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遠い銀河の彼方...

二つの光がぶつかり合っていた。

片方は銀河を守る使命を帯びた、アルティマ族の女戦士、アルティマレディ・ルクリア。浄化の力を宿した慈愛の女神である。




もう一つは数々の星を滅ぼしてきた悪名高き邪悪生命体ゴーデス。生物に寄生して混乱を巻き起こし、その結果生まれるマイナスエネルギーを糧に成長する、悪魔の化身。

相反する力をもつ両者の因縁もついに後一歩で決着の時を見ようとしていた。

優勢なのはルクリアの方であった。彼女の浄化の力はゴーデスにとって天敵ともいえるものだったのである。

「ゴーデス!大人しく投降しなさい!」

「ぐぅう!このままでは…最後のワープにかけるしかあるまい!」

ゴーデスは自らの体と引き換えにワープでの逃走を図ろうとしていた。細胞のひとかけらでも生命体のいる星にたどりつければ、再起を図ることができるからである。

「そうはさせません!」

ルクリアは光のリングを作り、ゴーデス体へ投げつけた。

リングはゴーデスの触手にはまったものの、ゴーデスは既にワープに取り掛かっていた。

「こんなもので私を止めることはできん!さらばだ、ルクリア!」

そう言い放つと、ゴーデスは闇の中へ消え去っていった。

「くっ、まだワープする余力があったなんて…」

「でもまだ終わりではありません!」

そういうとルクリアは意識を集中し始める。

さきほど投げつけたリングの痕跡を辿り、ゴーデスの位置を探り始めた。

「…!見つけました!」

そう遠くはない銀河にリングの反応を確認し、ルクリアもテレポートで後を追うのであった。


リングの反応を追ってテレポートを終えたルクリア。

「ここでリングのエネルギーが消えている…ゴーデスの反応は…」

反応を追って顔を上げると、そこには青く美しい惑星があった。

「なんて綺麗な星…っいけない!生命体のいる星ならゴーデスが見逃すはずがありません!」

一瞬その惑星に目を奪われたルクリアであったが、自らの使命を思い出した。

「あの星ではこの体のままでは活動が難しいかもしれませんね…」

ルクリアは体を光の球体に変え、眼前に広がる美しい星・地球へと降りていった。


ルクリアがテレポートで現れる数分前、ゴーデスも地球のそばにワープアウトしていた。

ルクリアとの戦闘ダメージも併せて身体は崩れかけ、生命の危機にさらされたゴーデスは地球を発見して歓喜に震えていた。

「素晴らしい!なんと醜い星だ!」

ゴーデスの目には地表に渦巻くマイナスエネルギーの奔流が映っていた。

マイナスエネルギー。それは生命体が恐怖や嫉妬、ストレスなどネガティブな感情に囚われた際に発するものであり、ゴーデスの力の源であった。

「ここで力を蓄えれば、ルクリアにも負けぬ!先ずは1番反応の強いところへ…」そう言いながらゴーデスは地表へと落ちていった。


私立春桜学園・それは首都圏近郊にある春野市に存在する、幼稚舎から大学までを網羅する巨大な学園である。

学園のスクールカウンセラーを務める今野アンナは、山道を車で走っていた。

家族と喧嘩してしまい、帰りたくないと面談室に来た生徒を家まで送った帰り道であった。

無事に保護者と仲直りさせられた事にほっとしつつ、家路へとついていた。

「ふぅ…、大ごとにならずによかったわ。」

多感な年頃の子供たちへのカウンセリングは細心の注意が必要だが、それ故にうまく納めた時の充実感もひとしおであった。

そんな時、ふとアンナがバックミラーを覗くと、後方の山中より光の球がこちらへ迫っていた。

最初は山中の民家の灯りかと思っていた光が瞬く間に大きくなり、アンナは恐怖を感じて車を止めた。

「うそ…避けられない!」

路肩に止めたアンナの車へ、光の球が直撃した。

しかし、爆発も衝撃もなく、座席で頭を抱えて身を縮めていたアンナは恐る恐る顔を上げた。

車や周辺には何も変化は無く、アンナは狐にでもつままれたような気分になった。

「疲れているのかしら…」

安全を確認し、車を走らせるアンナ。助手席に置いたスマートフォンの画面が薄く光っている事には、まだ気付いていなかった。


家に帰り着き、アンナはスマートフォンの電源が切れている事に気が付いた。

「いけない!急な連絡が入っていなければいいけど…」

すぐに電源を入れるも、特に着信やメールの痕跡はなく、ほっと胸を撫で下ろした。しかし、ホーム画面に見たことのないアイコンがある事に気がついた。

「これ、何かしら?入れた覚えないなぁ。」

銀色のベースに青のラインが入ったそのアイコンを、アンナは思わずタップしていた。

すると、いきなり何者かの声が聞こえてきた。

「私の声が聞こえますか、アンナ?」

自分を呼ぶその声にアンナは答えた。

「聞こえているわ。あなたは誰?」

思わず口に出したものの、相手の姿がない事にアンナは身構えた。

「驚かせてしまってごめんなさい。私はあなたの持っているその機械の力を借りて話しかけています。」

謎の声はさらに続けた。

「私はルクリア。訳あってあなたに接触しました。私はあなたたちの言葉で言うところの宇宙人です。」

いきなりの未知との遭遇にアンナは混乱を隠しきれなかった。

「なんで宇宙人のあなたが私のスマホに?」

問いかけにルクリアは答える。

「私はとある犯罪者を追ってこの星に来ました。しかしながらこの星の環境では、私は自らの体を維持することができません。この星の方に力添えを頼もうとした際に、あなたを発見したのです。この機械に入る事で存在を維持させてもらいました。勝手をしてごめんなさい。」

