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お待たせしました、コミッションで書いたssが仕上がったので 全体で36000字。 16000字を全体公開します。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 「ありがとうございました~!」 346プロ所属のアイドル、黛冬優子は予定していた仕事を終えて次の現場に向かう車へと移動していた。 「次は……あさひと愛依とステージか」 彼女はソロの仕事をこなしつつ、所属するユニット『ストレイライト』としての仕事も待っている。 1日にいくつもこなす過密なスケジュールも増えており、単独での移動も慣れていた。 「ほんっと忙しいわね……」 思わず独りごちる冬優子。 ここ最近はとくに、彼女の人気に拍車がかかっていた。 きっかけは、スマホに入っていたアプリ。 入力した数値のままに対象を「元からその体型だった」と改変する……現実離れした効果を持つこのアプリで、彼女は凄まじい筋肉体型となったのだ。 筋肉アイドルとして見られるため、その肉体美でより人気が集まり、人々を魅了していく。 そして彼女自身も、自らの肥大した筋肉の虜になっていた。 「ま、1時間くらいで着くでしょ」 流石にあの巨体のままでは車に乗るのも一苦労なため、無用なトラブルを避ける意味でもアプリで元の体型に戻している。 もちろん改変ですべてが解決できそうならば、ずっとそのままでいたいのだが。 「ふぅ~……」 容姿はいつも通りではあるものの、精神面までは今まで通りではなくなっている。それらはビジュアルや振る舞いにも如実に出ていた。 全身を包むガーリーな私服が多かった彼女だが、今はタンクトップに短パンというかなりラフな格好で、鎖骨や太腿を惜しげもなく晒している。 さらにシートにはどっかりと股を開きながら座り、筋肉があるときと同じ体勢を自然にとっていた。 ファンに見られているわけではないが、仮に他の人間が近くにいたとしても同じ恰好で振る舞っていただろいう。 「~♪」 しかし本人はまったく意に介することなく、上機嫌でスマホを起動する。 移動中は時間を潰すためにエゴサなどをして過ごしているのだが、今日は録画してあった映像を再生していた。 画面に映っているのは、冬優子が参加したあのスポーツ番組の録画だ。 今の彼女の人気が急上昇したきっかけでもある。 『まずは第一ステージ、数々の関門を突破し、クリアできるのか!』 番組のスタート時点では普段通りの少女体型で、参加者たちに比べるとかなり細い。 ……が、競技が始まってからは目を見張るスピードで筋肉が肥大化していく。 「……ふふっ」 最初は困惑していた彼女だが、次第に目の前の競技と筋肉を使うことに集中して周囲の目など気にならなくなっていく。 自分が参加していたときの感覚を思い出して、自然と笑みが浮かぶ冬優子。 過去の自分の映像は、今の彼女にとって最高のエンタメだった。 『ギチッ、ビキキッ、ググッ!』 力自慢の男たちに負けないガタイへと膨れ上がっていく身体。 アプリによって一度目覚めた肉体は、ふとしたきっかけで筋肉が肥大化し改変後の数値にまで達してしまうのだ。 怪力を発揮することがメインの番組ということもあって、競技をこなすたびに筋肉が発達し、それに合わせるように骨格も成長していく。 屈強な男たちと同等の体格へ……そしてあっさりと追い抜き、誰にも負けないバルクへと仕上がっていく。 『うおぉぉぉぉっ!!!』 スマホから雄叫びが響く。 番組後半は、冬優子の独壇場となっていた。 人間離れした筋肉を収縮させながら、重機でもなければ持ち上がらないような重量を持ち上げていく。 曲げた腕に筋肉がボコリと収縮し、肌のすぐ下で蔦が這うように血管が浮き上がる。。 あり得ないほどの力を発揮していく画面の中の冬優子。 全力で歯を食いしばる顔はアイドルらしからぬ気迫に満ちているが、しかし改変アプリの効果で「筋肉アイドルの素晴らしい見せ場」として映っていた。 『また上がったー! 黛冬優子、止まらないーっ!』 実況も番組のテンションも際限なく上がっていく。 このときの感覚は、今でもありありと思い出せる。 肥大化していく肉体を受け入れ、よりデカく逞しく、力強くなることを心の底から望んでいた。 筋肉を膨れ上がらせる、見せつける快感に酔いしれていたのだ。 「っ……♡」 そんな数週間前の自分の姿を見て、冬優子はひたすらに興奮していた。 もちろん、イベントに参加したときの甘美な記憶は明瞭に残っている。 しかし目の前の競技に対して全力を出して挑んでいたため、自然と視界に入ってくるのは腕と、せり出した胸板や乳房くらいだ。 快感はとても鮮明に思い出せるが、それらは自分の視点でしか見れていない。 記憶にある映像は自分の両手とバーベルばかりだったり、全力を発揮する方に集中していたり……。 自らの肉体がどうなっていたのか、主観では分からないものだ。 とくに分厚く盛り上がっていく背中などは、1人では特に意識もできない場所だろう。 