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「やだぁ~、やっぱ可愛いー。改めてよろしくねー、花咲さーん」 「……よろしくお願いします」 私は目の前で顔をにやけさせている巨人に向かって、頭を下げた。不安だ。ペット感覚、流行りのアクセサリー感覚で引き取ったようにしか見えない。でもまだ何もないのに空気を悪くするような態度をとるわけにもいかない。それにこのサイズ差、歯向かう気力なんか微塵も湧いてこない。 十倍。落葉さんは私の十倍もある巨大な生命体なのだ。対して私は身長17センチぐらいの小人。同じ人間だということがどうにも信じられない。理屈ではわかっていても、脳の中の野性が納得しない。怪獣を目の前にした市民のように、私は体を固くして縮こまるしかなかった。大きさというのは絶対的な上下関係のファクターなのだと、身をもって思い知る。それでも入院中はまだマシだった。私のことを気遣う医者や看護師だったから、本能的な恐怖はあろうと、理性の安心もそれなりにあった。しかし今や私の保護者となった彼女は、昔からちゃらんぽらんで飽きっぽい人で、デリカシーもあんまりない。危険な接し方をされるんじゃないかと気が気じゃない。 落葉さんはそんな私の心配など露知らず、いそいそと「会場」を整え始めた。今の私にはベッドより広いテーブルに、人形用の色んな服が並べられている。 (はぁ……さっそくか……) 「花咲さん、どれでも気に入ったの着ていいんだよー」 まるで親戚の子供に服を買ってあげるかのような口調で、彼女はそう言った。仕方がない。何着か着てあげれば満足……するかな。してほしい……。正直、好みじゃない。というか二十半ばを過ぎた女性の着るべき服には見えない……。どれもこれもアニメや漫画のキャラクターの衣装、いわゆるコスプレってやつだ。 大きく見開かれた巨人の目力に圧され、私は仕方なく衣装を手に取った。メイド服……。でもまあこれでも、この中では比較的地味な方。病院でもらった白いワンピースを脱ぎ、私はゴワゴワして肌ざわりも痛い、人形用の服を着た。いや、被った。「服を着ている」という感覚があまりしない。だって着せ替え人形用の服だから、着心地なんて一切考慮されていない。あんまり体にフィットしないし、肌に触れるところはザワザワしてて、箇所によってはチクチクとした痛みすらある。機能性もないから、肩や腰が動かしにくい。破れそう。 (はぁ……) これからずーっと、落葉さんのためにこんな茶番をこなさければならないのだろうか。いい年して人形の服を着てコスプレごっことは……。それもこんなフリフリのやつばっか。なんでこんなことになっちゃったんだろ。 事の起こりは半年ほど前。体が縮む不思議な病気、縮小病。私もその患者の一人になってしまった。どこまで縮むかは人によりけりらしいけど、私はその中でも最悪のケースだった。十分の一。私は17センチの小人になってしまったのだ。入院したてのころ、十分の一サイズの人を見たけど、自分たちと同じ「人間」だとは思えなかった。人形か妖精かって感じ。頭ではわかっていても、感覚がついていかない。違う世界の存在にしか見えなかった。今は私がそっち側。落葉さんには、私が着せ替え人形か可愛らしい小型動物みたいに見えているのだろう。情けないし、悔しい。彼女とは親同士が知り合いで、昔からたまに交流することがあったけど、私は彼女が苦手だった。人の物を平気で使うし、私の事情に周囲が合わせるのが当然みたいな態度を隠そうともしない。昔はなんだかんだ理由をつけて誘いを断っていたけど、うちの親が彼女の両親から借金したあたりから、その辺の上下関係が私たち世代にも持ち込まれた。私は落葉さんに強く出れなくなって、色々引っ張りまわされた。特に嫌だったのは、コスプレの強要。大学生になってからコスプレに目覚めた落葉さんは、ことあるごとに私を引きずり込もうとした。「花咲さん可愛いから絶対似合うって~」とか「私花咲さんの〇〇コス超見たいな~」とか。立場上断り切れなくなって、一度だけコスプレのイベントに付き合ってあげたことがあるが、死ぬほど恥ずかしかったことしか覚えてない。名前もわからないキャラの服を着せられ、あっつ圧メイクを強要され、人前に……。しかもそんな格好を知らない人たちに撮られるのだ。どっかネットに上がったりしたんだろうか。したんだろうなぁ。幸い知り合いにバレることはなかったからいいものの……。 「きゃーっ、かわいいー、こっち向いてー」 メイド服に身を包んだ私を、彼女は興奮して色々な角度から撮影した。この年でノーメイクにメイド服着せても……と思うけど、小さいっていうのは何よりの可愛さのスパイスなようだ。