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地球を襲う謎の怪現象。

空や海や地底、そして宇宙から襲ってくる怪獣超獣宇宙人。

地球を守れるのは、太陽の力を授かった戦士。

エクセルガールしかいないのだ。

戦え、我らのスーパーヒロイン!


「とんだひな祭り」


時はそろそろ三月。

梅の花が咲き、もうじき春の足音が近づこうとするうららかな日だった。

そんな中、放課後の補習授業中の真梨香を祭さちゅいは、諸星学園の中庭ベンチで休憩していた。


唯「もうじきひな祭りですね。」

理沙「そうね。もうそんな時期なのね。」


もうじき桜が咲くかな、って感じの風景に、二人はのほほんとした顔でくつろいでいた。


唯「ひな人形、いつまで出してました?」

理沙「うーん、中学生くらいかしら?」

唯「ひな祭りと言えば、雛あられや甘酒ですよね。」

理沙「・・・。」



甘酒。

それを聞いた途端、理沙の顔が一瞬こわばった。



唯「え、どうしました?」



あんか理沙がものすごく真面目な顔になる。

え、何か変なこと言ったかな、と思った唯。

だが。



理沙「私、お酒が嫌いなの。」

唯「へ?」



理沙が、真面目な顔でそう言った。



唯「お酒?嫌い?」

理沙「うん。私、医者の娘でしょ?実は昔から、あのアルコールの臭いが嫌いなの。それに、お酒に酔って暴れたり倒れる人をずっと見て来たから。私は絶対、お酒は飲まないようにしようって、決めてるのよ。」

唯「あ、いや、でも。」

理沙「ええ。お酒は二十歳になってから。二十歳になっても、私は飲む気はしないけどね。」

唯「あ、でも……。」



ついでに、と言わんばかりに理沙はふぅっと息を吐く。



理沙「それにね。私、昔、甘酒で酔ったことがあって。」

唯「え、甘酒で?」



アルコールがほとんどない甘酒で?

唯はさすがに、目の前の完璧超人の恐るべき弱点を聞いてびっくりしていた。

胸はデカいウエストは細い尻は安産型。

頭脳優秀性格完璧、そんな彼女が。



唯「そ、そうなんだ……。」

理沙「ええ。唯さんも、飲むなとは言わないけど、気を付けてね。」

唯「あ、はい……。」



ものすごくマヌケな弱点。

これが、今回の事件の起爆剤であることを、まだ誰も知らない。



・・・。



それと同じころ。

街に突然、巨大な怪獣が現れた!



