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「え……私ですか?」 「そうだ。早く行け」 ついに恐れていた、というか来たら嫌だなあと思っていた仕事を振られた。悪の片棒を担げという指示が。まあ、冷静に考えてみたら日々のお仕事だけでガッツリ担がされてはいるんだけど。 私の勤めているこの会社は悪の組織というやつで、危険な人造生物を製造販売しているらしい。道理で安全性の項目がおかしいわけだった。表面上は普通の会社っぽくしているので、私は悪い会社だとは露知らず、普通に就活して普通にこの会社に入ってしまった。 実体を察してからは転職した方がいいかなあと思い悩んでいたけど、給料はいいし休みもあるし、直接に悪事に関わるような仕事はまだ振られなかったので、私は踏ん切りがつかずタイミングもつかめず、ズルズルとこの会社にい続けていた。それがとうとう、イヤーな仕事を振られるところまで出世というか生き残ってしまった。 今日は妙に皆ドタバタしてるなと思いながら、いつものようにのんびりと爆発する亀の研究をしていたところ、どうやら正義のヒーローが一人、この会社に潜入して暴れていたらしい、ちっとも気づかなかった。で、そのヒーローさんは無関係な子供を人質に取られ、全身が溶けて死ぬ毒を注射させられてしまったらしい。解毒方法はないため二十四時間以内の死ぬことは確定だ。なので子供と共に解放したが、ちゃんと死んだかどうか確認してこい、というのが私への指示だった。 (なんで私が……) 顔を見られた裏メンツの方々はしばらく外に出たくないのかもしれない。そこで表部門の私にこんな仕事が回ってきてしまったのだろう。一般女性だから警戒されにくいと判断されたかも。それにしてもこんな嫌なお仕事をやらされる羽目になろうとは。ここに長く務め過ぎてしまった。といっても五年だけど。 尾行によると、ヒーローさんは子供を送り届けた後自宅に戻り、それ以降動きを見せていないらしい。ヤーさんオーラ全開の尾行さんとバトンタッチして、私はヒーローさんの家に近づいた。家賃低そうなワンルームのアパート。資料によると若い女性らしい。かわいそ。空気に溶けて死体も残らないなんてね。でも死体でないのにどうやって確認すんだろ。影も形もなければ死亡確認でいいのかな? ドアに鍵はかかっていなかった。多分自宅に帰りついた時には既にボロボロだったのだろう。私は堂々と臆することなく家の中の明かりを点けた。毒がちゃんと効果を発揮していればとっくに死んでいるはずだし。 部屋に入るとベッドの上で何かが動いた。掛け布団がモゾっと。引きはがすと、全裸の小人が現れた。震えて縮こまっている。短い黒髪に、クリクリとした大きな瞳。顔から足まで人形のように綺麗な、いや綺麗すぎる肌が全身を覆っている。顔も知らないけど、状況からヒーローさんだとわかった。おそらく毒に耐えて溶け残ったのだ。何たる生命力。流石ヒーロー。 逃げようとしたので捕まえた。体調は目測十七センチほど。弱った小人を手で捕えるのは全く簡単だった。 「は……離し、て……」 軽く拳に力を込めるだけで、このままボキボキと全身の骨を折ってしまえそうだ。でも困った。生きているとは思わなかった。大変困った。 どうしたものか、私は手に掴んだ哀れな彼女をジッと眺め続けた。私の迷いを察した彼女は、見逃してくれないか私に取引を持ち出した。うーん……。 「いや、それはちょっと……」 「お、お願い……」 可愛らしい小人の懇願は母性に訴えかけるものがある。それに私自身、別に悪じゃないというか、わかって入社したわけでもないし……。人殺しなんてしたくない。じゃあ持ち帰って渡せば……それも結局は同じことなんだよねえ。人殺しに加担した事実をずっと背負って生きていなくちゃいけないし、私は正真正銘悪の組織の一員ってことに。かといって見逃すのは無し。だって後でバレたら殺されるの絶対私じゃん。二度と弊社ウチの会社に手を出さない、ヒーロー引退という約束で見逃そうか考えた。でも後でバレたら……。小人なんて絶対目立つよねえ。そもそもヒーローなんてやるような子、結局後でリベンジに来そうだし……。でも、殺人はしたくない……。うぅ~ん。 ジッと彼女を見つめていると、私は彼女の肌がとっても綺麗であることに改めて着目した。お人形みたい。フィギュアの肌みたいにも見える。きっと全身が溶けてしまったからだろう。肌色一色で染みも皺も黒子もなく、血管も見えない。これは……「ウチの子」たちに似ている。