私はもう、一生誰とも対等な存在にはなれないんだろうか。この体じゃ、仕事はおろか、生きていくことさえ難しい。当然、誰かに引き取ってもらい、介護生活を送る運命が待っている。そこで手を挙げたのが落葉さんだった。いや挙げる必要全くなかったんだけどね? 私は退院後、普通に家族に引き取られるはずだった。が、彼女が私を欲しがったがため、今私はここにいる。親が借金さえしていなければ、こんなことには……。多分そうだろうなぁとは思っていたけど、実際にペット感覚で接されると、ショックが大きかった。しかも、一応は昔からの知り合いだった人に。 「ほらっ、じゃあ次こっち!」 私は粗末なメイド服を脱ぎ、派手なアイドル衣装に着替えた。訊いてもいないのに、落葉さんはこのコスの元ネタをベラベラ喋って聞かせた。女児向けアイドルアニメのキャラクターらしい。……女の子向け。 (ああ……何やってんだろ私) いい年して女児向けアイドルアニメのコスプレなんて……。 「スマイルスマイル!」 笑えないよ。しかし私の表情がどうであろうと、彼女は可愛いを連呼して、シャッターを切り続けた。恥ずい。いたたまれない。似合ってないというか、余り見れたものじゃないのは私自身一番よくわかってるから。せめてメイクでもできれば……。もう、それは叶わぬ夢だ。このサイズでメイクはできない。毛の処理だってもう一ヶ月ぐらいやれてないし、今後も難しいだろう。 初日は中々厳しい仕上がりだった。落葉さんに着せ替え人形にされた惨めさもさることながら、その後の夕食の時は「はい、あ~ん」などと幼児みたいに扱ってくるので、ますます自尊心が傷つけられた。そもそもスプーンが大きすぎて、あーんなんてできっこないってのに。 何より大変だったのはトイレ。小さな容器に跨り、私はトイレでも何でもないところで……用を足さされた。チョロロっと小さな音が部屋中によく響き、落葉さんが「ププッ」と噴き出した時、私はあまりの屈辱に目を濡らさないことはできなかった。 病院の時とは根本的に世界が違う。私はもう、普通の人たちからしてみれば対等な生物には見えないのだ。会話できるペット、着せ替え人形……。それを嫌というほど思い知らされた一日。でもあまり彼女を責める気にもなれない。立場が逆だったら、多分私もどこか見下して接していただろう。入院して初期にみた、15センチに縮んだ人。お人形にしか見えなかったもんな。 タオルでできたベッドに寝転びながら、私は今後の暮らしに思いを馳せた。ずっとこんな責め苦が続くんだろうか。仕事も家事も、なんにもできない無力な存在として落葉さんに遊ばれ続ける人生? 気が遠くなりそう。でもまあ、落葉さんだって永遠に着せ替え遊びも続けないでしょ。どうせすぐ飽きる。飽き性だし。何より……私は、人形や妖精のように綺麗じゃない。 翌日になると、落葉さんも熱が冷めたようで、コスプレ撮影会は行われなかった。代わりに、私に昨日撮った写真を見せつけてきた。 (うっ……) そこに映っていたのは、粗雑な人形用の服をまとった、ノーメイクの成人女性だった。肌のケアはおろか、毛の処理すらしていない。私は何秒とそれを直視することができず、顔を背けざるを得なかった。キッツ……。だから嫌だって言ったのに。いや言ってなかった。 落葉さんから見れば私は可愛らしい小動物かもしれない。肌の汚さや伸びた毛なんて、見えないのかもしれない。でもアップで写真を撮ればそれはもう、痛々しい普通の女の写真でしかない。 「おっかしいよね~、昨日はあんなに可愛く見えたのにさ~」 今は可愛くないってこと? 自覚はしてるし、反論する気もないけど、それでもグサッとくる。第一、無理言って引き取ったのはあなたでしょ。まあいい、これで現実を悟って、私を手放してくれれば。 日中も、私はずっとタオルの上でゴロゴロしていた。何しろここは全てが十倍スケールの、巨人の世界だ。そうそう気軽に移動できるものじゃないし、踏まれたりしたら死んでしまう。何よりあのテキトウ人間落葉さんだし、動かないのが一番いい。 しかしジッとしていると、考えることも元気がなくなってくる。頭の中は、あの痛々しい写真のことばかり。別にコスプレなんてしたくはないけど、もうちょっと……なんとかならなかったんだろうか。折り返しとはいえまだ二十代。本当ならまだまだお洒落もして、彼氏も作って、結婚だって……。もうどれもが叶わぬ夢だ。せめて人並みに、年相応に綺麗でありたい。それすら許されないのだろうか。せめて毛の処理ぐらいは……。でも落葉さんにやらせたら毛と一緒に手足が切り落とされそうだ。自分でやろうにも、十分の一スケールで満足に使える道具はない。作ってもらうのも不可能ではないだろうけど、すっごく高くつくだろうなあ。