Home Artists Posts Import Register

Content

私は芽依,30歳。今は小さな町工場で働いている。仕事は生体メイドロボの修理が主。とはいえ,私もある種のメイドロボである。昔手違いで体をメイドロボ仕様に改造されてしまったからだ。今も仕事用にメイドAIを動かしてはいるけど,その気になれば自分で体を動かせるし,周囲からは人間として接してもらえている。 そんなある日,同僚の修介さんに,代ロボとしてしばらく外に出てもらえないかと頼まれた。メイドロボの修理中は,代わりになるメイドロボをその期間中貸し出すのだけど,丁度今動かせるメイドロボが切れているので,代わりになって欲しい……という内容。 嫌に決まっているけど,修介さんには死の淵から救ってもらった恩もあるので,無下にはできず,引き受けることにした。 「それじゃあ,AI支配率100パーセントにしとくから」 別に,いつも通り半々でいいんじゃ……と思ったけど,バレたら面倒だからと,私は体の支配権を全てメイドAIに明け渡すことになった。 「あらー,貴方がうちの代ロボ?」 「はい。メイドロボ236号です」 体が勝手に動き,スカートの裾を持ってお辞儀した。私の意思は一切介在させられない。 「あらぁ,随分年代物の子が来たわねえ。ちゃんと動くのかしら」 ね,年代物って……。確かにもうアラサーだけど。いやそうじゃない。この人は初期型の初期番号に反応したんだ。メイドロボとしての。私は人間なのに……。仕方ないけど,それでも傷ついてしまう。 「じゃあ,溜まってるから片付けてちょうだいね」 「かしこまりました,奥様」 修理中であるこの家のメイドロボのデータは私に入れられている。何年も過ごした勝手知ったる家であるかのように,スムーズに私の体は家事をこなした。この家のルールや配置を完璧に記憶していて,適切に判断できている。「私」はこの家に今日初めて来たのに。ただデータを移されただけで……。こういう目にあうと,つくづく私の体はプログラムで動くロボットであることを思い知らされて嫌になる。もうやめたい。帰りたいよぉ……。 家事が終わると,私の体はこの家の主人のものと思われる書斎に向かった。さっき掃除したはずなんだけど。AIの考えていること,覚えていることは「私」にはわからない。同じ体の持ち主なのに。というか,こうしてAiに体を完全に操られていると,「私」の方がこの体の居候か何かのように思えてきてしまう。 (違う違う!私は!人間!なの!) 書斎の本棚の間に,白い円形の台座があった。フィギュアスタンドのようにも見えるそれは,メイドロボの充電などを行うためのスタンドだ。私の体はその上に立った。用事がない時はここで待機するのがこの家でのやり方らしい。 部屋の中央を向き,表情がひとりでに笑顔に変わった。「私」は笑いたくもない心境なのに,AIはお構いなしだ。……というか,よく考えたらAIの方は「私」の存在を認識していないんだよね。当たり前だけど。……なんだか無性に悔しい。 両脚をピッタリ閉じて,両手をスカートの前で重ね,そのまま私は動けなくなってしまった。書斎を彩る彫刻のように。 (二週間,これかあ……) 午後五時ぐらいに,石のように動かなかった私の体が,再び稼働開始した。 (あー……晩御飯か) テレビを見ながらソファに転がる奥様をよそに,私は何も指示を受けずに夕食の準備を始めた。ちょっとは手伝おうとかは思わないのかな。イライラする。……でもそれだったらメイドロボを買う必要ないか……。当たり前だけど,メイドロボに心があるだなんて,この奥様は想像したこともないのだろう。だから罪悪感だとか恥だなんて何も感じることはないのだ。「私」を知らないのはAIだけじゃない。周りの人たちも同じだ。 主人が帰ると,私の体は玄関まで迎えに出向いた。 「お帰りなさいませ,ご主人様」 またスカートの裾をつまみながら,何も知らない,関係もないおじさんにお辞儀させられた。主人は当たり前のように私に鞄を手渡し,コートを脱ぐのも私に任せた。私には不平不満を言うことも許されない。夕食の間は,リビングで基本姿勢のまま待機させられた。私の作ったご飯を礼も言わずに美味しそうに食べる夫婦を見ていると,やり場のない怒りと羨望が湧き上がった。私もご飯が食べたい……。でもメイドロボでいる間は充電だけだ。それで体が保ってしまうのも悔しい。 「代ロボか。垢抜けない子だな」 「製造番号三桁よ。随分古い子みたいなの」 「何。そりゃ本当か。珍しいな。高値がつきそうだ」 「これ。代ロボですからね」 主人はガハハと笑い,私に製造番号を見せろと命令した。メイドロボは全員,太股に光る番号が刻み込まれている。この番号は二度と除去することができない。それが私にもある。このせいで私がどれだけ辛い目にあったか……。この忌々しい入れ墨を自分から見せないといけないなんて……。 「かしこまりました,ご主人様」 私の体はニッコリ笑って頷き,スカートをたくし上げ,私の太股を露わにした。泣きたいほど恥ずかしくて,悔しい。夫婦は太股の緑色に光る「236」を興味深そうに眺めたあと,私に「もういい」と言った。私はようやくスカートを下ろすことができた。ああ……やだな。この夫婦は一切,エロ目線抜きで私の太股を見ていた。それが逆に私の心を傷つけた。本当にロボットとしてしか認識していんだ。 翌日。「私」が目を覚ました時には既に洗濯が終わり,掃除も終盤だった。例え私の意識がなくても,AIはルーチン通りに家事をこなす。自分の体のことなのに,私はまるで傍観者だ。 掃除が終わると,私は財布とエコバッグを手に取り,玄関へ向かった。 (……っげ!買い物!?) 予感は的中。