左足の継承者 (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-05-19 11:05:44
Edited:
2022-09-21 11:02:10
Imported:
2023-05
Content
「あの……その格好、校則違反です」
「ああ?」
私が注意した上級生は、私が右腕に嵌めている風紀委員の腕章……ではなく、瞬時にその視線を下へ落とした。見てる。見られてる……。私のスカートから除く水色の左脚が。
彼は何か言いたそうな不服な表情を浮かべたが、直後にちょっと気の毒そうな、憐れむような表情を一瞬だけ経由し、
「けっ」
と一言だけ漏らして廊下を去っていった。あー、やな感じ。彼じゃなくて私が。そうだよねえ。片足だけに水色のタイツ履いてる人に服装の注意されたくないよね。でもしょうがないじゃない、脱げないんだから、これ。
私が通うこの高校には不思議な風習がある。カラフルな色の五種類のタイツが代々継承されているのだ。右腕を肘まで覆うピンク色の手袋、左の黄色。胴体を封印しトイレにも行けなくするらしい純白のレオタード。私が継承しているのは左脚をつま先から太腿まで覆いつくす、水色の片足ニーハイソックス。これらのタイツは通常では説明できないような現象によって引き継がれている。まず、一度着ると決して脱ぐことはできない。体に寸分の隙間も生じさせずにピタリと張り付き、皮膚のように密着する。でも、どれだけ動かしても突っ張ることはなく、同時に皺一つできない。常に綺麗に張り付いた状態を維持し続けるのだ。魔法としかいいようのない性質を持っている。こんなファンタジーが現実に存在しているだなんて、入学するまで知らなかった。それもそのはず、これらのタイツは学校関係者……つまり在校生や先生でなければ見えないのだ。私の両親は私が左脚に水色のニーソを着ていても何も言わないし、それを脱がずにお風呂に入っても咎めない。気づきすらしないのだ。自分の娘の左脚が封印されていることなんて。
そして「継承」にはルールがある。必ず下級生でなければならない、ということ。三年生から一.二年生には継承できるが、逆は無理。まだ一年である私は、誰にもこのニーソを押し付けることができない。少なくともまだあと半年近く、私は左脚を水色に染めたまま日常を送らなくてはならないということ。
「はぁ……」
こんなの継承するんじゃなかったな。毎日後悔している。お世話になっていた風紀の先輩が左脚の継承者だったので、受験を控えた三年生に上がる前に継承を済ませてしまいたい、と懇願され、私は仕方なく引き受けたというわけだ。継承の際は該当部位……今回は左脚を互いに素肌同士密着させ、頭の中で継承することを認めることで行われる。私が初めて会った時からずっと水色に彩られていた先輩の左脚は肌色に戻り、変わって私の左脚が水色に染め上げられてしまった。指一本、ニーソと肌の間に潜り込ませることができない。接着剤でも使ったのかってくらい、私の肌と一体化している。家に帰っても本当に脱げないので参った。結局そのままお風呂入ることになって……。罪悪感がすごかったな。
ただし、継承者には特典もある。と言っても、継承を円滑に行うための補完みたいな特典だけど……。継承中の部位は、常に清潔・健康に保たれる、という点。あれから一か月、私は一度も左脚を直に洗えていない。でも、嫌な臭い一つしないし、爪も伸びていないようだ。それどころかいい感じに形が整えられているらしいことが感覚からわかる。見えないから断言はできないけど。
とはいえ、最大最強の欠点である「恥ずかしい」という点は未だに克服できずにいる。私が継承した次の日、教室ではとてもいたたまれない空気が流れた。皆が一瞬だけ会話を止めて私を見、そして何事もなかったかのように振る舞う。消えてしまいたかった。せめて花咲さんみたいに美人で、友達も多かったらこんな惨めな思いをせずに済んだのに……。