私にそんなお金はない。 この先、引きこもったまま身も心も腐っていくんだろうか。縮んだというだけで、体は存分元気なのに。だからこそ、納得しかねてしまう。治療法が出来ればいいのに。 三日目。会社から帰ってきた落葉さんは、いつになくご機嫌だった。 「花咲ちゃんただいまー。いい子にしてたー?」 「お帰り……」 彼女はビニール袋から得意気に何かの容器を取り出した。化粧品みたいに見える。こっちを見てニヤニヤしているところを見るに、私がらみだ。 「今日ねー、会社でねー」 訊いてもいないが、彼女は「大発見」について語りだした。これはフィギュアクリームという製品で、私に塗るために買ってきたらしい。 しかし話を聞くと驚いた。これは人に塗るものじゃなく、フィギュアに塗るためのものらしい。汚れを分解するナノマシンと、修復機能がついていて、これをフィギュアに塗ればずっと綺麗な状態を維持できるし、折れた箇所も修復できるとか……。 「な、なんでそれを私に!? 私は人間だよ!?」 「んふふ、それはね~」 彼女曰く、これは人に塗っても害はないらしい。それどころか、私のようにものすごく縮んでしまった人間に塗れば、排泄の処理がクリームのナノマシンだけで行えてしまうのだとか……。 「えーっ、う、うそぉ!」 信じられない。汚れを分解するからって、まさかそんな……。 「私もねー、ウンチの後始末とかしたくないしー」 「……」 わ、私だって……。この年で他人にそんな世話させたくない。トイレもお風呂も不要になるっていうのが本当なら、今の私にはとても魅力的な話だ。 (まあ、試してみるだけなら、いいかな……) 「すご~い、カワイイ~!」 (おぉ……) 鏡に映る私は、昨日の写真とはまるで別人だった。いや、別の……まさしくフィギュアのように見えた。落葉さんはきっと、下の世話をやりたくないからこれを塗らせたんじゃない。いやそれもあるだろうけど、一番の理由はこの外見。皴も染みも体毛もない、ツルツルの肌色一色の肌。まるで樹脂のような質感を持ち、光沢すらある。けど、体が突っ張ったりすることはなく、今まで通り、違和感なく動かせる。正直驚いた。ここまで変わるなんて……。 昨日までのみすぼらしい私はもういない。まるでアニメキャラか何かのような可愛らしい顔をした新しい私がぽかんとした表情で私を見つめ返している。肌が綺麗に一色で染め上げられたことと、皴などが全てクリームの下に埋まり消滅したことで、ビックリするほど若く……幼く見える。中学生のキャラクターのフィギュアですって言っても通じそう。いや人間だけど。 これだったら、一昨日の服を着ても映えるかも。いや服の粗雑な作りが強調されてしまうかも……。 「じゃーさっそく!」 落葉さんはノリノリで人形の服を再び並べだした。やっぱこれだ。私をくたびれた同年代の女から、カワイイ着せ替え人形にするためにこのクリームを塗ったのだ。イラっとするけど、でも……悪くはないかも。 ただ難点があるとすれば、胸と股間……。私の胸からは、何故だか乳首が消滅してしまった。正確にはクリームに埋没した。私の乳首を丁度覆い隠せるくらい、胸がボリュームアップしている。クリームが勝手にそういう風に形成されたのだ。フィギュアの修復機能があるんだっけ……。人形に乳首はないからかな。そして股間も。全ての穴が埋まり、何一つ凹凸のない、のっぺりとした股間。私の小さな排泄は全てナノマシンが処理してくれるらしいけど……。駄目だったらどうしよう。 そんなことを考えている間に、私はアイドル衣装を着終わった。髪飾りからブーツまで、一式全て。落葉さんが「カワイイーッ」とお決まりのセリフを吐きながら撮影している。その写真を見せてもらうと、そこには照れくさそうにはにかむアイドルのフィギュアが映っていた。 (えっ、うそ……これが私!?) 写真の中で微動だにしない私は、まさにフィギュアそのものだった。誰もがこれをフィギュアの写真だと思うだろう。人間だなんて発想もしないに違いない。私はちょっと怖くなってしまった。まるで魔法でフィギュアにされてしまったかのように思えて。 「ほら、次これね」 「あっあの、私もう……」 いくら見た目が幼くなったとはいえ、私が二十半ばの成人女性であることは変わらないわけで……。こんなフリフリの少女趣味な服ばかり着るのは辛い。それに加えて、どことなく着せ替え人形になることへの反発も抱くようになった。あの樹脂みたいな質感の体……。私は人間なのに。 しかし十倍の差があっては、逆らうことも逃げることもできない。面倒を見てもらっているのと親の借金の負い目もあり、私はきっぱりと強く断ることができず、結局は言われるがままに、キラキラしたコスプレ衣装に次々袖を通す羽目になった。 