「あ、さっきの光の球があなたって事?」

アンナは先ほどの山道での体験を思い出していた。

「その通りです。その時この機械に…通信機能を使って言語やこの星の状況を学ばせてもらいました。やり過ぎてしまったようで機械の電源を落としてしまったようで…」

ルクリアの説明で、アンナは電源が切れた理由に納得がいった。

「なるほど…それで私に何をしてほしいの?一般人だからできることは少ないけど…犯罪者を追ってるのよね?」

アンナは恐る恐る尋ねた。

「私が追っているのはゴーデスという名の邪悪生命体です…」

ルクリアはこれまでの経緯と、ゴーデスについて説明した。

神妙に聞いていたアンナであったが、突然声を上げた。

「あれ?邪悪生命体ゴーデスって…アルティママンに出てくるゴーデスのこと?設定が微妙に違うけど…」

ルクリアは驚いたように尋ねた。

「ゴーデスを知っているのですか?」

アンナはパソコンを立ち上げ、ネットで検索をかけ始めた。

「ちょっと待ってね。知ってるというかなんというか…これを見て、っていうか見えてるのかしら?」

画面をスマホの方向に向けながらアンナは一つのページを表示した。

「あ、見えています。ありがとうございます。これは…確かに詳細は違いますが、大まかにはあっていますね…どこにこの情報が?」

アンナが見せたのは子供向け特撮ドラマ「アルティママン」のページであった。その主人公の宿敵がゴーデスだったのである。

「私、仕事上子供と話すからこういう作品もチェックしてるの。これは少し前のシリーズだけど、好きな生徒がいたから覚えているわ。」

「でもこれフィクションのはずだけど、なんであなたの敵と共通点があるのかしら?」

ルクリアも思案を巡らせていたが、一つの結論に達したようだった。

「おそらくですが、過去にこう言った存在を知っている宇宙人がこの星に来ていたのではないかと思います。」

「ゴーデス以外の敵キャラクターも有名な宇宙の犯罪者たちが使われています。きっといつかある侵略に備えて、情報の提供をしていたのかもしれませんね。想像ですけど…」

その仮説にアンナも納得したようで、

「まぁ、その件は今は考えてもしょうがないわね…それで私はゴーデスを追うのを手伝えばいいのかしら?」

アンナの問いかけにルクリアは少し言葉を濁した。

「はい…それともう一つお願いしたいことが…」

「?…乗り掛かった舟よ。遠慮しないで言ってくれると嬉しいんだけど。」

言いよどんだルクリアにアンナは言葉を促した。

「ごめんなさい…言い辛いことなのですが、私はこの星では本来の姿でゴーデスと戦うことができません。

「マイナスエネルギーの強いこの星では、私のエネルギーは著しく消耗するのです。アルティママンと同じでこの星の人間と同化することで、体を維持し戦うことができます。」

アンナもアルティママンの設定が実際の宇宙との共通点がある、との話を聞いた時から察するところがあったようで、

「やっぱりそういう話になるのよね…私は合気道くらいしかできないけど役に立てるのかしら…?」

「戦うこと自体に抵抗はないのですか?」

思った以上に協力的な申し出にルクリアは驚いた。

アンナは決意を秘めた表情でルクリアに切り出した。

「私は学校で子供たちの笑顔を守る仕事をしているの。ゴーデスの好きにさせていたら、それもできなくなってしまうわ。」