一年生の継承者は私のほかにもう一人。花咲さんという人で、早々と五月に右手を継承した。右手がずっとピンクというのは相当恥ずかしいと思うけど、彼女はおそらく学年でもトップの美少女なので、恥ずかしいどころかチャームポイントみたいになっている。夏服期間は相当目立っていたものの、顔がいいせいか堂々としていて、痛々しい雰囲気なんかなかった。今の私とは大違い。腫物みたいに扱われ、一切触れないようにされている今の状況がきつくて耐えられない。
私はずっと、ハッキリと友達と呼べる存在がいなかった。小さい頃はクソ真面目とか言って男子にからかわれた。別にそんなお堅いつもりはないんだけど、単にルールに反している行動や格好を見ると「それルール違反じゃないの?」と言いたくなってしまう。別に咎めているつもりはないんだけど、そんなことを繰り返していると次第に頭の固い真面目ヤローみたいな空気になって、委員長とか押し付けられるようになって、そして何だか遠巻きにされてきた。この高校に入ってもう半年以上経っているけど、例によって友達はできていない。そんな私が派手な水色ニーソを継承してしまったのは本当に間違いだった。風紀の仕事もだいぶやり辛くなったし……。特に服装の注意がしにくくなった。さっきみたいに勇気を出しても、「お前が言うなよ」みたいな微妙な空気が流れてしまう。誰も私の左脚について言及する人はいない。もっと社交的な性格だったら反応も違っただろう。現に花咲さんはよくピンクの右手をからかわれている。それが余計に辛かった。私が皆からどう思われていたかの答え合わせのような気がして。
「いーじゃないか足。俺らも足なら継承したいよなあ、黒田先生」
「全くですねえ」
唯一見て見ぬふりをしてくれないのは先生方……だった。だから嬉しいかと言われるとそうでもない。
「はぁ……」
とつまらない返答しかできない自分が嫌になる。
「知ってるか? 足の継承すると巻き爪と水虫治るんだよ」
「はぁ……」
ああ、確かにそうかもね……って待って。過去にそういう人いたの? うぇ。
私は用事を済ませ、足早に職員室を後にした。そして上履きを脱いで水色の足裏を確認する。水虫……。いや大丈夫。そういうの消えるんだから。でもなんか気持ち悪い……。はぁ。
スカート止めて、ズボンでも履こうかな。でもそれもなんか自意識過剰感出ない? 今更ね……。
二学期が終わる直前、話したこともない三年生の先輩が話しかけてきた。左手を継承して欲しい、という申し出だった。
「あ、あの、すみません、私はもう……」
スカートを片側たくし上げ、水色に染まった左脚を見せた。彼女は引き下がらず、対抗するかのように袖をまくって、黄色に染まった左手を見せつけた。
「ねーお願い、私下級生の知り合いいなくて……もう来月一次でしょ? それにすぐ卒業でしょ? お願いお願い」
彼女は泣きそうな顔で私に取りすがった。曰く、元来友人の少ない彼女は下級生に継承を頼めるような知り合いがおらず、三年生の十二月というギリギリの今まで、継承できずにいたという。それで一か八か、すでに継承者である一年生に声をかけてきたというのだ。花咲さんじゃなくて私なのは……同類だからかもしれない。私は情けなく追いすがる先輩の姿に、未来の自分を見てしまった。私なんて同学年にすら話せる人がいないのに、継承ってどうするんだろう。もしも継承できなかったら……。
「ねーほんとにお願い。あなたに断られたらもー石になっちゃうじゃん。大学受かってもいけないじゃーん」
「え、えと、でも……」