それから一週間。生活はかなり快適になった。やっぱ私も女だ。見た目が綺麗になったおかげで、大分気持ちもよくなってきた。それに、トイレに行かなくていいというのもすごい。落葉さんに下の世話してもらうのホントにキツかったからなあ……。 色々服を着せられてポーズをとらされるのは相変わらず恥ずかしいけど、まあ見てるのも落葉さんだけだし、何とか自分を抑えて耐えられた。新生活はそこまで最悪でもないかも? と思った翌日のことだった。私の髪がピンク色に染まっていたのだ。 「え? え? えーっ!?」 それに気づいたのは撮影会の写真を見せられた時。チア衣装とよく馴染むピンク色の髪をした私が映っている。クリームのおかげで、フィギュアの髪みたいな一塊となっている。といっても見た目だけで実際に触るとサラリとわかれる。不思議な状態になっている。だから気づけなかったのだ。常時バチバチセット状態みたいなもん。視界に毛先が入ってこない。 「こ、これどういうこと!?」 「んふふ、それはね~」 私は落葉さんの話を聞きながら、段々顔が青ざめた。原因は、昨日私にジュースだと言って飲ませたピンク色の液体。あれはペット用の遺伝子染色剤だったらしい。小型動物の遺伝子を書き換え、カラフルにしたり、世話の手間を省けるように改造したりする用途で使う。効くかどうかわからなかったから、試しに体毛のやつを投与してみた、と恐ろしいことを笑顔で語る。 「ちょ、ちょっと……ふざけないでよ! よくもそんなもの……もしもおかしなことになったらどうするの!?」 遺伝子の書き換えなんて、そんなデリケートなことを本人の許諾もなしに……。しかも遺伝子そのものが変わってしまったせいで、私は「地毛がピンク」というありえない状態に改造されてしまった。ただの染髪とはわけが違う。しかも、よりにもよってピンク。この年で……。恥ずかしくて外に出られない。元々出られないけど。あーでも見た目は若い女の子のフィギュアみたいになってるから、そう思えば違和感は……じゃない! 私は人間なんだから! ペットでもフィギュアでもないの! 猛抗議しても、落葉さんは「ごめんごめ~ん、次から言うからさ」などと、全くわかっていない返事をするばかり。結局、私の方が疲れ果て、抗議タイムは私の一方的な敗戦で終わった。ピンク色の髪をした17センチのフィギュアがいくらすごんでみせても、まるで迫力なんて感じられないのだろう。あぁ……。遺伝子染色はかなり危険な薬品なので、すぐに黒に戻すというのも難しいらしく、私は当面ピンクのままで生活することになった。 (うう……最悪) ピンクになったことよりも、落葉さんが私をハムスターか何かのように見なしているのだという事実が結構ショックだった。このクリームのせい……だろうか。生気っていうやつが感じられないもんね。ジッとしてるとホントにフィギュアにしか見えないし。トイレにもお風呂にもいかなくなったのも、私を人形視することに拍車をかけたかもしれない。でも……だからといって、私はこのクリームを落としたいとは、まだ思わなかった。何だかんだ便利だし、綺麗でいるのはやっぱり嬉しいもん……。 しかし、なんだかんだ許されたと思わせてしまったのか、落葉さんはとんでもないものを私に飲ませた。食事をしなくていい遺伝子。小さい小さい小型動物に限り有効らしい遺伝子染色。それを聞かされた時、私は恐怖で震えた。ペット用の製品で玩具のように改造されていく私。落葉さんは人のことをなんだと思ってるわけ。 「これでまた便利になるでしょ~?」 冗談じゃない。トイレと一緒にされちゃ困るよ。ずっと引きこもってる私にとって、食事はただ一つの楽しみなのに。 泣いて抗議すると、落葉さんはようやく申し訳なさそうな表情を浮かべて謝った。かといって、もう飲んじゃったものは戻せない。 翌日から、私はお腹が空かなくなった。食欲が出ない。飲み食いしなくていい。楽っちゃ楽だけど、もうコレ生きてるって言えるの!? 食事もとらず、トイレにもいかず、お風呂に入らなくてもずっと清潔……。人によっては天国かもしれない。でも、私は自分が人間でなくなってしまったように思えて、日々鬱屈とする気持ちを晴らしきれなかった。こんなことがあってもなお、落葉さんは私にコスプレショーを強要してくるし……。むしろ前より押しが強くなったような。落葉さんはレイヤーだからコスプレすれば楽しくなるのかもしれないけど、私は違う。コスプレなんて恥ずかしいと思ってるから、そんなものを巨人に押し付けられてもストレス発散にはならない。しかし彼女からしてみればきっと謝罪であり罪滅ぼしなのだろう。コスプレはますます本格的になっていった。 「なにこれ?」 「これはね~」 私の隣にデンと置かれた大きな機械。