
なぜか呼吸ができていることでパニックには陥らなかったものの、自らの身体に起きていることを理解できずに混乱するアンナ。
すると、目の前に見覚えのある顔が現れた。
「アンナさん!気がついたのですね!」
嬉しそうに綻ぶその顔は、以前地球で共闘したアルティマレディ・ジェニスの物であった。
言葉を発しようにも、水中ではままならないアンナ。
それを見たジェニスは手元で何かを操作しながらアンナに語りかけた。
「そのまま少し待っていてくださいね。いま蘇生液を抜きますので…」
その言葉が終わると同時にゆっくりと水位が下がり、アンナは自分がポッドに入っていることにそこで気がついた。
透明な蓋が開けられ、外気に触れるアンナ。
大きく深呼吸し気分を落ち着かせようとするアンナに、ジェニスが声をかける。
「ここの空気は地球の大気と同じ成分で出来ているわ。安心してくださいね。」
その言葉でアンナの感じていた違和感の正体が判明した。
「ここ…どこなんですか?」
明らかに地球ではない空間。
まわりは水晶のような材質の鉱物で囲まれ、周りには眩い光が煌めいていた。
「ここは私やルクリアの故郷・光の国です。いきなりこんなところに連れてこられたら驚きますよね…」
アンナはジェニスから手短に現状の説明を受ける。
自分とルクリアが敗れ、現在地球ではルクリアの師匠であるアルティママザー・マリアがゴーデスの相手をしていること。
ルクリアとアンナは一時的に分離され、それぞれ治療を受けていることを告げられた。
「ルクリアはエネルギーが切れた状態での無理が祟って、もう少し治療に時間がかかりそうなの…アンナさんも身体中にゴーデス細胞の侵食が進んでいます。できるだけの治療をしたのですけど…どうかしら?」
ジェニスに聞かれて、体の不調を思い出したアンナ。
戦いに赴く前の疼くような火照りはなく、いつもの状態に戻ったように感じられ、アンナは笑顔を見せた。
「ありがとうございます!だいぶ調子戻った気がします。」
それを聞いたジェニスも一瞬笑顔を見せたものの、また神妙な表情に戻る。
「さっきも言った通り、ゴーデス細胞の侵食は未だ続いているはず。不調が出たらすぐに言ってくださいね。」
ジェニスの思いやりに感謝すると同時に、自分の姿に気がついたアンナは、顔を赤らめながら尋ねた。
「あのぅ…私の服ってまだありますか?」
ジェニスもアンナの言いたいことに気がつき、慌てたように話を進めた。
「あぁっ!ご、ごめんなさい…私ったら最初に言わなきゃいけなかったのに…アンナさん、右手首に意識を集中してみて。」
ジェニスに言われた通りに手首を見て意識を集中するアンナ。
するとアンナの手首に金色のリングが現れ、瞬時に体全体を羽衣が包んでいく。
アンナの姿は一瞬のうちに純白の衣を纏ったものへと変わっていた。
「わわ!すごいですね、これ…」
アンナが驚いていると、ジェニスも目を輝かせていた。
「やっぱりピッタリ!よく似合ってますよ。」
不思議そうな顔をするアンナの様子を見て、ジェニスは説明を続ける。
「その衣装は私の家に代々伝わる品です。私たちがアンナさんたちと同じ『人間』だった頃に着ていた物ときいています。」
アンナはいきなり出てきた事実に困惑してしまう。
「ええ!?皆さんって元は私たちと同じなんですか?」
ジェニスは簡単に光の国の成り立ちをアンナに説明した。
とある科学者が開発したプラズマスパークという人工太陽により進化した人類の一つの形…それが自分たちの姿であること。
それにより力を得た代わりに、光の力がないと生きていけない体になってしまったこと。
「詳しく話していると時間がどれだけあっても足りなくなってしまいますね…そのリングは光の力を具現化しその身に纏うことができるのです。」
アンナは確かに体に力がみなぎるのを感じていた。
「たしかに…体が軽く感じます。」
光に満ちたこの空間では、その効果が十分に発揮される。
「それを着ている間はゴーデス細胞の侵食の影響もないはずです。ルクリアと同化する時はそれを装着してからにすれば、戦いへの影響も無いはずよ。」
ジェニスからの贈り物に、アンナは感謝する。
「ありがとうございます、ジェニスさん!でもこれで勝てるのかしら…」
体の影響がなかったとしても果たしてあの2大怪獣に勝てるのか…
アンナは不安に表情を曇らせる。
その様子を見て、ジェニスは意を決した様に切り出した。
「アンナさん、話があります。」
ジェニスの口から、とあるエピソードが語られる。
話が終わった時、ジェニスの元に一本の通信が入った。
「ルクリアの意識が戻った様です。アンナさん、いきましょう。」
アンナはジェニスの話を振り返り、ルクリアとの対話を決意する。
「はい!」
ゴーデスとの戦いの前に、まずはルクリアの問題を解決しなければおそらく勝ち目はない。
おそらくその役目こそ自分に与えられた使命だと感じたアンナは、ジェニスと共にパートナーのもとに向かう。
果たしてルクリアは復活し、マリアと地球を救うことができるのか…
後編に続く