体長と等身も……。 「……わかった。見逃してあげる」 「!」 「でも、条件があるわ。それに従うなら、ね」 死亡確認の報告をして自分の家に帰った私は、こっそり持ち帰ったヒーローちゃんを私の箱庭に放した。周囲からゾロゾロとアリスたちが現れ、彼女を取り囲む。皆新しい友達の出現に喜び、ニッコニコだ。 彼女を助ける条件はこう。私のペット、アリス4になること。会社では可愛げのない生物ばかり作らされているので、私は三年前から趣味で可愛い小人を作り、自分の家で飼っていたのだ。低知能なのでどの子も会話とか芸とかはできない。まあ専らわちゃわちゃしているのを見て癒やされるだけの存在である。スタイルや顔はほぼ同じなので、あまり見分けはつかない。名前もアリス1、アリス2、アリス3という適当ぶり。ヒーローちゃんは、これからアリス4ということになってもらう。こうして私が常に見張っていれば、後で会社にリベンジに来ることもないし、生存がバレて私が責任を負うこともない。殺すわけじゃないから胸も痛まない。 「な、なんですかこの子たち……ちょっと」 アリス1~3は満面の笑みで、全裸の新人にベタベタとゼロ距離で抱き着いたり頬っぺたをくっつけたりしてスキンシップを図っている。まあ低知能だから我慢して、と答え私は蓋を閉じた。箱庭は透明なアクリル製で、そこに特別なコーティングをしているので頑丈。縮んだ彼女が中から暴れて逃げ出すことは多分ないだろう。 アクリル越しにはもう声が行き来できない。彼女は両手で透明な壁を叩きながら何かを叫んでいるようだったが、私には聞こえない。再びアリスたちに囲まれ、もみくちゃにされていた。同情する。小人として見るから可愛いんであって、同じ目線だと中々に気持ち悪い存在だろうなということはわかる。 そんなわけで、ウチの小人ペットに加わった新人、アリス4を眺める日々が始まった。 箱庭は横二メートル、奥行き一メートル。居住区と運動区に分けられている。居住区は四部屋用意してあったけど、こんな形で埋まるとはね。でも倉庫がなくなっちゃったな。まあ中のものは運動区に転がしとけばいいんだけどさ。淡いピンク色の壁と床で彩られた居住区は一本の廊下を中心に、四つの部屋に区分けしてある。アリスたちには低知能なので、ドアがない。というか私には工作の才能がないので、あまり凝れてない。三年前にセールになっていた女児向け玩具を流用したものだし。 ベッドはタオルで作った。家具はどれもままごと用のプラスチック製で、どれもパステルカラーの可愛らしいデザイン。仮にも人間の成人女性が住むには落ち着かないかもね。ドアもなく、正面は透明で外から丸見えな自室に戸惑うアリス4を見下ろしながら、私はそう思った。彼女は相変わらず裸のままだ。他のアリス三匹は名前の通り、水色のワンピースに白いエプロンをくっつけたデザインのドレスを着ている。頭の上には白いヘッドドレスを……つけてはいたが、あまり知能が高くないので玩具にされている。 予備のアリス衣装があるから新入りのアリス4も着れるはずなのだけど、着ようとしていない。運動区に放り出されたままだ。単純に二十歳にもなってアリスのコスプレを普段着にするのが恥ずかしいのか、或いは知能を持たないペット用の衣装を身に着けるのが嫌なのか……。それとも、私に対するささやかな抵抗の意思表示なのかもしれない。キッと強い目で私を見上げる彼女を見てそう思った。 運動区は特に何もないスペースで、遊ぶための真っ白な空間だ。プラスチックのベンチや布製のボール、ゴム飛び用の紐などが転がっている。アリス4はうちに来てから最初の一週間、あの手この手で脱出を試みていた。ここに来るっていうから見逃してあげたのにねえ。しかし特殊なコーティングを施した厚いアクリルの壁と天井を破ることは、十分の一サイズになるまで溶けてしまった今の彼女には不可能だったようだ。次第に壁を叩いたり蹴ったり、足場を組んで天井を持ち上げようとする行為は見られなくなっていった。 同時に、彼女の髪に変化が現れた。アリスたちの食事として与えているのは人造ペット用の食用液体。桃色をしていて、飲むだけで必要な栄養全てがとれる便利なものだ。最初はペット用の食事を拒んでいた彼女も、空腹に耐えかね今では大人しく飲み干すようになった。私はその中に遺伝子染色剤を混ぜておいた。地毛が金髪になるように。 アリス1~3は皆綺麗な金髪で、いかにもアリスといった風貌。しかしアリス4は黒髪だったので、私はそれを直すために遺伝子自体を金髪のものに書き換えたのだ。