その通り。この継承には罠がある。もしも下級生に継承しないまま学校を去ることになったら、その時は石になってしまう……そう言われているのだ。最も、誰も人が石になるところを見たわけじゃないから真相は定かじゃない。ただ、代々そう言い伝えられている。とはいえまるっきり嘘とも思えない。理由は二つ。何故ならこのタイツたちは物理法則を無視した存在だから、そのぐらいのことはあり得るかもしれない……というのと、生徒会室の石像だ。生徒会室には向かい合うようにして左右の壁に沿って並べられた、六つの台座がある。そのうち五つは上に何も乗っていない空の台座だけど、一つだけ女生徒の石像が飾られている。信じられないぐらい精巧に出来ていて、今にも動き出しそうな迫力を持った像だ。それほどリアルなのに、一点だけ非現実的な部位がある。後頭部に広がる大きなリボンだ。アニメでも中々見ないほど大きな、ツルツルとしたデカいリボン。あれは「頭」だったのではないかという説がある。つまり、継承はホントは六つあり、頭の継承に失敗した先輩の誰かさんが石化してしまった……という噂だ。まあ、それもただの噂なんだけど……。でも本当に人間だったのかもしれないと思わせるほどにリアルな石像であることも確か。
自分が二年生に、三年になった時、誰か私の左脚を継承してくれるだろうか。そんな人を探し出せるだろうか。追い詰められた先輩が可哀相になった私は、とうとう、押しに負け情に負け、袖をめいっぱいまくり上げた。
「……わかりましたよ。継承します」
「ホント!? ああぁ、ありがとー! ハム送るね!」
「いりません」
左腕同士を絡めあい、密着する。風紀の先輩の時よりはマシかな。あの時は互いにスカートをたくし上げながら左脚を絡めあったけど、何とも気恥ずかしい時間だった。
(左手……継承、します)
そう念じた瞬間、カッと光が瞬き、私は反射的に目を閉じた。瞼越しにも光が収まった時、目を開けると、そこには黄色く染め上げられた私の左腕があった。
(……うぇ)
やっちゃった。やってしまった……。私みたいなのが二か所同時継承。最悪……。しかも思ったより迫力がある、この手袋。肘まで覆うレモンイエローの手袋は、テカテカと輝き、皺一つ作らず私の肌と同化している。これから……ずっと、脱げない。左手を黄色に、左脚を水色に染めたまま、日常生活を送らなければならない。
「ありがと! ありがとーっ!」
先輩は対照的に大喜びし、私とライン交換して上機嫌で去っていった。何だか騙された気分……騙されてはないけど。はぁ。これからの学校生活が憂鬱だ。皆どういう反応するだろう。よりにもよって友達一人もいない奴がこんな派手派手な格好をずっと……。はあ。
幸い(?)にも、すぐ冬休みだったので、私は皆の刺々しい視線を浴びる日を来年に先送りすることができた。でも先送りしただけで、その日は必ずやってくる。
冬服なのが幸いして、左脚ほどには目立たなかった。例によって、誰も触れてこないし。でも来年になったら。夏になったらどうなるだろう。黄色い左手を余すところなくさらけだして校内を闊歩することになる。水色の左脚だけでも死ぬほど恥ずかしいのに。水泳は……スクール水着にこのタイツ二種が追加されるのか。うわぁ……。
左手の継承者だった先輩とはその後連絡を取り合う仲になり、私は少しばかり楽しさを感じる三学期を過ごすことができた。でもすぐに先輩は卒業してしまう。また話す相手もいなくなるのだ。
(あーあ……)
春休みの間、私はどこにも出かけず家でゴロゴロしていた。元からアウトドアではなかったけど、秋に左脚を継承してから加速度的にインドア化している。だって、無関係な人たちには見えないと言っても、左脚だけに水色のニーソを履いたまま外出するのは恥ずかしすぎる。合う服なんかないし、ていうか合ったところで無意味だし……。加えて今は左手が黄色。風紀委員である私がそんなトンチキな姿して外を練り歩くわけにはいかない。校内も練り歩きたくないけど。お風呂前の脱衣所で自分の全身を見ると、ますます落ち込む。左半身だけがカラフルに染まった自分。やっぱ無理だよ、私にこんなの合ってないよ……。もうどうしようもないけれど。