それらが、カメラによってあらゆるアングルから映し出されていた。 『ギュムッ、ギチッ、ギチチッ……』 肩甲骨を覆うように、うねるような隆起をともなって厚みを増していく背筋。 肩幅ごと左右に広がり、逆三角形をはるかに超えて肥大していく上半身。 胸板と乳房の下でボコボコと凹凸を深めていく腹筋や、肋骨を鎧のように包んでいく前鋸筋。 顔を覆い隠せそうなほどに太くなっていく二の腕は常に筋肉の形が浮き上がり、極太の静脈が肌のすぐ下を走っている。 体操着をギチギチに張り詰めさせながら、内側から引き延ばしていく彼女の肉体。 「やっば……♡」 呟きながらスマホに見入っていく冬優子。 自分の身体が、筋肉がどんどん膨れ上がっていく様子が鮮明に映像に残っているのだ。 あのときの快感を思い返して全身がゾクゾクと震えだす。 改変の影響なのだろう、カメラも冬優子の肉体を余すところなく撮っていた。 岩のように筋肉が折り重なった太腿にズームしたり、ぶ厚い甲羅のように張り出してうごめく背中に迫ったり……。 周囲から見た自分の筋肉が、画面いっぱいに映し出されている。 「あぁ……♡」 自分の筋肥大と美しさを再確認することとなり、見ているだけでも興奮してしまう。 今の彼女の身体は、本来のサイズに戻っている。車に乗る直前に改めてアプリで元の体型を入力したから、そこは間違いない。 肉体的には、今までの自分と何ら変わらない。 ……しかし、精神は違った。 心の底から筋肉に魅了され、性欲の対象にすらなっていた。 『さぁ、これが最後の挑戦になります。一体どこまで記録を伸ばすのか!』 そしてついに番組側が用意できる最大限のウエイトを準備して、最後の挑戦。 冬優子の身体よりもデカいウエイトのついたバーベルを分厚くゴツくなった両手で握り、一気に引き上げ―― 『ふんぬぅっ!』 首筋がバキバキに浮き上がり、全身の筋肉が怒張しながら肥大していく。 現実離れした光景だがCGなどではない。冬優子の肉体が織りなす、リアルで圧倒的な光景。 『総合優勝は……黛冬優子ー!!!』 そしてダントツでの優勝が決まる。 荒い息を吐いて巨体のまま呆然と立っていた冬優子だが、10秒ほどして自分がトップだと理解してガッツポーズをとった。 その二の腕は筋肉によってさらにボリュームを増し、顔よりも存在感を放っている。 アプリで指定した体型をはるかに上回った巨体。破れかけた体操着の間から、胸板からもはみだした背筋や腋が露わになっている。 全身をフルに使った快感を思い出しつつ、恍惚としてそれを見つめる車中の冬優子。 番組の盛り上がりもクライマックスになり、ステージに上がった表彰式のシーン。 『さぁ、優勝した黛さんはこちらにどうぞ』 『ふーっ……ふーっ……♡』 人間離れした筋肉を揺らしつつ、どこか意識が別のところに向いている様子の冬優子。 全力を発揮した名残で息も荒く、筋肉を使う快感に酔いしれていた。 このときのことは観ている彼女もよく覚えている。 全身の筋肉がまだ怪力を発揮したいと疼き、その力を使う場所を求めていたのだ。 彼女は全身を満たす衝動のままに両腕を曲げ、軽くかがみながら身体の求めるままに全身に力を込め、パンプアップした肉体がさらにデカく収縮し―― 『ふんぬうぅ!』 ポーズを取った瞬間、体操着が限界を迎えた。 ビリビリバリイィッ! 体操服が破け散り、殻を破るように筋肉が露になる。完全に丸出しになった身体。 ポージングしたままの冬優子は、数秒おいて自分の状況に気づいた。 『きゃあっ!?』 正気に返って、自分の身体を隠そうとする。 服が破け散ったことで完全に裸となってしまったのだ。 反射的に乳首や股間を腕で覆い隠し、そのまま番組も終了。 かろうじて衆目に晒されることは防がれた。しかし―― 「……ちっ」 それを見た冬優子は、眉間に皺を寄せて舌打ちしていた。 自分の身体を、もっと見せつけられるチャンスだったのに。 優勝インタビューという、このイベントで一番に筋肉をアピールできるシーン。なのに、わざわざ自分で隠してしまうとは。 あれだけの素晴らしい肉体なのにもかかわらず、縮こまって動揺している瞬間も視聴者に見られてしまったのだ。 この肉体を恥ずかしがるなんて。 冬優子は、過去の自分に落胆していた。 「……ふぅ」 しかし過ぎたことはどうしようもない。彼女が完全に筋肉の虜になったのはこの後なのだ。 冬優子は冷静になるよう自分に言い聞かせながら息を吐き、再生時間のスクロールバーを少しだけ後ろに戻す。 我に返る直前の、獣のように咆哮し筋肉を見せつけた一瞬、そのシーンで一時停止する。 そう、これだ。 このときの昂ぶり、全身を満たす熱、疼き、渇望…… 「ふんっ……ぐおぉっ!」 冬優子は車内で前屈みになりながら両腕を軽く曲げ、画面の中の自分と同じポーズを取るように全身に力を込める。 その身体が、服の内側から一気に膨れ上がっていく。 ミシシッ、ビキイィッ! タンクトップの布が悲鳴をあげているが、そんなことはどうでもいい。 画面に映った彼女よりも、さらに巨大で逞しい肉体へ。 筋肉量に合わせて骨格もいくらか伸びたようで、車の天井に頭がつく。 「ふーっ、ふーっ……!」 