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「今夜は星が綺麗に見えて、良いお散歩日和ですね」

「そっ、そうだね……」


 7月に入ったある日の夜、涼士郎と智香は公園で散歩をしていた。

 若い男女が夜の公園でデートだなんて、なんて初々しいんだと思われるかもしれない。

 しかし実態はそう生易しいものではない。甘酸っぱいデートなんてしょせんは妄想であり、現実はもっと生々しいものだ。


「丙さん、本当に大丈夫? 本当に誰にも見つからない?」

「遠野くんは心配性だなぁ。大丈夫、私を信じて」


 そう自信満々に語る智香は、あろうことか全裸で四足歩行していた。

 そんな格好で凄まれても、信用する気持ちにはなれない涼士郎だった。

 なぜ彼女が裸で公園を散歩しているのか。

 それについては、深いようで別に深くないとある事情が関係していた。


 ×××


 二人が深夜の公園デートに興じる前日。

 ことの始まりは、いつものように放課後の文芸部部室で行われた。


「遠野くん、明日の夜時間あるかな?」

「夜? 別に暇といえば暇だけど……」


 智香に予定を聞かれ、涼士郎は思わず身構える。

 彼女の頼みとは、十中八九エッチのお誘いということになる。

 純粋な少年ならば、女の子のお誘いとあらば狂喜乱舞してしまうことだろう。

 だが涼士郎はこれまでの経験上、智香が普通の頼みなんかしてこないことを知っている。

 今度はどんな無茶なプレイを要求されるのか。考えるだけで胃が痛くなってくる涼士郎だった。


「良かった。それじゃあ明日の深夜、私に付き合ってくれる?」

「深夜? そんな時間に丙さんは一体何をしようと言うんだ……?」

「何って、お外にちょっと散歩しにいくだけだよ」

「お外に散歩……?」


 軽い感覚で言う智香だが、常人が想像するお散歩などではないことは明白だ。

 また無茶なことに巻き込まれる。そう確信していても、抗えない魔力が彼女には備わっていた。

 言うなれば、彼女は蝶を誘う甘い蜜を放つ華麗な花なのだ。

 常人は可愛い花に見惚れてしまい、花の真意に気づかない。

 蝶を虜にする甘い蜜には、同時に中毒性のある毒が盛られているのだ。

 一度でも味わえば絶対に離れられない。一生花にかしずく奴隷となってしまうのだ。


「遠野くんなら私のお願い聞いてくれるよね? だって遠野くんは優しいから」

「あぁ……」


 嫌な予感はしつつも、それでも涼士郎は断れなかった。

 彼が同行しなければ、彼女はひとりでも行ってしまうだろう。

 涼士郎は、智香が自分のもとを離れていってしまうのが怖かったのだ。

 だから渋々だろうと彼女に付き合うしか他になかった。


「それで、どこに散歩しにいくんだ?」

「それはね、公園だよ」

「公園? 前に行ったところか?」


 以前、涼士郎は智香とデートした時に公園へ立ち寄った。

 そこで彼女とエッチをしたわけだが、今回もそうなるのだろうか。


「深夜の公園で丙さんと散歩……? わざわざ公園に行く必要はあるのか?」

「ふふ、それはね。犬の散歩の定番といえば公園だからだよ」

「犬の散歩……?」


 意味不明なことを言う智香に疑問を浮かべる涼士郎。

 彼女の言葉の真意が分かるのは、明日の夜のことである。


 ×××


 そして明くる日の夜。約束の時間に約束の公園に到着した涼士郎は、そこで今回のプレイ内容の全容を知ることになる。


「私が犬の役目をするから、遠野くんが飼い主になって私をお散歩させて」

「えっ……」


 そう言って、彼女はリードを涼士郎に渡してくる。

 リードの先は智香が付けている首輪に繋がっており、犬になる準備は万端のようだった。

 ちなみに、彼女の格好は全裸だ。他が強烈すぎるからツッコみきれていないが、裸なのをおかしく思わなくなった時点で大概である。

 涼士郎の視線に気づいたのだろう。智香は照れくさそうにモジモジしている。