新学期が始まれば下級生が入学してくる。継承可能になる。理論上は。問題は、私が……学年を飛び越えてこの恥を引き継いでくれるような友達を作れるかどうか、ってところ……。風紀の後輩に引き継がせようか。風紀の伝統ってことにして……。いやそれはダメだ。完全な詐欺だ、ルール違反だよ。……やっぱり私は真面目ヤローだろうか。
だが、新学期が始まると、全ての悩みを吹っ飛ばすような事態が起きていた。始業式……いや登校の時点でアホほど目立つ、大きな大きな真っ赤なリボン。
「何あれ?」「マジ~?」「やばー」
登校の最中、誰もがひそひそと声を交わした。花咲さんだった。アニメみたいに大きな真っ赤なリボンを後頭部にくっつけている。顔は負けないぐらいに紅潮し、ずっと俯いていた。
(すご……)
私は圧倒された。何しろ、後ろからじゃ顔の輪郭がわからないぐらいだ。素材は何かわからないけど、テカテカ艶々としていて、まるで樹脂のようにも見える。これが昨今のファッション・トレンド……であるはずもない。明らかに皆面白がっているか、馬鹿にしている。ただ不思議なのは、道行く人々は誰も興味を示さない点。あんなアホみたいに大きなリボンつけて現実に歩いてる子がいたら、視線くらい寄りそうなものだけど。反応しているのは、私たちと同じ制服の子だけに見えた。
始業式になると、彼女のリボンはいよいよ在校生全ての注目を集めた。次第に彼女の背中は丸くなり、とうとう座り込んでしまった。が、誰も注意する人もなく、粛々と式は進められた。
新しいクラス。例によって話せる相手のいない私は、一人で席にジッと座って本を読んでいた。周囲は花咲さんの謎ファッションの話題で持ち切り。漫画みたいにどデカい羽根、ヒラヒラとたなびく垂れ部分、彼女のリボンを見た者は誰一人それに言及せずにはいられないようだった。彼女は元々右手がピンクだから注目の的ではあったけど、もはや誰も彼女の右手など忘れているかのようだった。大体は「流石にないわー」みたいな馬鹿にする嘲笑混じりのものばかり。中にはそこまで言わなくてもいいでしょ……と一言注意したくなるものもあったけど、何も言えなかった。変なファッションしてるのは私も同じだ。左手は黄色、左脚は水色に染めてるんだもんね。
でも、あのリボンどこかで見たような気がする。何だっけ? 何かのアニメキャラ? いや現実であのリボンを、どっかで……。
黄色い左手で頬杖をついた時、すべすべした感触が頬を撫でた。瞬間、思い出した。石像だ。生徒会室の。
(まさか……)
私は放課後、すぐ生徒会室へ飛んだ。中に入ると、生徒会の役員が数人。会長はいないようだ。
「風紀の青葉です。石像は……あぁ」
ない。なくなっている。六つの台座のうち、一つだけ飾られていた女生徒の石像がない。台座は全て空になっていた。
「どう思う?」
「へ? どう、って……」
「あのリボン」
「ああ……」
誰もが考えることは同じらしい。花咲さんは突然変なファッションに目覚めたわけではない。「頭」を継承したのでは? あの石像を知る人は皆その発想に行き着いたようだ。
「頭……でしょうか」
「でも、石になってたよな?」「どこいったん?」「ていうか継承できるんか?」「一定期間過ぎたら再振り分けみたいな?」
生徒会役員たちは不可思議な事態に色々と意見交換を行った。私は失礼しますと一礼して部屋を出た。普段、自分からああいう人気者ポジションの人に話しかけに行くようなことはないんだけど……。今回ばかりは好奇心が、そして何となく同じ継承者として私が話を聞かなければならないんじゃないかという義務感も生まれていた。それにまあ……風紀委員だしね。ファッションだったら取り締まらないと、うん。
あんな派手なリボンしてたらすぐ見つかるだろうと思っていたけど、二年生の教室付近にはいなかった。校庭にも中庭にも……もう帰った?
