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 産婦人科で使われるような分娩台にベルトで括りつけられ、青年はM字開脚を強制させられた。手も拘束された彼は台から離れることすら許されていない。

 そんな彼を少女はもてあそんだ。外気にさらけ出された彼の局部に少女は跪いて顔を近づけ、期待でガチガチに硬くなった陰茎を愛でるように頬ずりをする。

 ここは現実の世界ではない。少女の容姿がそれを顕著に物語っていた。動物のように尖った耳、その上辺りから金髪をかき分けて伸びる黒紫色のツノ、ぷっくりとしたおへその下に子宮の位置を示すように刻まれたハート型の紋様、尾てい骨から伸びる黒い尻尾。少女は男性の夢に潜り込んで精液を糧とするサキュバスだ。

 サキュバスの姿は餌食になる男の欲望を反映する。服装だって彼が少女に最も着せたい、乳首とすじを覆い隠せるだけのマイクロビキニになっている。それも肌が透けるような、着る意味が見出しにくいものだった。

 少女の繊細な指が彼の内股を優しくなで上げる。そけい部の凝り固まったリンパをほぐして血行を促進し、感覚を尖らせる。手淫の技術は言うまでもなく、彼女はフェザータッチの名手でもあった。


「やっぱりお兄さんは本物のヘンタイだね」


 こんなことをされるのはもう何度目か分からなかった。はじめこそ自分の後ろめたい欲求を明らかにされてしまったから恥ずかしくて抵抗したが、今となってはレラと名乗ったサキュバスにされるがままだ。

 二度と陰毛が生えないようにして肌をスベスベにする処理も、レラは勝手に行った。現実世界でも彼の陰毛は徐々に抜け落ち、それきり生えていない。こんなことをされても彼はレラから離れようと思えなかった。


「は、はやく……」


 さっきからレラは陰茎に手を触れようとせず、その周りを軽くも執拗にマッサージするだけだった。彼女は我慢させるほどに精液は美味しくなると言い、よくこうやって彼を焦らしている。だけど、こうも長いのは初めてだった。

 レラは微笑んで、小さな手をゆっくりと亀頭に近づける。それを求めてペニスは尻尾のようにピクピクと浅ましく跳ねた。

 垂れ流されたカウパー液によって十分に濡れていて、手のひらが包むように亀頭を撫でる度にねちゃねちゃと水音を立てる。刺激が強すぎて彼は腰を引こうとするが、拘束されたままでは快感の逃げ場がなかった。

 レラは鈴口に軽く爪を立てて掻いた。そこが一番敏感な部分だったから彼はベルトを破ってしまえそうなくらい手足をばたつかせるが、もちろん解放は叶わない。切羽詰まった鼻息くらいは自由にできた。

 亀頭責めだけで射精するのは難しい。レラも彼に射精させる気はまだなかった。せめてもの抵抗で彼は腰をカクカクと浅ましくも前後させるが、可動域は限られ、レラもその動きに合わせて伝わる刺激を調整している。

 レラは再び陰茎に顔を近づけると口を大きく開けて舌を垂らした。彼女の舌は粘っこい唾液にまみれてぬらぬらと妖しく光をはね返した。

 ついに、やっと、彼は射精させてもらえると思った。だけど彼女は先端を一文字に舐めるだけで離れてしまった。


「ごめんね。今日はそのために来たんじゃないんだ」


 いつもと違う様子に彼はまばたきをした。彼女が口を使うのは射精だと間違って学習した彼のペニスは代わりに透明な粘液をあふれ出させた。


「おにーさんには精液樽になって欲しくって。精液って我慢が長いほど、寸止めするほど美味しくなるって教えたよね」


 どこからともなくレラは細長い器具を持ち出す。滑らかで編み目はないが紐と変わりなく、既にレラの手で多くを経験済みの彼の肛門には役不足どころか入っている感覚すら与えられないだろう。


「いいよね?」


 レラは鈴口に器具をあてがった。返事をする前に彼の尿道口は突破された。焦らされ続けたから潤滑は十分で、痛みもなくすんなりと尿道は黒い異物で満たされた。排出しようにも、レラが指先一つで押さえている。


「痛くないでしょ?」


 レラがゆっくりと尿道の異物を引き抜いた。尿路を擦り上げている間ずっと射精の感覚が続くようだった。暴発寸前で、あとは一往復の扱きで射精してしまえた。しかしレラは射精させないように、慎重に陰茎を取り扱った。