「あっ、この首輪は人間用だから大丈夫だよ」

「何が大丈夫なんだ!?」

「あっ、尻尾のことだった? えへへ、犬っぽい尻尾アナルビーズを見つけるの大変だったんだ」

「そういうことじゃないけど……」


 彼女のお尻からは、可愛らしいしっぽが垂れている。

 それはアナルビーズだった。そんなモノまで用意しているとは、準備が良いのか悪いのか。

 犬耳カチューシャまで付けてワンコになりきっているつもりの智香は、本当に公園で犬の散歩プレイに興じたいようだ。

 そういうことなら、涼士郎は覚悟を決めて彼女に付き合うしかない。


「……分かった、分かったよ。俺がリードを持って丙さんを散歩させればいいんだろう? でも全裸の女の子が堂々と散歩してれば、誰かに見つかるんじゃないか?」

「そこは安心して。この時間はほとんど人が来ないから、誰にもバレないよ」

「本当かなぁ……」


 彼女の言葉だけでは心配だが、今更あとには引けない。

 いざとなったら全力で智香を隠すしかないだろう。

 エッチなプレイを楽しむはずが、爆弾処理でもしているかのような緊張感を抱いている涼士郎だった。


「いつまでも裸だと風邪引いちゃうかもしれないから、早速散歩に行こうか」

「うん。遠野くんリードお願い♪」


 本格的にワンコプレイが始まるとなって、智香は地べたに四つん這いになる。

 地面に手を付けるのにためらいがないとは、流石は智香である。エロに対する情熱がハンパない。

 涼士郎はリードを引っ張り、智香と散歩を始める。

 図らずも夜のデートとなった二人だが、それは涼士郎の想定とはだいぶかけ離れたものだった。


 ×××


 涼士郎と智香は深夜の公園を散歩している。

 女の子と散歩というともっとドキドキすると思うのだが、今は別の意味でドキドキしていた。

 なんてったって、全裸の少女を四つん這いにさせて歩かせているのだから。

 傍から見れば涼士郎は女の子に変態プレイをさせる鬼畜でしかない。本当に変態なのは智香の方なのだが、誰にも信じてもらえそうにないのは残念なところだ。


「丙さん、四つん這いになってるけど歩きづらくない? 怪我が心配なんだけど……」


 智香は器用に四足歩行していた。

 まるで事前に練習してきたかのような自然な動きだが、彼女なら本当に準備してきたかもしれない。そう思わせるワンコっぷりであった。


「ここら辺は舗装されてるから大丈夫だよ。ガラスの破片とか落ちてたら危ないけど」

「唯でさえ暗いから気をつけて歩いてね」


 リードを持つ涼士郎は、周囲を警戒しながら智香を先導する。

 犬を飼ったことがないので犬の散歩をしたことはないが、これは絶対に犬の散歩などではない。

 こんなに緊張感のある散歩なんてありはしないだろう。

 隣に全裸の少女が四つん這いになっているというのに、全然性的に興奮しないのだ。

 誰かに見つからないか。もしバレれば社会的に死んでしまう。そればかりが意識を割いてしまい、エッチのことを考える余裕がなかった。


 万が一のことが頭をよぎり気が気じゃない涼士郎に反して、智香は非常に楽しそうだった。

 傍目からもウキウキなのが伝わってくる。リードを離したら小躍りしながら飛んでいきそうなほどだった。


「丙さん、なんだか楽しそうだね。本当にこのプレイをしたかったんだ」

「うん、実はね……裸になって外を歩くのって一度はやってみたかったんだ」


 彼女には露出の性癖もあるようだ。

 図書室での自慰も然り、更衣室での行為も然り、智香は刺激的で背徳感のあるエッチが好きなようだ。

 おそらく普通のエッチでは満足できない身体になってしまっているのだろう。

 強すぎる性への好奇心は、現状維持を決して許さない。泉の如く無限に湧き出る肉欲は、彼女に果てなき進化を促すのだ。

 そんな性欲旺盛な彼女のについていくのは大変だ。精力だけなら少年の若さでついていけなくもないが、それプラス危険なアブノーマルプレイがついてくるのだから手に負えない。