理沙「?!」

唯「え、なに?!」




その怪獣は。

ひょうたんを手に持ち、且つ地面を引きずって。

緑色の体に赤い腹。

金色の角、

そして、赤い鼻。



唯「・・・な、なに、あの変な奴・・・?」



宇宙怪獣ベロンは、何よりもお酒が大好き。

大酒をくらって酔っ払った挙句の果てに、迷い込んだところがこの地球というわけだ。

体重2万3000トンのベロンに迷い込まれたら、村松町の人こそいい迷惑だった。



そんな怪獣ベロンが、ふらふらと千鳥足で街を破壊していく。

無論、事故のようであるが。


それでも、口から火を吐いたり「酒をよこせ」と暴れだし、最終的にはその場にへたりこんでしまった。



唯「じいちゃんどういうこと!?宇宙怪獣が来たんならレーダーに反応があったんじゃないの?!」



その唐突且つ衝撃的な事実に、唯は軽く怒りつつ幼なじみの祖父に連絡。

宇宙怪獣の導坑くらいは、彼の作った高性能レーダーで感知できるはず。

なの、だが。



源五郎『それがわしにもわからん!?突然奴は現れた。わしのレーダーに引っかからず地球まで来たのだ!』



と言いつつ、彼も研究所でてんてこ舞いだった。



唯「え、ウソでしょ!?」

理沙「とにかく、どんな怪獣でも、破壊活動を行う奴は許せないわ!」



理沙は慌ててエクセルブローチを胸にセット。

エクセルガールリサとなって、ベロンに対峙した。



理沙「やめなさい!」



離散言葉に耳を傾けたベロンは、そっちを向いた。

すると。



理沙「っ?!」



猛烈なアルコールのにおいが、理沙の鼻に届いた。



理沙「こ、コイツ、お酒に酔ってるの!?」



先ほどの会話の通り。

理沙の顔が、しかめっ面に変わる。



理沙「コラ!貴方、宇宙広しとはいえ、お酒を飲むなんてやめなさい!」



そんな小言は聞く耳持たず。

ベロンはすぐさま、どろんと煙に紛れてどこかへと消えていった。



理沙「消えた……!」




・・・。



ベロンが消えたのと同じころ。

唯は理沙を追って町へ歩いてきたのだが。

そこで。



唯「あのー。」

『わひゃ!?』



そこで。

猫耳をかぶったような、白猫みたいな人間型宇宙人4人と出会った。



唯「あ、あなた達は・・・?」

『僕らね、宇宙人。』



なお、宇宙人は女性。



唯「何しに来たの?」

『ベロンを追って。』

『追って。』

唯「ベロン?ベロンって、あの怪獣?」

『ベロン、宇宙に連れ帰る。手伝って』

唯「え、連れ帰るって?」

『ベロン捕まえないと、僕ら帰れない。手伝って、手伝って。』

唯「あ、いや、でも……。」



宇宙人がいるとはいえ、自分一人じゃさすがにきついだろう。

それでもフレンドリーに懇願する宇宙人に、唯は戸惑う。

そう顔に出ていたのか、この星人は続けた。


『大丈夫、作戦、ある。』

唯「え、作戦?」

『ベロン、お酒、好き。』

『音楽、好き。』

『踊り、好き。』

『ベロン、お酒飲む。踊り踊る。いい気もいtになる。寝てしまう。』

唯「寝込んだところを捕まえるってわけ?」

『お願い、お願い。』

唯「し、仕方ないなぁ・・・。」



唯はとりあえず、胸のバッヂで連絡を取った。



・・・それからしばらくして。



理沙「・・・なるほど、話は分かりました。」

唯「やってくれますか?」

理沙「瀬里亜さんはインフルエンザ。真梨香は未だ補習も終わらない。私がやるしかないでしょ?」



目の前で困ってる善良な宇宙人を見過ごすわけにはいかない。

とはいうものの。

「怪獣に酒を飲ませて酔いつぶさせる」という作戦そのものには、ものスっごく嫌な顔していた。

普段とは全然違う彼女の一面。

写真に撮りたい。

唯はデバガメ魂に火が付きそうだった。



『この近くのお酒、狙われる。』

唯「確かこの近くに、お酒の工場があるはずです。」

理沙「じゃあ、そこへうまく誘導するわ。唯さんたちは避難を」

唯「はい。いくよ、ファイル星人の皆さん。」



猫耳宇宙人、通称ファイル星人の4人は唯に連れられ、とりあえず非難を始める。

だが。



『来た!』

唯「え、もう?!」



予定よりも早く、ベロンがその酒造工場へとやってきた!



理沙「も、もう来たの?!」

唯「ほら、急いで逃げるよ!」



唯はそれを見て、鳴れたようにファイル星人と共に避難する。

それを見て。



理沙「今度は逃がさないわ!エクセルチェンジ!!」



理沙は変身し、再びベロンに対峙する。



理沙「さぁ酔っ払い怪獣、おとなしく宇宙へ帰りなさい!」



だが、ベロンはそんな理沙に目もくれず。

酒造工場から酒をひょうたんへ汲み取っていた。



それを見て。

理沙が、軽く怒った。



理沙「こら!!」



そう言って、ベロンの尻尾を踏んだ。

それを受けて、ようやっと理沙がいたということに気付いたベロンが、理沙の方を向いた。



理沙「来る!」



直後、酒組を邪魔されたベロンは突進。

いきなりの猛スピードに追いつけなかった理沙は吹っ飛ばされる。



理沙「ぐっ?!」



すぐさま立ち上がり、二度目の突進を回避する理沙。

だが、ベロンはそれによって自分から大きな酒樽に顔を突っ込んだ。

もちろん、ベロンはこのままごくごくと酒を飲み始める。



理沙「くっ、だから酒飲みは嫌いなんです!」



急ぎけりをつけようと、こうなれば凍らせて酔いを醒ませてやると思った理沙はエクセルフリーザーの準備を始める。



理沙「これで!」



そして一歩、ベロンに近づいた。

しかし。


その足音に気づいたベロンが、酒の海から急に顔を理沙の方に向けた。



理沙「えっ?!」



突然こっちを見たマヌケな顔に、理沙は一瞬隙を見せてしまう。

その隙に、というかおそらく偶然に、酒をたらふく飲んだベロンは口から酒臭い息をげっぷのように吐き出し。

ベロンの口から放たれた赤く濁った息が、理沙を覆う!