 再び尿道ディルドが鈴口を押しのけて侵入する。快感に身を委ねているだけの彼はそれが抜き差しの度に徐々に太くなっていることに気付けなかった。

 尿道が一センチメートルの太さを受け入れられるようになって、やっとレラは手を止めた。レラは作品の出来映えを確かめるように人差し指を挿入する。

 痛みを感じてしかるべきなのに、彼にはただ気持ちいいだけだった。元からどちらも挿入を想定していない器官だが、肛門より尿道の方が後悔は大きい。それだけに快楽は深く重たいものになった。

 レラは次に銀杏の実のような粒を指先で転がした。ちょうどそれは拡張された彼の尿道なら辛うじて通せるサイズだった。


「頑張って」


 酷いことをされているはずなのに、レラに励まされると彼はそれに応じようとした。粒はわりあい簡単に彼の陰茎の内部に収まった。しかし本番はそこからだった。

 さっきまで使っていた尿道ディルドで粒を深くまで押し込む。最終的に尿路と射精管が合流する三叉路、精丘の近くにそれは留置された。

 中に収まってしまえば彼が感じていた異物感は和らいだ。しかしそれもつかの間に、その種が彼の中で芽吹いてしまえば比べものにならない圧迫感を味わう羽目になった。

 彼の鈴口から海洋植物が持つようなぬめりのある触手が何本も飛び出し、正体が明らかになった。それはまさに花が咲いたようでもあった。


「それは魔界の生き物でね。さっき言った精液樽には必須なんだ」


 レラが説明したが彼には届かなかった。ここが夢の中であることも忘れて彼は陰茎に手を伸ばそうともがくが、この場の主導権は全てレラが握っている。

 尿道口から生える触手は彼のペニスの根元を緩く締め上げる環を作り、肉竿を包んで動きを遅くした。根元にチクリと痛みが走ると、さっきまでガチガチに勃起していた陰茎は不思議と萎えて小さくなる。触手も縮小に合わせて内圧を調整するように縮んでいく。

 平常時どころか、寒さで限界まで小さくなったところで勃起能力が元に戻った。尿道を犯す強い刺激で勃起しようとするが、今度は広がらなかった。柔らかそうな見た目に反して、彼の怒張を許さず平常時のままに見せていた。


「いや、いやだっ! こんな、こんなの……」


 彼の中止を求める声はどこにも届かない。レラは触手に隠されてしまった彼の亀頭に当たる部分を指でなぞった。表面に分泌された白濁の粘液はゲル状に固まり、ペニスサックのように見せかけている。

 しかしレラが指でなぞった感覚は触手を介して伝わった。小さいままのペニスは感覚神経の密度が高くなり、同じことでも硬くなっている時より刺激が強くなった。


「はい、精液樽の完成。おしっこする時はこうやって、この触手を抜けばできるからね」


 レラは先端から飛び出てU字を作っている触手を引っ張った。尿道を占領していた太く凹凸のある触手が抜けて膀胱から尿道口までの経路を作った。他の触手に支えられるからぽっかり開いた尿道が閉鎖することはない。

 これは括約筋の機能が失われ、プラグの役目をする触手に排尿機能を頼る他ないと示していた。レラが指を放すと触手はひとりでにのたうち回りながら元の鞘に戻る。彼はその間ずっと声を抑えきれずに喘いでいた。


「あとはその内分かってくるから、たくさんカウパーを垂れ流しててね。それじゃあ、ばいばい」


 レラが世界が暗転した後、再び彼は光と音を感じた。音は目覚まし時計からで、夢から覚めた彼はホッと息を吐いた。さっきまでのことは現実ではないと安心できた。

 尿意を感じて彼はトイレに立った。しかし尿はいつまでも出てこなかった。朝勃ちしている訳でもなく、視線を落としてみると異物に覆われたペニスが映った。

 さっきまでの出来事が全て現実に反映されていると理解した瞬間、彼の心臓は高鳴りだした。レラが言ったとおりに、先端から伸びる触手を抜こうと指でつまんだ。すると抜去に抗うように触手は中で暴れ始めた。

 分泌液が固まって静かな外見とは裏腹に、その下で彼の性器は蹂躙された。刺激に耐えられなくなって彼は腰を折ってうずくまった。一回目は抜き取りに失敗した。

 便座に座って彼は挑戦した。刺激を伝えないように彼はゆっくり慎重に尿道の栓を抜こうとする。触手の突起が尿道内をゾリゾリと引っ掻いた。抜くのが遅いから、彼は目一杯それを味わうことになった。

