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本にしたい内容、『退魔師娼館』の2章になります。 まだ書いている途中なので、何かあったら適宜修正していきます。 ~~~~~~ 少しばかり時は遡り、まだ人間と淫魔の間に和睦が結ばれる前のこと。 人々が寝静まった真夜中、わずかに窓から漏れた灯りと月の光が照らす住宅街。 本来ならば立ち入り禁止であろうマンションの屋上で、2つの人影が対峙していた。 一方はシルエットからして女性的な輪郭を描いているが、それと同時に異様な箇所も存在していた。 背中からはコウモリのような翼が生え、さらに頭部には山羊のように捻じ曲がった角が左右に伸びている。 腰の高さからハート型の先端をした細長い尻尾がしなやかに伸びて、自分の身体の一部だと言わんばかりにユラユラと不規則に揺れていた。 顔はシャープな輪郭にくわえ、切れ長かつ釣り気味の目元に、通った鼻筋、艶やかな唇……そのすべてに非の打ちどころがなく、人間離れした美しさを湛えている。 暗がりの中に浮き上がる深紅の瞳が完璧な美貌を妖しく彩り、目を合わせただけでもゾクリと背筋が震えてしまいそうだ。 身にまとっている衣装は漆黒で、ピッチリと身体に密着しつつラバー質の鈍い光沢を放っている。 くわえて水着のように露出が激しく、肩や太腿、へそや下乳などを大胆に晒していた。 乳首や股間といった最低限の箇所を隠してはいるものの、それ以外は性欲をかきたてるために存在しているかのよう。 月明かりに照らされたその肌は、夜の闇を薄めたような深い青色。 それは彼女が人外の存在であることを示しつつ、しかし一点の曇りもなく美しさを感じさせる。 二の腕まで届くロンググローブは手を動かすだけでも艶めかしく、ブーツと脚の境目には太腿の肉がむっちりと乗っている。 くびれた腰、縦に割れたへそ、形よく豊満な胸……スラリとしていながらも艶やかな肉感を詰め込んだ肢体。 煽情的な姿は痴女としか言いようがないが、嫌悪感を抱くことすらできない。それほどまでに性的な魅力にあふれた女体美だ。 一目みただけでそれが人外の存在……「淫魔」であると、本能的に理解させられてしまう。 彼女はわずかにピンクがかった銀髪を夜風にたなびかせつつ悠然と立っているが、その表情はどこか険しく、もう一方の存在を見つめていた。 「…………」 彼女の視線の先、10メートルほど離れて剣を構えているのは、まだ年若い少年だった。 わずかにあどけなさを残したどこか中性的な顔立ちにくわえ、適度な長さで切られた髪は少年らしい印象をより強めている。 全身を包むピッチリとしたバトルスーツごしに浮き上がるしなやかな体躯は、二次性徴を迎えきっておらず、細くはあるものの華奢ではない。 むしろ引き締まり、うっすらと浮かぶ筋肉に鍛錬ゆえの精悍さも感じられる。 身長はおそらく淫魔よりも少し低いくらいで、右手に人工的なフォルムのブレードを握りつつ、いつでも動けるように腰を落として戦闘の構えを取っている。 容姿とは不相応にその構えには一切の隙もブレもなく、彼が戦士としての相当の実力があることを示していた。 「またアンタ……しつこいわね」 「しつこくて結構、地の果てまで追いかけてやるさ」 その美貌を鬱陶しそうに歪める淫魔に対して、少年は彼女を睨みつけたまま言葉を返す。 両者は互いに敵意を滲ませながら、戦端を開く機を伺っていた。 張り詰めた静寂が辺りを満たし、わずかに冷えた夜風が吹き抜ける。 そして風がやんだ瞬間、少年が強く床を蹴った。 「っ!」 直線的に鋭く踏み込みながら一気に間合いを詰め、白銀の刃を振り抜く。 目にもとまらぬ高速の一撃は、キラリと軌跡を残しながら淫魔の胴めがけて迫っていく。 「……ふふっ」 しかし淫魔は余裕の笑みを浮かべたまま、最低限の動きのみで身体を傾けた。 