理沙「うわっ、臭い臭い!?」



理沙はそれを振り払うため腕を使ってしまい、エクセルフリーザーの発射は完全に中断された。

ヒドイ攻撃を暗い、怒る理沙。



理沙「こ、この、もう容赦は……!」



怒って拳を振り上げる理沙。

だが。



理沙「・・・?!」



理沙の目が、ぐにゃりとゆがむ。

そして。



理沙「ど、どうしたのかしら……。顔が、熱い……!」



振り上げた腕をだらんとおろし、理沙はその場でふらつき始めた。



理沙「目もぼやけて……一体、私は……?!」




ちょっと離れて戦闘を見ていた唯たちも、異変に気付いた。



唯「あれ、理沙さん、どうしたんだろう?」

『ベロン、お酒ばっかり飲んでる!』

『アイツのげっぷも、薄いお酒と同じ!』

唯「・・・え?」



嫌な予感がする。

唯の目に映る理沙の顔は、

ちょっと赤くなっていた。



理沙「くっ、こんなことで!」



だが理沙本人は、自分に変に気付いていないようで。



理沙「いきます!」



ベロンに突っ込んでいった。

いつもの彼女なら、そんなこと絶対しないのに。

唯のほほに、冷や汗が流れた。



さらに、悪い予感が当たって。



無防備に突っ込んだ理沙に、今度はベロンが構えたひょうたんから再び何かの煙を噴射した。



理沙「わぷっ?!こ、今度は何?!」




『ベロンのひょうたんは、お酒を熟成する特殊なひょうたん!』

『その中で熟成されたアルコールは、濃度3倍!』

唯「じゃあ、あの煙は・・・?!」

『どんな人間でも一発酩酊の、アルコールガス!』




聞きたくもない事実を聞いて、唯、絶句。

理沙もさすがに、何を浴びているのかわかっている様子。



理沙「わ、私は、お酒が嫌い!お酒になんか、お酒になんかああああああ!!!」



故に抵抗しようとするのだが、彼女はすでにほろ酔い状態。

正常な判断ができるはずもなく、ほとんど棒立ちの状態。

彼女の絶叫が、空に響いた。




・・・。

理沙の声がやむのと同時に、ひょうたんの煙も切れ、周囲に静寂が訪れた。

ベロンはじっと動かず、理沙も煙に包まれている。

そして。


理沙「・・・ひっく。」



永遠に感じられた静寂が、青き戦士の間抜けな声で破られた。



煙が晴れていき見えた理沙の異変・

顔、真赤。

目、焦点があってない。

体、ふらふら。


理沙「―――ふへへぇ、酔っ払っちゃった~。」


有体に言えば。

完全に出来上がってしまった。



理沙「うぅんいい気分・・・。なんだかからだが、ふらふらするぅ・・・。」



右へふらふら、左へふらふら、完全に泥酔してしまった理沙はその場でステップでも踏むようにもたもた踏んだのち。



理沙「あーはぁ~・・・。」



仰向けに、そのまま大地に倒れ伏してしまった。

しかも、カラータイマーまで点滅を始めるタイミングの悪さ。

先ほど一度変身したために、エネルギーは完全ではなかったのだ。



『そのまま倒れ込んだ!』

『酔っ払った!』

唯「や、やばい……ヤバいヤバい!!」



この緊急事態を見て、ファイル星人はよくわかってないように声をだし、

唯は頭を抱えて叫んだ。



唯「真梨香ちゃんはまだ補習!瀬里亜はインフルエンザで動けない!この状況でどうやってあの怪獣を止めるっていうの!!?」



そう叫びつつ、おっきいまま倒れこんで仰向けにへらへらしている理沙の元へ。




唯「理沙さん、しっかりして!お酒嫌いなんでしょ!?酒に飲まれるなー!?」

理沙「はぁ~、わたし、よってま~す。」



そう言いつつ、唯の声のする方向へ顔を向ける。

身長30m級のおっきな顔から漂う酒臭い息に、唯は顔をしかめた。



唯「うぅ……、完全に泥酔してる……!」