 占有していた物体が抜けて空洞になった尿道を琥珀色の液体が流れる。彼の意志とは無関係に垂れ出て、膀胱が空になるまで終わらなかった。排尿の心地よさはなく、彼が感じたのは下腹部が軽くなる感覚だけだ。

 異常な排尿の後で彼が触手を押さえていた手を放すとゴムを弾いたかのように鈴口に殺到した。一瞬だけ大きな声を漏らしてから、両手で口を押さえて押し殺した。安いアパートで防音性は期待できなかった。

 それがトリガーになったのか、彼のペニスに取り付けられた触手は活動を本格化した。亀頭と接している部分には細かいブラシのように毛羽立った組織が現れ、全体的に根元から先へ搾るように触手が脈打った。

 勃起しようとするが、触手の中に閉じ込められていては少しも硬く立てることができない。仕方なく小さいまま触手越しに手で上下に擦る。触手を押しのけて透明なカウパーが滴り、射精欲求は際限なく高まるだけで決して解放されなかった。

 尿道に触手を埋められていては射精できないのは当然だと彼は考えて、再び抜くとを決めた。悠長に中をかき立てないようにだとか考えてる暇もなく、素早く引っこ抜いた。

 一瞬だけとはいえ強烈な快感が彼の腰を砕いた。反射的に手を開いて触手を逃すと同じ速度で元の場所に戻って、今度は仰け反らされた。

 体から力が抜けきった彼の意識が戻るのにしばらく時間がかかった。次は慎重に、触手が尿道を擦り上げる感覚を思う存分に味わって尿道を解放した。

 器用に左手で暴れる触手を持ちながら、右手でペニスを包む触手のスリーブを撫でる。ローションで満たした極上のオナホを使っているようで、彼は下半身が丸ごと溶けてしまいそうに感じた。

 しかし精液は一滴たりとも噴き出なかった。彼の快感の波に連動して出るのは透明なサラサラとした分泌液だけだ。どんなに激しく、すり切れそうなくらい擦っても結果は変わらない。

 女々しく情けない呻き声を彼は上げてしまった。彼がどんなに文句を言ったとしても彼にまとわりつく触手は決して離れることがない。

 次の日も、また次の日も状況は少しも好転しなかった。彼が性器から垂れ流せるのは尿と尿道球腺液だけで、精子は際限なく彼の体に溜まっていった。

 射精はおろか勃起すら厳しく戒められる状態が半年間続いた末に、やっと彼は再びレラに会うことができた。両手両足を拘束されて、いつもの夢の場所で意識を取り戻した。レラの顔を認めると、怒りのような感謝のような二つの相反する気持ちに彼は満たされた。


「たぁ~っぷり溜まったみたいだね」


 陰茎に変化はなかったが、唯一外気に露出している陰嚢はテニスボール二つを収めているようにパンパンに膨れ上がっていた。レラは優しく彼の睾丸を収まりきれないながらも手に乗せて楽しげに弾ませた。

 古い精子は順次分解されて体に保てる量は決まっているが、今の彼は分解できず生産される一方になっている。あふれ出た精子は精管膨大部を丸々と腫らし、その後は行き場を失って睾丸内で圧縮されるようになった。

 レラが軽く握って精子を動かしてしまうと彼の体内でせき止められた部分の圧力が増した。ただでさえ破裂寸前だというのに彼女は容赦しなかった。尿道と触手の隙間から透明な液が滴り、糸を引きながら床に落ちた。

 彼はタイトなパンツを穿けなくなった。肥大化した睾丸のせいもあるが、絶え間なく分泌される体液で衣類が汚れるからおむつが手放せないからだ。

 粘液がわずかな隙間を通る度にできた余裕を充足するように触手は太くなっていく。毎日微々たる変化だったから、彼がやっと確信したのは初期と比べて太さが二倍ほどになってからだ。

 それ以上には太くなる様子がなかったが、覆われた下で何が起きているのか彼に恐怖心を

 亀頭を常に擦られて性器の内腔という内腔に触手を詰め込まれては、カウパー液を流さないことなんて無理だった。それでいて射精は許されない。日に日に思考の大半が射精欲求に浸食されるようになった。