画面に映った過去の自分に見せつけるように、そして自らの筋肉を誇るように。 今はもう、この肉体を異様だと避けていた自分が馬鹿らしいとしか思えなかった。 ◆ ◆ ◆ 「あ、冬優子ちゃんが来たっす」 「はーっ……ふぅーっ……!」 控室のドアを開けると、先に現場に着いていたあさひと愛依が出迎えた。 車内での興奮のまま入ってきた冬優子は、すでに筋肉がこれでもかと肥大した巨体となっている。 ドアを窮屈そうにくぐりぬけ、息もいくらか荒い。 常人ならば驚きと畏怖でパニックになってしまいそうな状況だろう。 「お~、身体できあがってんね」 しかし愛依たちは彼女の容姿に動揺することはなく、いつも通りの態度で応じていた。 同じユニットの仲間として……むしろ魅力的なものを見つめるような、熱のこもったまなざしを向けている。 その視線には単にアイドルとして人気な彼女への尊敬だけではなく、筋肉の虜になった者としての羨望や興奮が混じっていた。 もちろん改変アプリの影響もあるが、それだけではない。 同じユニットの一員であるこの2人には直接、筋肉の素晴らしさを叩き込んでいるのだ。 「ほんと、メスゴリラって感じっす!」 あさひの口から出た単語は、およそ女子へと向けられる好ましい言葉ではなかった。 以前の彼女なら一発でキレていただろう。 しかし、今の冬優子は違う。 凄まじい胸板の厚みに、両脇からはみ出た背中。 張り出した肩に、自然と半開きになった腕、2人の胴体よりも太い両腿。 大の男ですら足元にも及ばない筋肉量。 あさひはその単語を、圧倒的な肉体を心の底から称賛する言葉として送っていた。 「……これからステージなんだし、仕上がってて当然よ」 冬優子自身も己の肉体を賛美する言葉として受け取り、満足そうに頷いている。 これから3人でステージに上がるわけだが、このまま1人だけ目立つ状態で出るつもりはない。 バランスが取れた魅力あってこそのユニットなのだ。 「あんたたちも準備するわよ」 冬優子はグローブをはめたような分厚い手でスマホを掴み、アプリを起動して2人に向ける。 それを見たあさひと愛依は、ぱぁっと顔を輝かせた。 「お、さっそくやっちゃう感じ?」 「はやくしてほしいっす~!」 すでに、これから起きることを理解している様子の2人。 冬優子は黙々とアプリを弄っていく。 筋肉量の欄、そこに表示された女子として平均より少しあるくらいの数値。 そこにカーソルを合わせ……100キロ追加する。 変化はすぐに起きた。 「キタぁ♪」 「んっ……!」 高揚しているのか、普段は聞かないような甘く高い声音を漏らす2人。 一度アプリで改変された肉体は、興奮や発情、筋肉への欲求などをトリガーにして簡単に改変された数値へと変容するようになっていた。 すでにうっすらとガタイがよかった愛依たちも、急速に膨れ上がっていく。 ……しかし、冬優子の体型とは微妙に異なっていた。 むぐっ、ぐぐっ……むちぃっ! 愛依は胸と尻に脂肪がついて、豊満な女性らしさを保つような膨らみ方をみせる。 しかし、それ以上に際立つのは全身の筋肉量だ。 少女らしいうっすらとついていた皮下脂肪すらを押しやるように筋肉の形がボコボコと浮き上がり、褐色の肌により深い陰影が刻まれていく。 どぷっ……ぶるんっ! 膨らみを支えるように大胸筋がせり出したことで、ハリのある褐色の爆乳が胸板から前に突き出ていく。 ボリュームの増した乳房と顔よりもデカくなった二の腕が、自然と干渉してぎゅむぎゅむとたわみ合う。 尻も筋肉と脂肪がボリュームを織りなし、太ももと合わせて艶めかしくも逞しいプロポーションを描いていく。 ギチッ、ギュムッ、ビキキッ! あさひの身体は無駄な脂肪が一切なく、ギチギチに詰まった筋肉が肌のすぐ下に浮き上がっている。 少女らしい印象や低めの頭身はそのままに、筋肉が鎧のように全身を覆っていく。 引き締まりつつ、みるからに瞬発力のある肉体。 筋がビキビキと浮き上がり、筋肉に肌が張り付いているかのような姿。 冬優子や愛依ほどのバルクはないものの、少女らしい印象を維持しながら一つ一つの筋肉がバランスよくひしめいている。 彫刻のような、完成された肉体美。 「あはっ♪」 「っ……♡」 うっとりと身体を抱きすくめるような姿勢で、筋肥大の快感を堪能していく。 2人の身体が「仕上がった」ことを確認してから、冬優子は声をかけた。 「よっしゃ、行くぞォ!」 ムキムキになって終わりではない。 これから、この肉体を存分に見せつけるのだ。 車中での高揚もあってか口調がいくらか荒くなっているが、もう愛依たちも気にしていない。 「うっす!」 「よっしゃあ!」 彼女たちも同様に、筋肉のことしか頭にないのだから。 ステージに上がった3人は、大量の拍手で迎えられた。 「でっか……!」 「バキバキじゃん」 冬優子が注目を浴びているのはもちろんだが、愛依とあさひへ向けられた歓声もすごい。 改変アプリを使用したことで3人は「今注目の筋肉アイドルユニット」として見られているのだ。 「ふゆたちのステージ、楽しんでいってくださいね~!」 マイクを使い、普段のアイドルらしい口調で盛り上げる冬優子。 