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1年ほど前におじいちゃんさん(https://www.pixiv.net/users/1975446)の依頼を受けて表紙・挿絵つきで同人本『向井拓海のボディビル挑戦記』の本文を書いていましたが、その小説部分をこちらに投稿します。 内容についてはタイトルの通りです。 イラスト付きの本はpdf形式でおじいちゃんさんのBoothにて販売されています。 ~~~ 「ボディビルだぁ!?」 事務所の一室に驚きと動揺が混じった声が響く。 声の主は向井拓海、元特攻隊長という異色の経歴を持つアイドルだ。 仕事の依頼が来て部屋に呼ばれた彼女なのだが、聞かされたその内容に思わず大声をあげたのだった。 普段はフリフリの衣装や動物コスプレなど、本人の意向に沿わない仕事に声を荒げる彼女だったが……今回は少し違っていた。 「アタシがやるってのかよ、その……ボディビルを」 「ああ、私がトレーナーとしてつき、実際の大会に出場する」 説明をしているのは木場真奈美、同じ事務所に所属するアイドルである。切れ長の瞳に整った顔立ち、カッコイイと表現したくなるに立ち振る舞い、そして拓海に引けをとらない豊満なバストが目を引く。 この二人に「ボディビルに挑戦する」仕事の依頼が舞い込んだのだった。 「ウチは変わったヤツらが多いけどよ……アイドルがやるもんなのか?」 頭をかきながら怪訝そうに仕事の資料を眺める拓海。 ステージで筋肉を見せる、主に男性が行っている競技……ぼんやりとしたイメージしかないが、少なくともアイドル事務所に来る仕事とは思えない。 「海外では女性のジム通いも盛んでね。企画のスポンサーは日本でもイメージアップさせたいらしい」 戸惑う拓海とは対照的に、真奈美は抵抗を感じていなかった。アメリカ帰りの彼女は筋トレが趣味であり、ムダな脂肪のない引き締まった彼女の肢体は日々のトレーニングによって培われている。 知識も経験も豊富で、むしろスポンサーに近い考え……「もっと身体を鍛える女性は増えて良い」とも思っていた。 いつも淡々と仕事をこなす印象のある真奈美だが、自分の守備範囲ということもありとても乗り気だった。 「素人である拓海に挑戦してほしい。私からみても相性はいいと思っている」 くわえて、拓海のフィジカルもキャスティングの大きな理由だった。華奢な子が多い同僚たちの中で、下手な人選をすればケガや挫折を生みかねない。身体を動かせる肉体派で、かつ筋肉を大きくすることに抵抗のないアイドル……ということで拓海に白羽の矢が立ったのだ。 もちろん参加を強制することはしないが、真奈美は真剣なまなざしで言葉を重ねていく。 「身体づくりという点でも、やってみて損はないはずだよ?」 「…………」 企画も真奈美も本気であることを知り、拓海は考え込む。 拓海は業界全体からみても相当に変わった存在だが、個性として活かしてくれる事務所の方針もあってとても充実した日々を送れていた。 ……のはずなのだが、最近では心のどこかに満足していない自分もいるのだった。仕事も軌道に乗っているのだが、裏を返せば代わり映えのない日々ともいえるわけで。 新しいことに挑戦するいい機会じゃないか、この仕事でまた違った景色があるかもしれない。そんな期待が心の内に湧いてくる。 「……いいぜ、やってやんよ」 数十秒の黙考のすえに、意を決して承諾した。 分からないことばかりで不安もあるが、ここで退くのは向井拓海ではない。そして「やる」と決めた以上、なあなあで終わらせるような性分でもなかった。 「やってやろうじゃねぇか……何だったら大会も優勝してやるよ!」 向井拓海の、新たな挑戦が幕を開けた。 「まずは腕からトレーニングをしてみよう」 拓海は案内されるまま、真奈美が通うジムへとやってきていた。 真奈美はトレーニング機器やバーベルが立ち並ぶ空間を慣れた足取りで進み、壁際にある金属製の棚、ズラリと並んだダンベルへと近づいていく。 「女性がトレーニングを初めてやるのなら、多くはこれぐらいからスタートするが……」 話しつつ一つを選び取り、拓海へと差し出す。重さを確かめるように持ち上げてみるが、案の定というべきか拓海にとっては物足りない重量だった。 「軽ぃな。いくらでも動かせるぜ」 「そうか、これはどうかな?」 真奈美は拓海から戻されたダンベルを棚に置き、その数個隣にあるより大きいものを渡して様子をみてくる。 「こんなにあるんだな、どこまで重くできんだよ」 「筋肉を限界まで追い込むことが重要だからね、これの数倍重いものだってあるのさ」 重量の確認を繰り返しながらズッシリと腕に手ごたえを感じるものを選び、トレーニングを始めた。 最初はダンベルカール、主に上腕二頭筋を鍛える種目だ。 フォームを教わりながら腕を一定のスピードで曲げ伸ばししていく。 「連続で十回、いってみようか」 ダンベルを持ち上げるたびに上腕二頭筋が収縮し、なだらかな力こぶが盛り上がる。 5回を折り返したあたりで、二の腕が熱くなり始めた。一気にダンベルが重くなったように感じる。 「ふんぅ……うおぉっ!」 拳を振るのとはレベルが違った。 力を逃がさず、すべて己の筋肉で受け止める。それは拓海の予想以上に負荷を掛けていたのだ。 追い込まれた腕がプルプルと震え出す。 「どうした、もう終わりか?」 「こんっのぉぉ……っ!」 真奈美の言葉に歯を食いしばりながらダンベルを持ち上げ抜く。 「9……10! 1セットよくやり切ったな、初めてにしては上出来だ」 「あぁ……これ、きっついな……!」 十回上げきったところで耐えきれずに腕の力が抜け、ダンベルが床にゴトリと落ちた。二の腕はうっすらと血管が浮き上がり、大量の血液が流れ込んでいるためか火照ったように熱くなっている。 単純な動作で、短時間で、ここまで追い込めるのかと拓海は驚きつつも感心していた。 「よし、1分のインターバルをおいてもう1セットだ」 「うぇっ!?」 真奈美のトレーニングにおいて、妥協という言葉は存在しなかった。 その後も種目を変えながら負担を掛けていく。 同じ腕を鍛えるにしても何種目も存在し、それぞれ負荷を掛ける筋肉の部位が違うのだ。 「フォームが崩れているぞ、ほら、こうやって――」 真奈美はトレーナーとして指導しつつ、ときには補助しながら拓海をサポートする。 「うおぉぉっ!」 動きが止まることも何度かあったが、そのたびに負けん気を発揮し歯を食いしばりながら回数を重ねていく。 「よし、今日は初めてだしこのぐらいにしておこう」 「っ……っした!」 1時間ほどで最初のトレーニングは終了した。 拓海の息は荒く、表情が苦悶に歪んでいる。腕だけが徹底的に追い込まれ、二の腕を中心に鉛のような重い疲労感が詰まっている。血が巡り続けた肌はサウナにでも入ったように赤く汗ばんでいた。 しかし、全力を出し切ったときのスッキリとした心地よさも同時に存在していた。 アイドルのレッスンも一通りこなせる体力の拓海だが、こんな感覚は初めてだった。 「食事はしっかり摂るようにな。まあ拓海に言う必要はないかもしれないが」 用意されたプロテインを飲み、初めての筋トレは終わった。 翌日、今までにない筋肉痛が拓海を襲ったのはいうまでもない。

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