 小市民な涼士郎には荷が重すぎるが、智香をひとりにさせるわけにもいかない。

 だからこうして身体を張らなければいけないのだ。彼女を制御しつつ存分にプレイを堪能する。この手に握るリードは、二人の運命を左右する命綱でもあった。


「丙さん、裸で寒くない?」

「うん、平気。今夜は暖かくてよかった」


 7月に入り夜中でも温暖な日が続いているとはいえ、全裸で出歩けば身体を壊してもおかしくない。そのことを心配する涼士郎だが、智香は至って平然としていた。

 彼女に羞恥心はないのだろうか。正常な感覚では、全裸で散歩しようなんて思いもしない。

 それなのに智香は、誰かに強制されるわけでもなく自分から進んで全裸になっている。

 並の精神状態でやれることではない。涼士郎は未だに彼女の心を測りかねていた。


「丙さん、外で裸になって恥ずかしくないの?」

「恥ずかしいのは恥ずかしいんだけど、それ以上にエッチへの好奇心が大きいかな。誰かに見られるかもしれない思うと、ゾクゾクしてエッチな気分になっちゃうの」


 そう言う智香は、気恥ずかしそうにしながらもどこか晴れやかな表情だった。

 自分の心を偽らずに本心で語っているからだろう。

 自己の変態的な欲求を隠すことなく共有することができる相手というのは貴重なはずだ。

 飾らない彼女の素の言葉を聞けて、涼士郎自身も密かに嬉しかった。


「丙さんって、やっぱりエッチだね」

「そうかな? ……そうかも」


 智香も自分の性欲が異常なことは自覚しているようだった。

 そりゃあ最低限の常識がなければ、全裸散歩の場所に人気のない夜中の公園を選ばないだろう。

 プレイの場所に真っ昼間の街中を選ばないだけの良心が彼女にはある。

 ただ他人よりも性欲が異様に振り切れていて、時として常識よりもエロを優先してしまうだけなのだ。


「……遠野くん、ちょっといいかな」

「なんだい?」


 涼士郎が智香の精神状態を分析していると、彼女が何やら話しかけてきた。

 声のトーンからただならぬ雰囲気を感じた彼は、努めて真摯に話を聞く。


「お腹出してるからかな、おしっこしたくなってきたの……」

「あぁ、そういうことか」


 そんな格好で歩いては催しても仕方ない。

 涼士郎はその場に一旦立ち止まり、周囲を見回しトイレを探す。

 すると、彼の裾を智香が引っ張った。


「トイレに行かなくてもいいよ、その辺でするから。ほら、私今ワンコだから」

「そっか。丙さんがそれでいいならいいけど……」


 いくらプレイのためとはいえ、シチュエーションを遵守して痴態を晒すとはなんて根性だ。

 彼女のエッチへの並々ならぬ情熱に、内心恐れおののく涼士郎だった。


「ほら、あそこの茂みに行こう」

「あ、あぁ……」


 智香にリードを引っ張られ、歩道から外れた脇の茂みに涼士郎は案内される。

 そこは何の変哲もない、ちょっとした茂みだ。本当に散歩の途中に犬が立ち寄っておしっこしてそうな茂みである。

 彼女はそこへ近づくと、四つん這いのまま茂みに向かって片足を上げる。よく見るワンコのおしっこポーズだ。

 そして智香は膀胱を緩めると、足をプルプルと震わせながら小便を始めた。


「うぅっ、恥ずかしいっ……遠野くんにおしっこ見られてるぅっ……!」


 智香は顔を赤らめながら、涼士郎が見ている前で用を足している。

 全裸を見られても大丈夫な智香だが、流石におしっこを見られるのは恥ずかしいようだ。


 彼女のおしっこ姿を目の当たりにして、涼士郎はただただ興奮していた。

 おしっこをしている少女を拝めただけでも勃起モノなのに、ワンコのポーズが殊更に情欲を掻き立てるのだ。

 智香のおしっこが終わる頃には、彼の股間はギンギンに硬く大きくなっていた。


「……ふぅ、おしっこ終わったよ。なーに、遠野くん。私のおしっこを見てエッチな気分になったの?」

「ごっ、ごめん……」


 目聡い智香は、涼士郎の変化をすぐに察した。

 股間が膨らんでいるのだから一目瞭然だ。

 欲情した涼士郎を見やり、智香も劣情を催したようだ。

 先ほどとは別の意味で頬を紅潮させた彼女は、瞳を輝かせながらリードを引く。


「良いよ、私もそんな気分だから。それじゃあ、あっちで気持ちいいことしよう」

「あぁ、うん……」


 発情したメス犬に連れられ、涼士郎は公園の奥へと向かう。

 理性をなくした彼の肉欲は、獣のそれと大差なかった。


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