いちいち染めたんじゃすぐ根本から黒くなっていって綺麗じゃないもんね。染め直すのも怠いし。 彼女らのお皿に食事を注いでいる間、アリス4は口頭で文句を言った。勝手に髪の毛を染色したばかりか、遺伝子レベルで書き換えてしまうなんて酷い、と。人権が人道がどうのこうの騒いでいたけど、私は生返事で無視した。癒されるために飼っているのに口論とかしたくない。 飲めば金髪化が進むと知っていながら、これ以外に食事はないので、結局アリス4は自らの遺伝子を書き換える桃色のスープを毎日飲まざるを得なかった。それも普通の金髪ではない。アニメのような鮮やかな……黄色と表現していいかも。そういう金髪だ。 半月もすると、ショートだった髪も少し伸び、アリス4は綺麗なお人形の容姿を手に入れた。鮮やかな黄色い髪、均質に染め上げられた肌、溶けて乳首がなくなった可愛らしいお胸、マネキンのように平坦で何もない股間。これも溶けてしまったようだ。 髪がさらに伸びたころ、仕事から帰ると、箱庭の中に四匹のアリスを発見した。全員が金髪で、同じ服を着ている。髪の短い個体が私と目を合わせた瞬間、赤くなって顔を逸らした。アリス4が服を着たのだ。私は安心した。ようやくアリス4も周囲に馴染んできたか、と。低知能のペットが服を着て自分だけ全裸でいるのは流石に耐えられなくなっちゃったかな。フリフリのアリス衣装は黄色い髪とよく似合い、とても可愛らしかった。 それからは服装の状態がすっかり逆転して、アリス4だけが唯一しっかりとアリスのコスプレをしているようになった。つまり、縞々のニーハイソックスとか、白いヘッドドレスだとか、ペタンコの茶色い靴だとかをしっかり身に着けるようになった。他の子はドレスを着たっきりで、それ以上身に着けようとはしていない。というか、つけ方もわからないのだ。アリス4は、どうやら自分だけが細かい部分も着こなせる事実に気づいたらしく、新たにそれを人間であることのプライド、証拠に選んだようだった。私としても、初めてちゃんとしたアリスのペットが完成したのでとても喜ばしいことだった。ウィンウィンってやつだね。一人だけ誰よりアリスのコスプレが気に入ってしまっているようにも見えるけど、言わないでおこう。 同じ衣装を着るようになって少しは仲間意識が芽生えたのか、或いは自分だけがヘッドドレスを付けていることを根拠にリーダー気分にでもなっているのか、アリス4は以前よりアリス1~3と交流するようになった。身体を密着させて頬ずりするようなゼロ距離スキンシップを以前ほど嫌がらなくなった。まだちょっと笑顔は固いけど。まあ、明確に自分に好意を持っている生物をいつまでも無碍にすることはできなかったのだろう。見た目は人間だし。頭を撫でてあげたりもするようになった。逆に撫で返されるのは拒否しているようだけど。 二か月ほどすると、アリス4の髪もだいぶ伸びてきて、肩までかかるようになった。遺伝子染色はすっかり定着したようで、黒髪に戻る傾向はまるでない。よしよし。でも、もうすぐ見分けつけなくなっちゃうな。 アリス4は白タイツを好んで履くようになった。単純にマイブームなのか、或いはアリス1~3が最近、アリス4の真似をして頭にヘッドドレスを装着し、縞々の靴下も履くようになったからかもしれない。一緒に寝転がったり遊んだりするようにはなっても、自分とアリス1~3の差異は常にわかるようにしておきたいらしかった。私に向けてなのか、それとも自分自身に向けてなのかはわからない。 そして、最近は蓋を開けて食事を与える時も、アリス4は喋らなくなった。他のアリスたちと同様、表情と身振り手振りだけで感情表現をする。以前は途中で顔を赤くしてうずくまったりする様子も見せたが、最近は特に恥じる様子もなくなった。まあ、会話しないもんね。アリス1~3は会話できない。いつもニコニコ朗らかに笑いながら、ピョンピョン跳ねたり両手を大きく振り回したりして、全身で感情表現をする。そしてコーティングした厚いアクリルの壁は外に声を通さない。声を出す相手も理由も箱庭には存在しないせいで、すっかり声を出す機会も減り、いつの間にか会話するという発想すら出にくくなってしまったのだろう。普段顔を突き合わせる相手全員が幼児みたいな感情表現しかしないせいで、知らず知らずのうちに影響も受けているのかもしれない。 半年すると、アリス4はアニメキャラのように髪も長く伸び、もうすっかりアリス1~3と素体だけでは見分けがつかなくなってしまった。