私の体は家の外へ出てしまった。メイド服姿のままで。 (やだっ,見ないでぇー) メイドロボが昼間に買い物をしていることはもはや珍しい光景ではない。誰も私に特別注目することはなかったが,私はメイド服を着たまま,体の自由も利かない状態で外をうろつくのは辛かった。もうアラサーなのに,昼間っから外でコスプレなんて……。しかも,私は今住んでいるところでは一応「人間」として通っているのに。知り合いに見られたら生き恥だ。しかもここは私の住んでいる町とそう距離もない。知り合いがいてもおかしくないのだ。 (誰にも見られませんように……) 幸い,私の視界には知り合いが映らなかった。でも不思議だった。普段はみんな人間として私に接するのに,メイド服を着てプログラムに従っていれば,途端にメイドロボとして接するようになる。AIの動きはかなり自然なもので,普通の人間とそう極端な違いはないのに。みんなはどこで人間とメイドロボを区切っているのだろう……。 それから二週間の間,この家でメイドロボとして過ごした。特に変なことは一切されなかったし,おかしなこともなかったけど,徹頭徹尾,人として接されることはなく,メイドロボとして扱われた。とはいえ,この夫婦に非はないのだから責められない。その事実がまた私の気持ちをやり場のないものにし,無性に苛つかせた。 修理が終わると,元のこの家のメイドロボが帰ってきた。私は玄関でそれを見ていた。美しい金髪を持つ白人型で,人間だと高校生ぐらいだろうか。私は劣等感と肩身の狭さを感じてしまった。普段こんな綺麗な子を使っているのなら,私を使っていたこの二週間はさぞ不満だったろう……と。 (いやいやいや,なんで私がそんなこと気にしなきゃいけないの!……私は人間なんだから,理想的な美形モデルを作り放題のロボットより見た目が劣るのも当然でしょ!) 私の葛藤などおくびにも出さず,私の体は一礼して玄関から出て,入れ替わりにトラックに乗り込んだ。中にはこれから修理を受けるメイドロボと,修理を終えたメイドロボ,私と同じ代ロボを務めるメイドロボが並んでいる。私は空いている台座の上に立ち,基本姿勢をとらされ,銅像のように固まった。身動きもとれないし,運転席の修介さんに声をかけることもできない。すぐそこにいるのに。もどかしい。 工場でようやくAI支配率を50パーセントに下げてもらい,ようやく私は「私」を表に出せるようになった。 「お疲れー」 「ありがとうござ……もー嫌です!二度とやりませんからね!」 私は修介さんを怒鳴りつけた。修介さんはすっかり怯えきった様子でペコペコ謝罪した。私が自分の部屋に戻ろうとすると,呼び止められた。 「その服脱げなくていいの?」 修介さんはニヤニヤしながら手招きしている。忘れてた。メイド服が癒着して体と一体化してるんだった。除去作業しないとこのままだ。 「はいじゃあ,あそこ入ってー」 「かしこま……う~」 必然的に,この工程で私は修介さんに全裸を晒す。それが死ぬほど恥ずかしく,屈辱的だった。修介さんの前では私は「人間」だからだ。 仕方なく,私はメイドロボ修理用の機械の中に入った。修介さんのにやけ面に腹が立つ。でも不思議と同時に安心感があった。私に一切人間としての敬意も興味も抱かなかったあの夫婦と違って,修介さんは私に人間の女性としての視線を向けてくれるからだ。そういう視線をありがたく感じる日が来るだなんて,小さい頃は思ってもみなかった。 めでたくメイド服を脱ぎ去り,私は人間に戻れた。機械から出た私は自分の裸体を見つめた。太股には相変わらず,緑色に光る「236」の数字が刻印されたままだ。これは一生除去できない。 「まー,気にしないで。ズボンかレギンスはきゃ見えないから」 修介さんが着替えとコーヒーを持ってきた。私はそそくさと服を着た。 「芽依さん,しばらく休んでいいって。親方が言ってた」 「承知しま……うん」 いちいちメイドAIが返事するのが鬱陶しい。体も動かされるし。全部切ってくれればいいのに。 「それでさ,次の休み,一緒にどっかいかない?」 「かしこまりま……あ,ちょ」 「あ,いまオーケーつったね!」 「はい……いや,これはAIが」 「決まりー!」 修介さんは悪戯っぽくウィンクして立ち去った。このために0パーセントにしなかったのか。もう。ゼロでもオーケーなのに。

Comments

いちだ

久しぶりに堪能させていただきました。 本編で描かれておらず気になっていた食事のところはとても萌えました。 リクエストが OK なのであれば 癒着シーン( 特に髪飾りと手袋)をじっくり見たいです。

opq

感想とご支援ありがとうございます。 メイドロボ化は他の方からもリクエストがあるので,また書かせて頂きます。

Gator

こんにちは。この前購読した韓国のファンです。 翻訳機で 上文を書いているので 言葉が ぎこちない事もあります。 ご了承ください。 とても立派な小説です。 私はこの小説で一気にファンになりました。 主人公は不可抗力で生きているロボットになり、周りの人々は主人公を全く人間として考えません。 とても興奮する素材です。 前作を含め、世界観の設定、進行、構図、性格ともに気に入っています。 私が読んだpixiv小説TOPの中に入ると思います。 これからもこのように主人公が周りの人々から人間ではない特別な扱いを受ける小説があったら幸せだと思います。 小説を書いてくれて本当にありがとうございます. (Translated)

opq

ご支援とご感想ありがとうございます。いたく褒めていただき恐縮です。これからも頑張りたいと思っているので、また機会がありましたらよろしくお願いいたします。