ただ、その声は肉体に合わせて腹の底から出ているかのように太く、低くなっていた。 さらに開幕アピールと言わんばかりに胸を張り、大胸筋がこれでもかと乗った分厚い胸板を強調しながら観客たちに見せつけていく。 どんなにデカい筋肉を持っていたとしても、縮こまっていては意味がない。 自分の身体の魅力を理解した見せ方も重要なのだ。 そしてアイドルである冬優子たちには、そのスキルが備わっていた。 「……ふぅっ!」 観客に手を振りながら二の腕の筋肉を揺らし、立ち止まっては腕を開いて背筋を左右に広げ、上半身のデカさを強調する。 ストレイライトの衣装は露出が多めであり、肩回りや腹部が完全に晒されている。 それは、今の彼女たちにとっては好都合だった。 ボコッ、ムギュッ、ギチチッ…… 腹まわりは岩のような腹筋の凹凸が常に浮きあがり、姿勢を変えるたびにその形を歪ませる。 筋肉だけで構成された腰のくびれも圧巻で、観衆の視線は彼女たちの肉体に釘付けになっていた。 しかし、ここはアイドルのステージ。立っているだけで終わりではない。 自分たちの曲が流れ出し、ストレイライトとしての演目が始まった。 「はぁっ!」 3人の動きに合わせて、肌のすぐ下で筋肉がうごめく。 中でもあさひのダンスの精度や動きのキレは以前よりもずっと増していた。 集中力が切れやすいのが彼女の欠点ではあるのだが、筋肉を得たことで全身から伝わってくる感覚に意識が向き、より精度が上がっていた。 激しいダンスの動きに、観衆の視線が意識が注がれる。 「んっ……」 愛依も別のベクトルで観客を魅了していた。 腰をくねらせるだけで褐色の腹筋がうねり、胸と尻が艶めかしく揺れる。 愛依はアイドルとしてはなるべく沈黙を貫き、ミステリアスな美人として売り出されている。 ……そんな彼女にとって、筋肉と女体の融合したヴィジュアルは相乗効果を生み出していた。 ユニットとしては素晴らしい、飛躍的な進化ともいえるパフォーマンス。 しかし、冬優子には一つ不満があった。 「ちぃっ……!」 ストレイライトは競争意識が強いユニットである。中でも冬優子は「誰にも負けたくない」という感情が人一倍強い。 筋肉の虜となってからは、それらは己の肉体美へのプライドにも繋がっている。 ゆえに観客の注目が自分から2人へと移るのを感じて、考えるよりも先に身体が動いていた。 (こっちを見ろォッ!) アイドルとしての笑みは崩さない。ただ内心で叫びながら両腕を胸の前で組み、サイドチェストの姿勢で会場中に肉体を見せつける。 ムグギュッ!!! 二の腕と大胸筋、4つの筋肉の塊が収縮し、顔よりもデカく膨れ上がる。 さらに横を向いたことで太腿のボリュームやデカさも強調され、全身が筋肉の塊のようなインパクトを生み出していた。 荒々しくも圧倒的な筋肉量に、会場中の注目が引き寄せられる。 観衆の視線が冬優子の方に向いたのを感じながら、それを離さないようにさらにポージングを畳み掛けていく。 開かれた胸元からは大胸筋の盛り上がりと固く深い谷間が露わになり、乳房の下で晒された腹筋は岩のように固く激しい凹凸を生み出しながらうごめいている。 衣装を限界まで引き伸ばしながら、全身すべての筋肉を見せつける。 「ふっ、はっ、ふぅっ……」 全身に力を入れ続けるために筋肉も熱く、息が上がってくる。 血流によってパンプアップした筋肉はより威容を増し、汗が照明できらめいてさらに印象を強めていく。 頭よりも太い首、ボールのように張り出した肩、それよりも太くみえる二の腕、樽のような太腿……。 女体らしさを筋肉でコーティングした、人間離れした肉体。 巨体にあわせて太くなった声も、すべてが魅力として受け入れられていた。 「まだまだァ!」 「はぁぁっ!」 「っ……!」 冬優子の筋肉パフォーマンスに、あさひも愛依も負けじと力が入る。 曲が終わるまで、3人の熱演は止まらなかった。 『アンコール!アンコール!』 予定していた曲を終え、ステージを降りた3人。 会場の熱気は醒めることなく、アンコールの声が鳴りやまない。 もちろん、彼女たちも理解した上で舞台袖で待機していた。 しかし、ただ出るのは面白くないし、ステージでのパフォーマンスだけで満足したとは言えない。 もっとデカく、もっと圧倒的に……むしろ、筋肉への欲求は高まるばかりだった。 「2人とも、こっち来なさい」 愛依とあさひを呼び寄せながら、冬優子はスマホを取り出してあのアプリの画面を表示させる。 そして……愛依とあさひ、自分を含めた3人の数値を更に増やしていく。 期待していた変化はすぐに起きた。 ムググッ、ボココッ! 「キタキタキタァ……ッ!!」 「あはっ♪」 「っ……♡」 歓喜の声をあげるストレイライトの面々。 その身体はミシミシと音を立てて筋肥大が進行してゆき、ただ荒い息遣いだけが聞こえてくる。 暗闇の中でも分かるほどに全身が1まわり、2まわりと膨れ上がっていく。 アプリの数値通りの体型が完全に反映され、互いの熱気が伝わってくる。 「ふーっ、ふーっ……♡」 さらなる筋肉を得た3人は、興奮のままにのしのしとステージへ歩いていく。 