「怖くないといえばうそになってしまうけど…私にできることをやらないで後悔したくないの。私でよければ協力させて!」

アンナの申し出にルクリアは喜び、

「ありがとうございます!一緒にゴーデスの手からこの星を守りましょう!」

「ええ!これからよろしくね、ルクリア!」

こうして地球をゴーデスの魔の手から守るための2人の戦いが始まったのである。


ルクリアとアンナが巡り合う少し前、先行したゴーデスは既に春野市へと降り立っていた。地表に渦巻くマイナスエネルギーの発生源が、人間という生物によるものだと見切ったゴーデスは落着地点のそばにいた人間へと寄生した。

「ふむ…個体ごとに発生させているマイナスエネルギーにも差があるな…どれ、周辺で1番大きな反応は…あそこか!」

数キロ先に大きなマイナスエネルギーの奔流を捉えたゴーデスは、寄生した男の脳から地球の情報を引き出しつつ、歩き出した。


ゴーデスの目指した先には一軒の豪邸がそびえ立っていた。正確にはその横にある離れがマイナスエネルギーの中心であった。

「これほどのマイナスエネルギー…よほどの苦痛を抱えた者と見える。果たしてどんな奴であろうか…」

ゴーデスは寄生した人間を乗り捨て、小さな細胞の塊となって離れの室内へ侵入した。

部屋の中は大きなガラス製の棚がいくつも置かれ、通路となる床はゴミが散らかった状態であった。

ゴーデスはガラス棚の中を見て驚愕した。

「これは…私か?」

ガラスに反射では無くその奥に、自らに酷似した物体を目にしてゴーデスは驚いた。

細部こそ違えど、よく特徴を捉えた造形にしばし目を奪われるゴーデス。

そしてここの住人の正体に興味を持ったゴーデスはガラス棚の奥へと進んでいった。

開けたスペースに出ると、そこには1人の青年が座っていた。

「誰かそこにいるのか?」

顔も向けずに尋ねる青年にゴーデスは答えた。

「よく私に気が付いたな。後頭部に目でも付いているのか?」

すると青年は振り向きながら

「ここには誰も寄り付かないからな。誰か入ってくれば空気の変化でわかるよ。」

と返した。

そして掌に載るほどのサイズのゴーデスを見て、へぇ、と驚いた様子を見せた。

「音も立てずに入ってくるからどんなやつかと思えば…君が死神ってやつか?」

ゴーデスは死神の意味がわからなかったが、

「生憎そういう名ではないな…我名はゴーデス。そこの箱に私と似たものがあった。貴様は私を知っておるのではないか?」

と尋ねた。

「ゴーデス?アルティママンに出てくる敵の親玉の名前にそういうのがいるが…まさか実在しているのか?」

興味を示してきた青年にゴーデスは、ここまでの経緯を説明した。

青年は笑いながら、

「なるほどね。僕がマイナスエネルギーを出している件は思い当たる節があるよ。」

「しかし、細かい部分が違うとはいえ、フィクションの世界が実在のものとは…馬鹿にできないものだ。」

そう言いながら青年はゴーデスへ向き直った。

「僕は生まれつき体が弱くてね。いつ死んでもおかしくないのさ。故にこんな離れに一人暮らしってわけだ。自分では慣れたつもりでも死への恐怖や体の不調がストレスになって、マイナスエネルギーとやらを生んでいるんだろう。こんな世界に生まれたことを恨んで生きてきたからね…」