透明な円柱状の容器が中央にはめ込まれている。落葉さんはそれを外し、中に裸の人形を入れてから装置に戻した。 彼女によると、これは人形にピッタリと合うサイズで服を作る機械らしい。スイッチを入れると、容器の中はあっという間にカラフルなシャワーで満たされた。ナノ繊維が人形の体に沿って張り付き、ジャストフィットする服を作ってくれるのだという。 完了後、裸だった人形は綺麗なセーラー服を身につけていた。 (いや……でもこれ、服?) これ、フィギュアのプリンターなんじゃないの? 形成された服は、一切布の質感がない。樹脂の塊って感じ。フィギュアの衣装部分みたいだった。触ってみてもそんな感触。でも不思議と動かせる。 「さーっ、じゃあ次は花咲ちゃんの番ね」 「えっ?」 落葉さんの大きな手が私をつまみ、抵抗する間もなく私は容器の中に入れられてしまった。 「ちょ、ちょっと! 出して! 私やるって言ってないじゃん!」 ドンドンと壁を叩いて抗議しても、すぐに容器がセットされてしまった。焦った。これ、人間に吹き付けて大丈夫なやつなの!? ちゃんと確認したの!? スイッチが入れられ、さっき外から眺めた繊維の嵐が私を襲った。 (ひっ!) もうどうしようもない。私は目を閉じ、嵐が過ぎ去るのを待った。全身にピチピチと薄い何かが張りついてくるのがわかる。私の全身を染め、覆いつくしていく。願わくは変な服でないことを祈るばかり……。 「ううう……」 「やーっ、すっごーい! カワイイぃー!」 私の祈りは届かなかった。私は髪の先からつま先まで、余すところなく全てを魔法少女にされてしまった。日曜朝にやっている子供向けのやつ……。この年でこんな格好を。しかも、粗雑な薄い布ではなく、ガッシリと作られた樹脂製みたいな質感の服なせいで、本気でコスプレしてます感がやばい。わ、私、好きでこんな格好してるんじゃないし……! 大きな白いリボンが作るツインテール。縮んでから髪を切ってないせいで、アニメキャラみたいに長い。ピンク髪と相まって、すごい再現度をみせてしまっている。白とピンクで構成されたドレス。ブーツ。肘まで覆う長手袋。その全てが一切の隙間もなく、私の肌にピタリと張り付いている。だけど、手足や腰の動きを阻害することなく、滑らかに動かせる。固い樹脂みたいな見た目をしているのに。不思議。まるで皮膚みたい。 「やっぱりぃ、今の花咲ちゃんにはぁ、フィギュアっぽいのが似合うよね~」 (……っ) そう、一番恥ずかしいのはそれ。フィギュアクリームで樹脂みたいな質感になっていた私に、このナノ繊維の衣装は合いすぎていた。本当に、最初からこの形で造形された魔法少女フィギュアにしか見えないのだ。 (もういやっ!) せめて、ぶりぶりなツインテールだけでも解こうとリボンに手を伸ばした。が、どうしてもリボンがとれない。髪にしっかりとくっついて、中々……。いや、これくっついているっていうか……。隙間が全くない。できない。髪と一体化してるんじゃないかってくらい。手袋やブーツも同じだった。肌との合間に一ミリの空間もない。まるで私の皮膚がこういう形になってしまったかのごとく、体とフィットしすぎていて脱げない。 「ちょ、ちょっとこれ……」 私がまごついている間に、落葉さんは見慣れないタブレットを携えていた。安っぽいピンクのプラスチック製で、まるで子供の玩具みたいな……。 「えいっ」 突然、体が気をつけの姿勢をとった。両足を閉じ、両手も真っ直ぐ下に伸ばす。そのまま、プルプルと震えることしかできない。 「……っ!?」 口も動かない。んー、んーと呻くのが精一杯。次の瞬間、両腕が真っ直ぐ上に伸びた。万歳だ。 「あっ、すごーい」 落葉さんが愉快気に笑った。 (ちょ、ちょっと、私に何をしたの!?) あれよあれよという間に、手足が勝手に動いていき、私は何かのポーズをとらされた。あざといぶりっ子みたいなポーズ。それを崩すこともできずに維持させられ続ける。滅茶苦茶恥ずかしい。しかも、ついに表情まで私の意志を無視して動き出し、しばらく覚えのないとびっきりの笑顔を作らされた。 (やめてっ、やだっ) 「はいっ、ポーズ」 落葉さんがそう言ってタブレットを叩いた瞬間、全身が硬化して身動きがとれなくなった。 (……な、嘘……!?) さっきまでとはまるで違う。さっきまでは体が別の力に操られていて、上手く動かせないって感じだったけど……。今は文字通り、動けない。指先からつま先まで、全てが石にでもなったかのように固まり、微動だに出来ない。まるで時間を止められてしまったかのよう。 魔法少女のコスプレ姿で、満面の笑みを浮かべて、可愛くポージングしたまま固められる……。こんな屈辱的なことがこの世にあるだろうか。