先生に石像のことを聞こうかな、と思ったその時。使われていない空き教室から生徒会長が出てきた。視線が合ったので会釈すると、彼女は右手でさっき出てきた教室を指さし、去っていった。
尋ね人はここ、ってこと? カーテンで窓を閉ざされた空き教室に入ると、真っ赤なリボンを頭に背負った花咲さんが縮こまっていた。
「ぁ……」
「……え、えっと……」
どうしよう。そういえば話したことないや。すれ違った時会釈はするけど。
「あの……これね、頭、継承……しちゃったの」
再び赤くなりながら、彼女はそう言った。やっぱり!
「やっぱり! ……えーと、じゃあ、あの石像どうなったの?」
気になる。話が聞きたい。
「えっと、今は黒田先生の家に……」
「え? なんで?」
「なんか、同級生だったらしくて……」
「ふーん……? え、じゃああの人五十……四十年前の人なの!?」
「そうみたい……」
うわー、信じられない。そんなに長い間、石になってたんだ。ていうか待って、石になるってホントなの!?
ヤバいよやばいよ。私も石になっちゃう。二部位継承なんてどうすりゃいいの。
「もう最悪……これ取れないし……」
花咲さんは泣きそうな声で自分のリボンを引っ張った。私たちのタイツが脱げないように、このリボンも取れないらしい。でもリボンなら髪ごと切れるんじゃない? ……先代が石化するぐらいだから、ダメなんだろうな、きっと。
「まあ、誰かに継承してもらえば……」
「無理だよーぉ、誰がこんなの継いでくれるの!? 今日の反応見たでしょ!?」
いつも凛としているイメージだった花咲さんが弱弱しくパニクっているのは新鮮に感じた。確かに気持ちは痛いほどわかる。手足は最悪上から隠せるけど、このリボンは帽子ですら隠し切れない。ていうか帽子被れそうにない。学年一の美少女である花咲さんでさえ、このリボン相手には形無しだ。イタさが勝ってしまっている。
「探せばいるでしょ、多分……。私よりは」
相手がいないのは私も同じだし。ていうか絶対にきっと私の方がヤバい。花咲さんは最悪の場合でも、助けたい男子が立候補してくれるかもしれない……し。
「青葉さんは一人でしょ? 私は二人探さないといけないの……」
あ、私の名前知ってたんだ。話したことないのに。
「いや、その……えっと。これ……」
私は左腕をまくった。レモンイエローの左腕がカーテン越しの日光を反射して輝く。花咲さんは泣きじゃくるのを止め、私の左脚と左腕を交互に何度も見た。
「えっ!? 左手……そうなの!?」
知らなかったんだ。まあ話したことないしね。冬だったから腕は目立ちにくかったし。
「うん、私も二人探さないとだから、えーと、その……」
あれ。私は何の話をしているんだろう。そもそも何でここに……。わかんなくなってきた。
「ありがとう。ちょっとホッとしたかも」
花咲さんは立ち上がり、これから二人で一緒に継承してくれる人を探そう、と言った。私は内心ビックリしながら、それを受け入れた。
「あ、じゃあこれ私の」
息をするかのように当然の流れみたいに、私はライン交換させられた。ドキドキする。
「これからよろしくね、青葉さん」
「あ、うん……よろしく」
はちきれんばかりに輝く彼女の笑顔はとっても美しく、一瞬リボンを征服し似合って見えた。
「もう大丈夫だから、行こっか」
「……どこに?」
「いや、その、まず……誤解とか解かなきゃ」
ああ、そうか。頭の継承はずっと途切れていたから、まだ大勢からは花咲さん自身のファッションだと思われているんだ。皆手足と胴体しか知らないもんね。
「うん……私も手伝うから」
花咲さんは言った。同じ二部位継承の友達がいてよかった、心強い、と……。私はまたまた内心ドッキリした。友達? いつ? 私が? 友達……友達なんだ。私と花咲さん。
もしかしたら今年は一人じゃない……かもしれない。私は初めて継承を受けてよかったと思いながら、花咲さんと一緒に空き教室を後にした。