それを聞いたゴーデスは青年に提案を持ちかけた。

「貴様さえ良ければ、私が寄生することで病気の苦痛から救ってやろう。代わりにお主には私にこの星や怪獣の知識と、そこの模型とやらを提供するのだ。さすればルクリアのやつにも負けはすまい…」

「ふふふ…この体を呪って生きてきたが、世界の破滅を特等席で見られるのなら悪くはないか。いいだろう、協力しようじゃないか。」

こうしてここに悪の連盟が誕生した。


これより後、互いに協力者を得たルクリアとゴーデスの地球での戦いの幕が切って落とされたのである。


ルクリアが地球にて今野アンナとの出会いを果たしてから、数週間が過ぎようとしていた。ルクリアは日中はアンナのスマートフォンの中から周囲のマイナスエネルギーの変化に気を配っていた。アンナはスクールカウンセラーの仕事で不登校児の家庭訪問も行っていたため街中に出ることも多く、色々な場所を巡りことができることも何かと好都合であった。

しかしながらゴーデスの痕跡を辿ることはできず、待ちの日々が続いていた。しかしそれも悪いことばかりでは無く、その時間を利用してアンナとの絆を深め、戦い方のレクチャーなどを進めることができていた。来たる日に備え、着々と準備を進めていたのである。


そして、その日はついに訪れた。

アンナが仕事を終え自宅に帰りつくと、それはいきなり現れたのである。

「キシャァーーッ!!」

唸り声を上げ、その怪獣がいきなり街中に現れた。

咆哮を耳にしたアンナは家のベランダから声の方向を確認した。

するとオフィスビル街の真ん中に一体の細長い影が蠢いていた。

「あれは…ベムラー?」

ルクリアへの協力のためアルティママンを観るようになったアンナは、その怪獣の名前を知っていた。

アルティママンの第一話に出てきたトカゲ型の宇宙怪獣、それがベムラーである。しかしルクリアからは、これは実在の怪獣ではないと聞いていた。

「どういうこと?でも迷っている暇はないわ。ルクリア!」

「ええ!変身して向かいましょう!」

その返事を聞いてアンナはスマートフォンの画面から、ルクリアが宿っているアイコンをタップする。アイコンが光を放つのを確認し、アンナはそれを高く掲げて叫んだ。

「ルクリアッ!」

アンナの体は光に包まれ、球体となってベムラーへと飛翔していった。


いきなり現れた怪獣に、最初は呆気にとられたりスマートフォンで撮影を試みていた市民も、咆哮と共にそれが動き出すと、我先にクモの子を散らしたように逃げ始めた。

その阿鼻叫喚の様子を、近くのビルの屋上から眺める青年の姿があった。薄く笑みを浮かべながら、青年は脳内のゴーデスと会話していた。

「どうだい、マイナスエネルギーの発生具合は?」

「ふむ、いまは未知への好奇心や興奮などの感情も強い。まだそこそこといったところじゃな。」

「なるほどね、こういう展開を喜ぶ層もいるってことか。単純じゃ無くて面白いな。」

「むぅ、早いな…もう来おったぞ。」

ゴーデスの感知した方向から光の球体が殺到する。球体はベムラーを包み込むとそのまま消失した。

「あらら、もうやられちゃったのかな?」

青年が残念がるとゴーデスは笑った。

「ファファファ…まだ大丈夫だ。奴らが未開の星で戦う際のやり方だ。どれ、私の目を貸してやろう。」

そういってゴーデスは青年の目に自らの細胞を走らせた。

すると怪獣が消えた場所に光の球体がそのまま残っていた。

「奴らは他の文明に過度に干渉しないよう、ああやってフィールドを作って中に敵を取り込むのだ。さらに中を見てみろ。」

青年は言われるがままに球体の中に意識を集中した。


怪獣に球体のままぶつかったルクリアは、相手が中に入ったのを確認し、次のステップへと進んだ。

「アルティマフィールド、展開!」

手を上にかざして球体を巨大化させる。その内側は何もない広い空間となった。

これはアルティマ族が他者を巻き込まずに戦うための手段である。外側から見ると球体が縮小し、元の状態へともどったように見えるが、球体は人間には不可視のまま空中に浮かんでいた。