見ると、ベロンは再び酒を飲み続けている。

しかし。

酒蔵の酒が、切れたようで。



ベロンは、暴れだした。



唯「うわああ?!」



絶体絶命・万事休すだ。

それを察したのか、快晴だった空も次第に曇り始めた。



『ベロン、暴れだした!』

『早く止めないと!』

唯「頼みの綱の理沙さんがご満悦で寝てるんだもの、これじゃあどうしようもないわ?」

理沙「はーあ、いーいきもち・・・。」



理沙は未だ、顔を真っ赤にしてへらへら笑いながら体をよじっている。

すると。



唯「・・・?」



ぽつり。

ぽつりと、雨が降り始めた。



唯「雨……?」



このままでは塗れると、唯は急ぎ屋根のある工場近くの橋下へ避難。

ファイル星人もそれにつれられ、同じ場所へ。



理沙「ふあぁ、あーめーだー……。」



大の字に寝そべる理沙に、その雨がざーっと降り注ぐ。



理沙「んあ、・・・あ?」



にわか雨か、ゲリラ豪雨か。

そんな勢いで、理沙に雨が降り注ぐ。

・・・すると。



理沙「・・・あ、あれ?!」



理沙は急に眼を見開き、その場でがばっと起き上った。



理沙「私は、一体……って、怪獣!?」

唯「あ、正気に戻った!雨が、雨が酔いを醒ましてくれたのね!?!」



そもそも酒そのものを飲んでいなかったことも幸いしてか、理沙は正気に戻った!

唯はこの奇跡に感謝しつつ、雲を崇めた。



理沙「はああ!」



そんなことは露知らず。

まだちょっと酒が抜けきっていない理沙は、自制せず力任せに暴れるベロンの後頭部を蹴り飛ばした。



いきなり蹴り飛ばされたベロンは怒って口から火炎を吐くが。

それは、雨によって消された。



唯「理沙さん、今です!アイツを冷やして!!」

理沙「え、ええ!」



理沙はそう言いつつ、再び両手を合わせて。



理沙「エクセルフリーザー!」



両手から、冷凍光線を発射し、ベロンに浴びせる。

ベロンの体が急激に冷えていき、次第にベロンも酔いがさめていく。

そしてついに、ベロンはそのまま倒れて、眠りこけた。



『今だ!』

『ベロンを宇宙へ!』



その声を聴いた理沙は、ベロンを宇宙の彼方へと放り投げた。



『ありがと~。』

『さようなら~。』




ついでに、いつの間にかベロンの体に引っ付いていたファイル星人も、ベロンと一緒に帰って行った。



理沙「・・・はぁ。」



と、いうことで。

はた迷惑な怪獣とその飼い主によるよくわからない一日は、こうして過ぎていった。




翌日。


真梨香「え、えっと、理沙さんどうしたんですか?」

理沙「う、うぷ……。」

唯「き、きっと風邪でも引いたのよ。」

理沙「え、ええ……。」

真梨香「瀬里亜はインフル、理沙さんは風邪……。あたしも気を付けないと。」



理沙の顔、真っ青だった。

真梨香の散歩後ろを歩く感じの理沙は、唯に肩を担がれて登校していた。



唯「二日酔い、ですね。」

理沙「ホ、本当なんですか、私が、お酒を……。」

唯「ええ。ぐでんぐでんに酔ってました。」

理沙「そ、そんな……!」


真っ青な顔がさらに真っ青になる。

無理もない。

あれだけお酒を飲む人もお酒も嫌いと言っていたのに、自分がそんな人間になるなんて。

彼女の色々な部分が、許せないでいたからだ。


唯「でも、理沙さん楽しそうでしたよ。」

理沙「もう、言わないで……。」


そんなわけで。

顔を赤くしたり青くしたり忙しい理沙と、半笑いでそれを支える唯という不思議な図式で、今回のお話は終幕。

今年の雛祭りは、もうすぐだ。


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