まだ観客たちは暗闇で気付いていないが、圧倒的な気配は隠しようもなく滲み出ており、さらに最前列の観客は熱気を感じていた。 そして、照明が一気に点灯した。 『~~~~~~!!!』 さらにデカくなった冬優子たちが照らされ、割れんばかりの歓声があがる。 強いライトの中でも濃い褐色の肌が深い陰影を刻み、ボコリと張り出した地点は汗で光沢を放っている。 筋肉の塊が動いているかのような3人の姿。 それぞれの個性はそのままに、よりデカく魅力を増した肉体。 「っ……、っ……!」 あさひは先ほどと同じようにダンスに集中している。 しかし身体の方は引き締まっていながらもバルクマッチョな印象で上書きされるほどに一つ一つの筋肉が限界まで膨れ上がり、それぞれが主張しながらひしめき合っている。 力強く、速く、正確無比なダンス。 その挙動一つ一つを支えている筋肉たちは、時計内部の機構が複雑に絡み合いながら針を動かすようにいくつも連動してうごめいており、まるで芸術作品を見ているかのようだ。 筋肉量の影響か、動きの一つ一つが筋肉を際立たせるためのようにもみえる。 「ラスト……いくよ!」 愛依は胸や尻の肉感はそのままに、さらなるバルクを得ていた。 皮下脂肪も消えてはおらず、あさひや冬優子よりは普通の身体に近い印象を受ける。 絞り込みをしていないマッチョを極限までデカくしたような肉体。 どこか丸みのある輪郭は女性的で、絞り込みの甘さが逆に「普通に過ごしてきた」かのような自然さが滲み出ていた。 規格外のサイズであるにも関わらず、それらが健康的な印象すら与えている。 「オラあぁぁっ!!!」 そして冬優子については、純粋に筋肉量が5割増しされていた。 脱力してステージを歩いているだけでも、浮き上がる筋肉で全身が覆われている。 人間の身体でありながら、身長よりも筋肉による横幅の方があるように見えてくるほどだ。 立っているだけでも圧倒される。筋肉ダルマという表現が賞賛になるレベルの肉体。 「うわ、やば……」 「すっご……」 そして、冬優子の身体に釘付けになる観客たち。 ステージ上にいたのはアンコールの1曲のみ、時間にしたら10分にも満たないだろう。 しかし、目にした者の脳裏に永遠に残るだろうインパクトを残していた。 二の腕が、大胸筋が、太腿の筋肉の塊がブルンブルンと震え、収縮するたび常軌を逸したサイズに達する。 「ふんぬぅぅぅっ!」 極めつけに、モストマスキュラ―でそのバルクを見せつけた。 全身の筋肉がボコボコと盛り上がり、骨格に乗る限界まで肥大する。 浮き上がる血管に、今にもはち切れそうな衣装のたわみ。 冬優子の顔と、獰猛な笑み、そして首から下の圧倒的な肉体。 会場中がクライマックスに相応しい熱気と興奮に包まれる。 ストレイライトのステージは大盛況で幕を閉じた。 ◆ ◆ ◆ 翌日はライブ終わりの休息ということで、久しぶりのオフ。 冬優子はリフレッシュも兼ねて、愛依とともに街中へショッピングにきていた。 もちろん筋肉を盛りに盛った体型で、彼女の欲望を思う存分に解放している。 いつになく上機嫌に繁華街を歩く冬優子。 「あのさ……」 並んで歩きながら、隣にいた愛依がどこかもどかしそうに口を開く。 彼女もまたステージで見せた体型のまま、冬優子と対等に渡り合えるレベルの筋肉量だ。 「ん?」 「この格好は、ちょっとハズいかなって……」 うつむきながら、恥ずかしそうに呟く愛依。 その格好はグラビアで着るようなビキニの水着1枚に、帯のようなホットパンツを履いただけ。 それも筋肉でデカくなった肉体には布の面積があまりにも小さく、心もとなさすぎるものだった。 まるで、ビーチを歩く格好そのままで街中に来てしまったかのような……。 「さっきからみんなに見られてるよ……」 それだけの巨体がのしのしと動いていれば注目を浴びるのも自然なことで、通行人の視線がたえず注がれている。 顔を赤らめながら周囲を気にしつつ、デカい肉体を縮こまらせて歩いている。 胸を張り、筋肉が干渉して腕も半開きな冬優子とは対照的だ。 「いつもステージで見られても平気じゃない」 「あれはテンション上がってたし、街中でこんな格好するのは……」 アプリの存在を知らされた愛依やあさひは、改変による筋肉への認識や周囲への影響もなんとなく理解はしている。 ギャルとして身体を見せる格好は慣れているはずなのだが、街中を水着で歩くような露出には、グラビア撮影などとは違う羞恥や背徳感があった。 愛依の精神も改変の影響も受けてはいるのだろうが、本人の性格を完全に上書きするようなものではない。 それゆえに今もバルク体型に反して、どこか煮え切らない態度が残っていた。 「周りをよく見てみなさいよ、みんなふゆたちの身体で興奮してるじゃない」 「え……?」 冬優子に言われてうつむきがちだった顔を上げ、辺りを見渡してみる。 今の2人は痴女と言われても仕方ない格好なのだが、通行人から送られてくる視線やその表情からは、不謹慎だとか嫌悪感のようなものは感じない。 むしろ美しいものを見たときのように呆然としつつ、目を離せない様子だ。 ぎゅむっ、ぎちっ、ゆさっ 「でっけ……」 すれ違った少年が、愛依を見つめながら呟く。 