もしルクリアがこの中で敗北してしまうと、通常空間に怪獣が戻ってしまう。これ以上恐怖によるマイナスエネルギーを出さないようにするための戦い方でもあった。


フィールドが安定したところでルクリアは球体内で実体化する。



「セアッ!」

ルクリアは掛け声と共にファイティングポーズを取った。

その体は本来の宇宙人としての姿では無く、アンナをベースにビキニアーマーを装着したような姿であった。全身にブルーを基調とした色合いで、その胸にはカラータイマーが同じく青に輝いていた。意識はルクリアが基本となっていたが、アンナの意識も同時に存在していた。

「この格好、やっぱり恥ずかしいなぁ・・・」

何度か練習として変身していたためわかってはいたものの、アンナは自分がベースであるため、羞恥心が拭えなかった。

「ごめんなさい、アンナ。でも他の人に見られることはないから安心して。」

「わかっているわ。それよりも今は戦う時!」

アンナに負担をかけないためにも、とルクリアは気合を入れてベムラーへ対峙した。

ベムラーは困惑した様子を見せることもなく、ルクリアを敵と認識し襲いかかった。

「テァッ」

ルクリアはベムラーの突進を見切って横へ交わすと、すれ違いざまに掌打をボディに叩き込む。

この際に浄化のエネルギーを流し込み、ゴーデス細胞を弱らせていくのが、ルクリアの戦い方であった。

ベムラーは浄化のエネルギーにふらつきながらも、長い尻尾をルクリアに向けて振り回した。ムチのようにしなる尻尾にルクリアもたまらず距離を取る。しかし中距離はベムラーのテリトリーであった。すかさず口内から青白い熱線を吐き出し、ルクリアを苦しめる。