落葉さんは興奮しながら写真を撮るばかり。 (せ、説明して! 一体なんなの!?) いつもは聞かれてもいないことをベラベラ喋りだすくせに、こういう時は何も言わないんだから嫌になる。体を操られた屈辱、動けないことへの本能的な恐怖と戦いながらも、私は笑顔でポージングしていることしかできなかった。 「……でね、つまり、このタブレットはコントローラーなの。お人形の」 「……な、なんでそれが私に有効なのよ!?」 「さあ? でもいーじゃない、そんなことは」 よ、よくないよ。話によると、だってそれ、子供のための玩具なんでしょ? そんなものに私の体が完全に操られるなんて絶対おかしいよ。こんなの……。 落葉さんがタブレットを叩くと、再び私の体が私のものではなくなった。 「……!」 信じられない。あんな安っぽい玩具にコントロールされるなんて。意味が分からない。だって私は人間だもん。玩具の人形じゃない。一体どうなって……。 私の葛藤をよそに、落葉さんは次々と私に可愛らしいポーズをとらせては、一切の身動きが封じられる「ポーズ状態」にしては撮影した。 (こ、この……っ。覚えてなさいよ……) これまでのコスプレごっことは比べ物にならない恥ずかしさだった。やたら出来のいいナノ繊維衣装に、一切の恥じらいを感じさせない全力のポージング、屈託のない笑顔。誰がどう見ても、ノリノリでやっていると思うに違いない。それがたまらなく悔しかった。 ようやく撮影会が終わっても、地獄は終わってくれなかった。落葉さんが部屋から出るとすぐ、私はこの恥ずかしい格好を脱ごうとしたが、やっぱり脱げない。体にしっかりと張り付き、どうにもならなかった。ボタンもファスナーも、何もない。 (ちょ、ちょっと、コレどうやって脱ぐのよ……) 悪戦苦闘していると、戻ってきた彼女が告げた。 「あ、それね、専用の溶剤で溶かすのよー」 「へっ!?」 その言葉の意味がしばらく飲み込めず、私は茫然とした。それって裏を返せば……脱げないってこと!? 「ちょっとふざけないで! 脱がして!」 「えーどうして? こんなに可愛いのに?」 「こ、こんなの私の歳でするカッコじゃないでしょ!」 「もー大丈夫よ。絶対みんなカワイイって思ってくれるから」 「あのね……って、ん? ……みんなって?」 まさかまさか、私のコス写真誰かに見せてるの? 「私もねー、色々考えたんだー」 「?」 「やっぱさ、ずっとお家に籠ってたらよくないよね。だから花咲ちゃん、ずっとご機嫌斜めなのよね」 「……?」 それは……それもあるけど。散歩にでも連れて行ってくれるの? でも17センチで外を出歩くのも危険だよ。出たいけど……。いやまずはこのイカれた服を脱いでからだよ。こんな格好で外を出歩いたら大恥かくことになる。 「私にまかせて」 落葉さんは不敵な笑みを浮かべて私を見下ろした。 (やめて! お願い! 今すぐしまって!) 「へー、これ、プリガー?」 「懐かし~、昔見てたな~」 「娘が好きなのよね~、うちは見せてなかったんだけど幼稚園で……」 私は耳まで真っ赤に染めて、とんでもない恥辱に身を焦がしながら「みんな」の言葉を聞いていた。落葉さんは私を決めポーズに固定して、動くことも喋ることもできない本当のフィギュアに変えてしまった。あろうことか、その私を会社のデスクに持ち込んだのだ! (や、やめ……お願い、見ないで……) クリームで覆われた私の顔は、決して赤く染まって見えることはない。肌も衣装も、同じ樹脂の質感を持っている。社内の誰もが、私のことをただのフィギュアだと思っているだろう。それが救いでもあり、同時に屈辱でもあった。私の中でフィギュア扱いされることへの悔しさと、人間だとバレたくない羞恥心がせめぎ合っていた。 もしも人間だってバレたらどうしよう。いい歳して魔法少女のコスプレをしてフィギュアのフリして会社に来るなんて……非常識というか変態が過ぎる。絶対にバレたくない。 その時、男性社員が私を掴み、スカートの中を覗いた。 「へー、よく出来てますねー。いくらしたんすか?」 「内緒ー」 (ばっ馬鹿! そんなとこ見ないでよ! 下ろして! 私はフィギュアじゃないのよっ、売ってなんかないんだから!) 私の股間にはパンツがない。ナノ繊維で作られた魔法少女衣装はレオタード型だったからだ。真っ白に染まった何もない股間。それを男性に見られるのが死ぬほど恥ずかしかった。 机上に戻され、周りが仕事に戻り始めてもなお、私の羞恥心は衰えることなく膨れ上がり続けた。周りはみんな真面目に仕事を、それも至って常識的な普通の服装でこなしている中、私一人がコスプレをして可愛くポーズなんか決めちゃっている。このギャップがますます私を煽り立てる。 (どうしてっ、どうしてこんなことをするのよっ) 喋ることもできないので、私は落葉さんに文句を言うこともできない。ただ笑顔でポーズを決め続けるだけだ。 昼休みになると、他のフィギュアと並べて比べられた。他にもオタクの社員がいたらしい。 「す、すごい出来ですね……。どこのですか?」 「な・い・しょ~」 自慢げに微笑む落葉さんの一挙一動に私は苛立った。私はあなたのフィギュアじゃない! そしてオタク社員の本物のフィギュアと並べられているのも惨めだった。私は生きた人間なの。樹脂の塊なんかじゃないんだから、一緒にしないでよ! 家に帰ってから問いただすと、落葉さんはケロリと 「だって、自慢したかったんだもん。ウチの花咲ちゃんはこんなにカワイイんだよって」 と答えるのだから呆れた。そんなことのために、私を何時間も固めっぱなしにして羞恥プレイを味わわせたの!? 「とっとにかく! もう二度としないでね! 早くこの服も脱がして!」 「え~、もったいない……」 彼女はごねたが、何とか私は明日から止めさせることを約束させた。二度と御免だ。 「おはよー」 「おはよ……っ!?」 翌日。とんでもないことが起きた。落葉さんが部屋に入ってきた瞬間、私の体が独りでに動き、可愛くポーズしたのだ。 (えっ……な、なにこれ……!?) 私は慌ててポーズを解いた。でも、手足は伸ばしたバネみたいに、可愛いポーズに戻ろうとつっぱっている。私は一生懸命それを抑え込まなければならなかった。 「ねえねえ! 今の何!?」 落葉さんは高速で食いついてきた。くそっ……見られちゃった。 「な、何でもないよ。体が勝手に……」 「なーんだ、やっぱり花咲ちゃんも気に入ってたんじゃない。んもー照れ屋さんなんだから」 「ちがっ……」 すぐに落葉さんがタブレットで私を縛った。ずぼらなくせに、こういう時だけ行動が早い。再び昨日と同じポーズを笑顔で強制された私は、そのままカチンコチンに固められてしまった。 「今日も一緒に会社いこうね~」 (い、いや! やめて! 元に戻してぇ!) ポーズ状態にされてしまった私は、嫌がる意思表示すらできない。心からの笑みを浮かべて全力でポージングする、本気のコスプレイヤーにされてしまっている。そしてその醜態を、普通の人たちのただなかで晒されることになるのだ。 (お願い、やめてぇ) 願い空しく、私は今日も会社に運ばれ、落葉さんのデスクを彩るフィギュアとして働かされる羽目になった。昨日よりは注目度が低いとはいえ、社内でこんなコスプレをしたままコチコチに固められるのは辛かった。 体の暴走はその後も続いた。落葉さんがいると、何故だか私は可愛くポージングしてしまうらしい。自分で抑えるにはかなりの力が要った。しかし落葉さんに見られると大抵「我慢しなくていいのに~」とか「わかってるからもう、照れ屋さん」などと言いながらタブレットでポージングを完成させ、そのまましばらく私を固めてしまうのだ。彼女は、私もすっかりコスプレが大好きになってくれたと勘違いしているらしい。 (そんなわけないじゃないっ!) 心の中で叫んでも、体はうんともすんとも動いてくれない。可愛らしく微笑み、可愛くポーズをとり続けることしかできなかった。こんなの絶対おかしいよ。タブレットで操作してもないのに、体が勝手にポージングをとるなんて。何かの病気……いやでもこんな病気ってある? それにこの魔法少女のコスプレ姿が脱げない間は、恥ずかしくって病院なんて絶対にいけない。私は体が変だから、調べて欲しいと落葉さんに言ったが、照れ隠しだと思われ、真剣に受け取ってもらえなかった。どうしてわかってくれないのと憤慨したが、一週間以上続くと、流石に客観視もできてきた。視界に入れる度に笑って可愛くポーズする17センチの生きたフィギュア。ただのツンデレだと思われるのも仕方がない……かもしれない。 「おはよー」 「……」 とうとう、身動きがとれなくなった。落葉さんがいると、私は勝手に可愛くポージングするどころか、ポーズ状態に移行してしまう。体が全く動かない。落葉さんが解除の操作をしてくれない限り、私は本物のフィギュアとなってしまう。 (た、助けて。動けないの。勝手に固まっちゃって……) 最初は解除してくれていた落葉さんも、面倒なのか次第に解除操作をしなくなってきた。あのずぼら女。要らない時に積極的で、こういう時は消極的になる。 (本当に、なにがどうなっているのよ……) その答えは、「衣替え」の時にようやく判明した。私の魔法少女衣装が溶かされた時、私はクリームの説明書を見せて欲しいと頼んだ。そこには恐ろしいことが書かれていた。学習機能。クリームに配合されているナノマシンは、汚れを分解するだけではなかったのだ。繰り返した動作を学習し、次第にタブレットなしでも動くようになりますと書いてある。