 他人に服の下の醜態が露見しないよう日常生活を維持するので精一杯なのに、それをあざ笑うかのように触手は彼を責め立てる。


「乳首、おっきくなっちゃったね~。アナルもなんだか前より緩くなってるしー。自分で弄っちゃってたりするのかな~」


 レラの言葉は図星だった。射精のオーガズムを禁止されると、彼は別の性感帯に活路を見出した。言い当てられた赤面し、正面を向けなくなってしまった。

 乳首を吸引器とゴムパッキンを使って絞り上げ、アナルに挿入する異物のサイズは徐々に太くなる。変わったのは彼の生殖器だけではない。他の性感を得られるとされる部位は彼自身の手で変形していた。

 股間の触手はそれを助長した。彼が無意味な自慰を始めると絶頂を助けるかのようにうごめき、昂ぶらせるための液体を多く分泌する。

 絶頂を向かえられたが、空イキとも呼べるものでカウパーが勢いよく出る程度だ。射精しなければ、その後に来る落ち着きもない。だから一度初めてしまえば彼は時間を忘れて体力がなくなって気絶するまで続けることが多々あった。


「しゃせーできないのにいーっぱいオナニーしたんだねぇ。かわいそー。今日は久しぶりに射精させたげるからねー」

「うぁ……ありがとう……ございます……」


 彼をこんな状態にしたのはレラなのに、感謝の言葉だけが漏れた。レラは彼をここ6ヶ月間ずっと苦しめた触手の仲間を多く呼び出した。これ以上どんなにされてしまうのか彼の目には恐怖より期待が強く映った。

 触手が二本、まずは肥大化した乳首に食らいついた。中は唾液だろう粘液でトロトロで、細かく生えた固めの突起が優しく甘噛みする。吸引もされたが、痛みはなく膨らんでいるのが感じられるだけだ。

 それだけでも彼は身が仰け反りそうになった。乳首に噛みついた触手はさっきまでが準備体操であるかのように、中の突起を激しく回転させる。


「まだまだ射精させないよ~」


 一人では、人間の手では決して味わえないような快感が彼の脳を貫いた。レラは肛門にも一本、また一本と鈍い色合いをした触手を差し込んでいく。使い込みすぎて縦一文字に割れるアナルはすんなりとそれらを受け入れた。

 触手の一本一本が自律して動き、彼の腸を引っかき回す。精子を溜めすぎて直腸の内壁からも膨らみが分かるようになった精管を、触手は容赦なく握りつぶした。


「うぎゅっ!?」


 よだれが飛び散るのも気にしないで、彼は濁った声を漏らした。体の中でついに破裂してしまったのかと彼は思うほどの衝撃だった。

 実際には精子が睾丸に逆流しただけだ。とはいえ、既に臨界点を向かえていた陰嚢は一口分にも満たない量で危険を知らせる信号を彼の脳に向けて放つ。

 また彼は無意味にドタバタと手足を跳ねさせることになった。拘束は破れないどころか、乳首やアナルの触手の一本すら彼は振り落とせない。しばらくすると陰嚢がまた伸びることで彼は苦しみから解放された。


「それじゃあ、開いてあげる」


 彼女が陰茎のカバーに触れると固まっていた粘液は溶けて床に落ち、複雑に絡まっていた触手が解ける。彼はてっきり、体の外に排出されるものだと思っていたが実際には体内に引っ込んだ。

 触手の塊が膀胱に逃げ込んだせいで彼は強い尿意を感じた。自分の体内に蠢く塊を引き込んだことは彼にショックを与えたが、半年ぶりに直視したペニスをもっと衝撃的だった。

 長らく勃起を禁じられたせいで海綿体は失われ、いつまで経っても固くなる様子を見せない。鈴口は排尿の度に出入りした触手の太さを反映してぽっかりとだらしなく口を開いたまま元に戻らなかった。


「かわいいおちんちんになっちゃったね~」


 すっかり上気した目つきでレラは彼のペニスを見下ろした。長い舌を出すと、尿道口に侵入させて中をかき回す。触手にまさぐられ続けたせいか大した刺激でもなく彼は感じたが、レラの舌ということで彼は柔らかい陰茎を尻尾のように振ってしまう。