「っくぅ…交わしきれない!」

バク転やジャンプで交わすものの、徐々に熱線に追い詰められるルクリア。ついにその体に熱線を浴びてしまう。

「きゃあぁぁっ!」

体の主導権はルクリアが受け持っているものの、素体となっているアンナの意識にもダメージが共有されてしまう。

今まで受けたことのない痛みにアンナは声をあげてしまった。

「(ごめんなさい、アンナ。ダメージが大きくなる前になんとかしなくては!)テャッ!」

ルクリアは尻尾と熱線を避けるため、接近戦に持ち込んだ。

手足の短いベムラーならその方がいいと考えたためである。

小刻みに浄化の力を乗せた打撃や絞め技で、ベムラーを弱らせていく。形勢はルクリアにあるように見えた。


「あらら、ちょっと相手のターンかな?」

ビルの上からフィールド内をのぞいていた青年は呟いた。

「あれにはそこまでマイナスエネルギーを渡してないからな。こんなものであろう。」

ゴーデスはこの戦いの勝敗よりもルクリアの能力把握に努めているらしく、気のない返事であった。

「それじゃあ、アレが効果あるのか試してようか。」

そういうと青年は指を鳴らした。

ゴーデスは笑いながら

「ファファファ、あの悪趣味なギミックが効果的だと面白いのだがな…」

とさらに観察を続けるのであった。


青年が指を弾いた瞬間、ベムラーに組み付いていたルクリアは太もものあたりに違和感を感じて視線を落とした。

するとベムラーの股間から、人間の男性器に似た生殖器が生えていたのである。

「きゃあっ!何故こんなものが?!」

ルクリアが驚くのも束の間、それはムクムクとこうべをあげて屹立した状態となった。

それをおもむろにルクリアの太ももに擦り付け始めるベムラー。先端からは透明な汁が溢れ始め、卑猥な香りがフィールド内に漂い始めた。

「くぅんっ、なんて匂いなの…それにこれは…あぁん、力が抜ける…」

溢れ出た透明な汁は、マイナスエネルギーを帯びており、擦り付けられた太ももから煙が上がる。肌にダメージを受けるほどではないものの、ルクリアには未知の攻撃であった。

足がガクガクと震えだし、下腹部に熱いものが込み上げる。

ビキニに包まれた胸はそれと分かるほどその先端を固くしていた。

「っ…まずいわ。ベースになっているアンナの体がこの匂いに反応してしまっている。なんて卑怯な攻撃をっ…」

ルクリアも経験したことのない攻撃を打開できず、ベムラーに弱々しくしがみつくような格好になってしまっていた。


ピコンピコンピコン…

突如胸のカラータイマーが赤く点滅を始めた。

ルクリアはアンナの体を借りて変身しているため時間制限は無いものの、マイナスエネルギーを多く浴びてしまうとエネルギーが失われてしまう。カラータイマーが青から赤になると危険信号である。もしカラータイマーが消えてしまったらルクリアは2度と立ち上がれなくなってしまうのだ。


「このままでは…どうしたらいいの…!」

エネルギーの消耗により、アルティマフィールドの加護が薄れ、周りの街並みが透けて見え始めた。このままでは街に被害が及んでしまう。その考えがルクリアを焦らせていた。

しかもベムラーの生殖器に溜まったマイナスエネルギーが今まさに発射される寸前になっていた。もしこれが街へ飛んでいけば、濃縮されたマイナスエネルギーで死人が出てしまうかもしれない。それを感じたルクリアは身体でエネルギーを受け止める策にでた。自らを覆う浄化の力で相殺しようと考えたのである。

「アンナ、ごめんなさい。あの攻撃を受けてしまったら力を使い果たしてしまうかもしれないわ。でも、この星の人々を守るためには!」

そういってルクリアは生殖器の前に体を投げ出した。

ブシュッ…ビュルビュル…ダパァッ

ついに絶頂に達したマイナスエネルギーが放たれた。

ルクリアはその身に全てのエネルギーを受けたが、あまりの量に浄化が追いつかず、悲鳴を上げた。

「きゃあぁぁっ!いやぁっ…だめぇ…はぁぁぁん!」

なんとか理性を保とうとするも、体が刺激に耐えきれず、絶頂のような反応を示してしまう。



ピコピコピコピコ…

胸のタイマーも点滅を早め限界を知らせていた。

もうここまでか、と思ったその時、アンナの意識がルクリアに語りかけた。

「ルクリア、私の体のせいでごめんなさい…でも見て…まだ街は大丈夫!相手もマイナスエネルギーを出し切って弱っているはず!頑張りましょう!」

アルティマフィールドは消えかけていたもののまだ健在であった。後ろにははっきりと街が見えていたが、先ほどのマイナスエネルギーは届いていなかった。

ルクリアは態勢を立て直してベムラーに向き合い、

「アンナ、ありがとうございます!今こそ私の浄化の秘技で!」

そう言うとルクリアは浄化の奥義の体勢に入った。ベムラーは射精に満足したのか全く動かなくなっていた。

「いきます!フルムーンレクト!」

ゆったりとした姿勢から放たれた浄化の輝きがベムラーを包み込む。程なくしてベムラーはその光の中に消え去っていった。

ピコピコピコ…

タイマーの点滅はエネルギー切れの近さを物語るように早まりつつあったが、ルクリアは胸を張って佇んでいた。

「ルクリア、やったね!」

アンナは喜んだが、ルクリアはそれに応えることが出来なかった。

立っていることもできず、その場に座り込んでしまう。



「アンナ…ごめんなさい。もうこの体とフィールドを維持するエネルギーが尽きかけています。一度変身を解かないと…近くにテレポートさせますので、少し回復を待ってもらえますか?」