普段も他のアリスたちと混じって同じような振る舞いをしていることが多くなってきたので、中々わからない。ちょっと見ていると流石に「子供と遊んであげている」感が出てくるのでわかるが、数秒ぐらいだと本当にわからない。 新しく投入した青いリボンカチューシャと白い手袋も中々人気で、アリスたちがよく装着しているのを見かける。アリス4がつけ方を教えてあげているらしかった。当人はつけていない。やっぱりアリス123と全く同じ格好をすることは避けているようだ。もう完全に見分けつかなくなったのが自分でもわかっているからだろうか。 一年。仕事でヘトヘトになった私を、四匹のアリスが癒してくれる。全く同じ格好をした四匹の小人ペットたち。箱庭の中でいつもニコニコ笑いながら、過度なスキンシップをとったり遊んだりしている。その光景を眺めるのが私の楽しみだった。 もうすぐアリス4が来てから一年になる。どれがそうだったのかはわからないけど。いつからか、皆同じ格好をするようになった。一匹だけ仲間外れでいるのが怖くなったのかもしれない。 観察していると四匹全て、自分から体をくっつけに行ったり、頭を撫でられて顔をほころばせたりしている。うーん、見分けつかないや。この中のうち一匹が人間だったなんて今更誰かに報告しても、誰も信じないだろうな。ひょっとしたら本人でさえ。 食事を与える時間だ。蓋を開けると、運動区に四匹が群がる。私を見上げて顔を輝かせながら、ピョンピョン跳ねてアピールしている。お皿に桃色の液体を注いでやると、喜んで飲み干していく。 蓋を閉じて鍵をかけると、中で四匹がまた遊びだした。元気だなー。こっちは仕事でヘトヘトなのに。……また何か作ってみようかなー。気分転換に。 連休を使って、私は知能の低いアリスたちのリーダーとなる新個体を製造した。アリス5だ。見分けがつくよう、この子だけ現実的なカラーリングの金髪にした。知能もある程度高めた。喋ることもできないアリス1~4たちの面倒を見る個体だからね。 箱庭に投入すると、瞬く間に四匹のアリスが寄ってきてアリス5に身体を寄せだした。 「よろしくね、みんなー」 アリス5がそう言っても、四匹は答えない。挨拶されたことすらわからず、ニコニコ笑顔でスキンシップを図り続けている。一匹だけ、一瞬スキンシップを中止し、表情が動いた。何か戸惑うような表情を浮かべた後、ぎこちなくまたアリス5を見上げて、頭を撫でてもらおうとした。アリス5が要望に応えて彼女を撫でると、何か納得のいかなそうな表情だったが、他のアリスたちを見てすぐ笑顔に戻った。 「マスター。すごいですよ。聞いてください」 ある日、食事の時にアリス5がそう言った。低知能アリスの中に一匹、言葉を覚えるかもしれない個体がいると。 「ほら、言ってごらん」 アリス5が優しい声で促すと、そのアリスはぎこちなく掠れた声で 「……んー! これ、しー!」 と叫んだ。おおっ、すごい。アリス5以外に喋れる個体がいるなんて。喋ってる範疇にはいるかはわからないけど。アリス5曰く、口頭での指示も多少理解できつつあるらしい。はえー。すごいね。そんな成長することもあるんだ。 どの子かな? 気になった私は、ぐぐっと顔を近づけて、どのアリスなのか判別しようとした。ああ! わかった。この少し細長い顔は……間違いない、アリス2だ。 「偉いねー、アリス2」 指先でちょろっと撫でてあげると、アリス2は喜んだ。他の低知能アリス三匹は、お皿の液体を飲み干すことに夢中で、知性の欠片も見いだせない。 どこまで成長し得るのか見てみたいな。アリス5にもっとアリス2の面倒を見てあげるよう指示して蓋を閉じ、鍵をかけた。楽しみが一つ増えたなー。まさかこんなポテンシャルがあったとは。人造生物も奥が深いね。 その後、何か忘れているような気がして箱庭を振り返った。そこにはちょっとだけお行儀よく液体を飲むアリス2と、それを見守るアリス5、幸せそうな笑みを浮かべ周囲で寝転がる他のアリスたちの姿があった。何かが頭の中にひっかかっていたが、その引っ掛かりが何なのか、私はとうとう思い当れなかった。 (まあいいか) どうでもいいや。明日も仕事だし。私はいつものようにお風呂に入った。出てくるころには頭もリフレッシュされて、さっき覚えた引っ掛かりを思い出すことは二度となかった。

Comments

浮生萌えでなら

可愛すぎて、最後のマスターに忘れ去られてアリス2と戯れている様子(機械翻訳)

opq

コメントありがとうございます。お気に召したなら幸いです。