人間のはずの私が、あのタブレットで体を操られてしまうこと、落葉さんがくるとポージングして固まってしまうこと、全部これのせいだったのだ。 「落葉さん、コレ! コレだよ!」 「準備できたよー」 落葉さんが振り向いた瞬間、私はぶりっ子ポーズして固まってしまった。声が出ない。 「もう、気が早いんだから」 彼女はタブレットで私を気をつけの姿勢に変えて、ポーズ状態を解かないまま透明な容器に入れてしまった。また脱げない服を着せられてしまう。やっと脱げたばかりなのに。体の異変の原因もわかったのに、これじゃ伝えられない。 「いくよー」 カラフルな繊維のシャワーが再び私を襲った。たちまちのうちに体が白く染め上げられていく。私はピクリとも動けず、凍り付いた笑顔で虚空を見つめていることしかできない。 (どうしよう……) 私のクリームの学習結果はかなり強化されてしまっている。解除されても、また落葉さんに見られただけですぐ固まっちゃう。これじゃあそのうち、一切身動きがとれなくなって、正真正銘のフィギュアに……。いやっ、そんなのイヤ! 「やーん、クルミちゃんキレー、素敵ー」 私に与えられた新しいコス。ミニスカートのウェディングドレス。フリルやリボン満載で、かなり恥ずかしいデザイン。これもやはり、何かのアニメのキャラらしい。落葉さんが最近ハマったのだ。私は見てないけど。これがまたしばらく私の肌となるのかと思うと憂鬱だ。いやもう問題はそんなところじゃない。動けないんだよ。大問題だよ。 (落葉さん、私の話を聞いて。お願い) 幸い、落葉さんはすぐにポーズ状態を解除してくれた。今だ。 「あのっ、クリーム……!」 だが、希望は潰えた。私の口はすぐに閉ざされ、手足が独りでにあざといポージングを決めて、次の瞬間、全身が硬化して動けなくなってしまったのだ。 (そんな!) ほとんど、いや全く自由な時間がなかった。わ、私、もう落葉さんの前じゃ動けないってこと? それじゃあどうすればいいの。話もできないなんて。 (落葉さん、変だと思わないの!? 助けてよ!) 「もうっ、そんなに嬉しかったの?」 落葉さんはコンコンと私を突いた。だ、駄目だ……。私が自分の意志で可愛くポーズして固まってると思ってる。そんなことあり得ないってわからない!? あぁ、落葉さんはコスプレ好きだから……私もそうだと思っちゃうのかな……。 彼女は丹念に撮影してから部屋を出ていった。だが、私は動けない。ポーズ状態を解除してくれない限り、私は完全な人形と化したままだ。 (んんっ、うう……) ダメ。どんなに頑張っても、どうにもならない。筋肉の筋一本も動いてくれない。私の体は均質な樹脂の塊なんじゃないかって気がするほど。芯までカチンコチンだ。このクリーム、なんとか落とせないんだろうか。体さえ動けば。落葉さんと話さえできれば。 そんな私の思いも空しく、フィギュアとして生きる日々が過ぎていった。全く動けない。私は落葉さんの部屋を、会社のデスクを彩るフィギュアとして飾られ続けるだけの生活を送った。もう彼女と数週間会話してない。本当にこれでいいと思ってるの? 私と話せなくて、その……寂しいとか思わない? 死んでるかもって心配したりしないの? たまにポーズ解除されても、私の体が勝手に次のポージングをして固まってしまうので、全く助けにならなかった。ポーズ解除というか、ポーズ変更だ。 動くことも喋ることも出来ない私には、考えることしかできない。それだけが私の生きている証だった。とはいえ、私がモノを考えていることなんて外からは見えないわけで……。誰がどう見ても、ただのフィギュアにしか見えないんだろうな。会社に飾られても、誰一人人間だなんて気づかないし。 私、どうなるんだろう。このまま一生、落葉さんのフィギュアとして生きるの? どうしてこんなことに……。引き取られてからのことを思い出す。そういえば、落葉さんにはずっと文句言って抗議して……そればっかりだったな。私と話せなくなってもあまり問題はないのかもしれない。いやでも……でも、落葉さんが私に色々変な改造ばかりするから怒ったんだよ。そうでなかったら、もうちょっと……。 今日も体は動かない。一体どこで間違えてしまったのか、最近はそればかりを考える。もっと早く……。自由な時にコスプレを受け入れて、ノリノリで付き合ってあげたりすれば、違ったのかな。いや、この人に引き取られるのを、断固拒否してさえいれば……。 そんな後悔に狂いながら、私は笑顔で可愛くコスプレイヤーを演じ続けた。明日も、明後日も、そのまた次の日も。

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