アンナはルクリアを気遣い、

「はしゃいでしまってごめんなさい。どこか路地裏の目立たないところにでも戻してくれれば、そこであなたの回復を待つわ。」

と提案した。

「アンナ、ありがとうございます。」

そういうとルクリアは光の粒子なって消えていった。

同時にアルティマフィールドが消失し、アンナはビルの裏手にテレポートアウトした。

表通りではいきなり現れて光の球体へ消えた怪獣パニックが続いており、空をマスコミのヘリが飛び交っていた。

アンナは壁にもたれかかると大きなため息をついた。

「はぁはぁ…なんとか勝てたけど…」

アンナ自身の消耗も激しく、すぐにでも家に帰りたかったが、家の中で変身したため靴も履いてない状況だった。

「こんな状態で出ていったら怪しいよね…ルクリアの回復を待ってテレポートさせてもらう方がいいかな…」

そういいながら一息つくと、スマートフォンも画面を確認する。ルクリアのカラーリングのアイコンがうっすらと輝いていた。

おそらく数分でテレポート分のエネルギーをチャージして、声をかけてくるはず…そう思い一息ついたアンナの横にある、ビルの通用口が内側より開かれた。

こんな裏手に靴も履かずにいる自分を思い出し、怪しまれないように隠れようかと思ったアンナであったが、出てきた人物を見て、つい声を発してしまっていた。

「あれ…〇〇君?」


青年はベムラーの浄化を確認すると、ゴーデスと共に屋上から撤収を始めた。

「流石にあの程度の細胞量だと倒すまではいかなかったな。でも搦手も効果があったようで何よりって感じか?」

ゴーデスも手応えを感じたのか

「ファファファ、十分十分。貴様の協力があればなんとでもなるわい…」

と上機嫌であった。

青年がビルを出ると、背後から女性の声がした。

「あれ…〇〇君?」

青年はその名前が自分の名前であることを理解するのに一瞬時間を要した。

病気で伏せって離れに押し込められて以来、もう呼ばれる事のない名前だったからである。

しかし自らの名前以上に聞き覚えのある声に反応していた。

「…今野先生。」

振り向いた先には学校に通っていた頃に世話になったスクールカウンセラーの姿があった。

数年前と変わらず可愛らしい笑顔を向けていたが、少し調子が悪そうにも見えた。

「こんなところでお会いするとは…ご無沙汰しています。…えっと大丈夫ですか?」

アンナは自分の格好を思い出し恥ずかしくなってしまった。

「あはは…さっきの怪獣騒ぎで靴も履かずに飛び出してきちゃって。お恥ずかしい…」

「それより久しぶりね。体調を崩して学校を辞めてしまったって聞いていたから心配してたの…元気になったのならよかったのだけど。」

青年は怪しまれないように取り繕った。

「最近だいぶマシになってきまして…復学は難しいかもしれませんが、がんばっていこうと思ってます。」

「先生にはすっかりお世話になっていたのに挨拶もできず、すいませんでした。」

アンナはそれを聞いて喜んだ様子で、

「そんなことは気にしないでいいのよ!元気でいてくれればそれで。私は今も春桜学園にいるから、よかったら遊びにきてね!」と顔を綻ばせた。

青年も笑顔を浮かべて

「ええ、そのうちに…靴、買ってきましょうか?」

と応じた。アンナは照れながら

「あ、友人がこっちに向かってくれているから大丈夫。ありがとう、優しいね。」と返した。

それを聞いた青年は

「それではここで…失礼します。」

とその場を立ち去った。その顔から笑顔はすぐに消えていた。


青年が立ち去った後、すぐにルクリアから声がかかった。

「アンナ、お待たせしました。体は大丈夫ですか?」

「ええ!ちょっとうれしいことがあったから元気になっちゃったわ!」

苦戦したことでショックを受けてないかと心配したルクリアであったが、嬉々としたアンナの様子に、胸をなでおろした。

「偶然かもしれないけど、私にアルティママンを教えてくれた子に再会したの。この話聞かせたかしら?」

「ええ、最初に会った日のことでしたね…」

二人は家にテレポートしながら、出会った日のことを思い出していた。


こうして地球におけるアルティマレディ・ルクリアとゴーデスの戦いは始まった。

青年のコレクションを利用した怪獣軍団にルクリアとアンナは勝利することができるのだろうか…


次回 アルティマレディ・ルクリア 第2話 「夜を蹴散らせ!」 に続く・・・





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Comments

タペ

支援させていただきました! スマホを媒介にした変身とは斬新ですね これからも期待しております!

ガチピン@ご支援感謝

ご支援・コメントありがとうございます! 変身時ってみんな名前を呼びながらなイメージだったので、スマホの音声認識っぽいなぁと思って取り入れてみました。 頑張って更新していくので、よろしくお願いします!