大胸筋によって押し上げられた乳房。そのたわわな膨らみの存在感は、遠目にもわかるほどだ。 そして胸をかばうように両腕を前で組んでいるため、無意識にその胸がたわんで存在感を増している。 本人としては身体を隠そうとしているのだが、むしろ逆効果になっていた。 「ほら、アイドルらしく胸張りなさい」 「う、うん……」 冬優子に言われて、かばうのをやめて歩いてみる愛依。 軽く前かがみになっていた姿勢を直し、両腕を離して普通に歩いてみる。 これで普段通り……とはならず、体型の変化が影響を及ぼしていた。 だぷっ、ゆさっ、むちっ……! まず、必要以上に抑えつけてたわんでいた乳房。 抑えを失った褐色の肉鞠が、歩くたびに大きく揺れだした。 全身の肉感にくわえて、女体美を象徴するように揺れる褐色巨乳。 本人は無意識ながら、周囲の視線を釘付けにしていく。 ぶるっ、ぎゅむっ、ぎちっ! 尻と太もものボリュームも負けていない。筋肉によって構成されたボリュームは、胸のそれに匹敵するほどだ。 腰まわりは筋肉の厚みを感じさせながらもくびれを形成し、愛依のプロポーションを一気に引き締めつつ、胸と尻の肉感を引き立てている。 一歩ごとに腹筋のブロックがうごめき、腕を振るたびに背筋がうねる。 服で隠していないがゆえに、筋肉が浮き上がりながらも丸くハリのある肉感が際立っている。 今の彼女たちにとっては、筋肉そのものが衣装ともいえた。 「あの2人やばくない?」 「マジデカいんだけど」 2人はウインドウショッピングをしていただけなのだが、もっとその身体を見ようと人が集まりはじめていた。 その視線の大半が、愛依の身体に、とくにその胸に注がれている。 (堂々としろとは言ったけど……) そんな状況を隣で観察しつつ、少し複雑そうな表情を浮かべる冬優子。 まだ戸惑いを感じはするが、愛依の調子が普段のそれに戻ってきているのは良いことだし嬉しく思っている。 ただ……彼女の身体にばかり周囲の視線が向けられているのが、気に障って仕方ない。 堂々とするよう言ったのは自分だし、無意識に肉体が観衆を惹きつけてしまうのは避けられないことだ。 しかし、歩くたびに揺れる褐色の巨乳と、筋肉の動きを反映させるように形を変える巨尻。それらがなければ、ビジュアルで負けてしまうのだろうか? ゆえにどちらかといえば、自分を見ない周囲の人々の方への苛立ちといえた。 (ふゆの筋肉の方がデカいんだから、こっち見なさいよ!) 冬優子は大胸筋ごとビクビクと震わせ、周囲の視線を力ずくで引き寄せる。 女体としての豊満さは愛依の方が上である。同じようなポーズをしたとしても敵わないだろう。 ならば―― (筋肉でしか興奮できない身体にしてやる!) 愛依を見つめていたその視線を己の肉体美で引き寄せよう。 冬優子は立ち止まっていた通行人に向けて身体を向け、両腕を半開きにした体勢で背筋を広げ、よりデカくした上半身を誇示した。 「ふんっ!」 ボコォッ! 愛依よりもデカく、くっきりと浮き上がった筋肉。 見た者の性癖すら歪めてしまいそうな筋肉アピール。 立て続けに腕を曲げ、胸を震わせ、両脚を膨れ上がらせる。 初めて見るだろうバルクが観衆たちを圧倒していく。 「冬優子ちゃんすっごい……」 自分の胸に原因があったとは知らず、ただただ感心して冬優子の身体を眺める。 愛依もまた、間近で彼女の筋肉に圧倒されていた。 堂々と振る舞い、周囲の視線を集め、己の肉体美を見せつけていく。 羞恥心など微塵もなく、むしろ観衆を魅了してしまうパフォーマンス。 (あたしもこのぐらい切り替えられたらな……) 彼女のように自分の魅力を理解して、それを前面に押し出す自己プロデュースができていれば……。 とはいえそんな葛藤は筋肉には現れない。 周囲の視線を集めるべくポージングを続ける冬優子と、立っているだけでも人目を集めてしまうプロポーションの愛依。 どちらも圧巻のビジュアルといえた。 「黛冬優子がいるってマジ?」 「うわ、和泉愛依もいるじやん!」 それだけのパフォーマンスをしていれば、注目をさらに浴びるのは当然の帰結だった。 冬優子のポージングを見ようと、周囲に観衆が集まってくる。 もちろん愛依の身体にも視線が集まっているし魅力を放っているのだが、本人はそれを十分に認識できていない。 「道の真ん中は邪魔になるわね、少し移動するわよ」 「あ……うん」 観衆の視線を集めて満足たため、いくらか冷静になったのだろう。冬優子はいったん見せつけるのを止めて歩き出す。 愛依は少し困惑しつつも隣を歩き、観衆もぞろぞろとついてくる。 その後ろ姿には、分厚い背筋がうねっていた。 「ここならいいわね」 冬優子が足を止めたのは、街中の小さな公園だった。 2人が中央に立つと、彼女たちについてきた観衆たちが囲むように並び、視線を注いでくる。 まるでコスプレに集まるカメラのような……冬優子も愛依も生身なわけだが。 「ほら、愛依も」 「え、あ……うん」 冬優子に促されるまま、愛依も水着一枚でポージングを繰り出していく。 最初は自信なさげな愛依だったが、視線やスマホカメラを向けられながらポーズを取るうちに、動きが滑らかになっていく。 