GUND CUNNUM ep.1 (Pixiv Fanbox)
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◇
「うぅ……」
体が重い。
初めに認識したことはそれだった。
曇った窓越しのような視界に映る風景から得られる情報量はあまりにも少ない。
眼に映るのは暗い石造りの床だけだ。
頬が妙に冷たいのは自分が横たわっているからか。
鼻腔の中を湿っぽく冷えた・微かにかび臭い空気が侵す。
周囲を見渡すために身体に力を入れようとした時・私はようやく自分が両手を拘束されて床に転がされていたことに気が付いた。
そして……否応なく認識した。自分は囚われてしまったのだということに。
誰に囚われたのか?決まっている。『アカルビス』共にだ。
その自覚が伴うとモヤのかかった思考は一気に本来の働きを取り戻した。
両手の自由が利かない状態では起き上がることもままならない。
肩や腕に上手く力を込めてなんとか上体を起き上がらせた。
頬に付着していた・石造りの床に生える湿った苔を不快感と共に手の甲で上手く拭う。
髪にも苔がついてやしないかと気にはなったが・今は身なりを気にしている場合ではないとすぐに思い出し・辺りを見回す。
薄暗い視界の端に鉄格子が映る。なるほどここは牢屋の中というわけだ。
この薄暗い牢はアカルビス達が捕らえた捕虜を閉じ込める為の場所だ。
手に架せられた錠はヴァフを乱すための仕掛けが施されている。
剣や短剣や仕込み毒の類を入れていた腰袋は投獄される前に全て没収されてしまったようだ。
強く奥歯を噛み締める。
「あの短剣はお父様からの頂き物なのに……」
私にとっては捕まり捕虜になったことよりも敬愛する父から賜った大事な装備品を敵に奪われてしまったと言う現状が堪えていた。
いつも左の後ろ腰に挿していた……
そのせいか短剣を装着していた腰辺りが物寒く感じる。
孤独感と同時に思い出す。共に戦っていた仲間達はどうなったのだろう。
奇襲部隊の密偵として私はアカルビス達の前線基地を調査していた。
意外なほどに警備の薄かったアカルビスの前線基地の調査は難なく完了し・奇襲部隊へ情報を伝え、遂に共に襲撃を開始したのだが……
何かすごい光が私達を襲い……
私はそこからの記憶がない。
ここが牢であることは理解できたが何処の牢なのか……
何処の城砦で兵士がどれほどいるのか……
他に牢はあるのか?見張りは?
様々なことが頭の中を駆け巡る。
しかし・今の私は密偵ではなく捕虜だ。
更なる現実を考慮しなくてはいけない。
このままだとアカルビス達は私に陵辱や拷問をするかもしれない。
部隊の先輩から色々とアカルビスについて教えてもらってはいたが・心のどこかでは戦中に流れた噂に勝手に尾ヒレがついたものだと考えていた。
しかし捕虜となってしまった今では・その当時に聞かされたことが脳裏から離れない。
アカルビスは生きたまま生皮を少しずつ剥ぐとかヴァーズを使って精神を壊すとか……酷いと生きたまま焼かれた者もいると聞いた。
『実際にそれを行われるかもしれない』という実感を伴う恐怖は・ただ人伝手に話を聞くだけの恐怖を遥かに上回るのだと初めて知った。
暗く冷たい石造りの建造物から染み出す空気とは別の原因で体温が確かに下がるのを感じる。
そんな行為をされるなど絶対にごめんだ。
どうにかして脱出する機会を見つけなければ……
他の捕虜や捕まっている一般市民もいるかもしれない。
彼等を解放して一緒に脱出できればかなり心強いはずだ。
そうこう考えているうちに足音が数個聞こえてきた。
恐らくはこの牢の見回りか・もしくは新たな捕虜を投獄に来た兵達だろう。
何か有益な情報を口の端から漏らす可能性もある。
私は情報収集のために横たわり気絶しているフリをはじめた。
耳を澄ましていると足音と話声が少しずつ近づいてきて、その内容がところどころ聞こえ始めてきた。
どうやら二、三人の兵士のようだが……
「ハハハ・さっきの見世物は最高だったな!」
「別大陸の生物ってヤツは面白いものだ」
「アレで孕んでたらまた面白いぞ」
「早く戻って続きにあやかりたいぜ・ったくとっとと済まそうぜ」
「ほら・さっさと歩け!」
「ひゃぁぁ!」
一人の兵士の怒声と同時・何かを突き飛ばすような音と・女の悲鳴が石造りの建物内に反響する。
私とは別の捕虜……か?
「ったく乳がでかすぎて体が重いんじゃねぇか? 斬り落としてやろうか?」
「そ・それだけはおやめください……」
「なら服従の姿勢をして懇願しろよ・長耳女がよぉ! 良いとこの嬢ちゃんだかなんだか知らねぇが…… 俺様達に対して態度がでけぇんじゃねぇか?」
兵士と女の歩みが止まった。
一体何が起きているのだ?
牢から距離もあるせいか兵士達の話声はところどころしか聞こえなくて判然としない。
しかし長耳女と言った?もし彼女も同族であるならば助けなければ…… しかし今はヴァーズも剣も……どうしたら……
「こ・こうですか?」
「ガハハハハ良い格好じゃあねぇか!」
「この長耳女・乳首にピアスつけてるじゃねぇか!」
「良いとこの嬢ちゃんとか言うくせに随分とエロいもんつけているじゃねぇか」
「これは装飾品として……」
「よく言うぜ!そんなこと言ってかなりの好きものだな?」
「はぁ……こんな女を抱けないなんて生殺しだ……」
「もういいぞ・ほら歩け」
「早く戻って俺達も混じりたいぜ……」
◇to be continued…