Home Artists Posts Import Register
Join the new SimpleX Chat Group!

Content



ここでは、今回描いた漫画についてのメイキング的な事を綴っていこうかと思います。

特に漫画のプロというわけではないのですが、未だにいくつかの雑誌社から執筆のお声がけをいただいてはいるので、編集者から見ても掲載するに足るとの判断をされていると考えてもいいのではなかろうか、という事で、ご支援いただいている方の中で、今後漫画を描きたいけどどうすればいいか分かんないという人の一助になればと考え、書いていく事にしました。

自分自身も必ず年老いていき思考が鈍くなっていくので、その時に初心を振りかえるためのメモとなってくれれば一石二鳥ですからね。僕にも得があるわけです。


前置きはこの辺りにして、早速1コマ目からやっていこうと思います。


▼1コマ目

このシーンですね。

最初、鶴がだんな様と呼びかける所ですが、吹き出しが鶴の顔と被っています。

これは、キャラクターと吹き出し+文字を一つの絵にする事で、視線誘導の妨げにならないようにしよう、という工夫から行いました。

また、顔をあえて吹き出しで隠す事で、話しかけられるまで主人公が鶴の顔を一度も見ていなかったという暗示にもなっています。

主人公が寝そべって本を読んでいますが、それだけリラックスしている、という意味の他に、後のコマでの動作を際立たせるためでもあります。

背景の色付きの部分も、主人公の周りを少し薄くすることで距離感も出しています。


▼2コマ目

このページの肝となる部分です。

一番大きくコマを取り、鶴をとびっきりに可愛く描く事でこの子の印象を焼きつけようとしています。

コマ枠を取っ払い、広い空間にしたのも、この子を強調するためです。


さて、年始の挨拶というと、

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

が1セットです。

しかし、このコマでは、鶴の可愛さを表現する為に顔を見せる必要があり、絶対に頭を下げさせるわけにはいきません。かといって年始の挨拶で頭を下げないというのも変ですし、慣れ親しんでいる日本人としてはモヤっとします。

礼儀正しさもこの子の魅力ですので、読者にそんなモヤっとした感情を抱かせるわけにもいきません。

そこで、「新年あけまして」で区切り、次に鶴のポーズを見せる形にしました。

これで鶴がこのタイミングで挨拶の姿勢を取った事になりますね。

「おめでとうございます」というセリフをその後でしゃべらせる事で、次のコマにその後(おじぎ)の動作を託すわけです。

コマ移動は時間の経過でもあるので、そこを利用した形になります。


▼3コマ目

ここでは二人の全身図を描く事で、二人の位置・距離感や互いにおじぎをしている様子を一目見て分かるようにしています。

ここでのポイントは、主人公に先に挨拶をさせている事です。

1コマ目で主人公は寝そべっていましたが、ここで姿勢を正し先に挨拶させることで、主人公は誠実な性格である事を表現しています。

主人公が姿勢を正すシーンを飛ばす事で、鶴が挨拶をしている瞬間に自身もすぐさま姿勢を正した、という風に見え、より誠実さが強調されているかと思います。


また、1コマ目でも書きましたが、最初に寝そべっているシーンを描く事で、ただ座っている場面を描くよりも、姿勢を正す、という動作がより際立ちます。


そして、この場面で主人公よりも綺麗な姿勢で丁寧に頭を下げる鶴を描く事で、鶴の礼儀正しさを強調するわけですね。

先ほど言いました、新年の挨拶は「あけおめことよろ」が1セットという部分ですが、コマの最後に「本年も~」の台詞を入れる事で、鶴が一連の動作の中できちんと頭を下げたという説明にもなります。

ここで「本年も~」の台詞を先に描いてしまうと、台詞を全て言い終わった後に頭を下げる、という流れになってしまうので動作としては少し不自然になります。

台詞の位置一つで意味が変わってしまうので、この点は非常に気を使った箇所でもあります。


▼4コマ目

左端にくるコマです。

次のコマは右下になるので、顔を正面に向け影を落とし画面左側に光の壁を作る事で視線を右下へ移動させやすいようにしています。


右下のコマへ視線を誘導する場合、主人公の顔を右向き(または右斜め下)にさせる、という方法もありますが、今回だと、前のコマでの鶴と主人公の位置関係上、左向きだった主人公が突然右向きになってしまうと読者が混乱してしまいます。かといって、本来の左向きでやると、主人公の顔の向きに釣られて視線が左の枠外へ流れてしまいます。

なので、まず最初に鶴の台詞を配置し主人公を正面向きにし影を落とす事で、左側に出来た光の壁と顔の向きによって視線が枠外へ流れるのを防止しつつ、話しかけられ顔をあげた(鶴が台詞を終えるまで頭を下げていた)、という説明にもなって一石二鳥というわけです。


▼5コマ目

2つ目の魅せポイントです。

2コマ目と同じく枠を取っ払う事で、鶴を大きく描いています。


さて、ここでは鶴の向きが左側になっています。

位置関係を左右反転すると読者が混乱する、と書きましたが、前のコマでカメラを主人公の正面に添えた為に、左右の関係が一度リセットされています。

4コマ目で話しかけた主人公が左上のコマにいる事から、この左向きを違和感なく受け入れる事が出来るわけですね。

顎を引いて視線が上向きになっているのも、少しためらいがちであるという意味以外にも、体格の違う主人公との視線の高さの違いを表しています。

4コマ目で話しかけた主人公は現コマより上の方にいるので、自然と視線の高さの違いを感じられるようになっています。


また、左向きである事で、次のコマへ視線を移しやすいわけです。


▼6コマ目

鶴と主人公の温度差を表現するためにも、二人とも画面に入れる必要があったので、縦長構図にしました。

後ろの背景は布団ですが、要するにエッチのお誘いを示唆しているわけですね。

主人公に背中を向かせたのは、そわそわする鶴を見せたいというのもありますが、オチである次のコマまでに主人公の感情を読者に読み取らせないようにするためです。


▼7コマ目

実は、前作のオチと同じ構図なんですね。

主人公の意志は前作から全く変わっていない、という意味も込めて構図を意図的に被せています。

このコマで今回のお話はおしまい、という事で枠が下に抜けるコマにしました。


最後のコマの枠外にあけましておめでとうございます、という文章を入れる予定だったのですが、投稿時間の関係上、結局入れられませんでした。というと締まるのですが、実際は忘れてただけです。本当にありがとうございました。


記事はこれでおしまいです。

こんな感じで、一コマ一コマ、しっかりと意図があったんだよ、という事を書いてきましたが、いかがでしたか。

実は今回実験を行っておりまして、これまでであれば服装のデザインに齟齬がないよう、着物の模様なんかは三面図を作ってしっかりと決めてから描いていたのですが、めちゃくちゃ時間がかかるという事と、商業作品ではないという事、それよりも見栄えを優先した方がいいだろうという事で、模様が大きいところ以外は雰囲気で描いています。なのでどのコマもデザインが少し異なります。でもそこまで気にならなかったと思います。そんなもんですよね。こういう所で下手に力を入れてしまうと大層疲弊してしまうので、少し力を抜く、という事を試した1作でした。


長々とありがとうございました。

Files

Comments

n-yoshi

鶴くんちゃんのエロい手袋がエロくてエロい。

Anonymous

コマ毎の意図を説明してくださるのめちゃくちゃ参考になります