だんだんステージにいるときの記憶が重なって、羞恥心を興奮が上書きしていく。 それ以外にも、愛依には似たような経験があった。 (なんか……仕事の撮影みたい) 愛依はその容姿ゆえに、ギャル系のファッションモデルやグラビアを数多くこなしてきた。 そのため街中での撮影も手慣れており、身体に染みついた経験が自然と女性的なポーズを繰り出していく。 バストやヒップ……自分に身体の魅力をアピールするたび、見入っている観衆たちの視線が、表情が、わずかに揺れる。 愛依はそれに手ごたえを感じていた。 「んっ……」 身体が熱くなってくる。 自分の身体に釘付けになっているのが心地いい。 筋肉が心地よさにビクビクと震えて、さらに身体の芯から湧き上がる熱い疼きと衝動で満たされていく。 (これ、楽しいかも……♪) 愛依の精神もまた、筋肉中心のものへと染まりつつあった。 「ほら、もっと見ていいよ?」 ニンマリと笑みを浮かべながら両腕を持ち上げ、冬優子に張り合うようにより積極的に肉体を見せつける。 間近に迫った褐色の身体に、色めき立つ観衆。 「んっ♪」 「っ……このっ!」 筋肉メインでポージングを続ける冬優子を隣に感じながら、負けじとアピールする愛依。 自らの長所を活かすように、わざと胸をたわませ、尻を突き出し、腋を見せつける。 女体美と肉体美……アイドルのステージよりも過激なヴィジュアル合戦に、観衆たちも息をのんで見入り、ボルテージが上がっていくのを肌で感じる。 「はぁっ……」 「ふぅ……」 ただ、ポーズを取っているだけでは、筋肉を表現するのには限界があった。 全力を発揮したい……ぶっとい二の腕や太ももから、うずくような熱が滲みだす。 観衆たちからも注がれる、もっと激しいパフォーマンスを期待している視線。 「じゃ、もっと激しくしましょうか」 冬優子は宣言しつつ動き出し、観衆の輪が退くようにしてばらける。 筋肉を揺らしながら近づいていくのは、公園に生えていた木だった。 かなりの樹齢があるようで、人が抱きかかえてやっとな太さをしている。 がっしりと幹を掴んだところで、愛依も何をするのか察する。 「え? いや、流石にこれは……」 「大丈夫だって、これもパフォーマンスの一環よ」 困惑しながら止めに入る愛依と、平然としている冬優子。 アプリの改変によって、筋肉を使う行為は人々に受け入れられる……これまでの経験から理解していた。 そのまま躊躇いなくがっしりと木の幹を掴む。 「んっ!」 二の腕がボコりと膨れ上がり、ガニ股になった両脚も内側から筋肉がせり出して岩のように固く張り詰める。 ただでさえ厚みのある背筋が一気に盛り上がり、鬼の顔のような凹凸が浮き上がる。 「ふんっ……ぐおぉっ」 一瞬だけ静止した時間が流れ、冬優子の力む声だけが耳に入ってくる。 しかし次の瞬間、ミシミシと軋むような音が響き、木の枝と葉が風もないのに小刻みに震えだす。 そして―― ボゴォッ! 「ウオオォォッ!」 木が、真上に動いた。 幹ごと移動したような、3Dモデルでも操作しているかのような現実離れした動きに、観衆は呆然と見上げ……我に返ってそれを引き起こした張本人を見やる。 そこには、雄たけびを上げながら全身の筋肉を張り詰めさせている冬優子がいた。 彼女が引き抜いたのだと理解するにつれて、驚愕と興奮が公園を満たしていく。 さらにその下をみると、引き抜かれた木の根が周囲の土ごと持ち上がっていた。 「ウラァァァッ!」 ドシャアァッ! 冬優子は全身の筋肉を盛り上げながら、引き抜いた木を観衆のいない奥へと投げ捨てる。 オブジェか何かのように横たわった、直前まで生えていた広葉樹。 植わっていた所には、えぐり取られたようにクレーターのような穴が開いていた。 「すげーっ!」 「やばっ……」 「バケモンじゃん……!」 圧倒されつつも歓声をあげる人々。 注目を一身に受け、ご満悦の冬優子。 (気持ちよさそう……) ずっと困惑しながら眺めていた愛依だったが、彼女もまた雰囲気に飲まれつつあった。 パンプアップした冬優子の肉体を眺めていると、自分の身体まで疼いてくる。 筋肉がその力を発揮したいと疼きだす。 愛依もまた、今の冬優子と同類なのだ。 「じゃ、次はコレね」 愛依の肩に手を置きながら、次のターゲットを定める。 冬優子が示したのは公園の隣の区画に立つ、解体予定の建物だった。 取り壊しの工事中のようで、中がむき出しになった中途半端な状態で放置されている。 「2人で壊しちゃいましょ」 さらっと、とんでもないことを言ってのける冬優子。 本来なら絶対にやってはいけない行為だ。というより、建物に生身で太刀打ちできるものではない。 これを全力で壊す……誰にも咎められず、むしろ称賛される……。 「面白そうじゃん♪」 ノってきた影響か、すぐに意図を察して笑みを浮かべる愛依。 その身体は今か今かと筋肉が武者震いを始めていた。 「ちょっと離れててね~、そっちの方が画になると思うし」 愛依が観衆に声をかけながら冬優子の後を追う。 褐色の筋肉に包まれた後ろ姿は、陽の光を反射してヌラリと鈍い光沢を放ちつつ、一歩ごとに背中が波打つようにうねっていた。 