「覚悟はいい?」


 彼女が本当に同意を取るはずもなかった。レラは口いっぱいに彼のペニスを頬張って吸い上げていた。テクニックのあるフェラチオなんて彼に必要ではなかった。

 堰を切って、陰茎の細った先から餅のように固まった精子を含むゲルが飛び出してきた。彼女は目を細め、喉を鳴らしてそれを自分の腹に収めた。

 長らく忘れていた射精はそう簡単に終わらない。しかも、精子が尿道を通過する感覚は十年は前の精通の感覚を何十倍、何百倍にも強くしているようだった。

 幼児らしいぽってりしたお腹を一回り大きくしたくらいで、レラは飲みきれなくなって口を離した。自分ではとても止められない射精はレラの顔や体に白いデコレーションを施す。その様子に彼は余計に興奮して白濁液を漏らす勢いを上げた。

 レラも気持ちよさそうに、精液樽の初物シャワーを体全体で浴びて楽しんでいた。そのまま十分経って彼にぐったりと落ち着ける時間がもたらされた。


「ふぅ……もうお腹いっぱい。美味しかったよ。さすが私が見込んだだけある」


 その言葉はほとんど彼の耳に届いていなかった。およそ人間の男性が普通に生きていては味わえない、一生分の射精をひとまとめにしてしまったような感覚に彼の精神は打ち砕かれていた。

 出すものを出し切った彼のペニスはそれこそ萎れて見えた。限界まで引き延ばされていた陰嚢は睾丸の縮小には合致せずだらしなく垂れ下がり、尿道口からだらしなく残りを垂れさせている。

 そんな彼の意識を叩き起こすため、レラは陰茎を指で摘まんだ。


「三つ、選ばせてあげる。そのまま帰って二回目の精液樽をするか、それとも触手を抜いて解放されるか」


 彼女の声は脳を直接叩くようだった。その二択だったら彼は前者を選んでいただろう。


「もう一つはね。私のところに来て専業精液樽になるか、だよ」


 今の彼に冷静な冷静な判断は下せない。思い出せたのは、精液樽としての射精が今まで生きてきた中で最も強い快楽だけだ。きっと彼女のところに行けばもっと良くなると思って、彼は最後の選択肢に頷いてしまった。

 それは悪魔の契約だった。同意と共に彼の下腹部にレラの家紋が浮かび上がる。複雑な意匠のハート型は刻まれる際に彼へ強烈な絶頂感を流し込んだ。

 ここで彼の長い夢は終わった。目を覚ますと、レラの顔が真っ先に映った。


「現実世界では初めまして、かな? これから精液樽としてよろしくね」


 そして彼には住み込みの精液樽としてあらゆる加工が施された。まずは樽には不要な手足が切り離される。切り離したと言っても外科的ではなく魔法によるもので可逆的だ。

 しかし彼に身分を思い知らすにはこれ以上ない加工だった。断面に被せられた金属は先端に吊り下げ固定に便利な丸カンがあり、精液を作って垂れ流すだけの装置ということをどうしようもなく分からせた。

 手足はなくなっても、体重は変わらないどころか増えている。手足をなくして軽くなった分は胸を大きくすることで相殺してしまった。

 女性ならKカップにも達する乳の内部構造は乳腺に類似しているが、実際に詰め込まれているのは彼の精巣の細胞に由来する組織だ。つまり母乳の代わりに出てくるのは青臭い精液だった。二つの胸にも刺激を振りまく触手を詰め込まれ、不随意の乳房射精すら禁じられている。

 アナルには四肢のない彼の体を支える台座になると同時に排泄物を処理する触手が入れられた。歯間ブラシのように細かい絨毛に覆われたそれは彼の大腸の長さと最大の内径に一致し、腹の上からコの字が浮かび上がるほどだった。

 射精はもちろん最初に植えられた触手によりもれなく管理される。それだけでなく時間加速の呪術も彼に使われた。特定の部位、彼の場合は当然ペニスだけが一時間で四ヶ月もの時間が過ぎるよう加速された。

 その間の触手の刺激による寸止め空イキは、加速されたままなら一日と持たずに人間の精神を破壊してしまう。レラはそれを望まなかったから彼の夢の世界で代償させた。

 彼は一日で六時間だけ許された睡眠の間、夢の中でなすすべなく六年を過ごすことになる。性器の絶頂は等速でも、その他の部位は時間を引き延ばして同期された。だから夢の中でペニスは数秒おきに空イキを繰り返す一方、乳首やアナルは一回の絶頂を三千倍にも引き延ばされて感じなければならなかった。