フワリ、と花弁が舞うように切っ先を躱し、そのまま流れるように少年の懐へと入り込む。 武器と呼べるものは何も持っていないが、性に特化した魔物である彼女にとって、それは些末なことだ。 ポゥ…… しなやかな指先にピンク色の光が灯り、少年の下腹部へと近づいていく。 サキュバスの魔力が凝縮されたそれが彼の身体へと触れようとした瞬間―― 「くぅっ!」 少年は強引に身体をひねりながら剣を切り返し、淫魔の背中を狙っていた。 指先に込めた魔力を彼に当てようとすれば、致命的な一撃を受けてしまうだろう。 「ちぃっ!」 彼女の顔から笑みが消える。 指先の魔力をかき消した淫魔は、こちらも半ば無理やり翼と両脚に力を込めて大きく横へ飛び、刃の届く範囲から逃れる。 そのまま勢いを殺さぬまま間合いを離れながら、崩れかけた体勢を整える両者。 数瞬の交錯を経て、2人はすれ違うようにして再び互いに距離を取った。 「あ~あ、もうちょっとで淫紋を刻んであげられたのに」 「オレがそんな手に引っかかるとでも?」 言葉を交わしつつも、戦闘態勢は保っている少年退魔師。 2人が戦うのはこれが初めてではない。これまで何度も相まみえ、お互いの手の内を知り尽くしていた。 少年も淫魔も、それが実感で分かってしまう程度には戦いの回数を重ねていた。 本来ならば、姿を現した淫魔に対して特定の退魔師が出向くことは少ない。 被害を食い止めるために出撃しているわけだから、近くにいる者や複数人で対処するのが自然である。 しかし彼女が非常に強力なサキュバスであり、他の退魔師をことごとく返り討ちに……淫紋を刻み、性に乱れた存在へと堕としてしまったのだ。 ゆえに戦闘ではトップと名高い彼が相手をしているという経緯があった。 それはいつしか彼女をマークし続けることへと繋がってゆき……奇妙なタイマンが当たり前のように行われるようになっていた。 「さっさとお前を倒して、他の淫魔を狩らないとな」 「それはこっちのセリフよ。アンタを倒せば、人間を好き放題できるわけでしょ?」 退魔師のエースと高位のサキュバス……双方とも実力のある存在ゆえに、戦いは拮抗していた。 どちらも決定打を与えることはできないまま、増援や撤退などで痛み分けになることばかりだったが、互いにそれでよしと思っているわけではない。 少年からしてみれば完全に人間の被害を防げているわけではないし、淫魔からしてみれば食事や悦楽を妨害され続けているのだ。 さらにいえば、目の前にいる相手を倒さず妥協するというのは、己のプライドが許さない。 「でやぁっ!」 「……っ!」 ふたたび交錯する2つの影。 少年と淫魔は、人知れず終わらぬ戦いを繰り広げていた。 しかしある日、人間と淫魔の間に突然の和睦が訪れる。 少年もまた戦うこと自体が許されなくなり、退魔師としての仕事を失った。 どうすればいいのか分からないまま、しばらくの待機命令を経て……転職の案内がやってきた。淫魔専用の歓楽街「ラディール」の男娼として。 それはもちろん彼にとって、とてつもない衝撃だった。 正直にいえば、納得できたとは言い難い。できることなら退魔師として淫魔を倒しきりたかったのは事実だ。 しかし……ただ男娼になるわけではない。奉仕する相手は淫魔たちであり、これで一般人への被害をゼロにすることができる。 もし自分たちがここで反対すれば、また戦いの日々に戻ってしまうだろう。 それは退魔師として、正しい判断なのか? 自問自答を繰り返した末に「オレが奴らに奉仕することで、平和が保てるのなら……」と、自ら男娼になる道を受け入れることにした。 ……ただ、彼はすぐにその判断を後悔することになる。 専属の買い手がついたと報せを受け、向かった先で―― 「……なぁっ!?」 「また会ったわね♪」 買い手の主は……何度も戦ってきた、あの淫魔だったのだ。

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