「ふぅ……」 冬優子は解体途中の建物の、まだ残っていた壁の前に立つ。軽く肩を動かして、高鳴る胸を抑えるよう言い聞かせながらも全力を発揮する覚悟を決めていく。 「はあぁっ!」 バキャァ! そして、気合とともに拳を振った。 薄い建材は容易く貫通し、パンチ一発で腕のサイズに合わせた大きな穴が開く。 それだけでは終わらせず、起点にバリバリと破壊していく。 ドゴォッ、バリバリッ、ゴシャァッ! 一方で彼女の鋼のごとき肉体には傷一つつかず、ゲームの一場面か何かかと思いたくなる破壊の光景が広がっていく。 余計なものが取り払われ、建物はいつの間にか骨組みがむき出しになっていった。 「あとはコレね」 真剣な表情になってペタペタと触るのは、建物を支えていた太い柱。 白っぽいグレー色をして、適度の角が取られた四角柱。 鉄筋コンクリート製だろうことは一目でわかる。 しかし、冬優子に躊躇する様子はなく…… ガシッ 「むんぅ……っ!」 握り潰すように掴み、全身を使って捻り上げた。 最初の数秒は時間が止まったかのように微動だにせず、ただ力んでいるだけのようにもみえる静寂が辺りを満たしたが―― ビキッ、ボロロッ…… 柱の方が先に動き出した。 経年劣化でひびの入っていた箇所を起点に、徐々にそのほころびが大きくなっていく。 さらにボロボロとコンクリートが崩れだし、隙間がみるみる拡大していく。 ひびから上側の柱が傾きだし、コンクリートの破壊が加速していく。 ついには、中に入っていた鉄筋が露出した。 「うおおっ!」 トドメを刺すように、一気に全身を使って捻り上げる。 空間ができて動く余地ができたせいか、鉄筋はぐにゃりと形を歪め、さらに力が加えられていく。 本来はしてはいけない軋む音が周囲に響き、それでも冬優子の腕は力を加え続け―― バガァァンッ! 太い金属の破断する、してはいけない破壊音とともに、指ほどの太さがある何本もの鉄筋がねじ切れた。 「あははっ、何てことないじゃない!」 ドゴンッ! 抱えていた柱を放り投げ、高らかに笑う冬優子。 最も堅牢な箇所さえも壊せると分かり、愉しそうに声を上げながら振るう腕をペースアップさせていく。 崩壊した所からさらに破壊され、骨組みすら跡形もなくなっていく。 「あたしだって……うりゃ!」 バゴォ! 愛依は自身の体重を乗せた蹴りで柱に亀裂を入れまくり、削り倒していく。 建物を破壊していく2人。 まるで金剛力士像が動いているかのような……いや、筋肉はそれ以上にデカく美しい。 『…………』 どんどん崩壊していく建物。 観衆はそれらを遠目に見たまま動かない。いや動けない。 近づこうにも、崩壊する危険性と、何よりも2人の破壊力に畏怖の念を抱くほどに圧倒され、ただ立ち尽くしていた。 10分もしないうちに、建物のあったはずの場所は瓦礫の散乱する更地になった。 「はっ、はぁっ……ふぅ……」 「ふぅ……んっ……」 土埃の中で立ち尽くす冬優子。 全身から汗を噴き出し、褐色巨体を揺らす愛依。 昼間だというのに白い湯気が立ち上っているのが見える。 (これ、クセになりそう♡) その筋肉はまだまだ疼いて、力を発揮し足りないといわんばかりにピクピクと痙攣している。 2人とも、理性が消える一歩手前の状態。 しかし流石に、これ以上の破壊対象は存在しなかった。 この場所でこれ以上は力任せに暴れるわけにもいかず、理性を呼び戻す。 「見てくれてありがとね……じゃ、ふゆたちも買い物に戻るから」 冬優子が終了を宣言する。 ファンがまとわりついて離れない……とはならず、むしろあっさりと散会していく。 あれだけのパフォーマンスを見せつけられたがゆえに、逆らって残ろうとする者はいなかった。 「じゃーね、今度のイベントも来てよ~♪」 通行人だった観客たちに向けて、笑顔で腕と筋肉を揺らし、ファンサービスしつつ去っていく アイドルモードではない普段の愛依の言動に戻ってしまっているが、圧倒された彼らにとっては些末な事だろう。 「あ~、楽しかった。でも……」 さきほどの恥ずかしがっていた様子は微塵もなく、どこか吹っ切れたような笑顔で話しかけてくる愛依。 「なんかスイッチ入っちゃってさ、もっと筋肉使いたいなーって」 彼女もまた、身体だけでなく精神まで仕上がってきていることを確認し、ニヤリと笑みを浮かべる冬優子。 アプリを使った初期の自分を思い出す。あともう少しのきっかけがあれば、完全に筋肉の虜になるだろう。 そして魅力に憑りつかれていく過程すらも、思い返せば甘美なものになるのだ。 「そんな愛依にいい仕事を入れたんだけど」 冬優子もまた汗まじりの熱気を立ち上らせながら、スマホに入れていた仕事用のスケジュールと資料を見せる。 そこにあったのは『怪力No1決定戦』の文字。 「これ、冬優子ちゃんが参加してた番組じゃ……」 「視聴率が良くて、すぐに組まれたのよ。それで重要なのはここ」 太い指が示した参加メンバーの中には、大文字で『ストレイライト』の名前があった。

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