 その狂ったほどアンバランスな世界にたった一人で52560時間滞在しなければ彼は目覚めることができない。現実で五日間も経つ頃には彼が普通に生きてきた時間よりも早い快感と遅い快感にまみれる時間が上回った。こうして彼は毎日レラにペニスによる長時間熟成と乳房からの短時間熟成と二種類の精液を供給した。

 精液樽として完成した彼には金色の輪がプレゼントされた。それはレラの手で二度と外れない鼻輪となり、彼が魔物の世界で家畜や道具など生物として全くの権利を喪失した存在だと証明した。

 こんな人でなしの扱いを受けても彼は幸せだった。なぜなら将来など心を陰らせることを何も考えず、ただひたすら快楽を貪るだけで褒められて存在を認められるからだ。

 しかしその生活がいつまでも続くことはなかった。あるとき彼はいつもの場所から引き下ろされて作業台の上で横になった。彼の体は精液樽を長く続けるうちに変貌を遂げた。

 髪は伸び、容貌は丸みを帯びて女性に近付いていた。触手が分泌する成分と栄養によるもので、体も皮下脂肪が増えて筋肉を失って角が取れている。丸い胸も相まって、股間の突起を見なければ誰もが女性と判断を下すだろう。

 巨大な睾丸と化した乳房が生産する大量の精液をレラだけで処理できるはずもなく、常に胸は張り気味で丸くボールのようだ。胸の張りは彼に痛みをもたらしたが、それは最初だけで今は疼きが快感として認識されている。その証左に横になったときの衝撃で彼は簡単に惚けてしまった。

 黙ってレラは左胸を詰まらせている触手を掴んで引き抜いた。外気に触れた途端にそれは朽ちて消え去る。同じ作業を彼に植えられた触手全てに行った。

 詰まりが解消されると彼は内圧を解放するために体液を放った。それに伴う絶頂は危険なほどに彼の短い手足をバタつかせ、もしも彼の手足が先に戻されていたのならゴムボールのように跳ねていただろう。

 放流が落ち着いてからレラは彼に手足を戻した。すらりとした足先に対して尻や太ももをむっちりと膨らんでいて余計に強調されて見えた。これらの変形はどれも不可逆的だから、このまま彼は元の生活に戻される。

 新しい精液樽を使うためにレラは彼を処分しなければならない。とはいえ味には飽きたが精液樽に愛着が湧いたから、道具としてより残酷な扱いを受けるだろう売却ではなく人間界に戻すという選択をした。


「じゃあね」


 短く別れを告げてレラは彼を元の場所に戻した。時間は人間の世界で数時間しか過ぎていなかった。彼がハッキリとした意識を取り戻し、自室にいることを認識すると声を上げて泣いた。

 女性化した体や機能を失った排泄器官への後悔よりも、レラに捨てられたことの方が彼に悲しみをもたらした。今後について考えられるようになったのは涙が枯れてテーブルの上のにある小包に気付いてからだった。

 小包には前に彼が植えられたような触手の種が四つ封入されていた。しかし、レラがいない今となっては再び精液樽に堕ちてしまおうとは思えなくなった。

 彼は人間としての一般常識を思い出して、まず自分がこのままだと一歩も外に出られないことを悟った。とはいえこれからずっと部屋に閉じこもるわけにもいかず、最終的に警察を呼んだ。

 しかし駆けつけた警察官は彼を正常な成人男性として認識した。そうして彼は自分がどんな状態でも、たとえ目の前で全裸でも異常が認識されないと悟った。

 平穏な日常生活は彼の体が許さなかった。長らく触手に身体機能を頼ったせいで、触手がない今はところ構わず体液を振りまかなければならない。衣類のシミになった体液は認識されてしまうから、自然と彼は常に全裸での生活を余儀なくされた。

 街角の鏡面で自分の風貌を確認する度に彼は手元に残った触手の種を思い出してしまった。いくらかの間は耐えていたが最初は肛門に、続いて乳房、最終的にペニスも自ら触手の支配下に置いてしまった。

 再び精液樽になった彼を待っていたのは妙な安寧だった。もしかしたらこの先、レラに再び会って精液を乞われるような期待を彼はしていた。

 ただ、レラは触手生物のルールを彼に教えなかった。播種した者が解除できるというルールの上に、播種された者には決して解除できないルールが成り立つ。その触手はそう設計されているから誰にも抗えない決まりだった。

 戯れに訪れたレラからこの先二度と射精できないと彼に言い渡されるのはもう少し先のことであった。

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